IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
『そう』
「はい……口調から察するに恨みは相当のものかと…」
あたしはラウラ襲撃の夜、寮の中庭の一角でスコールさんに通信をつないでいた。この場所は休日平日限らず昼間ならば、どこにいても気軽に通信などできないほど人がいる場所だが、今はちょうど夕飯時。食堂に生徒が殺到している関係でほとんど人はいなかった。それでも、声は潜めてはいるけどね。
『つまり、秋穂ちゃんの説明を簡単にまとめると、ラウラ・ボーデヴィッヒは、織斑 一夏が織斑 千冬の名誉を傷つけ、価値を失墜させたことに対して非常に強い恨みを持っていて、その恨みを晴らすために彼を襲った、そういうことでいいのかしら?』
「そんな感じで大丈夫です」
あたしはスコールさんの話に頷き、自分でも、もう一度ラウラの説明を頭の中で思い返す。
彼女の話によると、織斑 一夏が誘拐されそのことで二連覇が確実であった織斑 千冬が決勝を辞退。そのことで千冬が二連覇を成し遂げられず、また決勝辞退ということで、敵前逃亡という汚名を被り、その原因となった織斑 一夏を恨んでいるという。
確かに、織斑 一夏が誘拐されたのは事実でその発見に尽力した千冬が「借りを返す」形でドイツ軍に赴任していたことも事実だ。だけど……。
『秋穂ちゃん、どうかしたのかしら? 腑に落ちないって顔しているけれど』
「そんな顔してましたかね?」
『私を誰だと思ってるの? そのぐらいわかるわ』
スコールさんはフフッと笑うとそれにつられるような形であたしも苦笑で返した。この人にはかなわないや。
「まぁ、そうですねちょっと分からないことがあって」
『というと?』
「彼女の異常なまでに強い織斑 千冬への陶酔です」
『陶酔?』
「はい」
ラウラは、自己紹介の時織斑先生の言葉にしか従わなかった。そしてあたし達を襲った時も、「教官が大会二連覇の偉業を成し遂げた事は容易に想像できる」と言っていた。しかし、あの年の大会では最有力候補は実は織斑 千冬では無かった。いや千冬も優勝候補には名を連ねていたのだが、1回大会以降急速の技術力を伸ばしたイギリスの、本当に初期型のBT兵器を搭載した〝ティアーズ・ユニオン〟とその搭乗者〝ヘレン・アルウィーン〟そしてアメリカの曲者〝ローラ・サウスバード〟と〝ストライク・ミラージュ〟この2人が大本命と言われていたのだ。アメリカのローラはともかくイギリス人のヘレンをラウラが知らないとは考えにくいし、そうでなくとも、あれほど好意を寄せる織斑 千冬の情報を彼女が収集しないとは考えられない。あの当時、織斑 千冬の使っていた〝暮桜〟は第1回大会こそ無類の強さで勝ち上がった。しかしその強さは同時に他国に短期間の内にで強固な対策を練らせる動機に繋がり、実際第2回大会では〝脅威はバリア無効化だけ、千冬には脅威をさほど感じない〟とコメントする代表もいたぐらいであった。
そんな苦しい状況に置かれていたにもかかわらずラウラは織斑 千冬が容易く二連覇出来たと言っているのだ。ラウラの纏う雰囲気は一流の軍人である事は疑いの余地もない。しかしそんな軍人がこの程度の事実を客観的にみられないのは明らかに陶酔である。いや盲信と言っても良い。ラウラがそこまで千冬を盲信する理由がどこにあるのか。あたしはそれが非常に気になっていた。
その事を要点をかいつまみ話すと、答えたのはスコールさんでは無く鐘音技師だった。
『それは多分、彼女が〝アドヴァンスド〟だからじゃないかな』
「あ、アド?」
聞きなれない言葉に、あたしは言葉に詰まりながら聞き返した。どうも横文字はあまり得意ではない。
『アドヴァンスド、遺伝子強化試験体のことだよ』
「いで?」
ごめんなさい、横文字ではなく専門用語全般が苦手なようです。あたしの残念ぶりを見かねてマド姉がため息交じりに口をはさむ。
『簡単に言えば、生まれる前に遺伝子を弄って人工的に生み出された人間ということだ』
「あぁ、それならなんとなくわかったかも」
『まったく…』
あたしはあきれ顔のマド姉に、苦笑を返すと、再び鐘音技師が口を開く。
『いいかな? で、彼女はアドヴァンスドなんだけれど』
「はい」
『秋穂ちゃん、彼女の左目さ、眼帯してるよね?』
「そうですね。確かしてましたけど」
『あの左目には疑似的なハイパーセンサーが埋め込まれててね。〝ヴォーダンオージェ〟っていうんだけど』
「はぁ」
『まぁ、ここではその効力は割愛するけども、彼女はそのシステムの移植に失敗してね、ISとの適応性向上のための物だったんだけどそれが逆に働いて…』
「つまり……IS不適合になったと?」
『そんな感じかな。でね、その実験が行われた少し後なんだよ。織斑 千冬がドイツへ赴任したのは』
「なるほど……」
そこで何かしらあったと考えるのが妥当な線か……。
IS不適合の操縦者が、今では専用機を持つドイツ軍人……。そうなれば、織斑 千冬の教導によって彼女が立ち直ったと考えるのが普通だ。だからか。
『こんな感じの説明でオッケーかな?』
「あぁ、はい大丈夫です」
あたしは頷きかえすと、それを確認した鐘音技師がスコールさんへ会話をバトンタッチする。
『とにかく今後も何かしら彼女からアクションがあるかもしれないし、しっかりやってね』
「はい、わかりました」
『あ、それと』
「はい?」
『もう1人のフランス人の事だけれど』
「あぁ、彼がどうかしましたか?」
『……いえ……何でもないわ』
「はぁ」
『それじゃ』
「はい」
『秋穂、何かあったらすぐに連絡しろ? いいな』
「分かってる。じゃあねマド姉」
あたしはスコールさんの態度に少し疑問を浮かべながらも軽くあいさつを交わすと通信を切り、携帯電話の時計を見ると時刻は19時を回ろうとしていた。
うわ!? このままじゃ夕飯食べそびれちゃうじゃん!?
あたしは急いで中庭を出て、食堂へ向かう。噴水の陰から様子を伺う人影に気が付かぬまま。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「言わなくて良かったのか?」
マドカは壁にもたれながら、スコールに言う。スコールはそれに振り向くことなく答えた。
「あのデュノアって子の事?」
「あぁ」
「ま、学園への潜入理由はどうあれ、あの子の性別が男では無く女だってことや、彼女がデュノア夫妻の子供じゃないって事を秋穂ちゃんに言ったってそれは秋穂ちゃんにとって邪魔な情報以外の何物でもないわ」
「……そうか」
「それに別に彼女は、私達の保護対象でも何でもない。むしろ邪魔な存在でしょ? 彼女の能力云々の話ならともかく、彼女自身のプロフィールなんて必要ないわ」
まぁ、それは確かにと思う。実際彼女の問題が実質的に影響を及ぼすのは織斑 一夏ぐらいのものだろう。というかむしろ彼以外にそれほど大きな影響は無い。あの程度の小娘、秋穂なら障害にすらならないだろう(多分な姉補正が掛かっている)。
そう考えマドカはとりあえず納得すると、息を深く吐く。その吐いたため息に含まれる感情を読み取ってかスコールがマドカを見てフッと笑った。
「あなたの心配も分かるけれど、秋穂ちゃんはそんなにヤワじゃないでしょ」
「心配などしていない」
「姉妹ね」
「ふん」
「秋穂ちゃんは、ああ見えて結構相手の気持ちに鋭い所もあるし、何より機転も利く。まだ発展途上で荒削りな部分も多いけれど、この位なら直面しても自力で解決できる」
「それがお前が秋穂にデュノアの事を言わなかった本音か?」
「ま、そんな所よ。ドイツ軍人の事はともかくこの件はあの子に任せてみましょう」
「任せる?」
「ドイツ娘の事も気になるけど、一度騒ぎを起こした手前、そう短いスパンで騒動を起こすとは考えにくいわ。だったら先に気にかけるべくはなぜデュノア社が彼女を送り込んだのか……巧く行けばそれなりの報酬は貰えるかもしれないし?」
「まぁ確かに、それも一理あるが」
「そ、れ、に」
「ん?」
「いつもこちらから対応策を伝えていたけど。それじゃいつまでたってももう一段上へ成長するなんてできないと思わない?」
スコールの試すような視線がマドカを射抜く。それは案にマドカの秋穂へ対する信頼そして秋穂自身の能力を問うている様な物であった。信じられないのか、そして問題解決能力が欠落しているのかと。
そんな事は無い。マドカはそう即答できる。確かに失敗があった。だが自分の妹はそこから多くを学べるし、学んだはずだ。秋穂ならば自分の足で更に上へと昇る事が出来る。その能力が確実にあると言い切れる。だからマドカはその問いに短くこう答えた。
「分かった」
「フフッ……ま、オータムはフォローにつけとくわよ」
まるで返事を予想していたかのようなスコールの反応に、もてあそばれた感のしたマドカは少しムッとなったがすぐに表情を改め、それにしてもと続ける。
「随分と、私の妹は深い信頼の元にあるようだな」
「あなた結構失礼ね」
「まぁな」
「フフ、まぁ、とにかく静観しましょう。フランスのあの子の事に関して、今回私達は、秋穂ちゃんの指示で動く事にするわ。良いわね」
スコールの号令に、クルーが静かに頷き返す。それを見てマドカは、口には出さないが心の中で深く感謝の意を述べたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日も1日が終わった。終わったと言っても授業がという捕捉付きなのだが。シャルルは同じ男性同士という事もあって一夏と同じ部屋を使用している。その部屋にシャルルは一夏よりも先に戻ってきていた。
そしてシャルルは自分のバッグの中から、ノートパソコンを取りだし電源を入れる。それはなんの変哲もないごく普通のノートパソコンで、スタンバイ画面にセキュリティロックのパスワードを入れる画面が表示されシャルルがそこへ〝いつもとは違う〟パスワードを入力すると、画面が瞬時に切り替わり別のOSが起動した。
その一番最初の画面には、デュノア社のコーポレーションマークが表示され、更にそこから複数のパスワードを入力していく。するとやがて〝Call〟というボタンが表示される。シャルルはもう一度バッグの中を漁り、そこからヘッドセットを取りだし、接続する。そしてシャルルはそのボタンを、一度深呼吸してからそしてカチリと静かにクリックした。
画面に〝now Calling〟と表示され、ヘッドセットから呼び出し音が聞こえる。その呼び出し音が、十数回鳴り終えた時、シャルルの耳に低くそして少し高圧的な声が届く。画面にはSoundonlyとだけ表示されているが、相手の表情はなんとなく感じ取れた。
シャルルはその声に一瞬ビクッと身体を震わせたが、その声の主に丁寧に挨拶をする。
「……お、お久しぶりです。……社長」
『……あぁ』
通信の相手はデュノア社の社長。つまりシャルルの父親という事になる。しかしシャルルは今日に至るまでただの1回もこの男性を父と呼んだ事がなかった。正確には呼ばせてもらえないでいた。本当にたった1回初めて会った時に呼んだ事があったが、本妻に頬を思い切り叩かれてしまったのだ。それ以降、ずっとシャルルはこの人物の事を〝社長〟と呼んでいる。そして向こうも向こうで、自分がどう呼ばれようが気にもならないと言った風で、シャルルと接していた。この2人の間にあるのは親子という密接な関係では無く、むしろシャルルは報告をする上司、そして向こうは自分の指示通りに動くコマの1つ程度の浅い関係であった。
「……えと……」
『織斑 一夏はどうだ?』
「あ……何事もないです……。特に変わった事は」
『そうか…で?』
「え?」
『お前は何かアクションを起こしたのか?』
「それは……まだですが」
ヘッドセット越しに、聞こえたため息。そこから読み取れる感情は呆れ、嘲笑。シャルルはわざわざそんな感情をもらさなくても良いのにと少しだけ思った。どうせそんなに期待していたわけじゃないくせに……と。
『分かっているのだろうな? お前のやらなければならない事が何であるか』
「はい」
『織斑 一夏には接触できているのだろう?』
「……それはそうですけど」
『お前を男性操縦者として発表した時、一時は注目を浴びたが記事になるには至らなかった。何故だかわかるだろう?』
「ぼ、僕が失敗したから……です」
『そうだ、発表の時にコルセットの締め付け不足という、実に平凡で下らないミスのおかげでお前の性別がばれて。あの時はよくもまぁ恥をかかせてくれたものだ。あの後もみ消すのにいくら注ぎ込んだと思っている?』
「………」
シャルルは自分のミスと言ったが、実際は胸を隠すためのコルセットを付けたのはディノア社の女性職員であった。本来ならば彼女が責任を取らねばならないはずなのに事もあろうにその女性職員はシャルルの立場が不安定な事を良い事に「彼女がきつすぎるのは嫌だと言った」「絞めようとしたが暴れて手に負えなかった」とある事ない事を証言したのだ。そんな物、調べればすぐに分かる事であった。コルセットを付けた時、それを見ていた人物は他にもいたのだし、行動だって監視カメラを見れば良いだけの話。しかし結局は充分な検証もされないままその女性職員の言い分がそのまま通りその件はシャルルの責任として処理されていた。だがそんなものシャルルからすればたまったものでない。もちろんあの時は自分の主張をはっきりと言った。何度も何度も声が枯れるほど、叫びに叫んだ。
だが、シャルルはすぐに理解した。ここには自分の味方など誰一人いないのだと。母親が急死し、デュノア社へ引き取られた段階で自分の運命は決まったのだと。だからそれからは反抗的な思いこそ持てど、態度に現す事をやめた。それがいかに無駄な事かを身を持って知ったからだ。だからこれまでも、そして今でさえ、シャルルは相手の身勝手な言い分を甘んじて受け入れている。自分は道具だと割り切りながら。どうせ言い返しても意味は無い。軽く「お前が無能だからだ」と言われて終わりだと分かっているから。
『はぁ……もう少ししっかりしてくれんか?』
「すいません」
『それで、これからどうする? 〝白式〟のデータを取れそうなのか?』
「交戦データぐらいなら…」
『まぁそれでも無いよりはましか』
「………」
『パーソナルデータの方はどうだ?』
「それは……まだ」
『……いっそのこと、織斑 一夏には正体をばらすか?』
「え!?」
『お前でも女だ。その身体1つぐらい捧げれば織斑 一夏のデータぐらい簡単に取れるだろう?』
「なッ!?」
シャルルは思わず声を上げる。いくら自分がデュノア社の道具と割り切っていてもこれは流石に聞き流せなかった。しかし向こうはそんなシャルルに構うことなく笑い声をあげる。
『ハッハッハッ、あわよくば織斑 一夏のDNAが手に入るかもな。喜べお前でも使い道があったじゃないか』
「………ッ」
『……言っておくがこれは冗談じゃないぞ。次の報告までに何かしら成果が無いと判断した場合は……それなりの手段が待っているぞ……分かっているだろうな、〝シャルロット〟?』
「……はい……ッ」
そう言い残し、通信が一方的に切断される。ヘッドセットを外したシャルルの手は、悔しさと惨めさで小刻みに震えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
う~ん………なんか変だ。
一夏は次の日の朝、部屋でシャルルの顔を見てからずっと頭を悩ませていた。前日まであんなに明るく笑顔で接してきたシャルルが、妙に余所余所しくなっていたからだ。一夏は自分が何かしただろうかと頭をひねるが、一向にその原因が分からないでいた。そしてそんな風なので今朝は教室まで1人通学である。部屋に入ると秋穂やセシリア、箒、そして何故か2組の鈴がいて、軽く挨拶を交わす。
「あ、一夏君おはよー」
「あぁ、おはよう」
「なんだか元気がありませんわね、どうかなさいまして? 込み入った事情ならば……その…私の部屋で放課後にでもじっくりと……」
「その部屋ってあたしもいるよね?」
「出てってくださいな」
「酷ッ!!」
「何故、お前の部屋に一夏が行かなければならん! 一夏悩みなら幼馴染のこの私が―――――」
「――――幼馴染ならあたしの所でしょうが! 酢豚作って待ってるからね!」
なんで彼女達は自分がもうすでに行く事前提で話してるのだろうか…。あれだぞ、自己中心的な奴は嫌われるんだぞ。一夏は、トラブルを恐れ口には出さなかったが密かにそう思った。しかし、悩みがあるのは事実で1人で考えても答えが一向に出ないという事を考えると、少し話してみるのも良いと思い口を開く。
「部屋に行く行かないは別としてだな。まぁ確かに悩みってか変なんだよ」
「変?」
一夏の話に答えたのは、押し問答を唯一していなかった秋穂だった。秋穂はしゃがむと机に両腕を組んで寄りかかり興味深そうに耳を傾ける。一夏は少し前から秋穂は相手の悩みや問題を率先して解決へと導こうとする姿勢に感銘を受けていた。前回の自主練の時もあみだくじという解決方法を提示してくれたし、経験不足という側面を分析という一夏にしてみれば新しい側面からカバーしてくれる。一夏自身その事に全幅の信頼を寄せている。まぁ、鈴の事など少し予想の斜めを行く行動を取る時もあるが、人懐っこい性格と、あまり細かいところを気にしない性格は一夏にしてみればある意味、箒達よりも一歩踏み込んで話せるぐらいの仲になっていた。まぁ秋穂にしてみれば、ただ面倒事を早く片付けるために、手っ取り早い方法を取っているだけだし、一夏と一緒に分析を行っているのもただ、ただ嬲り殺すだけではつまらないというただそれだけの理由なのだが、一夏がそれを知る由もなく、彼にとってはただ気兼ねなく話が出来る友人の1人という感覚であった。
そんな風だから一夏も、少しだけ詳しくシャルルの〝変〟な所を説明する。
「あぁ、朝起きてもいつもなら軽く挨拶するんだけど、今日はそれすらも無くてさ。何より俺より早起きなのに今朝は俺に起こされる始末だぜ? しかもまだ教室に来ていない
」
「ふ~ん。まぁ確かに優等生な彼にしては、変っちゃあ変だけど」
「だろ?」
しばらく2人で会話をしているとようやく自分達抜きで話しが進められている事に気が付いたのだろう。箒達が会話に加わってくる。そして一夏は促されるがまま箒達にもう一度話の冒頭部分から説明しなおした。
「ふむ……なるほどな」
「ただ疲れてただけじゃないの? 寝覚めが悪いなんて良くある話じゃん」
「或いは、体調が優れないとかでしょうか?」
「ねぇ、一夏君。彼の様子がおかしくなったのってどれぐらい最近なの?」
「最近ってか今朝からなんだけど」
「今朝ぁ? あんた……それ、気のせいなんじゃないの?」
鈴が眉をひそめながら言う。確かに一夏も初めはそう思った。だがこちらから呼びかけても、ワンテンポ遅れて返事が返ってきたり、何よりも自分よりも起きるのが遅く、起こして洗面所へ行く足取りもいつもよりかなり重たそうだった。病気かと聞いても、大丈夫と言い、どこか無理をしている様な笑顔で気丈に振る舞うあの時のシャルルの姿は一夏の眼のみならず誰が見ても明らかにおかしいと断言できる。
「そんなはずねぇよ、そもそも俺とシャルルは同じ部屋だから毎日顔合わせてんだぜ? 同室の奴の変化ぐらいすぐにわかるだろ」
「ま、毎日って……あんた達部屋で毎日見つめあってんの!?」
「はぁ!? 今の話の流れで何でそんな解釈になるんだッ!?」
「そ、そうなのか!? 一夏! お前は男が良いのか!」
「箒! そういう事をでかい声で言うな! そして俺は決してそんな趣味は無い!」
「良いんですのよ! 一夏さん。同性愛はそんなに恥ずべき文化ではありませんわ!」
「セシリアまで何言ってんだ! 恥ずかしいとかじゃなくて変な誤解がッ」
「え!? 一夏君って恥ずかしさとかないんだ!」
「一夏ぁ!! 何故だー何故なのだぁー!!」
何気なしに言った言葉でここまで話が脱線し暴走するのは、もはや、このクラス……というかこのメンバーの1つの特徴でもある。だがそんな特徴、一夏にしてみれば良い迷惑である。大体この流れの場合はどういう結論に至ろうが最終的に何故か自分が殴られて終わるのだ。一夏は理不尽だと思いながらも誰のどんな攻撃が自分を襲うのか考えながらゆっくりと目を閉じる。大きなものには巻かれよう、こうなっては自分にできる事は何もない。そう覚悟を決めた時だった。
不意に喧騒が静まる。不思議に思った一夏は目を開けてみる。すると目の前で騒ぎあっていたまさにそのポージングのまま秋穂達が一点を見つめていた。一夏もその方を戸惑いながら見やると、今まさに教室の扉を開けてシャルルが入ってくる所であった。
その足取りは今朝、部屋で見たのと同じように重く、顔もややうつむいている。
「た、確かに変ね」
「……だから言ってんだろ?」
鈴が呟くと一夏がようやく分かったかと頭を押さえる。シャルルの様子は今でも気になるが、その様子のまま教室に現れた事はこの場を収めてくれたという意味では不謹慎だが少し有難かった。
「病気……というわけでもなさそうだが…」
「顔色はさほどおかしくありませんわねぇ」
「表情はこわばってるけどねぇ」
「本当に心当たりはないのか?」
「あったら、解決してるだろ? 無いから困ってんじゃねぇか」
皆一様に、首をかしげながら考え込む。しかしその様子はあまりにも異様な光景である事は間違いなく、一度席に着いていたシャルルがそれに気付いきこちらへとやってきた。
「おはよう」
「あ、あぁ」
「? ど、どうしたの? 皆、僕の顔に何か付いてるかな」
「あぁ、いや…」
「なんでも無いわよ、なんでも…」
「えぇ」
「まぁ、そだね」
「??」
シャルルは小首を傾げたが、やがて短く「そう」と呟く。だが流石にごまかせたとは思っていない。何せ全員がシャルルを見ながら頭をひねっていたのだ。シャルルもそうと言ったが内心は納得していないだろう。そう思い一夏が、軽くシャルルに訊ねる。
「なぁ、本当に大丈夫なのか? 朝から元気ねぇし、体調が良くないなら医務室に――――」
「あッ!」
「え!?」
一夏が軽く肩をたたことした時、シャルルがビクッと反応し反射的に身体を逸らす。シャルルの反応には一夏のみならず箒達も驚いていた。
「シャ、シャルル?」
「あ、えと……ごめん!」
「あ、おい!!」
そう言うとシャルルは、足早に教室を出て行ってしまう。ぎゅうっと細身の身体を縮こませながら逃げるように去っていったルームメイトが一夏には一瞬か細い女の子世の様に見えていた。呆気にとられる一夏に向かって鈴が耳元でボソッとつぶやく。
「あんた、本当に何もしてないの?」
「してねぇよ…」
反射的に返したものの、一夏は自分が何と返したのか実際の所良く分かっていなかった。それぐらい、今のシャルルの行動が衝撃的であったからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ、はぁ……ッ」
シャルルは教室を飛び出した勢いそのままに、学校の屋上まで走ってきていた。
「……何で逃げてきちゃったんだろう……」
シャルルは静かに自問自答を繰り返す。これでは完全に自分が何かを隠し事があると言っている様な物ではないか。いや実際あるのだがそれでも……それを、部外者ならともかくあまつさえ本人に……。
「絶対……怪しまれるよね」
そんな事、口に出さずとも分かっている事だった。逆にあの行動を見て怪しまない人物がいたらお目にかかりたいぐらいだ。しかし、とにもかくにもこれでシャルルには猶予は無くなってしまった。自分に何かしら怪しい所があると勘ぐられれば、正体がばれるのも時間の問題。その時、通信で〝社長〟が言っていた言葉が思い出される。
『それなりの手段が待っているぞ』
それは自分の処分の事なのか、どうなのか分からない。でも少なくともまた自分は冷たく誰もいない、孤独な場所へと放り込まれる。それは嫌だ。IS学園に入る前、シャルルはほとんど同学年の友人という物はいなかった。だがこのIS学園に来て、まだそんなに期間は長くないが同い年の友人達と話をし、共通の話題で盛り上がり、明日はこうしよう、ああしようと思いを膨らませて床に着く。そんな、生活にシャルルは堪らない充実感を覚えていた。
この場所を手放したくない。今の関係を壊したくない。でも……織斑一夏のデータを持ち帰らなければ、その両方を今すぐに失う事になる。自分がこんな幸せをずっと享受できるなんて思ってはいないが、それでも自分の青春の僅か数ページにしっかりと残しておきたい。もう少しこの学園にいたい……。
もうシャルルに選択の余地はない。やらなければならない。シャルルをそんな脅迫にも似た観念が襲う。
「そうだ……やらないと……今のこの生活を少しでも長く……続けたいから……」
キチッとデータ―さえ送れば、少なくとも一夏の周辺調査が終了するまでぐらいはここに居られる。
「やらなきゃ」
自身では強く意を決したつもりではあったが、実際はそうではない。
彼女の心は自分が思っている以上に、追い詰められ心身ともにボロボロの状態であった。
お久しぶりです、のろいうさぎです。
久しぶりの投稿ですね。
皆様いかがお過ごしでしょうか?
さて本編はシャルロットの問題を取り上げました。
スコールの言った様に、ラウラも問題がありますがシャルロットを先にかたしてしまうつもりです。色々考えもありますしw
っていうか、デュノア社怖ぇ………ほとんどヤ○ザやん……
さて、意を決したシャルルが取る行動は? そしてデュノア社社長の「考え」とは一体何か!
次回もお楽しみに!
では失礼します!