IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第13話~波乱のクラス対抗戦~

 アリーナの上空で、2機のISがぶつかり合う。片やブレードを展開した白いIS〝白式〟、片や何も武装を展開せずボクシングスタイルで向かい合う黒いIS〝打鉄〟。普通に考えればスペック的に圧倒しているはずの〝白式〟が量産機の〝打鉄〟に負けることなどあり得ないし、あってはならない。だが実際は違っていた。〝打鉄〟は〝白式〟に易々と肉薄すると素早く左ジャブを2発まとめて繰り出す。更にそこから左右のコンビネーションに入るその様子は、誰が見ても間違いなく〝打鉄〟優勢であった。結局この勝負は、勝敗こそ付かなかったものの、終始〝一夏〟が〝秋穂〟に圧されるという何とも情けない結果に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ……疲れたぁ…」

「そう? あたしはそうでもないけどね」

 

 ピットへと戻ってきて一夏はISを待機状態に戻し、あたしは〝打鉄〟から降り、2人ともその場に座り込む。鈴との一件、そして鈴との対戦が決まったその日の放課後。あたしとセシリア、そして箒の3人は一夏の特訓につき合っていた。そして今はセシリア戦での格闘戦をかわれたあたしが、一夏の相手をしている。というか……かわれたというよりかは、箒とセシリアではいつまでもいがみ合って訓練にならないと言うのが本音だけどね。

 

 

 そんなこんなであたしが相手をしていたんだけれど結果は……惨憺たるものとはこの事を言うのか…確かにあたしが一緒に訓練をし始めた時に比べればレベルは格段に上がっている。箒やセシリアの教え方が良いのかそれとも、自身の努力か、それは分からないがとにかく。〝白式〟使っていて〝打鉄〟を捉えられないなんて信じられないよ……

 

 

 いくら〝打鉄〟が使いやすい機体だと言ったってそんなの専用機に比べれば足もとにも及ばないレベルだ。それなのに…

 

 あたしが、深くため息をついた時、タオルとスポーツドリンクを持ってセシリアと箒がやってくる。 

 

 

「お疲れ様ですわ」

「あ、ありがと」

「一夏、ほらタオルと、ドリンクだ。……にしても情けない」

「うッ……し、仕方ねぇじゃねぇか……秋穂強ぇし」

「それが情けないというのだッ! 剣道のみならずISでも女に後れを取るなど!」

 

 

 箒がいら立ち気味に声を荒げる。これだけを聞けば、ただ箒は負けたことに怒っているんだと思われるかもしれないけれど実際はそうじゃない。鈴に一夏が叩かれた日以来ずっとこうなのだ。事あるごとに一夏に苛立ち、声を荒げる。まぁその何でかは大体想像が付く。おおよそあの鈴との約束の件だろう。部屋では一夏がよく覚えていなかった事もあって実際どんな約束だったのかは分からないが、もう1人の幼馴染と自分が知らない約束を一夏が結んでいたという事は事実である。その事が恐らく箒の心に引っかかっているのだろう。更に箒の性格上それを素直に一夏に聞ける訳も無い。そのため自分でもどうしたらいいのか分からず更にいら立ちが増していくという悪循環に陥ってしまっているようだった。

 

 

「だから、仕方ないだろ! 俺は中学の時は帰宅部皆勤賞だったんだから!」

「そんな物が、自慢になるか馬鹿!」

 

 

 後はまぁ、御覧の通り。この状況を延々ループして時間が過ぎていくのが最近の2人の会話だった。これにはもう言葉は出ない。あたしはまたため息をつくと、同じようにため息をもらしながら頭を押さえるセシリアに話しかけた。

 

 

 

「毎度のことながら飽きないって言えば少しは良い風に聞こえるけど、はっきりって時間の無駄遣いだよねこれ」

 

「なんと、中身の薄い会話なのでしょうか……」

「こう言うのセシリアさん良くやってるじゃん」

「そんな事……ありますわね、今後気をつけませんと。それはともかく」

「うん?」

「彼女……えぇと鈴さんと仰ったかしら、あの方と一夏さんはどうなんですの?」

「向こうも向こうで、顔すら合わそうとしないね。こないだ見かけた時も凰さん露骨に顔そむけていたし」

「そうですか」

 

 

 あたし達は言いながら一夏と箒を見やる。自分達はそれほど長い会話をしたわけではないにしてもまだ2人は同じ様な内容の良い争いをしている。はぁ、この言い争いまだしばらく続きそうだし…

 

「セシリアさん、あたしシャワー浴びてくるよ」

「あ、でしたら私も。今あのお2人に声をかけてもとばっちりを食うだけでしょうし。ロッカールームで備え付けのTVでも見ていた方がまだ有意義に時間を過ごせそうです」

「そう、じゃ、とりあえず戻る――――ん?」

「あら?」

 

 

 あたし達が、2人に踵を返した時ピットの出入り口に人影を見つける。その人影は腕組みをしており、ふふんと不敵な笑みをたたえていた。

 

 

「凰さん、何やってんの?」

「というか、ここは関係者以外は立ち入り禁止のはずでは?」

「……あんた、あたしを何だと思ってんの? 学園の生徒でしょ? だったらバリバリ関係者だっての。そんな事より一夏いるんでしょ?」

「まぁいるけどね、あそこに」

 

 

 と、あたしが指をさすよりも早く鈴は、一夏と箒の間に割って入っていた。ホントフットワーク軽いね。

 当然、痴話喧嘩だろうがなんだろうが行っているのは会話だ。その会話をこんな強引な手段で邪魔されて今の箒が黙っているとは思えない。箒は怒りで顔を真っ赤にしながら鈴へと詰め寄る。

 

「お前ッ! 今は取り込み中だ後にしろッ!」

「黙って黙って、喧しいと嫌われるよ。で、一夏、反省した?」

「は、反省?」

「貴様、話をッ!?」

「後で聞いてあげるから黙ってて、で、どうなの?」

「どうなのと言われても…」

 

 あたしは黙って鈴の話を聞いていたが、なんか妙に腹が立ってきたね、自己中心的な事ばかり言っちゃってさ。

 そんなあたしの気持など知る由も無く鈴は一夏の態度に苛立ちながら語気を強める。

 

「あぁもう、だから、あたしを怒らせた事反省したかって聞いてんの!」

「怒らせたも何も、俺は約束覚えてたじゃないか!」

「覚えて無いじゃない! 意味が違うのよ意味がッ!」

「じゃあ、何なんだよ!」

「何って……えっとだから……と、とにかく謝れッ!」

 

 

 ……何言ってんのこいつ。あたしはしばらく静観を決め込むつもりだったのだが、ギャーギャーただ謝れ謝れ喚く鈴がだんだん鬱陶しくなってきた。別に良いよね、あたし鐘音技師から絡むようにって言われてるし、何より彼女の中であたしの評価は落ち切っている。今更、口出した所でその評価がこれ以上落ちる事は無い。あたしは、いきなり鈴の腕いつかむと、そのまま引っ張りそして乱暴にはらい捨てた。あたしからの予想外の攻撃に、小柄な身体が宙を舞いピットの床に叩きつけられる。

 

 

「ちょっと、何すんのよあんた!」

「うるさいなぁ、さっきから聞いてれば訳分からない事でギャーピー叫んで。迷惑だってのが分かんない?」

「あんたには関係ないでしょッ! すっこんで―――」

「黙れ」

「………ッ!」

 

 

 あたしの底冷えするような声と視線が鈴を射抜く。鈴は思わず口をつぐみ後ずさる。あたしはそれに構うことなく言葉をつづけた。

 

 

「見たらわかるよね、今、あたし達特訓してたんだよ、それを突然入ってきて喚き倒されて、あたし達の気分や気持考えた事無いの?」

「そ、それは…」

「確かに関係ないよあたし達は、けどさもう少し場所考えてくれるかな」

「………」

 

 鈴はバツの悪い顔でうつむく。今、あたしが鈴に言った事は全部一般常識に照らし合わせれば当たり前の事ばかり。言い返す余地などない。鈴は悔しそうな目であたしを一睨みし、ギリッと奥歯を噛むと弾かれたようにその場を立ち去った。言い過ぎたとは思わないし、自分が何か変な事を言ったとも思わない。あたしはフンッと鼻を鳴らすとふと、向けられている視線に気が付いてハッと我に返った。やば……思わず頭に血が上っちゃって途中から皆がいる事すっかり忘れてた…。

 

 

 あたしは、苦笑いを浮かべながら慌てて言い繕う。

 

「あ、あはははは、いやぁ、ちょっと頭来ちゃって!」

 

 な、なんだこの言い訳はッ! 我ながら残念すぎるッ、なんの説明にも弁明にもなってないよッ! とはいえ、黙りこくるのもおかしいのであたしはなんとか言葉を紡ぐ。

 

 

「凰さんってさ結構強引だから、失礼だな~とか思ってそれでえぇと……」

 

 うぅ……どんどん苦しくなっていくッ! そして数少ない言い訳の言葉が底を付き始めた時意外な所から助け舟的な言葉が飛び出した。

 

「……まぁ、秋穂さんが言っていなければ私が手を挙げていた所でしたから、別に何とも思っておりませんわ」

「ざまあ見ろというやつだ」

「な、なんかとりあえずこじれた気はしたけど…とりあえず、この場は収まったし、結果オーライだろ」

 

 

 

 あ、あれぇ……な、なんだか知らないけど上手い方向へ話は流れて行ったのかな? 行ったんだよね? あたしはそれを実感するとホッと一安心。確かに一夏の言うとおり話は、ややこしくなったのかもしれないが、ああいうのはね。……ってあれ? これって結果的に一夏を助けた事になるんじゃあ……。

 

 

 

 あぁもう……いいや。この事は考えないでおこう。

 

 

 

 

 その日以降、あたし達の特訓に鈴が来る事は無くなった。その間、一夏はあたしと鈴の分析、箒に近接戦闘、そしてセシリアに射撃武器への対応を学び更に織斑先生からも何か教わっていたようだが、それなりに充実した準備期間を過ごせているようだった。

 

 そんな日々を経て、あたし達は1組 織斑 一夏 対 2組 鳳 鈴音のクラス対抗戦が行われる日を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦試合開始2時間前、一人の女性が学園の入口で警備員に止められていた。その人物は綺麗なロングヘアーを風になびかせながらも、パーカーにジーンス目深にかぶったキャップとかなりラフな格好をしていた。更に服に合うようにコーディネートされた眼鏡をかけ首からは一眼レフのカメラもぶら下げている。

 

 

「あ、すみません。ここから先は関係者以外立ち入りが禁止なのですが」

「ん? あぁ……ちょっと待って、えぇ…あぁ、あったあった、ほいこれパス」

「えぇっと……〝インフィニットストライプス カメラマン 赤桐 秋〟さん……ですか?」

「そう書いてあるでしょ」

「…ですが、本日取材の予定は…」

「男性操縦者と中国の候補生が戦う。これだけでも充分に記事になると上から言われましてね」

「はぁ…」

「とりあえず、パスはパス。入ってもいいだろう?」

 

 

 警備員は何度も何度もパスとその人物の顔を見比べる。更にパスを念入りに調べおかしな所が無いかなど細かな所にまで目を光らせていた。まぁ当然だろうとその女性は思う。ここは天下のIS学園。世界中の超が付く重要人物達が集まる場所であり、超が付く程重要なISも数多くある場所。そんな所へいくらパスがあるからと言って簡単に部外者を入れてしまって、後々問題が起きれば首が飛ぶだけでは済まない。というかリアルに首が跳ね飛ばされる可能性だってあるのだ。念には念を……この警備員の行動はそう考えるとなんら不思議なものでは無かった。

 

 しかし、警備員がそこまで目を凝らしても、パスに不審な点は見つからない。警備員はようやく納得したのかパスを返すと、通例的な注意事項だけ手短に話し、その女性を学園の敷地内へ入る事を許した。

 

 

 女性は、警備員から少し離れた位置へ到達すると、ニヤッと笑う。。

 

「はんッ、どんなけ目を凝らしても無駄だっての。スコールとあのみょうちくりんが偽造したんだ。てめぇの目ごときじゃみぬけねぇよ」

 

 

 赤桐 秋……もといオータムは呟きながら警備員を一瞥すると今日試合が行われる第二アリーナへと脚を向けた。

 

 オータムは歩きながら、耳にハンズフリーをセットする。通信先は当然スコールの所だ。使っているのは携帯電話だが、回線は〝ファントムタスク専用回線〟なので通話は全て暗号化れているため傍受される心配も無い。数回発信音が鳴った後、オータムの耳に鮮明でノイズの1つも無いクリアなスコールの声が聞こえてくる。

 

『通信を繋げてきたってことは、入れたのね?』

「たりめぇだろ。余裕だって余裕」

『お前の余裕は、信用ならんがな』

「……大丈夫だって言ってんだろ」

『ほらほら、言い争わない。それよりオータムあなたの仕事分かってるわね』

「あぁ、分かってる。秋穂と接触しての情報交換と秋穂の周辺警戒と例の3機が現れたらしっかりと鮮明な画像を撮るだろ?」

 

『あと、秋穂の可愛い写真も頼む』

『あ、それならウチも鈴ちゃんの―――』

『あなた達ちょっとどこか行っててくれない!?』

 

 

 最後のマドカと鐘音の台詞はどうでもいいが、今回オータムが潜入する目的は彼女が今通信で言った通りである。最大の目的は直接秋穂と会い、可能ならば秋穂の周辺関係を調べる事。そして同時に妙な連中に嗅ぎまわられていないかも調べる。そしてそれらの任務のおまけとして、もし例の3機が現れたら、この望遠付きの一眼レフでその姿を捉えることだ。事実いま自分達の手元にある映像や画像はどれもピントがうまく合っておらず鮮明な画像は1枚も無い。もっと鮮明な画像ならば分析もはかどると言う鐘音の提案だった。

 

 

 本来なら、オータムはこう言う調査任務は好きではないのだが、スコールが任務を告げたときに言った『この任務、しばらく秋穂ちゃんを一人占めね』という一言がきっかけとなり今では、かなり乗り気で学園に乗り込んで来ていた。

 

 

『はぁ……あの2人の事はどうでもいいからとにかく、お願いね』

「あぁ、任せとけって。じゃ、また連絡するわ」

『えぇ、それじゃ頼んだわよ』

『あ、ま、待て…ちょ!?』

『り、鈴ちゃんのッ!!』

 

 

 

 最後に妙な〝ノイズ〟が入ったがオータムは構わず通信を切った。そして次に秋穂へと連絡を入れる。秋穂と話すその声はいつになく上機嫌なものであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合開始数分前、あたしはピットで最終調整に入る一夏の元にいた。そのすぐ横ではセシリアと箒の姿もある。あたしはこの後観客席に戻ってオータムさんと合流する事になっている。まぁそれはいいとして。一夏は全てのセッティングが終了すると、ゆっくりとカタパルトへと歩き出す。

 

 

「一夏ッ! 貴様負けたら承知しないぞッ! こう言う時ぐらい男を見せてくれッ」

「そうですわ! あんなペチャパイに良いように言われ続けてッ! どうか私の分まであの方を叩きのめしてくださいませッ!」

 

「待てセシリア、何故一夏がお前の分までやらねばならんッ」

「何を言ってますのッ! 私と一夏さんは一心同体、私は一夏さんを思っているのですから一夏さんも私の事を思っているはずでしょうッ!?」

 

「意味不明な理論を振りかざすな!?」

 

 

 確かに……理解に苦しむ理論だねそりゃ。応援がいつの間にかもみ合いに発展しかかる2人を一夏が苦笑いしながら宥める。

 

「おいおい……こんな所でいがみ合うなって。それとセシリア、ペチャパイは絶対に鈴の前では言うなよ。…………殺されるぞ」

「ッ!? わ、分かりましたわ」

 

 もみ合っていたセシリアが、思わず身震いまでして手を止める程の寒気。多分NGワードって奴だね。そしてきっと一夏はその地獄を一度見たのだろう。凄く臨場感というか色々と説得力のある一言だった。

 

 

 一夏は、それを見てふうっと息を吐き、気合を入れなおし遅れながらに箒の声援に答える。

 

「とにもかくにも、確かにそうだな。男が女に負けっぱなしじゃ男がすたるし、千冬姉の名前すら守れねぇ…。俺は決めんたんだ。俺に関わった何か1つでも守れる物が、あるのならそれを全力で守るって。だからたとえ鈴相手でも、俺は負けねぇ」

 

 

 一夏の熱のこもった返答に顔を明るくする2人とは対照的に、あたしの顔は暗くなる。何言ってるんだ、こいつは。守る? はッ、笑わせないでほしいよね。そう言えばセシリアの時にも守るとか言っていたけど、一番身近にいた人間すら守れないのに一体お前に何が守れるって言うんだ。それに何? 織斑 千冬の名前? あぁ、あの世界で一番卑怯で最低なお姉さんね。本当に、こいつは……。馬鹿は死ななきゃ直らないって言うよね。待ってなよ、いずれあたしがその馬鹿を〝治してあげるからね〟。

 

 

 

 あたしが睨み続けている事には気付かず一夏は2人とと二言、三言、言葉を交わし、最後に深く力強く頷くと彼はカタパルトで打ち出されていく。それを確認してから、あたしはパッと表情笑顔に変え軽く挨拶を残して足早にピットを後にした。

 

 

 

 

うわぁ……相変わらず凄い人だなぁ。この試合は、学園公式戦ではあるが優勝しようとも個人の記録として残るような名誉は無い。言ってみればこれは後に行われる学年別個人トーナメントの言うなれば前座的な試合。それにも関わらず観客席は超満員だった。よく見ると立ち見まで出来ている始末だ。観客席にはちらほら企業関係の人間も交じって入るが大半が学生。そんな中にあって観客席の中段あたりに座るパーカー、ジーンズにキャップという格好の女性はは色々と異彩を放っていた。

 

 

 しかしだ、これはこれで理にかなっている。目立つ格好というのは、なまじ目立っているだけに逆に怪しまれにくい。ここはあたし達にとっては敵の本拠地、そんな所へわざわざ目立つ格好で入ってくるはずがないという概念が邪魔をして視覚的な目立ちを相殺してくれる。流石、オータムさん考えてるんだなぁ~。あたしは感心しながらその方へ足を向けた。

 

 

「横、良いですか?」

「あぁ、空いてんよ」

「失礼します」

 

 あたしはオータムさんの横の席に腰掛け、周囲からあまり親しく見られないように注意しながら聞こえるギリギリの声で会話を行う。こういう所じゃ何処で誰が見ているか分からない。だが変に意識しすぎると不信がられてしまうため務めて口調は初対面を装う。

 

「しかし、目立つ服ですね。……色々考えあってのことですか?」

「いんや、待ち合わせの奴がいてね。そいつが見つけやすいかと思って」

「……5秒前の感心を返してください」

「なんだって?」

 

 

 よく考えたら、オータムさんがそこまで思慮深いわけ無かったや。あたしは気を取り直すと早速本題を切り出した。

 

「それで、さっきも電話で話しましたけど」

「あぁ……あの中国の候補生どうなんだ?」

「なんか、織斑 一夏と約束しているみたいですね。内容ははっきりしませんけど」

「約束?」

「はい、まぁそんな大したものじゃなさそうですよ……っと!」

 

 

 あたしが答えたすぐ後に、ワァッと歓声が上がる。試合が始まったようだ。鈴が巧みな機体コントロールで一夏の接近を許さない。更に仮に近づかれても〝双天牙月〟の刃と柄の部分を使い分け巧く捌いていく。

 

 

「へぇ、巧いもんだな」

「結構、彼女大口叩きますけどね、良い腕ですよ」

「なるほど、確かに候補生だけのこたぁある」

 

 オータムさんは、感嘆の声を漏らし更に言葉を続ける。

 

 

「それに、あの女まだなんか隠してやがるな」

「隠して?」

 

 瞬間、一夏が〝何か〟に弾かれ大きく体勢を崩した。そこへ急接近した鈴の蹴りがクリーンヒットする。派手に吹き飛ぶ一夏は機体を安定させると鈴がまるで射撃でもしているかのように〝何か〟を避けるべく複雑な機動を描いて飛ぶ。

 

 

「あれは…」

「衝撃砲……厄介なの積んでるじゃねぇの」

「衝撃砲…じゃあ、あれがデータでみた〝龍砲〟」

「一定空間に作用し、空間圧縮の際に出来る余剰エネルギーを飛ばす射撃武装だな、しかも面倒くせぇことに砲弾が肉眼じゃ見えねぇ」

「……あれ? 肉眼じゃ見えないって…じゃあISなら見れるんですか?」

「ISのハイパーセンサー越しなら、圧縮点さえ分かれば視覚化はできるからな」

「その武装……砲弾が見えない事が強みじゃないんですね、分析したのに気付かなかった…」

「あの国が考える事はわかんねぇよ、まぁでも見た感じ砲身の射角限界も無さそうだし360度どの方向へも撃てるってのは強みなんじゃねぇの?」

 

 

 なんとも微妙な武装だ。しかしとはいえ、威力はかなり高い様で一夏が〝雪片〟で弾こうとするも逆に機体ごと弾かれている。鈴はアレを今はただばらまいているだけだが、まとめて入ればシールドエネルギーは大幅に削られてしまうだろう。そこへ、セシリアの時の様な格闘戦に持ち込まれれば、セシリアよりも遥かに高い近接戦闘の実力を持っている一夏だって危ない。

 

 全ての基礎的な事がハイレベルで融合しているだけに、鈴が想像以上の難敵である事は今更確認するほどの事でもなかった。この前に一度戦闘は見てるしね。…あれが模擬戦と呼べるようなものだったかは置いといて。

 

 

 その後しばらく、一進一退の攻防が続きあたし達の話題も鈴達の事から、あたし自身の事に移っていた。

 

 

 

「そういやぁよ、スコールから聞いたぜ。お前友達が出来たんだってな」

「あ、はい。セシリア・オルコットって言うイギリスの代表候補生です」

「……そうか。まぁ、お前の人間関係だからあたしらがどうこう言うのも変だろうけどよ。そういうのはほどほどにしとけよ。いざって時に辛いからな」

「……それは分かってます」

 

 それはスコールさんにも言われた事だった。あたしのやらなくてはならない事は織斑 一夏を殺す事、そして織斑 千冬に地獄を見せる事だ。そしてその瞬間は遅かれ早かれやってくる。そんな時に、情なんてものに流されてためらってしまう事があってはならない。結局これは偽りの付き合いなのだ。学生生活が楽しくてつい忘れてしまいがちではあるが、戒めておかねばならない事。図らねばならない距離感。たとえルームメイトだとしても、寝食を共にしていると言ってもあたし達は本来決して交わる事は無い世界で生きているのだ。それにあたしの気持ちは本物だ、それに嘘偽りは無い。さっきピットであたしが一夏に覚えた殺意。あれこそがあたしの原点なのだから。それさえ忘れなければ〝その時がやってきても仕損じることなどあり得ない〟。そう、そのの気持ちさえ忘れなければ。

 

 

「お前はさ、ホント素直で良い子だ。でもそのおかげってか所為って言うか、そんなお前の周りには知らず知らずのうちに人が集まっちまう。だからこそ、距離を取る事もちゃんと考えておけよ。取り返しつかなくなる前にな」

「大丈夫ですよ、あたしこれでもちゃんっと考えてますから!」

「本当だな?」

「大丈夫ですって!」

 

 あたしは、務めて強気に返事をする。しかし胸の内は全く逆だった。正直自分が考えている以上にまだ距離感が短かった気がしていたからだ。だけど……まだ大丈夫大丈夫。なんとかなるよ。あたしは前向きに考える事にして、話を切り上げると視線を〝甲龍〟と〝白式〟に移す。そして軽く息を吐きながらあたしに釣られるようにオータムさんも視線を戻すとある事に気が付いたように目を細めた。

 

「白い方の動きが変わったな」

「え?」

「なんか仕掛ける気だぞ……これまで必死に相手の懐に飛び込もうとするだけだったのに一定の距離を取り始めた」

「本当だ…」

「こりゃあ……一発逆転あるかもな」

 

 一夏は鈴の〝龍砲〟をクロス・グリッド・ターンで回避すると、目の前に開けたるは、互いに正面に向き合った〝一直線の射程距離〟

 射撃武装のない一夏がこの距離を取る理由は考えられうる中では1つしかなかった。

 

 

瞬時(イグニッション)加速(ブースト)ッ!?」

「なるほど、これを狙ってやがったか…」

 

 

 そうか、多分織斑先生とはこれを練習していたんだ。確かにこれなら、相手との距離を一瞬で詰め切る事は出来るだろう。しかしそれはたった一度きりの奇襲。巧く入れば一撃必殺だが、もし躱されるような事があれば、ジエンドだ。それでも彼は止まらないだろう。何せその技術は自分の〝大好きなお姉さん〟から教えられた物なのだから。そしてその思惑通り一夏は、〝イグニッション・ブースト〟を行い、一気に最高速の世界へと飛び込んでいく。

 

 一夏の切っ先が、速度に驚き一瞬動きの止まる鈴に触れようとしたまさにその時だった。

 

 

 

 

 轟音と共に、アリーナ全体が揺れる。あれ?これデジャヴ……とか言ってる場合じゃなくッ!

 

「赤桐さん!」

「こいつは…………例の3機?」

 

 例の3機……あたしが意識を失いながら戦ったあのIS。後々映像を見てこんなISだったのかと知った程度で実物は見た事がない。にしてもなんてタイミングで―――って!?

 

 

 

 砂煙が晴れていくアリーナで、徐々に姿を現していく襲撃者。だがそれはオータムさんが言った例の3機のうちの、どの機体でもなかった。全身装甲(フルスキン)のその機体は全身が黒く、身体の大きさよりも異常に腕が長いしでかい。更に不規則に並んだ4つのセンサーがそれがあたし達とは違う異形の者である事を如実に表していた。そして何と機体の大きさもけた外れで2メートルを優に越えているのだ。

 

 そして、手のひらにはアリーナのシールドバリアを撃ち抜いたレーザーの砲口がありそこから大量の放熱を行っているのであろう、煙も上がっている。しかしだ、妙な部分も見受けられる。

 

 

「あの機体……ダメージを…?」

「あ、ホントだ。確かに右肩のあたりの装甲が一部へしゃげてんなぁ」

「突入の時の……衝撃ですかね?」

「さぁな……そこまではわかんねぇけど……とにかく、こういう時は?」

「情報収集といち早い状況把握」

「そのためには?」

「情報の収束点でもあるピットへ向かう!!」

「よっしゃ上出来だ」

「それじゃ行きますね!」

「おう、短い時間だけど会えて楽しかったし嬉しかったよ、じゃ、また連絡でな」

「はいッ!」

「さて、あたしもやる事やっちゃいますかねッ!」

 

 

 あたしとオータムさんは別々の方向へ走りだし、行動を開始する。

 まずはピットへ向かわないと。

 

 あたしは階段を駆け上がり、アリーナの観客席入場口を目指す。だが既にそこは人だかりが出来ていて皆、口々に何かを叫んでいる。

 

「扉がロックされてて開かない!」

「押さないでってば! ドアが開かないって言ってるでしょ聞こえないの!?」

 

 

 

 ロックされている? あたしは、既にアリーナで戦闘を始めてしまっていた全身装甲(フルスキン)ISを見やった。

 

 

 これもあのISが? ……しかし……一体何故? アリーナを覆うシールドバリアは、天井よりも観客席を覆う方が強固に設定されている。あたしを吹っ飛ばしたシックザール程の絶大な火力を持ってしても服飛ばせたのはアリーナの対物理外壁部分のみ。つまり事実上、ここへあたし達を閉じ込めても、アリーナで戦うISからはこちらに手出しが出来ない。それなのにあたし達を閉じ込めて……だけどあのIS狙いは2人というか一夏を狙っている様な。どっちにしてもこちら側を狙う意思は見受けられない。何が目的なんだ一体?

 

 …っと、いけないいけない、足が止まってる。こんな所で1人、頭をひねっても分かるわけがないか。どうする? 実質観客席から出る事さえできれば後は非常階段など人力でピットへたどりつく事は出来る。どこか……どこ……ん?

 

 

 周囲を見渡すあたしの目がある一点で止まるそこは、人が1人通れるかぐらいの通気口。だけど天井か……あたしはチラッとすぐ近くでおしくらまんじゅうを続ける生徒たちを一瞥する。こちらを向いている人はいるけれど……視線は明らかにあたしを気にかける様子は無い。そして通気口は少しだけ柱の陰になった所にある。

 

 

 ……よし。行くしかないかッ!

 

 

 あたしは隣の柱に足をかけ、三角飛びの様にジャンプすると通気口のカバーにぶら下がる。あたしの体重で片開きのカバーがバコンっと外れ危うく落下しそうになるがなんとか立て直しカバーの内側に手を入れ替え一気に身体を通気校内へ滑り込ませた。最後になんとか通気口のカバーを閉めほふく前進で、観客席の外を目指す。少し埃っぽいのは仕方がない。とりあえず今あたしにやれる事をしよう。

 

 

 あたしは心の中で呟きながら、ほふく前進の全速力で一路ピットへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「……今のは」

 

 

 秋穂が通気口へと消えたすぐ後、それを人込みの陰から見つめる視線があった。口元を扇子で軽く抑えた少女はチラリと通気口を見やる。天井まではざっと2.5メートルという所だ。彼女はそれを壁を使って飛び見事に通気口内部に潜り込んだ。

 

 

「……どうやらちょっと、裏がありそうよね?」

 

 

 少女はフフッと不敵に笑い呟く。そしてもう一言発しようとして…それを遮られる。

 

 

 

「こ、こんな所にいたんですか!?」

「ん? あら、いやだって、織斑君見たかったし」

「あぁぁ、でもまぁ丁度良いです。手伝ってください! 〝生徒会長〟!」

「えぇ、分かったわ」

「急いでくださいねッ!」

 

 言い残し走り去る生徒に少女は笑顔で返すと、パンッと扇子をたたみもう通気口をのある位置を一瞥する。そして不敵な笑みを浮かべながらその少女は、人込みの中へと消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんばんは、地元では雨が凄く今でも避難勧告が出ているところが多数あります。

のろいうさぎです。

さて、前回秋穂の心情をしっかりと書ける所でその場面をスルーしてしまうという失態を犯してしまったので、今回は、一夏の台詞、まぁ原作ままではありませんが、前回の一夏の心情も含めて書き、それに対する秋穂の考えを書いてみました。

そして今思った事。鈴に対して秋穂がただ絡んでいるだけで何も障害になってない(爆

ちなみに最後チラッと登場した彼女ですがまだ、出番はそれほどありません。一応目をつけられているぐらいの感覚でお願いいたします。

さて、次回はクラス対抗戦に乱入した機体の目的は? そしてその機体の損傷は何を意味するのか。通気口の秋穂は無事ピットへたどり着けるのか。

等など。

楽しんでいただければ幸いです。

それではこれからもよろしくお願いします。
失礼します。
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