IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第22話~衝突~

『え!? 居なくなった!?』

「はい! 至急、〝キングオブスカイ〟を飛ばしてください!」

『分かったわ、鐘音に伝えておく』

「お願いします!」

 

 

 くっそ、まさか連れ出されるなんて……ッ。これは予想の斜め上を行かれてしまった。シャルルの性格上あまり強引な手段に出ないだろうとばかり思っていたのだがすっかり出し抜かれてしまった。

 

 

 あたしは通信を切るとギリッと奥歯をかみ締める。何故あたしがこんなに焦っているか、それは数十分前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 さてさて、シャルルは何やってるかな? あたしはシャルルの部屋の近くで端末を起動し盗聴器の周波数帯に合わせる。しかし、今日に限って調子が悪いのか聞こえてくるのはノイズだけであった。

 

 おかしいなぁ……端末壊れた?

 

 

 初めはそのぐらいにしか思っていなかった。だが徐々に時間が立つにつれ、それが間違いであったと知る。いくらなんでも中華製じゃないんだからこんなすぐに壊れるなんて妙だ。……ま、まさか!

 

 

 あたしは慌てて、シャルルの部屋のドアに近付くと、ドアノブを握る。すると、扉はガチャリという音を立てながら開いていく。その瞬間あたしは青ざめた。

 

「あ、開いてる……」

 

 

 あたしはそのまま部屋に入っていく。すると小さな円卓の上に粉々に粉砕されたあたしの、盗聴器が置かれていた。あたしはそれに驚きつつも周囲を伺う。部屋の電気が落とされカーテンもしめられた部屋はまだ日中だというのにも関わらず薄暗い。だがその薄暗さが、逆に気配の無さを増大させる。一応洗面所や風呂場もみたが当然誰もいない。もぬけの殻であった。

 

 一体何処へ?

 

 

 何処? いやいや自分は何を言ってるんだ? 何処って決まってる一夏の所だ!

 

 

 あたしは弾かれたように部屋を後にすると、急いで教室へ向かう。全速力で走ったため1組の教室に着いた時には肩で息をするほどになっていた。

 

 

「はぁ、はぁッ」

「あ、東雲さん。どうかしたの? そんな慌てて」

 

 あたしの様子に気が付いた、クラスメートの子が話しかけてくる。あたしは息も絶え絶えながらにその生徒に訊ねた。

 

「あの……はぁはぁ、一夏君さ……はぁ…知らない?」

「織斑君? あ、そう言えばさっきフラッとデュノア君が来て一緒にどこかへ行ったみたいだよ。休んでたのに大丈夫なのかな……って東雲さん?」

「……やられた……ッ」

「え?」

「あ、いやなんでもないよ、そうありがとう!」

 

 あたしはそれを聞いて、もう一度寮の部屋に戻る、こう言う時は下手に動きまわらずフォロー役に連絡が鉄則だ。

 そして寮の部屋にたどり着きスコールさんに連絡を入れて今に至るというわけ。

 

 

 

 

 流石にスコールさんも驚いていたなぁ……まぁそりゃそうだろうけど。まぁ、どちらにしても連絡待ちと言ったところだろう。

 若干手持無沙汰になってしまったあたしはもう一度誰も居ない部屋を見渡してみる。部屋割が変更になったこの部屋だが、ベッド割まで変えて無ければ奥の窓際がシャルルのスペースである。そこには、かばんや勉強道具がきちんと整理されて置かれていて乱雑に物が積まれたままになっている一夏のスペースとは対照的だった。一夏も男子としては整理は出来ている方だと思うが、シャルルと比較してしまうとやはり見劣りしてしまう。

 

 あたしがシャルルのスペースを軽く見渡していると、ふとベッドのヘッドボードの奥に隠されるように置かれたフォトフレームが目に入った。

 

 

「これは……」

 

 写真には、ブロンドの幼い少女を抱き上げ一緒に笑っている女性が写っていた。なんでこんなものがここに…? それに誰だろうこの子。えぇと、写真の日付は…。

 

 いまから……12年前……。どうしてそんな古い写真を。あたしが写真を見ながら思考にふけっていると不意打ち気味に端末が鳴る。

 

「うわッ! って、っと、あぁぁーーッ!?」

 

 それに驚いたあたしは、手を滑らせフォトフレームを落としてしまう。そんなに背は高くないが、それでも落下したフォトフレームは衝撃で後ろの板が外れ中から写真が飛び出してしまっていた。しかし、それよりも先にやる事がある。あたしは急いで端末を取りだすと通信を繋いだ

 

「はい、すいません遅れました!」

『彼の、居場所が分かったよ!』

「本当ですか! でも早かったですね?」

『まぁね』

 

 通信の相手は鐘音技師であった。鐘音技師の声はそれほど焦っているようには聞こえなかったが、その声の後ろで素早くキーをタイピングする音がひたすら響いている。どうやら声色以上に事態は深刻の様であった。だからあたしも、単刀直入に所在地をたずねる。

 

 

「それで、シャルルは何処に?」

『今、〝キングオブスカイ〟で追っかけてるけど…』

「けど?」

『流石の鷲もISには追いつけないみたい♪』

「♪じゃないですよ! なに、彼IS使ってるんですか!?」

『うん』

「今すぐ、位置情報を送ってください! あたしが〝デファイアント〟で追いかけます!」

『分かった、今すぐやるよ』

 

 

 なんか、こう緊張感ないなぁこの人。しかしシャルルがISまで使って一夏を連れ去っているのであれば急がねばならない。あたしは、そのまま部屋を出ようとして落としたフォトフレームの事を思い出して再び戻る。

 

 あぁ、もう自分がやらかしたことながら面倒だなぁッ! あたしはフォトフレームを拾い上げ写真を元に戻し、その後ろから裏板を入れようとして手が止まる。

 

 

「ん? なんか書いてある……〝シャルロット&アデニール〟……シャルロット?」

 

 

 シャル……シャルロ…ひょ、ひょっとして…この写真の少女と女性って……。そうか…、そういうことか…。あたしが頷きかけた時端末に位置情報と、オータムさんやスコールさんが調べてくれた情報が送信されてくる。あたしは軽くそれに目を通しそして簡単だが、キーワードを読み取って推測をたてた。

 

 

 〝デュノア社〟〝アドルフ・ジャン・デュノア〟〝経営の悪化〟〝織斑 一夏〟そして〝少女、シャルロット・デュノア〟……多分そうなのだろう。

 

 

 あたしは、フォトフレームを直して元ある場所に置くと、あたしは足早に部屋を後にする。そして寮の裏手側に回りこんでポケットから〝デファイアント〟の待機状態である牙骨のキーホルダーを取りだす。そしてそれをグッと握りしめISを起動させながらこう思う。

 

 

 

 〝今回はいつもとは色んな意味で違った趣旨の戦闘になるな〟…と。

 

 

 

 そしてあたしは、光に包まれ、起動が完了した〝デファイアント〟のスラスターに間髪いれず火を入れるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ミルヒシュトラーゼもこのまま、彼を追いかけるわ。ターゲットの進路をトレースして」

「了解!」

 

 

 スコールの声がブリッジに響き、それに呼応するように艦内のクルーが慌ただしく動きだす。〝ミルヒシュトラーゼ〟は最大潜行深度ギリギリの水深400メートルを航行している。作戦行動中だという事もあるが、元々、この艦は格納ブロックさえ洋上に出ていればISの離着艦は可能なため、無理に浅い深度を航行する必要がないという理由もあった。

 

 鐘音が飛ばしている〝キングオブスカイ〟から送られてくる飛行経路を頼りに艦がそれを追いかける。当然潜水艦がISに追いつくことなど不可能だがそれでも動かないよりはましであるし、シャルルがISを使って海側へ飛んで居る事をスコールは非常に警戒していた。この先には特に下りられるような島はない。それにこちらは太平洋側。フランスに向かうのであれば、逆方向であるし何よりいくらISでも単独で日本からフランスまで無給油というのは厳しい。となれば向かう先にシャルルの仲間がスタンバイしている可能性は充分にある。そうなれば秋穂1人では、対応しきれない。この艦のバックアップは必須だろう。

 

 

「…スコール」

「何?〝エム〟?」

 

 マドカがスコールに声をかける。するとスコールはそれにコードネームで返した。既に早くもお仕事モードということだろうか。マドカはそれならそれで別に買わないと言った風で、気にせず質問をぶつけた。

 

「デュノア社は、織斑 一夏のデータを集めている事は間違いないだろう?」

「そうね」

「そのデータで何をするつもりなのだろうな?」

「確かに……彼がどのぐらい織斑 一夏の情報を集められたのかは定かではないけれど、少なくともその情報だけではISを作る事なんて出来ないわよね」

「そうだな、どうにかして〝白式〟の詳細データを手に入れていたとしたら別だろうが……流石にIS学園もそこまで甘くはなかろう」

 

 マドカは自身でそういったものの、〝白式〟程のISを作れるだけの技術力がデュノア社にあるとは到底思ってはいなかった。それほどの技術力があれば既に経営困難になど陥っていないはずだし、イグニッションプランから漏れる事も無かったはずだ。恐らく今のデュノア社にいくら仕組みが分かっていようとも〝白式〟と同程度のISを作ることは不可能、出来ても〝白式〟の劣化版がいいところだろう。だが、世界第3位の企業が、自分達の技術力という初歩的な事を失念しているとは考えにくい。

 

 

 ひょっとして、重要なのは織斑 一夏個人のデータか?

 

 

 確かに織斑 一夏のデータはどの国ものどから手が出るほど欲しいだろう。何せ世界で唯一の男性操縦者なのだから。しかしそうであっても、デュノア社はISメーカーだ。欲しいのはISのデータ。となるとやはりこの考えは間違っているのだろうか。

 

 

 マドカは思考にふけっている間に、艦のレーダーがシャルルとは違うもう一つの光跡を記した。その反応を格納ブロックで確認した鐘音の声がブリッジに響く。

 

 

『識別は…〝デファイアント〟秋穂ちゃんだね』

「もう来たの?」

『ハンマー・イグニッションを1発使ってるみたいだけど』

 

 マドカは。ブリッジのレーダーに近付きながら、鐘音の話を聞きやや渋い顔を浮かべる。

 

「いくら速度が欲しいからと言って、これから戦闘があるかもしれんのだぞ、追跡に使うべきではないと思うが」

『そうはいっても、取り逃がしても意味ないでしょ』

「だが実質これで後1回しか使えないじゃないか」

『逃走用の事を考えればという話でしょ? でもそれなら敵機を落とせば万事解決じゃないのかな?』

「だが、シャルルとか言う奴はまだ学園の生徒だろう。撃墜は不味い」

『だけどさぁ…』

「2人ともいい加減になさい」

 

 まだ何かを言い返したそうな鐘音とマドカの間に、スコールがやや鋭めの口調で割って入る。それを受け2人とも、渋々口をつぐんだ。鐘音の後先を考えない意見にまだ少し反論したりないが、しかし実際に行動するのは秋穂で自分達はあくまでフォロー役だ。そういう意味では、無意味で、非建設的な内容の会話だったなとマドカは少し反省する。

 

 

 

 そうこうしているうちに、長距離レーダー上の2つの点の距離が近づき、やがて停止する。それを確認し、ブリッジに緊張が走る。しかしスコールはそれを表に出さないようにいつものように振る舞った。

 

「鐘音、ソナー効果範囲を広げて。あの2機周辺に艦影がないか随時チェック」

『了解』

「艦はこのまま、2機周辺を哨戒に当たるわ、操舵班お願いね」

「はい」

 

 

 スコールとて、緊張していない訳がない。その証拠に手はギュッと握られているままだ。だがそれをおくびにも出さず淡々と指示を送る。そしてそのスコールの姿を見てクルー達にも若干の余裕が生まれ、再び活発に動き出す。そして自分も、なんだか少し身体の動きが軽くなったような気がしている。本当に彼女が自分の上司で良かった、彼女のおかげで自分は心おきなく、妹だけを心配していられる。そう思いながら、マドカはレーダー上で相対する2つの光点のうちの1つ。秋穂を見やり目を細めていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「誰? 僕急いでるんだけどな?」

 

 

 一夏を担いだシャルルが穏やかな口調とにこやかな顔で言う。

 しかしそんな様子とは裏腹に伝わってくる、この嫌な感覚。少なくとも学園で、あれが演技だったとしても、彼…いや彼女か。その彼女から受けた印象とは180度異なる物であった。爽やかに言った風でもそこに爽やかさなどなく、ねっとりと嫌らしくまとわりつく、間違ってもその感覚に触れて気持良いといえるような代物ではない。このまま黙っていればあたしはこの感覚と感情に飲み込まれてしまうことは間違いないだろう。だからあたしはふぅッと深呼吸を1つ入れ、そして返事を返した。

 

 

「誰かは、言えない。ただその男をこっちに渡してもらいたい」

「どうして?」

「……理由は言えない。だけどその男を持って行かれちゃ困るんだよ」

「僕だって持って行かれちゃうと困るんだよ、一夏は僕にとっても大切な人なんだ」

「大切な人を拉致するなんて聞いたことないけどね」

「拉致じゃないよ。協力を申し込んだのに断るから少し手荒な手段に出たまでだよ。でも一夏は優しいからね。きっと話せば僕に力を貸してくれるに決まってるんだ」

 

 すでに色々と感覚が壊れてきている。ファーストインプレッションで普通の精神状態ではないだろうってのは分かってたけどこれほどとは…。だがあたしは彼女のこの様子を見て自分の推測が間違っていなかった事を確信した。彼女の精神は徐々に壊れ始めている。それは多分自分の居場所を守るために、自分壊している。だけどそれは違う。それを彼女に気付かせないといけない。そして一夏も取り戻す。〝この事〟に気付くまでは、ただ一夏を殺るのはあたしだと、あんたにはやらせないとそのぐらいの感覚でしかなかった。だけど、推測した時、これは今までとは少し違うと感じたし、それが確信に変わった時、こう思った。

 

 

 どこか、自分に似ていると。

 

 

 もちろんあたしと彼女では置かれている立場は全然違う。だが共に居場所を求めたという点では同じだし。自分だってきっとスコールさんやオータムさんそして何よりマド姉がいなければ、今のシャルルの様に自分を壊して何も考えないようにして、自分の居場所を守ろうとしたはずだ。そんな事しても意味はないというのに。だからこそ気付かせる。

 

 それは間違いだと。居場所を得るのは実はもっと簡単な事で、自分を壊す必要なんかないのだと!

 

 あたしが、三度口を開こうとした時、シャルルが突然肩に担いでいた一夏を上へ放り投げた。

 

「な!?」

「大丈夫だよ、僕の〝仲間〟が迎えに来てくれたみたいだからね」

 

 言うと、シャルルの背後から黒い影が躍り出て、一夏を回収し素早く離脱していく。あたしはハイパーセンサーでその影を追うとそれは黒塗りの〝ラファール・リヴァイヴ〟だった。

 

「ッ、しまった!」

「行かせないッ!」

「!」

 

 スラスターを噴かし動こうとした時、シャルルが目の前に機体を滑り込ませる。その手にはブレードと、アサルトライフルが握られている。いつの間に…とも思ったが、ラウラとの軽い戦闘があった時、目にもとまらぬ早業で武装を切り替えていた事を思い出し、これはシャルルにとっては当たり前のことなのだと再認識する。そしてこの状況。〝デファイアント〟の〝ハンマーイグニッション〟なら多分振り切れるかもしれないが、仮にもう一機に追いつけてもすぐに奪還できるかは分からない。最悪シャルルとの挟み撃ちにあったらこっちが危険だ。あっちはスコールさん達に対処してもらうしかないだろう。

 にしてもこういう判断がパパッと出来るという事は思った以上に自分は、冷静に事を運べているのかもしれない。そのあたりは失敗から学び少しづつだが成長しているという事なのだろう。

 

 

 あたしは、スコールさんに短く、メッセージを送ると、シャルルに向き直り静かに構える。オードソックスなボクシングの基本姿勢だ。よく己の思いのたけ全てを拳に込めるなんて言い方をするけど、まさに今回なんてそのいい例だろう。あたしの思い、絶対に届けて見せるッ

 

 

 

 だってそれは、間違いなのだからッ!!

 

 

 

 互いの譲れぬ想いをぶつけ合う戦いが、今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「行方が分からない?」

 

 一夏が行方不明になった事は、偶然にも千冬の耳に早く入っていた。情報源は、別の科目を担当している女性教師だった。その教師は小テストの件で一夏を呼びだしたのだが、何時までたっても彼が姿を現さない事を不審に思い、教室に行ってみたのだそうだ。そしたら、さっきシャルルとどこかへ行ってしまったというクラスメートの話を聞いた。ただそれだけならば、放課後街に出て行っただけなのかという事で片付いたはずだった。だがよく見れば一夏の机には彼のかばんがまだかけられた状態で残っていたのだ。

 いくらなんでも、街に繰り出したのならば、カバンぐらい持っていくだろうし、連絡を取ろうとしたが携帯電話までもが、カバンの中で放置されていた。流石にここまで不審な点がそろっていては見過ごすわけにいかず、教師は千冬にこの事を知らせたのだった。

 

 

 千冬は、その女性教師話を聞いて眉根にしわを寄せる。千冬が気にしていた事は一夏よりもむしろ共にいたシャルルの方だった。なぜ彼が一夏を連れ去る理由があるのだろうか? 今の千冬にはその関連性が分からなかった。だが現にシャルルが一夏を連れて行ったという事は多数の目撃情報から事実だと判明はしている。

 

 

「分かりました、こちらでも探してみます」

「お願いします」

「はい」

 

 女性教師は一礼すると、踵を返し自身のデスクへと戻っていく。対する千冬はそのままやや駆け足で、職員室を後にした。

 

 

 

 

 

 

『織斑君が居なくなったんですか?』

「あぁ、少々厄介な事になる可能性もある。だがそれほど事を大きくもしたくはない。学園内でこうも立て続けに事件が起こっているという事が外部に漏れれば学園自体が揺らぎかねんからな」

『・・・厄介なことですか』

「だから山田君、小規模な捜索隊を1組編成してくれないか? もちろんISのだ」

『IS……はい、了解です!』

 

 千冬は管制塔へと急ぎながら、真耶に連絡を入れる。本当なら、自分自身が一夏を捜索したいぐらいの気持ちはあるが、前回前々回とアリーナを破壊されるほどの損害を出している上に、今度は生徒の失踪事件。外部に漏れればIS学園の信用にもかかわるし、何よりさらなる脅威を招く可能性すらある。更に今回千冬は初めから、真耶にISの捜索部隊の編成を頼んだ。これは言わずもがなシャルル対策である。一夏が荷物も持たずに街に繰り出すというのはおかしな話であるし、あまつさえ携帯電話まで置いていっている。そしてその一夏を連れて行ったのはシャルル。彼には専用機がある。仮にシャルルがISを使っていなければ、比較的早く見つけられるだろうが最悪の場合、シャルルと一戦交えなければならなくなる可能性もある。そう考えれば、どちらにしてもISの捜索隊は必須と言えた。

 

 今の千冬は一夏の姉である前にこの学園である程度の権限を持たされた責任者でもある。指示を出す身である以上動かす者の安全は、なにものにも増して重要だ。最悪の事を考えて作戦や指示を出すのは当たり前であったし、学園の事を考えるとこの件を大きくするわけにもいかない。真耶に小規模な隊の編成を頼み、自身も本来なら学園の地下の研究施設に併設されている統合管制室に向かうべくなのを、アリーナ併設の管制塔へ向かっているのはそのためだ。

 

 千冬が向かうアリーナの管制塔は統合管制室程大規模な物ではない。情報処理班も1名分、更に通信妨害等のジャミングには対抗する術を持たない、ISの実習や模擬戦等に使用される本当に小規模な管制室だ。しかし通信範囲や情報処理演算能力などは統合管制室に置かれている物とは大きく性能は変わらない。ただ情報を集めるだけならば、能力的に申し分はないし、何より「捜索訓練を行っていた」という言い分もこの管制室を使用していれば充分にたつ。 

 その事を真耶も敏感に感じ取ったからこそ、何も言わず指示に従ってくれたのだろう。千冬は、真耶に感謝しつつ管制室のカードリーダーに自身のIDパスをかざす。電子音と共にエアーの抜ける音が聞こえ扉が開いた。

 

 

 千冬はそのまま迷わず、オペレーションシートに腰掛けヘッドセットを装着する。そしてOSを立ち上げながら真耶に再び連絡を入れた。

 

 

「山田君、こちら管制室の織斑だ。編成はどうだ?」

『今日非番だった教師の中から、3名緊急要請に応じていただけました。編成は捜索範囲が分からないので全て〝打鉄〟よりも機動力に富む〝ラファール〟を』

「よし。恐らく、ここから人目につきやすい街方向へわざわざモノレールで向かったとは考えにくい。考えられるケースはISを使わずに山中を行っているか後はISを使用して海側へ向かったかの、どちらかだろう。なので、1機を山側の捜索残りは海側へ出て捜索を行ってもらってくれ」

『了解、そう伝えておきます』

 

 真耶との通信を切ると、千冬はレーダーを起動し、そして別モニターでシャルルの専用機のデータを表示させる。

 

 〝ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ〟……数値を見る限り癖なく、オールラウンダーに、そして距離を選ばずまた汎用性も高いためマルチな任務に対応できる機体。専用機になるほどにチューニングされていても、元々の高い完成度を活かした堅実な作りは変わっていない。これにシャルルの技量が加わるのだから、学園の教師相手でも1対1は少々苦戦しそうだと千冬は思う。

 

 しかしだ……やはり、どう考えてもシャルルの穏やかで温和な性格から察するに、一夏を連れ去るという行為をしたという事自体が信じられない。そうせざるを得ない何かがあるのか……それとも……そのような行為をする人格が、彼の本性なのか。

 

 千冬は、出撃報告を耳に受けながら、しばらく〝シャルル・デュノア〟という人物について思考を巡らせていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 秋穂のフォロー要請はすぐに届き、ブリッジからはマドカが飛び出していた。何度か角を曲がり、静脈認証のドアロックを解除し格納ブロックへとたどり着く。そしてハンガーに固定されている、自分のIS〝サイレント・ゼフィルス〟に飛び乗ろうとして、聞こえた声に動きを止めた。

 

「やっぱ、無理だって!」

「うるせぇ、傷口はもふさがったんだ! 〝アラクネ〟は無理でも〝パラスト・ホルン〟だったらあたしでも乗りこなせる。急いで、あたしの稼働データをインストールしやがれッ!」

「だけど!」

「良いからしろ! 時間がねぇんだよ!」

 

 オータム? それに〝パラスト・ホルン〟……あいつ、まさかッ

 

 

 マドカは、ハッとするとハンガーの足場から飛び降りオータムの元へと向かう。オータムの周りには整備班が人ごみを作っていたが、マドカの姿を確認するやモーゼの十戒よろしくザッと道が開いた。そして歩みを進めると、オータムとも目があった。オータムはマドカの姿を確認するや語気を荒げる。

 

「お前まで、何しに来やがったッ」

「お前こそ、何をしているんだ、そんな身体で!」

「そんな身体ぁ? 怪我は治ってんだからフォロー担当のあたしが行くのが当然だろうがよ!」

 

 マドカは、呆れると同時に腹が立った。オータムの言うとおり傷口はすでに塞がってはいる。船医も驚くほどの回復速度だといっていた。だが船医はこうも言っていた。塞がったのは表面付近だけで、実際はまだかなり痛みは残っていると。いくら利き腕ではないとはいえそんな状態で満足に戦闘ができるとは思えない。さらにいえばオータムが乗り込もうとしているIS〝パラスト・ホルン〟はスコールの専用機だ。ただこれは専用機といっても非常に汎用性が高く、また変な癖が無いためデータの書き換えのみでスコール以外でも難なく使うことはできる専用機としては異質な機体だ。そんなISだが、まったく問題が無いかといえばそれは違い、武装側に少々厄介な問題を抱えている。それは極端な射撃特化型であるということにある。近接戦闘で打ち合わない分、まだましとはいえ、機体自体は乗り手を選ばないが、搭載されている武装で乗り手を選んでしまう機体でもあった。

 

 オータムの場合、射撃の腕はそこまで悪くも無い。だがその武器の反動にオータムの腕が耐え切れるのかということについてはお起きに疑問が残るところであった。もし出撃して、途中で戦闘不能にでも陥れば命にかかわる。その可能性が少しでもある今の彼女を戦場へ送り出すわけには行かない。そんなことも彼女は分からないのか!

 

「いいか! いくらお前がフォロー担当でもその身体で出すわけには行かないんだ! 今回は私が出る。お前は引っ込んでいろ!」

「んなもん、納得できるか! これはあたしに、いやあたし達に任された任務なんだよッ てめぇこそ部外者なんだからすっこんでろ!」

「なんだと・・・・・・ッ」 

 

 こっちの気も知らないでッ 

 

 マドカは思わずオータムに向かって右手を振り上げる。この馬鹿は一発殴ってでもやらなければわからないッ だがその手は、振り上げたところで誰か別の手につかまれてしまった。

 

「ッ!?」

 「エム、オータムの言う通りよ。今回は下がりなさい」

「スコールッ だがオータムは…!」

「今回、この件を任せたのは今戦っているフロウ(秋穂ちゃん)とオータムよ。オータムがどんな形であれ出撃が出来るのならばあなたの出る幕はないわ。鐘音、データを今すぐ書き換えて」

「うぇ、だけど…」

「もう艦は、後は浮上するだけなの。ここで手間取ってる暇はないわ」

「う、うん…」

 

 スコールはマドカの腕を掴んだまま、構わず鐘音に指示を出す。にべもなく言われた鐘音は渋々だが頷くしかなかった。マドカはスコールの手を振り払うとすぐに詰め寄った。

 

「スコール、オータムの怪我の経過を知らんわけではあるまい!?」

「分かってるわ、そんなことぐらい。でも彼女が行けるというのだからそれを尊重しているまでよ」

「尊重って、下手すれば死ぬぞッ」

「それも分かっているわ」

「分かっている分かっていると……オータムが心配では無いのかッ!?」

「心配じゃない? 心配に決まってるじゃないッ!!」

「ッ!?」

 

 スコールの何時にない大声に一瞬その場の人間の動きが止まる。そんな整備班とオータムを我に返った鐘音が促し再び行動を開始する。しかしマドカはしばらく声を上げられなかった。あんな大声久しぶりに聞いたし、何よりさっきよりも更に強く握られた拳が小刻みに震えている。

 

「……す、スコール」

「分かってるのよ、オータムの腕が完治していないことぐらい。そして〝パラスト・ホルン〟の武装にその腕が耐えられるかどうか分からないってことも…ッ でもあたしは彼女達にこの任務を与えたの。そしてそれに関してオータムは必死に答えようとしてくれている。だったらあたしがんな彼女を止められると思う?」

「それは、そうだが…」

「オータムは大丈夫と言っているのだから、それを私は信じるわ。それが指示を出した者の責任じゃなくて?」

「………」

 

 信じる……か。マドカの見つめる先でオータムが痛む腕をかばいながら、ISを装着していく。この段階であれほど痛がっているというのに、普通に考えれば戦えるはずなどないのに、それをも推して彼女は戦場に出ようとしているのだ。自分は、オータムの事を信頼しているのかと聞かれれば、それはイエスだ。しかし、この状況でもなお信じられるかといえばノーである。自分のデータをインストールしたとはいえ自分専用のISでは無い事、そして腕の怪我、更には相手の戦力もはっきりとは分からない。こんな状況では信じろという方が無理だ。

 

 だがスコールの中にはあるのだろう、心配をも覆い隠せるほどの大きな信頼関係が。考えてもみればスコールとオータムの関係は自分達が加入するよりも前からの付き合いである。自分とは信頼の深さが違う。

 

 どこか複雑な表情を浮かべながらオータムを見ていたマドカの肩を優しくスコールが叩く。そしてスタンバイが完了したオータムがカタパルトへと移動していった。艦首がややピッチを上げ、やがて格納ブロックが洋上に顔を出す。ハッチが開き、内部を新鮮な海風が駆け抜け青空が顔をのぞかせていた。

 

 

「射出シークエンススタンバイ。カタパルトリニアステータスオールクリア! 風速アゲインスト3.2メートル。気密シャッター閉鎖確認、〝パラスト・ホルン〟バーナー全開ッ」

 

 

 シャッターで区切られた向こう側で、こちらへオータムがニッと笑って親指を突き立てる。そして、鐘音が「射出ッ!」と叫んだ直後轟音と共に機体が戦場へと打ち出されていった。

 

 

 見る見るうちに、米粒の様に小さくなる機体をマドカは見えなくなるまで見続けていた。そんなマドカに再びスコールが軽くポンポンっと肩を叩いた。

 

 

「それでも、心配?」

「……まぁな」

「フフッ、でも私もあれだけの事言ったけど心配よ。オータムに限らず、フロウ(秋穂ちゃん)もそしてあなただって。ここから飛び立っていく仲間は誰だって心配よ。でもあなた達はその度に必ず笑顔で帰ってきてくれた。だから私はまた信じようって気になるの。その笑顔を見るたびに、あぁ信じて良かったと思えるのよ」

「……」

「信頼する事は心配する事でもある。私はそう思ってる。もしあなたが、自分は信頼出来ていないって思っているのならそれは違う。あなたも私に負けないぐらいオータムを信頼しているわ」

「……あぁ」

 

 

 そうか……そうだな。マドカはスコールの言葉に静かに頷くと、目いっぱい秋穂とそしてオータムの事を心配しつくしてやると、強く心に思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋穂とシャルロットが譲れぬ信念をぶつけ合い、シャルロットの仲間をオータムが追い〝ミルヒシュトラーゼ〟がその背後に待つであろう敵の巣を狙う。更にそこへIS学園の機体が迫りつつあった。両者ともに狭まりつつある包囲網。それぞれがそれぞれの最悪の事態を避けるために、ただ全力を尽くして空を舞う。

 

 

 

 

 

 いくつもの思惑が入り混じった戦場。そして空で1つ大きな爆発が巻き起こる。

 

 

 

 

 

 

 激戦の火ぶたが切って落とされた瞬間だった。




こんばんは、のろいうさぎです。本日2話目の投稿です。
といっても、もう日付が変わってしまっていますね。

この話では戦闘開始までを描きました。
前回も書きましたが、原作ブレイクも良いところですね。
ただ秋穂とシャルロットはタイマンで戦わせてみたかったですし、トーナメントまでにシャルロットの方を片してしまいたかったという本音があるので…(汗


シャルロットと秋穂がどんな戦いを繰り広げ、そこへ学園のISがどう絡んでくるのか。
オータムは? スコール達は敵の〝巣〟を見つけられるのか!?
そして一夏の命運は!?


また次回23話でお会いしましょう!
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