ある少女の斬魔大聖   作:アイオン

72 / 76
第56話

 マギウス・スタイルを纏い、開け放った窓から街へと飛翔する。

 

 (なんなのよ……一体なんだって云うのよ!?)

 

 言っても仕様の無い事だけど、心の中で言わずにはいられない。

 

 一直線に目指すのは、ライカさん達の住む教会だ。

 全速力で移動しているはずなのに、この身が酷く遅く感じる。

 逸る気持ちのまま、先程の大地震によって様変わりしてしまったアーカムシティの空を翔ける。

 

 (っ……!)

 

 嫌でも視界に入ってくる、火の手が上がる建物。

 引っ切り無しに鳴り響く、サイレンの音。

 彼方此方から聞こえてくる、助けを求める誰かの声。

 

 ―――嫌な想像ばかりが頭を過る。

 

 (ライカさん……! 皆……!)

 

 彼女達の無事を祈りながら飛び続け……漸く、教会が見えてきた。

 外から見た限りでは大した被害はなさそうだけど、彼女達の無事な姿を確認するまでは安心出来ない。

 展開していた黒翼を畳む時間も惜しく、私は着地しながら声を張り上げた。

 

 「ライカさんっ! 皆ッ!」

 

 声は、どうしようもない程に上擦っていた。

 ……もし、ライカさん達がいなくなってしまったら。

 今の私には、想像するだけで恐くて怖くて堪らなくなる。

 

 ……教会の中から、反応はない。

 もしかして、もう避難しているんじゃないだろうか。

 或いは、単に聴こえていないだけだろうか。

 それとも―――

 

 「ライカさんっ!! アリスンっ!! ジョージッ!! コリンッ!! 居るなら……居るなら返事を……返事をしてぇ!!」

 

 半ば叫ぶ様にして、不吉な想像を掻き消す。

 反応を待つ事に我慢が出来なくなった私は意を決し、入口の扉へと近付く。

 そして扉に手を伸ばそうとして―――唐突に、扉が開いた。

 

 「へっ? ―――あだっ!?」

 

 ……私の方に向かって。

 

 「汝、何をやっているのだ……」

 

 「べ、別に私が意図してたワケじゃないっての……!」

 

 呆れた様に言うアルに、割と強打した顔面を摩りながら応える。

 次いで、開かれた扉の方へと視線を向ける。

 そこには、金髪碧眼の眼鏡シスター―――と云うかライカさんの姿があった。

 

 「く、九淨ちゃん……大丈夫?」

 

 「……オカゲサマデ」

 

 若干気まずそうに声を掛けてくる下手人(ライカさん)に、ジト目と共に棒読みで返す。

 ……まあ、お馬鹿な遣り取りはこれくらいにして。

 

 「ライカさん……無事で良かった」

 

 「この辺りは被害が少なかった方だから、私もみんなも特に怪我はしなかったよ」

 

 その言葉通り、ライカさんの後ろから現れたがきんちょどもも無事な様子だった。

 思わず、安堵の溜息を吐く。

 

 「……ねぇ、九淨ちゃん」

 

 ライカさんが、少し陰りのある声で私を呼ぶ。

 何を聞こうとしているのかは、すぐに分かった。

 私達は揃って、アーカムシティの空を見上げる。

 

 「あれって……一体何なの……?」

 

 「…………」

 

 空には、夜空を覆い隠す様に浮かぶ黒い月。

 アレが何なのかは、正直なところ解らない。

 でも、アレを出現させたであろう連中についてはすぐに思い当たった。

 

 「……どう考えても奴等の仕業よね」

 

 「ああ、ブラックロッジの連中に相違あるまい」

 

 アルも同意見みたいだ。

 

 ややあって、疑問が浮かぶ。

 

 (でも……あんなモノを持ち出して、一体何を為出かそうって云うの?)

 

 連中の、今までとは比べ物にならない規模の行動に危惧を抱いた―――その時。

 

 『アーカムシティに住まう全住民に告げる……』

 

 あの、忌まわしい声が聞えてきた。

 氷の刃が如き冷声、吐き気を催す程に整い過ぎた人外の声。

 忘れもしない―――忘れる事など出来よう筈も無い、あの声が。

 

 『余はマスターテリオン。ブラックロッジを束ねる大導師であり、聖書の獣の名を冠する者である』

 

 ―――大いなる獣(マスターテリオン)

 ―――聖書の獣(マスターテリオン)

 ―――七頭十角の獣(マスターテリオン)

 

 『我々はこの日の為に、力を蓄え続けてきた。この巨大過ぎる街を隠れ蓑に、諸君の愚鈍さに助けられ、遂にこの記念すべき日を迎える事が出来た』

 

 (随分と好き勝手に言ってくれるわね……!)

 

 『故に、細やかながら諸君に礼をしたく思う。―――我等ブラックロッジの悲願であるC計画。この計画を彩る華として、諸君を生贄に選ぶ事にしよう。嗚呼、諸君の血と涙と絶望は、大いなる“C”の降臨をさぞ美しく引き立てるであろうな』

 

 マスターテリオンの巫山戯た演説が終わると同時に、其処彼処から爆発音が聞えてきた。

 辛うじて地震を耐えていた建物が何軒も崩れ落ち、逃げ惑う人々の悲鳴を、光に追従して上がる爆炎が掻き消していく。

 

 揺らめく爆炎の向こうに、その姿はあった。

 小型化が為されているものの、間違いないだろう。

 地響きを伴い行進する、黒鉄の軍団。

 無慈悲な破壊を齎す、黒鉄の軍団。

 それは―――何百体もの破壊ロボの軍勢だった。

 

 「こ、これだけの数……一体何処から!?」

 

 私の目が可笑しくなってしまったのでなければ、小型の破壊ロボ達―――量産型とでも呼ぶべきか―――は何処からとも無く突然現れた様に見えた。

 そして、それを肯定するかの様に目の前の空間が歪み、歪みから量産型破壊ロボが出現した。

 

 「空間転移か!」

 

 「くっ!」

 

 咄嗟にライカさんとがきんちょどもを教会の中へと突き飛ばし、自身はその場から飛び退く。

 間一髪で、破壊ロボの拳が眼前を通り過ぎた。

 飛び退きながらもバルザイの偃月刀を招喚し、投擲。

 偃月刀はハッチを貫き、コクピット内部へと到達―――しかし、破壊ロボがその動きを停止させる事はなかった。

 

 「真逆……!?」

 

 嫌な予感を感じつつ、破壊ロボの拳を躱してコクピットハッチに取り付く。

 偃月刀によって開けられた空間を魔力を込めた蹴りで広げ、コクピット内部へと滑り込む。

 そこで、嫌な予感は確信へと変わった。

 

 「此奴……無人機か!?」

 

 内部に人の姿は無かった。

 予め施されたプログラムが、コイツを操っているのだろう。

 私は突き刺さっていた偃月刀を引き抜き、破壊ロボの動作に必要であろうコンソールを全て両断した。

 ややあって、破壊ロボは活動を停止した。

 

 「もの云わぬ破壊者に、空間転移か……」

 

 「厄介ね」

 

 マスターテリオンの発言から考えると、量産型の破壊ロボへの命令は破壊か殺戮か蹂躙か……まあ、大した違いはないだろう。

 兎に角そんな破壊ロボが、空に浮かぶ黒い月からアーカムシティ中に送り込まれていると云ったところか。

 

 (街全体を俯瞰出来るあの場所からなら、アーカムシティの何処へでも転移させられるでしょうしね)

 

 「九淨ちゃん! 怪我してない!?」

 

 破壊ロボのコクピットから出てきた私に、教会から顔を出したライカさんが声を掛けてきた。

 それに返答しつつ、彼女達に避難を促す。

 

 「ん、大丈夫よ。……それよりもライカさん! 皆を連れて、早くシェルターに!」

 

 「く、九淨ちゃんはどうするの……!?」

 

 ライカさんとしては当然であろう問い掛けに、私の身体は一瞬硬直した。

 

 「私……は……」

 

 力なく手を持ち上げ、視線を掌に落とす。

 

 (今の私に……戦えるの?)

 

 女の子一人守れなかった私に

 護るべき時に護れなかった私に

 自分の力を信じる事の出来ない私に

 ……本当に、戦う事が出来るの?

 

 「九淨ッ! 今は悩んでいる場合ではなかろう!」

 

 「ッ!?」

 

 アルの叱責に、ハッと我に返る。

 偃月刀の構成を解き、新たに二挺の魔銃を招喚。

 グリップを握り締め、消えそうになった闘志を無理矢理に奮い立たせる。

 

 「私の事は心配しなくても大丈夫……! だから、ライカさん達はシェルターに!」

 

 「……無茶だけはしちゃダメよ、九淨ちゃん」

 

 ライカさんの言葉に、頷きを返す。

 シェルターのある方角へと走って行く皆を見送り、私は戦いの場へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上での惨状をモニターで観察しながら、ドクター・ウェストは苛立っていた。

 顔を顰め、傍らに置くギターを指でコツコツと叩いている。

 

 『ご自慢の破壊ロボが活躍していると云うのに、何を苛立つ、ウェスト? 真逆、今更後悔などしているワケでもあるまいに』

 

 「……下劣な戯れが、我輩には好かんだけであるよ」

 

 サンダルフォンの言う通り、ドクター・ウェストに後悔など微塵も無い。

 入団の経緯は兎も角、彼は自らの望みの為にブラックロッジに組し、破壊ロボを開発したのだ。

 世間からすれば悪党である事の自覚もあるし、悪党としての行動に弁解を述べるつもりも無い。

 しかし……悪党には悪党なりの美学があるのだ。

 少なくともそれは、モニター越しに行われている無差別な破壊や殺戮では断じて有り得ない。

 

 『……まあ、お前の考えなど己には関係無いがな』

 

 問い掛けてきたサンダルフォンはそう言って、ドクター・ウェストに背を向けた。

 この場から去ろうとする背中に、彼は訊く。

 

 「何処へ行くのであるか、サンダルフォン?」

 

 『知れた事。これだけの事態に、()がただ黙っているはずもないだろう?』

 

 言葉の端に闘志を滲ませ、サンダルフォンは場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――覇道邸地下基地。

 司令官でもある瑠璃は、其処で指揮を執っていた。

 アーカムシティの全情報が集められ、瑠璃の指揮の下、この場に居る各々がその対処に奔走している。

 

 ……状況は芳しくない。

 覇道の私設軍だけではどうにもならず、治安警察も避難誘導が精一杯。

 重い腰を上げた州軍の第一軍も、破壊ロボの軍勢に手も足も出ずに全滅。

 第二軍が交戦中だが、それも時間の問題だろう。

 

 唯一此方に残された手札は、デモンベインのみ。

 ……しかしそのデモンベインは、未だ姿を見せていない。

 瑠璃は焦りを隠しきれず、操縦者である彼女の名を呼んだ。

 

 「彼女は……大十字さんは、一体何をしているのです!?」

 

 

 

 

 

 「どうしたのだ、九淨! 何故デモンベインを喚ばない!?」

 

 「っ……!」

 

 アルの言葉に、破壊ロボを撃ち抜きつつ歯噛みする。

 ……デモンベインで戦わなければ、被害の拡大を防ぐ事は出来ない。

 嗚呼、そんな事は分かっている。

 

 (そんな事……分かってはいるのよ……!)

 

 頭では分かっていても、この躰がそれを拒んでいる。

 デモンベインを招喚しようとする度、あの瞬間を思い出してしまう。

 目の前にいながら護れなかった、あの瞬間を。

 護るべき存在が瓦礫の中へと消えていく、あの瞬間を。

 

 躰が言う事を聞いてくれない。

 理屈でもなんでもなく……私は、デモンベインに乗ることに怯えているのだ。

 戦わなければならないと分かっていても、どうしようもないのだ。

 

 「……九淨! アレを!」

 

 突然、アルが叫んだ。

 彼女が指し示す方角に視線を向ける。

 其方には、空を飛ぶ破壊ロボに撃墜される戦闘機の姿があった。

 

 「アレって……州軍の戦闘機!?」

 

 驚いている間にも、戦闘機は次々と撃ち落とされていく。

 ―――私が躊躇う一分一秒に、誰かの命が散っていく。

 

 「ッッ……!」

 

 「九淨。奴等に対抗する為には、デモンベインが必要なのだ。デモンベインを駆る、汝の力が必要なのだ」

 

 「やるしか……ないのよね……? やるしか……ッ!」

 

 こうしている間にも、街の誰かが死んでいる。

 私が力を使わない事で、代わりに誰かの命が失われる。

 ……私は意を決し、その銘を叫んだ。

 

 「デモンベェェェェェェェェェインッッッ!!」




量産型破壊ロボの具体的なスペックが判らなーい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。