IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第16話~失敗から学ぶこと~

「私が言った事を覚えているかしら? 秋穂ちゃん」

 

 

 任務終了後、学園から少し離れた所でオータムさんと合流したあたしは、一度オータムさんの下宿先へ移動しスコールさんへと通信を繋げていた。オータムさんは同時に撮りためた写真も転送している。ベッドに2人で腰掛け空中投影されたディスプレイの向こうを見やる。しかし当然だが画面の向こうのスコールさんはこちらを睨み、声も低く怒り心頭という感じであった。

 

 

 

『油断するなとあたしは確かに言ったわよね?』

「はい」

『あの戦い方の何処が、油断していなかったというの? 全部気を付ければ未然に防げたことではないのかしら』

「……すいません」

 

 あたしは短く、そう返すしかなかった。任務は失敗。コアは奪えず何よりスコールさんが怒っていたのはあたしの軽率な行動の数々だった。

 

 

『敵への軽い挑発からの窮地。織斑 一夏を攻撃してわざわざ自分が敵だと言う事を示してトレーネを倒した後もどうだった? オータムが言わなければすぐに逃げようともしなかった。……あなた、何をやっているの』

「……」

『あそこは、挑発するような場面だった? あそこは彼を殴り飛ばす場面だった? そして自分は勝利の余韻なんてものに浸れる程強くなったの?』

「……」

「お、おい、スコールその辺で」

『黙ってなさい。オータム。あなたには話していないわ』

「あ、あぁ」

 

 スコールさんに睨まれては、オータムさんも言い返す事は出来ない。それに何より今、こんな事態を招いたのは全部自分なのだ。

 

 

 

『それで、秋穂ちゃん。これの落とし前をどうつけるの? あなたも〝ファントムタスク〟の一員なら何をしなければならないのか分かるでしょう?』

「……コアの情報を手に入れる事…ですか?」

『あなたにそれが出来るの?』

「それは…」

『それがすんなりと出来る様な子なら、こんなミスは犯さないはずよ。それが出来ないからこんな事になってるんでしょう』

「じゃあ、どうすれば…」

『………はぁ、どうやら今回私が言った任務はあなたには荷が重かったようね。良いわ、ひとまずあなたは学園に戻りなさい。オータム任せたわよ』

「あぁ、分かった」

『それと、秋穂ちゃん、後でISデータを送りなさい。鐘音に破損個所の修復をやってもらうから』

「はい……」

『……あなたに、任せた私が馬鹿だったわ』

 

 

 最後に、吐き捨てるように良い、通信が終わる。最後の一言はあたしの心に嫌でも響く一言だった。あたしは……浅かった。そもそも編入の時からあたしはどこか浮かれていた。自分に任せてくれた事が嬉しかったのもあるが、家族としてではなく別の意味で何か認めてもらえたような気がして。でも、それが招いた結果がこれだ。今回のあたしの失敗は自分自身の評価を下げただけでは無い。マド姉そして今回任せてくれたスコールさんの顔にも泥を塗ったのだ。一番、あたしの大切な人達に。スコールさんが通信の最後に言った一言がすべてだ。あたしを信用して任せてくれたのに……あたしは……あたしはッ

 

 

 

 今にも泣き出しそうな、あたしを隣に座っていたオータムさんがグッと抱き寄せる。

 

 

「スコールだって、ちゃんと分かってるよ。最後の言葉だってきっと」

「……あたし、嫌われちゃいましたかね…」

「馬鹿かお前は。スコールやあたしらにとってお前は、大事な仲間だし家族だ。1回の失敗ぐらいで嫌いになるわけねぇだろ? それともそんなに簡単にあたしらの仲が切れちまうと思ってんのか?」

 

 

 あたしは静かにそれを否定する。自分にはもうここしかない。実際の所あたしの家族が離散してから一夏と千冬についての情報は意外にも入ってきていたのだが両親の情報は全くと言って良い程なかった。〝ファントムタスク〟の情報網を使ってもなお有力な情報は得られていない。生きているのか死んだのか、どちらにしても今のあたしにはもうここしかない。織斑 一夏を殺すためとはいえ、一度でも裏社会に足を踏み入れたらもうまっとうな人生等送れない。

 

 静かに暮らしたい、それは本望だけれど、それよりも何よりもあたしは織斑 一夏が憎かった。そのための力をくれた場所、そしてそんなあたし達を受け入れてくれた人達をあたしは失望させたのだ。嫌われても仕方がない。だけどあたしはそれを否定するし、否定したかった。都合のいい解釈と思われようが何だろうが構わない。あたしは、嫌われたくない。もう居場所をなくしたくない。

 

「だったら大丈夫さ。スコールはお前の事を信じてるよ。だから怒るんだ、だから厳しい言葉だってかけるんだよ。本当にどうでもいいやつなら何もいわねぇ。安心しろって。お前は皆に愛されてる」

「オータムさん……あたし…」

 

 それが分かるからこそ、情けなくそして悔しい。あたしは、しばらくの間オータムさんへ静かに身体を預ける。オータムさんもあたしが身体を預けている間何も言わず、あたしを優しく抱き続け、時折頭を撫でてくれた。

 

 こんなにも、優しい人たちにあたしは仇で返してしまった。もう、こんな思いをあたしもしたくないし、させちゃいけない。あたしは、強くそう心に誓うのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「…ふぅ」

 

 スコールは通信が切れた事を確認してからため息を吐いた。その表情には、怒りは無くどこかこの方法で良かったのだろうかという迷いが見て取れる。そんなスコールへマドカが壁に寄りかかりながら話しかける。

 

 

「随分と辛辣な言葉を妹へかけてくれたじゃないか?」

「マドカ」

 

 言葉の内容に反してマドカの表情は笑っている。スコールもそれに釣られるように微笑む。

 

「言い過ぎたかしら、私は」

「いや、そんな事は無いだろう。私の妹はそれすらも糧にするさ」

 

 これまでのスコールが秋穂へ言った言葉は演技。実際は怒ってなどいなかった。いや厳密にいえば軽率な行動に対して注意しなければならないとは思っていたのは事実だ。だから内容的にはスコールはコアの事については何一つ言及していない。最後に秋穂がコアの事に触れたため流れとして少し話した程度で、スコールはもっぱら秋穂の行動について厳しい事を言った。失敗について、結果はどうあれなぁなぁで済ませるのは本人の為にも絶対にならないと考えての事である。しかしいざ通信が終わってみると、最後の秋穂の表情が脳裏に焼き付いて、一転して自分の判断は正しかったのかという疑問に駆られていた。だが実の姉であるマドカにそれなりの評価を貰った事でスコールは少しだけ心が軽くなった気がした。

 

 

「そうね、見かけよりも繊細だけど強い子ですものね、あなたの妹は」

「当然だ」

 

 自慢げにフンっと鼻を鳴らすマドカ。スコールはそれを見て思わず噴き出した。全くこの姉妹は…どれほど深い絆で結ばれているのか。自分なんて、一応家族風はそれなりに吹かせて居たつもりだったがまだまだだなとスコールは再実感する。そしてスコールは、笑ってしまった事に対してムッとした顔でこちらを見ていたマドカに気が付きすぐに表情を戻した。

 

 

「ごめんなさいね、ちょっと」

「なんだ?」

「まぁ、ちょっとよちょっと。それはともかく」

 

 スコールは本心を言うのもどこか照れくさかったため語尾を濁し強引に話題転換を図った。話題転換と言っても秋穂の事なのでそれほど転換できているわけではないのだが。

 

「秋穂ちゃんの最後の判断。あれは良かったわ。あれ一つである意味あの子はコアを奪えなかったというミスを帳消しにしたと言っても良いぐらい」

「どういう事だ? あの鐘音が言っていたが奪って来いと言ったのはお前なんだろう?」

「まぁ、一番はそれが良かったけれど、あの3機に奪われていたらそれこそ初期化されて一番知りたい情報が手に入らないかもしれないでしょ」

「一番知りたい……情報だと?」

 

 マドカは怪訝な表情を浮かべる。マドカはこの指示をスコールが飛ばした時、殴り倒されて気を失っており後からその事実を聞いた。失敗したという事を聞いてスコールの行動を止めなかったのはその意図をよく理解していたからだ。だがコアの件に関してはほぼ初耳。というよりも、何故コアを奪って来いなどという命令を出したのかそこからしてマドカには謎であった。マドカの問いかけにスコールは目を少し細める。

 

「えぇ、まだ確証は無いのだけれど。マドカ、あの機体の特徴は?」

「特徴?……ふむ、無人で動く事か?」

「そう、あの機体は無人で動く。それがオートなのかリモートなのかは分からないけれどね。とにかくあの機体は無人で動くそして……コアもある」

「……?」

「そんな物を作れる人物が、他にいる?」

「……まさか」

「それに、オータムが言った露出というキーワード。無人で動くISなんてトップシークレットを隠すどころか観客達を閉じ込めて惜しげもなく見せびらかすかの様な派手な行動。ここから導き出される者は……ここまで言えばなんとなくわかるんじゃない?」

 

 

 マドカはふぅッと息を吐きながら、何度か小さく頷く。それを見てスコールは短く「そういうことよ」とだけ呟いた。スコールはそのままマドカに背を向けると通信で鐘音を呼び出す。

 

「鐘音? 聞こえるかしら、スコールよ」

『あぁ、うん、聞こえてるよん』

「どう解析は進んでる?」

『まぁね、ここまで鮮明な画像だとありがたいよ。彼女は多分カメラマンとしても食ってけるね』

「そんなに? それでどんな感じ?」

『そうだね、とりあえずあの〝ヴィント・フォーゲル〟の解析はもうすぐ終わりそうかな。他の2機は一応撮ってはあるんだけれど距離がありすぎて、まだ詳しくは分からないかな』

「そう……詳細が完全に分かり次第、艦のライブラリにもデータの入力をお願いね」

『分かったよ』

 

 

 スコールは通信を切ると再び息を吐く。個人的な話をすれば、あの無人機が稀代の天才〝篠ノ之 束〟が作った物であってほしくは無い。なぜなら、今自分達はそちら方面にかまっているだけの余力がないからだ。件の3機の情報もやっと1機詳細が分かってきた所だと言うのに、そこへ来て彼女の問題が出てこようものなら秋穂のフォローどころでは無い。出来るならば、もう少し、少なくとも秋穂が行動を起こして1つ問題が片付いてからでなければ手一杯すぎる。〝ファントムタスク〟は比較的裏組織の中では大きい組織であるが、それゆえに表だって動く人数にはどうしても限りがある。下手に大勢が動いては、そこから裏組織発覚の糸口を掴まれ、組織全体が共倒れする可能性があるためだ。その分実力は申し分ない程に選りすぐりなのだが、1人でカバーできる量には限界もある。雑魚相手ならどれだけでもと言える相手でも、一度こちらの操縦者が完敗するほどの実力者ぞろいともなれば、話しは別。自分は出たくても出れない状況であるし、1機はまだ復帰のめどすら立たないでいる。

 

「秋穂ちゃん…」

 

 そうなってくると自分達の、がこの先も巧く立ちまわっていくためには、IS学園に編入した自分達の可愛い妹の力が必要不可欠だった。IS学園はこの先も多くの襲撃や事件を受ける可能性がある。そのため、彼女における一番の任務、織斑 一夏の抹殺という任務の中に今回の様な突発的な命令を組み込んでいくしか事態を円滑に処理していく方法は無い。大の大人が、たったひとりの少女にあれをやれ、これをやれ。それじゃダメだ、もっとしっかりとやれ……。

 

 よってたかって指示を飛ばし、そのごとに彼女は振り回される事になる。それが組織と言えばそれまでだが、どうにもこうにも心からの納得は出来そうもなかった。

 

 

 

 

 ……全くずるい大人ね、我ながら。こんなことしか思いつかないなんて…

 

 

 

 彼女もまた秋穂同様に、自分自身の情けなさを痛感している。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……助けに入れたから良かったようなものの……貴様自分のしでかしたことが、どれほど危険で馬鹿な真似だったのか考えなかったのか?」

「………」

 

 人里離れた、深い森の中に建つ一軒の洋館。門構えもしっかりしており、小さいながらよく手入れされた庭園を持つその館は、ここが日本であることを一瞬忘れさせる。その洋館の一室で、シュメルツはトレーネに声を荒げていた。内容は言うまでも無く、トレーネの無断出撃である。トレーネを回収したときは、秋穂に対して冷静な風を装ってはいたが内心はらわたが煮えくり返る思いだった。シュメルツは言ってみれば完全予定調和で動くつまりは完璧主義者だ。綿密に策を練り、必ず勝つ戦いしかしない。シックザールの失敗もあったが、それは自分が指示を出してのことで、あの時は収穫(アラクネ)もあった。だが今回はまったく指示を出していない無断出撃なばかりか、収穫もゼロ。むしろ相手へ与えた情報の方が多いぐらいだろう。これに腹を立てずにいられるわけが無かった。

 

 

「収穫も無い、こちらかの呼びかけにも応じない……なんだ? 私がそんなに不満か?」

「……違う……ただ気配が……」

「気配? そんなもの〝私達ならば〟簡単に感じ取れよう? まぁお前は特に鋭いのは事実だが、ならばなぜ私に何も言わなかった」

「……」

 

 目じりを下げ、下を向くトレーネ。シュメルツはその様子を見て深くため息をついた。

 

「……まぁいい、以後気をつけろ」

「…うん…」

 

 シュメルツは言うと部屋を出ようと、ドアノブに手をかける。

 と、その時ふと扉の向こうに人の気配を感じた。そしてその直後扉の向こうから声が聞こえる。

 

「もう話は終わったかしら?」

「……ッ」

 

 その声にシュメルツは、眉をひそめる。そしてシュメルツがドアの前から一歩引くとゆっくりと木製のドアが開き、1人の少女が顔をのぞかせた。

 

 背丈は160センチ前後と決して高くは無い。顔つきも丹精で整っているがまだ10代後半のあどけなさが見て取れる間違いの無い少女だ。だがそんな容姿とは裏腹にかもし出される、飄々としたつかみどころの無い不思議な雰囲気と、異様に不気味に光る狂気にも似た真っ赤な瞳、そして身にまとう何物にも染まらない潔白をアピールするような真っ白いカジュアルスーツがシュメルツには毎回ひどく不釣合いに見える。

 

 

 潔白どころか彼女は常に……

 

 シュメルツはそこまでで思考を中断する。そんなことを今思ったところで意味など無い。それでこの少女のアイデンティティが変わるわけではないからだ。シュメルツは考えを悟られぬようにと視線をそらす。それを見て少女はフフッと笑みをこぼした。

 

「お説教もいいけれど、そうならないためには飼い犬の首輪はちゃんと締めておかないと?」

「……そんなことはわかっている」

「あら、そう。ま、いいけど」

「それよりも、何の用だ?」

「別に? これといった用事は無いわ。ただ強いて言うなら失敗を笑いに来たぐらい」

「なんだと?」

 

 シュメルツが目じりを吊り上げる。だが少女は笑みを絶やさない。それどころか少女はどこからとも無く1本のナイフを取り出した。それをトレーネの首筋にそっと這わせる。

 

「だぁってねぇ…? 失敗は失敗でしょう? それに聞けばこの子の独断だっていうじゃない? ………〝頭〟の意思に従順じゃない〝腕〟なんていらないでしょう? 〝あなた達でも切れば血ぐらい出る〟だろうし…フフフッ」

「おい、離れろ、ドタマぶち抜かれてぇのか?」

「おっと、あらあら怖い怖い」

 

 

 少女の後頭部に赤い銃口が突きつけられる。少女をナイフをしまいながらその場を離れる。緊張の解かれたトレーネは胸をなでおろしながら、シックザールのほうへ駆け寄った。シックザールもそれを見て武装を解除したが少し離れたシュメルツからでもわかるほどの冷や汗をかいていた。それだけあの少女の行動が、そして不気味に歪んだ瞳が本気だったからだ。それはシュメルツも同じ事で、背筋が寒くなっていた。

 

 だが少女はそんな2人など気にも留めず自由に、何物にも縛られずあるがまま、思うが侭に振舞う。誰がどう思おうが関係ない。これが自分だといわんばかりに。

 

 

「っとまぁ、これからはこんなこと無い様にね。いろいろともみ消すのが面倒くさいし、あたしも失敗の報告なんて聞くのもうんざりだから。そのたびに笑いにくる私の身にもなってくれる?」

「……留意しよう」

「さてと、それじゃ私は行く所があるからこの辺で失礼するわね」

「あぁ」

「フフッ、じゃあね」

 

 

 少女はそういい残して、部屋を後にする。その瞬間、部屋の中にあった緊張のすべてが解かれる。トレーネはまだ声すらも上げられなかったがシックザールは不満の声を挙げる。

 

 

「くっそ、言いたい放題言ってくれやがって、笑いに来る身にもなれだぁ? ふざけんな! 向こうから勝手に来てるだけじゃねぇかッ!」

「………シックザール、やめろ」

「大体、なんであたしらがあんな奴と…ッ!」

「シックザールッ」

「うッ……け、けどよぉ」

「確かに、屈辱ではあるが私達には彼女の力が必要なのも事実だ……我慢しろ。それに抵抗しても勝てなかったのはお前だって覚えているだろう」

「そりゃ…」

「そういうことだ、今は我慢しろ」

 

 シュメルツは言うと返事を聞かぬままその部屋を後にする。廊下を少し歩いたところで、黒塗りのセダンが屋敷の前から発進していくのが見えた。その後部座席にはあの少女が座っている。

 

 

「……無縫(むほう) (かえで)……か」

 

 

 シュメルツは走り行く車の後ろ姿を見ながらそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 オータムさんと一緒に学園に戻ったあたしは、受付で「アリーナの通路で秋穂に取材中に襲撃が発生したため一緒に逃げていた」というかなり強引な理由ながら、言い分が認められ寮へと戻ってきていた。ちなみにオータムさんは、ポンポンッとあたしの背中を二度ほど叩いて、学園から足早に立ち去っている。前回の医者役といい、変装が妙に板についてきた気もする。こりゃまた次もありそうだなと少し思ってしまいすこし笑みがこぼれた。少なくとも、こういう事で笑えるということは気持ちがある程度整理がついて切り替えられていると言うことなのだろうと、勝手に納得してそれ以後深く考えないようにした。

 

 

 日は暮れ、時間は午後8時半過ぎ。あたしは部屋へ戻るべく寮の階段を上がっていると、偶然階段を下りていく鈴と出会った。

 

「あッ」

「何?」

 

 鈴はあたしの顔を見るや、ハッと目を見開く。なんだろ、確かに関係はかなり悪いと思うが何もそこまで目を丸くする必要もないし、何より無視すればいいのに何で立ちどまって。

 

「……」

「……あの、凰さん?」

「え!? あ、な、なんでもないわよ! 何見てるのあんた!」

「ちょ!? そっちから声かけたんじゃん!?」

「うるさいうるさーい! あたしは先を急いでんのよッ」

「だったら行けばいいじゃんか!!」

「行くわよ、うっさいわね!」

 

 

 何なんだ一体! わけのわからないあたしは走り去る鈴をただ見つめること以外に選択する行動が無かった。まったく、変なの…

 

 

 あたしは再び階段を上がり続け、そしてようやく自分の部屋のフロアにたどり着くと自室のドアを開けそのままベッドへダイブする。セシリアは帰ってきておらず薄暗い部屋の中で仰向けになってぼんやりと天井を見つめる。

 

 

 スコールさんの事や、もちろん今回の失敗の事、もう後ろ向きな考えは持ってはいないが、だからと言って忘れるわけにはいかない。それがあってこそやっぱり成長できるんだと思うしね。

 

 

 

 問題は次に失敗しないことだ。失敗は成功の母とも言うし。

 

 

「あたしも、もっともっと成長しないとね」

 

 あたしは自分への決意をこめて少し大きめの声で言う。するとその直後聞きなれた声が返ってきた。

 

「どう成長するんですの?」

「わぁッ!?」

 

 ニュッとパーテンションの上からセシリアが顔を出す。あまりに唐突だったのと、見下ろしているためブロンドの髪が顔の前に降りてきており薄暗い部屋ではそれがかなり不気味に見えた。ってか帰ってきたなら電気ぐらいつければいいのに…

 

「そ、そんなに驚かなくても…」

「ご、ごめん、一瞬ブロンドの貞○に見えて…」

「はい?」

「い、いやいやなんでも、なんでもないよ。それより電気つければよかったのに…」

「いえ、パーテーションの向こうにチラッと姿が見えたので寝ているものかと思いまして…」

「あぁ、そうだったの」

 

 

 実際、眠たいのは事実だがシャワーも浴びずに寝るわけにも行かない。服だってしわになるし。言ってもベッドにはダイブしたんだけれどね。

 

 

 あたしは、セシリアに断り先にシャワールームへと向かう。サッパリして気分転換、その後ぐっすり寝て……明日からまた気合を入れて頑張ろう。あたしのそんな前向きな考えと共に夜は更けていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 IS操縦者の育成機関として、有事の際は防衛、防災の拠点として、そしてISに関わる全てを研究し解析する研究機関として。IS学園は実に多くの顔を持っている。そしてそんな場所であるからこそ、IS学園にはごく限られた一部の職員にしか達いる事を許されない空間も存在する。地下深くのその空間。そこに黒いスーツを身にまとう織斑 千冬の姿があった。

 

 

 千冬は機器が並ぶその一室で、モニターの前に座り何度も何度も今日の戦闘シーンを繰り返し見直していた。もうこの部屋に入って何時間になるのか分からない。しかし千冬は何度も何度もその映像を見直していた。一夏の攻撃によってはじけ飛ぶ黒いISとその直後に現れた〝デファイアント〟ともう1機。時折映像を止めながら何かを思案しそしてまた映像を進めていく。そして千冬が何十回目のリピートに入ろうとした時、モニター端に真耶の顔が映った。

 

「織斑先生、入ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、山田君……どうぞ」

「失礼します」

 

 

 千冬は映像を一旦切り、目頭を指で軽く抑えた。映像を止めた事で集中力も途絶え、一気に疲れが来たようだ。深く息を吐く千冬を見て真耶が苦笑交じりに言う。

 

「織斑先生、あまり根を詰め過ぎるのも良くありませんよ?」

「いや……そうは言ってもな」

 

 千冬は椅子から立ち上がり、身体を伸ばす。まぁだが確かに、真耶の言うとおり少し根を詰め過ぎたのかもしれない。座り続けて腰は少し痛いし、今肩をぐるっと回したらポキッという軽い音も聞こえた。一応これでもトレーニングは欠かさずやってはいるが、現役のころに比べればその量など比べるのも馬鹿らしい程に少ない。自分が思っている以上に身体はなまっているようだ。だが千冬にはここまでするだけの理由がある。

 

 

「これで2度目だ」

「はい?」

 

 千冬が唐突にそう呟いた。真耶は訳が分からずに聞き返しす。

 

「あの、2度目って…」

「学園が襲撃を受けた回数だ……数カ月も経っていないこの短期間で2度も学園が襲われた」

「……」

「そして私達は何も出来なかった。何も出来ないどころか、襲撃者を撃退したのは、1度目は〝デファイアント(謎のIS)〟で2度目は学園の生徒だ」

「織斑先生…」

「実に情けない。本来守らねばならん生徒に我々は助けられてしまった。まぁ、あの時指示を出したのは私だったがな……。姉としてはあれでよかったのかもしれないが……教師としては最低の判断だ。そりゃ根も詰めたくなるというものだろう?」

 

 千冬は一瞬だけやや自嘲気味に笑うと、椅子に座りなおす。そしてすぐさま声色を変え、背を向けたまま真耶に問うた。

 

「自分を罵るのはここまでにしておこう。それで山田君、要件は?」

「あ、はい黒いISの解析結果が出ました」

「そうか、それでどうだった?」

「あの機体は無人機でした」

「……コアは?」

「未登録の物です、現在同フロアにて凍結処理後保管作業を」

 

 千冬は真耶からタブレット端末を受け取る。千冬は受け取りしなチラッと真耶を見やる。どうやら真耶は真野でデータを印刷して持ってきているらしい。データの共有が出来なければ話しも円滑にできないと思ったが、真野もデータを持っているのなら構わないだろう。千冬はタッチパネルを操作しながら次々に情報を表示させていく。そしてふとある一項でその手を止めた。真耶から受け取ったタブレット端末には無人機のコア以外にも全ての解析データがインプットされている。その報告書の中で千冬が手を止めたのは情報が書かれている活字ページでは無く〝デファイアント〟が敵へ先後の一撃を叩きこんでいる所を捉えた画像ファイルだった。

 

 

「それは、〝デファイアント〟の画像ですね……それがどうかしましたか? 今回もその機体についてめぼしい情報は何もありませんでしたね」

「そうかな?」

「え?」

「本当に、何もなかったか?」

「だって操縦者の身元も割れていませんし、まぁ織斑君を殴り飛ばしましたし私達の味方では無いということぐらいはなんとなくわかった気もしますが……?」

 

 真耶は首をかしげながら手元の資料に目を落とす。だが当然のごとく真耶の資料はタブレットのデータを印刷した物なのでそこから得られる情報に発見などあるはずがなかった。そんな真耶を尻目に、千冬は機器を操作し何度も何度も繰り返し見続けた映像を再生し始める。

 

 

「山田君……この映像を見て何か気が付かないか?」

「何か……ですか?」

 

 映像では〝デファイアント〟が敵と交戦しコアを奪い合うシーンが映し出されている。千冬の言わんとする事が分からず真耶は更に首をひねった。

 

「えぇと……?」

「〝デファイアント〟の動きを見てみるんだ」

「動き?」

「……あまりに〝人間的〟じゃないか?」

「あ!」

 

 1度目の襲撃の際と2度目の襲撃では〝デファイアント〟の動きに大きな違いがみられる1度目は言うなれば機械的だった。正確にただズレも無く。有人機としてはあまりに無機質な攻撃。だが今回はまるで別物だった。一挙手一投足に躍動感が感じられ、ここでこの操縦者が何をしたいのか、何を狙っているのかその意図が映像越しにでも伝わってくる。いかに戦術を変えようともこれは不自然な変化である。そして千冬が最も気になった止めのシーン。

 

 敵の腹部へダッキングしてからの右のリバーブロー。この至近距離で装甲の上から相手の意識を刈り取るだけの威力。動きに人間味が出てきているからこそ気が付く特徴。

この間合いでこれほどの威力をパンチに持たせようとした場合、アプローチはいくらかあるがその中の1つにあるテクニックが含まれる。

 

「にしても、凄い威力ですね」

「そうだな、この距離でこれほどの破壊力……。本当に身体の使い方が巧い奴の攻撃だな」

「はい……そうですね」

 

 

 そう、本当に身体の使い方が巧い……。

 

 千冬はそこまで考えある1つの可能性にたどり着く。だがではその理由はなんだ? 何故……狙う? 

 

 

 仮に、これが自分の思った通りならば、無人機以上に厄介な事になる。だがそうはなってほしくは無い。そんな事などあってはいけないしあるはずがない。千冬は小さくかぶりを振りその考えを消し飛ばすと、またしばらく真耶と共にその映像を睨み続けていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 鈴は、秋穂とすれ違った後、購買部でパンを買い1人来た道を戻っていた。パン片手にとぼとぼと歩く鈴の表情はどこか浮かない。

 

 ……あの殺気は…

 

 

 鈴が気になっている事、それはあの突然乱入してきたオレンジ色のISの事だった。一夏を殴り飛ばし低く凍てつく声から発せられたあの殺気…。鈴にはあの感覚がどうにも引っ掛かって仕方がなかった。鈴はあの感覚をそれよりも前に一度感じている。全く同じではないにしてもそれに近い感覚…。

 

 

 あの子……?

 

 

 それは鈴が一夏に強引に詰め寄った時ピットで秋穂から感じ取ったものであった。まぁその戦闘時だったので全く同じでは無かったがそれでも何か底の知れない闇の様な、ちょっと言葉では形容しがたい物が一瞬だが感じ取れた。しかしだ、それに似た感覚を秋穂から受けたとしても、それはあくまで似ているであって同質の物ではないし、何より戦闘中の殺気はピットでの非戦闘中のそれとは大きく異なる物だ。相手を威圧するだけなのか、それとも本気で命を奪いに来ているのか。一概に一緒と言えないだけに妙なもやもやが鈴の中に残る。

 

 東雲 秋穂って言ったわよね。彼女は一体――――

 

 

 鈴が更に深く思案しようとした時、ふと背後から声がかかる。

 

 

「鈴じゃないか」

「え?」

「よう、何やってんだ?」

「一夏」

 

 

 鈴が振り返るとそこには、一夏がスポーツドリンクを持って立っていた。どうやら一夏も自分と同じように購買部で買い物をしてきたようだ。2人は横に並ぶと一緒に歩き出す。鈴は一瞬、一夏にさっき考えていた事を話そうと考えたが、やめておいた。少なくとも見た目秋穂と一夏は仲は悪くない。一夏が自分以外の女子と仲が良くされる事は面白くないが、今の考えを話して仮に間違いだったら鈴との仲は悪くとも秋穂に失礼だし、何より自分がまるで嫉妬の為に秋穂を陥れたと思われるのは嫌だったからだ。それにそんな事を言ったら一夏にも嫌われるかもしれない。鈴にとってこれほどの抑止力を持つ物は無かった。

 

 

 しかしだ、そのなんというか……妙に気恥かしいし気まずい。鈴にとって編入してほとんど初めて2人で歩いて寮へと戻る。それに一夏を引っ叩いてしまっている手前何と声をかけたら良いものか困ってしまう。鈴が、小声でボソボソと「あ……えっと…」と繰り返す事十数回。突然一夏が鈴へ向かって頭を下げた。

 

 

「鈴、その、色々とすまん!」

「え?」

「いや、確かに約束覚えてないってのは酷かったよな……悪かった」

「……あ、いやあたしも……その……随分昔の事だったし……覚えてないのも無理は無いって言うか、あたしも引っ叩いちゃったし…ごめん」

 

 

 急な一夏の謝罪に、鈴も困惑してしどろもどろになりながら謝罪の弁を述べる。思えば小学校の頃の話だ。自分としては結構覚悟を持って言ったつもりだが、よく考えろ自分。相手はこの超鈍感フラグ建築士なのだ。まともに言葉の意味が伝わったとは思えないし、今思えば、約束した時の一夏の返事も、しっかり頷いていたとはいえどこか軽かった気がする。まぁだが、それならそれで構わない。むしろあの頃の自分は良く面と向かってあんな事が言えたなと感心するぐらいだ。

 

 

 だってあれは、鈴にとってみればプロポーズをしたも同然の内容だったのだから。逆に今思い出されても恥ずかしいだけだ。編入当初は一夏に会えなかった事からの反動で勢いに任せて聞いたものの、今は忘れてくれててホッとしていた。しかし、あれだ。鈴は少し嬉しくもあった。きっと一夏は自分に謝るためにこうして探してくれていたのだ。一夏が手に持っている飲み物を見ればそうではないことぐらいすぐに分かるが、鈴はあえて自分の都合の良い様に理解する。秋穂の事や約束の事で、もやもやしっぱなしだったのだ、そのぐらいは許してほしい。

 

 

 

「そうえいばさ、鈴の家って確か中華料理屋だったよな?」

 

 鈴が勝手な考えに浸り、顔をほころばせていると唐突に一夏が言う。鈴は思わずビクッとなった。まさか約束を思い出したとか……? 鈴は少し上ずった声で一夏に返答する。

 

「え、そ、そうだったけど……それがどうかした?」

「あ、いや……鈴が戻ってきたってことは、またこっちで店やるのかなって思ってさ。親父さんの料理美味いしよ」

「あぁ……その…それは…」

「?」

 

 鈴の表情が一転して曇る。一夏はその様子を見て首をかしげていた。鈴は一夏から視線を外しながら静かに答えた。

 

「店はやらないの……あたしの両親離婚しちゃったから…。あたしが帰国した理由もそれだし」

「え?」

「……色々あってね」

「そ、そうだったのか……」

「別に良いわよ、一夏は知らなかったんだし」

「それで、今はどうなってるんだ?」

「親権は母さん持ちだけど、もうかれこれ1年近く会ってないわ。何処で何してんのかわかんないけど。あたしも候補生の訓練とかで忙しかったし」

「………」

「まぁ、結構ハチャメチャな人だったし、どこかでなんかやってんじゃない?」

 

 一夏はまたも自分の失言で鈴の気分を害してしまったとバツの悪い顔をする。しかし鈴はそんな一夏にサバサバとした態度で返した。

 

 

「さっきも言ったけど、もう良いわよ別に。確かに会えないのとか寂しいけど別に死んだわけでもないし」

「だ、だけどよ」

「あぁもう、男がウジウジしないのッ! ほらシャキッとしなさいよ!」

「お、おいおい!?」

 

 鈴は一夏の背をバンっと叩くと後ろから押す。バランスを崩しながらも鈴に押されて一夏は足早に寮へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮の階段を上がって2人は一夏の部屋の前までやってくる。すると部屋の前で1人の少女が待ち構えていた。

 

「箒?」

「ん? やっと戻ってきたか―――――って、なんでそいつと一緒なんだッ!」

「ふん、一夏はねあたしに謝るためにわざわざ探しに来てくれたのよ」

「え? いや、それは」

 

 鈴はついさっき自分で勝手に思い込んだ内容をそのまま箒へと言い放った。一夏がとっさに言い返そうとするもそれよりも早く箒に胸倉を掴まれる。

 

「い、い、い一夏!! お前という奴は!!」

「ほ、ほう、ほほッ箒!! 話せばわかる! その手を離せ!……お!?」

「下らんッ!!」

「うわッ!?」

 

 

 箒は一夏をそのまま押し倒す。丁度一夏の上に箒が覆いかぶさるような形になってしまい鈴も顔を赤らめ目を見開くが、当の箒は怒りで我を忘れているのだろうそのまま言葉を続けた。

 

「人がどんな気持ちでお前を待っていたと思っている!」

「ってかお前俺と相部屋だろうが、なんで廊下で待ってんだ!」

「部屋割が変わったからだ! そんな事よりも、もう良いここで言うからな!」

「な、何を!?」

 

 

 

 箒はそのまま顔を一夏に近づける。鈍感な一夏も流石に頬を紅潮させている。そんな一夏へ箒は勢いに任せて言い放った。

 

 

 

 

 

 

「来月のトーナメント戦で私が優勝したら――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――付きあってもらうからなッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、鈴は時間が凍りついた様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 




や~い秋穂怒らr(ry
んでもって、千冬や鈴にまで感づかれる始末。潜入には本当に向いていない娘だなぁ(書いた本人が言うのもなんですが…

どうものろいうさぎです。


実は15、16と同時進行で書いておりましてここまではとりあえず続けて更新させていただきます。

さていよいよ次回はラウラとシャルが出てきますね。
そして鐘音さんの思惑も動きだします。
この回はひとまず、対鈴戦の出来事の説明回的な扱いとお考えください。

色々入れ込むと回収が大h(ゴホンゴホン
それと今回新キャラの〝無縫 楓〟という少女が出てきました。
彼女がどう絡んでくるのかにも注目です。

さて次回、鈴の目の前で一夏を押し倒した箒、強引な告白は一夏にどう伝わったのか!? そしてそれを知ったライバルたちの行動は!? 更に更に鐘音の内に秘めたる思惑が秋穂を!

次回もお楽しみに!



では失礼いたします。
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