IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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申し訳ありません、一部落丁が有りました
2013.2.18修正いたしました。


第24話~決着と白い凶牙~

「おぉ~見えたぁ~」

 

 海上に姿を現した一隻の潜水艦。その格納ブロックのハッチを開け外の様子を伺っていたブロンドロングヘアーの青眼少女が声を上げる。その声はここが戦場である事を忘れさせるほどに気の抜けた声であり、思わずその周囲のスタッフも力が抜ける。だがそのすぐ後に聞こえた鋭い声、というか怒号の様な声に再び身体に緊張が走る。

 

 

「顔出すなっつぅの。お前自分の身分分かってんの?」

「あ…かんちょ」

「…かんちょ〝う〟うを付けろ阿呆」

 

 

 艦長と呼ばれたその男性は深緑のタンクトップに同色のズボン、更にブーツを身に着け、その上からオーバーコートを羽織っている。容姿は青い瞳にブロンドの刈り上げ、更に体格も高く良いため、パッと見はまさに軍人その物であった。男は少女の頭を掴み、髪をわしゃわしゃとかき乱すと近づいてくる〝ラファール〟を少女同様に確認する。

 

「あれか……まぁとっと回収して潜るとすっか」

「え~……なんかつまんない」

「つまらねぇってなぁ……時間がねぇんだよ、ったく。後ろからはIS学園の追手が――――あん?」

 

 

 男が水面に視線を移したその時、海面が黒い〝何か〟にかき分けられ、白波をたてる場景が目に飛び込んできた。そしてすぐさま〝それ〟の正体に気が付き顔をしかめそして大きくため息を吐いた。

 

 

「っち、こんなに早く遭遇するとは…」

 

 男は浮上する〝それ〟に向かって吐き捨てるように呟くのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

 打ち合うシックザールが一方を向いて短く驚きの声を上げた。オータムもそれに釣られて視線を動かす。その視線の先には二つの黒い潜水艦が海上で鼻っつらを突き合わせている光景があった。どうやらシックザールはあの片方の艦と何らかの関係があるようだが、そんな事今のオータムには関係がない。目の前の敵、シックザールを落とすことこそ今のオータムの使命だからだ。

 

「なんだよッ、今はこっちに集中しやがれ!」

「ちぃ、くそったれ」

「おわっと!?」

 

 シックザールはオータムを蹴り飛ばし距離を取ると、更に背面にセットされていたミサイルポッドから小型ミサイルを発射し弾膜を張る。オータムがその弾膜処理に手間取る間に、シックザールは艦に向かって飛ぶ。

 

「あの馬鹿野郎どもが何やってやがるッ!」

「ッ、やろぉッ」

 

 だがそうは問屋がおろさないとばかりに、オータムは片手にコールしたサブマシンガンで残りのミサイルを処理しつつ、痛む左腕で〝エーヴィッヒ・ホリツォント〟を保持、誤差修正を全てシステムに任せトリガーを引く。腕が引きちぎれたかと思うほどの衝撃と共に打ち出された弾丸は、シックザールの脚部の装甲に吸着し爆発を引き起こす。

 

 

「ぐあぁぁッ!!」

「だから、てめぇの相手はあたしだつってんだろうがッ!! 片手間でなんとかなるとか甘ぇ考え持ってんじゃねぇッ!」

「くぅぅッ、だから面倒なんだよ!!」

「そういやぁ、てめ、さっきから面倒面倒と、こっちからすりゃてめぇの存在が面倒なんだよ」

「あのなぁ、お前に何が分かるッ!! あたしの何がッ!!」

「知るか、ボケッ!!」

 

 

 最終的に痴話げんかの様になりながら接近する両者はもつれながら、高度を下げ海面すれすれを飛ぶ。

 

 両ISが切り裂く空気によって、海面に白波が立ち航跡を付けていく。オータムは巧く敵を誘導しながらなんとかシックザールを艦から遠ざけマシンガンを連射する。マシンガン程度でシックザールは揺るがないものの、オータムの狙いは別の所にあった。この攻撃は機体にダメージを蓄積させると言ったこまごまとした先方では無く、単純に操縦者をより苛立たせることが目的なのだ。何故だかは知らないが、シックザールは初めから非常に苛立っている。更にオータムが吸着弾で爆破した事でより一層フラストレーションはたまっているはずだ。

 

 苛立ちは手元を狂わせ、判断力を鈍らせる。そうなればこちらのものだ。チャンスさえくれば後は残りの弾丸全てぶち込んでやれば良い。

 

 

(この勝負は勝てるッ!)

 

 

 オータムがそうほくそ笑んだ時、シックザールがその巨体ごとオータムへ突っ込む。

 

 

「なぁに笑ってやがるッ!!!」

「ぐがッ!?」

「こっちの気も知らねぇでッ!!」

「だから、んなもん関係ねぇだろうが!」

「あぁぁぁ腹立つなッ!! てめぇも!!」

「うお!?」

 

 

 シックザールはオータムの腕を掴むとそのまま海へ叩きつける。元が高速だっただけに機体が水圧を受け急激に減速する。搭乗者はなんとかISが守ってくれているもののほぼトップスピードからの急減速に機体のフレームそのものまでもが悲鳴をあげる。その音はオータムにも、嫌なきしみ音として確認されていた。オータムは下手に海上へ顔を出さず、海中で立て直すとすぐさま機体のステータスを開き状態を確認する。そして見た瞬間青ざめた。

 

 

 

「ま、マジかよ…」

 

 

 オータムが目にしたもの、それは機体の基礎フレームの損傷という、本来ISでは一番あり得ないエラー。トップスピードで海面に叩きつけられた衝撃は自身が考えていたよりも凄まじい力となって、ISを蝕んでしまった様だ。

 基礎フレームはISの中でも最も強固に作られている部分だ。なぜならそこが曲がればISは満足に機体を制御する事が出来ないからである。幸いこの程度の損傷であればまだ〝なんとか〟はなる。しかしそれでもやはり〝なんとか〟なのだ。

 

 

 オータムは海上でゆらゆらと見える赤色の影を見ながら、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

 

 

(くそ……あの野郎を追い詰める手段、戦略……フィニッシュまでの青写真もできてたってのにッ!)

 

 

 ひとまずオータムは一通り確認し終え、海上へと上がる。対策などたてられてはいない。だが姿を見せなければまたシックザールは〝ミルヒシュトラーゼ〟へと向かうかもしれない。

 

 

(とにかく、やるだけやるしかねぇ。こんなもんすぐに直せる所じゃねぇんだ…ッ)

 

 

 オータムが顔を出すとそこには、シックザールが青筋を浮かせながらも不敵に笑っていた。  

 

「並のISなら……叩きつけられた瞬間に終わってるんだがな」

「悪ぃな、一応専用機って体裁なんだよこれ」

「あれで落ちてくれりゃ良かったんだがね」

「そりゃ悪かったな、流石にあたし達の〝妹〟も頑張ってんだ。あたしが先に落ちるわけにゃいかねぇよ」

「妹……あぁ、あいつか」

「まぁな」

「頑張っちゃいるが……きつそうだぜ?」

「いいさ……最後にゃ勝つからな」

「……」

「だからあたしも……最後にゃ……勝たせてもらうぜ?」

 

 

 

 オータムは再び武装を構えると、シックザールへと向かう。さっき自分が言い放った、最後に自分が勝つために。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「…………ッ…」

 

 正直つらいねこりゃ…。一発も有効打が入らない。それどころか、あと一歩のところでシャルルに逃げられる。あれはああいう戦術なんだろうけど、それにしたって悔しいぐらいに見事だ。〝デファイアント〟はあまりエネルギー消費の激しい機体では無いので、残りエネルギーは気にしなくていいが、シールドエネルギーはヤバいかな。それにしても……これは……ねぇ。

 

 

 

 

 

 

 今のあたしの、姿を一言で表すなら無様なんだろう。細かいマシンガン等の攻撃を除けばでかいのはほぼ9割方貰ってしまっていたし、その所為で、シールドバリアで防ぎきれなかった衝撃が装甲を貫き、今となっては綺麗なかろうじてバイザーと右腕のクローアーム以外で綺麗な装甲を探すのさえ難しい。そして弾け飛んだ装甲の破片は運悪くあたし自身に当たった物もあり、頭や左腕からは血が滴り落ちていた。

 

 

 そんなあたしをシャルルが、蔑んだ目で見やる。本当に似合わない目である事は間違いないが、それだけまた自分を〝壊している〟のだろう。ならなおさら負けるわけにはいかない。あたしが負ければ、シャルルが自分を壊して自分の居場所を得ると言う行為を肯定する事になる。それは絶対に間違ってるんだ。あたしは血が付き絡んだ髪の毛の間から、いまだ意志の消えぬ瞳で睨み返す。その目を見てもなおシャルルは笑みを崩さない。

 

 

「あはは、凄い目だねぇ。でもそんな目で見ても変わんないけどね、僕の勝ちだからさ」

「はぁ、はぁ…そういうのって……死亡フラグだって大体相場は決まって……はぁ……るよ……」

「ほとんど虫の息なのに?」

「そういうのほどッ……気を付けた方がいいよ」

「………」

 

 

 息が上がりっぱなしにもかかわらず言い返すあたしにシャルルは蔑みから疑問へとその表情を変化させる。そしてあたしもシャルルに向かって同じような顔で見返した。

 

 

「……何?」

「いや……なんでなのかなって思ってね」

「?」

「どうしてそこまでして僕を止めたいの? 君に関係ない事じゃない。あぁ、でも一夏の事は関係してるから無関係じゃないのかな」

 

 あぁ……そうか。そう言えば言ってなかった。まぁいちいち言う様な事じゃないし…。そもそも自分がここまでになるなんて考えても無かったしね。

 でもそう……フフッ、聞いてくれるならそれは答えないと。伝えるために……。それは間違ってると。

 

「どうして……? そうだね一言で言えば君が間違ってるからだよ」

「え? 僕が? う~ん……何言ってるのか分からないなぁ」

「本当に?」

「うん?」

「……ほんとに、分からない?」

「うん」

 

 

 笑顔で頷くシャルル。遠回しな言い方はただ雑談になるだけだ。あたしは、あの時部屋で見た写真を思い出すと、あの写真の裏に書かれていた名前を呟く。恐らくそれがシャルルを今、こうなったシャルルを〝動かせる〟唯一の手。

 

 

「アデニール・デュノア……聞き覚えあるよね。この名前」

「!?」

「…そう、あるんだやっぱり」

「な、なんで…その名前を…」

 

 

 シャルルの顔が笑顔から一転、困惑の感情で満たされる。あたしが構えもしないで無防備な姿を晒しているの言うのに、そこへ攻撃を放りこむことを忘れてしまうほどに。

今、シャルルが撃てば、あたしは確実に致命傷だ。更に彼の技術〝ラピッドスイッチ〟をも使われたら、蜂の巣は決まったも同然だろう。しかしそれをしない、いや今のシャルルにはそれをしようという思考にも至らないのだろう。いや至れないと言うべきか。

 

「まぁ、こっちも色々調べてんのさ。その人……母親……だよね?」

「………」

 

 無言で顔を伏せるシャルル。だが返事などこの問いかけにはあっても無くてもどっちでも良かった。あの写真の裏に書かれた〝シャルロット&アデニール〟という名前を見れば2人がどんな関係かなどすぐにわかる。

 

 

 あたしは黙りこくるシャルルを尻目に言葉を続けた。

 

 

「あのさ、少し付き合ってくれる? これから話す事はあたしの憶測だけど。それも含めて間違ってるって理由を聞かせてあげるから」

「………」

「さっきも言ったけど……調べてく内にね色々と分かった事があるんだ。アデニール・デュノアはあなたの母親。そしてシャルル……いや、シャルロット・デュノアはその娘だ。あなたは女なんだよね?」

 

 シャルルは反応しない。あたしの話に静かに耳を傾けている。あたしは、続けた。

 

 

「そうなるとさ、まず疑問に思うのが、どうして男装なんてしたんだろうって思うよね? だってそうでしょ? 優秀なIS操縦者で、代表候補生なんだから、いくら大企業の社長を父に持つって言っても、企業にとっては広告塔になるわけだから身分なんて隠す必要はない。だけどあなたは隠してた」

「………」

「何でなんだろうって、考えると、1つそれらしい理由に行きつく。それがデュノア社のIS事業の不振。これはあたしの仲間から聞いた情報だけど、デュノア社は一応黒字だけど毎年ほぼギリギリの状態が続いてるんだってね」

 

 

 更にディノア社は、最近行われたISのコンペでも成績が振るわず、イグニッションプランと呼ばれる欧州の次世代IS開発計画からもはじき出されたらしい。そりゃ焦るよね、あたしなんかじゃ想像つかないけど、そういうプランからはじき出されるのってきっと企業からすれば死活問題なんだろうね。だから……

 

 

「そんなだから、デュノア社は焦った。看板商品の〝ラファール・リヴァイヴ〟も結局第二世代機。いくら性能が高次元でまとまっていようが、次々に開発されていく新技術から見ればやっぱり見劣りするのは事実。そこで目を付けたのが織斑 一夏。彼の存在そのものが、企業とってとても重要なカードになる」

 

 

 何故彼が、ISを使えるのかについてはまだ謎の部分が多い。様々な憶測が飛び交っている状態だ。その理由は彼自身をしっかりと調べる事が出来ないからということに尽きるだろう。彼を狙うと言う事は織斑 千冬を相手にするという事でもある。常識で考えればそんな分の悪い賭け誰もしない。だが、それでも、〝織斑 一夏をさらう〟という事に限定すれば方法がないわけじゃない。それが今回シャルロットが取った方法。つまり身分を隠しての潜入である。

 

「織斑 一夏をさらう事に関しては、完ぺきだったなって思うよ。あなたの演技はほぼ完ぺきだった。誰もが男だと思った。そうあの織斑 千冬さえも。彼女は強いだけど強いからと言って騙し切れない訳じゃない。無敵は完ぺきとは違う。そこを巧く突いた良い方法だよ、それに――――」

「……もう良いよ…」

「――――え?」

「……もう良い。それ以上言わなくて」

「……あたしの推理はお気に召さなかったかな? まだ理由にもたどり着いてないけど?」

「言わなくていいって言ったんだッ!」

 

 

 あたしは唐突に張り上げられた声に、言葉を詰まらせる。明らかに先ほどまでとは受け取る感情も違う。威圧感だって。シャルロットは顔をうつむき加減で目だけでこっちを睨む。

 

 

「さっきから聞いてたら、分かったふうな口調でッ! あぁ、そうだよ僕はシャルルなんて男子じゃない、シャルロット・デュノア、性別だって女だよ! 君に分かる? 身分を隠すだけじゃなく、自分そのものを偽って、僕に優しくしてくれる人達をずっと裏切りながら仮初めの学園生活を送る僕の辛さが!?」

「それはッ」

「分かるわけないよ、君なんかに! でも僕にはもうここしかないんだ! こうやって自分を守らなきゃもう行くところなんて無い! そのためには、やるしかないんだよもう! 難癖理由付けて出来ないなんて言う、そんな余裕なんてあるわけないッ こうしないと僕はもう駄目なんだよ!」

 

 

 やっぱり思った通り。彼女はあたしに良く似てる。あたしも今の場所しかもうない。スコールさんに怒られた時一瞬だけど、嫌われた、もう駄目だ、そんな考えが頭をよぎった。あの後スコールさんは許してくれたけどでも落ちた信頼は結局自分が回復するしかない。彼女はあたしに分かるわけないと言った。だけどあたしは、あたしはッ

 

 

「そんな物、分かりたくないッ!!」

「ッ!?」

「何が、自分を守るだ、何がここしかないだッ! あんたその意味、履き違えてんじゃないの!」

「履き違えて?」

「あんたのやってる事は、結局現実逃避じゃないか! 守るとかやらないといけないとかって、都合の良い風に大義名分振り回してさ結局あんたは覚悟がないだけなんだ! あんたは周りの人たちを裏切る事よりももっとひどい事をしてるんだよ!」

 

 言いながら内心、自分もそこまで覚悟があるのかと言われれば、言いきる事は出来ないかもしれない。だけど少なくとも今の彼女よりは胸を張れる。あたしは自分の居場所を守る事、そして何より自分自身とは真っ直ぐ真正面から向き合っているつもりだ。自分をぶっ壊してまで守る居場所なんかに未来はない。そう……

 

「自分を自身を壊して、自分自身を裏切ってるような奴に、あたしは負けないッ!!」

「ッ!?」

「あんたの間違いをあたしが勝って、止めてやる、そして織斑 一夏も返してもらうッ」

「い、一体……一体君は……君は一体何なんだ!!」

 

 

 

 

 

 シャルロットが半ばやけ気味に叫び返す。何なんだ? ……ね。

 あたしは、シャルロットを見やり不敵に笑い、こう静かに答えた。

 

 

 

「あたしはフロウ。ファントムタスクの…エージェントさ!」

「うああああぁぁぁぁぁッ」

 

 

 あたしの答え方が、元からかなり苛立っていたシャルロットの神経を逆なでする。シャルロットはもはや距離などお構いなしに、ただこちらへ突っ込んできた。機体の状態ははっきり言って良くはない。まともに使える武装は右手一本。それでも打ち合いになればこちらが有利な事に間違いはない。というか、こう言うシチュエーションこそがあたしの望んだ展開だ。あたしはシャルロットをあえて自分の懐付近の、ほとんど間合いが詰まるぐらいの場所まで迎え入れる。そこであたしは、スタンスを広げ腰を安定させ、構える。

 

 

 ほぼゼロ距離で2人が打ち合う。ダメージも機体の状態も何も考えずに無心で腕を振るう。ただ負けたくないから。自分が正しいと証明せんがために。互いの装甲が弾けあい時に火花を散らし、自分の機体がどんどん削られていくのが文字通り肌で分かる。それでも止めない、いや止められない。

 

 

 互いの拳がほぼ同時のタイミングで、相手の顔面を捉える。その衝撃で2人の間にやや広めの間合いが生まれる。

 

 

「ッ!」

「君なんかに、僕は止められない。止められるもんかッ!!」

「いいや止める。あたしはあなたを止めて見せる!」

 

 

 

 再び接近し目にもとまらぬ攻防が繰り返される。とは言いつつも、機体そのものの状態が違いすぎて徐々に押され始めている。そもそもこの状態であたしは長期戦なんて出来ると思ってなどいなかった。結局あたしには今この右しかない。この右を振り抜いたその瞬間その時点でどちらが正しいのかか決まる。

 

 

 たった今振るった右が、シャルロットを捉える、しかしこんなものじゃないもっとだ。

 

 

 もう一度腕を引き、シャルロットの攻撃を左腕で防ぎ捌き、それでも無理なのは身体をひねって躱す。そこまでやってもダメな攻撃はもう何やっても無駄だ。避ける事よりも前に出ろ。貫きたいなら足を出せ。

 

 

 

 あたしは、狙いなど気にせずただ右を撃ち続ける。もっとだ……もっともっともっともっともっと!!!

 

 

 

 それを何度繰り返したか。十何発目かの一撃でついに、シャルロットが繰り出した攻撃ごとその拳に真正面から弾かれる。

 

 

 

 まだ……まだだぁッ!

 

 

 こんなんじゃ軽い! 

 

 

「であぁぁッ!!」

「!?」

 

 

 あたしは吹っ飛んだシャルロットに肉薄し右腕を振り下ろす。シャルロットは両腕をクロスさせガードの体勢を取るも、あたしはその上からシャルロットを弾き飛ばした。

 

 

「はぁはぁ……はぁ…」

「何…? 何なの? ……何で…」

 

 

 シャルロットのか細く弱弱しい声が耳に届く。それは何故攻撃が弾かれるのかただ単に理解できないのか、それとも〝別の何か〟から来るものなのかは分からない。でもあたしは、そんなシャルロットに対してもいささかの情も挟まない。結局正しさは間違っていても、最後に立っている奴が決める。ならあたしはそれになる、いやならなきゃいけない。あたし自身もここで負ける事は、今のあたしの存在を裏切る事だから。

 

 

 

「すぐに、その答えは分かるよ……ッ!」

 

 

 あたしは、シャルロットを真っ直ぐ見やる。この一撃に全てを込めてッ!

 

 

 その時だった。ボロボロの〝ディファイアント〟のモニターに見た事も無いシステムが立ちあがる。いや実際は見た事があるが、自身の記憶の中で自分の意識がはっきりとある(・・・・・・・・・・)状態(・・)で立ちあがるのは初めてだった。

 

 

 そのシステムその名は―――――

 

 

 

 

 

〝VT-alt System connected. System all activation. Standby ready……〟

 

 

 

 VT-alt。スコールさんが鐘音技師と共にあたしの為に搭載してくれたシステム。あたしの為に。あたしを守るために。そして何よりあたし自身もあたしを貫くために!

 

 

 

 感覚が研ぎ澄まされ、視界が一気にクリアになる。今のこの状態なら装甲の先を撫でる風の優しい感覚まで感じ取れる。まさに人機一体。それと同時にこのタイミングでこのシステムが発動した事に、あたしはどこか〝デファイアント〟に〝お前は間違っていない。だから行け〟と背中を押されている様な不思議な感覚を覚えた。

 

 

 そうだよね、あたしは間違ってない。だからそれを貫き通す!

 

 

 

 目の前の世界が加速する。と共に機体から黄金色の粒子が舞い始めた。いやというよりも〝デファイアント〟自身、あたし自身がその黄金色の粒子その物だと言った方がいいのかもしれない。自分自身がこの世界と同化していく様な言いあらわしにくい状態。だがそれでも怖さは感じない。むしろ力がみなぎってくる。

 

 

 力の奔流とでも言うのだろうか、大きな大きな自分でも分からない様なぐらい大きな力。そしてその中に確かに感じる。あたしの思いを貫く力を!

 

 

 

 あたしは光を纏いながら、シャルロットへと突撃する。世界がそしてあたし自身が加速する。

 

 

 そうして2人を、まばゆい光が包みこんでいった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 時は少しさかのぼり秋穂とシャルロットの戦いが激しさを増していく途中。その戦火を見上げつつ2隻の潜水艦が鼻を突き合わせるように停泊する。〝ミルヒシュトラーゼ〟とほとんど外見が同じ、所謂〝同型艦〟の甲板に立つ人物をスコールも同じように格納ハッチから甲板へと出て睨む。しばらく両者は睨みあうとスコールの方がおもむろに、懐から通信機を取りだした。

 

 

「……いい度胸してるわね。あなた」

 

 

 開口一番、スコールは低いトーンでそう言った。その言葉にややあってから通信機に声が届く。

 

『別に? 俺らが、お前らになんかしたか?』

「あたがここにいる事自体が、あたし達にとっちゃ大問題なのよ。自分の立場が分かってないようなら言ってあげましょうか、ミスキー・シュライベン欧州支部局長殿?」

『少なくとも尊敬はしてない言い方だな』

「当然よ」

 

 

 スコールは、やれやれと言った風に肩をすくめる。このミスキーという男、実力は高いのだが同じファントムタスクという組織に属しながらも、他部署と連携が取れない事で有名な人物だった。更に悪い事に組織の中に居ながら、その立場をある1つの基準で180度変えるのだから始末が悪い。しかし、前述の通り実力は疑いようがなく、更に人を使う才に長けることから、ファントムタスクとしても中々容易に切る事が出来ないのだ。ちなみにその基準というのは…。

 

 

「で、今回はいくらで動いたのかしら?」

『おいおい、それじゃまるで俺が金の亡者みたいだろ』

「違うの?」

『まぁな』

「それで?」

『今回は2本だ』

「それは二百?」

『二千だよ。ま、ガキ1人の旅費としちゃ妥当だろ?』

 

 

 スコールは思わず頭を抱える。二億と言われたら流石に返す言葉も無かったが、二千万なら組織でもなんとかなった金額だ。金ぐらい払ってでも首根っこを引っ張っておいてほしかったとスコールは心の中でぼやいた。しかし、それは結局たらればで、いまこの状況が変わるわけではない。スコールは気を取り直して口を開く。

 

 

「妥当かどうかはともかくとして。いい加減私も、頭の上から銃突きつけられてちゃいい気分はしないんだけど」

『それ言うなら、お前ん所の目つきの悪ぃ姉ちゃんも下がらせろ』

 

 

 

 スコールはゆっくりと空を見上げある一点を睨む。すると艦の上空約7メートル付近の所の景色が歪み1機のISが現れた。細身で大型のスラスター。脚部に小型高出力のプラズマ砲を備えたパールホワイトの機体。そこから、回線に割り込む形で通信機から声が聞こえた。

 

 

『えへへ、見つかった~』

『えへへじゃねぇ』

 

 2人の軽口を聞き、スコールもエムに連絡を入れる。  

 

「エム、砲を下ろしなさい」

『……良いのか?』

「良くはないけど、とりあえず今は…」

『………分かった』

 

 

 向こうの艦の上空で同じようにステルスを発動させ、姿を消していたエムの〝サイレント・ゼフィルス〟が姿を現し、構えていた〝スターブレイカー〟の銃口を上へ逸らす。

 

 互いに銃口が逸れた事を確認すると、スコールがミスキーに1つ気になった事を訊ねる。それは、言わずもがな自分達の頭の上でこちらを狙っていた少女についてだ。スコールは彼女の事は知らない。少なくとも、ここ数年の記憶をたどっても彼女の様な少女と会った事も見た事も無かった。

 

 

「ミスキー、その子は?」

『あ? あぁ、そいつはレオーネ・メルヒン、3か月前に俺が〝拾った〟んだよ』

「拾ったって、そんな子猫じゃあるまいし…」

『いいや、事実だぜ? なんせそいつは―――――――』

「―――――――――え!?」

 

 

 

 

 ミスキーが何か言いかけた時、空がまばゆい光に包まれた。あそこは確か、秋穂が戦っていた辺りの空域だ。思わずスコールも、聞き返す事を忘れその方を見やる。

 

 

『あ~あ……こりゃ、無理かねぇ』

「無理?」

『決着着いたろ、はぁ……』

 

 

 スコールはため息を吐き面倒くさそうに頭をかくミスキーを一瞥し、視線をもう一度秋穂達の方へ戻す。しばらくすると、光が収束していき、シャルロットを抱きかかえたボロボロの秋穂が姿を現した。確かにミスキーの言うとおり戦闘は秋穂の勝ちという形で終了したようだ。スコールはそれを見てホッと胸を撫であ下ろす。オータムはまだ戦闘を続けていたが、徐々にシックザールも秋穂の戦闘の結果を受け、退却のタイミングを図っているようにも見えた。

 

 

『これで二千万はお預けか…』

 

 

 現場の状況に心を取られていたスコールが通信機からの声で我に返り慌てて言い返す。何を言っているのか、聞きたい事はまだあるのだ。そもそもこの状況でこちらが逃がすわけがないだろうに。

 

 

「ミスキー、逃げられると思ってるの?」

『思ってるも何もねぇさ。見ろよ、戦闘は終わった。こっちに織斑 一夏を運んできてるあの〝ラファール〟もまだあんな所をフラフラしてやがる。作戦続行は不可能だろ? 更に不味い事に……』

「いや、だから、逃がすと思ってるのと言って……」

『ミューゼル! 大変大変。学園のIS2機がこっち近づいてるよ! 早いとこ回収して潜らないと話がややこしくッ』

 

 

 唐突に割り込んだ回線から鐘音の、声が響く。声同様行動も慌てていたようで、その会話は向こうにも筒抜けになってしまっていた。それを聞いたミスキーが通信機の向こうでフッと笑う。

 

『そういうことだ。逃がさねぇじゃなくて、お前らも逃げなきゃ不味いんだよ』

「…ッ……」

『ま、縁がありゃまた会うさ。そんときゃ味方か敵かは分からねぇがな。さ、撤収だ撤収! 潜るぞ!』

「……今度までに、私の質問に答えられるようにしときなさい……。はぁ……エム! 織斑 一夏の身柄を確保して、一旦潜るわ」

 

 

 スコールとミスキーは、その会話を最後に通信機の電源をオフにした。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 命令を受けたエムは、ビットを分離させ、一夏を抱えるラファールの残りのスラスターを全て撃ち抜く。爆発も考えた完璧な射撃によって、機体はもはや、PICで浮かんでいるだけの人形と化した。エムはラファールに近付くと一夏の身体に手をかけ、引きはがそうとする。しかし、最後の抵抗か、操縦者はその身体を離そうとはしない。

 

 

「諦めろ、お前達の負けだ。その手を離せ」

「………」

「いい加減にしろ、お前今がどんな状況か分からない訳ではないだろう?」

 

 エムは語気を強めて、〝ラファール〟の操縦者である女に言うが一向に態度を変える事はない。かたくなに腕に力を込め一夏を離さない。

 

 

 (くそ、こんな無駄な時間を過ごす余裕はないというのに…ッ)

 

 とはいえ、あまり手荒な事もしたくはなかった。妹の前で姉が敵とは言え腕を切り落とす所など見せたくはない。

 

 

「くそ、大概にしろ! その手を離すんだッ!」

 

 

 エムは必死に腕を振りほどこうと力を込める。すると次の瞬間、目の前を何かが通り過ぎた。そして何かが切断される音がして、一夏を拘束する力が途端に弱まった。

 

 

「え?」

 

 エムは一瞬きょとんとした顔で、一夏の身柄を抱く。そして、我に返った時ようやく何が起きたのか理解した。

 

 

「お前……」

 

 

 目の前には脚部の武装からプラズマブレードを展開した白いISがいた。そしてその白いISの脚部は、〝何か赤い物〟がべっとりと付着している。

 

 

「こうすれば早いのに。お姉さんもしかしておバカさん?」

 

 

 視線を横に移動してみると、敵の腕の肘から先が装甲ごと無くなっていた(・・・・・・・)

 

 

 

 

 そう、さっき目の前を通り抜けたのは、あのプラズマソード。そしてそれが切り裂いたのは敵の腕。しかしそれをやった張本人はあっけらかんとし、無邪気な笑顔をこちらに向けていた。

 

 

 

「お前がやったのか?」

「そうだよ、だってお姉さん困ってたから」

「………」

 

 

 レオーネの言動を聞き、そして見てエムは、背筋が冷たくなるのが分かった。

 

 

(こ、こいつ……)

 

 

 だがレオーネはそんなエムを尻目に、女に止めを刺す(・・・・・)。的確に、容赦なく、そして何より〝笑顔で〟。あらかた操縦者を始末し終えた所でISのコアだけを抜きとると、何も守る物の無くなった女の身体へダメ押しの踵落としをみぞおちへと叩きこんだ。女は壊れた人形の様に海へと蹴り落とされ、海面と衝突。激しく波を立てながら海中へと消えた。仮に、海に落とされる前までは生きていたとしても今ので確実に死んだだろう。

 

 確認するまでも無い。高度自体は高くないが、それでも生身で海面に叩きつけられたのだ。内臓破裂、全身打撲……その他様々な死因が考えられるがどちらにしても即死だろう。

 

 

「全く、空気が読めないのって困るよねぇ? お姉さん」

「………」

「それじゃ。またその人奪いに来るかもだけど、その時は遊ぼうね?」

 

 

 まるで、小学生が遊びの約束をするかのように軽いノリで言葉を発し、イグニッションブーストを使って母艦へと帰っていくレオーネ。エムもひとまず〝ミルヒシュトラーゼ〟へと引き上げるが、艦に戻ってもなお、レオーネに感じた何とも言い難い恐怖心は消える事はなかった。

 

 

 

 その後、秋穂が気を失ったシャルロットを抱え着艦し、オータムもシックザールの撤退で帰艦。それを確認した後格納ハッチを閉めると〝ミルヒシュトラーゼ〟は緊急潜行を開始する。

 

 

 ついさっきまで、爆音ひしめく戦場だった空・海域は、学園のISが到着した頃には、いつも通りの静けさを取り戻していた。

 

 




どうもこんばんは、のろいうさぎです。
寒いですね、寒いの嫌いですw


さてレオーネさん…いやちゃんかな? それはどうでもいんですが、レオーネちゃん怖ぇぇぇぇ!!

容赦ないって一番の強さだと思うんですがどうでしょう。
ボスなんかでもなんかのたまってる間に攻撃しろよとか思いますもんww


さて、次回。決着した秋穂とシャルロット。シャルロットの口から語られる真実とは、そしてシックザール達とミスキーそしてフランスとの関係は?

次回もこうご期待?


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