ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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カリグラが喋らせ辛い。


第53話

 此処は祭壇にして玉座。

 

 デモンベインの反撃によって、撤退を余儀なくされたカリグラとクラウディウス。

 彼等は玉座の前に傅き、大導師への報告を行っていた。

 しかし、その報告を聞いているマスターテリオンは何時もの様に気怠げに、膝に凭れ掛かるエセルドレーダを撫でている。

 

 「―――とんだ失態だな。カリグラ、クラウディウス」

 

 玉座の傍らに立つアウグストゥスが、二人のアンチクロスを詰る。

 

 「“暴君”を取り逃がしただけではなく、大十字九淨を侮って敗走し、カリグラに至っては左腕まで失うとは……何たる無様か! 貴様等それでもアンチクロスか!? 恥を知れ!」

 

 「オイ、ちょっと待てや……」

 

 吐き捨てるように言うアウグストゥスに、クラウディウスが立ち上がった。

 浅黒い褐色の顔を睨み付けながら、食ってかかる。

 

 「テメェ、任務の説明の時にホザいてたよなぁ? “暴君”は力を使い果たしているって。―――だって云うのに、何なんだあの力はよォ!? 何で奴が、大十字九淨に力を貸してんだよ、あァ!?」

 

 「大導師が発案した強固な結界を破って脱獄した以上、“暴君”が弱っていたことは確かだ。そこで、ブラックロッジ(我等)に敵対する魔術師である大十字九淨を利用したのだ。……そもそも、お前達が囮などに惑わされず迅速な行動を取っていれば、“暴君”と大十字九淨が接触する事もなかったはず」

 

 「失敗したのは、自業自得だとでも言いてぇのかよ」

 

 「事実だろう? 役立たずが」

 

 睨み合い、一触即発の雰囲気を漂わせる両者。

 しかし―――

 

 「―――気が滅入る、そのくらいにしておけ」

 

 マスターテリオンが、それを制した。

 大導師の言葉に、両者は冷や汗をかきながら口を噤む。

 クラウディウスはそのまま押し黙ったが、アウグストゥスはプレッシャーに気圧されながらも大導師に進言する。

 

 「しかし大導師。“暴君”はC計画における中核、このままではC計画にも支障が……」

 

 「逃げられてしまったものは仕方なかろう。C計画は、“暴君”無しで執り行う事とする」

 

 「なッ――――――!?」

 

 大導師の発言に、アウグストゥスは絶句した。

 カリグラとクラウディウスも、声こそ出さなかったものの、驚愕に目を見開いている。

 

 ややあって持ち直したアウグストゥスは、慌てて大導師に反論した。

 

 「い、幾ら何でもそれは無謀です! C計画は“暴君”と、彼奴の鬼械神―――中枢ユニットの強大な魔力があってこそ、実現するものではありませんか!?」

 

 「“暴君”の役割は、余が同時に果たす。中枢ユニットは、ネームレス・ワンの代わりにリベル・レギスを使用する。問題は無かろう?」

 

 「し、しかし大導師……」

 

 「―――それとも、余の力では“暴君”に及ばぬと? 余のリベル・レギスが、ネームレス・ワンに劣ると?」

 

 「……失礼致しました」

 

 アウグストゥスは頭を下げ、大導師の決定を受け入れた。

 しかし、その胸中は納得とは程遠い。

 それは今までの大導師への不信感と相俟って、彼にある行動を取らせる事になった。

 

 

 

 

 

 「マスター。時が……近いのですね」

 

 「ああ。少々露骨に過ぎたかも知れぬが……さて、奴等はどう動くか……」

 

 

 

 

 

 玉座の間を後にしたアウグストゥスは、行動を起こした。

 それは、アンチクロスの招集である。

 

 人数が揃ったところで、アウグストゥスは切り出した。

 

 「諸君……ここ最近の大導師の行動に、何か不審なものを感じはせぬかね?」

 

 「ほう? 何故大導師殿に内密に我々を集めたのかと思えば……大導師殿への不審か?」

 

 「ううむ。大導師への不審となれば、それだけで重大な反逆となってしまうが……はてさて」

 

 アウグストゥスの発言を咎める、ティトゥスとウェスパシアヌス。

 だがそれは、飽く迄表向きの話であり、彼等の言葉は実質アウグストゥスに先を促していた。

 

 「このままではC計画発動の際に、深刻な事態を招くやも知れぬ」

 

 「な二?」

 

 「どういうことだよ?」

 

 「カリグラ、クラウディウス。お前達も、先程の大導師の発言を聞いただろう」

 

 アウグストゥスの発言に、カリグラとクラウディウスが疑問の声を上げる。

 アウグストゥスは言葉を返すと、その場に居る面々に問い掛けた。

 

 「……諸君、今までの大導師の言動を思い返すが良い。アル・アジフの捜索任務を、畑違いのウェスト如きに任せるが愚行。遊びとまで仰った、覇道邸への中途半端な襲撃命令。回収したアル・アジフ断片の、余りに杜撰な扱い。そしてC計画を万全とする為のアル・アジフを計画から排除し、剰えC計画の中核を為す“暴君”までも計画から除外した。―――どうだろう、何か思う事はないかね?」

 

 「うーん、随分と滅茶苦茶ねぇ。ホントにC計画を成功させる気があるのかしらん?」

 

 「うむ、ううむ。確かに無謀と言う他無いな、これは。しかし、これではまるで……」

 

 ティベリウスが首を傾げ、ウェスパシアヌスが顎鬚を撫でながら思案顔をする。

 その様子にアウグストゥスは一つ頷き、続けた。

 

 「続けて問おう。大導師マスターテリオンは、真にC計画の実行者たるに相応しいか否か」

 

 「……何を企んでやがる、アウグストゥス」

 

 「お主、真逆……」

 

 「あらん、面白くなってきたじゃなぁい♪」

 

 「………………」

 

 「―――汝の欲するところを行え、か」

 

 彼等の論議、その結論は―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降り頻る雨の中、少女が一人街を彷徨う。

 夜の闇に沈む路地裏を、冷たい大粒の雨に打たれながら彷徨う。

 在りもしない安穏を、在るはずのない救いを求めて彷徨う。

 

 彷徨う少女は、大罪人。

 その瞳に映るのは絶望で、その心中にあるのは達観のみ。

 少女の内に光は在らず、故に『主は何処へ』と呼ぶ声も無い。

 彷徨う大罪人は、迷える少女。

 彼女の名は―――エンネア。

 

 ややあって、彷徨うエンネアの前に小柄な人影が現れた。

 背丈はエンネアと同じくらいだが、その全身は革製の拘束具に包まれている。

 エンネアは拘束具の少女に視線を向けると、徐に掌を差し出した。

 次の瞬間、拘束具の少女は無数の紙片となって解けた。

 

 無数の紙片はエンネアの掌の上に集まり、折り重なって容となる。

 黒革の装丁に、鉄錠の封印が施された書籍―――魔導書。

 曰く、禁断の秘儀書。

 曰く、黒の書。

 “名”の記されていない、その本の“銘”は―――

 

 『“無銘祭祀書”」

 

 暗く深い、路地裏の闇が呟く。

 

 「まったく……脱獄だなんてイケナイ娘だなぁ。しかも、態々魔導書で偽物を仕立てるなんて! ねぇ、“暴君”?」

 

 エンネアが闇を見遣ると、その中から更に深い闇が()()()()()()

 それは、ヒト型の闇。

 扇情的なスーツに身を包み、少女趣味全開な傘を差す女―――ナイアだ。

 

 「……君か」

 

 「やあ、久し振り―――って、もう少し愛想良くしてくれても、罰はあたらないと思うんだけどなぁ?」

 

 「………………」

 

 ナイアの軽口に、絶対零度の視線を返すエンネア。

 その反応に、ナイアは肩を竦めた。

 

 「やれやれ……。さて、今回の事だけど―――やっぱり、九淨君のことが気に入ったのかい? 何せ、あの魔銃をポンっとあげちゃうぐらいだし」

 

 「―――だからどうした? フェイスレス」

 

 絶対零度から、明確な殺意の塊へと変貌するエンネアの視線。

 常人なら間違い無くショック死しているソレを、ナイアは涼しい顔で受け止める。

 

 「まあ、分からなくもないよ。今回は飛切りだ」

 

 「一々首を突っ込んでくるなんて、そんなに暇なのかい―――()()?」

 

 「いやいや、僕なんて中間管理職の使いっぱしりさ。そんなに上等なものじゃぁないよ」

 

 エンネアの言葉に、苦笑いを浮かべるナイア。

 ややあってナイアは、形の良い顎に手を添えて思案顔をした。

 

 「それにしても……“エンネア”、だっけ? 確か君は……“ムーンチャイルド計画”の九番目。若しくは“九”淨君に因んで、その名前を付けたのかな?」

 

 「それが何だってんだよ……!」

 

 (エンネア)が叫ぶ。

 彼女の様子に、ナイアが愉悦の混じった黒い笑みを浮かべる。

 

 「下らない……ああ、下らないなぁ。君のそれは、ただの番号付けだろう? そんなものより、君にはもっと相応しい名前があるじゃないか! そう、“暴君”! 獣の首の一つにして、獣そのもの! もう一人のマスターテリオン! だってマスターテリオンは―――君の生まれ変わりなのだから!」

 

 「黙れ!!」

 

 凝縮された殺意が叩き付けられる。

 ナイアの頭部が、綺麗に消し飛んだ。

 

 『あははははは! アははハはハハ!」

 

 しかしナイアは、消失したはずの口で哄笑した。

 

 「黙れ! 黙れ黙れ黙れ―――黙れッッッ!!」

 

 エンネアの叫びと共に、ナイアの躰が消し飛ぶ。

 手に持っていた可愛らしい傘だけが、ぽてんと地面に落ちた。

 残ったのは耳障りな哄笑と、蟠る闇。

 闇に融けたナイアは、最後に告げた。

 

 『では御機嫌よう。異形の君、人外の君、愛しの君。最強のアンチクロス、最悪のアンチクロス、反逆のアンチクロス―――ネロ」

 

 少女は、大罪人。

 その瞳に映るのは絶望で、その心中にあるのは達観のみ。

 少女の内に光は在らず、故に『主は何処へ(Quo Vadis)』と呼ぶ声も無い。

 彷徨う大罪人。

 彼女の名はエンネア……否。

 少女の名は―――ネロ。




顎に手を添えて考え込むポーズって、似合う人はすっごく似合いますよね。
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