IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
……ったく、なんであたしまで殴られなきゃいけないのさ。あたしは、頭にたんこぶを作り、ふてくされながら織斑先生を見やる。
まぁ、何があったかなんて言うまでも無い。殴られたんだ、織斑先生に。なんでかって? そりゃ……
「あたしが2組のクラス代表になったからには、そう簡単には勝てないわよ?」
小柄で控え目な胸を目いっぱい張って、教室の入口で腕を組む少女。あたしはそれを見ながらゆっくりとその少女に近付いていく。そして少し嘲笑気味に見下げるようにして声をかけた。
「ねぇ、そこまで言うってことは、あなた、強いの?」
「ん? 誰よあんた?」
「ねぇ、強いの?」
あたしは、それが演技だと言う事を悟られぬように初めの方はあまり長く言葉を話さない。まずは、あたしが嫌な奴だと言う事を相手に植え付けないとね。まぁ、彼女は一夏の幼馴染だそうだから、一夏側からも何か言われる事はあるだろうけどその辺も予定に織り込み済みだ、問題はない。そして案の定、一夏があたしの言動を咎めに入る。
「お、おいおい、なんでそんな刺々しく…」
「あたし、どうも自信過剰な奴あんまり好きじゃないみたい」
「はぁ? ねぇ一夏こいつ一体誰なの?」
「いや、こいつは東雲 秋穂ッて言って…」
「そいつが何なの、腹立つ奴ねッ!」
「腹立たせているんだから、当然だよね」
「このッ!」
鈴があたしの胸倉を掴もうとした時、その手をいつの間にかやってきていたセシリアが掴み、間に箒が割って入る。あぁ、そういえば、一夏と馴れ馴れしくして面白くないのは2人も同じなのか。これはこれは♪ 思わぬ加勢にあたしはにんまりと笑った。
「何すんのよ、この金髪ロールケーキッ!!」
「ろ、ロールケーキなんて初めて言われましたわッ!」
「セシリア、のせられるなッ!」
「それに、あんたも誰? 怖い眼ねぇ、前世は人殺しか何か?」
「き、貴様ぁッ!!」
………前言を撤回しよう、あんまり増援としては使えないかも……。あたしは速やかに笑みを消し2人に少しご退場願うと改めて鈴へ向かう。
「と、とにかく、そういう自分の強さを鼻にかけたようなのって好きじゃないんだよね。分かる? 言ってみれば不愉快なわけ」
「ふん、あんた秋穂とか言ったわね。そこまで言うならあんたの方こそ強いわけ? 言っとくけどあたし、別に鼻にかけてるわけじゃないし。本当に強いからね」
彼女が自分の強さを誇示しているなんて思っちゃいない。むしろこの自信は〝本物〟の証だろう。それぐらいの事あたしにだって分かる。しかし、分かるからと言って止めれない。前にも言ったが鐘音技師の進言にスコールさんは口を挟まなかった。という事は、これには何か理由があるのだろうし、あたしだってここへ編入すると言い出した時もISを工面してくれたり推薦状を偽造してくれたりと何かとお世話になりっぱなしだった。それに鐘音技師も、寝不足の原因を作ってくれたものの、ISの整備で少なからず迷惑をかけている。だったら少しでも、あたしに関係する人のためになりたいと思う事は自然の流れだろう。
だからあたしは、口を開く事を、そしてこのはたから見れば安い挑発止めない。それがあたしの〝家族〟のためになるのだから。
「そういうのが、鼻にかけてるっていうんだよ分かる? えぇと……名前なんだっけ、正直隣で良い時だけ大国ぶる様な国の人間になんて興味ないからさ、仮に有名人とかだったらごめんね」
「あ、あんたねぇッ!」
「あ、怒っちゃった? 怒ったってことはあれだよね、やっぱり鼻にかけてたって事かな? それともあたしがあなたを知らなかったからかな?」
「――――――ッ!」
「おいッ! 鈴ッ!!」
我慢の臨界点を超えた鈴があたしに飛びかかろうとしたまさにその時だった。教室と、そして廊下に怒号が響き渡った。
「何をしているか、貴様らはッ!!」
なんてタイミングのよさなのか、我らが1組の誇る魔王。織斑 千冬の降臨だ。この状況、鈴がまさにあたしに殴りかかろうとしているこの様子を見て、裁かれるのはどっちかなぁ~? あたしは鈴へ向かって余裕たっぷりに笑みを見せる。そしてそこへゆっくりと織斑先生がやってきた。
「凰……その手はなんだ?」
「ち、千冬さ―――――っでッ!?」
「織斑先生だ」
はい、まず出席簿1発~。ふふッ、こう言うのって見る方は楽しいね――――――って!?
「あだッ!?」
「貴様も何を笑っている」
「い、いや」
「凰、とりあえず手を離せ」
「だけど、ちふ……織斑先生こいつッ!」
「凰?」
「………ッ!」
鈴は舌打ちと同時にあたしの胸倉から乱暴に手を離した。あたしは、わざと律儀に襟を正し鼻を鳴らし鈴へ無言で踵を返した。この行動、鈴にとっては相当神経を逆なでているはずだ。ちとやりすぎたかな? でもごめんね、これ頼まれごとだから…。あたしは心の中で詫びると自分の席へと戻り着席する。鈴はまだこちらに睨みを利かせていたがもう一度織斑先生に軽く叩かれて、渋々自分のクラスへと戻っていった。
まぁ、1発もらってしまったが最低限の被弾だろう。後はさてどうするか……と思考を巡らせようとした瞬間、頭部に超が付くほどの激痛が走る。
気付けば、真横に織斑先生が立っており、あたしは机に突っ伏していた。あたしが涙目で顔を上げると、あたしと同じような状態になった一夏、セシリアそしてあたしの前の席の箒の姿があった。
「面倒事を起こすな 面倒は織斑だけで十分だ」
「な、なんであたしが……」
「わざわざ出張ってきたのは凰の様だが、お前が……いや、お前達が事態をややこしくしたんだろう? まぁ天誅だと思え、殴られた者は全員反省、いや猛省するように」
「……はい……」
……というわけなのさぁ…。全く、良く言えば喧嘩両成敗なのだろうが、どちらかといえば成敗の割合が若干あたしの方が重たい気がするよ。とりあえず巻き込まれた方々、申し訳ない。
だがそうは言っても、〝鈴のお母さんに頼まれました〟なんて事は、口が裂けても言えるはずなどない。このオプション、ひょっとして思っていた以上にハードなのかもね……。あたしの小声だがどこか乾いた苦笑いと共に、授業は粛々と進んでいくのであった。
そんな一件のあった日の昼休み。一夏が食堂で改めてセシリアや箒に鈴を紹介していた。まぁあたしはもめごとになるって理由で、一夏と話し合った結果とりあえず違う椅子で1人ポツンとラーメンをすすっている。鈴は時折こちらを睨んだりしていたが、座っていた所が一夏の横という事もあって中々上機嫌で会話をしていた。
しかし、まぁ1人というのも案外悪くはない。何せあたしがいた所は壁際で、すぐ後ろに席はあるが、後ろの生徒達はガールズトークでこちらを気にする様子も無い。こう言う時に、整理できる情報は整理しとかないとね。あたしはラーメン片手に端末を取りだすと、〝凰 鈴音〟という人物の情報を改めて整理していく。何で整理なんてしなくちゃならなくなったかって言うと実はこないだ連絡の時、どうもあの人どさくさまぎれで鈴のデータを一括送信してくれやがりましてね。整理しないと端末の容量を食って仕方がないからだ。情報は少なくてもダメだが多すぎるのも良くはない。きちんと精査して使える情報だけをしっかりと選び出さないとね。……本当は送る前にそれをやっておいてほしかったんだけど……って、嘆いても仕方がないか。
えぇっと、何々、凰 鈴音、通称〝鈴〟…身長150センチ、体重ヒ・ミ・ツ……まぁいいや体重なんて。で……お、こっちのデータに特徴が載ってる。これは必要なデータかな?
う~んと、『鈴ちゃんは、口よりも手の方が早いから格闘戦が得意♪ あと可愛い』『鈴ちゃんは、確かに格闘戦も得意だけど、射撃もそこそこできる、あと可愛い』
…………これ、何で箇条書きなんだろう。そして、全ての項目に〝あと可愛い〟が付いている。……これひょっとして情報が多いんじゃなくてこんな無駄な書き方をしてるからスペースを無駄遣いしてるだけなんじゃ……。ってことは、これ消せないよね……。しかも全部自分でまとめ直さないといけないし、とにかく容量食っているからいちいち端末から部屋のPCに入れなおさないといけないし……
あ、あの親馬鹿技術者ぁぁぁぁ! 少しでもあの人のためにだなんて思うんじゃなかったッ、やっぱり面倒事しか持ってこない!
今度からあの人からの通信には、気を付けよう。こんな事、これっきりにしてもらわないと困る。こっちにもやらなきゃいけない事があるからね。あたしは、整理を諦め端末をポケットに戻しラーメンを食べ終わると返却口へ食器を戻し、次の行動を考える。正直、鈴の情報は鐘音技師の情報を当てにしていたのだがその当てが完全に外れてしまった。言葉と彼女の纏う雰囲気を考えてみれば相当の実力者だと言う事は理解できる。だがそれが一体どのぐらいのレベルなのかまでは分からない。
だが下手に挑発して模擬戦なんて流れになるのもそれはそれで不味い。セシリアとの模擬戦だけでも、汎用機で専用機と渡り合ったとしてそれなりにあの後騒がれたのだ。また専用機持ちと模擬戦なんてことになったら………って待てよ? 専用機? セシリア? ははぁん……良い事思いついちった♪ あたしはほくそ笑むと、足早に一夏達のもとへ向かうのだった。
「ん!? 何しに来たのよあんたッ!」
あたしを見つけた鈴の一言は予想通り辛辣なものだった。まぁあんな事言ったし、織斑先生にも叩かれたしこの態度は当然と言えば当然だけれどね。あたしはそんな鈴を尻目に、一夏の横に座っている2人、特にセシリアを見やる。彼女の事だから、自分から色々と言ったあげく逆に色々と言い返されてしまったのだろう。彼女の顔はふてくされて、いやふてくされ切っていた。シチュエーションとしてはまさに最高だね。それを確認するとあたしはようやく鈴へ向き直る。
「そんな目で睨まないでよ、り~ん~ちゃん」
「うわ、気持ち悪ッ!? 変な呼び方しないでよね」
「う~ん、人がせっかく友好的に話しかけてあげてるのに」
「何が友好的よ、あんたの友好的はね、いちいちムカつくの!」
鈴は、ダンっと机を叩き身を乗り出す。その行動に一夏は鈴を止めようと肩を掴むが鈴はそれを振り払った。セシリアも箒もその様子をジト目で睨んでいる。
うんうん、〝互いに〟良い感じにヒートアップしてくれているようだ。これはますますやりやすいね。
「友好的がムカつくって言われてもなぁ……そりゃこっちも同じだよ」
「どういう意味よ」
「だってさ、いきなり教室に来て、あたし強いです~なんて宣言されたらイラッとこない? あなたなりの友好的だったのかもしれないけれど」
「……強いのは事実だしそれ言って何か問題?」
「けど、それって結局言葉尻の強さでしょ?」
「言葉?」
「強いっていうだけなら簡単だって言ってんの」
「な、何ですってぇッ!」
鈴はもはや完全にあたしのペースに巻き込まれている。熱くなると冷静さが欠けて判断が鈍るのが難点だ。さてもう一芝居ってところかな。鐘音技師の情報の中に『鈴ちゃんは、口よりも手の方が早いから格闘戦が得意♪ あと可愛い』って言うのがあった。これから判断するに鈴の次取る行動は1つだ。
「だってそうでしょ? あたし達あなたの強さ見てないもん」
「それはッ……良いわよ、だったらあたしとあんたで模擬戦でもやってみる? ってかやろうじゃんかッ!」
来たッ! その言葉を待ってたんだッ! しかしここで喜んでボロを出すのはまずい。むしろここからが大事なんだ。あたしが彼女と戦っちゃあいけないよね。あたしはわざとらしく、動揺すると今度は若干弱腰な言葉を選び出す。
「ま、待って待って!? なんでそうなるの?」
「あんたが言ったんでしょ、見てないって。だったら見せてやるって言ってんのよ!」
「それは確かに言ったけど、だからってなにもあたしが戦わなくてもッ」
「あんたね、ここまで言っといて引き下がれると思ってんの!?」
「けど、あたしと凰さんじゃレベルが違いすぎるよ!」
「そんなの分かりきってた事でしょ!」
「だけどそんなので戦って勝っても、周囲に強さは認識されないんじゃない?」
「……どういう事よ」
鈴はいら立ち気味に聞き返す。さていよいよお出番ですよ、大英帝国のお嬢様♪ あたしは彼女に申し訳ない気持ちを持ちつつも鈴に提案する。
「つまり、レベルが同程度。凰さんが候補生なら相手も候補生クラスじゃないと」
「候補生?」
いつの間にか出来ていた人だかりと、あたし達主要メンバーの視線が候補生という単語で一点に集約されていく。そこには、ふわりとしたブロンドの髪をたたえた、お嬢様がキョトンとした顔で座っていた。そしてワンテンポ遅れて素っ頓狂な声を上げた。
「わ、私ですのッ!?」
「だって、候補生だし」
「で、ですけど私は別に…」
「あれあれぇ~……セシリアさん、怖気づいちゃった?」
「むッ! そ、そんな事は…」
「そうだよね、そうだよね~なんて言ったってセシリアさんは襲撃者にも臆せず勇敢に戦った〝強い〟候補生だもんねぇ~」
あたしはわざと〝強い〟を強調してけしかける。学園で初めてできた友人に対してホント心苦しいけど……ごめんよ…
「つ、強い?」
「そうだよ! セシリアさんは強いよ、なんてったって候補生になるぐらいなんだし! 実はあれでしょ? もう将来約束されていたりして」
「ま、まぁそれは」
「わぁ~凄いよ!」
「そ、そうですわ……そう、そう! 私は凄いのです! 良いでしょうこのセシリア・オルコットの前では、いかに中国の候補生とて足もとにも及ばないと言う事を証明して差し上げましょう!」
「だってさ」
「ふん、ま、あんたの言う事も一理よね。確かにトーシローをいたぶっても自慢にもなりゃしないし良いわよ、あんたで。その代わり、あたしがその金髪ロールケーキを一瞬で倒したげるから、東雲、あんたこれまでの事全部ひっくるめて頭下げてもらうかんね」
「良いよ別に、けど彼女強いからなぁ~」
「そうですわよ、鈴さん? 私は強いのです。あなたが考えるべくは勝ち方では無くて、いかにして無様な負けを回避するかではなくて?」
「言ってなよ。とりあえず長々引き延ばすのも面倒くさいし今日の放課後でどう?」
「分かりましたわ、それではアリーナでお会いしましょう では、御機嫌よう」
……ここまでチョロいとは……。あたしゃ思って無かったよ。けど、これである程度正確に彼女のデータを取る事が出来るよね。
セシリアは、腰に手を当てるお決まりのポーズを取りながらと高笑いしてその場を去っていく。その様子を見て鈴がフンッと軽く鼻を鳴らし一夏へと向き直る。
「ねぇ、あいつって、いつもこうなの?」
「ま、まぁな……」
「あっそ……」
鈴はそれ以上追及せず、あたしに再度睨みを利かせながら乱暴に椅子に座る。
自分が誘導したようなものだが相手へ模擬戦で白黒つけようという発想は、手が早い云々の前によほどの自信がなければ口にできない言葉である。やっぱり、彼女は……〝本物〟か。
さて、一応、負けた時用に部屋戻って頭下げる練習でもするかな。
あたしもその場から退場しようと踵を返した時、ふと素朴な疑問が。
そう言えば、やけに箒が静かだけれど…。
あたしはもう一度振り返り、箒を見る。箒はやれやれという表情でお茶をすすっていた。あたしは箒に近づくと耳打ちをする。
「ねぇ、やけに静かだったけど、どうしたの?」
「ん? どうもしない。ただ私としてもただ強い強いとだけ言うこいつが、どれほどの実力なのかには興味があったからな」
「ふぅん」
「それに」
「それに?」
「私も、あいつは好かん! セシリア程の腕があればいくら中国の候補生と言ってもな」
「なるほど」
まぁ、確かにね。彼女は一瞬で片づけるとか言っていたけど、まさかセシリアが一瞬で片づけられる事なんて――――――――――――――
「きゃわぁんッ!?」
ガシャァァァァァン
「「――――――――――――えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!! 負けたぁぁ!?」」
もうもうと上がる、砂煙と、得物〝双天牙月〟を構え空中で堂々たる姿を見せる鈴。そしてアリーナにはあたしと箒の悲鳴が綺麗にハモった声が響き渡った。
放課後、場所は第2アリーナ。自主練用に開放されており、毎日多くの学生がISの鍛錬に汗を流す。あたし達が来たときはまだ放課後が始まって間もなかったため、人が少ないうちに始めようと言う事で始めたのだが……。
戦闘開始僅か3分の出来事。初めは、多分様子見しながら入るんだろうなと思っていたのだが、何が…。様子見どころかセシリアの射撃を多少の被弾は気にせず飛び込み、後はクロスレンジでやりたい放題。セシリアの近接格闘能力は射撃に比べれば非常に残念だ。内側に入られてしまえば手も足も出ない。だがそれは裏を返せば彼女の射撃の腕を持ってしても鈴を止められなかったということになる。かなり強引と言えば強引だったが、格闘戦主体の機体だけに馬力はあるようだ。
けれど……これじゃあ。
他に武装が何が載っているとか何が苦手なのかが分からない。もう少し良い戦いが出来ると思ったんだけどなぁ。あたしが想定外の事に頭をかいていると目の前に鈴が降り立つ。
「さ、謝ってもらおうかしらね?」
「……こんなはずでは…」
繰り返しになるが、あたしはセシリアがこんなに早く負けるとは思っていなかった。最低でも10分はかかると踏んでいた。だから一瞬じゃなかったねとか言ってはぐらかすつもりだったのだが、結果は3分、しかも候補生相手に。一瞬という言葉を使うには充分すぎるタイムだった。
「さぁ、約束したはずよ?」
「……はぁ……分かったよ約束だもんね」
あたしは、ゆっくりと鈴へ頭を下げる。当然と言えば当然だけどまぁ、本気で謝る気は無いけどね。こんな所で和解してしまったらそれこそ意味がない。和解は出来るなら一戦どこかで戦った後でなければ。
「ごめんなさい」
「ふんッ、分かれば良いのよ。これからあまり大きな口を叩かないことね」
鈴はISを待機状態に戻すと横で見ていた一夏の元へ駆けよる。そして一瞬で表情と声色を変え自慢げに話し始めた。
「一夏、見てくれたッ?」
「あぁ、見てたぞ? すげぇじゃん、セシリアだって弱かねぇのに」
「ふふ~ん、ま、あたしにかかればザッとこんなもんよ♪」
これに不快感を示したのが箒と、負けたセシリアだ。セシリアの場合は距離があったが、ISを待機状態に戻したのが鈴が一夏に話し終えた時であったためその声をハイパーセンサーが拾っていたのだ。セシリアは痛む個所を抑えながらも、箒と一緒に睨む。だが鈴はそれに構うことなく一夏と談笑を続けていた。その様子を見る限り意識して無視しているわけでない分、性質が悪い。あたし自身も一夏の事なんてどうでもいいが、無視されるのはあまり好きじゃない。その時またもあたしが閃いた。そして箒の小脇を突っつく。するとその行動を見ていたのだろうセシリアも会話に加わってきた。
「なんだ?」
「あのさ、この状況で凰さんに一矢報いる良い方法があるんだけど」
「何?」
「それは一体なんですの?」
「それはね……ごにょごにょごにょ~っと……どう?」
「あぁ、なるほど」
「確かに、それは箒さんにしかできませんわね。私も彼女には言いたい事はたくさんありますがココは箒さんにお任せしましょう」
「フッ、任せておけ」
箒は笑うと、一夏へと歩み寄る。鈴は箒が近づいてくることに気が付くと目じりを釣りあげ、邪険に扱う。
「何しに来たのよ。いまあたし一夏と話してるんだけど」
「お、おい鈴、あんまり刺激するなって……」
「良いじゃん別に、幼馴染って言ったってあたしだって幼馴染。立場は対等だもん」
「立場ってなんだよ」
それは思う。幼馴染に立場の上下関係なんてあるのだろうか。
「と、とにかく、今あたしは話ししてるのよどっか行ってくんない?」
「あぁ、別に私はお前と違って一夏と〝こんな所〟で長話をする必要はないからな、ただ一点、言っておきたい事があるだけだ」
「じゃあ、早く言ってくんない? 時間勿体ないからさ」
鈴は、あくまで箒を邪魔者扱いして、速やかに立ち去るように促しす。だから箒は手短にだが破壊力のある言葉を一夏へそして〝鈴へ〟と投げかけた。
「一夏、今日は私はこれから部活へ顔を出さねばならんから、先に〝シャワー〟を使っても良いぞ、汗は書いていなさそうだが一日の汚れを付けたまま〝部屋〟を〝いつも〟の様に闊歩されてはかなわなんからな」
「あ、あぁ分かった」
「では、また
「おう」
話が終わると同時にあたしとセシリアは箒に駆けより一緒にアリーナを後にする。
もちろんだが箒にこれから部活へ行く用事など無い。要は、一夏と箒の部屋が同室という事さえ伝われば理由等どうでもいいのだ。そしてその効果は絶大でハイパーセンサーを起動させ聞き耳を立てていたセシリアが成功を告げるようににんまりと笑っていた。
「フフフッ、上手く言ってるみたいですわね。声色だけ聞いていても、あの方が顔をひきつらせて、一夏さんに詰め寄っているのがわかるぐらいですわ」
「だろうな。こういう悪知恵の回転だけは秋穂は早いからな」
「〝だけっ〟てのは余計だよ。まぁあたしも無視されるのは気持ちいもんじゃないしね」
「負けた事は悔しいですけれど、少しだけモヤが晴れましたわ」
「そうなの? じゃあもっと晴らしに、ラウンジのカフェでケーキでも食べようか!」
「ケーキか。うむ、悪くないな」
「学園のケーキは品ぞろえも良くて、スポンジやクリームそして果物に至るまで質も高く素晴らしいものばかりですものね。その話私も乗りました!」
和気あいあいとアリーナを後にするあたし達。鈴に一矢報いた後のケーキは、いつも以上においしく感じた。
思った以上に長話をしてしまい、箒としては、あのデタラメの事もあって結果的には良かったのだろうが寮に戻った時既に日は落ち切っている。あたしとセシリアは同じ部屋なので、箒を部屋まで送り届けることになった。
「すまないな」
「いいよ別に、あたしらも同じ方向だしね」
「ですわね」
事実、箒の部屋が1025、そしてあたしらの部屋は1021。壁が邪魔してて箒の部屋から、あたしの部屋は見えないが番号的には4つしか違わない。同じ方向も何もご近所さんレベルだ。あたし達は階段を上がり、角を曲がる。すると箒が自分の部屋の異変に気が付く。
「ん?」
「どうしたの?」
「扉が……開いている?」
「閉め忘れているだけなのでは?」
「いくらなんでもそこまで一夏でも抜けてはいないだろう」
箒がドアノブに触れようとした時、中からつい数時間前聞いた声が聞こえてきた。
「だから、今日からここにあたしも住むって言ったの!」
はぁ!? 今なんて!? あたしが疑問を口にするよりも早く箒はドアを勢いよく開いていた。そして部屋の中にいた人物に向かって声を張り上げた。
「お前、ここで何をしている!!」
「ほ、箒!」
「一夏、これは一体どういうことだ! 何故私達の部屋にこいつがいる!」
「それは……」
「今日からあたしもルームメイトだから。あたしも幼馴染だし良いよね」
「幼馴染? それが一体どう部屋を移る事と関係してくるんだッ」
箒は、怒りにまかせてまくしたてるが鈴はどこ吹く風、怒って言い返すどころかあしらっている様な口調だ。しかし、確かに箒の言うとおり何故幼馴染とルームメイトが関係しているのだろう。セシリアも同じく小首をかしげている。あたし達は、静かに部屋へ入ると言い合う2人を前に困惑する一夏の肩を叩く。
「ねぇねぇ、一夏君。幼馴染に凰さんはこだわってるみたいだけど…」
「あ、あぁ実は…」
一夏は手短に要点を話す。なるほどねぇ、遠因となっているのは間違いなくあたしが箒に入れ知恵したあのデタラメだった。箒が一夏と同じ部屋という武器を使って一矢報いたつもりだったのだが、どうやらそれの説明で一夏が、〝箒も幼馴染だし…〟といった類の発言をしてしまったため、鈴は〝幼馴染ならルームメイトになっても良い〟という持論を振りまわして部屋に押し入ってきたという。あたしは何度も言うが一夏なんてどうでもいい、ただ箒やその周りには出来るだけ迷惑はかけたくはない。出来れば自分が一夏を殺すまでは、当然距離は図るが普通の友人として接していたい。とはいったものの、正味こうなると後は当人同士の話し合いで決するしかないんだよね。
この中で一番一夏に関係のある人物ではあるのだが、そんなもの言えるはずもないし、言ってしまったらあたし自身もそこで終わりだ。それに何より、今回この部屋の事なのだからいくら血が繋がっていると言えたとしてもそれが、解決につながるとは到底思えない。
あたしが、一応の責任を感じ、どうしたもんかと考えている間にも箒はヒートアップしていく。
「だから、あんた幼馴染なんでしょ、あたしだって幼馴染。だから同室でもオッケーだっつってんの」
「訳の分からん持論を振りまわすな、迷惑だ! 部屋は変わらんし3人で相部屋も認められるか! とっとと部屋へ戻れ!」
「あ、そうだ一夏! あたしとの約束って覚えてる?」
「ま、また無視かッ! かくなるうえはッ!」
ん? 今、某将軍に追い詰められた悪役の台詞が聞こえたような―――って箒それはッ!
箒は、もう完全に頭に血が上ってぷっつんしたらしい。一夏の煮え切らない態度に加え鈴の傍若無人さに怒りゲージはMEGAMAXだろう。箒はなんの躊躇なく、ベット脇に立てかけてあった竹刀を抜き放つと防具も何もつけて居ない鈴へその凶牙を振り下ろす。
―――――まずッ!
バシィィンッ!! と、ものすごい音が部屋に響き渡る。だがその後、しばらく誰も声を発しなかった、いや発せられなかった。目の前の光景が誰も信じられないのだ。
「……そんな、これほど」
ようやくしぼり出た言葉でセシリアのこれが目いっぱい。だがこれが今のあたしを含む皆の意見ではないだろうか。
何より一番信じられないのは箒だろう。箒が振るった一閃。正直あたしは剣道は詳しくないがそれでも見ただけでとっさの判断だけでどうにかなるものではない。それを鈴はあろうことか、ISの部分展開で受け止めていたのだ。
ISは確かに最強の兵器である。しかしそれを扱うのは人で、汎用機でない限り、普通人がコールしなければISは起動しない。つまりISの展開速度はどれほど速かろうとも、人の反射速度の限界を超えられない。もっと言えば、鈴は今間後ろから切りつけられていた。その攻撃に反応するためには、目でとらえ、攻撃だと認知し、動作を起こさなければならない。コンマ何秒の世界でそれを正確に、冷静に行うことの難しさは、近接戦闘というフィールドで戦っているあたしにもよく分かる。一瞬の判断ミスが命取り。この一瞬の攻防で判明した鈴のレベルの高さ。やはり彼女は〝本物〟だ。
竹刀を受け止めた鈴は、箒へこれまでとは違う類の怒りをあらわにして静かに言う。
「……あんた、これ、生身の人間相手だったら死んでるわよ」
「う……」
「気をつけなさいよね。まぁいいけど」
箒が竹刀から力を抜くと同時に鈴もISを待機状態に戻す。もう少し怒ると思っていたが、やけにあっさりと。サバサバしているというかなんと言うか、あまり根に持つタイプではないようだ。
しかし、どうしてくれようこの空気。後に残ったのは気まずさしかない。箒は失態で声をあげようともしないし、あたし達はあたし達で元々部外者で興味本位な所もあったから口を開くようなタイミング自体がそもそもない。そうなると鈴だが、彼女も彼女で一夏の返答を待つように自慢げに彼を見ている。あいつに任せるのは、
「そ、そう言えば、鈴お前さっき約束がどうとか言っていなかったか?」
一夏が、話題を変えようとして切りだしたこの話が、この後余計に話をややこしくさせる事となる。
部屋に竹刀にも負けない音が響き一夏が張り倒される。そして涙を浮かべ部屋を飛び出していく鈴。頬をさすりながら起き上がる一夏に止めを刺したのは、ルームメイトの箒だった。
「馬に蹴られて死ねッ!」
「ぐはッ!」
心に深刻なダメージを負った一夏が床に倒れ込む。その後あたし達は、ひと段落付いた所(?)であたし達は箒の部屋からおいとまする。こりゃ、いつになるか分からないけど鈴とのクラス代表選は荒れそうだなぁ。
あたしとセシリアは共に同じような事を考えながら部屋へと戻って行くのであった。
翌日、生徒用玄関前の廊下に黒山の人だかりが出来ていた。なんぞあったのかとそこへ行ってみる。人ごみの中をかき分け集団の最前列へ到達するとそこには大きな張り紙があった。それはトーナメント表でそれぞれクラスの代表者の名前が書かれている。そして当然その中に一夏の名前もあった。
だが、あたしはその対戦相手を見て思わず苦笑いをこぼした。なぜならその対戦相手が―――――――――
―――――鈴だったからだ。
タイトルは、鐘音技師の書き方を引用した次第です。
こんばんは、のろいうさぎです。
セシリアが好きな筆者ですが、鈴ちゃんもなかなか好きなキャラではあります。
しかし鈴は、表情豊かで動き回るので描写が難しいですね。ただ感情表現が豊かなので、会話は勢いに任せて言っちゃうみたいなところもあって、そう言う所は書いていても楽しいですね。
さて次回はクラス対抗戦! 鈴と一夏はどうなるのか? そして秋穂はどのように鈴へそして対抗戦へ関わっていくのか。この対抗戦を通じて鐘音の鈴へ対する想いも描いて行くつもりです。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
では、また次回お会いしましょう!