IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第14話~零落白夜~

「な、何だあれはッ!?」

 

 一夏が射出された後すぐに千冬に〝特等席〟として連れてこられたアリーナの管制室。そこで箒が、声を上げセシリアが真耶がそして千冬が目を見開く。凄まじい轟音と共に現れた全身装甲(フルスキン)の黒いIS。当然のごとく、この場には瞬時にあのISが一体何であるのかを説明できる人間はいなかった。そのため一瞬皆の動きが止まる。だが止まった時間を、アリーナから聞こえる悲鳴が溶かし皆を我に返させる。

 

 

 一瞬とはいえ、指示を出さねばならない自分が動きを止めてしまった事を後悔しながら千冬は真耶に指示を出した。

 

 

「山田君、あの機体を簡易スキャン。モニターに出してくれ」

「わ、分かりました」

 

 指示を受けた真耶も真耶で、数秒の遅れを取り戻そうとコンソールを素早くタイプしていく。その間にも黒いISは移動を開始し、更にあろうことか一夏そして鈴を狙い始めていた。

 

「何故一夏達を狙うのだ!?」

「一夏さんは、男性操縦者ですから狙われる可能性は無きにしもではありますが…」

「なんだと!? 男だから狙われなければならんと仕方が無いと言うのか!?」

「か、可能性の話をしたまでですッ」

「2人とも、静かにしろッ」

 

 

 狼狽するセシリアと箒へ鋭い声が飛び、2人はビクッと身体を震わせた。しかし一番焦っていたのは実は千冬だった。2人へと、ああは言ったものの、セシリアの台詞を耳にしてそれ以上聞きたくは無いという思いが先行しての怒鳴り。千冬は一喝にしゅんと身を縮こませる2人を尻目に、指を小刻みにトントンと鳴らす。別に真耶が遅いというわけではない。真耶は実によくやってくれている。だがそれでも、申し訳ないと思っていても、勝手に指が動いてしまう。気が急いてしまう。何処まで行っても、やはり姉弟は姉弟。世界一になろうが教師になろうがそれは変わらない。そしてついに耐えかねた千冬は自ら通信機の前に立つとヘッドセットを手に取り一課に連絡を入れた。

 

「織斑、聞こえているかッ」

『千冬姉ッ!? 一体何なんだよこいつはッ』

 

 

 一夏の声はかなり切羽詰まっており、千冬の事をそう呼んだ。しかし千冬も千冬で、そんな事にいちいち反応などしていられる様な心境では無かった。

 

 

「よし、織斑。そのISが開けた大きな穴がアリーナの天井に空いているはずだ、そこから凰を連れて脱出しろ! すぐに教師陣が隊を編成して―――『それはできないよ』―――何!?」

 

 

 千冬の指示を遮るように一夏が口を開く。そして内容は従わないという否定の意思表示だった。千冬は、表情を険しくしながら拳を強く握る。〝こちらの気も知らないで〟という思いが、表情からそしてその後ろ姿からですら読み取れた。そして千冬は、その感情を抑えることなく一夏へ声を荒げた。

 

「織斑ッ、これは模擬戦の類じゃないッ! 既に実戦なんだッ 指示に従え!」

『だから、無理なんだって! まだ逃げ遅れている人とかもいるしすぐに先生達だってこれないんだろ? だったらここにいる俺達しかどうにか出来ねぇんだ。だったらその間ぐらい時間を稼いでみせるさ!』

 

「一夏ッ!!」

『大丈夫、無理はしないって。それに俺は千冬姉の弟だぜ! そうそう簡単には死なねぇって、鈴だっているしな』

 

「……」

『だから、信じてくれよ、千冬姉』

 

 

 声色を聞いただけで、千冬の脳裏に今、一夏がどんな顔をしているのかが思い浮かぶ。だから、この言葉が決して一夏が生半可な考えで、発しているものではない事はすぐに分かった。それに、今回は一夏の言う事の方が正しい。今、教師陣が部隊編成を急いでいるとはいえそれでも、それなりの時間は必要であるしピットの帰投ハッチは観客席同様にロックされており逃げ込む事も出来ない。ならば、その場にいる人員で対処せざるを得ない。更に最悪の事態を考えるならば、あのISが万に一つ、観客席のシールドバリアを破壊してしまうような事があったとしたらそれこそ、目も当てられない。千冬の中で、一夏を純粋に心配する姉としての自分と生徒を守らなけらばならない教師としての自分がせめぎ合う。いくら千冬でも、下手をすれば大切なたった一人の家族を失うかもしれない事態では判断が鈍る。分かっている自分が取らなければならない行動など一つだ。だがその所為でもし一夏を失ってしまったら……。

 

 

「織斑先生…」

「!」

 

 千冬は自分を呼ぶ声にハッとする。声の主は、箒。彼女もまた両手を自分同様強く握ってはいたが、先ほどまでの狼狽した声ではなく、落ち着いた静かな、それでいて決意に満ちたような声だった。そう、自分は何があっても一夏を信じているという強い決意。その想いは言葉の端々から感じる事が出来た。

 

「一夏に、任せてあげてくれませんか」

「篠ノ之……」

「幼馴染風情が何をと思われるでしょうけれど、あいつは、昔から無鉄砲で、無茶ばかりする奴です。だけど……だけど」

 

「……」

「あいつは、その後何後もなかったようにケロッとした顔で帰ってきました……いつも。だから今回もきっと。だから信じてあげてください」

 

「ッ!?」

 

 千冬は、箒の目を見て不思議と今までの焦りが嘘のように消えていく感覚を覚えた。それと同時に、猛烈に自分が恥ずかしかった。幼馴染の箒ですらできている事を姉である自分が出来ていなかったからだ。そう、それは簡単な事だった、実に簡単で当たり前の事。千冬はフッと笑うと通信機の向こうで待つ愛弟に向かって力強く、そしていつものように言い放った。

 

 

「……馬鹿が、織斑先生と呼べと言っているだろう?」

『え?』

「全く、出来の悪い弟を持つとこれだから困る。織斑、時間稼ぎなんて考えなくてい良い」

『だから、それは―――』

「倒してこい」

『――え?』

「私の弟なのだろう? だったら、それぐらい(・・・・・)簡単にやって見せろ」

『……』

「返事は!」

『あ、は、はいッ! 任せてくださいッ!』

 

 

 千冬は最後にもう一度フッと笑い、通信を切る。おおよそ信じられないと言う顔で真耶とセシリアが見やるが〝お前達には分かるまい〟と千冬は背中で語る。初めからこれで良かった。単純な事だ。箒の様に、馬鹿みたいに(・・・・・・)信じればよ(・・・・・)かった(・・・)のだ。

 

 

 

 モニターを見る目に、もう迷いは無くその目はまさしく世界最強のIS学園教師、織斑 千冬のそれであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「うわぁッ!?」

 

 

 バコンっと開いた通気口カバーから勢いよくあたしが落下する、落下とは文字通り。天井よりも更に上からの落下。しかも尻もちをつく格好になってしまったため腰にあり得ない衝撃がッ!

 

 

「いっつぅぅぅぅ………」

 

 

 人間、度を超す痛みには、声も出ないって聞いた事があるけど本当のようだ。あたしも今叫び声よりも低いうなり声が出たもん。しかし、そんな事をやっている場合では無い。

 

 

「うぅ……えぇと……ここは」

 

 あたしは、周囲を見渡す。すると近くに、〝南側3番ゲート〟という看板があった。どうやら上手い事観客席からは脱出できたようだ。……まぁ脱出も何もただ通気口で横に移動しただけなのだが。

 

「さて……ピットに向かおう……痛たたぁ…」

 

 あたしは痛みの残る腰をさすりながら、移動を開始する。学生が観客席に閉じ込められているからだろうか通路では、数人の教師とすれ違ったのみ。あたしは身を隠そうと思ったが、すれ違った中であたしに声をかけたのは1人だけ。早く非難して! という旨の話をされたのみでその教師も急いでどこかへと行ってしまった。今優先すべきは、閉じ込められた学生の救助。通路や観客席以外にいる人物には、比較的重点を置いていないようだ。それに避難経路には1つも電子制御でロックを解除する扉は設置されていない。通路に出てしまえばあとは自力で扉を開け、非常階段を使えばアリーナの外へは出られる。

 

 しかし、あたしはそうはいかない。あたしは非常階段を使いワンフロア上に上がると、警戒しながら非常階段の扉を開ける。

 

「おっと」

 

 目の前を教師と思しき人物が走っていく。あたしはドアを少し戻し隙間から見える範囲の様子を伺う。そして気配を感じなくなった所で飛び出すと、最後にソッと静かに扉を閉めた。

 

 

 このフロアに到達してしまえば、ピットはすぐそこである。しかしあたしはあえてそこから遠いピットの方へ向かう。なぜならここから一番近いピットは一夏のピットであるからだ。そんな所へのこのこ顔を出して、誰かとはち合わせれば円滑に事を運ぶどころか、自分の行動すらも制約されてしまう。そして理由はもう一つある。一夏が使用しているのは南側のAピットという所で、長方形のアリーナを縦にしてみた時丁度右斜め下のピットだ。基本的に対戦相手は、使っているピットの対角線上を使用する。この場合だと鈴は北側Bつまり左斜め上のピットを使っている。ならば、その南側Aピットと北側Bピット以外の所は必然的に今日使われていないピットであるという事が分かる。使われていないと言う事は、誰もいないと言う事であるし、仮に誰かが来たとしてもそれまでにISを展開させるなりなんなりして、自分だとバレなければ良いだけのこと。まぁ問題があるとすればそうだねぇ……

 

 

 

「入口が、電子制御のロックってことぐらいかなぁ…」

 

 

 あたしはピットの入口にたどり着くと、ボソッとつぶやく。ピットの入口は指紋と静脈認証がいる。そしてこのアリーナは現在全ての電子式の扉はロックされておりここも例外では無かった。う~ん……さっきは通気口があったから良かったが、残念ながあらここにはそれは無い。いっそ力づくで……はダメだね。いくら緊急時といっても扉をぶっ壊せば人が来る。コンソールでも叩いてバシュッと空けば楽なんだけれど―――――――って、バシュッ?

 

 

 バシュッて事は、空気……エア……。そうか、だったら。

 

 あたしは扉のすぐ横にある、整備ハッチをこじ開ける。その中は様々な色のコードやケーブルがもりそば状態でありあたしはそれらをかき分けながら目当ての物を探す。すると身体を半分ほど突っ込んだ先に、金属製で出来た筒状のパーツを発見した。そのパーツは一方は四角い長方形の形をした制御ユニットへそしてもう片方は一回り細い筒状のパーツがドア本体に固定されている。間違いないこのパーツがドアの開閉を制御している〝エアダンパー〟だ。ふふん♪ これなら壊しちゃってもそれほど大きな音は出ないよね? 修理費はかかるんだろうけど……ま、国立だしねここ。

 

 

 

 では、いざッ!

 

 

 

 

 あたしがニヤっと笑った後、部分展開した〝デファイアント〟の爪が、エアダンパーを切り裂いた。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「………んん……あれ?」

 

 IS学園近くにある森林地帯でモゾモゾと動く影があった。その影はISを展開してはいるものの木に引っ掛かり、逆さづりになっている。装甲の色はペールブルーで巨大なスラスターを背負ったその姿。引っかかっているのは、件の3機のうちの1機トレーネの〝ヴィント・フォーゲル〟であった。

 

 

「………気……失ってた……動けない…」

 

 いくら両手足を動かそうとも、トレーネは一本の木に引っ掛かっているのではなく、隣接する複数の木に機体のいたる所が挟まってしまっている状態だった。トレーネはしゅんとしながら呟く。しかし、うつむいたのもつかの間、通信が入りトレーネはゆっくりと顔を上げた。

 

 

『馬鹿ものが、何処にいるッ!』

「……あ、シュメルツ……木に……引っ掛かった」

『木?』

「動けない…」

 

 

 シュメルツにとっては、トレーネの説明がいまいちというか全く理解できない。しかしトレーネはいたって真面目だ。現実問題今いるのは森だし木にだって引っ掛かっていて動けないのだから。

 

『……貴様、1人で飛び出していったと思ったら何をしている! とっとと戻ってこい!』

「出来ない」

『お前、その背中の馬鹿でかいスラスターを使うという発想は無いのか?』

「そうすると……木が……燃える」

『だったら、ISを1回、閉じれば良いだろうッ』

「……あ」

 

 

 画面の向こうでシュメルツが頭を抱えた。トレーネは早速ISを待機状態へと戻す。すると引っ掛かっていた部分から装甲が消え同時にトレーネの身体は――――

 

 

 

 

 

 

―――― 一気に下まで落下した。

 

 

 

「……い、痛い…」

『全く、すぐに戻ってこい』

「……出来ない」

『は?』

 

 トレーネは足もとに落ちていたある物(・・・)を拾うや表情をこわばらせシュメルツへ小声で返答した。そしてある物(・・・)を両手で握りながら立ち上がり空が開けた位置まで移動してISを再展開させる。画面越しでもこちらの様子が見えたのだろうシュメルツは泡を食ったような顔で問いかける。

 

『待て、何してる! IS展開は理解できるが出来ないとはどういう…』

「まだ……あの〝気配〟は消えてない」

『なんだと?』

「このまま……追う」

『お、おいトレーネッ! ま――――』

 

 トレーネは通信を一方的に切るとISを展開した事で片手で持てるようになったそれをグッと握りまばゆい光と共に空へ飛びあがる。〝ヴィント・フォーゲル〟の圧倒的な推力がトレーネを一瞬で森林の遥か上まで運び、〝気配〟を探る。そして―――――

 

 

「――――――見つけた」

 

 

 トレーネは手に持っていた物を投げ捨てると、とある方角を睨んだ。

 

 

 

〝Schneesturm(吹雪)〟

 

 

 

 そして、機械的な声を残しその場から瞬く間に光の筋となって飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 トレーネが飛び去った後最後にドスンッ、という鈍い音と共にトレーネが投げ捨てたある物(・・・)が緑の絨毯(じゅうたん)へと落下する。

 

 

 

 

 

 そのある物とは、真っ黒い鉄の塊だった。そう、ちょうど今IS学園を襲撃しているあのISと同じ。

 

 

 

 

 

 生気の感じられない、黒く冷たい鉄屑がただ静かに、その場で鈍い光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 鈴が〝龍砲〟で援護し一夏が接近し敵はそれに合わせて巨大な右拳を振り切る。それを一夏は〝雪片〟で弾き瞬時に身体を入れ替え背後へと回る。

 

「こいつでッ!」

「ッ!? 一夏危ないッ!!」

「何!?」

 

 完全死角のはずだったにもかかわらず、敵は強引にだが正確に、左側の腕で一夏の腕を掴むとそのまま逆方向へ身体をねじって一夏を放り投げた。更にそこへ両腕のビームが2人を襲う。

 

「くぅッ!?」

「こいつ何なのよッ!?」

 

 黒いISのビームを散開して避け再び攻勢に転じようと試みるも、自分達が反応するよりも早く敵が先を読み攻撃を躱し、逆に一夏達へ攻撃を仕掛けてくる。強いと言うよりは巧いと言う言葉がぴったりの戦い方だ。

 

 

「こいつ訳わかんねぇ、何でアレに反応できるんだよッ!」

「死角ってのが無いの!?」

「くそ、もう一度だ鈴!」

「だけどもう4回目よッ、何か別の策を…」

「別の……そうだ、鈴! 俺に考えがある」

「考え?」

「とにかくお前は俺があいつに近付くまで今まで通り援護してくれ!」

「ちょ、候補生に命令するな!」

 

 

 一夏は、鈴へ自信ありげに笑顔を見せる。そして鈴も声こそ荒げていたものの、目じりは下がっており、困った奴だと言った表情だった。

 

 この場で一撃必殺を持っているのは間違いなく一夏の白式である。しかし、一夏の機体の燃費が悪い事もまた事実だった。

 一夏は〝白式〟の残りエネルギーに舌打ちをしながら、鈴との急造コンビネーションで間合いを詰める。

 

 あとせいぜい、チャレンジ出来て2回……捨て身で行けば3回って所か…

 

 

 残り回数はもうわずかしかない。それに今数えた回数は、相手の攻撃によってシールドエネルギーを削られない事が前提だ。量腕の物理攻撃なら躱し方次第ではなんとかなるがあのビームは絶対にくらってはならない。あの威力はアリーナのシールドバリアを一撃で粉砕したのだ。まともに食らったら、いやかすっただけでも致命傷。

 

 だったら、もう馬鹿みたいにスラスターの無駄な消費は止める。スラスターは最小限で効率の良い〝動き〟を行えば良い。そう、彼女(・・)が模擬戦で候補生相手に見せた様に。だがあれとまるっきり同じ事等自分にはできない。レベルの差は分かっている。しかしそれでも自分には自分のスタイルがある。無愛想な幼馴染のおかげで取り戻しつつある感覚。自分のある意味原点。

 

 

「ギリギリ……でもその方が燃えてくるよな……やっぱ」

「!? 一夏、何やってんの!」

 

 鈴は目を疑った。なんと一夏は、スラスターを切り真正面から敵と対峙していたのだ。一夏は、ふぅッと息を吐くと〝雪片〟を中段で構える。その姿はまるで剣道その物だった。

 

 敵はそんな一夏の行動などお構いなしに、両腕を振りあげる。

 

「一夏ッ!」

 

 鈴の声が響き、敵の拳が振り下ろされる。

 

「待ってたぜ! そのでけぇ振りッ!」

 

 一夏はその場から素早く踏み込みながらスラスターを噴かす。姿勢は低く。それでいてブレードの引きはぶらさず、小さく、鋭くッ!敵の容赦のない破壊の一撃が振り下ろされる。だが既にそこに一夏はいない。

 

「くらえぇぇぇッ!!」

 

 一夏の横薙ぎの〝胴〟一閃。すれ違いざまの一撃はこの上なく完璧に決まり、一夏でさえも手ごたえに決まったと思った。しかし事態は思わぬ方向へと進んでいく。何と敵が相当のダメージを食らったにも関わらず、反撃してきたのだ。

 

 

「嘘だろッ!」

 

 敵は、右腕を振り上げ一夏を思い切り殴り飛ばす。更に立て続けにビームを乱射。一夏だけでなく鈴も慌てて回避運動を取る。いくらなんでも今のですぐに動けるわけがない。一夏は本気で、倒す勢いで振り抜いたのだ。なのに何事もなかったかのように……と一夏の視線がある一点で止まる。それは一夏が攻撃を与え、損傷した胴体部分だった。

 

 

「り、鈴あれ…」

「スパーク?……まさかこいつ、ただの機械人形なの!?」

「どうやらそうみたいだな…」

「あ、あり得ないわよそんなの! ISは人が乗らなきゃ動かないはずでしょ」

 

 鈴の言うとおり、ISは人が乗らねばいくら高性能な機体でもただの置き物でしかない。そしてこの敵は自分達〝人間〟が乗り込みその性能をフルに発揮できるISと互角以上の戦いを演じている。この世界でISはISによってでしか倒せないが通説となっている今、そのISを圧倒している時点で目の前の敵はISである事は疑いようもない。だが胴体を破壊されてスパークが飛んでいるという事は、間違いなく機械だ。ISと互角に渡り合える無人のIS……。一夏と鈴はその事実に背筋が凍る。そんな物が大量に作られたとしたら……。考えただけでも恐ろしい。でもだからこそそんな恐ろしい物を野放しにしておくわけにはいかない。ここで破壊しなければ。

 

 それに無人機だと分かった今ならば、バリア無効化攻撃〝零落白夜〟が使える。一夏はその情報と名前を既に姉である千冬から、〝瞬時(イグニッション・)加速(ブースト)〟を教わるついでに聞かされていた。バリアを無効化し、直接操縦者へ攻撃を与える技。流石に模擬戦レベルでは使えないが、相手が無人機となれば遠慮する必要もない。問題は出せるかどうかだがそれはそれ。気合で何とかなるというわけのわからない自信が一抹の不安を吹っ飛ばしていた。

 

 

「鈴、とりあえず、そういう話は後の方が良いぜ」

「……分かってるわよ、でも気にはなるでしょ……あんなの」

「俺だってそうだけどよ。ひとまずアレをぶっ壊す!」

「一応聞いとこうか? 策はあるの?」

「飛び込んで、叩き斬れば良いだろ」

「単純ね……けど、その方があんたらしいわ!」

 

 一夏と鈴は再び笑い会うと、互いに軽くグータッチを決める。

 

「行くぜ、鈴ッ!」

「えぇ、任せなさいッ!」

 

 直後、2人は散開し、今度は先に鈴が接近を試みる。鈴はセシリア戦で見せた、巧みな機体コントロールで敵の攻撃を躱し、弾き、捌く。そして真下から敵の腕を〝双天牙月〟で切り上げる。しかし片腕を吹き飛ばした程度では、ひるみはしない。もう片方の腕が鈴に迫る。だが鈴はそのもう片方の腕の下へと滑り込むと〝双天牙月〟を敵の脚部の装甲の隙間へ突き立て、それを軸に足を振りあげた。真正面からの攻撃は強力でも、その力点を少しずらしてやればパンチの軌道を変える事はそれほど難しくない。

 

「これでどうよ!」

 

 両手が上へ吹き飛ばされた事でバチバチとスパークする損傷部があらわとなる。だが敵の弱点が露わとなり一瞬気を抜いてしまった鈴は、敵の蹴りあげた膝に反応が遅れる

 

 

 

「がふッ!?」

 

 

 更に膝の一撃で浮き上がった所へ、今回幾度となくくらっている痛烈な右拳の一撃が鈴を襲う。

 

 

 何度も何度も地面に叩きつけられながら、転がる鈴。口の中でも切ったのか、口からは赤い筋も見える。だがしかしその表情は苦しみながらも笑っていた。そして鈴は今出せる精一杯の声を張り上げた。

 

 

「あたしがお膳立てしたんだから、ミスんじゃないわよッ!!」

 

 無人機が、鈴の声に反応し、一瞬センサーをそちらへ向ける。だがすぐに無人機はセンサーを機体のありとあらゆるセンサーを、自分の〝右わき腹下〟へと向けた。

 

 

「分かってるよ鈴。飛び込んで叩き斬る! これでッ」

 

 鈴が敵の注意を惹きつけている間に、一夏は〝瞬時(イグニッション・)加速(ブースト)〟を駆使し敵を倒すためのベストポジションを確保する。

 そして自分の集中力が、そしてISとの同調率が頂点に達した瞬間、一夏の目の前のスクリーンに文字が躍る。

 

〝零落白夜〟起動。エネルギー変換率90パーセント 装甲展開

 

 

 そこに流れていゆく文字の羅列を一夏は読まずして瞬時に理解した。〝雪片〟を握りしめる両腕から流れてくる力の奔流、そしてそれは全身を駆け巡る。光の剣という形容がぴったりなほどに神々しく光る刀身。自分はこれで全てを守る。この力で自分は、大切な人を守ってみせる。それに自分は約束した。自分が一番憧れる世界一の姉に。この敵を倒すと!

 

 

 

 

 〝雪片〟を握りしめる両腕から流れてくる力の奔流、そしてそれは全身を駆け巡る。光の剣という形容がぴったりなほどに神々しく光る刀身。自分はこれで全てを守る。この力で自分は、大切な人を守ってみせる。それに自分は約束した。自分が一番憧れる世界一の姉に。敵を倒すと!

 

 

 その刀身が一夏の手によって腰だめに構えられる。そして一瞬の間の後

 

 

「決まりだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

鋭く振り抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シールドバリアを無効化した光の刃が、無人機を一刀のと元に切断する。内部の部品をまき散らしながら刃が胴体を切り裂き、センサーから光が消えていく。爆散する無人機。一夏は速やかに爆心点から退避し、鈴も上半身だけを起こしてその様子を見守る。誰もが、終わったと、ホッと胸をなでおろしたその瞬間

 

 

 

 

 

 

 

「……貰った……」

「貰いッ!」

 

 

 

 

 片やゴウッっという突風と共に、そして片やピットの爆発と共に、2機のISがほぼ同時のタイミングで、無人機内部から吹き飛ばされた〝物〟を掴みにかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その2機は、共に前回第3アリーナで目撃された、ペールブルーとオレンジの正体不明のISであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




こんばんは、明日21より大学が始まるのろいうさぎです。


さて、無人機倒しちゃった! そしてセシリアの空気感が凄い。
ですけど、無人機戦が終わってもまだ秋穂とトレーネが介入してどうなるか分かりません! 
今回は、やや織斑千冬 一夏の姉弟関係を強めに書いた回になりました。これまで秋穂側一辺倒でしたからね。
まだだいぶ先ですが千冬と秋穂の関係や対する想いも書いていく回が来るでしょうね。本当に、だいぶ先になるでしょうけれど(汗


さて次回は秋穂がピットに入って何をしたのか!? そしてオータムの仕事は上手く行ってるの!? 更に更に秋穂とトレーネが掴んだ物とは一体何か!
そしてカオス化する戦闘の行方は!!
 
では、また次回お会いしましょう! 
今後ともよろしくお願いいたします
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