ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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第14話

 「鉄は炎で鍛えて鋼となるように、血を滾らせて肉体を鍛えよ。魂を燃やし、命を鍛えよ。それ故の修行修練特訓! 汝、鍛錬の阿修羅となるべし!」

 

 そんなワケで特訓は続く。

 

 そう。

 

 相変わらず集中力を乱して墜落して、露店を吹き飛ばしちゃったり。

 高層ビルの尖塔で指三本で逆立ちしつつ、精神統一をさせられたり。

 ナイトゴーントとの組み手でイイ感じの腹パン貰って嘔吐したり。

 この前逃走した時の警官と鉢合わせて、追われたり。

 

 これも全部、修行修練特訓。

 だけど……

 

 「……っ! 何で上手くいかないのよッ!」

 

 未だ目立った成果を上げられず、気持ちばかりが焦る。

 

 「付け焼刃的な内容になってしまう以上、仕方あるまい。それでも、そこから汝が魔術師としての感触を掴み覚醒すれば、次の位階もすぐなのだが」

 

 「その魔術師としての感触とやらは、どういうものなのよッ!?」

 

 「こればかりは直感的なものだ。都合の良い方法論など存在しない以上、汝が自ら見つけ出すより他無い」

 

 「チッ……!」

 

 こんな場所で躓いていたら、マスターテリオンを斃すなんて笑い種にもならない。

 

 (私の何が足りないっていうのよ……)

 

 「ふむ、資質は間違いなくある筈なのだが。汝、解呪の理論も識らずにマスターテリオンの重力結界を破ってみせたではないか。並みの術者に出来ることではない」

 

 「そうは言っても、どうやってやったのか、ソレを覚えてないんだから意味ないわよ」

 

 「まあ、そう焦らぬことだ。焦れば焦るほど精神が乱れ、成功するモノもしなくなる」

 

 「……………」

 

 アルの言っていることも理解できる。けど……。

 

 「さて、今日はこの辺りにしておこう」

 

 「私はまだやれるわ!」

 

 「駄目だ。汝の魂への負担が大きい。今日、これ以上の修練は有害なだけだ」

 

 「っ……!」

 

 「……やる気に満ちているのは、妾とて好ましい限りだ。だが、それで折角見つけた術者に壊れてもらいたくはない。肉体と精神を制御するのは、魔術師にとって不可欠。自己の状態を正しく把握することも力を得ようとする上で大事なことだ」

 

 「……わかったわ」

 

 アルの言葉に反論する理由を見出せず、その日の特訓を終えた。

 

 

 

 

 

 2人が居るビルから離れた場所、約3km。

 常人ならば2人を視認できる距離ではないにもかかわらず、その影は2人を観察していた。

 白い影。

 白い天使。

 天使王(メタトロン)

 仮面の下に表情を隠し、機械仕掛けの瞳が、2人を見据えていた―――

 

 

 

 

 「くぅっ……!」

 

 ナイトゴーントとの組み手は、今日も防戦一方だった。

 

 爪、拳、蹴り、刃のように鋭い翼。

 矢継ぎ早に繰り出される攻撃に焦りが生まれ、さらに追い込まれる。

 

 何とか墜落しない程度には翔べるようになったものの、空中戦が出来るほどじゃない。

 ぶっちゃけ、空を飛ばれたらお手上げだ。

 

 「シャァッ……!」

 

 眼前に迫る爪を、髪を数本散らしながらも回避する。

 が、その先に待ち受けていたのは、風を裂いて迫るナイトゴーントの鋭翼。

 

 (避けきれない……!)

 

 咄嗟に腕を盾にし、鋭翼を流すように受ける。

 

 「グっ……!」

 

 左腕を大分深く斬られ、鋭い痛みが走る。

 良い様にやられ、沸々と怒りが湧いてきた。

 

 「こっんのぉーっ!」

 

 全力の右ストレート。

 しかし、ナイトゴーントはソレを嘲笑うかのように空へと逃れる。

 

 (ぐぬぬぬ……!)

 

 届かないであろうことは明白だったが、怒りのままに左アッパーを放つ。

 

 「調子に……乗んなぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 ふと左拳が熱くなり、魔力を帯びるのを感じた。

 カラダの内で燃えるソレは、外へと溢れ、空気を介してナイトゴーントに直撃した。

 

 「!?」

 

 上空へと逃れていたナイトゴーントを、魔力の爆発が襲う。

 

 「あ、当たった!?」

 

 「うむ。少しは魔力の扱い方が様になってきたな。まあ、安定はしていないようだが」

 

 (よしっ、この調子で……!)

 

 ―――突然、爆発の中から黒い影が飛び出してきた。

 

 「なっ!?」

 

 弾丸のように迫る影に、すぐさま黒翼で身を庇う。

 けど、翼の防禦を貫かれ、全身に衝撃が奔った。

 

 「きゃああぁっ!?」

 

 立っていたビルの上から吹き飛ばされる。

 なんとか翼を使い、墜落を防ぐ。

 

 (痛っ……)

 

 身体中の痛みに顔を顰めつつ、先程まで立っていた場所に視線を向ける。

 

 「ギシャアアアアアアア!」

 

 ナイトゴーント。

 どうやら、さっきの攻撃では倒しきれなかったみたいだ。

 

 (……?)

 

 何やら様子がおかしい。

 

 「グォォォォォォォ!」

 

 「っ!?」

 

 咆哮を上げ、猛然と襲い来るナイトゴーント。

 凄まじい速度のソレは、理性の欠片も感じられない、暴力の領域だ。

 故に、私では対応し切れない。

 

 「ぐふっ!?」

 

 暴力的な速度は、そのまま衝撃となって私にぶつかった。

 体当たりの勢いそのまま、ナイトゴーントは私の身体に組み付き、万力のように締め上げてきた。

 

 「くああぁっ! っ、な、なん……!?」

 

 「……いかんな。暴走した」

 

 なんかとんでもないことを、さらりと言ったアル。

 

 「いやいやいやいや! 何言ったたたたたたたっ!」

 

 ナイトゴーントの凄まじい腕力に、全身の骨という骨を砕かれてしまいそうだ。

 何とか抜け出そうと試みるも、中々拘束から抜け出せない。

 

 「ア……アル……! は、はやく……なん、とか……!」

 

 「いや、さっきからやっているのだが……何故か上手くいかなくてな。まあ、しばし待て」

 

 「待てるわけないでしょぉぉぉぉッ!」

 

 人が切羽詰ってるのに、相変わらずマイペースなアル。

 

 (………ッ)

 

 痛みに意識が薄らいでいく。

 けど、失神する寸前に、突如身体を圧迫していた力が無くなった。

 ナイトゴーントの腕から開放され、地面に墜ちようとする身体を、慌てて翼で支える。

 

 「……っと! いったい何が?」

 

 アルがナイトゴーントを消してくれたのかしら?

 状況を確認するべく、空を見上げる。

 

 「グギャアアアアアアア!」

 

 私が見たのは、断末魔の叫びを上げながら両断され、黒い霞となって散るナイトゴーント。

 そして、その黒を掻き消すように白く輝く人型。

 白い天使(メタトロン)

 

 「此奴は確か、あのときの……」

 

 (もしかして、助けてくれたのかしら?)

 

 「あ、ありが……えっ?」

 

 お礼を言おうとしたとき、メタトロンの異様な雰囲気に気づいた。

 メタトロンは黙したまま、こちらを見下ろし、凄まじい重圧感(プレッシャー)を放っている。

 

 「……穏やかではないな。我等に対する敵意を感じるぞ」

 

 「そんな、なんであの人が―――」

 

 反論しようとして、そこで動きが止まった。

 メタトロンが消え、一瞬で私の目の前に現れる。

 

 次いで、衝撃。

 

 顔面を掴まれたと認識した途端、そのまま、もの凄いスピードで押し飛ばされる。

 そうして数百メートルを飛んだ後、高層ビルの壁面に叩きつけられた。

 

 「きゃあああっぐぅっ!?」

 

 壁に亀裂を入れ、減り込んだ私に、メタトロンが仮面に覆われた顔を寄せる。

 その機械の瞳からは、感情を読み取ることはできなかった。

 

 『大十字九淨……死霊秘法(ネクロノミコン)を手離せ』

 

 メタトロンは、静かな声でそう告げた。

 

 「何で私の名前を……!? それに、アルのことまで……!」

 

 「妾を狙うとは……真逆汝も―――ブラックロッジか」

 

 「そんなっ!? メタトロンはアイツ等と戦ってる正義の味方なのよ!?」

 

 アルに反論する私に、同意するようにメタトロンは答えた。

 

 『正義を騙るつもりはない……が、確かに私はブラックロッジと敵対している』

 

 「ならば、何故我々を襲う!」

 

 「そ、そうよ! 何でいきなりこんな事……!」

 

 『本当に分からないのか、大十字九淨!』

 

 顔を掴んだ手を離し、今度はボディスーツの胸倉を乱暴に掴まれる。

 そしてそのまま、上空へと引き上げられる。

 

 「ぐ……ッ! あ……ッ!」

 

 上昇する推力で喉下を絞められ、呼吸が出来ず、意識が朦朧とする。

 絞め落とされる寸前に、上昇が止まった。

 見てみると、どうやら街を見渡せるほどの高さまで昇ったらしい。

 

 『見ろ、君の戦った結果だ―――』

 

 胸倉を引っ張られ、強制的にその方向を向かされる。

 

 ……視線の先にあったのは、マスターテリオンとの戦いで破壊された区画。

 現在も復旧されておらず、破壊の痕が生々しく刻まれている。

 

 別の方角にも、破壊ロボが暴れた痕が残っていた。

 更にその先。

 デモンベインの攻撃呪法―――レムリア・インパクトによって、破壊ロボごと巨大なクレーターになってしまった街の一区画。

 

 『君があのロボットを使えば、被害が拡大する』

 

 「……ッ!」

 

 思わず息を呑む。

 

 『あの地区一帯の避難が為されていたから良いものを……下手をすれば、更なる大惨事を招いていたところだ。大十字九淨―――これは全て、君の所為だ』

 

 「…………ッッ!?」

 

 『君が死霊秘法(ネクロノミコン)を所持している限り、いつか決定的な破滅を、このアーカムシティに齎すに違いない。……今ならまだ間に合う。死霊秘法(ネクロノミコン)を手離せ、大十字九淨!』

 

 (私が……アーカムシティを……?)

 

 そんな……そんなつもりは……。

 

 「汝に指図される事ではない! 九淨こそ、我が主となるに相応しいと認めたからこそ、主に選んだのだ! 人間の物差しで妾と九淨を計るでないわ!」

 

 『死霊秘法(ネクロノミコン)はこう言っているが……君はどうなのだ?』

 

 アルの激しい敵意に全く動じた様子もなく、メタトロンは静かに、私に問いを投げる。

 

 「……確かに、あなたの言う通りかもしれない。これ以上被害を出さないなんて……今の私が断言できるわけないわ。だけど!」

 

 メタトロンの機械仕掛けの瞳を見据え―――答える。

 

 「ここで退くのが正しいとも思わないわ……!」

 

 「九淨……」

 

 『君が戦う義務など……何処にも無い。人は人の世界で生きるべきだ』

 

 「あんな邪悪が世界にのさばっているのを見てしまって! 知ってしまって! ……それでも知らん振りなんて、私には出来ない!」

 

 『それが答えか、大十字九淨……』

 

 胸倉を掴んだ手を離し、私に背を向けるメタトロン。

 機械の翼を拡げ、肩越しに私を見つめ―――

 

 『ならば―――私は君を……敵として認識する』

 

 冷たい声色で宣言し、メタトロンは翔び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロの身体を引きずって、人気の少なくなった夜道を歩く。

 ナイトゴーントにやられた傷もそうだけど、やっぱりメタトロンとの事が精神的にキツイ。

 

 (私が……メタトロンの、敵)

 

 思わず深い溜息をついてしまう。

 

 「あの白仮面に言われた事、気にしておるのか?」

 

 そんな溜息を聞いたであろうアルが、声をかけてきた。

 私は頷いて返す。

 

 「確かにメタトロンの言う通り、私が戦って、却って被害を大きくしちゃう場合もあるのよね」

 

 「それは目先の事だけを考えた場合だ。マスターテリオンを放置すれば、いずれはこの街だけではなく、世界規模の災厄となろう。アレは何処までも邪悪なモノなのだからな」

 

 「ええ……」

 

 理屈じゃなく、実感として解る。

 本当の邪悪とは、ああいうものなのだと。

 

 「そして奴を打倒する事が出来るのは、この“アル・アジフ”を駆る魔術師、大十字九淨―――汝を於いて他には居らん。あの白仮面がどの程度の者かは知らんが……奴では無理だ」

 

 「分かってる。けど、どのみち今のままの私じゃ駄目なのよね」

 

 「ふっ……そうだな。自らの信念を貫きたくば、強くなれ、大十字九淨。あの白仮面や小娘共に、余計な口を挟ませんぐらいにはな」

 

 「……ええ」

 

 決意を新たにする。

 早く魔術師として覚醒して、ブラックロッジを叩き潰せるぐらいに強くならないと……!

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 「む!?」

 

 「な、何!?」

 

 夜の闇に突如響く、男性の悲鳴。

 それはこの通りの、更に路地裏の奥に入り込んだ場所から聞こえてきたみたいだ。

 

 「この気配に、昏い闇の匂い……間違いない! 妾の断片だ!」

 

 アルの表情が厳しく変化した。

 

 「えっ!? じゃあさっきの悲鳴はっ!」

 

 アルの断片は周囲に魔術的怪異を及ぼす。

 それを思い出した。

 断片の気配に、誰かの悲鳴。

 

 ……つまりはそういうこと。

 

 「往くぞ、九淨!」

 

 「ええ!」

 

 私達は悲鳴が聞こえてきた方角に向けて走り出した。

 走りながら戦闘準備―――マギウス・スタイルへの変身をする。

 脚に魔力を込め、暗い路地裏を駆け抜ける。

 1つ、2つ、3つ……何度か角を曲がり、現場と思しき場所へとたどり着いた。

 そこには、建物と建物の間、その全てを覆うように張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣が存在した。

 

 「こ、これって?」

 

 「た、助けてくれぇぇぇぇ――――――」

 

 巨大な巣の中央、さながら獲物の昆虫のように、サラリーマン風の男性が捕らわれていた。

 大声を上げ、必死に足掻いているものの、巨大な蜘蛛の巣はビクともしていない。

 

 「九淨、上だ」

 

 アルに言われ、視線を上げる。

 男性のちょうど真上。

 そこには、まるで蜘蛛のように、巣を縦横に動き回り男性に迫る人影がいた。

 

 (……なんだか良く分からないけど)

 

 「待ちなさい、そこのアナタっ!」

 

 私の声に反応し、人影がこちらを向いた。

 視線が交わり……って、女性?

 

 間違いなく誰もが美人と評するであろう顔立ち。

 しかし、闇の中でも銀色に輝く長髪と、私を見据えて光る紅の瞳が、彼女が異形の者であることを物語っていた。

 

 (……アルが大人な外見になったら、こんな感じかしら?)

 

 何故かそんな事を思った。

 

 女性―――蜘蛛女は私を見て、舌なめずりして笑った。

 そんな妖艶な仕草は、どうもアルっぽくはない。

 私を獲物として認識したのか、男性をそのままに、蜘蛛の巣を足場に跳躍。

 私の目の前に降りてきた。

 

 蜘蛛女を観察してみる。

 全身にぴったりとフィットしたレオタードが、彼女の豊満なボディラインを強調している。

 黒と黄色の斑模様のカラーリング。

 ……なんていうか、蜘蛛ね。

 

 (……私より大きいわね)

 

 チラリと、自分のソレと比較する。

 まあ、どことは言わないけども。

 

 「ふむ、もしや……」

 

 蜘蛛女は艶めかしい笑みを浮かべながら、少しずつ間合いを詰めてくる。

 

 「シャァッ!」

 

 蜘蛛女が跳躍し、私に飛びかかって来た。

 一瞬で間合いを詰められたものの、素早く横に飛び退き、その一撃を回避する。

 

 「っ!?」

 

 突然、右腕を何かに絡め取られた。

 右手首に巻きついたソレは、粘着性を持つ白い糸。

 辿っていけば、ソレは蜘蛛女の指先まで続いていた。

 

 「まさか……蜘蛛の糸!?」

 

 しまったと思いつつ、糸を引き千切ろうとする。

 が、ビクともしなかった。

 足掻く私を嗤う蜘蛛女―――の頬が一瞬崩れ、紙片となっていたのを、私は視界に捉えていた。

 

 (あ、あれって……!)

 

 「魔導書のページ!?」

 

 「やはりそうか……九淨、あの怪物こそが妾の断片だ。どうやら、人の思念を糧に実体化したようだな」

 

 「……実体化?」

 

 「断片とは云え、彼奴もまた妾の一部だからな」

 

 (……そういうことね)

 

 力ある魔導書のアルが少女の姿を持つように、アルの断片もまた、蜘蛛女の姿を持ったと。

 

 「―――索引(インデックス)の検索完了。蜘蛛の力……彼奴は“アトラック=ナチャ”に関する記述が実体化したものらしい」

 

 「アトラック=ナチャ?」

 

 「エイグロフ山脈の最高峰。ヴーアミタドレス山の地底に広がる、底なしの深淵に糸で橋をかける蜘蛛神の名だ。……肝心な部分は、彼奴自身故に今の妾には分からんがな」

 

 「……で、私は何をすれば良いの?」

 

 「彼奴を正常に戻すのは妾のやる事だからな、汝はアレを捕まえてくれれば良い」

 

 「捕まえるっていっても……」

 

 右腕に絡まる蜘蛛の糸を見る。

 

 「むしろ……私が捕まってるわよね」

 

 不意に、右腕に強い力が加わる。

 

 「くっ……!」

 

 「シィァッ……!」

 

 蜘蛛女は私を引き寄せようと、糸を引っ張ってきた。

 必死に踏ん張り、抵抗する私。

 が、相手の力が強すぎる。

 

 「きゃあああああああ!?」

 

 「九淨!」

 

 身体が宙を浮く。

 蜘蛛女が振るった腕で、糸が撓る。

 撓った勢いそのままに、私は地面に叩きつけられた。

 

 「かはっ……げほっ! げほっ!」

 

 「絡まった糸をどうにかせんと、身動きがとれんぞ!」

 

 「くはっ……! わ、分かってるわよ……ひゃああっ!?」

 

 何とか起き上がろうとして、力を入れた右足を蜘蛛の糸に絡め取られる。

 軸足を払われ、地面を転がる。

 その間にも、次々と蜘蛛の糸が飛び、全身を縛られていく。

 

 「くぅっ……! こ、このままじゃ……!」

 

 身体に数多の糸が絡まる。

 ここまでになると蜘蛛の糸というより、蚕の繭だ。

 糸はついに喉まで絡みつき、口元まで覆っていた。

 

 (ま、マズ……っ!)

 

 「こ、こら! 九淨! 何とかせんか!」

 

 「んぐっ! んむーっ! んんっ! んんーっ!」

 

 必死に暴れるも、すでに身動き出来ない状態の私にはどうすることもできない。

 視界も蜘蛛の糸に閉ざされ―――そこが限界だった。

 

 「……きゅう」

 

 糸で真っ白く染まった視界―――私の意識はそこで途切れた。

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