IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
「どういうことだ、説明してもらおうスコール」
艦に戻り、治療を受けたマドカとオータムは、全身に包帯やガーゼを巻きながらスコールの自室で詰め寄っていた。理由は言わずもがな秋穂の機体についてである。他にも議論しなければならない事は多くあったが、マドカにとって優先順位の頂点はいつだって秋穂だった。その秋穂が、シックザールに吹き飛ばされた後、ISに搭載されていたとあるシステムによって〝気を失い身体が限界だったにもかかわらず、ほとんど全開で戦闘を行っていた〟という事実を知り激昂しているのだ。
その秋穂は、落下した所を急行したスコールが保護し、艦へ運びこんで今はマドカの部屋でベッドに寝かされている。傷そのものはすぐに完治するようなものではないにしろ命には別状はないとの診断だった。
そしていつもならば、熱くなったマドカをオータムが宥めるのだが、この議題ばかりはオータムも非難の目をスコールへと向けていた。そう、このシステムが搭載されている事は、イギリス軍からこのISを奪取してきたオータムですら知らされていなかったのだ。いくらスコールが相手といってもこの事にはオータムも少なからず腹を立てている。
マドカはスコールの腰掛けるデスクを叩き糾弾する。そしてそれにオータムも続いた。
「黙っていないでなんとか言ったらどうだッ」
「流石に、あたしにも説明がないってのはな……スコール」
「………」
「……スコールッ あれは何だという!?」
「………ふぅ……本当はこんなことになる前に説明しておきたかったんだけれど」
スコールは追及に観念した様に息衝くと、デスクから立ち上がる。そしてデスクの引き出しから端末を取りだし、ディスプレイを空中投影に切り替えた。そこに映し出されたのは〝デファイアント〟の詳細データだった。マドカとオータムはそのデータによく目を通す。するとある事に気が付いた。
「……これは……」
「どういう事なんだ?」
そのデータの中には、ISが自立稼働するようなシステムの情報がまるでなかった。むしろ何処にでもあるような近接型のISのデータがそこにある。2人は怪訝な表情でスコールを見やった。
「見てもらった通りよ、あの〝システム〟は元々この機体には搭載されていなかった」
「つまり、後付けのシステムだと言うのか?」
「そうよ」
「一応聞いとくぜ。誰が載せたんだ?」
「……私よ」
オータムの表情が〝やっぱりな〟と告げる。むしろこの状況で、このシステムをスコール以外の誰が載せられるというのか。マドカにとっては聞くのも馬鹿らしい質問だった。
マドカは、怒りがこみ上げるのをグッとこらえ、話を進めるように促す。聞きたい事は山積みなのだ。いちいち起こっていては話が進まない。しかしそうだと身体では理解していてもやはり気持ちが抑えきれない。自然と言葉が震えてしまう。
「…それで…何故載せた」
「それは……秋穂ちゃんの為よ」
「ふざけるなッ!!」
そしてすぐに我慢できなくなりスコールの胸倉をつかむ。我ながら我慢の無さに呆れるばかりだがやはり許せない。秋穂をあんな目にあわせたのにこれが秋穂の為だと言う。そんな答え納得どころか相槌で頷くことすらできない。
「何が秋穂の為だ! 秋穂の為なら何であんなことになった!! あのシステムが無ければ今頃秋穂は、学園の医務室で寝かされているはずだろうッ!! 被害は大きくなったかもしれんが、それでも秋穂が……秋穂がッ!」
マドカの目にうっすらと浮かぶ涙。スコールはそれを見て、体裁悪く視線をそらす。こんなつもりではなかった。スコールの表情がそう告げる。しかし全ては結果だ。スコール自身がこうなる事を望んでいなくても起きてしまったものはどうにもならない。
マドカはスコールの胸倉から乱暴に手を離すと、目頭をぬぐう。そして吐き捨てるように言った。
「……話を…続けろッ 秋穂の為とは……どういう意味だッ」
「………あれは……あのシステムは、その名を〝VT-alt〟というの」
「ヴィーティー……オルタ?」
「そう、マドカ? あなたはドイツで〝VTシステム〟という物が研究されていたのを知っている?」
スコールはマドカの事を仕事以外では名前で呼ぶ。それがいつもなら家族の様で、心地の良い物なのだが、今呼ばれる名前はあまり良い気分はしなかった。それはともかく、マドカは訊ねられた質問に答える。
「〝ヴァルキリートレース〟だったか? モンドグロッソの部門受賞者の技術をデータ化しそれを再現するシステム……」
「そうよ、そしてこのシステムはその〝VTシステム〟をより昇華させた物なの」
「昇華?」
「そう、この〝VT-alt〟は本来、部門受賞者ではなく〝操縦者の完成系の理想値をデータ化し起動時にはそれを操縦者のレベルへ擦り合わせていく事で段階的に理想的な戦闘能力を得る事の出来るシステム〟なの」
「つまりどういう事なんだ?」
「簡単に言えば、〝常にISの性能を100パーセント使いきる事が出来るシステム〟という事よ」
「要するに、ISは全開を出したい、しかし操縦者がそのレベルに達していなければIS側から操縦者へと能力を合わせていくシステムか」
「大体そういうことね」
スコールの説明でマドカは、ある程度このシステムを理解する。
つまり、これはIS側は常に100パーセントの性能を出し切りながら、操縦者のレベルに合わせてその100パーセントの段階を調節するのだ。例えば秋穂の操縦技術のレベルが5段階あったとする。そしてこのシステムには秋穂が将来発揮できるであろう理想の数値がデータ化して収められていてシステムはまずその最高値を行おうとする。
しかし、秋穂の実力がまだ5段階中の2段階目ぐらいまでしかないと判断すると、そのシステムがISを2段階目まででの限界稼働を引きだす。それによって秋穂は常に理想的な機体のフィーリングで戦う事が出来るというわけだ。
だが、そんなシステムが何故……。
「スコール、お前の話を聞くだけでは、このシステムはとても優良で優秀なシステムのように聞こえるが、そんなシステムがなぜ気を失った秋穂を操縦者として戦闘を行ったんだ?」
「それは……多分私が指定した発動キーに問題があったのよ」
「発動キー?」
「あのシステム、さっきも言った通り根っこは〝VTシステム〟を踏襲している。だから常にこのシステムは起動しているというわけじゃないわ。言ってみればこれはフルドライブシステムみたいなもので、指定した発動条件下でなければ、稼働しないようになっているのよ」
「その発動条件ってなんだよ?」
「それは、秋穂ちゃんの命の危険。私はアレを秋穂ちゃんの命を守る最後の砦としてISに組み込んだ……。システムが起動したとき秋穂ちゃんはあの砲撃を受けた直後だったそうよね。だから秋穂ちゃんの危機にシステムが反応して起動。だけれど操縦者が気を失っていたためにシステムは正常にレベルを判断する事が出来ず、組み込まれたデータ値のMAXで稼働し続けたというわけ、まぁ結果はこの有様だけれどね」
なるほど、それで合点が言った。それと同時にマドカはスコールの胸倉をつかんだ事を少し後悔した。彼女も秋穂を思う気持ちは同じだったのだ。やり方が少し違っただけで。スコールはマドカやオータムのように任務以外である程度自由に動く事は出来ない。だからせめてこういう方法で秋穂を守ろうとしてくれたのだ。
これが特に普通の状況ならば、礼の1つでも言うのだが、流石に胸倉掴んだ後ではかなり気まずい。とりあえずマドカは心の中でスコールに謝罪と礼を行い考えを〝VT-alt〟へと戻す。スコールも表情を見てそれを察したようで静かに笑みを見せていた。
考えをシステムの方へ戻してみると、2つ程このシステムについて疑問が浮かぶ。1つ目は入力された理想値の事、そして2つ目は誰がこの〝VT-alt〟を完成させたのかである。
「スコールこのシステムの事は分かったが、理想値の入力もお前がしたのか?」
「えぇ、そうよ」
「ってことは……」
マドカは艦に帰ってから一度だけ整備ハンガーにかけられている〝ディファイアント〟を見ている。そしてシュメルツ達がシックザールを助けに入った事からも仲間であることは明白。自分達が完全敗北した相手に、システム運用ではあったもののかすり傷一つ負わず機体は帰ってきていた。
それはつまり、スコールの考える秋穂の完成系がマドカの想像したいた者よりも遥か上のレベルである事を暗に示している。
「そんなレベルに秋穂が到達すると?」
「これでも結構低く見積もったのだけれど?」
「……むぅ」
「ま、成長度合いなんて姉妹でも分からないわよね」
それはそうだろう。パッとしない成績の野球選手が、何かをきっかけにいきなり覚醒した様に打ち出して首位打者を取ってしまう事だってある。何がきっかけでその殻が破れるかなど誰にもわからない。
可能性にかけると言えば聞こえはいいが、所謂、操縦者頼みの何とも成果が未知数のシステムである事は確かだった。
そして疑問は2つ目へと移る。スコールも次の質問を催促する。
「それで、2つ目は何かしら?」
「あぁ、2つ目は誰がこのシステムを完成させたのかだ。〝VTシステム〟自体はいま凍結中では無かったか?」
そう、この〝VTシステム〟。〝VT-alt〟がベースとした物ではあるが、その実、非常に危険な代物である。〝部門受賞者の技術をデータ化し戦闘に活かす〟lこれだけ聞けば汎用性の高い戦闘用のOSになりうる物のように聞こえる。しかしそれには注釈が付くのだ。
〝搭乗者の意志、生死に関わらず〟という。
今回、秋穂は死んでいなかった。全身ボロボロだったとは言っても、システム自体が常に秋穂をチェックし、意識回復と共に戦闘行動を中断、システムそのものを切り替えた。だがオリジナルにはそもそも搭乗者の状態をチェックするという機能そのものが存在しない。搭乗者が死のうがどうなろうが関係なく、目の前の敵機という敵機を破壊するまでそのシステムが止まる事はないのだ。
事実、このシステムの所為で研究を行っていたドイツでは死者こそ出していないが重傷者を多く出している。そのため国際IS委員会はこのシステムの研究開発を永久凍結するという採択を下した。そんなシステムが、何故形を変えて我々の目の前に存在するのか。それがどうしてもわからなかった。
「その事については、ウチから話すよ、ミューゼル」
「ん?」
部屋の扉があき、マドカ達はその方へ向き直る。するとそこには、そう、何というか……
「誰だ、このみょうちくりん……」
オータムの一言で、部屋に入ってきた人物がムッとした顔で睨む。
入ってきたのは女性。しかもかなり身長の低い。服装は上下ともに明るめのグレーで統一されたカジュアルスーツで、スラックスにはワンポイントで側面に赤いラインが引かれていて、その上からダボッとした白衣を身にまとう。そして髪は黒みがかった赤のカチューシャで黒い前髪をあげ、おでこがスコールの部屋の照明に光っていた。更に鋭角的に釣り上がった瞳が日本人では無い事を主張し、小さな眼鏡を鼻にかけ、その女性はフンッと鼻を鳴らした。
「ま、知らなくて当然かな、そもそもこの組織と関わりを持ったのだってつい最近なわけだし」
「最近……」
「そ、最近、っていうかあんたとウチはお知合いなんだけどね」
「あん? エム知ってのか?」
「いや……私は……」
マドカは自分の記憶を探る。しかしどうしてもこの顔は出てこない。少なくともマドカの知り合いにこんな研究者はいなかった。というか研究者の知り合いなんて誰一人としていないはずだ。
「ほら、1回ウチの店に食べに来たじゃん」
「店?」
「そう、中華料理!」
「中華………あ、ま、まさか」
「そう、そのまさか~」
マドカは目を丸くする。確かにたった一度だけ、秋穂を連れて中華料理屋へ立ち寄った事がある。そうだ、思い出した、あの時この女性確かにいた。こじんまりとした中華料理屋で給仕をやっていた女性だ。……名前は知らないが。
「このウチこそ、〝VTシステム〟を昇華させた〝VT-alt〟の生みの親(の一人)! 〝
ビシッと指を前に突き出し、決めポーズを取る鐘音。しかしその格好が更に、みょうちくりん度を加速させている事は言うまでも無い。
聞けば、彼女、今から一年半ほど前に離婚し、娘を引き取ったが流石女尊男卑とはいえ、母国でも個人で店を切り盛りするのは無理と判断し前々から興味のあった技術職への転身を決意。
家族に内緒で、離婚前からずっとISの基礎知識を独学で学び、娘が候補生になるのとタイミングを同じくして技術者になった、とんでも人物だそうだ。ちなみに、自分が技術者になった事は娘には言っていないそうだ。なんでも驚かす事が好きとの事で気付かれたらその時はその時らしい。またそのため、中国で働いている時も娘のいる都市部ではなく、あえて郊外郊外のIS関連企業を転々としていたらしく、そもそもここ1年間、つまり候補生に娘がなってからは全く会っていないそうだ。
そんなとんでも人物だが、この人物さっきかなり重要な事を口走った。
「お前が何もになのかは分かったが……本当にお前が作ったのか?」
「コラコラ、ウチはこう見えてもバツイチだけど娘がいる年上なの! 敬語敬語ッ!」
「どうでもいぜ、とっとと話せってみょうちくりん」
「みょ、ッ!? またッ」
「はぁ……鐘音……話がややこしくなるわ、説明してあげて」
「うぅぅぅ……ウチの颯爽たる登場シーンだったのにぃ」
「鐘音?」
「わ、分かったよぅ…」
鐘音は、口をとがらせつつも咳払いをして声の調子を整えると、スコールの端末を手に取り表示を切り替える。そこには、横15センチ 縦20センチほどの長方形のケースが映し出されているた。
「これが〝VT-alt〟のシステムを稼働させるためのメインユニットだよ」
「こんなに小せぇのか…」
「小型化するまでにもいろんな苦悩があったんだよ? 何といっても最初は膨大な情報を処理しなくちゃいけないからISの外側にね……」
「分かった分かった。それで、重要な部分をいきなり聞くが、完成させたと言ったな? しかし凍結されている物をどうやって完成させたんだ?」
「……これからがドラマだったのに…」
「後で整備班にでも聞いてもらえッ!」
研究者、技術者……というか何故理系はこう過程を話したがるのか。別にマドカはこのシステムを作った時の苦労話を聞きたいわけではない。何故これが完成できたのかその結果論を聞きたいだけだ。苛立ったオータムのきつい一言にしゅんっとしながら、鐘音はようやく聞きたい所をかいつまんで話し始めた。
「うぅ………それは〝VTシステム〟が中国に流れてきたんだよ。当時は、中国も外国から色々と技術を吸収していたから…」
「亡命か?」
「それに近いかな」
「それで?」
「だけど、そんな危なっかしいシステムは流石の中国でも厄介払いされて……とりあえず試作機だけ作ってそのドイツ人研究者は強制送還。で、その試作機も色々たらいまわしされた挙句、ウチらの研究室に来たんだ」
「けどよ、お前らの所でも厄介者扱いされなかったのか?」
「厄介物っていうよりは、皆一癖も二癖もあるような人ばっかりだったけれど……技術者だからね、厄介物なら厄介物なりにそう思われない誰もが良い物だって思う物を作りたいって……逆に躍起になっちゃって…、そういう意味ではウチじゃなくてウチらが作ったっていうべきだったね」
マドカは鐘音の何気ない一言に、この人物の全てを見た気がした。この女性、登場から何から何まで面倒くさいが技術者として持っている気概は本物だろう。そもそも転身というのは、そんなに簡単な話では無い。元が中華料理屋だった彼女がそれこそ技術者になるなど、言い過ぎかもしれないが正気の沙汰とは思えない。
それでも彼女はなったのだ。そして忌み嫌われた〝VTシステム〟を少なくとも操縦者の為のシステムとして生まれ変わらせた点それだけは評価してもいい。本当にそこだけは。
「けどよぉ、完成は分かったけど、それとあたしらってどう繋がるんだ?」
オータムの言葉に鐘音のデコと眼鏡が光る。
「ぬぅぅふふ~、それはねウチが、誘われたのさぁ彼女にッ!」
「そう言えばそうだったわね」
「何?」
「いやねぇ、完成したまではいんだけど、実はウチらのいた部署さ、あまりにも成果のないお荷物部署だったから強制解散になっちゃってね。行くあても無くフリーの技術職やってたらこの〝VT-alt〟の情報を嗅ぎつけたミューゼルに拾われちゃって」
「猫か…」
「それはともかく。後は鐘音からそのシステムを受け取った私が、〝デファイアント〟にそれを載せたというわけ。システムの概要は元々知っていたからこれなら秋穂ちゃんの助けになると思って…」
マドカはこれまでの説明を頭の中でまとめ、そしてややあってから頷く。仮に作り話だとしてもまぁ、筋は通っているし矛盾点もそれほどない。それにスコールが今の今まで自分達に嘘を言った事は無い。まぁ、このシステムの件では色々とあったが、それを除けば。
「なるほどな、それは分かった。これ以上糾弾はしない」
「納得してくれたようで、良かったわ。まぁ私の方も少しシステムの設定は変えておく必要がありそうね、任せられるかしら鐘音?」
「ま、元々ウチらのシステムだからね、指示さえあればやらせてもらうよ」
「あ、そうそうもう1つ聞きてぇんだけど。あのシステムって危険じゃねぇんだよな? いやさ、フルドライブって聞いてたから、やっぱ負担とか、でかいのかと思ってさ」
オータムの何気ない質問。だがマドカはその質問にピクっと反応した。そうだ、むしろ何故今の今まで気が付かなかったのか。気が付かないどころかそれすらも聞かずに何を自分はスコールに謝罪や鐘音に関心などしていたのか。マドカは2人の方を見やると、ひとまず返答を待つ。なんとなく予想は出来るのだが。
「危険ねぇ……まぁそのあると言えばあるよ」
「……」
「マドカ、そう睨まないで…」
「あると言ったぞ」
「だから、早とちりしないでってば……影響があるのは機体の方だよ」
「機体?」
「そう、機体。ミューゼルがどういう説明をしたのかは知らないけれど、このシステム。あくまで理論上はだけれど人への負担はそれほど多くない。だけどその都度限界を変化させながら戦うこのシステムに機体側が付いてこられないんだよ。使い過ぎは……自壊を意味するよね、まぁ今回は発動キーの問題もあって発動してしまったけれど。ミューゼルもああいってたし、発動キーの設定は指示通りに変えておくから。誤作動とかで起動する事は無いよ。大丈夫」
「信じてもいいのか?」
「ウチの技術者の誇りにかけても良いよ」
マドカは鐘音の目をジッと見やる。目をそらすことなく鐘音もこちらを見ている。繰り返しになるがマドカは鐘音の技術者としての気概は評価している。その人物が自分自身の誇りにかけてと言っているのだ。ここで偽りを述べれば、その時点でこれまでやってきたことすべてを否定する事も同義。そして何より、自分を真っ直ぐ見つめるその瞳が言葉に偽りがない事を証明していた。
マドカは少し考え、鐘音から視線を外すと、静かに「分かった」と告げる。マドカの返事を聞いてスコールと、鐘音はホッと胸をなでおろした。
誰もがひと段落ついたと思い、気持ちを切らしたい衝動にかられるも、まだだ、まだ問題は残っている。今までの事は全て身内の問題だ。今度は敵の問題。2人の目つきがこれまでの糾弾からはまた違った鋭さを見せる。スコールもそして鐘音も改めて気持ちを入れなおす。
「ほんじゃま、結構こっちの方も気になってると思うしよ。それに当事者だからな、あたしは聞かせてもらうぜ。あいつらあたしの機体に何しやがったんだ?」
「その点はウチから説明するよ」
「誰でもいいから教えてくれ」
「……今思ったけどウチこの女嫌い」
「ガキ持ちの親が言うセリフじゃねぇよ」
「……ッチ、整備の時ねじ2本位抜いといてやる」
「それでも、技術者かッ!」
「2人ともいい加減にしろ。鐘音、それでどうなんだ?」
マドカは2人の間に割って入ると、静かな声だったがぴしゃりと言う。しばらく互いに睨みあったままだったが先に鐘音が視線をそらす。そして鼻を鳴らしながら懐から小型端末を取りだした。そして一言。
「とりあえず、現状見ながら説明した方が早いからハンガー行こっか」
鐘音の提案で、スコールの部屋からハンガーへ移動する。そこでは、多くの整備士や技術者達が修理に追われている。機体を扱う操縦者の腕が悪ければ悪い程彼らの仕事は増えていく。そして今、魔の前で彼らがせわしなく動いているという事が、マドカとオータムに嫌でも敗北の二文字を突きつけていた。思わず顔をうつむく2人の肩にそっとスコールが手をかける。
鐘音はそれを静かに見守りつつ、切りの良い所で口を開いた。
「これが、まぁ今の現状かな。エムの方はそんなにかからない。修理だけだから突貫工事すれば1日と半分ぐらいあれば余裕かな。だけどオータムの方は……」
鐘音がう~んと唸り、頭をかくしぐさから正直参っているという感情が読み取れる。
「そんなに、あたしのはやべぇのか?」
「ヤバいっていえば……そうなのかもだけれど……」
「……どっちだよ、それに一体あたしの機体は何されたんだ?」
「簡単に言っちゃうと、こりゃ……そのコアの初期化だね」
「初期化!?」
オータムの声が上ずりマドカの目が細まる。特にマドカは目の前で一部始終を見ていた。シュメルツが手をかざした途端オータムのISが光に包まれながらゆっくりと消滅していくその様を。どういうことなのか、それは。コアの初期化は専用の設備が必要となる。それをISがしかも手をかざしただけで……
「信じられん…」
「けれど、事実よ。あなた達が治療している時鐘音からの報告書を読んだの。その時流石に私でも言葉が出なかった」
「IS自体の基本的なプログラムはもちろんの事。武装から何から何までおまけにエネルギーも全部持っていかれてる」
「……あいつはオータムのISを吸収し終わった時手にコアの様な物を握っていたが…」
「その報告についても謎だねぇ……ISコアを作れるのは篠ノ之 束だけだし、そんな技術が確立したなんて情報も無いし……関係も分からない」
「結局分からねぇことだらけか。で、あたしの機体はいつごろ使えるようになるんだ?」
「最低でも2週間は無理かな……コア定着も考えるともうちょっとかかるってところだね」
「そんなにかよ…」
〝ファントムタスク〟が保有するISは、なにぶん数が圧倒的に足りない。そこへ来て1機が長期離脱というのは何とも痛かった。敵がこちらの修理を待ってくれる保証はどこにもないし、何よりそんな奴ら出ない事は身にしみて分かっている。
「……しばらくは私1機で……か」
「そうね、私もあの時は助けるために使ったけれど、自ら出られる身分じゃないし……」
「けど、やっぱ厳しいよな1機しかねぇとなると」
オータムの言うとおり、厳しい。そんな事はこの場の誰もが分かっている事だ。だが、だからといって好きにはさせない。あの時は、自分は秋穂を助けにはいく事が出来なかった。結果としては、生きて帰ってきた物の重傷。あの時自分が行けていればと後悔する事が出来る。そこから次は必ずと思う事もできる。しかし、秋穂と共に闘っている時、自分が助けられる所にいて助けられなければ、後悔ですらなんの意味も持たなくなる。
それに自分は、今回同様、秋穂をすぐそばで守る事はあまり出来ないだろう。だからせめて秋穂が悲しむ事だけは何としても避けなければならない。秋穂を守れないのなら、自分は秋穂の帰る場所を守る。
マドカは強く拳を握る。
「なめるな……私はもう負けん」
誰が来ようが関係ない。障害となる者は自分が全て破壊する。
マドカの表情がそう告げる。そのマドカの肩をオータムが軽くポンっと叩いた。
「そう肩に力入れんなって、あたしだって同じさ……次来たらあいつら……いやあいつらだけじゃねぇ。誰であろうがぶっ殺す」
「………オータム、離せ肩が痛い。それと…顔も近いぞ、暑苦しい」
「お、お前なぁ…今はそういう事言うシーンじゃねぇよ」
2人のいつもの様な掛け合いに、スコールはフフっと笑う。そしてそのオータムへ声をかけた。
「オータム」
「あん?」
「敵をぶっ殺してくれるのも楽しみだけれど、まずは秋穂ちゃんを、学園に返してきて?」
「………何?」
オータムの抜けた声がハンガーに響く。その後すぐにマドカのすました声がオータムの耳に届いた。
「確かにすぐ動けんお前にはうってつけの仕事だな。本来は私が行きたいところなのだ私は離れられん、仕方があるまい」
「……いやだから」
「ひとまず変装用のボイスチェンジャーは任せといて。あ、後〝娘〟が近いうちに学園に編入するからその旨、秋穂ちゃんによろしく」
「……その、おい…」
「メイクは私がしてあげるから大丈夫よ。スタッフも数人用意しておいたから。それじゃお願いね」
「な、何だってぇぇぇぇッ!!」
そして、自分が何を指示されたのかを理解した時、ひときわ甲高い、それこそ悲鳴にも似たような声がハンガーにこだましていた。
「それじゃ、後でボイチェンは部屋に持っていくから~」
鐘音はハンガーを出ていく3人をにこやかに手を振りながら見送る。そして姿が見えなくなった事を確認して、チラリと〝デファイアント〟の隣で、リセッティングされている〝VT-alt〟を見やった。
今まで話した事は、事実だ。嘘いつわりはない。実際あのシステムは身体に影響は無いのだ。……そう……〝自覚症状を覚える様な身体への影響は無い〟……
この事を知るのは、自分だけだ。スコールにだって言っていない。
「今思うと、ウチ……最低だね」
誇りをかけるといっておきながら、かけた真実は、重要な部分を隠した真実……。スコールが秋穂を守るために選んだ手段は鐘音の真実と嘘が散りばめられている。
「だけど……あのシステムを今下ろされるわけにはいかない……まだ〝オリジナル〟が残っている今は……そして願わくば…」
鐘音からはこれまでの明るさは消えうせ、彼女に不釣り合いな細く、鋭い目をしていた。
しかし、それは、この〝VT-alt〟への思い入れというだけでは無い。次に、鐘音の目が見た物はそのシステムが収められる〝箱舟〟。
「それに……この機体も……」
鐘音は端末を取りだし、機体のチェックボードを操作する。まだ確証があるわけじゃない、だがこの機体の〝性格〟は鐘音の考え通りならば恐らく彼女に……
「いつになるかは分からないけど……選択を強いられる……よね…」
鐘音は、ハンガーにかけられ各部チェックを行われている〝
「―――
…と。
後始末的な事を書こうとしているうちにややこしい説明会になってしまいました。
こんにちはのろいうさぎです。
前回のあとがきで書かせていただいたもう一人とは彼女鐘音さん。
苗字似ただけですぐに誰の母親か分かるともいます。
設定城鈴が一年足らずで候補生に慣れるのなら、その親だって頑張れば一年ぐらいで技術者になれるのではと思い登場させた次第です。
彼女はこれから色々と重要なポジになっていく予定です。
しかしVT-altはかなり無理があったでしょうか(汗
では、次回は学園の後始末的な事を書かせていただきます。
よろしくお願いします。にしても鈴が出てくるまでに10話以上引っ張ってる二次創作なんてこれぐらいでしょうね(滝汗