追記サブタイ修正
第九話 胃袋
「あの、ちょっと私今まで調子に乗ってました……」
小僧をぶちのめした帰り、アホ女神は指を突きながら普段のやんちゃを謝ってやがる。
お世辞にも優しい戦い方とは言えねぇ蹂躙を見たからか、何時も口喧しいボケどもは非常に大人しい、まあこのどんよりとした雰囲気だと魔女っ子とマゾヒストはパーティー抜けるかもな。
んな事を考えてたが、後ろを歩いていた魔女っ子がブツブツと何か言ってる事に気がついた俺は、よーくその言葉を聞いて見たんだが……。
「なんですかあの火力、私への当てつけですか、他人の魔剣でもアレだけやれるんだから爆裂魔法を使ったらお前の様な小娘よりも確実に火力出るんだぞって自慢してるんですか? 許しません、ええ許しませんとも、爆裂魔法を極めるのは私です、アレは私が一番上手く使えるんですッ!!」
…………安心しろ、あんな欠陥魔法使う気ねぇから。
「今、爆裂魔法の事愚弄しましたね!? 顔に出てますよ!!」
「あーはいはい、分かった分かった、俺が悪かったよ……」
女の勘って怖ぇのな。
余計な火を付けちまったのか、さっきまでの雰囲気は何処へやら、ぽこぽこと俺の腹を叩こうとしてやがったから頭抑えて空振りさせてやる。
チラッとマゾヒストの方を見ようとしたが、大体の予想が出来ちまうので辞めた。
「ああ、あの男に対するリチャードの仕打ちの数々……っ!! 圧倒的な実力差を見せつけながら肉体的にも精神的にも痛め付け、最後にはプライドや拠り所すら折ってしまう容赦の無さ……っ!! あの場で蹂躙されていたのが自分だと思うと……くうっ!!」
「お前帰ったら覚えてろよ、絶対にしばき倒してやっから」
「望むところだ!!」
此奴ら、俺が危険人物だったから凹んでるのかと思ったら全然平気じゃねぇか、少なくとも悪党だった筈だぞ俺は。
その証拠にあの男の連れは完全に怯えて泣いてやがった、まぁ其奴らの評価はどうでもいい、精々無能になった勇者とやらの介護に勤しんでくれやとしか思えん。
だが横で見てた筈のこの連中が、女神以外怯えてねぇってなんだ? 一番まともな感性してるのが女神だけってのも––––。
「ねーリチャード、私お腹空いちゃったー、早くご飯食べましょうよー、というかご飯作ってよー」
訂正、このアホ女神三歩歩いたらすっかり元の調子に戻りやがった、テメェの知能は赤子以下か!!
「ぐぬぬ、身長差からこの私が子供扱い……屈辱です!! 絶対に忘れませんよこの恨み!!」
「あぁ、私は何をされるんだろうな……吊るされて鞭を打たれるのか……それともロープでの束縛プレイか……いやいや又水責めをされるかもしれん、どうしよう!!」
「ねー、ねーってば!! 私ビーフシチューが食べたい!! それか大盛りのハンバーグ!! で、で、キンッキンに冷えたしゅわしゅわを飲むの、ああそうなると焼き鳥もいいわよねー、ねー全部作ってよー良いでしょー?」
なんだこいつら? 好き放題言い過ぎだろ、師匠やビアトリスだってここまでハッチャケて無かったぞ、つかなんで俺がこんなにも疲れにゃならんのだ。
体力の有り余る三人に絡まれた俺は肩を落としながらそのままギルドへ行き、報酬の受け取りと夕食の調理に取り掛かった。
最悪なことに魔剣使いがぶっ壊した檻、あれの修理費がアホ女神の報酬から引かれると受け付けで聞かされた俺がその分をこっそり立て替える羽目になるし、マジでこいつらと居ると碌なことにならんな。
そんなため息と共に、俺はアホ共の為に飯を作りに行くのだった。
▽
食事も行き渡り、要求される事を見越して作った各種おつまみをテーブルに運んだ俺は、自分用の飯には手を付けずに切られたフードの確認をしていた。
原盤で強化したもんだからあの程度じゃ碌な傷も付きはしねぇんだが、縫い合わせの部分を綺麗に切られちまった所為で糸がほつれてやがる。
微塵も興味が無かったのと、殺気がねぇ上に街中で抜くレベルで自分に酔ってるとは思わなかったもんだから思わず一太刀貰っちまった、ガキじゃあるまいしフード如きであそこまでする必要は無かったんだが、どうにも腹が立っちまった。
過ぎた事は仕方無いと自分に言い聞かせ、飯を食おうとした時、目の前に置いていた丼が空になっている事に気がついた。
顔を上げると口をリスみてぇに膨らませたクソッタレ女神と目があった、お前マジで女神なのか? 残念な頭した唯の女なんじゃねぇのか?
「一応聞いてやるが……俺のロコモコ丼、どこ行った?」
「
「飲み込んでから喋れ」
「んっく、ふぅ……女神であるこの私が卑しくも盗み食いをするとでも思ったのかしら?」
「口元、ソースと半熟卵の黄身が付いてるぞ」
これ以上に無い状況証拠だ、このアホ以外は既に飯を食い終えて酒と用意したつまみを食ってるし口元も汚れてねぇ、言い訳に対する制裁を今のうちに考えとく。
「ねぇ一旦私の話を聞こ? 判断はそれからでも悪くないと思うの」
どうせ至極下らない理由だろ? お前の頭じゃ碌な言い訳なんそ考えられん。
「取り敢えず言ってみ?」
「ずっとフード触ってたでしょ? だからてっきり私は食欲無いのかなーって思ったの、でねでね? 折角ほかほかの丼なのに冷めるのは勿体無いかな〜って、そもそもリチャードのご飯は何でも美味しいのがいけないと思うの、こんなにも美味しいご飯が冷めちゃうなんて神に対する冒涜よ冒涜。 そう、だから私は悪くない!!」
どうやら俺はそこそこ長い間フードを弄り回してたらしい、まぁ確かに考えりゃ他の連中が既に飯食い終わってるからな。
「OK制裁は決まった、俺は暫くお前にだけ飯作るの辞める」
だが、俺の飯を食う理由にはならん。
「ごめんなさい!! ごめんなさいするからおつまみ作ってください、もう私は焼き鳥としゅわしゅわが無いとダメなの、パフェとかケーキも作れるのはリチャードしか居ないの!! 貴方じゃないと嫌なの!! だから許してよぉ……!!」
パーティーの台所事情を完全に掌握してっとほんと便利だわ、アホの手の平返しが早くて楽でしょうがねぇ。
つか、ハンバーグにビーフシチューにロコモコだろ? 此奴どれだけ食うんだよ、食欲に素直過ぎねぇか? んなだから駄女神なんだよ。 言い訳もガキのレベルじゃねぇか、もちっとマシな言い訳できんのか。
そんな呆れを込めたため息と共に空いた皿を回収した俺は、仕方なしに酒とつまみで腹を満たそうと思ったんだが、酒瓶が片っ端から空だった。
嫌な予感がしたので横を見たらマゾヒストと魔女っ子が酒瓶抱いて酔い潰れてやがる、おい誰かこのポンコツ連中の取り扱い説明書をくれ、言い値で買い取るからよ。
ぴーぴー泣いて俺に縋るアホ女神と『我が爆裂魔法は世界一!!』とか言う物騒な寝言を言う爆裂娘と、意外に寝相が悪くないマゾヒスト。
バタバタとした日常だが、同時に忙しさであまり疎外感を感じねぇのが不思議だ。
才能の差から来る疎外感、この街じゃんなモン感じる暇がねぇし、馬鹿どものお守りで感傷に浸る暇もねぇ。
だがまぁ、なんだ、最近じゃそれも悪くねぇって思えるようになったよ、師匠。