ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

48 / 76
アーカムの休日、午前。


第36.5話―アーカムの休日・中―

 ―――アーカムシティ、某映画館。

 

 「お嬢様、何を見るかは決まってるの?」

 

 「いえ、こちらに着いてから決めようかと」

 

 「成程……じゃあ、何が良いかしら?」

 

 現在上映中の映画を確認する。

 

 「えーと……“愛する死者”、“レッド・フック”、“鬼ノ哭ク街”、“反逆”、“アーカムストーリィ”、“早春恋唄”ね」

 

 「それぞれどのような映画なのでしょうか?」

 

 「んーとね……最初の二つがホラーで、真ん中二つがアクション、後の二つが恋愛モノね。どれか気になるタイトルはある?」

 

 「そうですね……ホラーは何というか、素直に楽しめなさそうですし……恋愛モノとアクションでしたら、わたくしはアクションを」

 

 ホラーは……まあ、確かに。

 だって私達が戦っている相手が、正にホラーだし。

 恋愛モノを選ぶかと思ったけど、実はアクションとか好きなのだろうか―――ちょっと意外な感じだ。

 

 「OK、アクションね。どっちが良い?」

 

 因みに“鬼ノ哭ク街”は、近未来の上海を舞台にしたサイバーパンク。

 “反逆”は、近未来のSFガンアクションだ。

 

 「では、“反逆”を」

 

 「ん、分かったわ。……すみません、“反逆”を女性二枚」

 

 料金を支払い、二枚のチケットを受け取る。

 片方のチケットを、お嬢様に手渡す。

 

 「はい、お嬢様。それじゃあ行きましょうか」

 

 「はい!」

 

 元気の良い返事を返してくれるお嬢様。

 その姿を微笑ましく思いつつ、私たちは館内へ入場した。

 

 

 

 

 

 『計算により最適の攻撃位置(マキシマム・キルゾーン)を弾き出し、最大限に銃を活用することによって最多の敵目標(マキシマム・ナンバー)に対する最大威力の攻撃(マキシマム・ダメージ)を可能とする。それは正に死の舞、未来予測に近い計算能力が可能にする銃舞(ガンブ)だ』

 

 (カッコイイ……)

 

 映画だからフィクションと云うのは重々承知だけど、あの動きには魅せられるモノがある。

 ……案外、マギウス・スタイルでアルのサポートがあれば出来たりしないだろうか?

 いや、そもそも銃がなかった。残念。

 

 (ん? 銃?)

 

 銃といえば前にアルが、クトゥグアの力は専用の呪法兵装―――銃で制御していたと言ってたような。

 けれど、インスマウスでソレを使わなかったと云うことは……使用に問題があるか、既に失われたか―――恐らくは後者―――といったところだろうか。

 結局駄目だった。残念。

 

 (そういえば……)

 

 こんな感じで私は楽しめているけど、お嬢様はどうだろうか。

 ふと気になって、視線を隣に向ける。

 

 「…………」

 

 心配することもなかったみたいだ。

 視線は食い入る様にスクリーンに注がれているし、何よりも凄く楽しげな表情()をしている。

 

 映画上映中の暗がりの中なので、実際に表情が見えている訳じゃない。

 それでも、そんな雰囲気をお嬢様から感じた。

 

 『それでも……それでも私を殺すのか!』

 

 『ああ……勿論だ!』

 

 そろそろクライマックスな感じになっているので集中しよう。

 私はスクリーンに視線を戻し、意識も映画へと戻した。

 

 

 

 

 

 「んっ……んーっ!」

 

 映画館から出たところで、大きく伸びをする。

 映画を見たのは随分と久し振りだけど、やはり見終わった後の何とも言えない達成感と暗い空間からの開放感は、長時間座っていた疲労感と相俟って大きいものだ。

 

 「どうだった、お嬢様?」

 

 隣を歩くお嬢様に、映画の感想を聞いてみる―――まあ、聞くまでも無いような気もするけども。

 

 「はい! とても楽しめましたわ!」

 

 「そう、それは良かったわ」

 

 答えるお嬢様は、本当に満足そうだった。

 

 「あの動きをデモンベインに取り込めば……戦闘力は少なくとも120%上昇するはずです!」

 

 ……うん。

 お嬢様が満足そうで、何よりです。

 

 「そうは言っても、デモンベインに銃は無いわよ?」

 

 「大丈夫です、我が覇道財閥が総力をあげて造ります!」

 

 何やら新兵器の開発が決定してしまった。

 どうせなら、クトゥグアの制御用の銃を造ってもらう様に後で頼んでみよう。

 覇道財閥の科学力をもってすれば、ある程度実用に耐え得るモノが出来るはずだ。

 

 「そ、それより次は確かお昼よね? 何処で食べるの?」

 

 「あら、そういえばそうでしたわね。えっと、昼食は確か……」

 

 お嬢様はメモ帳を取り出して捲ると、何度か頷きつつ私に答えた。

 

 「……大十字さんにお任せしますわ」

 

 「え、私?」

 

 「はい。夜はわたくしの方で予約を取らさせていただいておりますので、昼食は大十字さんにお任せしたいと思います。……駄目でしょうか?」

 

 「や、別に駄目ってことはないけど……」

 

 弱った。

 今日一日エスコートすると決めた以上、何処かお店に案内するのは良いんだけど……私みたいな下下の人間が行くお店で、果たしてお嬢様は良いのだろうか?

 

 (うーん……)

 

 そうして悩んでいると、一台の移動販売車が目についた。

 見たところ、サンドイッチの類を売っているみたいだ。

 

 (ん、そうね)

 

 変なお店に連れて行くぐらいなら、いっそ外で食べられる軽食の方が良いかもしれない。

 幸い、今日は暑過ぎず寒過ぎず過ごしやすい天気だし。

 

 「よしっ! じゃあお昼買ってくるから、向こうのベンチで待ってて!」

 

 「え、買って来る? ちょ、ちょっと大十字さん?」

 

 何故か困惑気味なお嬢様の声をスルーしつつ、私は昼食を買いに向かった。

 

 

 

 

 

 「お待たせ、お嬢様」

 

 指示されたベンチに腰掛けて待っていると、大十字さんが戻ってきた。

 手には大きめの包みとドリンクを、それぞれ二つずつ持っている。

 

 「いえ、大丈夫ですが……それは?」

 

 「そこで売ってたサンドイッチよ。天気も良いし、折角だから外で食べようと思ってね」

 

 ―――屋外で食事をとる。

 どうしよう、そんな事はしたことがない。

 何か特別なマナーが必要だったりするのでしょうか。

 

 「はい、お嬢様の分」

 

 手渡される包みとドリンク。

 ドリンクの方は普通のホットコーヒーみたい。

 続いて包みを開けてみる―――随分と大きなサンドイッチだ。

 

 「どんなのが良いか分からなかったから、とりあえず私と同じサンドイッチにしたけど大丈夫?」

 

 「は、はい。ですが……」

 

 「ん?」

 

 「これはどうやって食べるのでしょうか?」

 

 このサンドイッチはトーストされたパンを三段重ねにしており、間にベーコン・ターキー・トマト・レタス、そしてマヨネーズ―――所謂クラブハウスサンドのレシピだ―――が挟まれている。

 その大きさ足るや下手に扱えば崩れてしまいそうで、何か食器を用いるのだろうと大十字さんに聞いてみたのですが……。

 

 「どうって言われても、普通に手で掴んで齧り付くとしか」

 

 ど、どうしましょう!?

 このような難敵に、素手で立ち向かわなければならないとは……!

 そもそも、食べ物を手掴みで食べた経験なんてない。

 

 「こんな感じに……あむっ」

 

 そう言う大十字さんを見れば、普通に手で掴んでサンドイッチに齧り付いている。

 ……恐らく、ああやって食べるのがこの場のマナーなのでしょう。

 

 「むぐむぐ……んっ。あ、もしかしてお嬢様、こういう食べ方したことない?」

 

 「ええ、恥ずかしながら……」

 

 「ん、そっか。でも、難しく考える必要なんてないわ。自分の食べたい様に食べれば良いんだから―――ね?」

 

 (自分の食べたい様に……)

 

 「―――分かりましたわ」

 

 意を決し、震える手でサンドイッチを持ち上げる。

 恐る恐る、崩れないよう慎重に口の前まで持ってゆき―――齧り付いた。

 

 「――――――美味しい!」

 

 思わず、そんな言葉が出る。

 

 カリッと焼かれたベーコンと柔らかなターキーに、瑞々しいレタスと爽やかな酸味を与えてくれるトマト。

 絶妙な量で効かされたマスタードと、それら具材をサンドする暖かなパン。

 それ等の調和が齎す味は、美味しいと評するに他ない。

 

 「気に入ってくれたみたいね、良かったわ」

 

 大十字さんの言葉に、サンドイッチをパクつきながら頷く。

 少しはしたない気もするけど、今のわたくしに食事の手を止めるという選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 「御馳走様でした」

 

 かなり大きめのサンドイッチでしたが、いつの間にかぺロリと完食してしまいました。

 付属の使い捨てナプキンで口の周りを拭き、コーヒーを飲む。

 

 「ん、御馳走様っと。凄い勢いでパクついてたわね、お嬢様」

 

 同じく完食し、ドリンクを飲みながら言う大十字さん。

 その言葉に自分の食べ方を思い出し―――思わず、顔が赤くなるのを感じた。

 

 (子供っぽく思われてしまったでしょうか……?///)

 

 チラリと横目で窺えば、微笑ましげにわたくしを見つめる大十字さん。

 その笑顔に、更に顔が赤くなってゆくのを感じる。

 

 (うぅ……恥ずかしいですわ……///)

 

 そんなわたくしの様子を勘違いしたのか、大十字さんが問い掛けてきた。

 

 「あ、もしかしてコーヒー熱かった? 冷たい方が良かった?」

 

 「え?」

 

 「顔赤いから。今日は過ごしやすい気温だし、あったかい方が良いかと思ったんだけど……」

 

 「い、いえ! そういう訳ではありません!」

 

 折角大十字さんが買ってきてくれたのだ、ホット・アイスなんて問題じゃない。

 それを証明するべく、コーヒーを呷る……が。

 

 「熱ッ!」

 

 焦ってしまい、一気に口に含みすぎてしまった。

 想定外の熱さに慌ててしまう。

 

 「お嬢様、大丈夫!?」

 

 大十字さんは素早く、自分の持っていたドリンクを差し出してくれた。

 急いで口に含むと、どうやらアイスコーヒーみたいだ。

 程よい冷たさと苦味が、慌てていたわたくしを落ち着かせてくれる。

 

 「ふぅ……ありがとうございます、大十字さん」

 

 「いえいえ、どういたしまして」

 

 そうしてアイスコーヒーを大十字さんに返したところで―――ふと気づいた。

 

 ―――あのコーヒーは誰の?

 勿論、大十字さんのものだ。

 

 ―――そもそもコーヒーとはどうするもの?

 当然、飲むものだ。

 

 ―――あのコーヒーが大十字さんのものと云うことは、つまり?

 大十字さんが一度口をつけたもの、と云うことだ。

 

 ―――わたくしはそれを飲んだ、と云うことは?

 間接的な唇の接触……所謂、間接キスと云う行為に該当する。

 

 「ぁ……ぁぁぁ……っ!///」

 

 慌てていたとは云え、自分のした行為に羞恥心が湧き上がる。

 

 「? お嬢様?」

 

 首を傾げてわたくしを見つめる大十字さん。

 わたくしの視線は必然的に、大十字さんの艶やか唇へと向けられ―――

 

 「……きゅう」

 

 あまりの恥ずかしさに、わたくしの意識はそこで途切れてしまった。




※上映中の映画
色々とツッコミどころ満載のラインナップ。

※未来予測に近い計算能力が可能にする銃舞
皆大好きなアレ。ベールさんカッコイイよベールさん。

この時代で近未来とか言ってると凄い違和感が……まあ今更ですかね。
移動販売でクラブハウスサンドとか売ってるのだろうか……まあ細かい事はいつも通り見逃してください。
あと、思わず涎が出てくるような美味しそうな料理の描写が書ける様になりたいです。

九淨 「憎悪の空より来たりて
    正しき怒りを胸に
    我が掌は魔を断つ剣を執る!
    汝、無垢なる刃―――デモンベイン!」

エロ本「来たわね……二闘流!」

騎士殿「おい、待て、貴様等」

もしくはトゥーソードと激しいガ○=カ○を繰り広げるデモンベイン。
……あれ、意外とアリじゃないでしょうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。