「ふぅ……なんか自宅に帰ってきたの、随分久し振りな感じがするわね」
無事に退院し、お嬢様のところと教会に挨拶に回った後帰宅した私とアル。
退院自体は昼食を摂った後だったけど……途中で当然の如くお嬢様とアルの口喧嘩に発展したり、がきんちょどもにじゃれ付かれたり、いつもの様にご飯―――夕飯を集ったりしたので、既に夜になっていた。
「そうだな。一週間も空けていないと云うのに、不思議なものだ」
私の言葉に同意を示すアル。
私は錠を外し、自宅の玄関ドアを開けた。
「ただいま~」
「今帰ったぞ」
「てけり・り」
身体をうねうねと蠢かせながら出迎えてくれたのは、遊星からの物体X―――ダンセイニだ。
最近はこの異容にもそこそこ慣れてきた……まあ、あくまでそこそこだけども。
「うむ。出迎えご苦労、ダンセイニ」
そんな異容は気にしないアルは、そのままダンセイニへと腰掛ける。
私はアルを横目に、ソファーにどさっと身を投げ出した。
「はぁ……疲れた」
入院中はあまり身体を動かせなかった―――丸二日は寝たきりだったし―――事もあり、今日久し振りに歩き回ったので若干疲れていた。
このまま眠ってしまいそうになったところで、アルが聞いてきた。
「寝るのか、九淨? 風呂は入らなくて良いのか?」
……忘れてた、お風呂だ。
けど、私は一応怪我人―――アルの魔術のお陰もあって、怪我と云う怪我は大体治っているけど―――なわけだし、湯船は控えた方が良い気もする。
少し悩んで、アルに返答した。
「んー……今日は体を拭くだけにしとく」
「そうか……ん? という事は、風呂は沸かさんのか?」
「お風呂沸かすのはダメ。シャワーで我慢しなさい」
「にゃにぃ!?」
「あなた1人だけ入るんじゃ、水がもったいないでしょうが。だからシャワーで我慢ね」
「お、おのれ、九淨……!」
「はいはい、文句言わないの。シャワー浴びるなら浴びる! 浴びないなら浴びない!」
「ぐぬぬぬぬぬ………」
アルは暫く唸っていたが、やがて諦めたように溜息を吐きバスルームへと入っていった。
(さてと……私もちゃっちゃと体拭いて寝よう)
持ってきた洗面器にお湯を入れ、手拭を用意する。
上着とシャツを脱いで下着を外し、上半身裸に。
さて拭こうと手拭に手を伸ばしたところで、ダンセイニが側まで寄ってきている事に気がついた。
「ん? どうしたの、ダンセイニ?」
「てけり・り」
ダンセイニは手のような触手を伸ばし、私と手拭を交互に指し示した。
「えっと……もしかして、体拭くの手伝ってくれるの?」
「てけり・り!」
我が意を得たりとばかりに頷く―――頷くと云って良いのかは疑問だけど―――ダンセイニ。
奇怪な不定形生物に身を任せるというのは、少々躊躇われるけど……。
「……分かったわ。じゃあ、お願いするわね」
少なくとも害意だとか私を捕食しようだとかそういう事はないだろうし、折角の申し出なので任せてみる事にした。
「てけり・り!」
了解! とばかりに触手で敬礼をするダンセイニ。
手拭を触手で掴み、お湯に浸した後絞り、私の背中を拭き始めた。
「ん……はぁ……ぅん……」
中々上手だ。
私の体を労るように優しく、それでいてしっかりと拭いてくれている。
「てけり・り?」
多分、加減はどう?と聞いているのだろう。
私は気分良く答えた。
「ん……イイ感じよ、ダンセイニ」
「てけり・り」
背中を拭き終わり、右腕、左腕と拭いていく。
やがて拭き終わると、ダンセイニは私の正面へと回ってきた。
「てけり・り」
「ん、ありがとう」
終わったよと言いに来たのだと思い、お礼を言って手拭を受け取ろうとする……が。
「てけり・り」
「え、違うの?」
ぷるぷると震え、否定の意を示すダンセイニ。
どうやらそうではないらしい。
じゃあどういう事だろう?と思い、考えてみれば―――
目的:私の体を拭くこと
現在:背中と両腕が終了
目的を完了するには? →後は前が残っている
……ん?
「え゛? もしかして……前も?」
「てけり・り」
そういう事らしい。
「いやいやいや……ちょっと待ちなさい、其処な不定形生物」
「てけり・り?」
流石に前ぐらいは自分で拭けるし……何より、そんな
「てけり・り」
「って、こら!? 勝手に体拭くんじゃないわよ! ちょ、あぁん……! へ、変なトコ触るんじゃ……! んぅぅっ……!? ぁっ、其処はだめぇ……! やだっ!? 下にまで触手這わせんなこのっ……! あっ、ちょっ、やん、其処は……ぁぁっっっ――――――――――!?///」
などとダンセイニと格闘していた時だった。
バスルームの扉が、まるで吹き飛ばされるような勢いで開いた。
現れたのは肩を怒らせ、今にも爆発しそうなアル……って
「な、何をやっておるか……! この、変態どもがぁぁぁぁぁぁ―――――――ッッッ!!」
―――うん、爆発したわね。
などと云う何処か他人事のような感想と共に、私の意識は刈り取られた。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
ダンセイニと九淨を魔力波で吹き飛ばしたものの、怒りが収まりそうにもない。
のびているダンセイニを叩き起こし、事情聴取をすることにした。
「ダンセイニ……汝、ナニをしておったァ!」
「てけり・り」
「なにィ……? 九淨の体を拭く手伝いをしていただけだとぉ?」
確かに九淨は体を拭くと言っていたし、背中など自分の手では届きにくい場所もあるだろう。それを手伝う事自体は問題ない。
「では、何故九淨が……あ、あのような声を出していた?」
「てけり・り」(キリッ
「自分はあくまで体を拭いていただけであって、やましい気持ちなど存在せず、九淨が勝手に喘いでいただと?」
「てけり・り」
なるほど、つまり九淨はただの淫乱ということに
「って! そんなワケがなかろうがァァァァァァァ――――――――――!!!」
魔力を纏った蹴りでダンセイニをボールの如く蹴り飛ばす。
ドムっという鈍い衝撃を受け、素っ飛んで行くダンセイニ。
そのまま窓ガラスを突き破り、アーカムシティの夜空を切り裂く一筋の光となり―――
キラン☆ と云う効果音と共に、彼奴は星となった。
「まったく……彼奴は一週間、餌抜きだな」
嘆息し、気絶している九淨へと歩み寄る。
上半身は裸―――まあ、こちらは体を拭くために脱いだのだろう―――で、下半身はパンツが脱がされかけていた。
このまま放置してしまっては風邪を引くだろう―――丁度涼しくなったし。
「やれやれ……毎度毎度世話の焼ける主だ」
パンツを摺り上げ、上半身には脱いであったシャツを着せた。
そのままソファーへと転がし、毛布を掛けてやる。
「良い夢を見る事だ、九淨」
電気を消し、さて寝よう……というところで気がついた。
「―――ダンセイニ! さっき蹴り飛ばしてしまったではないか!?」
……困った。
流石に床で寝る気にはならない。
「……まあ、これも主の為だ。何の問題も無い。うむ」
窓ガラスが割れて大分涼しくなった部屋だが、人肌の温もりがあれば風邪も引くまい。
そう結論付け、九淨の眠る―――まあ、気絶しているのだが―――ソファーへと潜り込む。
「……お休み、九淨」
少し苦しそうな九淨の顔を眺めつつ、妾は眠りについた。
紳士だと思っていたダンセイニさんは、実は(変態と云う名の)紳士でした!というお話―――じゃなくて。
前にティベリウスに絡まれる展開を無しにしたので、何かしら変わりになる話を用意しようと思ったら、いつの間にかダンセイニさんに絡まれる九淨さんという話になってしまったのです……ドウシテコウナッタ。
正直大した出来ではないのですが、無しにしたティベリウスに絡まれる展開よりはマシかなと。
あとダンセイニさんごめんなさい。
本編では別に変態紳士じゃないから安心してください。
それとアルデレ過ぎじゃね?って思いましたが……一応女性同士ですし、スキンシップの範疇と云う事で一つ、お願いします。