IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
オータムは襲撃のあった後、急行してきたマドカに介抱されひとまず〝ミルヒシュトラーゼ〟の医務室へ連れてこられていた。医療班に包帯を巻かれながらベッドに横たわるオータムを見てマドカがため息交じりに言う。
「なんて様だ」
「あのなぁ…こっちは、2人相手にした後だったんだぜ? 仕方ねぇじゃんかよ!」
「それでも、もう少しやり方がなかったのか……。それで倒せなかったらどうするつもりだったんだ」
「そ、そりゃ……」
言葉に詰まるオータムに、マドカはもう一度深いため息をついた。言葉に詰まるということはイコール何も考えていなかったという事だ。オータムらしいといえばらしいが、死んでしまっては元も子も無い。本当に今回は運が良かったと言わざるを得ないだろう。だが、とにもかくにも無事で良かったとマドカは決して口には出さないが、胸をなでおろした。自分が現場に着いたとき、刺された箇所は腕で一応オータム自身止血を試みていたものの、それでも傷口から流れ出る血で服は真っ赤に染まり、息も絶え絶えで一瞬マドカの脳裏に最悪の事態がよぎったものだ。
命に別状はないと分かったからこんな軽口も叩けるが、それまではマドカも嫌な汗が止まらなかった。
「とにかく、しばらくは安静だそうだ。傷口が開くかもしれんからな」
「冗談じゃねぇ、あたしはこの治療が終わったらまた向こうに戻るぜ。秋穂が心配だからな」
「お前―――「それは許可できないわ」―――ん?」
オータムの声を遮る様に、医務室に声が響く。声の方向を見やるとスコールが医務室のドアを開けこちらを見やっていた。
「スコール、許可できねぇってどういうこった!? あの3人は倒したけどよ、他の奴らが秋穂を狙ってるかもしれねぇんだぞ」
「それは、分かっているけど今のあなたに何ができるの?」
「ひ、左手はつかえねぇけど利き腕や両足は自由に動くんだ! やりようはいくらでも」
「五体満足で勝てなかった相手なのよ? 左手が利き腕じゃないとしても互角に戦えるとは思えないわ」
「け、けど」
納得がいかないオータムの気持ちがマドカにはよくわかる。この懸案を任された途端に負傷し、しかもその脅威が仲間にも向いているかもしれない事実。マドカでも同じ状況になれば同じように反論するだろうし、ひょっとしたら制止も振り切って無言で部屋を出ていくかもしれない。だがスコールのいうことは何も間違っていない。充分満足な状態でも大けがを負わねば勝てない相手に今のオータムが挑んだところで返り討ち、最悪殺されて終わりだろう。そのことをスコールは当然わかっているからこそ、オータムを止め、それが反論しながらもわかっているからこそオータムも言葉に詰まっている。うつむきベッドのシーツをグッと握りるオータムの姿からは悔しさがにじみ出ていた。
「それに、秋穂ちゃんならすぐにどうこうなるとは私は思ってないの」
「なんでだよ」
「秋穂ちゃんがいるところはIS学園よ。いくらなんでもそんなところで、襲撃なんてすると思う?」
「けど、あいつらはあたしを人目の付く町中から狙ってやがったんだぞ?」
「でも、尾行してただけよ」
「そりゃ、そうだけどよ」
「いい? IS学園は世界から要人が集まってくる。仮に下手に失敗でもしてみなさい? すぐに世界中に失態が知れ渡ることになるのよ。そんなリスクを敵も冒すかしら」
確かにとマドカは思った。表向き何者の干渉も受け付けないとはいえ、前にも少しふれたがIS学園は常に世界中の目にさらされているのが現状である。自分たちも時折無人偵察機〝キングオブスカイ〟を飛ばしているし、それが大国ともなれば衛星からの映像や画像を記録している国もある。更に過激なところになればエージェントを派遣している場合もある。それは互いにけん制しあいながらも、互いに後ろめたいこともあるわけなので見て見ぬふり、つまりは黙認しあっているのが現状だ。そんな関係でもし下手に手を出して失敗でもすれば一斉に全世界からバッシングを浴びることは目に見えている。ライバルをつぶすという目的もあるが、批判することで互いに〝後ろめたい事〟から目を逸らさせる目的もある。
その犯人になってしまったら、もうその国に未来はないし、味方する国もあるはずがない。こんなリスクを背負ってまで強硬手段に打って出るバカはそうそういないはずだ。いつもならただ関係が複雑で面倒くさいIS学園の立場も今回のようなケースになればうまく秋穂を守ってくれるだろう。マドカは考えをまとめるとスコールの意見を支持しオータムに言った。
「スコールの言うとおりだ。けが人は大人しくしていろ」
「……でも」
「お前私によく言うよな? 秋穂を信じてやれと、今度はお前の番だぞ」
「う…」
それはオータムが秋穂の事で暴走しがちになるマドカに対して諭すために使う文言。オータム自身が言っているだけにそれをそのまま面と向かって言われてしまっては返す言葉も無い。オータムは少し何か考えてから、最終的にはため息と共に頷いた。
「……分かったよ……その代わり傷口が閉じるまでだからなッ 閉じたら勝手に戻るぜ?」
「えぇ、分かったわ」
スコールはオータムの申し出を承諾し微笑む。だがすぐに表情を険しくした。その理由はマドカにも分かる。それはオータムを襲った敵の事だ。
「それで、オータム敵は3人で内1人が女性。この報告に間違いないわね?」
「あぁ、間違いねぇよ」
「スコール、犯人達はどうしているんだ? 私はオータムの救援で手いっぱいだったからな、そのあたりの事後処理が分かっていないのだが」
「あなたが、オータムをISで迎えに行ったすぐ後に別働隊を数人送ったんだけれど。到着した時にはもういなかったそうよ」
「まぁ、あたしも完全にKO出来たのなんてあの女ぐらいだからな。多分、残りの男どもが担いでったんだろうよ」
「なるほどな…」
その女さえ確保できていれば、検査なりなんなりで高い戦闘力の謎も解明できたのかもしれないが、たらればは禁物だ。いらぬ欲が出てきてしまう。マドカはこの考えをスパッと頭の中から切り捨て、引き続き会話に耳を傾ける。
「にしても、あの女……ありゃ人間業じゃねぇぜ」
「そうね、特に……オータムの拳が振り出されてからでも回避できるだけのとてつもない反射神経…」
「そのうち弾丸でも避けそうだな」
「まぁ実際アスリートレベルの人なら銃口の向きやトリガーにかかった指の角度とかで避けようと思えば出来るらしいけどな」
「………とにかく、この件を秋穂ちゃんに伝えて、対応策だけは練っておきましょう。リスクを冒す可能性が低いとはいえ、それでも可能性はゼロではないのだから」
「フォローはどうすんだ? しばらく安静なんだろあたしは」
「そうねぇ、フォローは―――――――」
「……ん? どったのスコ……」
と、スコールの動きが止まる。その視線の先に居たのはマドカだった。マドカ自身は何も意識していないのだが無意識のうちに目は輝き何かを期待するかのようなまなざしをスコールに向けてしまっていた。
「……あの、マドカ?」
「な、何だ!?」
「………フォロー役は変えないわよ」
「………」
その時スコールとオータムは近年まれにみるほど綺麗なorzを見る事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シャルルが一夏のデータを送り始めて1週間と半分が過ぎた。元々シャルルが有能なだけあって織斑一夏のデータはかなりまとまりつつあり、今日も同様にそのデータ送信に追われていた。いまだに罪悪感は消えない。考えように考えないようにと自分に言い聞かせるたびに、逆にそれを考えてしまい、更にそれを抑え込もうとして、正直な話シャルルはそれらから来るストレスで心身ともにかなり疲弊していた。そもそも前回の社長との通信の際もかなりボロボロだったのだ。いまやシャルルを繋ぎとめているのは、ただやらなければ自分がここに居られなくなってしまうというそんな切羽詰まった使命感だけ。それも、何かの拍子にプツンと切れてしまいそうなほどに脆いものだ。シャルルはそれを必死に繋ぎとめながら、日々を過ごしている。
教室や皆の前ではそれを見せまいと振る舞っていたが、果たしてどれほど誤魔化せているものなのか…。
「一夏のデータ入力は今日で最後……」
シャルルは呟きながら、エンターキーを押す。するとモニターに〝Complete〟と表示されてデータが送信されていく。シャルルがふうっと息衝いた時だった。突然モニターに〝Calling〟の文字が躍る。
「え?」
一瞬シャルルは、何が起きたのか分からなかった。何せ向こうから通信を送ってくる事などほとんどない事だ。慌ててヘッドセットを取りだしPCと接続する。そして恐る恐る通信ボタンをクリックした。
「……あの……もしもし…シャルロットです」
『そんな事は分かっている』
「………」
『………シャルロット、今日は何故私が連絡したのか分かるか?』
「い、いえ……分かりません」
『フン、本当にわからないのか?』
「はい…」
『はぁ…今回連絡したのはお前が最近送ってきているデータのことだ』
「データですか?」
シャルルは小首をかしげる。データは何度も見直しているし、数値入力にもミスはないはず。それなのにデータの件で通信とは一体……。シャルルがそう思ったときヘッドセットから耳を疑うような言葉が聞こえる。
『はっきり言ってほとんどがゴミ情報じゃないか』
「え!?」
『自分自身では情報をまとめているつもりだろうが、はっきりって使えん。まったくこの程度も満足にできないとは…』
「ま、待ってください!」
これにはシャルルも反論した。送ったデータの何が駄目だというのか。そもそも交戦データでも無いよりはましだと言ったのはそっちではないか。だからシャルルは一夏との交戦データから得られた情報にプラスして自己分析まで添付して送っていたというのに。何が不満というのか!
だが息荒く反論したシャルルに対して相手は声色ひとつ変えず冷たく言った。
『吼えるな』
「ッ!?」
『正直ってここまで使えなかったとは思わなかったぞ』
「……」
『ふぅ……もういい』
「え?」
『近いうちに、そっちにうちの者をやる。引き上げの準備をしておけ』
「そんなッ」
シャルルの顔が一転青ざめる。どうして! こうならないために頑張ったのに……こうなりたくないから背徳感や罪悪感と戦いそれに耐えながらこれまでデータを送り続けてきたのに……なんで? どうしてッ
『そんな? なんだそんなとは。我々も使えんコマにそうそうはチャンスを与えておけんだろう?』
「でもまだ僕は!」
『できると言うのか?』
「……はい」
『………ふむ、いいだろうだったら……うちのが行くまでに織斑 一夏の〝パーソナルデータ〟を手に入れろ』
「……!」
『この意味は分かるな? 前回私は言っただろう? それなりの手段が待っている…と』
つまり、そういうことなのだろう。確かに〝社長〟は言った『次の報告までに何かしら成果が無いと判断した場合は……それなりの手段が待っているぞ』と。
『〝この程度のことならお前でもできるだろう?〟期間はそうだな……1週間だ。お前にもいろいろと〝覚悟〟が必要だろうからな。
〝社長〟はそういい残して前回同様一方的に切断した。シャルルは本当にわずかだが心のどこかで今回の通信でねぎらいの言葉でも1つかけてくれるのかもしれないと期待した部分があった。たとえどんなことを言われようともあの男はシャルルの父親なのだ。だがそんな淡い希望はものの見事に砕かれた。跡形も無く。
かけられたのは、冷たく非情で、そこにはシャルルを人ではなくもはや物としか見ていない様なそんな言葉…。
何故?どうして?自分は間違えたのか? ここに長く居たいからだから自分は……
ヘッドセットを付けたまましばらく呆然自失のシャルルだったが、おもむろにベッドのヘッドボードまで移動するとその奥に隠されるように置かれていたフォトフレームを取りだした。
そこに映るのは、幼い少女と暖かい笑顔を見せる1人の女性。そしてその女性はシャルルにとって、最も重要でそして最も愛すべき人だった。
「……ねぇ……どうしたらいいの? 僕は………もうわからないよ…」
何をしても、もう無駄なのか……。どんなに自分の為に、努力を重ねようとも無駄だというのか。もうこのまま自分には選択する余地は何も無いというのか。シャルルは愛おしむ様にその写真の女性を指でなぞる。そしてそのまま写真を胸に抱きながらその場で静かにひっそりと、涙を頬に伝わせる。
必死に繋ぎとめていた、使命感が今まさに、途切れようとしている。これが途切れれば自分は本当にもう、〝あの人の道具〟になってしまうというのに。
だが……今のシャルルには、そうなってしまった自分を、もうどうする事も出来なかった。
「……もう……考えるのやめるよ………その方が楽だよね……」
これからは、抗う事をやめよう。
感じる事をやめよう。
そんなの辛いだけだ。
言われたことだけをやってればいい。
「僕……頑張るよ……〝母さん〟」
その言葉が、最後の言葉。必死に、無駄な抵抗を続けてきて辛い思いばかりしてきた
これからはもっと、素晴らしい人生が待ってるはずだ。言われた事をやってたくさん褒められるんだ。頭とか撫でてもらえるかな?
楽しい事もいっぱいしたいな。いや、出来る、僕には出来るんだ。心を入れ替えたから。
「一夏のパーソナルデータ………ちゃんと〝持って帰らないとね〟」
涙は止まらなかった。でも同時に不思議と何処からか力が湧いてくる。初めからこれで良かったんだ。自分は道具なのだ。
「フフッ……フフフッ」
泣きながらなのに笑いがこみあげてくる。心を入れ替えたと思ったのに、ひょっとして自分はただ壊れてしまっただけなのだろうか。でもそれならそれで丁度いい。壊れたのなら何も感じなくて済む。
そう、何も感じなくて済むのだ。
何も感じなくて済む。
「フフフ、アハハハハッ アハハハハハハハハッ!」
なんて清々しい気分なんだろう。こんなにも楽になるなんて思わなかった。
これが新しい僕なんだ!
シャルルはそのまま、しばらくの間ベッドに上でひたすら乾いた笑いを続けた。
そこにはもう、皆の知るシャルル・デュノアは居なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふん。なるほどね」
あたしは、端末からイヤホンジャックを抜き取ると適当に丸めてポケットに突っ込む。あたしは今、シャルルの部屋から程近い場所にあるベンチに腰掛けている。さっき抜き取ったイヤホンジャックで別にあたしは音楽を聴いてたわけじゃない。聞いていたのは、シャルルの室内での会話だ。オータムさんと話した日の翌日、シャルルのプライベートを探ろうとと思って部屋に盗聴器を仕掛けたんだけどこれはなかなか、偶然だがいいことが聴けた。初めは独り言かとも思ったがそれにしては受け答えもしていたし何より部屋にはシャルル1人。そうなれば通信をしていると考えるのが自然な線だろう。 話し相手の声が聞こえなかったのはヘッドセットか何かをしていたから。そのため相手の声までは流石に拾えなかったが、それでもシャルルのあの切羽詰った声を聴けばわかる。ここ数日シャルルの様子がおかしいのはこの通信が関係しているのは間違いないだろう。
そしてキーワードも飛び出した。
「……社長……ね」
あたし達と同様にコードネームで呼んでいるならば推測は困難だが、そのままの意味を受け取るなら、シャルルが社長と呼ぶ相手は1人。
デュノア社の社長……〝アドルフ・ジャン・デュノア〟その人だろう。彼の情報はあたしも少しだけ調べた。まぁ表面的な事しかわからなかったけど。そのあたりはオータムさんが調査してくれているはずだ。
さて……このことを踏まえて……どう動くか。
つっても、まだいろいろ事を起こすには、判断材料も少ない。
「しばらく、泳がせるのが妥当かな…」
「何をですの?」
「あ、いやだからシャ――――へ?」
「どうも」
「うわぁっと!?」
せ、セシリア!? あたしが振り返ると、あたしのデコにきれいなブロンドの髪が触れてこそばゆいぐらいの距離にセシリアがいた。あたしは思わず驚きベンチから転げ落ちてしまった。あたしのあまりの驚き様に、セシリアは眉を潜める。
「そんな、驚かなくてもよろしいでしょうに…」
「い、いや、驚くって。振り返ってそんな至近距離にいられちゃ」
「失礼ですわね!」
「うん……」
前回もそうだったけど、彼女は生身で〝ステルスモード〟でも使えるのだろうか、それぐらいに気配が無い。いや気配が無いって言うより…
「あ、そうかッ! 影が薄いのか」
「やかましいですわッ!!」
あたし達は、ひとまずベンチを離れ、部屋に向かって歩いていた。といってもセシリアは不満げに口を尖らせあたしは頭を軽くさすっている。
「いつつぅ……何も殴らなくたって…」
「ふんッ、ふざけるにしても度が過ぎておりましてよ」
「だからって、お嬢様がグーパンチはどうなのさ…」
「制裁にグーもパーもありません」
はぁ、流石に気にしてたかなぁ……影の薄さとかは……だって…ねぇ? ま、それはいろいろ都合もあるんだろうから深くは突っ込まないことにしよう。それにこれ以上変に関係をこじらせたくもないしここは謝まっとこ。
「と、とにかく、セシリアさんごめんね。本当に顔が近すぎて驚いただけなんだって」
「むむぅ」
「ほらほら、そんな膨れないでよ」
「……ま、私も少し近すぎたかもしれませんわね」
「そんじゃま、お互い様って事で……ね」
「仕方ありませんわね」
「ふぅ…」
「で、それはもうよろしいのですが、秋穂さんあそこで何をなさっていたのでしょう?」
「え!? あ、えぇっと……ら、ラジオを聴いて」
「ラジオ……ですか?」
「そうそう、ちょっと部屋じゃ入りが悪かったから!」
「…そうですの」
セシリアは苦しい言い訳に、怪訝な表情を見せたが、最終的には納得してそれ以上聞いてこなかった。あぶなぁ……我ながら苦しい言い訳だったが、シャルルの会話を盗聴してましたなんて口が裂けもいえない。何とか誤魔化せたことにあたしは胸をなでおろしつつあたしは、まだ少し見えていたシャルルの部屋を振り返る。
シャルルのことは気になるが、とはいえさっきも言ったが判断材料に欠きすぎる。もう少し泳がせておくのが得策だね。最悪向こうのアクション待ちでも良いかぐらいの気持ちで。
あたしはそう考えると、シャルルの部屋から視線を戻して、少し距離が離れてしまったセシリアを追いかけたのであった。
その日の夜、あたしはいつものように人目を避けて、スコールさんに連絡を入れた。
『最近頻繁ね、通信も』
「まぁ、いろいろと問題がありますからそれは仕方がないと思います」
通信がつながって第一声がそれだった。事実なのだから仕方がないが。
『まぁ、ちょうどいいわ、私からも1つ言わなきゃいけないこともあったし』
「言わなきゃいけないことですか?」
『先にそっちから言いなさいな』
「あ、はい。あれから少しシャルル周辺を調べてみたんですけど」
『どう? 何か分かった?』
「〝社長〟と呼ばれる人物とどうやら定期的に連絡を取っているみたいです。最近どこか元気がなかったのもそれが原因かと」
『社長……普通に考えれば、デュノア社の…』
「はい、でもそれ以上のことはわからなかったんで……とりあえずもう少し泳がせようかなと」
『そうね、下手に動くよりは得策ね』
「はい」
『けれど……彼がデュノア社の社長と何かしらの通信を行っているのなら何かしらの情報を得るためにこの学園に潜り込まされたと推察することはできそうね』
「何か……それって」
『十中八九、織斑 一夏でしょうね』
やっぱりと、あたしは思う。そもそも彼は男性操縦者だ。その彼が潜り込まされたという推測が立っている以上、目的なんて火を見るよりも明らかだ。だがそうなると前以上にあたしは意識を改めざるを得ない。あれはあたしの獲物だ。誰にも譲る気はない。
「スコールさん、今回の件で、彼が何か事を起こしてもあたしに任せてくれます?」
『言ったはずよ? あなたに任せるとね。殺すもよし、殺さずもよし。ただしどんな結果を招いても組織に有益になることが条件だけれどね』
「……わかりました」
『あんまり入れ込んじゃ駄目よ。それだけは言っておくわ。適度な緊張感を持ちながらも常に冷静に振る舞いなさい』
「大丈夫です、わかってますって。スコールさん、こっちでも彼の調査は行いますけど、そっちでもデュノア社について調べてもらえませんか? なんでか知らないけどオータムさんと連絡つかないんですよ」
ここ数日、オータムさんの端末に連絡を入れても下宿先に連絡を入れてもずっと電波が届かないとか留守電に入ってしまって情報の共有ができなくなっていた。まったくあの人は何やって……
『あぁそりゃ、当然よ。オータムは襲われて今は〝家〟で療養中だもの』
「なんですってぇ!?」
『あらあら、そんな大声出すと悪い人に見つかるわよ?』
「悪い人はどっちかっていうと自分達……っていうのはよくて襲われたんですか!?」
『えぇ、腕をブスッと』
いやいや、腕をブスッとってそんな軽く言われても…
『大丈夫よ、生きてるもの』
「そういう問題ですかね…」
生きてりゃ何でもいいのだろうか……。今思ったけどいい体に学園に変装潜入させられたり、大けがも軽く扱われたり、今さらだけどオータムさん苦労してるんですね…。
まぁ、それはそれだとりあえず生きてるなら安心できるけど……。
「にしても一体誰に?」
『まさにそれが、私があなたに言いたかった事』
「あ、そうなんですか」
『……』
「……?」
『………』
「あの、スコールさん?」
なんでいきなり黙っちゃったんだ? ま、まさかそんなに強敵とか…? スコールさんが黙り込むほどの敵って一体。あたしはスコールさんの言葉を固唾をのんで待つ。
そしてゆっくりとスコールさんが口を開いた。
『ま、大丈夫よ』
「はぁ?」
『だって、オータムの怪我はちょっとドジふんで勝手に怪我しただけですもの』
「ドジ…?」
『そ、取るに足らない相手だったのにね。だからあなたならほぼ無傷で完勝よ、完勝』
「そうなんですか?」
『とにかく、そういう輩もいるってことだけ頭の片隅に置いときなさい。情報はわかり次第随時そっちの端末に送るようにするわ。それじゃあまり話し込んでると怪しまれるからもう切るわね。頑張りなさい』
「……は、はい…」
最後は矢継ぎ早にまくしたてられて、腑に落ちなさも残しながらの通話終了となった。
………ま、まぁ気を付けよう、うん。
あたしは、今一度小首を傾げながら、自分の部屋へと戻るべく足を進めた。
ふと見上げた夜空には、今日もきれいな満月があたしを見下ろしていた。
通信から数日、あたしは毎日のようにシャルルの部屋の盗聴と周辺調査に明け暮れた。しかし、泳がせたにもかかわらずこれといった重要な情報を得るまでには至っていなかった。そんなある日の事だ。それはちょっとした変化から始まったんだ。
「え? 休み?」
「あぁ、何でも体調が優れないから今日は休ませてだってさ」
「うむ、確かに最近ずっと様子が変だったからな」
「時差ボケ……でしょうか?」
「いや、いくらなんでもそれはないでしょ。デュノアって日本に来てそれなりの期間過ごしてんじゃん。あたしなんてすぐ慣れたわよ?」
「あなたは、お隣の国ではないですか」
「そりゃそうだけどさ…。まぁでも疲れとかそういうのじゃないの?」
「……疲れねぇ」
あたしは一夏から、シャルルが休むということを聞いた。しかし、別に彼だって人間だ、風邪だってひくだろうし熱だってでる。特に最近は様子が変だったこともあって彼が休むということを特別不思議がる人物はいなかった。あたし以外は。
あたしは、それなりに彼の変化の原因を知っている。ここまでくればあの通信が原因だという予想は確信に変わっていた。だが肝心の内容が聞き取れていないのは事実だったが。
それでも昨日盗聴した時は、特に声色に変化はなかった。その証拠に一夏も昨日特にシャルルが咳をしていたや熱があったという旨の証言はしていない。
となれば今日の休みは仮病……。あたしは、座るものが休み空席となったシャルルの机をじっと睨む。何か、あるというのか……今日。
「座れ、騒ぐな、静かにしろ。HRを始めるぞ」
その時、織斑先生が山田先生とともに教室へ入ってくる。あたしは、注意されるギリギリまでシャルルの席を見やって自分の席へと戻った。
しかし、ここまでは予測済みだ。むしろようやくアクションを起こしてくれたと思う。ただ重要なのはこれから。シャルルがどう動くかにもよるが自分のやらなければならない事は2つ。1つはシャルルの狙いが一夏である以上、それをどんな手を使ってでも阻止しなければならない事。一夏は自分の獲物だ、誰にも渡すわけにはいかない。そしてもう1つが〝ファントムタスク〟に利益をもたらす事、或いは損失を出させない事。口で言うのは簡単だがこれって結構やろうと思うと難しいよね。ま、当然頑張るけどさ。
恐らくシャルルが本格的に動くのは、ターゲットである一夏が姿を消してもあまり怪しまれない時間帯だろう。つまり逆にいえば授業時間中は仕掛けてはこないはずだ。勝負は放課後か……おもしろいじゃんか。こっちも時間に追われてっていうのは好きじゃないんでね。
ははぁん……ようやくらしくなってきた。早く放課後が来てもらいたいもんだよ。あたしは不敵な笑みを漏らす。が、その時だった。
「東雲さん、危ない!」
「は? ってうごッ!?」
「東雲……何が面白い」
「す、すいませんでした」
勝負の前に無駄なダメージ(チョーク)を頭部にくらってしまった。……不覚
終業のチャイムが鳴る。織斑先生達もそれに合わせて話を切り上げ、HRが終了して教室を後にした。さぁ、いよいよ開始だ!
あたしはひとまず、かばんを持って自室へ向かう。と言っても準備を行うためではない。そもそもシャルルの行動自体が急すぎたために用意が間にあってはいなかった。あたしが部屋に向かったのは、自分の荷物を放り込んでく為だけだ。あたしは自分のベッド目がけてかばんを放り投げ、振り返るとそこにはセシリアがいつも使っている姿見があった。
そこに自分の顔が写っている。その顔は、自分では意識せずともやや固い。緊張とはあまり無縁だと思っていたがそれなりにプレッシャーはかかっているようだ。
あたしはその固まった顔の筋肉をほぐすようにパンッと1回両頬を叩く。そして最後にポケットの中のキーホルダーをグッと握りしめた。場合にとっちゃ〝
あたしがそう、心の中で念じると一瞬キーホルダーが光った気がした。
ふふッ、さぁてそれじゃ、行きますか!
あたしは、勢いよく部屋を飛び出した。それは同時に、あたしの勝負が始まった事を意味していた。
皆さんお久しぶりです、のろいうさぎです。
今回も2話いっき上げの予定です。
まずはシャルロット編、原作を大きく破壊し一夏とシャルロットのお風呂シーン(一夏が見ちゃうシーン)がありません。というか破壊し過ぎて原型ないですが。
よく皆さんのを拝見させていただいてるとシャルロットのダークサイド的な側面を描かれている方も多くてだったら一度落としてみるかという事でw
落としてみました。(アッサリw
さて、心を閉ざすシャルロットの間の手が一夏に伸びる、その時秋穂はどうするのか!
22話でお会いしましょう! ではまた!