ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

62 / 76
やっぱり料理の表現は難しい……。


第46話

 《―――さあ、喜んであなたのパンを食べ、愉快にあなたの酒を飲め。あなたの業を神は受け入れて下さる》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん……ぅ……?」

 

 朝、普段なら有り得ない良い香りを感じて目が覚めた。

 床で寝ていた―――というか気絶していた―――ことで所々軋む体を労りつつ立ち上がる。

 

 「~♪」

 

 「あら?」

 

 何処から漂ってくるのかと考えていると、キッチンの方からエンネアの声が聞こえてきた―――ついでに、この香りもそうらしい。

 私は寝起きのゆったりとした足取りで、キッチンへと向かう。

 そこには何やら、鼻唄混じりに料理をしているエンネアがいた。

 私が近づくと気配に気付いたのか、エンネアは笑顔で此方に振り返る。

 

 「おはよー、九淨。今、朝ごはん作ってるところだから、もーちょっとだけ待っててね」

 

 「朝ごはん?」

 

 「そそ、すぐ出来るから」

 

 意外と言っては失礼だけど、どうやら彼女は料理をするタイプらしい。

 材料は、昨日教会から帰るときにライカさんに持たされたものだろう。

 

 (あれ? 何かエンネアの面倒を見るどころか、逆に面倒を見てもらっているような……)

 

 ……とりあえず、置いておこう。

 

 「ん、分かったわ。何か手伝うことがあったら言って頂戴」

 

 私は大人しく、テーブルの上を片付けて待つことにした。

 

 

 

 

 

 暫くして、テーブルの上に朝食が並べられた。

 その間にいつまでも寝ていたアルをエンネアが蹴り起こしたりしたが、彼女はマイペースだ。

 抗議するアルを華麗にスルーし、着席。

 アルも怒っていても時間の無駄と判断したのか、大人しく席に着いた。

 

 「じゃあ……いただきます」

 

 「どーぞどーぞ♪」

 

 皆座ったところで朝食を取り始める。

 テーブルに並べられているのは、トーストにコーヒー、スクランブルエッグとベーコン、それにポテトのポタージュだ。

 まずはポタージュに手をつけてみる。

 

 「……美味しい」

 

 「……悪くはない」

 

 「へへーん☆」

 

 とても美味しい―――思わず呟いてしまうほどに。

 もう一度口に運べば、良く濾されたポテトのトロリとした舌触り。

 じっくりと炒められたであろうオニオンの旨みが凝縮されたスープは、食べる者を飽きさせない。

 ふんわりとしたバターの香りに、軽く散らされたパセリがさらに食を進ませる。

 そこいらのレストランで食べられる安物とはワケが違う―――私はエンネアの料理の腕に感心した。

 アルの方を見れば、何故か微妙に面白くなさそうな顔をしつつも、特に不満を述べることなく料理を口に運んでいる。

 

 「こんなに美味しい料理が作れるなんて凄いわね、エンネア」

 

 「人間一つは特技を持つというが……小娘にとっては料理がそうなのだろう」

 

 他の料理にも手を伸ばしつつ、エンネアを褒める。

 私もアルも料理が出来ない訳ではないのだが、ここまで美味しいものは作れないだろう。

 

 「えへへー♪ 得意なのは料理だけじゃないんだな、これが」

 

 「?」

 

 エンネアは無邪気な笑顔を浮かべると、何やら自身有りげに胸に手を当てながら言った。

 

 「炊事に始まり掃除から洗濯まで、家事全般何でもござれ! 一家に一台エンネアちゃんだよっ!」

 

 「おおー」

 

 「……ふむ」

 

 妙な謳い文句はともかく、それは凄いと思う。

 近頃は家事の全く出来ない、つまり生活能力が欠如した女性が増えていると聞く。

 そんな中で家事を十全にこなす事が出来るエンネアは、幼いながらも理想的な女性像と言えるのではないだろうか?

 

 「―――ってなワケで、ワタクシことエンネアは、この家の家事を一手に引き受けたいと思いますっ!」

 

 「…………へ?」

 

 何やら、良く分からないところに話が飛んだ。

 アルもアルで、ポカンとしてしまっている。

 とりあえず、どういうことなのか聞いてみよう。

 

 「え、えっと……どんなワケ?」

 

 「宿賃代りとでも申しましょうか―――泊めてくれる恩返しでも良いけどね。まあ、そんなワケ」

 

 何もしないでただお世話になるのを良しとしない、という考えだろうか。

 ―――記憶喪失で内心は不安だろうに、そんなことまで気を使ってくれるとは……なんてイイ子!

 

 (けど……うーん……)

 

 エンネアの言葉自体は嬉しく思う。

 しかし、私は彼女を家政婦の如く働かせる為に連れてきた訳じゃないのだ。

 彼女の面倒を見るどころか私が面倒を見てもらうなど、あまり宜しくない。

 かと言って、彼女の心遣いを無碍にしてしまうのも宜しくないだろう。

 

 (……困ったわね)

 

 暫し悩む私。

 その反応が予想外だったのか、エンネアが私の顔を覗き込んでくる。

 

 「はにゃ? あんまり嬉しくない?」

 

 「え? あ、いや。そうじゃないのよ、エンネア。……何て言えば良いのかしら」

 

 彼女に納得してもらえそうな、上手い言葉が出て来ない。

 そんな私を見つめるエンネア。

 

 「! ……♪」

 

 ややあって、何やら閃いた様子。

 そして、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 

 「そっかそっか……九淨は働きじゃなくて、エンネアのカラダで払えって言うんだね?」

 

 「はぁっ!?」

 

 「なっ!?」

 

 何かとんでもないことを言い出したエンネア。

 ……あれ? 昨日もこんな事があったような。

 

 「エンネアは……イイよ? ちょっと恥ずかしいけど……いっぱいご奉仕するね……?///」

 

 「ちょ、ちょっとエンネア!? 私何も言ってな―――」

 

 「な、なななな……汝――――――ッ!!」

 

 テーブルを粉砕する勢いで叩き、立ち上がるアル。

 ……既視感(デジャ・ヴュ)なんてものじゃない。

 となれば、この後は当然―――

 

 「この……! 大うつけがぁぁぁ――――――ッッッ!!」

 

 こうなるワケよね、うん。

 

 

 

 

 

 目を覚ますと部屋が暗かった……などということはなく、窓から入る陽射しからして、まだお昼前らしい。

 今回は、あまり長い時間気絶しなかったみたいだ。

 頭を軽く振りながら、寝かせられていたソファーから身を起こす。

 

 「……起きたか、九淨」

 

 「……アル?」

 

 ソファーの後ろ、つまり背後からアルの声が掛けられる。

 私が起きたのを確認すると、アルは私の隣に腰掛けた。

 

 「って、そうだアル! あなたちょっと酷くない? 私が何をしたって云うのよ?」

 

 とりあえず、先程の結構理不尽な出来事に抗議しておく。

 しかしアルは

 

 「ふんっ、うつけ者め」

 

 「どういう意味よ?」

 

 「自分で考えよ、うつけ」

 

 「……ワケ分かんないわよ」

 

 不貞腐れた様子で、私の抗議を流してしまう。

 ……暫しの間、事務所内は微妙な空気に包まれた。

 

 (……って、あれ?)

 

 そんな中、事務所内がやたらと綺麗になっていることに気付く。

 それと、エンネアの姿が見えない。

 

 「アル、エンネアは?」

 

 「あの小娘なら此処を掃除した後、バスルームの方を掃除しに行ったぞ」

 

 耳を澄ませば、確かにバスルームの方から物音が聞こえてくる。

 成程、エンネアが掃除してくれたのね。

 自ら上手だと云うだけあって、掃除もかなりのものだ。

 ……結局家政婦じみたことをさせてしまった訳だけど、過ぎた事は仕方ない。

 

 「……九淨」

 

 「ん?」

 

 ふと、アルが真剣な声で私の名前を呼んだ。

 顔を向ければ、翳りのある表情。

 

 「あの娘―――本当に面倒を見る気か?」

 

 「え、ええ。ライカさんのときも言ったけど、身元がはっきりするまではね」

 

 態々改まって、いったいどうしたというのだろうか?

 疑問が顔に出ていたのか、アルが答える。

 

 「あの娘からは、不吉な気配を感じる。災いの気配だ。……正直なところ、進んで関わりたくは無い」

 

 「…………」

 

 アルがこんな言い方をするのは珍しい。

 具体的にどうとまでは分からないみたいだけど……少なくとも、気のせいだと流す訳にはいかないだろう。

 

 「災い……ね。アルの忠告を無視するワケじゃないけど、私にエンネアを見捨てるっていう選択肢はないわよ」

 

 「汝……」

 

 逃げるという選択肢は存在しない―――ならば

 

 「だからもし、本当に災いが降りかかってくるのなら……真っ向から立ち向かうわ」

 

 正面から行かせてもらうだけ。

 その為の力、その為の魔術師(マギウス)だ。

 

 「私とあなたなら、それが出来るはずよ」

 

 アルの真剣な問いに、真剣に答える。

 

 「――――――ッ///」

 

 と、アルは何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 ……あれ?




九淨さん→料理:下手ではないけど上手くもない 掃除:平均的 洗濯:平均的

  アル→料理:割と上手 掃除:壊滅 洗濯:壊滅
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。