ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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会話文多めにつき注意。


THE SHADOW OVER INSMOUTH
第29話


 ―――其処は、生臭い魚の臭いと塩の臭いが充満していた。

 じめじめとした其処には陽の光は一切入り込まず、焚かれた篝火が空間を薄暗く照らしている。

 

 そんな空間に居る者達は、奇怪な姿をしていた。

 ……“半魚人”と呼ぶのが相応しいだろう。

 人間の様な姿こそしているものの、皮膚は鮫肌で噴き出物だらけ。

 膨らみ、まばたき一つしない眼を備えた魚頭(フィッシュヘッド)

 

 彼らはそれぞれ数人掛りで、複数の女性を犯していた。

 泣き叫び抵抗する女性を押さえ付け、強引に股を割り、醜いモノを突き立てる。

 複数の男達が奇怪な魚眼をぎらつかせ女性を輪姦する光景は、生理的嫌悪を催さずにはいられない。

 

 そんな醜悪な光景を眺める二人の男が居た。

 一人は半魚人達の長老。

 そしてもう一人は、この場に大凡似付かわしくない、上品なスーツと外套を纏った中年の紳士である。

 

 「オマエノ言ウコトヲ 信ジテモ ヨイノダナ?」

 

 長老は紳士に、疑いの色を含んだ声で問いかける。

 その声は妙に聞き取りにくい―――発声器官が退化しているのか、或いは人間の物ではない発声器官なのか―――ものであったが、紳士は調えられた顎鬚を撫でながら、笑みを浮かべて答えた。

 

 「勿論。勿論だとも。我々の研究は完璧だとも、長老。貴方方はどっしりと、大船に乗ったつもりで構えていれば……と、そもそも船が無かったところで溺れもしないか。失敬」

 

 「シカシ ナゼ陸ノ人間デアルオマエタチガ ワレワレニ加担スルノダ? イッタイ何ノツモリダ?」

 

 「はっはっはっ、それはだね、とてもとても単純な理由なのだよ長老。我々が信じる“神”もまた、貴方方の信じる“神”と同じなのだ。謂わば我々は同胞なのだよ、長老。姿こそ違うがね」

 

 「………………」

 

 「仮に。仮にだ。我々に何か企み事があったとして、何か不都合な事でもあるかね? 貴方方は自らの領地を取り戻す事ができ、我々はこの儀式によって魔術師としての位階(クラス)を上げる事が出来る。つまりはお互いの為なのだよ、同志」

 

 紳士は長老に、まるで無二の親友に語りかけるような口調で言う。

 長老は疑り深かったが、紳士の嘘偽りの見えない姿を見て信用する事にした。

 

 「……分カッタ 信ジルトシヨウ」

 

 「そうかそうか! 実に喜ばしい。長老である貴方が理解のある御仁であった事、全く以って嬉しい限りだ。大丈夫。大丈夫だとも。期待は決して裏切らんよ。我々―――ブラックロッジに任せたまえ」

 

 紳士は友好的な笑顔と共に手を差し伸べ、長老の手を取って握手を交わした。

 

 ―――紳士の姿は一見、嘘偽りなど無いように見える。

 しかし、それは表面上の話。

 紳士の笑顔の裏には、冷酷な愉悦と侮蔑と嘲笑が隠れていた。

 

 ……長老は疑り深かったが、決して賢明とは言えないだろう。

 少なくとも、紳士の裏に潜む色を見抜けなかったのだから。

 

 (所詮は魚か。まあ、精々我々の掌の上で踊ってくれたまえ。自らが崇め奉る“神”の犠牲となれるのだ……不満などあるまい?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地に燦々と降り注ぐ、太陽の光。

 心地好い潮騒を運ぶ、これまた心地好い風。

 空を見上げれば、雲一つ無い青空。

 そのまま見下ろせば、果てなく広がる蒼い海(マリンブルー)

 綺麗な白い砂浜は、大勢の人々で賑わっている。

 嗚呼、世界とは斯くも眩しいものであったか。

 

 「んっ……ん~~~~~~っ」

 

 大きく伸びをして陽射しを全身に浴びる。

 肌を撫でる乾いた風が、とても気持ちイイ。

 

 今私が居る此処は、所謂リゾート地、その海水浴場だ。

 とはいえ、別に遊びに来たワケではなく―――そもそもそんなお金はない―――仕事だ。

 

 事の発端はこんな感じ。

 

 

 

 

 

 「……海水浴場での怪事件?」

 

 「はい。最近―――ここ一ヶ月でしょうか。覇道財閥所有のリゾート地にて、奇怪な事件が多発しているのです」

 

 執事さんは地図を取り出し、テーブルに広げる。

 覗き込んで見ると、色々な書き込みがされていた。

 執事さんはその書き込みの中、マサチューセッツ州・アーカムから若干離れた位置の印を指差す。

 

 「インスマウス。此処はほんの数年前まで、単なる寂れた港町に過ぎませんでした。しかし覇道財閥―――いえ、大旦那様が開発に着手して以来、大きな発展を遂げました」

 

 「あっ、インスマウスね……知ってるわ。合衆国(この国)有数のリゾート地よね?」

 

 かなり有名な場所だから私も知っている。

 残念ながらお金がなくて行った事はないけど―――って、何か鬱になってきた。

 

 「その通りで御座います。……そのインスマウスで、船の難破や観光客の失踪に附随して、怪奇現象が起きているとの噂が」

 

 「……具体的には?」

 

 「夜中、不気味な呪文めいた声が聴こえる。海岸で、蛙のような不気味な生物の群れが出現する。海面に明らかに鯨のものとは違う、しかしそれに近い大きさの魚影が浮かび上がってくる―――等々。さらには、似たような目撃証言も届いております」

 

 「偶然……とは思えないわね」

 

 「ええ。そういった事情でこの事件の調査を、魔導探偵と呼ぶべき貴女方に依頼したいのです。それに、アル・アジフの断片とも何か関係があるかも知れません」

 

 「成程ね……アルはどう思う?」

 

 「ふむ……断片に関して云えば、散らばったのはあくまでこの街だから関係性は無いだろう。―――が、無視するにはどうも引っ掛かるものを感じるな……妾としては引き受ける事に異存はない」

 

 「そうよね……。よしっ。分かったわ、お嬢様。引き受けさせてもらうわ」

 

 「有難う御座います、大十字さん」

 

 「あー……それでお嬢様? 調査地がインスマウスって事で、一つお願いがあるんだけど」

 

 「はい、何でしょうか?」

 

 「―――私とアルの水着、用意してもらえない?」

 

 「…………はい?」

 

 

 

 

 

 ―――以上、回想。

 

 ……いや、言いたい事は分かってる。

 仕事なのになんで水着なんだーとか、水着ぐらい自分で買えよって言いたいのは分かる。

 けど、リゾート地の海水浴場で調査するのに私服というのも結構浮くし、何より私にとって水着は贅沢品だ―――スクール水着ならあるけど。

 

 そもそも、何故覇道財閥からお給金を貰っているはずの私がそんな事を言っているかと云うと……そのお給金が問題なのだ。

 

 ―――私たちはデモンベインを喚ぶ。

 デモンベインを喚ぶという事は、当然それは戦闘と云うワケで。

 戦闘になれば、これまた当然街に被害が出るワケで。

 その被害の度合によって、お給金がカットされちゃったりするワケなんですよ……。

 まあ、流石に全部という訳ではなく、一部が差し引かれているんだけど……それでも結構な金額だ。

 

 そんなワケで日々食べるのが精一杯な私に水着なんぞ買えるはずもなく、お嬢様に頼んで水着を用意してもらう運びとなった訳だ。

 

 因みに、今私が着ているのがそうだ。

 ワインレッドのビキニに、その上からブラックのメッシュパレオを着用している。

 肌触りや見た目からして、かなり高級品のようだ―――流石は覇道財閥。

 

 とりあえずお嬢様にお礼を言おうとしたところ、さっさとホテルへと引っ込んでしまった。

 以下、お嬢様との遣り取り。

 

 

 

 

 

 「では、大十字さん。わたくしはホテルに居ますので、報告はそちらに」

 

 「へっ? ……ってことはつまり、私が調査している間、お嬢様はくつろいでいる感じ?」

 

 「……だって、陽射しがこんなに強いじゃありませんか。このまま陽射しに晒されていたら、お肌に悪いですもの」

 

 

 

 

 

 ……ちくせう。

 やっぱりお嬢様は根っからのお嬢様ってワケね。

 

 まあ、それは言ってもしょうがない。

 気を取り直して、早速調査を開始―――って。

 

 「……そういえばアルが居ないじゃない」

 

 もしかしたら既に調査を開始しているのだろうか?

 とりあえず、私も怪奇現象の噂について聞き込みをしながらアルを探すとしよう。

 

 

 

 

 

 「んー……いないわね」

 

 しばらく探してみたものの、アルは見つからなかった。

 聞き込みの方も芳しくなく、逆ナンと間違われて何人かの男に絡まれたぐらいなものだった。

 

 (はぁ……少し休憩しよう)

 

 視界に入った海の家に入店して……すっごく聞き覚えのある声どもを聴いた気がした。

 

 「みんな。何食べよっか?」

 

 「焼きそば!」

 

 「カレー!」

 

 「か、かき氷……」

 

 「妾は磯辺焼―――いや、ラーメンも捨て難いな……ううむ」

 

 ―――何でアナタ達此処にいるのよ? と云うか最後のアナタは何をしてるのよ……?

 呆れながらも、私は声をかけた。

 

 「アナタ達……」

 

 「あ、九淨ちゃんだ~。やっほー☆」

 

 「「「くじょー/九淨お姉ちゃん!」」」

 

 「ん? ああ、九淨か。遅かったではないか」

 

 其処にいたのはライカさんとがきんちょども、それに先程まで探していたアルだった。

 因みにライカさんは白いビキニ、がきんちょどもは子供らしい水着、そしてアルは外見年齢相応の可愛らしい水着を着ている。壁には浮き輪が立て掛けられ―――

 

 「てけり・り」

 

 ―――浮き輪じゃなかった。

 

 「やっほー☆、じゃなぁぁぁぁぁい! ライカさんにがきんちょども! 何でこんなトコにいるのよ!? そんでアル! あなた、調査はどうしたのよ調査は!?」

 

 「九淨ちゃんてばひどいじゃない、私達を仲間外れにして自分達だけで楽しもうなんて……ぷんぷん!」

 

 「良いか九淨、腹が減っては戦は出来ぬと云うではないか。謂わばこれは、戦場に赴く為の準備であってだな」

 

 「ぷんぷんゆーな。私は遊びに来た訳じゃなくて仕事よ仕事! アル、あなたはソワソワし過ぎ。どう見ても準備っていうかただ単に海水浴場定番の料理が食べたいだけでしょーが!」

 

 「固い事言わないの! 遊ぶときは大勢でわいわい騒ぐ方が絶対楽しいもの! ほらほらっ、九淨ちゃん? スマイルスマイル!」

 

 ……相変わらず人の話をお聞きにならないシスターでございますね。

 

 「……ならば聞くがな九淨? わざわざ海まで来たというのに、やたら高い焼きそばもしょうゆとみりんの合わせダレでびっちゃびちゃな磯辺焼も微妙な味のラーメンも無くして何の意味があるというのだ!? 答えよ、大十字九淨ッッッ!」

 

 こっちはこっちで逆ギレ!? ……私、何かもう疲れちゃったよ。

 ―――私は大きく溜息を吐き、空いている椅子に腰掛ける事にした。

 

 

 

 

 

 この美しい空の下の―――

 この輝く海の―――

 いったい何処に、忌まわしき闇の存在が、恐るべき怪異が潜んでいるのだろうか?

 こんなにも美しい光景を見ていると、そんな邪悪が存在できることが信じられない。

 

 生命力満ち溢れる海―――インスマウス。

 こうして実際に訪れてみると、合衆国でも有数のリゾート地と云われる理由が良く分かる。

 

 しかし、それは表面上の話なのだろう。

 この広い海の何処か。

 美しい光景の、たった一片の闇の中に邪悪は潜み、虎視眈々と機を窺っているのだ。

 

 そういった怪異を打倒するのが私の仕事であり、同時に使命でもある。

 どちらにしてもこの怪事件、早く解決しないとね……!

 

 「九淨ちゃん~それぇ☆」

 

 「ひゃん!? や、やったわね、もぅ☆」

 

 「きゃあ、冷たぁい!」

 

 「ふっ……油断したな、九淨! 敵は1人だけではない!」

 

 「てけり・り」

 

 「ぎゃうっ!? しょ、しょっぱぁ~っ! くぅ……1対2なんて卑怯よ! がきんちょども! 来なさい!」

 

 「よーし! 了解!」

 

 「突撃準備完了しました、ぐんそー!」

 

 「アリスンちゃんはこっちねー。これで3対3よー」

 

 「う、うん。ライカお姉ちゃん」

 

 「てけり・り」

 

 「これで条件は同じね……ジョージ! コリン! やぁぁぁぁっておしまいっ!」

 

 「嘗めるなよ九淨! 妾と汝の実戦経験の差、思い知らせてくれるわ!」

 

 

 

 

 

 (…………………………あれ?)

 

 気付けば、ライカさん達と一緒に遊んでいる自分がいた。

 調査しようと云う気概は何処へやら、見事にバカンスを楽しんでいる。

 

 (――――――まあ、いっか)

 

 水も気持ちイイし、実際楽しいし、海に来たら遊ぶのは当然だし。

 

 「――――――――――――――って、良くない!」

 

 突然叫んだ私に、皆が不思議そうな目を向けてくる。

 

 「……いきなりどうしたの、九淨ちゃん? もしかして飽きちゃった?」

 

 「いや、そうじゃなくてね」

 

 いけないいけない。

 このまま遊んでいたいのは山々だけど、インスマウスに来たのはお仕事の為なのだ。

 探偵として依頼を引き受けた以上、ちゃんとやらないと。

 

 「アル! 調査に戻るわよ!」

 

 私が言うと、アルは心底やる気の無さそうな表情を私に向けてきた。

 

 「……別に今日一日ぐらい問題あるまい」

 

 「ダメ。早く調査を進めないと、お嬢様に怒られちゃうわ」

 

 「むっ……汝は何故あの小娘に弱いのだ。汝がそのような態度でいるから、小娘に嘗められるのだぞ?」

 

 「何故もなにも、私は探偵で向こうは依頼人(クライアント)よ? 依頼達成の為努力するのは当然だし、依頼人にそれ相応の対応をするのも当然でしょう? 覇道財閥の総帥相手となれば尚更よ」

 

 「ふんっ。世俗の柵などと云う下らん物に囚われおって」

 

 「―――何かコレ、いつも言ってるような気がするけど……あなたにとってはどうでも良いかもしれないけど、私にとっては重要な事なのよ。……それにあなた、今回の件が引っ掛かるって言ってたじゃないの」

 

 「ああ。だが、大方の見当は付いた」

 

 「……え?」

 

 それは聞き捨てならない発言だ。

 私はアルを問い質す。

 

 「どういう意味よ、それ?」

 

 「辺りに漂う、暗い闇の匂い。人間の陽の気で清められてはいるが……此処は只の海ではあるまいよ」

 

 「暗い闇の匂い……それに、只の海じゃない? それってどういう―――」

 

 こと? と続けようとしたそのとき。

 軽い音と共に、私達の方へビーチボールが転がってきた。

 

 「あら?」

 

 ライカさんがボールを拾い周囲を見回す。

 すると遠くから、ボールの持ち主らしき一団が手を振りながら駆け寄ってきた。

 

 「すいませーん、そのボール俺らのでーす」

 

 「あっ、はいはーい、どうぞ☆」

 

 ライカさんがボールを男性に手渡す。

 その男性は奇妙な事に、怪しさ全開の覆面を被っていた……って、ちょっと待て。

 

 「いやー、ありがとうございます……って」

 

 「…………………………」

 

 「…………………………」

 

 「…………………………」

 

 「???」

 

 ―――長い、沈黙。

 ジリジリと照りつける太陽の暑さと、肌を伝う汗の感触が、妙にハッキリと感じられる。

 そして沈黙が破られた。

 

 「ウゲ――――――ェェェ! 大十字九淨ッッッッッ!?」

 

 「ブラックロッジの戦闘員ッッッ!?」

 

 「なっ、しかも正体がバレてる!? ど、どういう事だ!?」

 

 「そんな特徴的な覆面被ったままで、正体も何もないでしょうが!」

 

 「えーと……九淨ちゃん、お知り合い?」

 

 「いやいや、気付きなさいよっ!?」

 

 「うわぁぁぁ! 大変だぁ! ボスぅぅぅぅ!」

 

 「って、待ちなさいッ! アル、行くわよ!」

 

 「応!」

 

 私たちから逃げていく、Vパンに覆面姿の男達。

 

 「ちょっと、九淨ちゃん! アルちゃん!」

 

 私とアルは奴等を追い駆ける。

 

 (インスマウスで多発している怪事件、其処にブラックロッジの戦闘員……偶然なワケがないッ!)

 

 「さあ、此処までだ! 観念せよ!」

 

 「ボスぅぅぅ! た、たた大変です! 奴が! 奴が……っ!」

 

 炎天下の中、ようやく戦闘員を追い詰める。

 その先に居たのは―――

 

 「どうしたと云うのであるか、そんなに慌ておってからに。ボールを取りに行ったのではないので……あ……る…………うげっ」

 

 「うえ゛っ」

 

 ―――赤白ボーダーの水着に身を包んだアイツ、だった。

 

 「大十字九淨っっっ!? アル・アジフッッッ!?」

 

 「ドクター・ウェストぉぉぉぉぉぉ(変態科学者ぁぁぁぁぁぁ)――――――っ!?」

 

 互いに指差し、身構えた。

 

 (また……! またコイツが元凶かっ……!)

 

 こんなところに来てまで、お茶の間に笑いと破壊を提供しなくては気が済まないのだろうかコイツは。

 しかし、腐れ縁なのはもういい加減にしてほしい。

 

 見なさい、周囲の一般客の方々が全力で避けているじゃありませんか。

 

 「やっぱり……やっぱりアンタの仕業だったのね、ドクター・ウェスト! 毎ッ度毎ッ度好き放題……! 今日と云う今日は許さないわよ!」

 

 「いきなり現れたかと思ったらとんだ言掛り! 我輩、何の事やらさっぱりなのであるッッッ!」

 

 「とぼけるなしらばっくれるなネタはもう挙がってんのよインスマウスでの怪事件は全部アンタの仕業でしょうがさあ白状しなさいさっさと白状しなさいキリキリ白状しなさいそして石版抱いて冷たい海にダイブするか私の手で強制ダイブさせられるかどっちか好みの方を選べぇぇぇぇっっっ!!」

 

 「いったい何の話であるか! 我輩どもはただ日頃の疲れを癒そうと、慰安旅行にやってきただけなのである! 悪い事は全部人のせいにするなど、とんだ暴論なのである!」

 

 「嘘付くならもっとマトモな嘘付けぇぇぇぇぇ! どぉぉぉぉぉこの世界に慰安旅行なんか実施する悪の秘密結社があるってのよっ! 小説でも見たことないわよそんなの! 狂ってんのはその頭の中だけにしときなさいっ、この○○○○がぁぁぁぁぁっっっ!」

 

 「マサチューセッツ州に悪の秘密結社の慰安旅行を禁ずると云う法律でもあるのであるか!? それに○○○○って言う方が○○○○なのである! やーい、この○○○○!」

 

 「こ、この野郎ッ………!」

 

 「む、九淨」

 

 「アル! とりあえずコイツらブン殴るわよ!」

 

 「いや、それよりもな九淨」

 

 「何よ? 早くマギウス・スタイルに

 

 「―――危ないぞ?」

 

 「マイ・ダーリン、随分と久し振りだロボ」

 

 「ひゃあああああああッ!?」

 

 咄嗟に身を屈めると、頭上を凄まじいスピードで鈍器が通り過ぎた。

 見覚えのあるトンファー・ガン。

 

 「え、エルザっ!?」

 

 「やっほーロボ!」

 

 「くっ! 不意打ちとはやってくれるじゃないのよ!」

 

 「汝……かなり格好悪いぞ」

 

 両手に構えたトンファーを軽々と振り回して、エルザは答える。

 

 「不意打ちだなんて大袈裟ロボ。今のはダーリンへの軽い挨拶―――愛情表現の一種ロボ」

 

 「その割には殺る気満々でしたよねアナタ!? 私はそんな愛情表現御免よっ!」

 

 「そんな事より、エルザの水着はどうロボか?」

 

 扇情的な声で囁き、エルザは胸を強調するモデル・ポーズを取った。

 スポーツタイプのビキニに、抜群のプロポーション。

 彼女がアンドロイドだと知らない男性ならば、思わず声を掛けてしまうだろう。

 こうして黙っていれば、文句無しに美少女なんだけど―――

 

 「濡れたロボ?」

 

 「ちょっとは言い方ってもんを考えなさいっ!」

 

 「エェェェルゥゥゥザアアアアアアァァッッ! こ、このようなふしだらな輩と馴れ合ってはいかんのであーるっ! こいつは根っからのウツボカズラですよモウセンゴケですよフクロユキノシタですよ!? 男も女も老いも若いも騙しに騙してそのカラダを貪り尽くした後は四肢を落として達磨さんが転んだ状態にした挙句、頭からバリバリとォォォォォ!」

 

 私は食虫植物かこの野郎。

 というか、何で私の周りは私を異常性犯罪者に仕立て上げようとする人間ばっかりなのよ。

 

 「うおおおおのれぇぇぇぇぇぇ! 愛しのエルザの貞操は、我輩が守ってみせるのである! 出でませい! スーパーウェスト無敵ロボ28號GR2!」

 

 「――――――っ!」

 

 ドクター・ウェストが掻き鳴らすギターの旋律に合わせ、海が打ち震えだした。

 海を荒れ狂わせ、ゆっくりと海面に浮上してくる威容―――破壊ロボ。

 海水浴場は大混乱だ。

 

 (チッ……当然出てくるわよね)

 

 「さあ、いざ征かん! 愛と明日と微笑みを取り戻しにッ!」

 

 「アル! こっちもデモンベインを!」

 

 「いや、待て九淨」

 

 「~~~もうっ! 今度はいったい何よっ!?」

 

 「……アレを良く見てみよ」

 

 「へっ?」

 

 アルが指し示したのは破壊ロボだった。

 それに従い、私も破壊ロボを観察する。

 気付けば先程の大混乱も何処へやら、この海水浴場にいる皆が、微妙な表情で破壊ロボを見ていた。

 

 ―――何とも云い難い、妙な空気での沈黙。

 私は呟く。

 

 「…………………………錆びてる、わね」

 

 そう。

 錆びていた。

 恐らく結構な時間海中に隠されていたと思われる破壊ロボは、完全に錆びていた。

 完全に錆び付いたボディは、最早動きそうにない。

 これでは破壊ロボどころか只のポンコツだ。

 

 「な、なななな何ィィィィィ!? ど、どういう事であるかァァァァァ!? この大天才たる我輩ドクター・ウェストの完璧な計算が狂っていたとでも云うのであるか!? そんな事が……そんな馬鹿な事があってたまるかぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!」

 

 「馬鹿なのは計算以前に防水処理を忘れた博士自身ロボ」

 

 「ノ……ノォォォォォォォォ―――――――――!?」

 

 余りと云えば余りなミスに、崩れ落ちるドクター・ウェスト。

 道に落ちたゴミを見るような視線で、それを見下ろすエルザ。

 そっと視線を逸らす戦闘員たち。

 全身錆だらけで海に佇む破壊ロボ。

 ポカーン、という感じに立ち尽くす海水浴客一同。

 ―――シュールな事この上無い光景だった。

 

 「……で、どうするのだ九淨?」

 

 「……とりあえず元凶を殴っとく」

 

 ―――殴り倒した。

 

 

 

 

 

 「……つまり、アンタ達は関係ないワケ?」

 

 「さ、最初から……そう言っ……て、るでは……ない、か……」

 

 ピクピクと痙攣しているドクター・ウェストを問い詰めてみたけど、返ってきたのは無関係という答え。

 見たところ、隠し事をしている訳でもなさそうだ。

 第一、コイツ阿呆だし、馬鹿だし、隠し事にはトコトン向いていないだろう。

 

 「アル、どう思う?」

 

 「此奴の言う通り、関係はないだろう。漂っている闇の気配は、恐らく旧いものだからな」

 

 「はぁ……そういうことは先に言いなさいよ、まったく」

 

 一気に押し寄せて来た気怠さと徒労感に、思わず肩を落す。

 何かもう、どうでも良くなってきた……。

 

 「……帰る。じゃあね」

 

 「き、貴様……人を……勘違いで……殴り、倒しておいて……謝罪の一つも……無いので、あるか……」

 

 「あっ、ダーリン、待つロボよ! これからエルザと、忘れられない一夏の想い出を作るロボ!」

 

 「引っ付くな機械人形。離れよっ」

 

 「も……燃え上がれ……我輩のハー………………ガクッ」

 

 「ボ、ボスぅぅぅ~~~~~~ッッッ!」

 

 

 

 

 

 結局そのまま日が暮れ、私達はホテルへと戻った。

 

 ―――私たちが泊まっているホテル“ギルマン・ハウス”。

 インスマウス最大級の規模を誇る、覇道財閥経営の超大型リゾートホテルだ。

 一般向けのリーズナブルな部屋から思わず卒倒してしまいそうになる値段の最高級スウィートルームまで、宿泊客のニーズに幅広く対応したこのホテルは、インスマウスに来る観光客の大半が利用する名所でもある。

 レストランやバー、全天候型プールに温泉、果てはアミューズメント施設までもが充実しており、単に宿泊を目的とする客も少なくはない。

 

 そんなホテルのエントランスを潜ろうとした私たちは、穏やかではない雰囲気の現場に出くわした。

 ホテルのガードマンとプラカードを持ったデモ団体の押し問答である。

 プラカードを見てみると―――

 

 “インスマウス、新規リゾート計画断固反対!”

 “豊かな自然を破壊する、覇道財閥の横暴を許すな!”

 “覇道は早くインスマウスから出て行け!”

 

 ―――等々。

 インスマウスは昔、単なる寂れた港町だったという話だし、地元住人とのありがちなトラブルかと思った。

 ただ、それだけなら私も殊更言及しない……のだが。

 

 デモ団体の人々は皆、一様に異様な気配を放っていた。

 どう異様かと聞かれると説明しづらいけど……酷く不安を煽ると云えば良いだろうか。

 とにかく、決して善い気配ではありえなかった。

 

 加えて、彼らの容姿がそれに拍車をかけている。

 丸く大きな目、大きな口、エラが張った顔、極端に小さな耳。

 継ぎ接ぎしたかのような斑模様の鮫肌。

 人様の顔について悪く言うのはアレだけど、まるで人と魚を掛け合わせたかのようなそれは……“半魚人”と呼ぶのがしっくりくる。

 

 彼らに対する不快感が拭い去れず、心の隅に引っ掛かりを感じた私だったが、このまま突っ立っているというワケにもいかない。

 私たちはホテルの中に入った。




※スクール水着
正直、本文にわざわざ出す意味が皆無なのですが……何となく出さないといけない気がしたので。
年代的にないだろうっていうのは、まあ、今更ですよね(言い出したらキリがありませんし)。
前にも書いたような気はしますが、別にスクール水着の一着やブルマの一着で重要な分岐が起きる訳でもないので、あまり気にしないでください。

※被害の度合によってお給金がカット
斬魔or咆哮本編では、確か覇道から貰っている給料に関してどんな感じになっているか言明されていなかった気がしたので(ほんとに気がしただけ)。咆哮DX版同梱のOVAで九郎君が、「ちょっと街を壊したぐらいで、何もギャラを止めることはねーよな」みたいな事を言ってたのでそこから。なんだか某PSゲームを彷彿とさせますね。

※海の家
これもまあ……うん。

※ゴミを見るような視線
実はドクター・ウェストがドMの可能性が……?
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