…………………………………………………………………………………………ナンダコレ?(困惑)
漸くエルザを撒いたと思ったら、既に日は落ち夜の時分。
流石にこんな時間に行くのは失礼にあたるだろうと、私は渋々帰路についた。
「折角謝ろうと思ったのに……何でこうなるかなぁ」
ソファーに寝転び、呟く。
お嬢様のところへ謝罪に向かうのは、結局明日になる。
こういうのはなるべく、早くあるべきなんだけど……。
「まったく……謝罪する必要などあるまい。我等はやるべき事、当然の事をしておるだけであろうが」
「だってお嬢様は、一応
「分かった分かった……」
アルは、どうやら気が乗らないようだ。
「……何でそんなに不機嫌なのよ?」
アルの返答―――と言うか言葉の節々には、どこか苛立ちが感じられる。
「……別に。些細な事で一々気に病んでいる汝の弱さが、妾を苛立たせているだけだ」
(うーん。やっぱり、この軟弱者めっ! ってパターンなのかしら)
そんな風に考えていたところで、ふと、ライカさんの言葉を思い出した。
「アルちゃん、九淨ちゃんに構ってもらえなくて寂しいのよ」
(……まさか、ね)
有り得ない、と頭を振るが……もしかしたらもしかするかもしれない。
お嬢様と若干険悪な感じになってしまっているのに、この上アルとまで関係が悪くなるのはよろしくないだろう。
幸いこちらは雇用関係ではなく、言わば友人関係だ。
多少の茶目っ気は許される―――と良いなぁ。
(……よしっ、
玉砕覚悟で私はソファーから立ち上がり、棚に置いてあるボックスから、ある物を手に取った。
それを後ろ手に隠しながら、
「……む? なんだ、九淨?」
「……ちょっとソファーの方に座ってもらえる?」
若干の不機嫌オーラを滲み出しつつ私を見上げるアルに、ソファーへ座るように促す。
「一体どうしたというのだ? ……これで良いのか?」
訝しがりながらも立ち上がり、ソファーへ腰掛けるアル。
「うん。そのまま前を向いててねー」
私はアルの背後―――ソファーの後ろに立ち、後ろ手に隠していた物を取り出した。
まあ、そんなご大層なモノでは無いのだけど。
「ん? 何をするのだ九……うにゃ!?」
アルが変な声を上げた。
いったいどうしたのだろうか。
「どうしたの、アル?」
「な、な、な、汝が! いきなり妾の髪を触るからであろうにっ!」
……どうやらびっくりさせてしまったらしい。
と言っても、私はアルの髪に―――
私が手に持っているのは、鼈甲で作られた櫛だ。
結構古い品―――母さんが亡くなる前に使っていた物だから当然―――だけど、品の良い意匠と細工、それに異常な程丈夫なので、私の愛用品になっている。
「ごめんごめん、じゃあ、続けるわね」
「にゃにゃ!? お、おい、九淨……ひゃう!?」
左手でアルの髪を優しく撫で、右手で髪に櫛を通していく。
一応アルも女の子だし、寂しいというならこんな時間を持ってみたらどうだろう? と考えてみた。
アルは綺麗な銀髪なので、やっている私としても中々に楽しい。
……別に変なコトをしている訳じゃないんだけど、アルが何やら、にゃうにゃう言ってる。
「にゃ……うにゃ……にゃう!?///」
「え、えっと……もしかして、擽ったい感じ?」
私は髪を梳かす手をそのままに、アルに訊ねた。
「うにゅ!? ……な、何か変な……なにゃ!?///」
「あー……アルって、誰かに髪梳かしてもらったりとか無い感じ?」
「にゃにゃ!? ……そ、そうだ……にゃ!? ……それが、どうか……にゃふ!?///」
そういうコトらしい。
まあ、誰かに髪を触られるっていうのは決して多くないことだ。
小さい頃なら家族。
年齢を重ねていけば恋人。
そういう存在が居れば、機会は少なくないだろうけど……魔導書の精霊であるアルに、そんな相手が居たとは思えない―――恋人は有り得ないだろうし、無理矢理家族を定義するとすれば、著者であるアブドゥル・アルハザードだろうか? まあ、何にせよそういう事はしなかったのだろう。
「にゃぁ……うにゃ……ふにゅ!?///」
―――なんだろう?
なんか、ゾクゾクしてきた。
何と言うか……ヘンなモノに目覚めてしまいそうだ。
(いけないいけない。私はノーマル、ノーマルよ)
そう自制するが……
―――もっと、アルの声が聞きたい。
どこからかそんな思いが湧き出し、アルの髪を、更に梳いてゆく。
痛めないよう、傷つけないよう、優しく/丁寧に。
「にゃうぅ!? ……んぅ……はぁっ……く、九淨……うにゅっ!?///」
―――仄かに上気したアルの吐息が聞こえる。
私は、熱に浮かされたようだった。
「……ぃ……に……」
アルの吐息が
「い、いい加減に……せんかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!///」
―――私の意識は、そこで途切れた。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……///」
乱れた呼吸を整える。
(い、いったい何だったのだ!? さっきまでの感覚は!)
九淨に髪を触られ、梳かれたときのあの感覚。
いきなりの事であったにも関わらず、決して不快ではなかった。
いや、むしろ―――
「き、気持ち良……って! 何を言っているのだ妾は!?」
口から飛び出した発言に驚愕しつつ、慌てて九淨を見やる。
今の発言を、聞かれてはいないだろうか……?
「九淨、九淨?」
軽く揺すってみる。
……どうやら気絶しているようだ―――特に外傷は無い。
「ふぅ……って! 本をただせば、九淨の所為ではないかっ!」
何故、此奴に心乱されねばならぬのか。
(ええい! 一時の気の迷いだ、気の迷い!)
……とりあえず、湯に浸かって落ち着こう。
そうしよう。
それが良い。
九淨を一瞥する。
―――このまま放置したら、流石に風邪をひいてしまうだろうか?
「……仕方ない」
呟き、魔力を使って持ち上げる。
そして、いつも九淨が寝ているソファーへと降ろした。
ついでに毛布をかけてやる。
「これで良いだろう……さて」
今度こそ、バスルームへと向かう。
―――いつの間にか、アルの九淨への苛立ちは収まっていた。
もっとも、九淨はそれを知る由も無いのだが。
………………………………………………………………………………………ホント二、ナンダコレ?
ちょっと何書いてるかわかんないですが、番外話なのであまり気にしないでください。
九淨さんの撫で撫でスキルと髪梳きスキルは高い方です。
……まあ、それ以上にアルが触られるのに慣れてない+敏感なのですきっと。
―――何かアルって可愛いですよね。