ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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ぶっちゃけ飛ばしても良いんじゃないかなと思ったので、.5話扱い。
○○○○色控えめな西博士―――いや、ウェストさん。


第24.5話

 夜、事務所兼自宅。

 

 「…………はぁ」

 

 「む? また暗くなっておるのか。今度はなんだ?」

 

 「ん……お嬢様、怒ってたなって」

 

 「ああ、小娘の事か。別にいつもの事だろう」

 

 「まあ、間違ってはいないんだけどさ……あの時は本気で怒ってた」

 

 ―――デモンベイン。

 今は亡き覇道鋼造が遺したロボット。

 お嬢様にとっての形見であり、希望。

 

 覇道鋼造は、デモンベインに何を託したのか。

 覇道瑠璃は、デモンベインに何を願うのか。

 デモンベインには、どれだけの想いが込められているのか……深く考えたことなんてなかった。

 

 「ああもう……後味悪いわね」

 

 「やれやれ……繊細、というよりは細かい女と言うべきか。良いか九淨、我等は我等の為すべき事をしているのだ。負い目を感じる必要などあるまいに」

 

 そう割り切れれば楽だろう。

 けど……

 

 「私には、簡単に割り切れそうにないわ……アル」

 

 「ん、どうした?」

 

 「疲れたからそろそろ寝るわね、お休み」

 

 「む、幾らなんでも寝るには早すぎではな

 

 アルのそんな声が聞こえたけど、私はそのまま部屋の電気を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクター・ウェストの研究所。

 

 ドクター・ウェストの朝は無意味に早い。

 朝日が昇るより早く、鶏が朝を告げるより早く起床。

 寝惚け眼とボンヤリしたままの頭で、研究室の明かりをつける。

 そして、一番に届いた新聞を片手に、回転式チェアへと腰掛けるのだ。

 

 あの後ちゃっかり逃げ果せたドクター・ウェストは、こうして研究所へと帰還し仮眠を取った後、日課であるボストン・グローブの朝刊に目を通していた。

 

 「ぐぬぬぬぬぬ……! まさか、まさかまさか、我輩のスーパーウェスト無敵ロボ28號DXが敗北するとは……!」

 

 そこには昨日の戦闘……デモンベイン対デモンペインについての記事が載っていた。

 

 “謎の巨大ロボット 激突”

 “神か 悪魔か”

 “周辺被害多数 謎の巨大ロボット その真意や如何に”

 

 「ロボ? 博士、帰ってたロボか」

 

 ドクター・ウェストの妙な唸り声を耳にしたのか、エルザがひょこっと顔を出した。

 

 「ん? おお、エルザ! 無事だったであるか……って、そういえば昨日は何故我輩を置き去りに?」

 

 「足手纏いだったからロボ」

 

 即答したエルザ。

 それを聞いたドクター・ウェストは、椅子ごと崩れ落ちた。

 

 「え、エルザよ、一体いつから心のレバーを抉るようなハイブローの毒舌を披露するように?」

 

 涙ながらに訴えるドクター・ウェストだったが、そういえば昨日からこんな感じだったような……と思い出す。

 倒れた椅子を直し、今度は深く腰掛けた。

 

 「しょうがないロボ、そんな残念な博士の為にコーヒーを入れてやるロボ。感謝するロボよ」

 

 どうやらドクター・ウェストの言葉は聞いていないようだ。

 エルザは実験台の上を手早く片付け、コーヒーを沸かす準備を始めた。

 

 ふと、ドクター・ウェストは自分の最高傑作であるエルザに疑問を抱いた。

 性能面では完璧と言って良いのだが、性格面に少々……どころか、多大な問題を抱えている模様だった。

 

 「ううむ……設計ミスでもあったのであろうか?」

 

 そんな風に悩みながらコーヒーを待つ間、ドクター・ウェストは読みかけだった新聞に目を落とした。

 

 ―――思わず停止(フリーズ)する。

 

 目に止まった一つの記事。

 そこには、昨日の戦闘で被害を被った病院について掲載されていた。

 その時の騒ぎで、患者が一名脱走したらしい。

 患者の名前は―――

 

 “Elsa(エルザ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクター―――いや、ウェストが彼女(エルザ)と出逢ったのは、彼がまだミスカトニック大学医学部に在籍していたときだった。

 

 現在のウェストを見れば想像するのも容易いだろうが、彼は学生の頃から変人として知られていた。

 そして変人の代名詞であった彼の名が、悪名として医学部中に知れ渡る研究レポートがあった。

 

 “死者の蘇生について”

 

 ウェストは死を克服するための研究をしており、生命が死んだ後も、化学物質を綿密に計算して注入すれば、生命は活動を再開するとの考えに至った。

 その過程で、蘇生実験のため天竺鼠(モルモット)、兎、猫、犬、猿などを実験動物としていたのだが……要となる蘇生液が理論ばかりで、とても実用に耐えるモノではなかった。

 より確実なデータを集めるべく、人間を実験体にしようとしたウェストだったが、見かねた医学部部長のアラン・ハールジィ博士に実験の禁止を言い渡される。

 

 が、ウェストはその程度の事で止まる人間ではなかったのだ。

 彼は密かに実験を続けており……そのときのパートナーだったのが、同期のエルザという女性だった。

 

 医学部一の才女として知られるエルザ。

 医学部一の変人―――いや、悪人だろうか? ともかく、ある意味での有名人であるウェスト。

 他人から見れば全く理解できない不可解なコンビであったが、不思議な事に相性は抜群であった。

 

 “孤独”という共通点―――勿論、意味合いはそれぞれ違うのだが―――を持つ二人は、出逢うべくして出逢ったと言えるだろう。

 いつしか彼らは、共同で死者の蘇生についての研究をするようになったのである。

 

 エルザはともかく、ウェストは学部長から直接実験の禁止を言い渡されていたので、ミスカトニック大学内では研究をすることは出来なかった。

 そこで2人は、アーカムシティ西部にある丘陵地(ミドウ・ヒル)の奥、チャップマン牧場の廃屋を手に入れ、実験室として改築したのである。

 

 丘陵地の奥まった場所であるそこは、隠れて実験をしなければならない彼らにとって絶好の場所だった。

 単純に都市部から離れ、人が少ないのは当然なのだが……この丘陵地には、人を遠ざける噂があったのだ。

 

 曰く―――丘陵地にThe Unnamable(名状しがたきもの)の影有。

 とある作家がそれを著書で発表したという事も相俟って、この丘陵地に近づく者は稀だった。

 

 そういう訳で彼らにとってはある意味、最高の立地条件だった。

 だったのだが……。

 

 「……それで、ウェスト。新鮮な死体は手に入りそう?」

 

 住居としては最低限の改築である、薄汚い廃屋の一室。

 白衣を着たエルザは、薬品を試験管で調合しつつ、ウェストに訊ねた。

 

 「うーむ……死体を手に入れるだけならどうとでもなるのであるが、新鮮且つ実験に適した死体となると、これがまた難しいのである」

 

 エルザと揃いの白衣に身を包み、別の試験管を注視しながらウェストは答える。

 

 そう。

 こうも奥まった場所では実験は人目にこそつかないものの、ここまで死体を運ぶ手間とリスクが悩みどころだった。

 

 「ふう……何にせよ、使える死体を手に入れないことには実験、進まないね」

 

 エルザの持つ試験管の中で、短い音と共に刺激臭が立ち上った。

 

 「うむ。……実験が人目につくリスクも上ってしまうが、いっそ墓地の近くに家を借りた方が良いかもしれんのであるな」

 

 「そうね、このまま実験が滞るよりはマシね」

 

 互いの意思を確認した二人はそれ以上語る事はなく、それぞれの実験に注意を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が新しい死体の噂を耳にしたのは、それから数日後のことだった。

 その死体は若い作業員で、喧嘩の際に軽く頭を打ったのだが、運悪くそのまま帰らぬ人となってしまったらしい。

 それを聞きつけた二人は早速、共同墓地へと繰り出し墓を掘り起こしていた。

 

 「こうしてると……まるで、食屍鬼(グール)ね」

 

 スコップを手にせっせと土を掘り返すエルザは、自分たちの様相を見て苦笑いした。

 

 「チャクラーイと……縄張り争いでも、するのであるか?」

 

 もっともウェストとエルザは、死体の一部を残すような事はしないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前二時過ぎ。

 掘り起こした作業員の遺体を持ち帰り、実験の為手術台へと載せたところだ。

 

 カーバイドランプで手術台とその上に載せられた死体を照らし、注意深くチェックを始める。

 保存状態、損壊具合、防腐剤処置の有無―――防腐剤が使用されていると、蘇生液が正常に作用しないというこれまでの実験結果があるからだ―――大丈夫そうだ。

 

 「……では、開始するのである」

 

 「…………」

 

 ウェストはエルザが頷くのを確認し、蘇生液が入った注射器を手に取った。

 大きく深呼吸した後、死体の右腕に注射針を刺す。

 注射筒(シリンジ)内の透明な蘇生液を、ゆっくりと、注いでゆく。

 

 ―――程無くして、反応があった。

 死体であるはずの作業員の身体が、ビクン、ビクン、と大きく跳ねる。

 外からでもハッキリ認識できるほど、心臓が異常な鼓動を刻んでいた。

 

 ≪グャ、ギグギッ、ギャァァァァァァァァッッッ!≫

 

 突然作業員は目を見開くと、人体から発せられるとは思えないおぞましい叫び声を上げた。

 

 ≪ヤメロッ……オレヲ……オレヲヨビモドスナァァァァァ!≫

 

 作業員は激しく身を捩じらせ、苦悶の表情を浮かべている。

 

 中々衝撃的な光景だったが、ウェストとエルザは作業員から距離を取りつつも、しっかりとその姿を観察していた。

 

 「これって……成功なの?」

 

 「一応こちら側に戻ってきたようではあるが……成功と言えるのであろうか?」

 

 ≪SYAAaaaaaaaaaaaa!≫

 

 作業員は一際鋭い叫び声を上げると、身体を反らせた後、ガクンッと事切れた。

 

 「……失敗、であるな」

 

 「うーん、やっぱり死んで直ぐぐらいの鮮度じゃなくちゃ駄目なのかしらね?」

 

 「うーむ……他の可能性についても調べた方が良さそうであるな」

 

 だが、今すぐそれをするにはウェストは少々疲れていた。

 

 「とりあえず我輩は疲れたので、今日のところは寝るのである」

 

 ウェストは白衣を着たまま、床に大の字で寝転がった。

 

 「ちゃんとベッドで寝なさいよ」

 

 「寝てしまえば場所など関係ない、寝転がったその場所が我輩のベッドである」

 

 「あっそ。私はもう少し死体を調べてみるから」

 

 「そうか、まあ好きにするのである」

 

 疲れていたウェストはそのまま眠りに就いてしまったのだが……それがこの先、永遠に続く後悔の始まりだとは、知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「博士、博士?」

 

 新聞を凝視したまま停止していたドクター・ウェストは、肩を揺さぶるエルザの声で再起動した。

 

 「博士、顔色悪いロボよ? そんなときこそ、コーヒー飲んで元気出すロボ」

 

 そう言ってエルザは、グリフィンビーカーに注がれたコーヒーを差し出す。

 ドクター・ウェストはそれを受け取り、熱さに構わず一息に飲み干すと、椅子から勢い良く立ち上がった。

 ―――彼の瞳には、確かな意思の炎が灯っている。

 

 「エルザ、至急準備をするのである」

 

 「ロボ? また大十字九淨に、ちょっかいをかけに逝くロボか?」

 

 「行くの字が何か可笑しい気がするのであるが……それは後回しなのである」

 

 「ロボ? 大十字九淨よりも大事な事ロボ?」

 

 一応任務であるアル・アジフの断片回収よりも、勝手にライバルだと妄想している大十字九淨よりも優先すること……エルザはそれについて思い当たらず、可愛らしく首を傾げる。

 そんなエルザに、ドクターウェストは告げた。

 

 「うむ―――過去の清算である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、教会前。

 

 「あら、九淨ちゃん」

 

 「ライカさん」

 

 スッキリしない心情を引き摺ったまま、私は自然と教会へ足を運んでいた。

 

 「……元気ないみたいね、何かあったの?」

 

 表情、或いは雰囲気として出てしまっていたのか、ライカさんは問いかけてくる。

 

 「あー……えっと……」

 

 どう答えるべきか迷っていると、何故かアルが答えた。

 

 「昨日からずっとこの調子でな、辛気臭くて敵わん」

 

 「ちょっ、アル!」

 

 「ふんっ」

 

 アルは不快感を露にすると、さっさと教会の中へ入って行ってしまった。

 

 「あらあらあら、アルちゃんはご機嫌斜めと」

 

 「あ、あはははは……」

 

 多分アルから見れば、些細な事を一々気にする軟弱者という感じに見えるのだろう。

 自分の主がそんな体たらくであり、不機嫌になるのも理解出来るのだけど……。

 

 それをライカさんに話したら

 

 「んー? ほうほう? ……それはアレよ、九淨ちゃん」

 

 「アレ?」

 

 「アルちゃん、九淨ちゃんに構ってもらえなくて寂しいのよ」

 

 そんな風に笑いながら答えた。

 

 「……………へ?」

 

 思考が停止した―――再起動。

 ライカさんの言葉を、頭の中で反芻する。

 

 アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。アルが私に構ってもらえなくて寂しい。

 

 (……うん、無いわね)

 

 「まっさかー。やだなライカさん、そんな冗談言うなんて」

 

 「? 別に冗談じゃないよ? もう、アルちゃんてば可愛いんだからっ」

 

 「…………本気(マジ)?」

 

 「本気(マジ)本気(マジ)、大本気(マジ)よぉ?」

 

 ………まあ、多分、ライカさんの茶目っ気なんだろう。

 そうしよう。

 そういうことにしておこう。

 そういうことにしておかないと拙い気がする―――主に私の身の安全的な意味で。

 

 「まあ、アルちゃんの事はそれで良いとして……九淨ちゃんは、何を悩んでるのかな?」

 

 「うっ……いや……その……」

 

 「さあさあ、キリキリ話しなさいな。それに、誰かに打ち明ける事で気が楽になるかもよ?」

 

 「……はぁ、分かったわよ」

 

 ライカさんの押しに、私は根を上げた。

 お嬢様との一件を掻い摘んで話す。

 最後まで聞き終えたライカさんは、人差し指を立て、諭すような口ぶりで私に言った。

 

 「“悔い改める一人の罪人については、悔い改める必要のない99人の正しい人についてよりも大きな喜びが天にある”」

 

 「キリストさんの殺し文句?」

 

 「九淨ちゃん……悪いことしたと思ってるなら、その瑠璃さんに謝っちゃえば良いじゃない」

 

 「簡単に言うわね……」

 

 「目に見えて落ち込むぐらい気にしてるのは、いったい何処の誰さんでしょうか?」

 

 「うっ……」

 

 「それに、悪いことしたら謝るのは当然の事でしょ? あの子達だってそれくらい出来ますよ」

 

 (がきんちょどもと同列……まあ、当然の事すら出来ないならそれ以下よね)

 

 やはりライカさんには敵わないらしい。

 T.K.O.(テクニカル・ノックアウト)だ。

 完膚無きまでの大敗北だ。

 

 「けど……許してくれるかな?」

 

 「当たって砕けろ(Go for broke)よ、九淨ちゃん!」

 

 「いやいや、砕けちゃ駄目駄目」

 

 ともあれ、決意は固まった。

 教会に足が向いたのも、多分、こうして背中を押してもらいたかったのだろう。

 

 「……ありがと、ライカさん」

 

 ちょっと照れながらも、私はライカさんにお礼を告げる。

 ライカさんは笑顔で返してくれた。

 

 (さて、善は急げってね)

 

 アルを呼び、さっそく行動に移ろうした。

 

 (…………?)

 

 したのだが―――そのとき、私の耳が聞き覚えのあるエグゾーストノートを捉えた。

 

 (……まさか)

 

 まさか、だった。

 徐々に大きくなるエンジン音を伴奏に、狂ったようなギターの音色が響く。

 

 「……また、アイツか」

 

 そう、アイツだった。

 

 まだ遠いが、ドクター・ウェストとエルザを乗せたバイクが接近してくるのが見える。

 溜息を吐きつつとりあえずアルを呼ぼうと思った私の視界に、バイクを上回る速度で疾走する存在が映った。

 

 人―――否。

 それは、人の形をした怪異であった。

 

 全身に確認出来る紫斑、血の気の失せた体色。

 鋭く伸びた爪と、不気味に血管が浮かび上がった四肢。

 ただその中で、理性の感じられない目だけが異様に光り―――血走っていた。

 

 怪異は私の十メートルほど前で腰を大きく落とし、一気に跳躍した。

 それは怪異らしい凄まじい跳躍力であり、私の頭上を軽々と飛び越えていく。

 驚きながらも姿を追って振り向くと、遠くへと走り去る背中が確認出来た。

 

 「どうした、九淨? 何やら魔物の気配を感じたが……」

 

 怪異の匂いを嗅ぎつけたのか、アルが教会の中から現れた。

 とりあえず説明をしようとしたところ、何かが猛烈な勢いで迫ってくる音が聞こえる―――ロケット弾的な感じのヤツ。

 

 「……ッ! 説明してる暇はなさそうよ!」

 

 音の方に振り向けば当然、ドクター・ウェストのブッ放したロケット弾が迫っている。

 そしてロケット弾は、何故か一直線に教会へ向かっていた。

 

 「アルっ!」

 

 すぐさまマギウス・スタイルへと変身し、飛翔。

 直進するロケット弾を横から掴み、弾道を180度変更―――具体的にはドクター・ウェストの方に。

 ロケット弾はブーメランの如くドクター・ウェストの元へと返り……着弾。

 盛大な爆風、爆煙、爆炎。

 

 「……やった?」

 

 「やってないのである! 殺す気であるか!?」

 

 爆煙の中からバイクが飛び出し―――当然、ドクター・ウェストとエルザが乗っている―――私たちの前に止まった。

 

 「まったく……危うく愉快な焼死体として明日の朝刊に載るところだったのである」

 

 「先に撃ってきたヤツが何言ってんのよサイコ野郎。で、今回は何やらかそうって?」

 

 「博士、さっきの奴は放っておいて良いロボ?」

 

 「はっ!? しまったのである!」

 

 話が見えないが、ドクター・ウェストは何故か私を睨んできた。

 

 「大十字九淨! 貴様の妨害の所為で倒し損なった挙句、見失ってしまったではないか! もし貴様がミジンコほどでも罪悪感というものを感じたならば、我輩たちの手伝いをするのである!」

 

 「さっきの奴? 見失った? ……あの凄いスピードで走ってた人型の事?」

 

 「うむ。貴様も魔導探偵を名乗るからには、怪異と聞いて見過ごす訳にはいくまい? さあ、レッツタンデム! 我輩と共に死出へのツーリングなのである。というわけでエルザよ、大十字九淨とアル・アジフ、二名様ご案内である」

 

 「了解ロボ!」

 

 エルザは敬礼と共に、マギウススーツの襟首部分を掴んだ。

 

 「へ?」

 

 「では出発っ! 最高のドライビングを見せ付けてやるのであるっ!」

 

 ―――アクセル全開(フルスロットル)

 バイクは弾丸のように走り始めた。

 

 「ちょ、おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 「う、うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 「あらあら、車に気をつけるのよ~?」

 

 ライカのそんな声は、二人には聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疾走疾走ひたすら疾走。

 車の間をすり抜け、前を平然と横切り、信号を無視し、あちらこちらでそれに付随した事故を巻き起こしながら疾走する。

 何十台ものパトカーを引き連れ走るその姿は、まるで映画のワンシーンの様であった。

 

 (ぅ……ぉぇ……)

 

 エルザに襟首を掴まれたままの体勢である私は、狂気の疾走を繰り広げるバイクに翻弄されていた。

 上下左右前後、荒々しくひっくり返される視界に、私はもうグロッキー。

 今にも吐きそうな感じ。

 

 因みにちびアルは既に撃沈。

 私の肩から転落しそうになったので、ボディスーツの中にねじ込んでおいた。

 

 「敵影捕捉、戦闘モードへ移行するロボ」

 

 その発言と共に、襟首を掴んでいた手を放すエルザ。

 

 「くっ!? ……と、とと……!」

 

 放り出された瞬間、何とか黒翼を広げて中空に留まる。

 バイクは既に視界から消失していた。

 

 「はぁ……アイツら、後で覚えてなさいよ」

 

 とりあえず復讐を決意した私は、地面に降り立つ。

 やれやれ……と一息吐いた矢先、背後から複数のブレーキ音が聞こえた。

 振り向けばそこには、治安警察様御一行。

 

 「……って、何でいつもこうなのよぉぉぉぉぉ!?」

 

 ―――私の叫びは虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪異を追うドクター・ウェストとエルザ。

 二人を乗せたバイクは、怪異の後方数メートルまで距離を詰めていた。

 

 「エルザよ、砲撃準備である!」

 

 「了解ロボ! “我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)”射出!」

 

 エルザの呼び声(コール)に応じ、黒い棺桶が飛来する。

 バイクと併走するそれに、エルザは手を翳した。

 すると棺桶は砕け散り、中から大砲が現れる。

 エルザはその大砲を掴み取り、片手で担ぎ上げる―――照準は怪異へと。

 

 怪異は何かを感じたのか、四足で駈けながら顔だけを後方に向ける。

 

 (……今、楽にしてやるのである)

 

 怪異の血走った目、それを見たドクター・ウェストの胸中を様々な感情が行き交い、彼を揺さぶる……が、それを振り払った。

 

 「エルザ! 撃てぇィ!」

 

 「“我、埋葬にあたわず”―――ファイア!」

 

 凝縮された輝きがレーザーとして放たれる。

 怪異はそれを視認し、慣性を無視したような横っ飛びを以って回避した。

 

 「くっ。躱されたロボ」

 

 「なんの! もう一発である、エルザ!」

 

 「了解ロボ!」

 

 第二射は拡散ビーム。

 だが怪異は、異常な脚力と瞬発力でビームの雨を回避していく。

 全てのビームを掻い潜った怪異は、バイク―――その操縦者であるドクター・ウェストを―――目がけて飛び掛った。

 

 「ノ、ノオォォォォォォォォォ!」

 

 衝突する。

 そう感じたドクター・ウェストは、思わずハンドルバーを手放し、両手で頭を庇った。

 当然、バイクは安定を失う。

 

 「ロ、ロボ~~~~~~!?」

 

 突然体勢が崩れ、エルザは大砲を投げ出してしまった。

 

 そして―――衝突。

 二人は衝撃にバイクから大きく投げ出され、強かに地面へと叩きつけられた。

 

 「ぐぅぅ……」

 

 痛みに呻くドクター・ウェストだったが、そこで目を見開く。

 彼の身体に馬乗りになった怪異が、今まさに、その爪を振り下ろそうとしていたからである。

 

 ―――あれを受けたら、間違いなく致命傷だろう。

 ドクター・ウェストは死を覚悟した。

 

 (だが……我輩が彼女に与えた苦しみに比べれば、安い物である)

 

 ドクター・ウェストは彼女を受け入れるべく、そっと、目を閉じる。

 ―――だが

 

 「博士っ!」

 

 最高傑作(エルザ)の声が聞こえた。

 その声にドクター・ウェストは、自分が“逃げ”の選択をしようとしている事に気付く。

 

 (……そうである! 我輩は何をしているのであるか!? 我輩は―――彼女(エルザ)を救いに来たのであろうに!)

 

 一度は閉じた目を、彼は再び開いた。

 思いの丈を込め、ウェストは叫ぶ。

 

 「エルザッッッ!!」

 

 鋭く尖った爪が、ウェストを切り裂く寸前で、ピタリと停止した。

 

 彼女の面貌を見据える。

 左右非対称になるほど歪んだ顔。

 隔離病棟で彼女が行った、自傷行為によるもの。

 密かに病院のネットワークへと侵入し、彼女のカルテを盗み見たドクター・ウェストはそれを知っていた。

 

 「“我、埋葬にあたわず”!」

 

 彼女の動きが止まっている内に体勢を立て直したエルザが、大砲を拾い上げ、トリガーを引いた。

 魔力の輝きが放たれ、彼女を飲み込んでいく。

 

 (――――――――ぁ)

 

 彼女が消え去る寸前、ウェストと目が合った。

 

 ―――彼女の頬が、僅かに、緩んだ。

 

 (笑った……のであるか、エル、ザ?)

 

 それは光の中の、一瞬の出来事。

 確認する術はなく、ウェストの意識は暗転していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 復活したアルと共に警察を撒いた私は、上空を飛行している。

 ふと、眼下に大砲を担いだエルザを見つけた。

 肩を落としてトボトボと歩くその姿は、哀愁を漂わせている。

 

 「……どうしたのかしら?」

 

 私は黒翼を羽撃かせ、エルザの前に降り立った。

 

 「アイツはどうしたの?」

 

 「博士なら感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)中ロボよ」

 

 「あやつに色恋沙汰? ……似合わん事この上無いな」

 

 失礼―――いや、どうでもいいや。

 アルの発言に、私は同意した。

 

 「エルザ、捨てられてしまうかもしれないロボ……」

 

 いつになくシリアスな雰囲気だ。

 ……ってそこ、大砲ぶっ放すの止めなさい。

 

 「ところで大十字九淨、わざわざエルザを呼び止めるとは何用ロボ?」

 

 「アナタね……人を巻き込んどいて、その言い草はないんじゃないの?」

 

 「ロボ? ……はっ、解ったロボ!」

 

 エルザは突然身を庇うようにして後ずさった。

 

 「いくらダーリンでも、そういうのは良くないロボ!」

 

 「……なんとなく何が言いたいのか予想は付くけど、一応聞いとく。何が?」

 

 「傷心のエルザの心の隙に付け入り、慰み者にするつもりロボね!? 言葉巧みな大十字九淨に身体を許したエルザは、いつしかそのテクニックに溺れてしまい、大十字九淨無しには生きれないカラダに開発されてしまうロボ?」

 

 「え、何で私そんな鬼畜外道設定になってるの? っていうか何度も言ってるけど、私はノーマルよ、OK?」

 

 「筆舌に尽くしがたい辱めを受け、遂には心までも犯されてしまうエルザ。混濁した思考の中で、それでもなお大十字九淨を求め続けるロボ」

 

 「駄目だわこのポンコツ……早くなんとかしないと」

 

 「九淨、こういう場合は―――」

 

 「ええ、もちろん―――」

 

 ―――さっさと逃げるに限る。

 自分の世界へトリップしているエルザを放置し、私たちはその場から逃げ出した。

 

 「ロボ? ダーリン! エルザを置いてどこへ行くロボ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「エルザ……」

 

 意識を取り戻し、研究室へと戻ってきたドクター・ウェストは、先程の事を思い出していた。

 

 消え逝く彼女が浮かべた、あの笑顔。

 それはかつて、彼女が浮かべた笑顔そのままだった。

 

 ウェストとエルザが蘇生実験を行ったあの日―――ウェストが眠りに就いた後、事件は起こった。

 

 蘇生液によって動き出した後、一度は事切れた作業員の死体が、再び動き出したのだ。

 死体を調査していたエルザは、不運にも作業員に首を絞められ、首の骨を折られてしまう。

 異常を察知し目覚めたウェストが助けに入ったとき、既に命の灯火は消えかけていた。

 

 「エルザ! エルザ……しっかりするのである! 今、今何とかして……」

 

 エルザの容態を見たウェストは青ざめ、絶望する。

 だがそんな彼に対し、エルザは折れた首の代わりに手を左右に振ってこう言った。

 

 「良かっ、たね……ウェス、ト。新……鮮な、死体……よ」

 

 ……彼女に蘇生液を使うなど、考えられない。

 だが同時に、それしか手段がないことも、ウェストは理解していた。

 震える手で注射器を持ち、まだ温もりの残る彼女の体に蘇生液を注ぐ。

 

 ―――彼女は蘇った。

 心を失った、怪異と成って。

 

 ウェストが覚えているのは、そこまでだった。

 その後の記憶は、完全に抜け落ちている。

 ただ後日、エルザと思われる人物が捕縛され、病院の隔離病棟へと入れられたことを彼は知った。

 

 その事件以降、ウェストは実験をキッパリと止め、ミスカトニック大学医学部を退学した。

 

 だがその後、彼は研究者としてある研究を開始することになる。

 そう、人造人間の開発を―――

 

 「エルザよ……どうか、安らかに」

 

 このときドクター・ウェストが奏でたのは、いつもの狂おしいモノではなく、死者を悼む物悲しい旋律だった。




※共同墓地
現代の集合墓・合葬墓的なモノではなく、昔の、地域で自然発生的に生まれた墓地、という意味合いで使っています。

※食屍鬼
尖った耳、血走った目、ゴムのような弾力をもつ固い皮膚、野犬の様に移動し鉤爪の如く曲がる指先。雑食性で腐ったものでも平然と喰らう。動物の死骸が好物で、墓でほどよく腐敗した人間の肉は食屍鬼にとってご馳走である。

※やった?
やってない。

※レッツタンデム
二人乗り……?
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