ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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大変申し訳ありませんが、諸事情により予定していた―アーカムシティでの一日・後―を丸々カットさせていただく事にしました。
内容的には教会での夕食で、九淨さんのフランスパンとアルのクロワッサンをライカさんがそれぞれ受け攻め想像すると云うかなりピンクィ感じになる予定でした。
中で終わるとかなり中途半端になってしまうのですが、重ね重ね申し訳ありませんがご了承下さい。


番外話:5

 ―――それは、唐突だった。

 

 「んっ……ぅ……」

 

 寝起きということを差し引いても異常に重い体。

 息苦しさと頭痛に加え、毛布が掛かっているはずなのに感じる寒気。

 

 (これって、もしかしてもしかしなくても……)

 

 自身の考えを裏付けるように、喉の痛みと渇きに襲われる。

 

 とりあえず水を飲もう。

 そう思い身を起こそうとして―――突いた手に上手く力が入らず滑り、そのままソファーから落下した。

 

 「つぁっ……!」

 

 鈍い音とともに床に叩きつけられる。

 鈍痛が身を打ち、痛みに呻く。

 

 「むぅ……? なんだ九淨。朝っぱらから―――お、おい! どうしたのだ!?」

 

 先程の落下音で起きたらしいアルが、倒れている私に慌てて駆け寄ってくる。

 

 「アル……悪いん、だけど……起こしてもらえる……?」

 

 すぐさま私を支え、上半身を起こしてくれるアル。

 体に触れたときに異常を感じたのか、次いでアルは私の額に手を当てた。

 

 「……大分熱があるな」

 

 「ええ……風邪、引いちゃったみたい」

 

 そう、私は風邪を引いてしまったのだ―――

 

 

 

 

 

 「けほっ、けほっ。……ごめんね、アル」

 

 「まあ、引いてしまったものは仕方あるまい。さっさと休んでさっさと治す事だな」

 

 とりあえず九淨に水を飲ませ、ソファーへと寝かせる。

 ついでに自然治癒力を高める魔術を掛ける―――これで一日安静にしていれば、明日には治るだろう。

 

 「ええ、そうするわ」

 

 差し迫った状況という訳ではないし、いざと云うときに倒れられても困る。

 ここで無理をさせるよりは、休養に専念するべきだ。

 

 「あっ。……アル。悪いんだけど、替えのシャツと拭く物持ってきてくれる?」

 

 少し咳き込みながら言う九淨。

 恐らく汗を掻いているのだろう、風邪を引いている者にそれは好ましくあるまい。

 

 「分かった。少し待っておれ」

 

 頷き、新しいシャツと手拭を取ってくる。

 一緒にお湯を入れた洗面器も。

 

 「ほら、持って来たぞ」

 

 「ん、ありがと。……えっと、お願いしてばっかりで大変恐縮なのですがもう一つ宜しいでしょうか?」

 

 「む? なんだ?」

 

 主が体調を崩しているのだから、それを看病してやるのも妾の務めだ。

 九淨の改まった物言いに疑問を持ちつつ、言葉を待つ。

 

 「その……ですね……///」

 

 九淨は体をゆっくりと起こし、自らのシャツのボタンに手を掛けた。

 一つ一つ外してゆき、やがて全てのボタンを外すとシャツを脱ぎ―――え?

 

 「体を、拭いていただけたらなと……///」

 

 …………あ、ああ! そうか、そうだな!

 そもそも着替えるために替えのシャツを持ってきたのだし、汗を拭くために手拭を持ってきたのだ。

 ならば今着ている物を脱ぐのは当たり前だな、はは、ははは……。

 

 (妾はいったいナニを考えておるのだ……!)

 

 頭の中の破廉恥な想像を振り払ってから答える。

 

 「う、うむ。任せるが良い」

 

 前科持ちのダンセイニにやらせる訳にはいかない。

 手拭を手に取り、湯に浸して絞る。

 背中から拭くために、九淨には背をこちらに向けてもらう。

 

 「……ええ、よろしく」

 

 九淨は少し寒そうに―――或いは恥ずかしそうに、少し大きめの胸を隠す様にして―――自らの体を抱きながら、こちらに背を向けた。

 それによって、九淨の背中が視界に映る―――多くの傷跡が刻まれた、その背中が。

 

 「…………」

 

 気付いた時には、傷跡の一つに指でそっと触れていた。

 

 「? どうかした?」

 

 動かない妾を不思議に思ったのか、九淨が問い掛けてくる。

 妾はポツリと呟く。

 

 「―――傷跡」

 

 「え? ……ああ、背中のね」

 

 今見えているのは背中だけだが、恐らく全身にあるのだろう。

 

 「んー。アルの魔術のお陰で大体は治ってるけど……近くで見ると目立つかしら?」

 

 九淨は苦笑いして言った。

 

 「やっぱり女性としては少し見苦しいかしらね?」

 

 ―――見苦しい。

 その言葉に、妾は思わず反論した。

 

 「そんな事はない」

 

 「アル?」

 

 「その傷跡は、汝が邪悪と戦ってきた証。その傷跡は、汝が誰かを救った証。―――見苦しくなどない。見苦しい事など、有ろうはずもない」

 

 言って、九淨を背中から抱き締める。

 

 「え、えっ?」

 

 「少なくとも、妾はそう思っておる」

 

 いきなり抱きつかれた事で戸惑っていた様子の九淨だったが、やがて妾の手にそっと触れ、優しげな声で言った。

 

 「ん……ありがと」

 

 

 

 

 

 体を拭き終わった九淨に新しいシャツを着せ、毛布を掛けて寝かせる―――話に時間を掛けすぎて、九淨の体が冷えてしまったのは余談である。

 今は丁度寝息を立て始めたところだ。

 

 九淨の寝息だけが穏やかに響く室内で、アルは物思いに耽る。

 

 

 

 

 

 (何……なのだろうか)

 

 先程の自分を振り返る。

 

 九淨の背中の傷跡を見たとき、妾の胸の中に何かが走ったのだ。

 上手く表現できない、初めて感じた何かが。

 

 妾は多くの者達と共に戦ってきた。

 若き者、老いた者、雄々しい者、美しい者、私利私欲に駆られる者、気高い志を持つ者等々……。

 彼等は戦いの中で傷つき、そして倒れていった。

 ―――共に戦った者への敬意はある、失われた命に悼みもする。

 しかし彼等は、言うなれば消耗品。

 戦えなくなったのなら、別の主を捜せば良い。

 それだけの事だし、実際そうしてきたのだ。

 ……だが。

 

 今の我が主・大十字九淨。

 彼女は、今までの主とは何かが違った。

 時には妾を置き去りにし、またある時には妾と仕様も無い口喧嘩をし、さらには露天風呂に浸かって共に夜空を見上げたり、挙句の果てには……その……体を重ねたりもした。

 

 そんな彼女に感じる、何(・)か(・)。

 これは一体、何なのだろうか。

 この気持ちは一体、何なのだろうか。

 

 ―――その答えを、今の妾は持っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んっ……」

 

 「起きたか、九淨」

 

 目覚めた私に、アルの声が掛かる。

 怠い体を起こして窓の外を見遣ると、既に夜の帳が降りていた。

 

 「具合はどうだ?」

 

 「ん、大分良くなったわ」

 

 アルが差し出したコップを受け取り、注がれていた水をゆっくりと飲み干す。

 寝る前に比べると、体調はかなり良くなっていた。

 これなら明日には治っているだろう。

 

 「一応スープを用意してあるが、食べられそうか?」

 

 「んー……そうね、もらおうかしら」

 

 「分かった、直ぐに準備しよう」

 

 

 

 

 

 少ししてアルが、スープ皿を二つ持ってキッチンから戻ってきた。

 私に片方の皿を手渡し、自分も皿を片手にダンセイニへと腰掛ける。

 

 皿に満たされているのは、どうやら一般的なチキンスープのようだ。

 温かな湯気が立ち、食欲をそそる香りが―――って、風邪引いてる所為で香りなんて分かんないけども。

 そうしてスープを眺めていたところで、ふと疑問が湧いた。

 

 「そういえば、アル」

 

 「む、どうした?」

 

 「このスープどうしたの?」

 

 そう、誰がこのスープを作ったのかという事だ。

 

 記憶が確かならアルは出逢ってから此の方、料理をしたことはなかったはずだし……私は風邪でダウンしてさっきまで寝ていたのだ。

 つまりこの家には、料理を作れる人物はいないはずなのだ。

 もしかすると、アルがライカさんのところまで行って作ってもらったのだろうか。

 そんな風に考えていると―――

 

 「妾が作ったのだが……それがどうかしたのか?」

 

 予想外の返答が返ってきた。

 

 「……え? アル、あなた料理出来たの!?」

 

 「何か随分と失礼な反応だな汝……まあ、実際料理などしたのは今日が初めてだが」

 

 更に驚いた。

 

 スープを掬い、口に運んでみる。

 

 「―――美味しい」

 

 初めて作った料理とは思えない味だ。

 

 「ふん、妾が作ったのだから当然であろう」

 

 誇らしげにドヤ顔をするアル。

 ―――なんだろう、何か納得がいかない。

 でもまあ……

 

 「? どうした?」

 

 「ううん。何でもないわ」

 

 私の為に作ってくれたのだから、良しとしよう。

 

 「……うん。美味しい」

 

 

 

 

 

 実は九淨が眠った後、アルはライカのところへと赴いて料理を教えてもらったりしていたのだが……態々九淨にそれを伝えることはないだろう。

 

 

 

 

 

 「ん、御馳走様」

 

 「うむ」

 

 妾の作ったスープを平らげた九淨。

 練習したとは云え初めて九淨に作った料理、ちゃんとしたものが出来ているか不安だったが……どうやら気に入ってもらえたようだ。

 

 「さてと……今日は早めに寝ようかしらね」

 

 「ああ、それが良かろう」

 

 手早く夕食の後片付けを行い、体を拭くのと着替えを手伝って九淨の寝る準備を完了させる。

 さて後は就寝させるだけと云うところで、九淨が言った。

 

 「ねえ、アル。レコードかけてくれない?」

 

 「レコード? これから眠るのに、妨げにならんか?」

 

 「ううん。多分、その方が良く眠れる気がするの」

 

 九淨がそう言うのなら、そうなのだろう。

 妾は立ち上がり、レコードプレイヤーに近づく。

 近くの棚に丁寧に仕舞われていた円盤を取り出し、セット。

 ゆっくりと針を落として、一拍。

 以前にも聞いた、あの音楽が流れ出した。

 

 「確か……“Fly Me To The Moon”だったか?」

 

 「ええ、そうよ。私のお気に入り―――と云うか、それしか持ってないんだけどね」

 

 九淨は、そう言って笑った。

 

 

 

 

 

 暫くして、九淨は眠ったようだ。

 その寝顔を眺めながら、何巡目かの曲と共に、アルはまた物思いに耽る。

 

 

 

 

 

 (どう……したのだろうか)

 

 料理を作ったときの自分を振り返る。

 

 料理をしたのは今日が初めてだった。

 また同時に、料(・)理(・)を(・)自(・)ら(・)作(・)り(・)た(・)い(・)と思ったのも初めてだった。

 こんなことは、生を受けてから初めてだ。

 

 何故、妾は料理を作りたいと思ったのか。

 より正確に云うならば―――何故、妾は九(・)淨(・)に(・)料理を作ってやりたいと思ったのか。

 主だから? 風邪を引いて寝込んでいたから? 辛そうだったから?

 ……どれも間違ってはいないが、それ以上に正しくない気がする。

 

 では、何なのだろうか。

 この不思議な気持ちは、一体何なのだろうか。

 

 ―――hold my hand(手を繋いで欲しい)

 

 毛布から出ている九淨の手を、そっと取る。

 指を絡め、優しく包み込む様にして握る。

 

 ―――daring, kiss me(キスして欲しい)

 

 熱で少し上気した肌。

 柔らかそうな、九淨の唇。

 妾は顔を近づけ―――自らの唇を、そっと、九淨の唇に、触れ合わせた。

 

 一瞬のような、永遠のような、そんな時間。

 ゆっくりと唇を離し―――我に返った。

 

 (なっ、あっ、うっ、えっ!?///)

 

 自分で何をしたのかが理解出来ない。

 慌てて―――それでも彼女を起こさない様に―――九淨から離れ、バスルームへと駆け込む。

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……///」

 

 混乱した自分をどうにかしようと、服を着たままシャワーを頭から浴びる。

 しばらく浴び続けていると、漸く荒れた呼吸も収まってきた。

 

 (妾は、どうしてしまったのだろうか……)

 

 普通なら考えられないような行動だ。

 いつからこんな風になってしまったのか。

 考え、無意識に自分の唇を指でなぞる。

 唇の柔らかさは、先程の九淨の唇の感触を思い出させ―――

 

 「――――――ッ!///」

 

 そこから、九淨のカラダの柔らかさを―――あの海での出来事を思い出させた。

 

 あの様な行為は初めてだったし、当然、女同士と云うのも初めてだった。

 あの時はとにかく必死で我武者羅だったが、お互い随分と……その……乱れていたように思う。

 

 思えばあの出来事が原因ではないだろうか、妾がこのようになってしまったのは。

 ならば―――

 

 「んっ……ぁ……///」

 

 濡れた服の上から、自分のカラダを弄る。

 あの時を思い出せば、この気持ちが―――九淨に感じるものが―――何なのか分かるのではないだろうか。

 

 「ぅん……はぁ……っ!///」

 

 

 

 

 

 アルが九淨に抱いた気持ちとは何なのか。

 何が彼女を変えてしまったのか。

 それは―――

 

 ―――I love you(私はあなたを愛している)

 

 まだ、知るには少しだけ早い。




ベタな感じのシーンが書きたかったのですが……うーむ。
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