ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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ぐぬぬ……本格的にペースが上がらない。
何か息抜き的なものを考えるべきだろうか。


第35話

 此処は祭壇にして玉座。

 インスマウスから戻ってきたウェスパシアヌスは、玉座の間にてマスターテリオンへの報告を行っていた。

 

 「……以上が、インスマウスで行った実験についての報告になります。如何です、大導師殿?」

 

 ウェスパシアヌスの報告に、満足げに頷くマスターテリオン。

 足下に寄り添うエセルドレーダを撫でながら、“ルルイエ異本”を受け取った。

 

 「うむ……大儀であったぞ、ウェスパシアヌス。これで我々ブラックロッジの計画は、最終段階に入ったと言っても過言では無いだろう。この“ルルイエ異本”に貴公等アンチクロスの力が有れば……余の悲願達成も、もう間も無くだ。余は良き家臣に恵まれた、ウェスパシアヌスよ」

 

 「はっ! ありがたきお言葉、大導師!」

 

 其処に、横に控えていたアウグストゥスが進言した。

 

 「しかしながら大導師。“アル・アジフ”は未だ連中の手にあります。このまま計画を進めると云う訳にはいかないかと」

 

 アウグストゥスの言葉に、マスターテリオンは妙な頷きを返した。

 まるで、“アル・アジフ”の有無は些細な問題であるかのように。

 そして、気怠げな声で答えた。

 

 「ああ……そう云えば、そうだったな」

 

 「……大導師?」

 

 「もう少しばかり、泳がせておけ」

 

 「なっ!? お、お言葉ですが星辰の日は―――」

 

 「分かっている。そう急がずとも良い」

 

 これには、流石に不審の表情を隠しきれないアウグストゥスとウェスパシアヌス。

 そんな2人に、マスターテリオンは笑みを浮かべた。

 

 「“ルルイエ異本”の力―――」

 

 次いで短い呪文。

 少年の前に、“ルルイエ異本”の少女が顕れた。

 

 「らぁ……ら?」

 

 「余の予想以上であった。此れならば“アル・アジフ”無しでも、計画を遂行できるだろう」

 

 言って、少女を抱き寄せる少年。

 足下のエセルドレーダの瞳に、ほんの僅か、黒い炎が灯った。

 

 「し、しかし大導師……“アル・アジフ”の記述はこの計画の―――」

 

 「後は、そう―――」

 

 アウグストゥスの言葉を遮り、金色の瞳で2人を見遣るマスターテリオン。

 その瞳に射抜かれたアンチクロスの2人は、思わず身を竦ませた。

 

 「アンチクロス―――つまり、貴公等の力量次第だ」

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 「そう心配することもあるまい。“巫女”、そして中枢ユニットは我々の手に有るのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターテリオンへの報告を終え、ウェスパシアヌスは自室へと戻っていた。

 

 気品高い欧州風の調度品で纏められた部屋は一見、貴族の住居にも見える。

 しかし、それらに混じる瓶詰めやホルマリン漬けが、部屋の異常さを物語っていた。

 蜥蜴/蠍/毒虫/ヒトの臓器/ヒトならざるモノの臓器/おぞましい肉片、等々(エトセトラ)

 さらに本棚には様々な魔導書。

 床には複雑怪奇な魔法陣。

 そしてそれらを照らす、妖しげなランプの灯。

 

 優雅であり不気味でありどちらでもありどちらでもない。

 不釣り合いなものが、何故か奇妙な調和をみせると云う渾然一体。

 不自然過ぎて、逆に違和感が存在しなくなる―――そんな、ある意味芸術的な部屋であった。

 

 そんな奇妙な部屋で、ウェスパシアヌスは先程の事を思い返す。

 

 (計画を完璧なものにするはずの、“アル・アジフ”に対してあの対応……)

 

 正直、疑問を持たざるを得ない。

 あれではまるで、最初から計画に入っていないかのようだ。

 

 “ルルイエ異本”、“巫女”、中枢ユニット、そして“アル・アジフ”の知識。

 それらを以って、計画は完璧となるはずなのだが……。

 

 (アウグストゥスも、大分不信の念を抱いているようだ……はてさて)

 

 思案しながらワインセラーへと向かい、お気に入りの一本を取り出した。

 栓を抜けば、広がる甘い香り。

 大き目のグラスに、ゆっくりと注ぐ。

 

 「『これは罪が許されるよう、多くの人の為に流す私の血、契約の血である』。―――君も一杯どうかね、サンダルフォン?」

 

 『お前が聖書の一節を読み上げるか……獣の王冠よ』

 

 部屋の隅の暗闇から、機械を通した声が応えた。

 ゆっくりと歩いてくる、黒の天使。

 

 『そも、己に酒など無意味だ。知らぬはずはあるまい』

 

 「嗚呼……酒を愉しむ事が出来んとは、この上ない悲劇だ。なんと、なんと可哀想なサンダルフォン。……おや? 元はと言えば私のせいだったか」

 

 『どうでも良い。麻薬に煙草、そして酒。毒による機能低下を愉しむ人間の気が知れん』

 

 「ふむ……憎しみこそは、この酒の様に甘い毒では?」

 

 『…………』

 

 空気が、一瞬で凍結した。

 殺意染みた視線を向けるサンダルフォン。

 対するウェスパシアヌスは、その視線を涼しい顔で受け流している。

 

 「私が(これ)を止められないように、憎悪(それ)が君にとっての極上の酒と云う事だ」

 

 『……己を酒の肴にする為に呼びつけた訳ではあるまい』

 

 「む……いやなに、正直そのつもりだったのだが」

 

 グラスの中のワインを呷る。

 飲み干したところで、ウェスパシアヌスは続けた。

 

 「ふむ。では……仮に君がメタトロンを仕留めたとして、その後はどうするのかね?」

 

 『お前には関係無い』

 

 応える黒の天使は、微塵も揺らがない。

 其処にあるのは、己を覆う黒の仮面。

 そして―――

 

 『後も先も無い。己は、メタトロンを殺す―――それだけだ』

 

 狂気の領域へと達した、鋼の意思。




ワイン飲んだことないから、さっぱりとです。
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