ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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1と2を足した文字数より多くなりましたよ3。1~3の合計約1万8千字。
結果論ですけど、分割したのは正解だったかなと思います。


あるフォト・ジャーナリストの体験:3

 “覇道財閥総帥”へのアポ無し突撃取材。

 入手したモノと場所から考えて、普通の取材では通らないだろうと考えた私は、少々強引な手段を執ることにした。

 

 「止めた方が良いと思うんだけど……」

 

 そう言って後込みする九淨を説得し、私は“覇道財閥総帥”の邸宅―――覇道邸まで案内してもらった。

 今は、その覇道邸の巨大な正門が見える物陰に隠れている。

 

 「ん。来たわよ、リリィ」

 

 九淨の指し示す方向に視線を向けると、一台のリムジンが正門に近づいてきた。

 リムジンは正門前で停まり、中から二人の人物が降りてくる。

 一人は如何にも執事と云う男性、そしてもう一人は―――

 

 「子ども……?」

 

 そう、まだ二十歳になるかならないかと云う少女だったのだ。

 

 訝しげな私の言葉を耳にした九淨は、軽く説明してくれた。

 

 「そ。あの如何にもお嬢様って感じの子が、貴女の会いたがっていた“覇道財閥総帥”―――覇道瑠璃よ」

 

 成程。

 覇道総帥は乗っていないんじゃないかと心配したけど、杞憂だったようだ。

 彼女が覇道総帥だと云うのなら、私のするべきことは一つだけ。

 

 「あっ! ちょっと、リリィ!?」

 

 私は九淨の制止を振り切って物陰から飛び出し、覇道総帥へと駆け寄った。

 

 「覇道総帥!」

 

 こちらに気付いてもらうため、声を張り上げる。

 しかし次の瞬間、私の目の前に執事が立ちはだかっていた。

 

 「失礼ですが、面会のご予約は?」

 

 「い、いえ。ありません……」

 

 「では、お引取りを」

 

 見事にお引取り願われてしまった。

 しかし、ここで引く訳にはいかない。

 私は何とか食い下がろうと言葉を探す……すると、意外なところから助けが入った。

 

 「構いません、ウィンフィールド」

 

 救いの手を差し伸べてくれたのは、なんと覇道総帥だった。

 とりあえず話は聞いてもらえるようだ。

 

 「貴女は?」

 

 「デイリー・アーカムの記者です」

 

 「記者の方ですか……それで、わたくしに訊きたい事と云うのは何でしょう?」

 

 私は一呼吸置き、質問を投げ掛けた。

 

 「“覇道財閥”と“デモンベイン”の関係についてです」

 

 「“デモンベイン”……?」

 

 怪訝そうに聞き返す覇道総帥。

 私は構わず続ける。

 

 「“デモンベイン”は“覇道財閥”で造られたと云う噂ですが……それは本当ですか?」

 

 かなり真相に迫ったと思う、私の質問……だけど。

 

 「そうなのですか、ウィンフィールド?」

 

 「いいえ、そのような事業は行っておりません」

 

 「聞いての通りです、これで宜しいですか?」

 

 それは、いともあっさりと否定された。

 

 「そ、そんな! 証拠もあるんです! “覇道財閥”でしか作れない、特殊合金の部品が―――」

 

 あの金属を取り出そうと、ポケットに手を入れる……が。

 

 「……え? な、ない……!」

 

 いくらポケットを弄っても、ひっくり返しても、あの金属がない。

 

 「……どうやら、質問は終わりのようですね。予定があるので、わたくしはこれで失礼します」

 

 「覇道総帥!」

 

 踵を返し、敷地内へと歩き去っていく覇道総帥。

 私は引き止める手段を持たず、その背中を見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 「……悪く思わないでね、リリィ」

 

 夕暮の街―――恐らく、新聞社に戻るのだろう―――に消えてゆく背中に、九淨はポツリと呟く。

 彼女の掌には、あの金属。

 リリィが失くしたはずの、特殊合金の部品が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――デイリー・アーカム社、編集長室。

 

 「ボツだ」

 

 編集長の言葉に、食って掛かる。

 

 「どうしてですか!? “覇道財閥”と“デモンベイン”には、絶対何か関係があるんですっ!」

 

 熱くなっている私に、編集長はあくまで冷静に諭した。

 

 「“覇道財閥”に関する記事は、公式発表以外には載せない事になっている」

 

 「そ、そんな……」

 

 あまりと云えばあまりな事実に、私は言葉を失う。

 

 「今、街で怪事件が起きている。“デモンベイン”はもういいから、そっちの事件を追ってくれ」

 

 そしてそんな私に、編集長は忠告した。

 

 「くれぐれも、これ以上“覇道財閥”には近寄るな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――アーカムシティ、某ガード下。

 皇龍というおでん屋の屋台に、私と九淨は居た。

 

 なんでアメリカにおでん屋があるんだろう、確か遠い島国である日本のモノではなかっただろうか?

 

 「“覇道財閥”って、創始者の覇道鋼造が日系でしょ? 現総帥も日系だし、その関係で覇道は日本贔屓なのよ」

 

 当たり前だけど、全部が全部ってワケじゃないけどね。

 そう説明してくれた九淨に、私は納得した。

 

 このアーカムシティは確か、経済的に“覇道財閥”が実質的な支配者となっている。

 ならばその意向で、日本の屋台があってもおかしくはないだろう。

 そもそも、“覇道財閥”なんて云うバリバリの日本名だし。

 

 それに言ってしまえば、今は“飲む”ことが出来れば場所はどこでも良いのだ。

 私は早速、お酒を注文した。

 

 

 

 

 

 「にゃぁによいったぁい! ……ヒック!」

 

 飲み始めて5分、早くも出来上がっていた。

 我ながら早過ぎると思う。

 

 「ぜっらい、うらではどーざいばつがうごいてるんだわ!……おじさん、もーいっぱい」

 

 「良いからもう忘れなさいって、飲み過ぎは体に良くないわよ?」

 

 呆れ顔で私を見る九淨。

 そうは言うものの、今日は飲まないとやってられない。

 私は構わず、屋台のおじさんから手渡されたお酒を呷った。

 

 「そうだ、リリィはどうしてアーカムシティに?」

 

 ふと、九淨がそんなことを聞いてきた。

 お酒の入ったカップから口を離して答える。

 

 「そうねぇ……とかいでひとはたあげたくってってとこかしら。ここぐらいのまちなら、いろんな特ダネにであえるかとおもったんだけど……こんどは特ダネがおおすぎて、しょーばいになんないわ」

 

 「そういうものかしらねぇ……」

 

 九淨は呟き、大きめの竹輪を頬張った。

 私はお酒を飲み干し、テーブルにぐでーっと伸びる。

 

 「ぷぇ……! ぜったい、“デモンベイン”のひみつをみつけてやるぅ……」

 

 「むぐむぐ……んっ。私はオススメしないわ、危険よ」

 

 竹輪を飲み込み、九淨は私に言った。

 無論、そんな言葉で引き下がる私じゃない。

 酔いが回った頭で言葉を選び、返答する。

 

 「じけんをおってれば、だいなりしょーなりきけんはつきものよぉ! ……ヒック!」

 

 そんな私を、黒い綺麗な瞳で、静かに見つめる九淨。

 やがて、少し真剣な声色で言った。

 

 「―――この街ってね……最先端の科学と錬金術の御蔭で、もの凄く発展しているの。けどその発展に比例して、街の“影”の部分も、もの凄く暗いの」

 

 「くじょー……?」

 

 「()()()()()()に……迂闊に近づくべきじゃないわ」

 

 語る九淨の顔は真剣そのもの。

 その真摯な瞳に、私は息を呑んだ。

 

 「……なんてね。仕事なのは分かるけど、極力危ない橋は渡らないように。折角知り合った友人に、怪我なんてして欲しくないわ」

 

 そう、冗談めかして笑う九淨。

 

 ……いつの間にか、私の酔いはすっかり醒めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九淨と別れた私は、しっかりとした足取りで夜の街を歩いていた。

 

 九淨が言った、()()()()()()

 それはつまり、アーカムシティの“影”―――裏の世界と云うことなのだろう。

 

 私が遭遇した怪異である紺碧と真紅の少女。

 あれだけでも、この街の裏と云うものの危険性は充分に分かる。

 しかし、だからこそ。

 私は、アーカムシティの“影”について知らなければならないと思う。

 

 考えながらも迷い無く歩き続け、私は目的地―――あの立ち入り禁止区画の前まで来た。

 愛用のカメラの重さを確認し、決意を固める。

 

 「待っていなさい……!」

 

 そして柵の隙間から有刺鉄線を潜り抜け、私は立ち入り禁止区画へと侵入した。

 

 

 

 

 

 しばらく歩き、二人の少女と遭遇した―――であろう―――場所付近までやってきた。

 何しろ立ち入り禁止区画はほとんど瓦礫の山の上、月明りがあるとは云え夜の暗さなのだ。断言できないのは仕方がないだろう。

 この辺りじゃなかったら、月明りを頼りに彷徨う事になるのだが―――

 

 「―――来た」

 

 どうやら、その必要はなさそうだ。

 呟く私の視線の先、二人の少女が空から降りて来ていた。

 

 紺碧と真紅の服を風に靡かせ、舞い降りる二人の少女。

 蒼い月を背景にしたその光景はとても幻想的で、私は思わず見蕩れてしまった。

 

 私に気付いたのか、二人の少女が暗い緑と血のような赤い瞳をこちらに向ける。

 しかしそれは一瞬で、地面まで降りた二人の少女は跳ぶようにして去っていく。

 

 「待って! 貴女達はいったい……!」

 

 我に返った私は、慌てて二人の少女を追い掛ける……が。

 

 「きゃあ!? な、なにコレぇ!?」

 

 突如上空から、私に網のようなものが覆い被さってきた。

 何とか抜け出そうともがくも、何故かその網から脱出することが出来ない。

 

 そうして悪戦苦闘していた―――そのとき。

 なにやら激しいギターの旋律が聴こえてきた。

 そちらに視線を向けると、ちょっと逝っちゃってる雰囲気な白衣の男がギターを掻き鳴らしている。

 大きなアホ毛と口に付けたピアスが特徴的だ。

 

 「掛かったな“アル・アジフ”の断片っ、略してアル片! 此処で逢ったが―――初めまして。……ワタクシ、こういう者ですが」

 

 そう言って、律儀に差し出された名刺には―――

 

 ブラックロッジ““大天才””科学者

 ドクター・ウェスト

 

 と書かれていた。

 

 「へぇっ!?」

 

 思わず変な声が出た……いや、仕方ないと思う。

 だってブラックロッジと云えば、“悪の秘密結社”だとブレイクから聞いていたからだ。

 その構成員が、こんな○○○○みたいな人だなんて……。

 

 そんな風に頭の中で思っていた私を見た白衣の○○○○は、目をパチパチと瞬かせた。

 次いで、いきなり叫びだした。

 

 「なぁっ!? な、なな、ななななんとおおぉぉぉ!? これは……そんじょそこらに居る……タァァダの人間ではないかァァァ!?」

 

 「決まってるでしょぉ!? 何よアンタ! 早く此処から出して!」

 

 私は○○○○に此処から出すように言うが、どうやら全く聞いていないようだ。

 口に手を当て、なにやら考え込み始めた。

 

 「まさか、大天才である我輩の開発したダウジングマシンに落ち度があったとでも云うのであろうか……? 否! そんなことは有り得ん! 有り得んのであーるっ! しからば、今一度チェェェェッッック!」

 

 なんか自己完結したっぽい○○○○は、白衣の中から身長の三倍はあろうかという不気味な機械を取り出した。

 ……いや、色々とおかしい。おかしいけど……まあ、いっか。

 ツッコミを入れたところで、どうにかなるとも思えないし。

 

 こちらに向けられた機械の先端には不気味な目が付いており、その目が私を観察している。

 目は忙しなく動いていたが、しばらくして、何の反応も示さなくなった。

 

 「ななななァーんと反応がないーっ!? まさか、ホントに此奴は人間だーったりなんかしちゃったーりなんかして?」

 

 「当たり前でしょぉ! とにかく早く解放してよ!」

 

 「まあ、誰しも間違いはあるものであーり、間違いながら、迷いながら、傷つきながら! それでも前を向いて生きていくんだなぁ……それが人間なんだなぁ……」

 

 駄目だこの○○○○、全く会話が成立しない。

 

 「―――と、いう訳で! これも何かの縁。お詫びの意味も込めて、改造手術の実験体など……如何?」

 

 「はあ?」

 

 何言ってるのコイツ? という反応をした私は悪くない。

 そんな私の反応を見事に無視しつつ、○○○○は行動に移った。

 

 「そうと決まればァッ! イッツ・ジャァァァンプ! 我輩の作品となる名誉を、今ッ! 貴女に!」

 

 ○○○○は上空へと飛び上がり、私に向かって降下してきた。

 正に○○○○という行動に身を硬くし、思わず瞼をきつく閉じる。

 そして―――

 

 「ぜりゃぁぁぁぁっ!」

 

 「ノアァァァァァァ!?」

 

 聞き覚えのある女性の声と、○○○○の悲鳴が聴こえた。

 次いで、何かが壁に激突したような音と近くで鋭い何かを振るったような音。

 私は閉じた瞼を、恐る恐る開いた。

 

 視界に飛び込んできたのは、私に覆い被さっていた網―――何かに切り裂かれており、網から脱出することが出来た。

 それと、壁をずり落ちてゆく○○○○―――さっきのは、○○○○が壁に激突した音だったらしい。

 そして、私を守るように立つ女性の背中。

 

 「大丈夫かしら?」

 

 女性が振り向く。

 腰まで届く流れるような()()の髪、私を見つめるガーネットのような()()の瞳。

 極めつけはカラダにぴったりとフィットしているボディスーツだ。

 美しいボディラインが浮かび上がり、同じ女性ながら赤面してしまう。

 声からして彼女かと思った私は混乱し、思わず失礼な事を口走ってしまった。

 

 「な、謎の痴女!?」

 

 「ち、痴女……」

 

 女性は何故か、ガックリと項垂れてしまった。

 もしかして気にしているのだろうか?

 だとしたら悪いことを言ってしまった。

 とにかく謝ろうと口を開こうとするが、そこに別の人間―――具体的には、あの○○○○の声が聴こえてきた。

 

 「ぬうううっ、おのれ! 不意打は悪者の専売特許ォ! “正義の味方”にあるまじき行為なり! こうなったら此方は、正々堂々と卑怯な行為で戦うまで……出でよ戦闘員の皆さん!」

 

 ○○○○の声に応じ、全身黒尽くめに覆面を付けて機関銃を手に持った男達が現れた。

 その銃口は一つ残らずこちらに向けられ……って、え!?

 

 次の瞬間、機関銃が一斉に火を噴いた。

 降り注ぐ銃弾の雨に、私は悲鳴を上げて瞼を閉じる。

 しかし、銃弾は一発たりとも私に届くことはなかった。

 

 そーっと瞼を開く。

 銃弾は全て、私の前に立つ女性の足下に転がっていた。

 信じ難い事だが、この女性が何らかの方法で銃弾を防いだのだろう。

 女性に傷ついた様子はなく、平然と男達を見据えている。

 

 「おのれイカしたアンチクショォですなァ! ……あれ? 如何致しました、戦闘員の皆さん?」

 

 突然、○○○○以外の男達が全員地面に倒れた。

 いったい何が……と思ったが、理由はすぐに分かった。

 ―――風、だ。

 

 女性が上空を見上げる。

 彼女には、相手が見えているのだろうか?

 

 「あれは妾の断片、ロイガーとツァール!」

 

 今まで気がつかなかったが、女性の近くを浮かんでいた銀髪のちびキャラが突然言った。

 ―――銀髪? 何か見覚えがあるような気がする……けど、今は置いておこう。

 

 「くっ……!」

 

 私には相手は見えないが、女性はあの風を何とか躱しているようだ。

 

 「こ、こっちに来……ぎゃああああああッッッ!?」

 

 どうやら、躱された風の進路上に立っていたらしい。

 ○○○○は悲鳴を上げながら、アーカムシティの夜空へと消えていった。

 

 「ええぃ……! また面倒な相手ね!」

 

 「“双子のひわいなるもの”とも呼ばれる双子神だ! 風の精に連なる彼奴等の今の形態は、謂わば風そのもの。捉えるのは容易ではないぞ!」

 

 「何とか動きを止めないと……」

 

 動きを止める……?

 それを聞いて、私は昨日の出来事を思い出した。

 

 カメラのフラッシュが焚かれた瞬間、まるで目が眩んだかのように瓦礫の山に突っ込んだ二つの風。

 そして瓦礫の中から現れた、二人の少女。

 つまり二人の少女は、あの風ということで……ならばまたフラッシュを焚けば、あの風をどうにか出来るのではないだろうか?

 

 私は意を決し、カメラを手に執った。

 風がなるべくこちら側を向くであろうタイミングを予測し、カメラを向ける。

 そして―――シャッターを切った。

 

 フラッシュが焚かれ、一瞬の閃光が夜闇を灼く。

 結果は……予測通り!

 風は瓦礫の山の中へと突っ込み、盛大な土煙を上げた。

 

 突然フラッシュが焚かれ女性は一瞬驚いた様子を見せたものの、すぐに行動に移った。

 

 「今よ、アル!」

 

 「応ともよ! ―――接続(アクセス)! アエテュル表に拠る暗号解読! 術式置換! 正しき姿に還れ、我が断章!」

 

 ちびキャラがなにやら呪文を唱えると、瓦礫の中から複数の紙片が舞い上がった。

 紙片はそのまま女性のボディスーツへと吸い込まれてゆき、不思議な輝きを残してスーツと一体化した。

 

 「回収成功だ!」

 

 恐らく、状況は終了したのだろう。

 ちびキャラの言葉に、私は安堵の溜息を吐いた。

 

 「ハァ……」

 

 「ふぅ……大丈夫だった?」

 

 「え、ええ……御蔭で助かりました」

 

 「ん。こっちも助かったから御相子ね」

 

 多分、あのカメラのフラッシュの事だろう。

 微笑む女性につられ、私も笑顔を浮かべる。

 

 「さて、もう夜も遅いし帰り―――」

 

 女性がそこまで言ったところで、いきなり妙な音が聴こえてきた。

 これは……地響きをだろうか?

 何か巨大な質量が移動するかのような音が、段々と近づいてくる。

 地面が地響きに合わせて激しく揺れ出し、立っているのもままならなくなる。

 

 「な、なに!?」

 

 「チッ……! ホントしぶとい奴ね」

 

 女性は吐き捨て、音の方角に視線を向けた。

 私も近くの壁にもたれかかりながら、音の方角に視線を向ける。

 

 「貴女、此処から出来るだけ離れなさい」

 

 「え?」

 

 背後―――立ち入り禁止区画の入り口の方を指し示しながら言う女性。

 どういうことかと私が問い掛ける前に、ソレは姿を現した。 

 

 空をも覆い尽くしそうな巨体―――まるでブリキのオモチャを何の酔狂か、そのまま巨大化したような、人をバカにしたシルエット。

 進路上の瓦礫を粉砕しながら行進してくる破壊の使者。その威容は―――

 

 『ぬおァァァははははははッ!』

 

 ……ドラム缶だった。

 って、このドラム缶は確か“デモンベイン”と戦っていたあのドラム缶!?

 しかもスピーカーから聴こえてきたのは、あの○○○○の声だ。

 

 「早くしなさい! 巻き込まれたいの!?」

 

 ドラム缶を呆然と見上げていた私は、女性の声で我に返った。

 確かにこれは危険だ、早く逃げないと危ない。

 

 「貴女は!?」

 

 女性は確かに強そうだが、あのドラム缶と正面切って戦えるとは思えない。

 心配する私を余所に、女性は不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

 「大丈夫よ! 一応、“正義の味方”って事になってるから!」

 

 答えにもなっていない答え。

 しかし女性は恰も、「あんな鉄屑に負けることなんてありえない」とでも言わんばかりの自信に満ち溢れているように見えた。

 一瞬迷うも、この場に居て私に出来ることは無いだろうと自分を納得させる。

 

 「分かった! ……死なないでね!」

 

 私は女性に背を向け、地響きに足を取られながらも駆け出した。

 

 

 

 

 

 「死なないでね……か」

 

 まあ、あんな奴相手に死ぬ気はさらさらない。

 

 リリィの背中が見えなくなってすぐ、ドラム缶―――というか破壊ロボはかなり近くまで接近していた。

 

 『おのれぇぇぇぃ! またしても我輩の邪魔をしおってぇ!』

 

 「こっちからすれば邪魔してるのはアンタの方よ、ドクター・ウェスト!」

 

 『こうなったら、更なる改良を加えてより強力になった“スーパーウェスト無敵ロボ28號ターボR・FM音源内蔵”の威力で……ギャフンと言わせてくれるわァ!』

 

 『博士……(放送規制用語)見えてるロボ』

 

 すっかりお馴染みのエルザの声によると、どうやら破壊ロボのコクピットの中では、ドクター・ウェストが中々愉快な格好になっているらしい。

 ……誰得よ?

 

 『ぬえぃ!? ……コホン。とにかく! 今日という今日は貴様をミスカトニック川の流れに乗せて、あの世へと永遠にトラベルさせてやるのであーるっ!』

 

 「お生憎様! こちとら予定がギッシリ詰まってて、あの世に行ってる暇なんてないのよ! むしろ代わりに、アンタを逝かせてやるわ!」

 

 ……これぐらい時間を掛ければ大丈夫だろう。

 私はアルに呼びかける。

 

 「征くわよ、アル!」

 

 「うむ!」

 

 ―――瓦礫に埋もれた廃墟の区画に、聖句が響き渡る。

 

 「憎悪の空より来たりて

  正しき怒りを胸に

  我等は魔を断つ剣を執る!

  汝、無垢なる刃―――」

 

 

 

 

 

 「ハァ……ハァ……ハァ……!」

 

 脇目も振らずに全力疾走すること数分。

 私は立ち入り禁止区画の入り口まで辿り着いた。

 

 あの女性は大丈夫だろうか?

 そう思い、立ち入り禁止区画の方を振り返った―――そのとき。

 

 「え……?」

 

 立ち入り禁止区画の上空に、巨大な魔法陣―――のようなもの―――が出現した。

 魔法陣は輝きを増し、収束し、そして―――爆砕した。

 

 「きゃああああ!?」

 

 暴風が吹き荒れ、雷鳴が轟き、瓦礫が舞い上がる。

 魔法陣の地点からは距離があるにも関わらず、かなりの衝撃が伝わってくる。

 思わず瞼を閉じ……大地が激震する轟音を耳にした。

 

 土埃から目を庇いつつ、轟音の正体を見極めようとする。

 遠くで盛大に上がる土煙に目を凝らし―――その威容を認めた。

 

 強大な力を感じさせる、鋼の巨体。

 風に雄々しく靡く、翡翠の鬣。

 輝きを宿す、機械の眸。

 ―――機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)

 

 何故か、そんな言葉が浮かんだ。

 それほどまでに圧倒的な威容、鋼の巨人。

 私は確信した。

 

 貴方が―――

 

 あの場で戦っているはずの女性。

 

 貴女が―――

 

 そして傍にいた、銀髪の少女。

 

 アナタが―――

 

 

 

 

 

 『せやぁぁぁぁぁぁ!』

 

 気合と共に鉄拳を繰り出す。

 破壊ロボへと吸い込まれた一撃は、奴のボディを拳型に穿った。

 

 『ぬおあァッ!?』

 

 グラリと揺らぐ破壊ロボ。

 私は更なる一撃を加えるべく、鉄拳を構える。

 

 『もう一撃ッ!』

 

 再び破壊ロボへと放たれた鉄拳は、しかし奴のアームに受け止められた。

 

 『撃て撃て撃て撃てェェェェぃ!』

 

 至近距離から、破壊ロボの火砲が火を噴く。

 だが、仮にもこちらの装甲は特殊合金なのだ。

 幾多の砲火は、全て装甲に弾かれてゆく。

 

 火器による攻撃の無駄を悟ったのか、破壊ロボは4本ある腕の内の3本のドリル、その中の2本をこちらに向けてきた。

 対するこちらは片手をアームで掴まれているため、防御の手が足りない。

 1本は腕で防ぐも、もう1本が装甲を削り激しい金属音を奏でる。

 

 『おおっ! やはり腕を沢山付けたのはピンポン大正解! 行け、エルザァ!』

 

 『博士、少し静かにするロボ』

 

 『ガーン!?』

 

 いつものコントを聞き流しつつ、思案する。

 

 (さて、どうしようかしら……)

 

 すぐに大破ってことはないけど、このまま削られ続けるのもあまりよろしくない。

 ならば引き剥がして遠距離戦……と行きたいところだけど、そんな武装は所持していない。

 かと云って接近戦だと、状況は変わらないし―――そう考えていたところで、アルの声が飛んできた。

 

 『回収した妾の断片を、呪法兵装に術式編纂した! ロイガーとツァールが使えるぞ!』

 

 『良しっ!』

 

 ナイスタイミングだ。

 思わず口角を吊り上げて応える。

 

 機体の出力を上げ、破壊ロボのアームを強引に振り解く。

 次いで、大きく後方へと跳躍。

 ある程度距離を取り、その名を喚ぶ。

 

 『ロイガー! ツァール!』

 

 私の呼び声(コール)に応じ、顕現(マテリアライズ)する双剣。

 右手には真紅の刃を逆手に、左手には紺碧の刃を順手に、それぞれ構える。

 これだけなら只の双剣だ―――けれど、これは只の双剣じゃない。

 

 ロイガーの柄とツァールの剣先を接続する。

 次いで、ツァールの柄を左手で持ったまま大きく振るう。

 すると高次元的に折り畳まれていた刃が展開し、四枚刃に変形。

 まるで手裏剣のような、巨大な刃と化した。

 

 この形状を見ればもう分かるだろう。

 機体を大きく捻り、前方の破壊ロボを見据える。

 そして奴目掛けて―――渾身の投擲(スウィング)

 

 投擲されたロイガー&ツァールは凄まじい勢いで回転し―――一陣の風となった。

 風は速やかに破壊ロボへと吹き荒れ、奴の4本の腕、その尽くを斬り落として帰還。

 

 『ノオオオォォォォォォ!? 我輩の愛しいドリルゥが!?』

 

 これで向こうの攻撃はほとんど効力がなくなった。

 ロイガー&ツァールの構成を解き、無手の状態に戻す。

 新たに構えるのは、必滅の一撃。

 

 『お嬢様、アレを使うわ! ヒラニプラ・システム、アクセス!』

 

 

 

 

 

 「ヒラニプラ・システム発動、言霊を暗号化、ナアカル・コードを構成せよ!」

 

 「了解! 魔術制御系統にアクセス!」

 

 「ナアカル・コード、送信。術式、解凍!」

 

 

 

 

 

 『ハアアァァァァァァァ!』

 

 超高密度の魔術情報が駆け巡り、術者/魔導書/機体を一体とする。

 

 私は両手で剣指を形作り、印を結ぶ。

 そのまま頭上へと振り上げ、左右へと振り下ろす。

 機体の背後には五芒星形―――“破邪の印形(エルダー・サイン)”が浮かび上がった。

 それに応じて、“銀鍵守護神機関”・獅子の心臓(コル・レオニス)が猛る。

 

 ―――右手を天高く掲げ、叫ぶ。

 

 『光射す世界に、汝ら暗黒、棲まう場所無し!』

 

 『おのれ見す見すヤラレてなるものかァ! エルザ反撃だッ!』

 

 『博士……やっぱりこの世に悪は、栄えないロボ』

 

 『諦め早過ぎィ!』

 

 『渇かず、飢えず、無に還れ―――!』

 

 半ば自棄な感じに突撃してくる破壊ロボ。

 私も口訣と共に踏み込み、迎え撃つ。

 

 『レムリアァァァ・インパクトォォォォォ―――――――――!』

 

 必滅の術式が込められた掌が叩きつけられ、球状結界が発生した。

 術式へと変換された異界の無限熱量が、破壊ロボを―――否、破壊ロボの周囲の空間ごと昇滅させてゆく。

 そして―――

 

 『昇華!』

 

 アルの声を聴き、球状結界から脱出する。

 そして次の瞬間、世界は白い闇に包まれた―――。

 

 

 

 

 

 近くの建物に着地した鋼の巨人。

 腕を組みながら堂々と聳え立つ威容。

 輝く夜明けの光を一身に浴びるその姿は、最早神々しさすら感じさせる。

 

 私はソレを見上げながら、呟いた。

 

 「貴方が―――“デモンベイン”」




ヤバイ。ロイガーとツァール、どっちがどっちか分からなくなってきた。……まあ双子だし、あんまり設定ない(ような気がする)し、細かい事は見逃してください。
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