ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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この次の話を長ったらしい説明回にしようと思ったので、今回は対ベルゼビュート戦のみと短くなっています。


第27話

 『現れたわね、デモンベイン! 出来損ないの鬼械神が!』

 

 招喚された鋼の巨人は立ち上がり、ベルゼビュートと対峙する。

 

 

 

 

 

 『……九淨……九淨?』

 

 『ぁ……ん、大丈夫よ……聞こえてる……』

 

 『戦いを選んだのだ、しっかりしろ。相手は鬼械神。一瞬の隙が命取りになりかねん』

 

 『ええ……分かってるわ』

 

 血が足りていない事で薄れる意識を、精神力で繋ぎ止める。

 

 ティベリウスが操る鬼械神・ベルゼビュート。

 忌まわしくも強大な気配は、今まで戦ってきた破壊ロボとは格が違う。

 果たして私の力で勝つ事が出来るのだろうか?

 

 (……いえ、勝たなくちゃいけないのよ!)

 

 そのための力。

 そのためのデモンベインだ。

 

 『九淨。汝の体は怪我と出血で、唯でさえ限界が近い。まともにデモンベインを動かせるのは……5分が限度だ。それまでに決着をつけよ』

 

 『5分……か。鬼械神相手に無茶な話ね』

 

 『そもそも、その怪我で戦おうなどというのが無茶な話だ』

 

 『まあ、無茶に無謀は大いに結構! 人間、追い詰められてからが本番よ!』

 

 デモンベインを突撃させる。

 対するベルゼビュートも、デモンベインとの間合いを詰めてくる。

 ベルゼビュートの拳が振るわれ、デモンベインを貫く―――が。

 貫かれたデモンベインは……鏡。

 砕け散った鏡の破片が宙に舞う。

 

 『またニトクリスの鏡? 悪いけど、同じ手が通用すると思わないコトね!』

 

 ベルゼビュートの口の部分から謎の液体が発射された。

 それは何もない空間―――否。

 鏡面迷彩によって不可視になっているはずのデモンベインへと、正確に放たれていた。

 回避は間に合わず、腕に液体が降り注ぐ。

 付着した液体は、瞬く間に腕部装甲を腐食させていった。

 

 『酸!?』

 

 続け様に放たれる強酸を、ギリギリで躱す。

 デモンベインが避けたことで強酸を被った、背後の覇道邸の一部が溶けた。

 

 『そらそらそらァ! いつまで逃げ回ってるつもり!?』

 

 お前から逃げ回り続けるつもりなど、毛頭無い。

 しかし、私に与えられているのは5分だけ。

 その5分でお前を倒すには、必殺の一撃が―――そして、その一撃を与える為の隙が必要なのだ。

 

 『みみっちい戦い方してんじゃないわよ!』

 

 突如、視界を赤黒い何かが覆う。

 

 (これは……ベルゼビュートが纏っているローブ!?)

 

 しまった!? と思った刹那、デモンベインにベルゼビュートの拳が叩き込まれた。

 同時に凄まじい衝撃がデモンベインを襲う。

 

 『くああああああああ!』

 

 『きゃあああああああ!』

 

 デモンベインに内臓された魔術回路の内の数百が、一斉にERRORを吐き出した。

 魔力伝達の不備によりデモンベインから力が失われ、大地に膝をつく。

 

 『くっ……デモンベイン!?』

 

 『どうかしら、バッド・トリップ・ワインの味は? 所詮は出来損ないの鬼械神ね! これで終わりよぉ!』

 

 ティベリウスの宣言と共に、ベルゼビュートがデモンベインに向けて両手を翳した。

 そして、翳した両掌の間に光球が発生する。

 光球は次第に輝きを増して、その周囲には無数の光球が……って!

 

 (どう見てもヤバイじゃないのよ!?)

 

 『アル! デモンベインは!?』

 

 『さっきの奴の一撃で、魔術回路に瘴気を流し込まれた! 汚染を浄化するまで、若干の時間が掛かる!』

 

 『くっ……!』

 

 万事休す……!

 

 『さあ、トドメよ! 焼け死んじゃいなさ

 

 その時、突然の横槍がベルゼビュートに入れられた。

 ビーム弾の雨が、ベルゼビュートへと飛来する。

 

 『ナ、何ィィィィィ!?』

 

 精神集中を乱され、ベルゼビュートが形成しようとしていた光球は消滅していった。

 ティベリウスの驚愕と共に、ベルゼビュートがビーム弾が飛来してくる方角へと向き直る。

 そこに居たのは、腕をガトリング砲へと驚異的な変化(メタモルフォーゼ)させたメタトロンだった。

 

 『貴様カァァァァァァ! オノレ、メタトロォォォォォォォォンッッ!』

 

 ベルゼビュートは魔法障壁を展開、ビーム弾の雨を無効化し始めた。

 けど、注意がメタトロンに向いた分、こちらはフリーだ。

 

 『アル、今のうちよ!』

 

 『分かっておる!』

 

 

 

 

 

 「瑠璃お嬢様!」

 

 2体の鬼械神の戦いを見守る瑠璃の下に、ウィンフィールドが駆け付けた。

 

 「ご無事ですか、お嬢様!?」

 

 裸同然の格好をしている瑠璃を見て、ウィンフィールドは素早く自らの上着を着せた。

 主の身を案じ、退避を促す。

 

 「お嬢様、ここに居ては危険です。司令室まで……」

 

 「…………………」

 

 瑠璃は答えず、あるものを見つめていた。

 

 「……瑠璃、お嬢様?」

 

 彼女が見つめているのは―――デモンベイン。

 真剣な、けれど今までとは違う色彩(イロ)を宿した瞳で、魔を断つべく戦うデモンベインを見つめている。

 

 「………………」

 

 そんな瑠璃の姿に、ウィンフィールドは退避を促す事を止めた。

 主を守る―――自らの職務を果たす為、傍らに控える。

 

 

 

 

 

 ―――水銀(アゾート)循環速度加速

 ―――瘴気に因る汚染……浄化率98、99、100

 ―――魔力伝達回復

 ―――魔術回路:全て正常(All Green)

 

 モニターに映されていたERRORが消え、全魔術回路が正常を示す。

 

 (良し……征ける!)

 

 私はデモンベインを立ち上がらせ、メタトロンに集中しているベルゼビュートとの距離を詰めた。

 

 『断鎖術式、解放! 壱号ティマイオス! 弐号クリティアス!』

 

 『な……ッ!?』

 

 流石に気付いたようだ。

 けど、私はそのまま攻撃を叩き込む。

 

 『アトランティス・ストライク!』

 

 デモンベイン近接粉砕呪法、アトランティス・ストライク。

 膨大な時空間歪曲エネルギーを直接敵に叩き込む一撃。

 レムリア・インパクトが使用出来ない現状、デモンベインが使用できる技の中で最大のモノだ。

 

 強烈な一撃が奴を蹴り穿つ……かに思えた。

 

 (浅い!?)

 

 しかし捉えたのは、ベルゼビュートが纏っていた赤黒いローブのみだった。

 本体は上空へと跳躍し、死神の如き一蹴を躱している。

 

 『コノォォォォ糞餓鬼ガァァァァァァァァ!』

 

 『チィッ!』

 

 『まだだ、九淨! ―――バルザイの偃月刀!』

 

 アルの声と共に、前方に炎が踊った。

 

 (そうか! アルの記述であるバルザイの偃月刀だから、当然デモンベイン用も―――!)

 

 炎へと手を翳す。

 顕れたのは、デモンベインに相応しい巨大なサイズの偃月刀。

 右手で偃月刀を掴み執る。

 左の腰に偃月刀を構え―――全力の一閃!

 

 『ハァァァァァァァァァァッッッ!!』

 

 偃月刀自身によって増幅された魔力を纏う一撃は、虚空を切り裂く斬撃となった。

 ハッキリと視認出来るほどの衝撃が、ベルゼビュートに向かって駈ける。

 

 『イア! クトゥグアァァァァァ!』

 

 対するベルゼビュートはあの光球を形成し、迫る斬撃へと放った。

 2つのエネルギーが衝突し―――爆砕。

 凄まじい熱と衝撃波が、周囲を薙ぎ払う。

 

 『っ……! 何て威力!?』

 

 『クトゥグア、だと? ……真逆!?』

 

 『気付いたみたいね、アルちゃん? つまりは……そういうことよ!』

 

 攻撃を放った後、地面に着地したベルゼビュートが両手を打ち合わせる。

 それを合図に空間へと舞う紙吹雪―――そう、それは魔導書のページで……

 

 (あれって……アルの断片!?)

 

 『やはりか! それは、旧支配者“クトゥグア”に関する記述!』

 

 『……つまり、アルの断片があのクソ野郎に奪われてるってコトじゃないのよ!?』

 

 何てこと……!

 歯噛みする私。

 

 ティベリウスの耳障りな笑い声が響く。

 

 『ほーっほっほっほ! アタシたちブラックロッジを侮らないでほしいわね? こと魔術に関して、アンタみたいな半人前とは、一味も二味も違うのよ!』

 

 新たな光球を形成するベルゼビュート。

 先程のモノより大きく、視界を灼くほどに眩く輝き、ついには球という形が崩れる。

 ―――それは、焔そのものだった。

 

 『さあ、これでトドメよん!』

 

 『旧支配者クトゥグア―――フォーマルハウト星に棲まう炎の神性、“生ける炎”だ! 神性の力を借りて奴が造り出したあの炎は、恐らくプラズマ体……当たればただでは済まんぞ!』

 

 『くっ……!』

 

 『ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!』

 

 ティベリウスの詠唱と共に、焔が、デモンベインに向けて解放された。

 超々高熱の(アギト)が、デモンベインを食い千切るべく迫る。

 それを見た私は―――

 

 『……!? 何をしておるのだ、九淨! 早く避けろ!』

 

 バルザイの偃月刀を上段に構え、静止した。

 

 タイムリミットが近い。

 自分の体の感覚からして、これを躱せても次は躱せないと分かる。

 故に、このタイミングで勝負するしかない。

 

 感覚を研ぎ澄ませ、思考しろ。

 世界の総てを見通すような、あの超感覚を今一度この身に。

 魔術を、理論を、力を、世界を―――総てを認識しろ。

 字祷子構成を読み解き、世界の法則を視ろ。

 私になら―――視えるはず!

 

 (―――視えた!)

 

 迫るプラズマ体、その内部。

 それを形成する魔力の核が。

 

 『―――斬ッ!』

 

 世界を疾走する思考に追従する速度で振り下ろす、裂帛の一閃。

 一瞬、世界が停止し―――

 

 『な―――――!?』

 

 『そ、そんな馬鹿な!?』

 

 焔が両断された。

 焔は構成を断ち切られ、あるべき姿―――魔導書の紙片へと還った。

 

 ベルゼビュートは動揺のためか、動きを止めている……勝機!

 返し刀で、虚空を切り裂く斬撃をベルゼビュートに向かって放つ。

 

 『ぬァァァァァァァァ!』

 

 ……僅か、ほんの僅か、ベルゼビュートの行動が速かった。

 斬撃は、回避行動に入ったベルゼビュートの右腕一本を切断するに留まった。

 

 『くっ……ここまで……か』

 

 ―――5分が経過してしまった。

 アルの見立て通り、身体が限界に達する。

 身を蝕む睡魔に抗う事が出来ず、私の意識は闇の中へと沈んでいく。

 

 (あと……一歩だっていうのに……)

 

 『九淨!?』

 

 

 

 

 

 『餓亜亜亜亜亜亜亜! この小娘がァァァァァァッ!』

 

 怒り狂うティベリウス。

 停止したデモンベインを鉄屑に変えるべく、攻撃しようとする……が。

 

 『―――そこまでだ。帰還せよ、ティベリウス』

 

 脳裏に、少年の声が響き渡った。

 

 『大導師様!? ふざけないでよ! アンチクロスともあろう者が、このまま黙って引き下がれるわけないでしょお!? この餓鬼はアタシが

 

 マスターテリオンの撤退命令に激昂するティベリウスだったが……長くは続かなかった。

 

 『ギギギッガゲガグギギギギギャァァァァァァ!?』

 

 突然、ティベリウスの脳髄へと走る激痛。

 そこに、マスターテリオンの絶対者としての声が響く。

 

 『ティベリウスよ。余は貴公の力を高く評価している。その貴公を、このまま廃人としてしまうのは忍びない。―――もう一度だけ言う、帰還せよ』

 

 『は、ははははははハイィィィィ! も、もももも申し訳ございませんでしたぁぁぁっ! どうか! どうかお許しをぉぉぉぉッッッ!』

 

 ティベリウスの懇願の声と共に、ベルゼビュートの足下に円形の影が広がる。

 機体は丸ごと影に呑み込まれ、完全に消え失せた。

 

 血の色の空は、いつの間にか藍色の空へと変わっている。

 ―――夕暮は過ぎ、黄昏は去り、逢魔ヶ時は終わったのだ。




※バッド・トリップ・ワイン
タイタスさんがカーステアズに飲まされていた中毒性物質混入のワイン(が元ネタ)。
以下は混入されていた含有物と思しきもの。

毒人参、菲沃斯、マンドレイク、マリファナ、阿片(とおぼしい薬物)

※クトゥグア
言わずと知れた炎の精。クトゥガ。メルカルト。みなみのうお座の一等星フォーマルハウトに棲んでいらっしゃいます。
フォマルハウトが梢の上にかかるその時、さあ、皆様ご一緒に!

“ふんぐるい むぐるうなふ くとぅが ほまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐんいあ!くとぅが!”
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