ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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最近中々ペースが上がらないとです。
あと、今回はすっごく半端な所で切ってます。


第31話

 夜の闇に紛れて長々と続く、奇怪な半魚人達―――インスマウスの住人―――の行列。

 彼等は皆、岬の絶壁に辿り着くと、次々に海へと飛び込んでゆく。

 恐れも迷いも持たず、只々狂信だけを以って。

 

 彼等は皆、何かを唱えている。

 それは“神”へと向けた、異形の祝詞(コーラス)

 

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 

 海中に蠢く、影影影。

 巨大な蛙か、はたまた四肢を持つ魚か。

 ソレは……否。

 ()()は、インスマウスの住人達。

 ヒト非ざるモノども。

 

 彼等が目指すのは、海岸より離れた場所に位置する孤島。

 陸を追い出された彼等の、唯一最後の聖域。

 

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 

 さあ、刻はきたれり。

 我等の海を取り戻せ。

 暗く忌まわしい、心安らぐ臭いに満ちた、あのおぞましき海を。

 

 ―――夜の海に、怨讐の大合唱(リフレイン)が響く。

 

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 “ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っぅ~……どうしてか、今朝はひどい頭痛が……」

 

 「どう考えても二日酔いよ、お嬢様」

 

 「瑠璃お嬢様、お薬をどうぞ」

 

 「二日酔い……そんなに飲んでいたのかしら? わたくし、昨夜の記憶が……」

 

 ―――なんて傍迷惑な。

 この場に居るお嬢様以外の全員が、心の底からそう思ったに違いない。

 

 昨日の大宴会から一夜明け、しかし皆は騒ぎ疲れが抜けていないようだ。

 私とアル、それに執事さんはいつも通りな感じだけど……。

 お嬢様は二日酔い、メイドチームは立ったまま眠ると云う妙技を披露。

 がきんちょどもはまだ夢の中で、ライカさんは朝御飯を食べながら船を漕ぎ。

 さらには、何故かドクター・ウェストとエルザが朝食を共にしている。

 

 (メチャクチャね、まったく……)

 

 とりあえず、ドクター・ウェストを張り倒しておこう。

 

 「ちょ……ちょっとしたオチャメのジョーク添えなのである!」

 

 「アンタがそんなオチャメやっても、可愛さの欠片もないわよ」

 

 「大十字様。少々よろしいですか?」

 

 「ん? ……どうしたの、執事さん?」

 

 突然話を振ってきた執事さん。

 その真剣な表情に、私も姿勢を正して向き直る。

 

 「―――今日未明、港町の住人達が忽然と姿を消しました」

 

 「……何ですって?」

 

 「現在、町の住人は誰一人居ません」

 

 町単位で丸ごと失踪? それとも神隠し? あるいは全く別の……。

 

 (何にしても、ただ事じゃないわね……)

 

 「連中が動いたか。九淨。妾等も動くぞ」

 

 特に驚いた様子もないアル。

 ……そう云えばアルは昨日、大方の見当はついたと言っていた。

 ここはしっかりと聞かせてもらおう。

 

 「アル。その連中って云うのは?」

 

 「町の住人どもに決まっておろう。九淨よ。インスマウスで発生した一連の怪事件の犯人は、恐らくこの町の連中とみて間違いない」

 

 「……どう云う事?」

 

 「この地に漂う闇の匂いについては話したな? ―――昨日も言った通り、この海は只の海ではない。この海は邪神の眷属共の領土なのだ。そして、そんな地で旧くから伝わる土着宗教……つまり邪神崇拝だ。何故今頃動き出したのかまでは分からんが、何か良からぬ事を為出かすつもりなのは間違いあるまい」

 

 「なっ……!? 貴女、そんな大事なことを、何で今まで黙っ……痛ッぅぅぅ~……」

 

 声を荒げようとしたお嬢様が、突然額を押さえて蹲った。

 嗚呼……二日酔いで大声出そうとするから。

 

 「まあ、そう言うな。妾も連中が動くのを待っていたのだ。……執事よ、この近辺で連中が祀っていた神殿か何かに心当たりはないか?」

 

 「1つだけ。海岸から離れた場所に孤島が存在しているのですが、其処にインスマウスの地元住民が祀った怪しげな神殿があった筈です」

 

 「ふむ……十中八九それであろうな。船の用意を頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は覇道の用意したクルーザーに乗り込み、沖合いにある目的の孤島へと向かっている。

 

 海は時化。

 空には分厚い雨雲が立ち込めており、なんとも嫌な雰囲気を感じさせる。

 

 「……あの島で間違いないな。忌々しいまでの腐臭に、暗い昏い闇の気配。かなり大規模な儀式を行っているらしい」

 

 アルは腕を組み、島を睨みつけながら言う。

 私も、進路の先の方に見える島を見据える。

 

 「……厭な空気ね、ホント。急がないといけない……って」

 

 そこで、私は視線を横に向ける。

 其処には水着姿―――まあ、私もアルも動きやすさ重視と云う事で水着姿なんだけど―――のお嬢様がいた。

 

 「なーんでお嬢様まで乗ってるのよ?」

 

 「うぅっ……わ、わたくしは……覇道財閥の総帥です。インスマウス……の開発を進めている者としても、貴女に仕事を依……頼した者としても、事件を……っ最後まで、見……届ける、責任と云うものがあるでしょう? ……うぷっ」

 

 「言いたい事は分かるけど……二日酔いに船の揺れはキツイでしょ」

 

 酔い×酔い。

 時化の海を進む船の揺れによって倍加された酔いに、お嬢様は完全にグロッキーだ。

 

 「……やれやれ。少し考えれば、足手纏いになるだけだと分かりそうなものだが」

 

 「そこ、お黙りなさ……うぇぷっ……!」

 

 「ちょっ! ここで吐いちゃダメダメっ!」

 

 しかし……凄い人だ。

 先日の覇道邸襲撃の件があったと云うのに、こうして自らの信念―――正義を貫き続けている。

 普通の女性ならあんな目にあった後で、こうはいかないだろう。

 私も同じ女性として、その強さを見習いたいものだ。

 ……今の状態は見習いたくないけども。

 

 今回は、アンチクロスと引き分けた執事さんが付いている。

 お嬢様の身に危険が及ぶということは、ほとんど無いだろう。

 ならばここは、過度な心配は止めて、自分の仕事に集中するべきだ。

 

 「あらあら、瑠璃さん。大丈夫ですかぁ~?」

 

 (……………………ん?)

 

 今、此処にいる筈の無いシスターの声が聴こえたような……。

 幻聴だったら良いなと思いつつ、声の方を向く。

 

 「九淨ちゃん。やっほー」

 

 「………………何でよ」

 

 ライカさんだった。

 どう見てもライカさんだった。

 何で此処にいるのかサッパリ分からないけど、とにかくライカさんだった。

 

 「何で此処にいるのよ、ライカさん!?」

 

 「えっ? その……えーと、ね? ……九淨ちゃん、私に内緒でどこか遊びに行くのかと思ったから、付いてきちゃったっ☆」

 

 「付いてきちゃったっ☆ ……じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」

 

 そんな可愛らしい態度で誤魔化そうったって、そうは問屋が卸さないわよ!

 大体昨日も言った通り、私は仕事だって云うのに! 何でこの人は……っ!

 

 「か、勝手に付いてきたのは謝るけど……そんなに怒らなくてもいいでしょぉ……?」

 

 ……とりあえず、お嬢様だけなら兎も角、そこにライカさんまでもとなると危険だ。

 ここまで来て引き返すのは少々手間だけど、ライカさんの身の安全には代えられない。

 

 「執事さーんっ! 悪いけど、一旦引き返して……」

 

 船室で舵を取る執事さんに呼びかけようとした―――その時。

 前触れもなく、クルーザーを激しい揺れが襲った。

 突然の衝撃に、皆、その場に転倒する。

 

 「くぬっ、何事だ!」

 

 「ウィンフィールド、どうしたのですか!?」

 

 「分かりません! 船底に何かが……」

 

 再びクルーザーを襲った激しい揺れに、執事さんの言葉が中断される。

 同時に、海に何本もの水柱が上がった。

 海中から何かが飛び出し、甲板へと着地。

 海中から現れたそれらは―――インスマウス面の人間だった。

 

 「港町の連中……!?」

 

 私たちが驚いている目の前で、連中に怪異が起きた。

 体が異常に盛り上がり―――否。

 巨大化し始めた。

 着衣を突き破るほどに巨大化した連中の鮫肌は、鱗に覆われていた。

 張っていたエラは本物のエラに。指の間には水かきが。

 さらには体色が、みるみる内に灰色がかった緑へと。

 

 昨日、連中を半魚人と称していたけど……どうやら少し訂正した方がよさそうだ。

 なぜなら目の前の状態より、遥かに人間らしい風体だったのだから。

 今、この状態の連中をこそ―――半魚人と呼ぶべきだろう。

 

 「きゃあああああっ!」

 

 「なっ……! いったい、何なんですの!?」

 

 「此奴等、“深きものども(ディープ・ワンズ)”の血を引いておる」

 

 アルの言葉に、自分の記憶から知識を掘り起こす。

 

 ―――深きものども。

 半人半魚の怪物の総称だ。

 異種交配―――それも主として人間相手―――を好み、異形の血を残す。

 その血を継いだ子孫は成長と共に変異し、最終的には深きものどもとなって深海の仲間入りをする。

 ……ちょうど、目の前の連中のように。

 

 「蛙のような不気味な生物の群れが出現する……か。正にコイツ等の事ね」

 

 周囲を確認する。

 甲板上には、私たちににじり寄る半魚人ども。

 海面に目を向ければ、怪しげな影影影。

 

 (……完全に囲まれてるわね)

 

 「……アル」

 

 「うむ」

 

 マギウス・スタイルに変身し、身構える。

 

 「お嬢様、ライカさん。私の側から……」

 

 離れないで、と続けようとしたところで……揺れと共に、船体が大きく傾いた。

 次いで、船室から執事さんが叫ぶ。

 

 「―――船底に穴を空けられました! このままでは沈みます!」

 

 「ク……ッ!」

 

 「そ、そんなっ!?」

 

 「ええっ!?」

 

 やられた……!

 船を沈め、海と云う自分達に有利な場所に引き摺り込むつもりだろう。

 このままじゃマズイ。

 

 「ッ!? 九淨!」

 

 「…………ッ!?」

 

 歯噛みする私に、アルの鋭い声が飛んで来た。

 

 そして気付く。

 クルーザーのエンジンルーム―――らしき場所―――から、黒煙が上がっている事に。

 

 「ヤバ……っ!」

 

 「九淨ッ!」

 

 「く、九淨ちゃんっ!?」

 

 「きゃああああ!」

 

 「瑠璃お嬢様っ!」

 

 全ては一瞬だった。

 間近で起こった爆発に、視覚も聴覚も奪われてしまう。

 爆風で身体が吹き飛ばされ、私たちは海へと投げ出された……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……九淨……九淨……」

 

 身体を揺すりながら、私の耳元で呼びかける誰かの声。

 

 「九淨……起きよ、九淨!」

 

 それは私の良く知る―――アルの声だった。

 それを認識した私は、ゆっくりと瞼を開く。

 

 「ん……っ……」

 

 「気がついたか、九淨」

 

 「ええ……」

 

 倒れていた砂浜から上体を起こし―――マギウス・スタイルは解けていた―――軽く頭を振る。

 

 「……ここは?」

 

 「目的地の孤島だ。運良く流れ着くことが出来た」

 

 砂を払いながら立ち上がり、周囲の地形を見渡す。

 なるほど、確かに目的地に間違いないみたいだ。

 そして見渡した際に気付いたけど……この場には私とアルだけ。

 他の三人の姿は無かった。

 

 「……アル。他の皆は?」

 

 「逸れてしまったようだ」

 

 「―――ッ!」

 

 幸か不幸か、クルーザーの爆発で深きものどもから逃げられたのだとは思うけど……皆は無事だろうか?

 状況が状況なだけに、とても楽観視出来ない。

 焦燥が身を焦がし、居ても立っても居られなくなる。

 

 「落ち着け。一応、命の心配だけは無かろう……見よ」

 

 そう言ってアルが手を差し出す。

 その手に握られていたのは、以前使っていたダウジングの紐だった。

 先端の重石が、ある方角を指し示している。

 

 「三人の気配を探ってみた結果だ。反応はしている」

 

 「なら、生きてるってコトね!?」

 

 「うむ……だが、あくまで“生きてはいる”と云うだけだ。どんな状況に置かれているかまでは分からん。早急に向かう必要があるだろう」

 

 「……急ぐわよ、アル!」

 

 「応っ」

 

 私はマギウス・スタイルに変身し、ダウジングが指し示す方角―――鬱蒼と生い茂る森へと飛翔した。

 

 森を突っ切る途中、雨が降り出した。

 

 「……嵐になるぞ」

 

 アルがぽつりと呟きを洩らす。

 

 「分かるの、アル?」

 

 「この孤島を覆う闇が、嵐を喚んでいるのだ」

 

 流石に嵐に身を晒すのは御免蒙りたい。

 さらにスピードを上げ、飛翔。

 

 不意に、森が開けた。

 視界に入ってきたのは、巨大な石造りの神殿。

 腐食した壁面を覆う苔と蔦が途方も無い歳月を感じさせ、半ば周囲の緑と一体化した神殿の荘厳さを引き立てている。

 

 「あれが……執事さんの言っていた神殿かしら?」

 

 ダウジングに目を向けると、この神殿の入り口、その奥を指し示している。

 

 「この中……か」

 

 「……深きものどもに囚われていたら、事だな」

 

 「ッ……!」

 

 もし、お嬢様やライカさんが連中に捕まっていたら。

 最悪の状況を思い浮かべ、思わずギリッ……! と歯軋りをする。

 

 神殿の正面に着地。

 入り口の脇へと移動し、中の様子を窺う。

 ……暗い暗い、濃密な闇が広がっている。

 詳しい様子を知るためには、中に入るしかなさそうだ。

 

 「……行くわよ、アル」

 

 「ああ。充分に用心しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中を足下に注意し、しかしなるべく速く進んでいく。

 しばらくして目が暗闇に慣れてきた。

 進みながら、周囲を確認する。

 

 視界に入ってくるのは、奇怪なデザインの彫刻や吐き気を催すような不気味な壁画ばかりだった。

 現代美術を遥かに凌駕するような構成でありながら、こうもおぞましいものが出来るのかと、ある意味関心する。

 そこに込められた狂気は現在に至るまで一切の衰えを見せず、今も猶、周囲を穢して穢して穢し続けている。

 

 「邪神信仰……か。どう考えても、真っ当な神様じゃないわよね」

 

 「あまり見ない方が良いぞ。魅入られ、気が触れる」

 

 「ええ、分かってるわ」

 

 私は頷き、さらに奥へと進んでいく。

 

 邪気に満ちた神殿の空気は、生温く生臭い。

 加えて、甘い匂いが混じっていた。

 大規模な儀式……とアルが言っていたから、恐らく呪術的な香だろう。

 先に進むにつれ香の匂いはキツく、より強烈になっていく。

 その濃度は、視界が若干桃色に煙って見えるほどだ。

 

 「……キツイわね、これ」

 

 空間を満たす濃密な匂い。

 私は若干の息苦しさを覚えると同時に、妙に興奮していた。

 

 (真逆麻薬……とかじゃないわよね)

 

 「……九淨」

 

 「…………」

 

 足を止め、前方に意識を凝らす。

 感じたのは明らかな敵意だ。

 煙の向こうから、2つの大柄な影が近付いてくる。

 

 「……連中かしら?」

 

 「否……連中の匂いではない」

 

 アルの言葉通り、煙の向こうから現れた2人はインスマウス面ではなく、屈強な男だった。

 しかし、2人の瞳は光を宿さず、ただ私を見下ろしているだけ。

 

 その時、2人の敵意が膨れ上がった。

 身構える私。

 そして2人が―――

 

 「――――――ッ!? な、何よこれッ!?」

 

 ―――内側から引き裂かれた。

 内部から蠢く触手が溢れ出し、ヒトの皮を破り棄て、その本性を現す。

 その姿はまるで、人間と蛸を掛け合わせたようだった。

 

 「落とし子!? ―――否、違う。魔術的な痕跡からして、造られた闇の眷属もどきか!」

 

 「造られた……どう云う事?」

 

 「錬金術の業だろう。……深きものどもがそんな技術を持っているとは思えん。裏で糸を引く者がいるようだ」

 

 「こんな事が出来るほどの錬金術……まさかブラックロッジの連中!?」

 

 「恐らくはな」

 

 「っ……あッの○○○○!」

 

 「いや、この弄り方からして奴の仕業ではなかろう。全くの別系統だ。……来るぞ!」

 

 合成生物―――蛸怪人が奇声を上げ、襲い掛かってくる。

 見た目を裏切る俊敏な動きで間合いを詰め、太い触手を振り下ろしてきた。

 

 「チッ……!」

 

 後ろに跳んで触手を躱す。

 そこに、もう一匹の蛸怪人が複数の触手を伸ばしてきた。

 私を捕らえようと迫る触手ども。

 

 「マギウス・ウィング!」

 

 刃状に変化させた黒翼を連続で振るい、迫る触手を切り落とした。

 床に落ちた触手が、緑色の血を流す。

 

 「もう一撃!」

 

 バルザイの偃月刀を招喚。

 右手でしっかりと掴み、一閃。

 蛸怪人の残った触手を切断した。

 

 しかし自らの一部を斬られたはずの蛸怪人は、それを一切気にしていない様子だ。

 

 「―――!?」

 

 蛸怪人の咆哮。

 その咆哮と同時に、斬られた全ての触手が一斉に生え変わった。

 

 「……はぁ。そういう事ね」

 

 これだから化け物って云うのは……まったく。

 

 「斬撃はあまり効果的ではないようだな」

 

 「……それならっ!」

 

 再び襲い来る触手を、前傾姿勢で掻い潜る。

 一気に蛸怪人との距離を詰め、偃月刀を蛸怪人の顔面へと突き刺した。

 

 「ハアァァァァッ!」

 

 両手で偃月刀を握り締め、魔力を注ぎ込む。

 刀身が灼熱し、突き刺さした蛸怪人を燃やしてゆく。

 絶叫を上げる蛸怪人に、さらに刃を捩じ込む。

 やがて絶叫が途絶え、灼熱の炎は蛸怪人を焼き尽くした。

 

 「……中々アグレッシブな戦い方をするようになったな」

 

 「ま、御蔭様でね! あと一匹……ッ!」

 

 残る一匹の触手が伸びてくる。

 偃月刀で素早く切り落とし、本体との距離を詰める。

 

 「そこだっ!」

 

 偃月刀を振りかぶり、蛸怪人に突き刺そうとする……が。

 

 「……ッ!? 九淨!」

 

 「な――――――ッ!?」

 

 ほんの一瞬の隙だった。

 蛸怪人は口から桃色の煙を吐き出し、私はそれをモロに浴びてしまう。

 むせ返るような甘い匂いは、この神殿に満ちた匂いを何十倍にも濃密にした匂いのようだ。

 慌てて息を止めたものの、時既に遅し。

 すでにかなりの量を吸い込んでしまった。

 

 それでも何とか、偃月刀を蛸怪人に叩き込む。

 一気に魔力を流し込み、先程と同様に蛸怪人を焼き尽くした。

 

 「っ……あぁ……」

 

 蛸怪人が燃え尽きるのを見届けた私は、その場に尻餅をついた。




R-15って何処までやっていいんでしょうかね……?
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