IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第15話~青き襲撃者~

 秋穂が通気口へもぐりこんでいる時、オータムはオータムで自分の仕事をこなそうとしていた。秋穂に出会い既に目的の8割方は達していたのだがオータムの視線はあの黒いISへと注がれていた。オータムは注意深く、そのISを観察しながらスコールに通信を繋ぐ。

 

 

「スコール!」

『えぇ、何が起きてるかはこちらでも確認しているわ』

「なんなんだありゃ……」

『1つ言えるのはあれは、件の3機じゃないって事ね』

「大体、あんなもんが近づいてるのが何で気付かねぇんだよ、ここのレーダーはゴミ屑か!」

『確かにそれは、妙よね。さして動きは早くないのに……』

「まぁ、いいや。それで他に分かってる事はねぇのか?」

『それは、鐘音から伝えてもらうわ』

 

 

 スコールがそう言うと、次の瞬間には声のトーンがスコールから何オクターブか上がり、オータムにとっては耳鳴りがするような高く若干幼い声に変わる。彼女と話しているといつも思う事なのだが、この人物、年上の癖して何と年と外見的特徴に差があるの人物なのか。やはりみょうちくりんという言葉がぴったりだなとオータムは緊急事態ながらに不謹慎だと思いながらも考えてしまった。

 

 それはともかく、オータムはボリュームを調整し耳鳴りが消える所まで音量を下げると鐘音と会話を始めた。ちなみにその音量レベル10段階あるうちの2段階目であった。

 

 

『やっほ~』

「ふざけんな。…で、分かった事あんのか?」

『鈴ちゃんの写真は?』

「は? 撮ってねぇよ」

『酷い! 約束したのに!!』

「あれ冗談じゃねぇのか!」

 

 いきなりペースを乱されるがその時、電話越しに何かが叩かれるような軽い音が聞こえる。十中八九スコールに殴られたんだろう。とにもかくにも、これで鐘音から―――

 

 

『オータム、秋穂の可愛い写真はあるんだろうな』

「殴ったのてめぇかッ!?」

『当然だ! なにが鈴ちゃんだ! 重要なのは秋穂だ!秋穂の写真を撮れ! よくも前は通信を切ってくれたな! 前の分も言ってやるぞ! 写真を撮ってこい! そして私に見せろ! いいか、絶対に――――』

 

 

 今度は、電話の向こうで嫌なゴリャッという音が響く。今のどこかで聞いた事がある。あぁそうだ、人を撲殺する時の…

 

 

『……そ、それじゃあ、分かった事をををを、は、は話すよ』

「あぁ、頼む」

 

 恐怖に言葉を震わせる鐘音の声。オータムはもうそこで何が起きたのかについて深く追求はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何? 無人?」

『そうだね、こちらで確認したあの機体を簡易スキャンしてみたんだけれど生体反応は見受けられなかったよ』

 

「けどISだろ?」

『その点については間違いないよ、生体反応が無い以外は構造は変わらない。コアを中心とした基本骨格もまるきりISだからね』

 

「どうなってんだよ……」

 

『分からないけど、目の前のあれは間違いなく無人のISだよ。まぁ操作が遠隔なのかオートなのかまでは分からないけれど』

「……そうか」

 

『あ、後、アリーナのロックの事だけれどやっぱり、そのISの仕業だね』

 

 鐘音は敵についての補足情報として言った風であったが、オータムはハッとする。そうだ、分からない事と言えばあの機体の出所もそうだが、ここに何で自分達を閉じ込めるのか。考えてもみれば、無人で動くISなどトップシークレットもののはずだ。だがそれをなんの惜しみもなく人目にさらし、観客達の脳裏に焼きつけさせるかのように観客席に閉じ込めた。

 

 

 ……まさか、この機体、わざと人目につくように?

 

 

 オータムの頭の中を1つの仮説がよぎる。だがそう考えれば、説明はつく。理由は分からないがこのISが行った全ての行為。襲撃、戦闘、隔離。そのどれもが……だがそうなると犯人はよほど自信があるのかそれとも大馬鹿かのどちらかである。

 

 

「ったく、犯人、どんだけ露出好きなのか…」

『え、何?』

「だから、露出好きだって言ったんだよ」

『露出好き?』

「だってそうだろ? こんなもんをわざわざ人前に晒してんだからよ」

  

 

 オータムが何気なく言った一言。そしてそれを復唱した鐘音の声を聞き、電話の相手がスコールへとバトンタッチする。

 

 

『オータム、今露出と言った?』

「あぁ言ったよ、それが何かあんのか?」

『………露出……そしてこれほどの技術力……』

「おい、スコール?」

 

 

 ボソボソと小声で考えをまとめるスコール。そしてややあってからスコールはオータムに〝指示〟を飛ばした。

 

 

『オータム、秋穂ちゃんは?』

「あ? あぁ秋穂なら、今、情報収集するってピットへ向かってるけど……もう着いたころなんじゃねぇかな」

『連絡、繋げる?』

「そりゃ出来るぜ?」

『ちょっと繋いでくれない』

「あぁ、良いけど、どうしたんだ?」

 

 

 

 少し戸惑いながらも、秋穂への通信転送の準備に入るオータム。彼女が投げかけた質問に、スコールはこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと、やってもらいたい事があるの、大事な事をね』

 

 

 

 

 

 そういうスコールの声は、いつになく強ばっていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「これでよしっと」

 

 あたしはISを両腕のみ部分展開させ、手動(・・)でピットの扉を閉める。整備ハッチもしっかり閉めてきたしひとまず騒ぎがひと段落するまではここにあたしがいる事に気が付く人間はいないだろう。あたしは早速いつも山田先生が座っている位置へ移動し、OSを立ち上げる。ここの情報機器はたとえそれが異なるピットや場所であっても情報を共有できるように作られている。非常時には回線を個別に切断できるのは危機管理体制の一環だろうけどね。今はどうやらしっかりと情報共有は出来ているようであった。まぁ、今みたいな事態で回線を切断する必要なんてないから当たり前といえば当たり前なんだけれど。それはともかく、という事はつまり織斑先生達のいる管制室で得ている情報も全て閲覧する事が出来ると言う事である。本当は端末で見られればいいんだけれどね、流石にそれは教師陣の端末しか無理なようだ。

 

 

 あたしはコンソールを叩きながら情報を収集していく。流れていく情報、キーワードは無人機、そしてこのロックが全て無人機の所為であると言う事。無人機という単語には驚いたもののその他は大体想像が付いていた事ばかりの内容にあたしは少し落胆した。もう少しこう、何というか新しい情報は無いものか。

 

 

 だが、落胆した事で何かが変わるわけでもなく、新しい情報が上から落ちてくるわけもない。それからしばらく、新情報を漁り倒したが結局新たな情報は更新されてこなかった。

 

 

 通気口まで入って、ピットへたどりついたのにこの結果……なんて無駄足だ。こんなんだったらオータムさんの手伝いでもしてれば良かった。そう言えば、外の状況はどうなっているのだろうか。そう思いあたしは半目でキーを叩くと新たなモニターが開き、アリーナの様子が映し出される。見やるとそこでは、一夏が無人機の腹を薙いで胴を決めているシーンだった。

 

 

 ふぅん……やるじゃん。まぁ、こんな所で事故死も困るけどね。それにしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 そう、一気にやる事が無くなってしまった。いっその事もう出てって無人機と結託して一夏殺そうかな……。ダメだよねぇ。スコールさんから何も言われていないし。それに今、下手にピットから出ても教師とはち合わせると言い訳が面倒だ。見つかるなら、閉じ込められていましたケースが一番無難だろう。ドアを自分が壊している都合上、ドアが破壊したという言い訳も通用しやすい。衝撃でドアが歪んだとでも付け加えれば嘘でもそれなりにまかり通るかな。

 

 あたしが早くも、事後の事を考えていると携帯電話のバイブが震える。

 

 ん? 通信じゃなくて……電話? あたしは携帯を取り出し、そして発信者を見て眉をひそめる。

 

「オータムさん? なんだろう」

 

 

 オータムさんとの話は既に終わっているはず。それに、自分の事はともかく他の人の経過なんて気にするような人では無い。あたしは不思議そうに携帯を見つめ、ひとまず通話ボタンを押す。すると聞こえてきた声はオータムさんのものでは無かった。

 

『秋穂ちゃん? 私だけれど』

「スコールさん?」

『えぇ、首尾よく行ってるかしら?』

「まぁ、ぼちぼちと……それよりなんでスコールさんが…」

 

『オータムの携帯から転送してもらってるのよ。オータムとならまだしも、万が一傍受されて場所が割れた時あなたと私達に関係性を見出されると何かと問題があるでしょ?』

 

「なるほど。けどオータムさんの声が聞こえませんけれど?」

『流石に携帯電話じゃ、一方向からの通話を転送するだけで手一杯よ。だからオータムは会話には参加できないの。声ぐらいは消えるけどね』

 

「そうなんですか……あ、それで要件はなんです?」

『えぇ、そうね……秋穂ちゃん、アリーナで戦っているISが無人機だという情報は?』

「得てます」

 

 得てると言うか、一番最初に出てきた情報だ。むしろそれしかなくて困っていたぐらい。

 あたしの返事に、スコールさんは短く「流石ね」と言ったと思うと、途端に声が強ばる。その微妙な声の変化を感じ取り、あたしも、身体に緊張が走った。

 

『実は、折り入って頼みたい事があるの』

「頼みですか?」

『えぇ、あの無人機。おそらくもうすぐ彼が倒してしまうわ』

「でしょうね」

『彼は恐らくあのISの弱点、つまり先ほど損傷させた胴体を狙うはず。鐘音のスキャンによればそこにあのISのコアがあるわ』

「コアですか………ま、まさか」

 

『そう、きっとコアは、彼の斬撃によって他の部品に交じって外へ放出されるわ。その時にコアを回収してほしいの』

 

 

 

 コア回収か。簡単といえば簡単だね。あの場には鈴と一夏しかいない。コアの正確な飛散場所さえ分かれば、〝デファイアント〟の〝ハンマー・イグニッション・ブースト〟で瞬く間に回収して見せよう。しかし直後、鐘音技師の慌てた声によってその簡単な任務は難易度を急上昇させた。

 

 

『ミュ、ミューゼル! ちょっと大変な事が分かったよ!』

『今、電話してるのよ、少し静かになさい』

『あ、電話つながってるなら尚良し! 秋穂ちゃんも聞いて、あのさ、無人機が初めから少し損傷しているって情報あったじゃない?』

「そ、そういえば、右肩の一部が壊れてましたけど…」

『その右肩を、こっちの技術部の方で今までチェックさせてたんだけれど、いましがた結果が上がってきてね。持ってきてくれたんだ』

「はい…」

『損傷部に、別の機体の物と思われる塗料が付着してる事が分かって、その塗料の持ち主が分かったんだけれど』

『もったいぶらずに言いなさい、何が言いたいの?』

 

 スコールさんが、なかなか結論を言わない鐘音技師に苛立ち気味に声をかける。鐘音技師の声を聞く限りだいぶ動転している様子で本人も、巧く口が回っていないようであった。そんなに焦る事って一体…。

 

 

『この塗料、オータムの機体に付着してたあのペールブルーと一致したんだよ』

『何ですって? じゃああの機体の損傷は……というかあの機体はアリーナへ来る前に〝ヴィント・フォーゲル〟と戦っていたというの』

 

『その可能性はあるよ。出なきゃ塗料なんて付かないし……』

「じゃあ……件の3機が現れる可能性があると言う事ですか?」

『可能性というよりは、来る思った方がいいわね』

 

 

 ペールブルーの機体という事は……。あの超高機動型。速さではきっと向こうの方が上だ。それに向こうも恐らくはコア狙い。だとすれば、こちらも、コアが露出した段階では既に〝ハンマー・イグニッション・ブースト〟の準備を終えた段階で飛び出さなければならない。しかも相手はトップスピードで突っ込んでくるはずなのでコアを回収できるかどうかはほぼ五分五分か六対四…あるいはもっと低いかも。

 

 

 ならば尚の事、コアの場所が正確に分からなければならない。

 

「鐘音技師、コアの正確な場所と露出した時の経路をトレースできますか?」

『可能だよ、モニタリングはバッチリさ。〝デファイアント〟に随時送る事もできるしね』

「お願いします、あたし準備に入りますから」

『頼んだわよ。かなり厳しいけれど。願わくばコア露出の時には来ないでくれると有難いのだけれど』

 

「……とにかく、やるしかないならやります。そのコアが必要だと言うのなら、あたししっかり回収しますよ」

 

『……お願いね。ただ無茶だけはだめよ。あと絶対に油断しない事。いいわね』

「はい」

 

 

 あたしが頷いた時、モニターでは一夏が止めの一撃をお見舞いする所だった。あの〝零落白夜〟が振り抜かれた瞬間から、あたしの勝負が始まる。

 

 あたしはISを完全に起動させると、ISの通信で鐘音技師のカウントが始まる。

 

 

『コアの露出予測までのカウントを開始。10、9、8、7………』

 

 

 

 ピットの屋根は悪いが破壊させてもらおう。あたしはビームクロー〝ストライクフレイム〟を展開しスラスター内へエネルギーバレットを装填する。

 

 

 ガシュンッ! という音と共に、薬莢が排出されスラスター内部の圧力が一気に高まる。

 

 

『5、4、3、2、1ッ』

 

 

 

 

 よっしゃ、行くよ!!〝デファイアントッ!!〟 

 

 

 

 カウントゼロよりも少し早くあたしは、イグニッションブーストを開始。〝ストライクフレイム〟がピット建屋を吹き飛ばし、高温のアフターバーナーがピットの床を溶解させそれが何かに引火したのか爆発と共にあたしはアリーナへと躍り出る。あたしは爆発の衝撃さえも利用してそのままトップスピードを保ち、鐘音技師のトレースを頼りに、まき散らされるパーツの雨の中へと飛び込んでいく。そして―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――見えた!

 

 

 様々なパーツの中でもひときわ目立つ白く丸い物体。間違いないあれだッ!

 

 

 

 あたしは、爆風の間へと機体を滑り込ませ、手を目いっぱいに伸ばす。手には既にコアを握った感覚があった。あたしは回収成功を確信し、思い切り叫んだ。だがその声は別方向からやってきた声と衝撃によってかき消える。

 

「……貰った……」

「貰いッ!」

 

 

 

 

 

 ガシャァァァンッ! とISの手がぶつかり合う音が響き、組み合った両者の手の隙間からするりとコアが抜け落ちていく。

 

 

「しまった!? っていうかあんた!」

「……ッ! ……邪魔ッ!!」

 

 

 あたしとトレーネは、互いにバイザー越しに一瞬睨みあうと、コア目がけて急降下。その間にも激しくぶつかり合いながら、引っ張り合いながら我先にと競り合う。

 

 

  

 あたしとトレーネは、互いにバイザー越しに一瞬睨みあうと、コア目がけて急降下。その間にも激しくぶつかり合いながら、引っ張り合いながら我先にと競り合う。だがやはり高機動戦ともなれば、向こうの方が上。徐々に差が開き、トレーネが先にコアへ追いついてしまった。

 

「今度こそ……!」

「させるかぁッ!」

「ッ!?」

 

 

 トレーネが機体を反転させキャッチした瞬間を狙い、あたしはトレーネに肩から突進する。その攻撃がトレーネの手を再び弾き、コアが投げ出された。

 

「……いい加減に……!」

「そっちもね!」

「あッ!」

 

 

 あたしは突進しトレーネに肉薄したまま腕を取ると、そのまま後方へ勢いよく放り投げ、それと同時にスラスターに火を入れる。敵が敵なだけに〝イグニッション・ブースト〟を使いたくなる所ではあるが、我慢しなければならない。なぜならば、〝デファイアント〟の〝イグニッション・ブースト〟である〝ハンマー・イグニッション・ブースト〟は装填する〝エネルギーバレット〟の弾数が3発と制限がある。この機体の特性上の事でもあるのだが、一番の理由はスラスターを保護する為だ。そもそも〝ハンマー・イグニッション・ブースト〟は通常の〝イグニッション・ブースト〟よりもスラスターへ負担をかける。その分爆発力は凄まじい物なのだが。ちなみに〝エネルギーバレット〟は基本的に待機状態へISを戻し、エネルギーが自然回復すると共に再生成される物なので、作戦行動中やその他起動中には再装填が事実上不可能なのである。

 

 既にあたしは、ピットから飛び出す時に1回使ってしまっているため、残り残弾数は左右合わせて4発。一度に両方のスライドが動くため2回しか使用できない事になる。いざという時の為と、後は逃走用に残さねばならないため下手に使う事が出来ないのだ。

 

 

 だが、トレーネを目いっぱい放り投げていた事もあって、あたしは今度こそコアを回収する。そしてその少し後になってようやくトレーネがあたしの前にやってきた。

 バイザーで目元は見えないものの、睨んでいる事など確認しなくても分かる。何より今にも飛びかかってきそうだ。

 

 

「これが、そんなに欲しいのかい?」

「………」

「残念だったね、あたしから奪うのは、大変かもよ?」

「……もう……いい…」

「え?」

 

 

 いい? やけにあっさり引き下がって―――――――

 

 

「実力で………奪うから…」

「―――――ッ!?」

 

 

 フレアだけを残しその場から一瞬で居なくなる。そして次にトレーネを察知した時にはあたしの間後ろで彼女はブレードを構えていた。 

 

「なッ!?」

「……沈んで…」

「くッ!!」

 

 あたしは、強引に身体をひねり振り下ろされるブレードを、横へ避け更に宙返りしながら追撃を躱す。なんと速い攻撃か。その速度はある意味ではシックザールの火力並みに厄介であった。逃げ場のない圧倒的火力以上に、トレーネは速さを全面に押し出した攻撃で何処までも肉薄してくる。近接戦闘はむしろ願ったりではあるが、速さのレベルが違う。ブレード対拳。本来なら振ったその一動作が攻撃になる殴打の方が振り回すブレード攻撃よりも射速は速いはずなのに、それを全体的なスピードでカバーしてくる。あたしのハイパーセンサーが、一夏と鈴がそれぞれ呟いた「なんて速さだ」と「信じらんない、目で追えないなんて…」という台詞を捉える。だがその通りだ。〝デファイアント〟のバイザーは、高機動戦闘用に超高感度仕様になっているはずなのに見失う。レーダートの連携でなんとか移動先を割り出して回避を続けているが、このままではジリ貧だった。いずれ、捌き切れずに手痛い一撃を食らう。そうなれば負けるだけでなくコアも…!

 

 それだけは、何としても避ける必要がある。仮に負けたとしてもコアを奪われるわけにはいかない。

 

 

「負けるなんて考えてる時点で結構不味いかも…」

 

 あたしは苦笑しながら、必死に機体を駆る。正直この速度差は計算していなかった。通常機動でこれだけの推力差では話にならない。トレーネのブレードをスラスターとバックステップを組み合わせたスウェーバックで攻撃を躱し鋭くコンパクトに左のフックを繰り出すが既にそこに敵の姿は無く、羽根の様にひらひらと舞うフレアだけが残されていた。そして気付いた時には既に別の場所からあたしを狙う。斜め下から切りあげられる斬撃がバイザーの数センチ前を通過する。バイザーがなければ即死だった……とか某仮面の彗星さんの様な事を考ええながらも必死だ必死! 今のは本当に危なかった。くっそ、ビュンビュン飛び回ってぇッ!!

 

 

 トレーネは再び方向転換して、あたしへと飛び込んでくる。とその時、トレーネが別方面から攻撃を受ける。

 

 

「……何!?……」

「どうやら、方向転換にはその速度は保てねぇ様だな!」

「ナイス一夏!」

 

 

 みると、方向転換の僅かな隙に機体を潜り込ませた一夏がトレーネに〝雪片〟を振り下ろして動きを止めていた。そして下からは鈴の声も聞こえる。どうやら彼はあたしを味方か何かと間違えているようだった。一夏は、さもこの援護が妥当であたしの役に立ったかのように振る舞う。なんであいつはあたしが味方だなんて思ってんだろうか? あぁそう言えば、前回システムの判断だったんだろうけど、結果的にセシリアを助けてるもんね。たったそれだけであたしを味方と思うなんて本当に馬鹿だけど。

 

 

「……ッ! このッ!!……」

「そこのあんた、今だ! 奴の動きは俺が抑える!」

 

 

 

 一夏はあたしへ声を張り上げる。まぁうん確かに今しかないね。あたしはスラスターを思い切り噴かし、右腕をきっちりとテイクバックさせ2人の前へと躍り出る。そしてしっかりと踏み込み、体重を軸足へしっかりと載せ一気に腕を振り抜いた。

 

 

「よっしゃ行――――ッ!?」

「邪魔だぁッ!!」

「ぐがぁッ!?」

 

 

 もちろん一夏にね。まったく余計な事しないでもらいたいよ。あたしの打ち下ろしの一撃を受けて一夏が下へ弾き飛ばされる。。そこへ慌てて鈴が滑り込み一夏をキャッチする。

 

 

「一夏! 大丈夫!?」

「あ、あぁなんとか…」

「ちょっと、あんた何すんのよ!」

「………邪魔なんだよ」

「何ですってッ? 一夏はあんたを援護するために」

「それが邪魔だって言ってんの、分かるチャイニーズ?」

「!?」

「あたしは今はあんた達を狙わない。あたしが飛び出してきたピットから中に入れるからさ、そこで大人しくしててくんない? 邪魔だよ」

「……!」

 

 あたしが低い声で吐き捨てると、鈴は一瞬驚いた様な顔であたしを見やるが一夏の為を思いあたしがぶっ壊したピットへと機体を走らせた。まぁ驚いた理由としてはどうせ何で自分が中国人だと分かったのかとかだろう、くだらない。あたしは鼻を鳴らしながら視線をトレーネに移す。

 

 

「水を差されちゃったけど、まだやる?」

「……当たり前……そのコアは私が見つけた……だから私の物…」

「見つけた?」

 

 どういう意味? 機体の事を言っているのかな? 確かに彼女はあの無人機とは先に交戦したのかもしれないけれど、そんな所有権の主張なんて認められるわけがない。

 

「見つけたから、自分の物って言うなら窃盗罪とかって単語は今頃ないね」

「……あなたは…何も分かっていない……」

「何それ? 意味が分からないよ」

「……そのコアは……〝泣いている〟…」

 

 はぁ? この子って電波ちゃんなんだろうか。コアが泣くわけないじゃん。いくらISが意志を持っていると言っても結局は機械。涙なんて流すわけないでしょうが。あたしはトレーネの話にあきれ果て、肩をすくませた。だがトレーネは話を止めない。

 

 

「……その子も…望んでこんな事をしたんじゃない……本当は苦しくて悲しくて…泣いてる……涙している…」

「………」

「……だから……私達が解放する……」

「………あ~終わった?」

「………」

「こっちもさ、訳の分からない様なくっだらない話につき合ってる暇ないんだよ。それにそろそろ追っても来るしね。だからちゃっちゃと終わらせようよ。互いの為にも」

 

 

 全く、まだやると聞いただけなのに無駄な時間を過ごしてしまった。相手が話していた事のほとんどは聞き流してしまったが、なんとなく彼女が不思議ちゃん系だと言う事は理解できた。あたしはため息交じりに相手の返答を待つ。だが、返事はあたしが予想していた〝言葉〟では無かった。

 

 

 

 

 瞬く間に視界から消えたと思ったらあたしは、首根っこを掴まれ思い切り壁へ押しつけられる。あたしは苦しみに耐えながら視線だけを動かし相手の顔を見やった。あたしが動かした視線の先、そこには先程までの言葉数少ないトレーネは居なかった。

 

 

 

「訳が分からない? 下らない!?」

「あッ…がッぐぅッ!!」

「お前がこの事をどれだけ深く考えた事があるのか! あって言ってるのかぁッ!!」

「ッ!!」

 

 

 トレーネはあたしを上へ放り投げ、自らの速度を活かして腹へ膝をぶち込む。これまでのトレーネに無かった荒々しさ。まるで怒り狂った獣だ。あたしは、首を掴まれ息が出来ない状態だったためただでさえ足りない酸素が、残らず外へ吐きだされるのが分かった。トレーネそんなあたしの背中を掴み2回、3回と膝を振りあげる。そしてあたしをまた放り投げると、無防備な背中へカギヅメ状の脚部で蹴り下ろす。スラスターの推力の加わったそれはあたしをゴムボール様に弾き飛ばし、アリーナの地面へと叩きつけた。

 

 

 

 怒涛の攻撃がやみ、あたしは肩で息をする。おそらくトレーネもそうだろう。口は災いのもとだねホント。なんの逆鱗に触れたかは知らないけどね。あたしは、両腕に力を込めなんとか立ち上がる。フフッ、こんな所でエクストラステージ発動とはね。機体は限界ではないが、全然ダメージが抜けない。こんな所で時間を食うわけにはいかないんだ。逃げても良いが、どうせスピード差がありすぎて逃げ切れない。ここである程度決着をつけるしかなかった。あの速度に荒々しさが加わった事により、確かに相手の戦闘能力は上がったととれる、だが同時にこれはチャンスでもあった。ポイントは敵の攻撃方法が変わったという事だ。以前の様な速度を押し出された攻撃ではあたしのパンチは空を切るばかりだったが、今はかなり接近戦であたしと向き合っている時間を長くとっている。さっきの同等のラッシュのときも、ヒットアンドアウェイでは無く、膝を何度も振り上げたり、首根っこをつかんだりとあたしに触れている時間は長かった。つまりだ、そこに勝機がある。むしろそこにしかない。

 

 

 

 あたしはゆっくりと身体を起こすと怒りで肩を震わせるトレーネを見据える。そしてニヤッと笑いこう告げた。

 

 

「一撃で終わらせるよ」

「ああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 野獣のごとき咆哮と共に、一直線にあたしへと飛び込んでくるトレーネ。あたしは〝いつもの構え〟を取ると繰り出される攻撃を1つ1つ丁寧に捌いていく。スピードでは相手にならないがこう言う接近戦ではあたしに分がある。サイドステップ、スウェーバック、ダッキング、ウェービング……。それらを駆使してトレーネに立ち向かう。とはいえあたしだって、これには限界ってものがある。何せまだ息さえ整わない状態で集中力を高めているのだ。早めに終わらせるには言った通り、一撃。。それも生半可な物では無く、重く鋭い、あたしの中で一番力のあるパンチ。それは――――

 

 

 

 あたしはトレーネの左に合わせるように、左下へダッキングし身をかがめる。そして軽く左をトレーネのわき腹に合わせ、距離を測る。うん充分だねこの〝短さ〟ならッ!

そして次の右が来た所で素早く左手を引き身体を相手の真正面へそして

 

 

 全体重を前に倒し踏み込んだ軸足がきしむほどに重心を前傾させ、敵の腹目がけて右の大砲を振り抜くッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

メギャッ! っという鈍い音がアリーナに響き、トレーネが短く「かッ」と息をもらしその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 ――――リバーブロー。これがあたしの一撃必殺。小柄なあたしでも体重移動の技術を応用すればこの通り。装甲の上からでも決まればある程度までの相手ならね。

 

 

 

 あたしが勝利の余韻に浸っていると、そこへ通信が入る。オータムさんだ。

 

『ボサッとしてねぇで、とっとと逃げろ馬鹿ッ!』

「…もう、あたしはけが人で…」

『良いから急げッ!!』

「わ、分かりました!」

 

 

 もう、ねぎらいぐらいくれても良いのに。けども、まぁ、相手も倒せてコアも無事手に入って一件落着だね。あたしは、追手が来る前にアリーナの穴から外へ出ると、〝ハンマー・イグニッション・ブースト〟の体勢に入る。さて、ではでは一時撤退します―――――――――――ッ!?

 

 

 

 直後エネルギーをまさに放出しようとしていたスラスターに、ビームが直撃した。激しく炎を上げるスラスター。一体どこからッ!?

 

 

「また会ったな? トレーネは返してもらうぜ」

 

 

 あたしの頭の上の方で、太陽を背にして方を構える〝ゾンネ・フォーゲル〟

 

 

 あぁもうこいつも余計な事をッ

 

 

 にしても返してもらうって、あんたここに居るじゃな――――ッ!! まさかッ!?

 

 

 

 あたしがアリーナを振り返ると、何処からともなく現れていたシュメルツがトレーネを回収している。更にシュメルツは回収しがてらあたしの整備ハッチを思い切り叩いた。衝撃で開いたハッチから、コアがポロリと落ちる。しまった!?

 

 

 

「悪いが、これは頂いていく」

「それはッ!」

「お前にとっても必要な物だろうが、我々にとっても必要なのでな」 

「………」

「ではな」

 

 

 短く言うとシュメルツはあたしに背を向ける。ちょ、ちょぉぉッと待った! いくらなんでもそれは問屋がおろさないよッ!

 

 

 あたしは、残ったスラスターを全部使って、シュメルツに飛びつく。シュメルツはトレーネを抱いているため巧く立ち回れない。どうじにシックザールもこれだけあたし達が接近していれば迂闊に攻撃なんて出来ない、砲を構えてはいるがトリガーに指をかけるかかけないかと言った風で迷っていた。

 

 

「えぇいッ! 離せ!」

「離さないッ!」

「いい加減にしろ、お前も私もこんな所で時間を食っている場合ではなかろうて!」

「あんたからコアを奪い返したら離してあげるよ!」

「ッ!」

 

 シュメルツがコアを握る右手にあたしは腕を伸ばし、それをシュメルツが嫌い身体を入れ替えてあたしの腕を切る。そんな攻防が何度か続き、あたしが最後の最後で思い切り腕を伸ばした時、ようやくコアにあたしの手が触れ、そのままコアをかき出した。

 

 

「なッ! くそ!」

「悪いけどッ!」

 

 

 あたしは素早くコアを奪い取ると、シュメルツに背を向けアリーナを見やる。慌ててシュメルツが声を上げるが遅いよ。どうせこのままあたしが持っていてもシックザールとシュメルツの相手はスラスターが片方吹っ飛んだ今の状況じゃ無理だ。だから

 

「貴様、何を!」

「よいっしょぉ!」

「なんだと!?」

 

 

 あたしはコアをアリーナ目がけて放り投げた(・・・・・)。シュメルツはその行動に目を丸くする。シックザールは一瞬追いかけようとしたが、すぐに我に返ったシュメルツに制止される。この状況下でいくらなんでもそれはリスキーすぎる。既にアリーナ周辺には教師陣で編成された鎮圧部隊が確認できる。そんな中へ突っ込んでいくのは自殺行為以外の何物でもない。それはあたしにも言えることだが、コアを学園に回収させておけば自分は学園に居るわけなので、何かしらコアの情報を得るチャンスもあるだろう。

 

「……」

 

 シュメルツはあたしに、睨みを利かせる。あたしのうっすらとした記憶では確か前回も誰かに睨まれた気がするけど。それはともかく、シュメルツはギリッと奥歯をかみしめながら、その場を高速離脱していく。あたしに攻撃しなかったのは、あたしにこれ以上戦う意思がないとみたのかなんなのか。まぁ実際、こんな状態じゃ戦闘なんてあたしもしたくない。

 

 

 アリーナ方向をチラリと見やると数機のISがこちらへ迫った来ていた。ふぅ……行こう。あたしは残りのスラスターを全部使い、全速力で離脱する。コアを奪われずに済んだ事は良かったのかもしれないが、それでもこの任務は間違いなく、誰の目から見ても明らかな失敗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 




大変、大変申し訳ありません、亀の子ペースどころの詐欺では無くなってしまいました…。
のろいうさぎです、こんにちは。
色々と大学が……というのはもう言い訳なのでしません…。

さて、トレーネ戦が終わりました。
機動力しかない機体の戦闘というのは中々描きにくい物ですね。
表現能力の無さなのでしょうけれど(汗

さぁ、任務を失敗した秋穂に待つ物は? そして次回件の3機に関係する黒幕も登場する!?
次回もお楽しみに!


……と少し次回予告後ですが。

今後もこれほどでは無いにしろ若干更新ペースの間が開くと思います。
この駄文を楽しみにされていらっしゃる方々もおられるようでありがたい限りです。
今後ともよろしくお願いいたします。

ではまたお会いしましょう。
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