ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

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エセルさんは可愛いけど、大導師殿のお嫁さんなんですよねコレが。


第54話

 《―――ここに知恵がある。思慮深き者は、獣の数字を数えるが良い。その数字とは人間を指しているからである。その数字とは666である》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三機の鬼械神の激突は、アーカムシティに決して少なくない被害を齎した。

 

 アーカムシティ有数の繁華街は、殆どの建物が全壊。

 繁華街だった場所は最早見る影も無く、無残な瓦礫の山と化していた。

 加えて、休日だったこともあり、繁華街を訪れていた多くの人が巻き込まれた。

 覇道財閥による避難勧告や治安警察による迅速な避難誘導もあったものの、鬼械神出現前に発生した戦闘による混乱も相俟って、多数の死傷者が出る結果となってしまった。

 

 毎度お馴染の破壊ロボを、遥かに上回る脅威である鬼械神。

 自分達にとって身近な場所で出た、多数の死傷者。

 ある種の逞しさを持つアーカムシティの住民達も、今回の事は流石に動揺の色を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――大十字探偵事務所。

 

 「ふむ……」

 

 凶暴性を象徴する黒と紅で構成された自動式拳銃―――クトゥグアを手に執る。

 ズシリ、と確かな重みが伝わってきた。

 こうして間近で検分すれば、より詳細に強い魔力を感じられる。

 

 「この銃は、鬼械神と同じ魔術理論を以て創られておるようだな。更にはバルザイの偃月刀と同様に、術の媒介として使用する事も出来る……大した代物だ」

 

 よくよく見てみれば、中々に妾好みのストイックなデザインをしている―――悪くないではないか。

 

 次いでマガジンを抜き出し、中から弾丸を一発取り出す。

 親指と人差し指で弾丸の上下を支え、様々な角度から観察する。

 

 「……一発一発に洗礼が施されているのか、コレは」

 

 弾丸には、魔術文字が刻まれていた。

 

 「―――“The minions of Cthugha”か」

 

 同様に、回転式拳銃―――イタクァも検分する。

 殺意を象徴する銀一色で構成されたリボルバー。

 此方もクトゥグア同様に、鬼械神と同じ魔術理論を用いた銃だった。

 

 シリンダー内に収められた弾丸を取り出し、観察する。

 

 「此方もクトゥグアと同じく、洗礼が施されておる―――“Wendigo the Blackwood”だな」

 

 次いでクトゥグアとイタクァの弾丸をテーブルの上で分解し、中の火薬を紙の上に落とす。

 その中から少量を掬い、想像通りのものが含まれていることを確認した。

 

 ―――“イブン・カズイの粉薬”。

 霊的存在の物質化を促す、神秘の霊薬だ。

 コレを弾丸内の火薬に混ぜることで、弾丸自体に魔術的効果を齎すという訳だ。

 

 妾は検分した二挺の魔銃について、九淨に語り掛ける。

 しかし、九淨は何の反応も示さない。

 何も映してはいない虚ろな瞳を、ただ窓の外の街並みに向けているだけだ。

 

 「原料さえあれば、同じものを造ることは可能だ。今後の為にも、覇道の小娘に言って、継続的に調達出来るようにしておくのだな」

 

 「………………」

 

 妾の提案にも、九淨は何の反応も示さない。

 沈黙が気まずく、空気が重い。

 それでも何とか、言葉を紡ぐ。

 

 「今回のことで、懸念事項であったクトゥグアの制御が可能になった訳だ。加えて、イタクァの制御もまた然り。“暴君”とやらが如何な思惑で汝にこの魔銃を渡したのかは分からぬが……まあ、精々利用させてもらおうではないか。のう、九淨?」

 

 「………………」

 

 九淨は何の反応も示さない。

 

 「そ、それにしても……実用性もさる事ながら、この銃は中々に美麗ではないか! 特に、此方の回転式拳銃! この流麗なフォルムと洗練された銀! まるで妾の髪の様な美しさだとは思わんか、九淨よ!」

 

 「………………」

 

 九淨は何の反応も示さない。

 

 「……九淨」

 

 妾は遂に、言葉を紡ぐことが出来なくなった。

 沈黙が齎す重みは耐え難く、胸が痛みを訴える。

 息苦しさすら感じる現状は、まるで拷問の様だった。

 

 今なら分かる―――いや、()()()()()()()

 九淨と共に過ごしたあの騒がしくも馬鹿らしくて心地好い、まるで日溜りにでも居るような時間が、どれほど掛け替えの無いものであったかという事が。

 

 「くぅ……っ」

 

 妾は誕生より約千年、闘争の只中を駆け抜け、邪悪を討ち、狂気と共に在った。

 故にこの感情はイレギュラーで―――どうすれば良いのか判らない。

 死霊秘法としての知識を総動員しても、この痛みを止める事は出来そうになかった。

 

 (人間でない妾では……九淨の側には立てぬのか……)

 

 戦うことしか識らぬ自分では、彼女に何もしてやれない。

 偽りの温もりでは、凍りついた彼女を溶かすことなど出来ない。

 ―――妾には、何も出来ない。

 

 「おのれ……っ」

 

 胸が痛い。

 痛みはまるで、“アル・アジフ”と云う自分を侵蝕していく様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処は祭壇にして玉座。

 

 玉座の間は、異様な空気に包まれていた。

 広間に満ちるのは、噎せ返るような獣の臭いと、甘い麻薬染みた媚薬の匂い。

 そして、本能のままに貪り合う肉の群れ。

 

 牝が牡と交わり、淫猥と背徳の限りを尽くす。

 牡が牝を犯し、汚濁と冒涜の限りを尽くす。

 これは総て、彼の御方に捧げられるもの。

 玉座に御座す、大導師に捧げられるもの。

 

 崇めよ、偉大なる獣を。

 崇めよ、竜の権威を振るう者を。

 崇めよ、我等が救世主(メシア)を。

 

 マスターテリオン!

 マスターテリオン!

 マスターテリオン!

 

 

 

 

 

 「マスター……」

 

 交わされた唇を、ゆっくりと離す。

 少女は繋がったまま、少年を優しく抱き締める。

 内に注がれてゆく少年の熱を感じながら、刹那の安らぎに瞳を閉じた。

 

 「………………」

 

 繋がったままの少女を見遣る少年。

 その昏い金色の瞳に、ほんの一瞬だけ穏やかな光が点った。

 だが次の瞬間にはその光も消え失せ、元の昏い金色に戻ってしまう。

 

 少年は座したまま、緩やかに天を仰いだ。

 少年の瞳に映るのは、僧院の天井―――否。

 遥かなる天、宇宙に浮かぶ星々、銀河の流動だ。

 

 そして世界が、彼に告げる。

 ―――刻は満ちた、と。




大導師殿はエセルさんの婿、異論は認めない(錯乱)。
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