IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
慌ただしかった編入当初の日常は何処へやら。すっかり学園生活にも慣れ毎日一夏の動きに注意を払いつつもそれなりに楽しい学園生活を送っている。
そして今日も、いつもと変わらぬ朝がやってきた。傷はやはり痕にはなったものの、痛みはもう感じない。日常生活にはなんの問題も無かった。
「………むぁ……」
いきなり出ごめん。1つ断っておくけど、あたしは今寝置きだからね。いきなり何わけのわからない事口走ってんのって言われて異常者のレッテルでも貼られたらたまったもんじゃない。
あたしはもぞもぞと動き、ベットから降りるとゾンビの様な歩き方で洗面所へと向かう。そこでは既にセシリアが髪をとかしながら身だしなみを整えていた。
「あら、おはようございます、秋穂さん」
「あ~うん、おはようセシリャさん…」
「あの……セシリアですわ」
「そう言ってなかったけ……?」
「セシリャって言いましたわよ?」
「………ごめん、寝不足でね」
「はぁ……そう言えば昨日は、随分と遅くまで起きておいででしたわね」
「うん……ちょっとね、長電話しちゃった。ごめんね声うるさくなかった?」
「まぁ、私は寝るとき耳栓を使いますので声は気になりませんけれど…」
「そう、そりゃよかった」
はっきり言う。この寝不足人の全てあの鐘音技師の所為だ。実は、あの模擬戦以来〝デファイアント〟を一度も起動していない。その事で色々と得たいデータが取れていないだの、もっと積極的にやらないと困るだの小言を言われ続けたのが一点。そして跡付けて分かったあの3機の情報が一点、そしてそもそもこれが本題ではとも思えるほど長ったらしく聞かされたのが、編入してくると散々言っていた技師の娘さんの事だ。あたしだって新しく入ってくる人物の情報を知るのは有益だと思う。
しかし、基本的な何処生まれとか、どんな性格かといったようなプロフィールだけで充分なのに、「あの子はね。ウチに似てちっちゃくて可愛いの~」とか「実はねウチの子、一夏君が好きでね酢豚ばっかり作ってたんだぁ~」とか……聞かされた8割が無駄情報だって、それだけで疲弊してしまったのだ。
どんなに遅くとも2時までには寝るつもりだったのに、実際寝れたのは3時半過ぎ。
そして今日は1時限目から、織斑先生の厳しいIS実習が待っている。確か飛行操縦の実習だったっけね。まぁそれなら自分が選ばれる事はないだろう。何せここでは自分は、〝専用機持ち〟では無いのだから。そうそう、ちなみに、あの仲直り以来、セシリアはあたしの事をしたの名前で呼ぶようになった。初めの方はやはりこれまで苗字で、あたしを呼んできていた相手だっただけに違和感とどこかこそばゆい物があったが、悪い気はしない。
それはともかく、あたしは水道の蛇口をひねり顔を洗う。寝起きでボケっとしている頭が、冷水によって徐々に冴えわたっていく。それでも眠気は完全にとれないが、一応洗顔前に比べれば目はしゃきっとした。あたしは続いて髪を柔らかめのブラシでブラッシングして整え、腕に巻いていたサイコロの可愛らしいアクセントの付いた髪度どめで自分のトレードマークでもあるポニーテールに髪をまとめた。
あたしは一足先に洗面所を出ると、自分のベットへと戻り制服に着替える。時間にはまだ余裕はあるが、あたしは部屋を出られる準備だけは整えておく。ここら辺の身支度の事は、マド姉に「学生だろうが何だろうが、このぐらいは常識だ」と言って叩きこまれている。マド姉がここにいないからと言って、それを怠るような事は断じてない。全ての支度を整え、あたしは手持無沙汰にベットへ腰掛け両足をブラブラさせる。チラリと見える洗面所では、セシリアのブロンドの髪が見え隠れしていることから、まだ髪のセットに時間がかかっている様だった。
結局時間が、かなり会ったはずなのにセシリアを待っていたおかげで、教室に到着したのはチャイムの鳴る5分前だった。
「それでは、授業を始める。今日は前回の授業でも言った通り飛行操縦の実践を行う」
「難しい説明は後回しに、まずは慣れている人に模範操縦をしてもらいますよ」
ジャージ姿の織斑先生と山田先生が整列するあたし達の前で声を張り上げる。実習は、以前襲撃事件の起きた第3アリーナを使用している。あれだけボロボロだったアリーナも、昼夜問わずの突貫工事のおかげで、もうすっかり元通りになっていた。
2人の教員が、少し打ち合わせをして模範操縦の生徒を選び出す。
「それでは……織斑君と……オルコットさんにやってもらいましょう!」
「え!?」
「はいッ!」
対照的な返事をして、先にセシリアが空へと上がる。流石は候補生、ISの展開速度は一夏のそれとは比べ物にならないほど速い。一夏も一歩後れほどでISを展開すると間髪いれず織斑先生の声が飛ぶ。
「よし……行けッ」
一夏は一瞬、身をかがめジャンプする要領で一気にスラスターを点火し空高く舞い上がる。スペック的にも圧倒的な〝白式〟が〝ブルー・ティアーズ〟よりも見た目で上昇速度が遅いのは慣れてきたといってもまだ一夏の実力不足だろうね。
その後2人は織斑先生の指示通りのコースを飛行し、セシリアが一夏に接近し声をかけるたびに、箒が山田先生からインカムを奪い取って叫んでいた。
そして短い模範操縦もそろそろ終わり。織斑先生が、2人に向かって最後の指示を飛ばす。
「よし、最後だぞ。急降下して完全停止。目標は地表10センチだ」
え? 10!? それはッ
あたしが思わず織斑先生を見やるが、どうやら冗談ではないらしい。この動作、急降下自体はそんなに難しくはない。だが問題は完全停止。迫りくる地面の恐怖感と戦いながら10センチという、僅かな高さを狙い機体を急制動で止める。持っていて損のないテクニックではあるが、流石に……
初めにセシリアが下降してくる。そして3メートル程の所で身体を入れ替えて逆噴射。〝ブルーティアーズは〟10センチぴったりとはいかなかったが、それでも織斑先生の許す誤差の範囲内だったようで特に何を言われるでもなかった。
さて、問題の一夏の番だ。一夏はセシリア同様、急降下を開始する。そしてセシリアとほぼ同じぐらいの位置で身体を入れ替えて―――――――――
―――――――墜落した。
「……何をやっている、馬鹿もの…」
頭を抱える織斑先生視線の先には〝白式〟が落ちた際にできたクレーター。その周りを女子が囲んでいる。中には笑っている子もおり、まさに一夏は泣きっ面にハチ状態だった。あたしは、人込みをかき分けるようにその最前列へ出ると、苦笑いでそれを見やった。
「……いてぇ」
「まぁ……ね。スペック上の出力が上で落下速度もその分速いんだからもっと上で身体を入れ替えないと…」
「そうなのか?」
「そうだよッ!」
何でこの落下で死ななかったのかな。本当にISのシールドバリアとかその辺の保護性能が高すぎやしないだろうか。あ、でも事故死ってのはそれはそれで困るけれど。
あたしがそんな話をしていると、その脇をセシリアが駆け抜けていく。あぁ、恋する乙女だねぇ。……でさ…
「…………」
隣でそんな氷河期みたいな冷たいオーラを出さないでほしい。あたしだけではなく、周辺の女子まで引いちゃってるし……ねぇ、箒。
「……一夏、いつまでそんな事をしているつもりだ」
「え、いや…」
「あら、手すらも差し伸べないあなたにそんな事を言う資格がおありなのかしら?」
「ッ! ISに乗っていて怪我などするものか! 候補生なのにそんな事も分からないのか!」
「要は気持ちの問題ですわッ!」
う~ッと互いに睨みあいながら牽制し合う。なんともまぁ、うらやましいシチュエーション。しかし一夏はむしろ困惑気味でこの場をどう収めるか程度のことしか考えていなさそうであった。
そこへ織斑先生が腕組みをしながら割って入る。
「織斑、後でこの穴、埋めておくように」
「……はい」
「とりあえず上がってこい」
織斑先生はぴしゃりと言うと、軽く箒の頭をコツいた。セシリアはともかく、箒の山田先生への行動が目に余ったためだろう。箒は少し不満げながら踵を返して他の皆にならって列へと戻る。その後、武装展開や何やら色々とあり、一夏が墜落した以外は問題なくその日の他の授業も進んでいった。
その日は、SHRで織斑 一夏がクラス代表になった事が発表され、夜の自由時間に軽いお祭り状態となっていた。
まぁ、あたしは先に失礼したけれど。あ、食べるもんは食べたよしっかりね。ああ、言うのは楽しむのも良いけれど、普段出ない様な豪華な料理に舌鼓をうつに限る。それが終わったらすぐに退散。変に関わると面倒だしね。ちなみに、セシリアや箒は一夏と、新聞部の2年生に写真を撮られていたりしていたっけ。まぁどの道すぐには部屋にもっどって来る事はないだろう。
あたしは部屋へと戻り自分のベットの上へ座り込むと、通信を繋ぐ。今日は、久しぶりの定期連絡の日だ。
久しぶりにマド姉やスコールさん達と話が出来る。昨日あったのはあくまで鐘音技師との、やりとりで定期通信とは違う。この定期通信こそがある意味本当に夜を呈してもやらねばならない事である。ちなみになんでオータムさんの名前が出てこないのかと言うと、実はあの人とはこないだ携帯で話をした。しばらくモノレール駅の近くに賃貸マンションを借りるらしい。時々〝家〟に戻るらしいけれど、何か行事ごとが学園である時はそこで寝泊りをすると言っていた。
そう言えば、オータムさんのIS、まだ直ってないんだよなぁ。なんでも、コア自体が強制的に初期化されたためアクセスに対して敏感になっており何度インストールしてもしっかりとシステムがコアに着床しないらしい。予定ではこの時期には機体が〝上がって〟くるはずだった。それがまだインストールの状態で作業が難航しているというのはあたし達にとって大きな痛手だった。まぁ、運よくいうかなんというか、あれ以来襲撃も無いし、緊急事態も起きていないからそれだけが救いかな。とにかく、あたしは端末を開き、通信を繋ぐ。当然音が漏れないようにイヤホンは必須アイテムだ。
最初はノイズだらけだった画面が次第に鮮明になっていく。そしてあたしが一番聞きたかった声が聞こえてきた。
『この阿呆ッ! それで済むと思ってるのかッ!!』
凄まじいボリュームで……。
あたしは思わずイヤホンを耳から外す。うぅ……耳が……耳がぁッ
そして、端末のボリュームを下げてもう一度イヤホンを戻した。
何だろう、なんかケンカしてるみたいだけれど…ってか相手は誰?
『まぁまぁ、落ち着いてエム―――ってうひゃあッ!』
『貴様、今日という今日は勘弁ならんッ!! 私を差し置いてそんな……そんなうらやましい事をッ!!』
『ちょ―――!! お前それ、消火きってぎゃーーーーーーーッ!!』
何、一体〝ミルヒシュトラーゼ〟で何が起きてるの!? 消火器!? うらやましい!? 言葉の端々を聞くだけでは全くつながらない。そこへ苦笑いをしながら頭を作業員用のヘルメットで守ったスコールさんがやってきた。
『はぁい、秋穂ちゃん』
「……あの……どうかしたんですか?」
『あぁ、これ? いや……これは……』
「?」
『実は……その、オータムの機体まだ直ってこないじゃない? ISが無いと〝家〟と学園周辺の往復も大変だしだったらいっその事向こうで部屋を借りるってことになったんだけれど』
うん、それは知っている。ついさっき思い出していた所だった。だけどそれの何が問題に…
『そのせいで、ちょっとマドカが
「拗ねたぁ!?」
マド姉が拗ねる所なんてこれまで一度だって見た事がない。と言うかそもそも、そんなシチュエーションになった事がないし…。あたしはもう少し詳しくスコールさんに尋ねる。
「あの、よく分からないんですけど、何処に拗ねる要素があったんでしょうか?」
『さっきもいったけど、オータムの機体の修理期間が延びてて、それに伴ってマドカの常勤期間も当然増えるでしょ……これまでは仕方がないと我慢してた様だったけど……どうやら限界がきたみたいで今朝からこんな調子な―――ちょ、ちょっとそれどこの配管ッ!?』
話を要約すると、とりあえず修羅場らしい。まさかこんな事で〝家〟に危険が迫ることになろうとは思ってもみなかったよ。
画面の端々に映るマド姉の顔、確かに怒っているというよりはなんだろ、半泣きで駄々をこねている様な……そんな風に見える。……色々と限界だったんだ、本当に〝色々〟と。
『と、とにかくこんな状況だから今日は私が、あなたの話を聞くわ。マドカ話せる状況じゃないしオータムも帰ってきてるけど鐘音同様マドカを抑えるので手一杯だから』
「は、はぁ」
『それで、どんな状況かしら?』
「あ、はい。織斑 一夏ですけどクラス代表になっちゃいました」
『そう………事の成り行きはともかく余計に目立ち始めてしまったわね』
「はい」
『……ねぇ、そのクラス代表ってひょっとして生徒会と何か関係あったりするかしら』
スコールさんは、それまでの雰囲気を一転させ深刻な表情を浮かべる。生徒会? 確かクラス代表は言ってみれば学級委員長の様なものだから……
「多分……関係してくると思いますけど……」
『そう……これは思っていたよりも深刻な事態になりそうよ』
「え? それは目立つ的な意味ですか?」
『多分まだ入学して日が浅いからそんなにすぐ接触はないと思うけれど……とにかく生徒会の連中には注意なさい』
「……は、はい…」
生徒会に何かあるのかな? スコールさんの様子からして当たり前だが良い予感はしない。とにかく、スコールさんが気を付けろというのだから、生徒会の事は気に留めておくことにしよう。
『他には、何か変わった事はあった?』
「あ、後は……そうだ、友達が出来ましたよ。こっちでも」
『友達?』
「はい、あのイギリスの代表候補生の、セシリア・オルコットです」
『……そう、まぁ、学友は大切よね。だけど……あまり深くは関わらない方があなたの為でもある事は理解できているわよね?』
「それは、はい…」
『それが分かってるなら、良いわ。学生生活楽しみなさい』
「分かりました」
スコールさんは友人と言う言葉に少し表情を曇らせたが、あたしの受け答えに最後は笑ってくれた。あたしだってその辺はしっかりと理解している。けど、そこそこね、そこそこぐらいなら大丈夫だから、きっと。
あたしがスコールさんへの報告を終え談笑に入った頃、再びスコールさんにマド姉の凶牙が襲い来る。
『ズゴォォォォォォルゥゥゥゥゥゥッ!! 私にだまって妹と話すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『え? きゃあッ!?』
スコールさんが、マド姉に肩を掴まれ画面の外へフェードアウトしてしまう。そしてそこに映し出されるは、いつもの凛々しい姿からは想像もできない半泣きのマド姉……
いやごめん、半泣きじゃないや、泣いてる、うん泣いてるわ…
『えぐッ……えぐッ! あぎぼぉぉぉ……お姉ちゃんはなぁ……マドカ姉ちゃんはなッ!!』
「う、うん」
『いっつも、いっつもあんな厳しい事ばかり言っているけど………えぐえぐっ』
「…うん」
あたしは、目の前で叫ばれることにひたすら相槌を入れ続ける。いやむしろそれしかできなかった。言葉が出てこないっていうのが本当のところだ。あまりにもその………ドン引きしすぎて…。
『本当は、本当はッ もっと、もっっと、お前を抱っこしたり姉妹らしくいちゃいちゃしたいんだぞぉぉぉぉぉぉッ!!』
あぁ…………そう……。
だめだ、言葉どころか思考すらできなくなってきた……。人間ってここまで引く事が出来るんだね…。
『うぉぉぉぉぉッ! 秋穂、秋穂ぉぉぉぉッ!』
『くっそ、しばらく伸びちまっってたぜ…』
『うぅ……いてて…まさかパイプが飛んでくるとは思わなかったよ…』
『んなことより、せーので行くぞッ!』
『うん、それじゃ……せーのッ!』
背後から鐘音技師とオータムさんが同時にマド姉に飛びかかる。しばらく画面の前でどたばたと攻防が続いたが、最後に何処からともなくスコールさんが再び現れ手に持っていたヘルメットの一撃でようやく静かになった。
伸びたマド姉をオータムさんがズルズルと引っ張って部屋から出ていく。我が姉ながらなんという情けない光景か。嵐が去りゆき、スコールさんでさえ髪はセットは乱れ、服も着くずれしている。まぁこれは、軽く挨拶だけ残して連絡を切った方が良いのかな…。
「えぇと……そ、それじゃああたしはこの辺で…」
とあたしが、端末の回線切断へ手を伸ばした時だった。慌てて鐘音技師があたしの行動を止めに来た。
『あぁぁぁ、ちょっと待ったぁッ!』
「え?」
『秋穂ちゃん、ちょっと一言あるから待ってッ』
「?」
『ウチの娘の事なんだけれど』
「それは、もう聞きましたよ。ちっちゃくて可愛いから……」
『いや、そうじゃなくて』
はて、鐘音技師の娘さんの事と言えばこういう話ではないのか。あたしは小首をかしげる。そんなあたしへ技師は、わりとシリアスモードで口を開いた。
『秋穂ちゃん、あのさ。ウチの娘と模擬戦でも何でも戦うような事があれば、完膚なきまでに叩きのめしてほしいんだけれど』
「はぁ?」
『いや、冗談じゃなくて結構本気な話だよ? そうだなぁ、後、色々と絡んでってくれると尚よしかも』
「絡む? そんなチンピラみたいな……それに、確か鐘音さんの娘さんって候補生じゃなかったですか?」
『大丈夫大丈夫、秋穂ちゃんぐらいのクロスレンジスキルがあればよゆーだってよゆー』
「……」
昨日と言うかほとんど今朝だけど、鐘音さんと通信した時とは言っている事がほぼ真逆である。流石に仲良くしろとまでは言われなかったが、何故自分の娘を叩きのめせなどと言う親としたらなんというドSな発言そするのか。その意図があたしには分からない。
「だけど、可愛いとか言ってたのは…」
『あ、あれとこれとは
「あ、ちょっと…」
意味のわからない願いだけを残し、スコールさんが背景で手を振る中通信は切れた。
完膚無きって……?
あたしはその日の夜、鐘音技師の『同じ意味』という台詞が妙に気になって結局夜遅くまで眠れなかった。あの人ひょっとしてあたしを寝不足で殺す気なのだろうかと、本気で考えてしまうあたしであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
通信が終わった直後の艦内。ようやく過ぎ去った嵐に皆一安心といった風だった。
「ふぅ……やっと収まったぜぇ…」
「ご苦労様、オータム?」
「意識を取り戻しそうになったから、もう一発殴ったけど良かったよな?」
「仕方がないわよね」
スコールは肩をすくませると、鐘音へ向き直る。
「そんな事よりも、鐘音、ちょっと母親としてはやり方がどうかと思うけれど?」
「そうかなぁ、まぁ、獅子は我が子を千尋の谷へ突き落すともいうし…」
「秋穂ちゃんが千尋の谷ねぇ……」
「じゃあ、可愛い子には何とやらかな?」
「それだと、旅が秋穂ちゃんね」
「ん? なんの話してるんだ?」
スコールと鐘音の会話に、疎外感を感じたかオータムが入ってくる。スコールが手短に2人のやり取りを説明すると、オータムは苦笑いを浮かべた。
「あぁ……なるほどなぁ……けどそれって、あたしらにしてみれば」
「マイナスと言えばマイナスよねぇ」
「ま、親から出来る最大限の愛情ってことで1つ。っていうかそれを分かっていて何も言わなかったんでしょ、ミューゼルは?」
「まぁね。ひとまず秋穂ちゃんがどういう千尋の谷っぷりを発揮するのかも含めて近状報告頼んだわよ」
「あぁ、任せとけって」
「とりあえず、手近なのは今度あるクラス代表選だけれど…」
鐘音は手元の端末で、年間スケジュールを確認する。確かに数週間と開かないうちにクラスの代表が模擬戦を行う代表戦が予定されている。更にその後には学年別トーナメント等、イベントは目白押しであった。そしてイベントが開かれると言う事は少なからず狙われる対象になると言う事でもある。
「代表戦なら、秋穂ちゃんが関わる可能性は低いわね」
「けどよぉ……あの3人」
「えぇ、シュメルツ、シックザール、そしてトレーネ……」
「痛み、運命、涙か……エムや秋穂ちゃんのフロウみたいなコードネームかね?」
「だとしたら、どこかの組織なのでしょうねぇ…」
オータムやエムを圧倒する実力を持つ操縦者と、そして手をかざしただけでコアを初期化してしまう技術或いは能力。それを個人が所有しているとはやはり考えにくい。更に確認された映像から、あの3機には、デザインに共通する部分が多々見られる。しかし、コアの絶対数が決まっている状態でいくら武装が異なるとはいえ、専用機で似た機体を作るメリットは少ない。確かに戦闘の事を考えるとそこへチームワークが重なれば非常に強力な武器になる。しかしだ、ISにはまだ分かっていない事もある。今だって各国が国家予算を傾けて開発に血眼になっている様な物で似たり寄ったりの機体を作っても効率的にISデータを取る事は難しいだろう。そして何と言っても、何処の国にもどの企業にも〝ハイデ・フォーゲル〟〝ゾンネ・フォーゲル〟〝ヴィント・フォーゲル〟なる機体のデータが存在していない事。これが一番スコール達を頭を悩ませている事であった。存在していないのならば極秘裏にでも作られたのかとでも思うのが一般的だが、コレはそうでは無かった。あまりにデータが無さ過ぎる、言ってみれば〝綺麗〟過ぎるのだ。
例えば、いくら極秘裏に作ると言っても物資は調達しなければならない。そのような物資を運んでいたという情報も無ければそもそも、ISの部品らしきものを何か見たという人物さえ誰一人いないのだ。一応、名前がドイツ語なのでドイツメインで探させてはいるが、今のところ有力な情報は全くなかった。
スコールは一旦考えるのをやめ鐘音に指示し、モニターへエムとオータムのISが戦闘中に記録していた映像を表示させる。あまり画像は鮮明ではないが、判別が出来ないほどではない。この映像もスコールや鐘音はもう何分何秒で何がどうなるまで全て暗記で言えるほど見まくった。だがまぁ、今はオータムもいる。実際戦っていた人物がいれば見方も変わるかと思ってのスコールの指示だ。
しばらく映像に目を凝らし一通り見終わった時オータムがある所まで映像を巻き戻しそして止める。スコール達は何か映っているのかと期待したがオータムが気になったのは自分達がそれぞれ止めを刺された攻撃の事だったらしい。
「ここなんだけど」
「うん?」
「この、シュメルツって奴の機体に搭載されてる腕のリボルバーって一体何なんだ? それにあたしが一瞬で距離を詰められたあの機動は…」
「あぁ、あれはねまず、この黒い機体から説明するけど、このリボルバーの中には、圧縮されたエネルギーが貯めこまれてるんだ。それを炸裂させる事で一時的にエネルギー不安定を腕の超超短距離に発生させて敵へ打ち込む。打ち込まれたエネルギーは外部からの衝撃を受けてさらに不安定となり後は一気に弾けて相手が吹っ飛ぶってわけ、でオータムが食らったあの機動は単なる〝
「あれがか!?」
「スラスター1機あたりの推力の桁が違うんだよ」
「あぁ、なるほどなぁ……」
「なるほどって……オータム、分かってる? 行事ごとがあるっていう事は、彼女達の襲撃の的にされやすいという事なのよ? っていうかあなたが言い出したんじゃない」
「……分かってるよ、とにかくしっかり見守って、アドバイスしてやらねぇとな……今のあたしに出来るのはそれぐらいだから」
「まぁだけど、気負いすぎも行けないよ? ウチみたいにこうドーンっと構えてないと~」
「みょうちくりんが、無ぇ胸張るんじゃねぇよ」
「な、ま、またみょうちくりんと言ったな! それに胸は娘よりはあるよッ!」
「年の差考えろやッ!」
「し、失礼だッ!!」
オータムと鐘音が騒がしく言い争いを始める。嵐が去ってもまた何処からか嵐はやってくるようだ。それを見てスコールはふぅッと息衝き、そしてフッと笑う。確かに分からないことだらけではある。だが、そのせいで暗く、シリアスになりすぎるのはやはり良くない。これは前も思った事ではないかとスコールは思う。
そう、彼女達のように、前を向き明日何が起きるか分からない事にビクつかずただ今日、今を生きる。今できる事をやるしかない。スコールはつくづく思う事がある。自分は本当に良い仲間を持っていると。彼女達がいるから自分は支えられているのだと、下を向かずにいられるのだと。
スコールは、微笑みながら日常をしばらく楽しむことにした。どこかの誰かさんが、学生生活を謳歌しているのと同じように………。
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そして翌日、その彼女とは以外にも早く出会った。
「あたしが2組のクラス代表になったからには、そう簡単には勝てないわよ?」
腕組みをして教室の入口に立つツインテール少女。
あたしは、鐘音技師の言葉を思い出す。
『模擬戦でも何でも戦うような事があれば、完膚なきまでに叩きのめしてほしいんだけれど』
完膚無き……ねぇ
『そうだなぁ、後、色々と絡んでってくれると尚よしかも』
んでもって……絡むか。
けれど、スコールさんも何も言わずただ手を振っているだけだったし…。意味のない行動だったらスコールさんが止めたり口を挟んだりしているだろう。
そう考えると、この事はあたしの使命に多少オプションが付いた程度の事。ちゃっちゃと始めて終わらせちゃおう。あたしは、よしっと頷き立ち上がると、彼女の方へと歩み出す。
さぁて、どうしてやろうかね。
彼女へと歩み寄るあたしの顔には、獲物を狙う時よろしく、不敵な笑みが浮かんでいたのであった。
マドカさん好きごめんなさい。思いきりキャラ崩壊をさせてみました。
こんばんわ、のろいうさぎです。
ようやく最後に鈴がチラッと出てきましたが、お母さんのお願いによってオプションが発動ししばらく秋穂と鈴は体面上でも友好的な関係は無いと思ってください(爆
そう言えば獅子は子を千尋の谷へなんとやらということわざの獅子戸はライオンとは全く違う動物だそうですね。
私は真面目に最近までライオンだと思っていました(汗
さて次回ようやく鈴登場! いかにして秋穂は、千尋の谷となるのかッ!
そして鐘音のいう鈴への愛情とは何なのか!?
次回もお楽しみにッ!
では失礼します