IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第10話~始まりと仲直り、そして大火への燻り~

 事件の終息から数時間がたち、一通りまとまった情報が整理され千冬のもとへ届けられる。情報が情報なだけに千冬は場所を空いていた会議室に移して真耶の読み上げる事故調査報告書に耳を傾けていた。

 

 

「破損個所は、シールドバリアとアリーナ外壁ほぼすべて。整地等々も含めたアリーナの総被害額は……」

 

 

 千冬は、惨憺たるアリーナの状況を聞き、思わず頭を抱える。修理費を出すのは千冬では無い。しかしこのIS学園は国立。投入される金は国から降りてくる。もっといえば国民の血税から支払われるのだ。それを考えただけで千冬は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 

 もっとアレをこうすればよかったとか、あの時ああすればよかったとか、とにかく報告を聞く間中そんな「たら」「れば」が頭の中をずっと回っていた。だが後悔してももう遅い。全て起きてしまった後なのだから。とは言っても真耶が上げていく数字はどれも耳が痛いものばかりだった。そしてついに千冬は耐えられなくなり真耶の声を遮る。

 

「次に、周辺区への影響ですが―――」

「山田君」

「はい?」

「ちょっと止めよう……鬱になりそうだ」

「読んでいる私はもっとですよ…」

 

 真耶はばさりと書類を会議室の机に置くとへなへなとその場に座り込んだ。真耶も平常心を装いながら読んでいた様だったが、やはり結構精神的にキていたらしい。無理も無い。問題は山積しすぎている。修理もそうだが、襲撃者にそれを撃退したIS。ただまぁ収穫だったのはファーストシフト終了時に他のIS全てに発せられる個体識別コードによって、あのISの名前が割れた事だろうか。

 

「デファイアント……か」

「その機体の情報なら少しだけヒットしました」

「あぁ、こちらにも情報は来ている。イギリスの機体だそうだな」

「はい」

「という事は搭乗者もイギリス人か?」

「オルコットさんを助けた事実がありますし……その可能性も」

 

 確かに、あの機体はセシリアを助けた。それは間違いない。あの機体がセシリアを抱きかかえていなければ今頃セシリアはこの世にはいないだろう。それぐらいの攻撃だった。だがそれにしてはその後の行動が気になった。あの機体は攻撃を避けるために、セシリアを反対方向へ〝放り投げている〟相当乱暴な人物が操縦していたのか? いや、だがいくらなんでも助けた相手を放り投げはしないだろう。それに、あの機体何処からやってきたのか……。

 

 

「とにかくそのあたりは、後日オルコットに確かめてみるとして」

「はい」

「あの赤い機体はどうだった?」

「……あっちは全くです。救援に来た2機もヒット有りませんでした。もちろん〝デファイアント〟を回収した機体も同様です」

「そうか」

「それと……東雲さんも……」

「……ふぅ」

 

 真耶が残念そうに首を振る。アリーナは第3が大破し使用不可能、学園保有の〝打鉄〟も初期化が必要なほどの損傷を受け操縦者は行方知れずその上、正体不明のISが実に5機……勘弁してくれと、千冬は苦笑いをこぼした。自分は学年主任を受け持つのは初めての事では無いしこういた有事も幾度か経験した事はある。だがその度にすぐに尻尾をつかみ大ごとになる前に、学園と協力して解決してきた。

 

 だが今回のはどうにも……事件の終末が見えてこない。何をすればいいのか、何から手を付ければいいのか。それすらも今は分からない、こんな事は初めての経験だ。これからどうなっていくのか、まさにそれこそ、神のみぞ知るというのだろうか……。

 

 

 千冬が深いため息を落とした時、会議室のドアが開く。そしてそこから顔を出した事務員が慌てて千冬を呼んだ。

 

「織斑先生! 東雲さんがッ!」

「何!?」

 

 

 千冬と真耶は、たった今、気にかけていた人物の名前を聞き、思わず顔を見合わせた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ん……んんッ」

 

 ここは……?

 

 セシリアが目を覚ました時、視界に入ってきた物は真っ白い天井だった。そうか自分は気を失って……失ってッ!?

 セシリアがバッと身体を起こす。途端に鋭い痛みが走り顔をゆがませた。痛みを感じた場所を握る手が制服を掴み自分がいつの間にか制服になっている事もその痛みと同時に知る。

 

「ッつぅ……」

「……全く、何をやっている」

「え?」

 

 聞こえた声と共に、セシリアの身体が誰かに支えられ、再びゆっくりと横に寝かされる。セシリアはその人物を見て驚いた。

 

「し、篠ノ之さん……」

「なんだ、私が看病していては不満か?」

「……いえ……」

「……調子が狂うな。いつもの調子はどうした?」

 

 

 いつもの調子……か。セシリアは今までの事そして今回の戦闘の事を思い出す。まぁ……なんと……無様な事か。思い返してみれば自分がした事はなんだ? 一夏を男という理由で見下し、いざ試合となればたなぼた勝利の様な勝ち方、秋穂との試合も、襲撃者との戦闘も、自分は結局何も出来ていない。イギリスの代表候補生としてのくだらない意地を張っただけだ。その結果、戦闘途中で意識を失い、今こうして医務室のベッドに寝かされている。屈辱さえも感じる資格など無い。セシリアは自分の力がいかに独りよがりで傲慢だったかを思い知る。それでも、自分でそれを口にできない。その事を謝りたくはない。こんな状態になっても自分は、セシリア・オルコットは自分のプライドを守り通そうとしている。

 

 

 

「本当に、なんと小さい人間なのでしょうね」

「ん?」

「……私は何も出来なかった。口だけ大きい事を言って……この有様。無力でした」

「無力か……ふぅ、またお前は人を見下すのだな」

「見下す?」

「そうだ、お前が無力か? 私から見れば充分に力がある。誰かを助けられる力、すぐに飛んでいける力がな」

「……」

「もし仮にお前が、自分を無様だとか思っているのなら、それは私達専用機を持っていない者への冒涜だ。確かにお前は負けたのかもしれない、だがそれでもお前があの時に持っていた気持ちや想いは、本物だろう? 織斑先生がお前に通信を繋いだ時、頷いたあの顔は今でもはっきりと残っている。……あの時のお前の顔は……まさしく本物だった」

 

 

 箒はセシリアへ真っ直ぐ自分の想いを伝える。純粋に思った事を、混じりっ気なしの本心を。それが出来る箒がセシリアはほんの少しうらやましかった。

 自分の本心どころか箒の言葉を聞いてもなお謝罪に躊躇する自分。いつ頃からこんなひねくれた性格になってしまっていたのか。自分でも分からない。両親が不慮の事故で亡くなりそれからは1人でオルコット家の全ての財産を守り抜いてきた。誰とも深く交わらず、かといって薄すぎず。そんな微妙な対人関係。心を開かずひたすらに内に秘め、相手の腹を探る日々。それが普通だと思っていた。誰も本心など言ってはくれない。だから自分で探るしかない。だがこの少女は違う。そんな気は毛頭ない。

 

 ただ自分が感じた事を真っ直ぐに伝えてくる彼女の方が自分よりも何倍も強い。

 

 そう感じていると、医務室へもう1人入ってくる。

 

「箒、セシリアは……」

「ッ!?」

 

 セシリアは、声を聞いただけでドクンッと心臓が跳ねあがる。セシリアはそれでも顔をそむけるのは不自然と視線を動かし声の主を探す。

 そして―――いた。

 

「……一……織斑さん」

「あぁ、良いって良いって寝てろよな」

「……」

「それで、大丈夫なのか?」

「あ、あなたに心配されるほどヤワではありませんわッ」

 

 違う、こんな事を言いたいわけではない。名前だってさっきまでは呼べていたなのに…。自分だって思った事をストレートに口に出したい。しかしこれまでの自分が、それを許さない。彼には、そして彼女には気を許しても良い。思いのたけ全てをぶつけても彼らなら受け止めてくれる。そう言い聞かせるが、気を許してしまうことへの戸惑いを持つ自分がいるのも事実だった。さらけ出してしまって本当に大丈夫なのか。それをまだ迷っている。

 

 しかし自分のそんな辛辣ともとれるセリフにも一夏は、笑みを返してきた。

 

「ハハッ、それだけ言えりゃあ大丈夫だな」

「…………」

 

 屈託のない笑みだ。自分があんな酷い事を言ったのに、そんな事をもう気にしていないと言った風で。

 

「そう言えば、箒さ。何を説教じみた事言っていたんだ?」

「ん?……あぁ、こいつが自分の事を無力だと戯言を吐いたのでな」

「無力か…」

 

 一夏は少し考えてそしてセシリアへ向き直る。

 

「俺はさ、お前の事無力だとは思わないぜ? 多分箒と言った事が重複しちまうかもしれねぇけど、無力てのは本当にその場にいて何も出来ない奴の事を言うんだよ。俺みたいに力あっても助けに行けなかったりさ。けど、お前千冬姉から指示もらった時すげぇ良い顔で頷いてたじゃねぇか。俺ああいう顔好きだぜ? あの顔見せられたら、俺ん中じゃもう、模擬戦前の事なんてどうでも良くなっちまってさ…。まぁ、戦って分かったっていうのもあるんだけど。それに誰かの為に真剣に行動を起こせる奴が悪いやつなわけねぇしな」

 

「――――ッ!」

 

 

 驚いてセシリアは声が出ない。本当に彼はもう何とも思っていない。この期に及んでもなお相手の腹を探ってしまった自分が情けないが、そのおかげで彼の言葉に裏が無いことを一発で見抜けた。 彼は……彼らは……。その時セシリア・オルコットという人間を閉じ込めていたからがゆっくりとはがれ出す。自分が崩れていく感覚。だが悪い気だけはしない。セシリアはゆっくりと身体を起こし、そしてそれを見た一夏が驚いてセシリアに手を差し伸べた。セシリアはその手を、ぎゅぅっと握りしめる。

 この手は離してはいけない。これまでも自分の手を引いた男性は多かった、だが自分がここまで他人の手を身近に感じた事は一度だってなかった。

 いらない壁は取り去ろう。そして伝えよう、想いを。自分から距離を測る無意味さを知ったから。そしてそれを教えてくれた少年が目の前にいる。

 強く、優しく、そして自分には見える、彼の気高さが。負けた相手だというのに、言い訳もせずただただ自分の事を、認めてくれる。

 

 

 その時セシリアはようやく自分の気持ちに気が付いた。

 

 素直になれば、素直に考えれば、こんな単純で、だが素敵な事だった。

 

 あぁ、そうか……私はこの方の事を……

 

 それに気が付いた時セシリアの瞳に映る、微笑む彼の表情が霞んでいく。自分でも良く分からない涙。だたその涙は流すたびに、自分が素直になれていくような気がする。

 

 そして相手との距離もどんどん近くなっていくようなそんな不思議な感覚にとらわれる。一夏が優しくセシリアの肩を抱く。そして…

 

「……〝一夏〟さん……」

「……あぁ…」

「本当にすみませんでした……本当にッ……本ッ当……にッ」

 

 

 セシリアは、ともすれば両親が亡くなった時以来かもしれない涙を流した。

 

 

 

 過去を洗い流すように、自分の周りに残った小さな殻を流すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうあの〝小さなセシリア〟はいない。そんなのではだめだ。大きくならなければ、なぜなら自分は彼を――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――愛してしまったのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり一夏の腕の中で涙を流したセシリアは落ち着きを取り戻し、涙をぬぐう。一度たりとも人前で涙を見せた事のなかったセシリア。以前までの自分だったら恥ずかしさで死んでしまいそうだったのだろうが、今はどこかすっきりした気分だった。 

 

 しかしその気分も長くは持たなかった。そう、自分と戦いそして閃光の中に消えたあの少女、東雲 秋穂の事を思い出したからである。

 セシリアは、上体はそのままに一夏と箒に訊ねる。

 

 

「そう言えば、東雲さんはどうなったのですか!? 彼女も医務室に!?」

「あ……いや……秋穂は…」

「重症なのでしょうか、やはり……」

「重症というか、そもそもそれすらも分からない」

「?」

「……見つかってないんだ、秋穂」

「―――え?」

 

 

 セシリアは一瞬、一夏の言った事が理解できなかった。見つかっていない? なんだその返答は、答えになっていない。自分は彼女がどこに行ったかを聞いただけだ。それが見つかっていないってそれではまるで…

 

 

「行方不明なのですか?」

「まぁ、そういうことになる」

「ど、どういう事です―――ッツ!」

「あぁ!? 無理に身体起こすなって…」

「だ、大丈夫ですわ。それよりどういう事ですの? だって東雲さんは〝打鉄〟と共にロッカー付近へ叩きつけられていたはず…でしたらそこに…」

「確かに、秋穂の乗っていた〝打鉄〟は鉄屑と化してあそこにあったそうだが、何処をどう探しても姿が無かったそうだ」

「あ、あり得ませんわ…」

 

 仮に、ISの爆発に巻き込まれたとしても、人間一人が忽然と姿を消すこと等考えられないし、人が蒸発するほどの爆発では無かった。確かに攻撃は凄まじかったがいくらなんでもそんな事があるわけがない。

 

 

「爆発の余波が結構大きくて、破片とかもアリーナの外まで飛んでいたらしいから、今先生達が学園の外も探してる」

「でしたら私も―――」

 

 そうだ、自分も行かなければ。彼女にも伝えなければならない事がある、素直に謝らなければならない事があるのに。

 セシリアが口を開いた時だった。部屋のドアが開き、IS学園常駐の医師がセシリアのもとにやってきた。

 

「オルコットさん、目が覚めたんですね。よかったです。それはそうと、あなた…部屋番号は1021番?」

「え、あ…はい」

「やっぱり。織斑先生からの伝言を頼まれているの」

「伝言?」

「えぇ、仲の良い2人だったから気をもんでいるだろうから知らせておいてくれって言われてね」

「2人?」

 

 仲の良い2人という表現は、つい最近聞いた事があった。それは一夏がクラス代表になる事を反対した時に自分と秋穂へ向けて千冬が言った言葉。

 

 つまりそれは…

 

「秋穂さん見つかったって。今担架に乗せられて運び込まれたらしいわよ。何でも学園にたまたま居合わせた別の病院の医師がそのまま自分の所属する病院へ運んだそうだけどッ!?」

 

 セシリアは医師の話を聞き終わる前に、ベットから飛び起き痛みさえも忘れて走りだす。それに一夏達も続いた。

 

 こんなにも人を心配させておいて。一言、言ってやらなければ気が済まない。駆けるセシリアの表情にはそう書いてあるようであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……と、言うわけでして…」

「なるほど……しかし、随分と時間がかかっておられたようですが…何故すぐに連絡を?」

「あ、いやいや、こちらも何分彼女が身分証を持っていなかった物ですから、確認作業に手間取りまして」

「……ふむ」

「あと、服装も流石にISスーツでは何かと問題だろうと思いまして、こちらで病衣ですけど着替えさせていただきました」

「そうですか」

 

 織斑先生のいぶかしげな視線が、眼鏡をかけた長髪の女性に注がれる。それを見ていたあたしは流石に苦笑いしか出てこない。というか、この作戦を聞いた時からずっと苦笑いしっぱなしだった。(ファン) 鐘音(ショウイン)さんとかいう技術者はノリノリでボイスチェンジャーを作ってきたし、スコールさんは有無を言わさずメイクを始めるし、マド姉はそれを面白がって見ているし…。今回ばかりはオータムさんに同情しちゃう。というか同情通り越して、かわいそうになってくる。

 

 いくら変装しているからといっても、ここは敵の本拠地の様な所だ。そんな所へ〝ファントムタスク〟のスタッフ連れているとは言え乗り込まされるのはむしろ罰ゲームだよね。

 

 

「……まぁ良いでしょう。ひとまずうちの学生の治療ありがとうございました」

「いえいえ、個人でやってる小さな病院ですから、気にしないでください」

 

 

 あたしは、織斑先生が振り向いた隙にオータムさんへ小声で話しかける。

 

「……顔、ひきつってますよ」

「うるせぇ、あたしは笑いなれてねぇんだよ!」

「ほら、スマイルスマイル~」

「いいから、黙ってろッ!」

「ん? 何か?」

「い、いえいえ、こちらの事です」

 

 オータムさんは目で、あたしを牽制すると織斑先生との会話へ戻っていく。まぁなんだかんだいって切り替えが早いのは流石と言わざるを得ない。

 その時、あたしの丁度頭の方で聞きなれた声がした。というかこの声は忘れないよね…

 

「東雲さんッ!」

「せ、セシリアさん?」

「大丈夫なのか?」

「一夏君に、箒さんまで…」

 

 わぁ、勢ぞろいだ。で、えぇと……なんの用でしょうか??

 

 

 あたしがキョトンとしていると、セシリアがその場であたしの手をグッと握ってきた。

 

「もうッ! あなたという人はッ! 何処まで私に心配をかけたら気が済みますの!?」

「え?」

「あなたには、言わなければならない事があるのですッ」

「……は、はぁ…」

 

 

 な、なんだろう。どうして彼女はこんなにテンションというか……感情が高ぶってるんだろう。それに言いたい事って…

 

 

 それに勢いよく言いたい事があると言った割には、その後すぐにもじもじとして良いかけては口ごもる。

 

「……えぇと……その…」

「うん」

「……ですからッ」

「……うん」

「……あ、だから…」

 

 

 何? いつもの歯切れの良さは何処に行ったんだろうか? 結局セシリアが何を言いたいのか分からないまま織斑先生が間に入ってしまった。

 

 

「オルコット、すまないが話は後にしてくれ。東雲にはこれから一応簡易的なメディカルチェックと事情聴取がある」

「あ……ですけど」

「……部屋は同じなんだ。大事が無ければ夕方頃には話せる」

「は、はい…」

「まぁ、織斑先生の言うとおり後で部屋でじっくりと話せば良いんじゃないか?」

「そうだな、その方が互いに落ち着いても話せるだろう」

「……そうですわね」

 

 

 織斑先生の諭すような声とそして一夏と箒の言葉が、セシリアをとりあえずの説得に成功しセシリアがあたしの手を離し担架から離れる。

 

 

 う~ん……何なの? 

 

 

 結局、何が言いたいのか何も伝わってこないまま、あたしは担架で医務室へと運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室でもメディカルチェックと、その後の事情聴取は何の問題無く済んでいく。そもそも自分は〝家〟で、充分なメディカルチェックと治療を受けていたし、事情聴取〝家〟を出るときにスコールさん達と短い時間だったがその中で綿密に打ち合わせた。いくら相手が織斑 千冬でも〝スコールさんが考えたシナリオ〟は完ぺきだ。矛盾など覚えようも無い。

 

 

 聴取が済んだ後、オータムさんが帰るのを見送る。

 その際に聞いたのだが、どうやらしばらくオータムさんが色々と周辺の〝雑務〟をこなしてくれるらしい。なんでもISがすぐに使えなくて、マド姉が〝家〟を守るようになったんだって。

 まぁ、スコールさんはそう易々と出てこれないし、何よりあの人を現場になって引っ張り出すような事があってはならない。そうあたしが演じた失態などもう金輪際あってはならないのだ。気を付けなきゃね、うん。

 

 それと、最後の最後に、鐘音さんの娘さんが近々編入してくるらしい。「仲よくしてあげてね」とはあの人からの伝言だそうだ。

 

 

 

 

 あたしは全ての検査や〝雑務〟を終え、帰宅許可が下りた事もあって部屋に戻る。既に色々会って部屋には西日が指しており部屋全体がオレンジ色に染まっている。あたしはそんな沈みゆく太陽を見やりながら病衣から、制服へと着替える。流石にもう充分動けるが、やはりまだ節々が痛い。スカートは履けたが、腕がうまく動かずシャツとブレザーが羽織れない。

 

「んッ……あり? あぁもう……よ、っほ!」

 

 何度もトライして何度も失敗を繰り返す。そして自分でも何回目か忘れるぐらい繰り返した時だった。パーテーションの向こう側から見かねたセシリアが顔をのぞかせる。

 

「……はぁ……あなたねぇ。他の方法を試すという考えには至りませんの?」

「え?」

「もう、ほらお貸しなさい」

「あぁッ」

 

 呆れた顔をしたセシリアがあたしのシャツを引っ張る。片腕しか通っていなかったそれは簡単にスポンっと脱がされ、そしてセシリアに促されるがままあたしは服を着せられる。

 

「ここを、こうして……少し腕を前に……えぇ、それで充分ですわ」

「………」

「……これで、良いですわね。ボタンぐらいは自分で止められますわよね」

 

 

 あたしは、終始ロビーでの顔そのままで着替えを終わる。それを見てセシリアはそのままあたしのベットに腰掛けてきた。部屋が決まって顔を突き合わせた時には考えられなかった行動に流石に驚いた。顔さえ見るのは嫌だと思っているであろう人物が、横に座っているのは、凄く不思議な感覚だ。

 

 流れる無言の時間が、妙に気まずく、そして何より息苦しい。セシリアもセシリアで、また何かを言いかけては口ごもるを繰り返している。

 

 

 ロビーでもこうだったよなぁ…。ホントに……何が言いたいわけ? いい加減、性格上そして空気上何か話さないと色んな意味で窒息死そうだよ。ってか、もう限界です。

 

「あのさぁ一体―――」

「……すみませんでしたわ」

「―――――え?」

「ですから、すみませんでした」

「……いきなり、何言ってんの?」

 

 

 ようやく口を開いたと思ったらいきなりの謝罪。……何か、あたしはされただろうか。いや、まぁそりゃされたっちゃあされたけれど……何故今?

 

 

「私が、全て間違っていたと気づきました」

「……」

「これまでは素直に、何かと向かう事も、認める事もできなかった。小さな殻に閉じこもってしまって。ですけど、素直に感じ、認める。その事の大切さをとある方に教えられたのです。それがどれほど素敵な事か……を」

 

 

 

 

 言うセシリアの顔は、夕日で染まる部屋でも、分かる位に赤かった。………ははは~ん……こいつ……。

 

 まぁ、いいや誰が誰を好きになろうが関係ないし。それに今はそんな事あまり重要じゃなさそうだ。あたしは意識を、セシリアの話す内容に戻す。

 要するに、セシリアはあたしの実力をそれなりに認めてくれて、謝罪をしているわけだ。馬鹿にしてごめんなさいと。

 う~ん……いやね、確かに、あたしは自分で言うのもなんだが良い所まで行ったのかもしれない。しかしだ、セシリアの一言に怒って考えもくそも無く、チャンスがどうたらこうたら叫んで突っ込んだあげく、襲撃者にゃ吹っ飛ばされて、気を失ったまま〝デファイアント〟で戦った。

 

 これがあたしの真実だ。そりゃ勿論〝デファイアント〟の事は言えないが。にしても前準備をなにも活かすことなく勝敗うやむや……目茶苦茶、中途半端じゃん、あたしッ!

 多分彼女は、あたしの近接戦闘を評価してくれているのだろうが……けどまぁ、いっか。

 

 織斑 一夏関係が片付くまで、あたしはあくまで高校生。長くなるか短くなるかは分からないけれど円滑で円満な高校生活を少しぐらいはエンジョイしても良いだろう。

 

 んじゃま、とりあえず、こんな回りくどい話はとっとと切りあげちゃいましょうかね。

 

「で、結局さ、セシリアさんが言いたい事って仲直りしましょうってことで良いの?」

「むッ……それはその結論言ってしまえばそうですけれど……もっとこう、私の胸の内をですね」

「良いよ、別に興味ないし。それよりも仲直りするのは良いよ、別にもうあたし気になんてしてないからね。だけどあたしと友人やるからには―――」

「な、なにをいきな―――んもッ!?」

 

 あたしは、言い返してくるセシリアの口にピッと人差し指を置く。そして目をぱちくりさせるセシリアに向かってイタズラッぽい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一筋縄じゃいかないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしの手がセシリアから離れると、セシリアはフフっと笑う。そして静かに手を差し伸べてきた。

 

 

「望むところですわ、あなたこそ私の高貴な生活についてこられますかしら?」

「そう言えば、そうだったね。良いよ、こう見えてもあたし、マナー系はお姉ちゃんに叩きこまれてるんだからね」

 

 

 

 

 

 あたしは差し伸べられた手をしっかりと握り返す。我ながらお互い単純だなぁとも思うが、もうあたし達の間には、気まずさも、息苦しさも無い。ただ仲直りできて良かったと、純粋にそう思えている。

 

 まぁあたしにとっても、もう気にしてないとは言ったが、この件は模擬戦にまで発展した一種の事件だったし解決出来た事は良かったよね。

 

 

 笑いあうあたし達、その顔は何処までも晴れやかだった。

 

 

 

 

 

  

 

 けどその時は、全然思っていなかった。この彼女との仲直りが、後にあたしの使命をより辛く複雑な物にしていくことになるなんて、本当に……微塵も思っていなかったんだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 深夜の山間部。互いにステルスを起動したIS同士がぶつかる。

 

「こ、このッ!」

「……どうした? その程度か」

 

 敵が繰り出したブレードの突きをシュメルツは難なく躱し、鋭く踏み込むと引いた腕のリボルバーが炸裂する。

 

「貴様も、〝痛み〟を知れッ!」

「うぐッ! があぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 ガシャァァァンッ!!

 

 

 破片を周囲へまき散らしながら、ISが地面に叩きつけられる。操縦者は、背中を強打し腹を撃ち抜かれた時に吐きだされた空気を巧く取り入れる事が出来ず苦しみに喘いでいた。

 

 

 

 そこへシュメルツが、ゆっくりと降り立ち操縦者の顔を掴みあげそして〝あの時〟と同じように左手をかざした。

 

 

「うぅ……」

「苦しいか? しかしな。貴様らに使われる〝我らの同胞〟も同じように苦しい」

「……はぁッ……はッ……何を……言って」

「苦しみからの解放だ…」

 

 

〝Kern Daten freilassung(コアデータリリース)〟

 

「うぅぅ……うあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 悲鳴が上がり、まばゆい光が周囲をまるで昼のように照らす。そして光が収まるとシュメルツは生身になった操縦者をゴミのように放り投げる。

 

 

 〝作業〟が終わり、シュメルツは確保したコアを手にISを待機状態へと戻した。それと共に、シックザールとトレーネがどこからともなく近寄ってくる。

 

 

「ご苦労さん」

「……こんなもの疲れたうちに入るものか」

「……そうだね……シュメルツ……いつも楽に勝つ」

 

 

 シュメルツは2人の言葉を耳にだけ入れ、歩き出すと視線をコアへと移した。

 

 

「そう言えば、これでいくつだったか……」

「……今日で……6個目」

「中々集まらねぇもんだなぁ……やっぱ専用機狙いで言った方が〝数も稼げる〟んじゃねぇの?」

「前回それをやらせて失敗したのは誰だ…」

「そ、そりゃ…」

 

 シュメルツの辛辣な言葉にシックザールがばつ悪く視線をそらす。

 そんなシックザールを見ながらそういえばと、シュメルツは思う。

 

 あの時専用機の反応は3つあった。だがその場にいたのは2機。数が合わない。そして自分達の〝感知能力〟が狂うことなどあり得ないとなると、もう1機は何処にいたのか…

 

 まぁ、だがそれはそれ。次に会ったときに取り逃がさなければ良いだけの事。それほど気にする事でもないかと考えをやめるとシックザールを見やる。

 

「それはそうと、お前が戦った相手まだデータに目を通していないが、どういう機体だった? レッドシグナルを発するほどなのだから相当な手練か…」

「あぁ、なんか機械みたいなやつだったなぁ、動きもまるでミスがねぇの」

「機械? 面白い表現だな」

「あぁ」

「……何という名前だ?」

「あれ? ファーストシフト終えてコードは送られたはずだけど?」

「距離があったからな、あれは一定範囲内に一括送信だ。距離があれば、私が範囲内に入らなければ受信できないし、何よりあれと接している時間が短すぎた」

 

 シュメルツがシックザールを援護に入った時確かに、ISのモニターには識別コードがロードされ始める所であった。しかし、それが完了する前に自分達はあの場を後にしており、トレーネも、自分も結局あれがなんという機体なのか分かっていない。まぁ何であれ、最終的には仕留めるつもりではあるのだが。

 

「なるほど。えぇっとなぁ確か…………」

「……IS1機の名前すら思い出せんのか。1日……いや数時間前だぞ?」

 

 

 全くとシュメルツがため息をつく。シックザールはこの3人の中では一番の行動派で突破力もあり頼りになるのだが、一転、頭を使う事に関してはやや弱めだ。だがせめて数時間前にみたことぐらいはすんなりと思いだしてほしいものであった。

 

 

 シックザールはしばらく首をひねっていたが、ようやく思い出したようにその名前を叫んだ。

 

「あ、そうだそうだ、〝デファイアント〟だ」

「何?」

 

 

 シュメルツの目が一瞬で細まり、声のトーンが落ちる。

 その表情に、シックザールが思わず固まった。

 

「あ、あれ? なんかあたし変な事…」

 

 

 

 

 困惑するシックザールを置き去りに、シュメルツが何かを理解し納得するように首を縦に振る。目は相も変わらず鋭く切れあがったままだ。

 

 

「そうか……あれが全ての元凶か……」

 

 

 そしてゆっくりとその表情が、邪悪な笑みに染まる。

 

 

 

「フフフッ、シックザールッ!」

「あ、あぁ」

「お前はやはり〝運命〟の名を冠するだけの事はある。これはまさに運命だ」

「そ、そうか……そりゃ…」

 

 

 

 シュメルツは大げさに、空へと両手を上げる。もはや見ている2人からすればシュメルツがどうにかなってしまったのかと思わざるには居られない状況であった。

 

 

 

 

「フフフッ! シックザール、あれは私が殺る」

「え? いやでも、あいつにゃあたしも因縁が…」

「………」

「わ、分かったよ…」

 

 シックザールはシュメルツに狂気の目を向けられ、そう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 この時狂気のシュメルツとそれに焦るシックザールを、一歩下がった位置から見ていたトレーネだけが別方角から自分達の遥か上空を駆け抜けた気配に気が付く。

 

 

 

 

 その感覚にトレーネは小首を傾げたが、皆に遅れてはならないと歩き始めたため意識がそれ以上その〝気配〟に向かう事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこの〝気配〟が後々、秋穂やIS学園、そしてひいては自分達に降りかかる、大火の前の小さな〝(くすぶ)り〟だった事を誰も知る由などなかった。

 

 

 

 

 




ようやく、セシリア模擬戦編が終わった…こんばんは、のろいうさぎです。

前も書きましたが、ここまでで10話も使っている小説があったら見てみたいです(汗

ようやく鈴編に入る事が出来る…。
秋穂とセシリアに友情が芽生えたりシュメルツが狂気になったり色々とまぁ一応の進展はあったと思いますw

さてトレーネが感じた謎の気配とは何なのか? そして鐘音技師の娘とは!?(バレバレ 

次回もお楽しみに。
頑張って書かせていただきます。
よろしくお願いいたします。
では失礼します。
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