「わー、九淨ちゃんがまた新しい子を餌食にー」
「餌食ゆーな、人聞きの悪い」
服を買ったついでに日用品等の買い物を済ませた私たちは、ライカさんの教会へとやって来た。
そして、いつものようにご飯をたかる―――急に一人増えたので大丈夫だろうかと不安だったけど、そこは流石ライカさんと云うべきか。
「いつも手間の掛かる誰かさんが居ますから、一人や二人ぐらい平気平気♪」
と、笑顔で言ってくれた。
……何て云うか……ごめんなさい。
さて、食事の後。
元気一杯ながきんちょどもと一緒に遊ぶエンネアを微笑ましく思いつつ、私はライカさんに声を掛けた。
「ねえ、ライカさん? ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
「ん? なぁに、九淨ちゃん?」
私はエンネアのことを、ライカさんに相談してみた。
ライカさんは時々頷きながら、私の話に真剣に耳を傾けてくれる。
やがて私の話が終わると、ライカさんは神妙な顔をしながら言った。
「うーん。焦らずに時間を掛けた方が良いと思うよ? 記憶喪失だなんて、今日明日でどうにかなる問題でもないから」
「やっぱりそうなるのかしらねぇ……」
「あとは……なるべく一緒に居てあげるとか? 夜寝るときとか、一人だと心細くなっちゃったりすると思うし」
「……添い寝でもしてあげれば良いのかしら」
チラリとエンネアの方に視線を遣りつつ、頭を捻る私。
そんな私を見て、ライカさんはふと訊ねてきた。
「そういえばあの子―――エンネアちゃんだっけ? 九淨ちゃんのところに置いてあげるの?」
「ええ。此処で預かってもらった方が、色々と良いのは確かなんだろうけど……あの子を連れてきたのは私だから。せめて身元がはっきりするまでは、私が面倒を見てあげたいの」
ライカさんの質問に、確りと答えを返す。
……正直、自己満足も良いところだ。
エンネアの為を思うなら、私みたいながさつな女やアルのような天上天下唯我独尊な娘っ子のところに置いておくべきではない。
優しくて面倒見がよく聖職者でもあるライカさんや、同年代で元気の良いがきんちょどもと一緒に居た方が絶対に良い―――誰でもそう思うだろう。
けど、それでも、私は―――
「うん。良いんじゃないかな」
「え?」
とか考えていたら……何か、ひどくあっさりと肯定された。
「九淨ちゃんなりにちゃんと考えているみたいだし、そういう気持ちがあればきっと大丈夫。……それとも、ちっちゃい女の子だから襲っちゃいそう?」
「そんなワケないでしょーが」
「なら平気平気。それに困ったときはライカお姉さんが助けてあげるから、ね?」
「……そうね、分かったわ」
ライカさんの言葉もあり、エンネアに関してはゆっくりと時間を掛けていくことに決まった。
……アルが面白くなさそうにしてたり、ライカさんが意味ありげに笑っていたのはよく分からないけど。
相談が終わったところで、テーブルの上に置いてあった“アーカム・アドヴァタイザー”を手に取る。
そして、開いた一面の記事に驚愕することになった。
―――治安警官及びブラックロッジ構成員、78名死亡。
昨日未明、18番区画にてブラックロッジ構成員78名の遺体が発見された。
遺体は何れも損壊が激しく、治安警察では裏社会の抗争に巻き込まれたものとして捜査を続けている模様―――
「ブラックロッジの連中が遺体でって……!?」
「ああ、凄い物騒よね……その事件……」
―――裏社会の抗争? そんな馬鹿な。
ブラックロッジに真っ向から喧嘩を売るような連中が、裏社会に居るワケがない。
そんな命知らずが居たら、今すぐ私に紹介してほしいレベルだ。
今なら言い値で雇って……ゴメン、嘘。
「………………」
隣に座るアルも、難しい顔で新聞を覗き込んでいる。
ややあって、固い声色で言った。
「昨日……か」
「!?」
アルの言葉に、私も気づいてしまった。
“何か”から逃げてきたというエンネア……それは昨日のことだ。
そして、ブラックロッジの構成員殺害事件……これも昨日。
何らかの関係があるのでは? と、思うのは当然だろう。
それとも、ただの考え過ぎだろうか―――ブラックロッジに所属しているはずのドクター・ウェストに今日遭遇したワケだけど、エンネアに対して別段反応を示さなかったし。
(何にしても、気を引き締める必要がありそうね……)
「ただの偶然……だったら良いんだけど」
「……心しておけ、九淨。運命というのは、そう生易しいものではない。いずれ何らかの形で我等に襲い来るだろう」
アルの警告に、私は頷く。
……出来れば何も起こらないで欲しい。
けれど同時に、そんなことは有り得ないとも、私は考えていた。
―――夜、大十字探偵事務所。
さて、そろそろ寝ようかという時間なんだけど……今日は一悶着起きていた。
「その娘と同衾などと……破廉恥だぞ、九淨!」
ライカさんからのアドバイス通りエンネアと一緒に寝ようとしたのだが、アルが何やら言い始めたのだ。
この古本娘は、一体私のことを何だと思っているのか。
「だーかーらー! ただの添い寝だってば! アルもライカさんの話聞いてたでしょ!? 大体何よ、破廉恥って!?」
「わ、妾の口からそれを言わせるのか!? こ、このうつけうつけうつけ変態助平の盆暗探偵!///」
酷い言われ様だ。
……ひょっとしてひょっとしなくても、小さい女の子なら誰でも良いロリコンレズビアンだとか思われているんだろうか?
……思われているんだろうなぁ。
「盆暗探偵は関係ないでしょ!? ……何想像してるのか知らないけど、エンネアに手を出したりするワケないでしょーが」
「エンネアは、九淨になら……されてもイイよ……?///」
こっちもこっちで、何か言い出した!?
「何をよ!? っていうか、何で話をこじらせる様な発言を致しますかねこの娘っ子は!?」
「あはっ♪」
とても愉快そうに、私に笑い掛けるエンネア。
……これってアレよね?
「確信犯!? 確信犯なのねアナタ!? ホンットにどいつもこいつも……私の周りに真っ当な人はいないの!?」
そんなコントのような遣り取りを繰り広げる私達。
「うぬぬぬ……! 九淨、其処へ直れ! 成敗してくれるわ!」
やがて、アルの堪忍袋の緒が切れ―――
「って、ちょっと待ッ―――!?」
アルに制止の声を掛けるも、時すでに遅し。
眩い閃光が眼前へと迫り……私は、そのまま気を失った。