IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第27話~風雲急を告げる日~

 「そろそろ時間か…」

 

 

 千冬は腕時計を見ながら、そう呟いた。相手は『いいでしょう』と答えたものの、千冬自身いまだ、半信半疑といった感じであった。一夏達に繋がる情報がそれしかなかったとはいえあんなにも簡単といえば簡単に取引を受けて良かった物なのかどうか…。

 

 これで一夏が達が帰ってこず、みすみす敵の侵入を許そうものなら千冬とてただでは済まないだろう。

 

 (どうも考え方が最近マイナス方向だな…)

 

 千冬はそう思い、一瞬よぎった嫌な考えを振り払いを引き締め直す。仮にそうなったとしてもそれはまたその時だ。この件はすでに真耶にも言ってあるのでそれなりに対策は練ってある。今はおとなしく取引相手を待つしかない。

 

 

 そしてそれから数分後、暗闇の中から、3人の人影が現れた。そのうち2人は目隠しをされてはいたもののすぐに一夏とシャルルだと分かった。そしてもう1人はどうやら女性の様で長い髪が夜風に揺れている。その女性は、軽めのパーカーにデニムという非常にラフな格好で、目深に帽子をかぶり更にこの暗がりにも関わらずサングラスをしていたため、はっきりと表情を確認する事は出来なかった。

 その女性は無言で2人の背中を軽く押す。小さく「あッ」と声を漏らし躓くように駆け寄る2人を千冬が抱きとめる。

 それを確認するとその女性は無言で踵を返した。

 

「待て」

「……」

 

 千冬の呼びとめに、女性は歩みを止める。ただ歩みをとめただけで顔は真っ直ぐ進行方向を向いていたが。

 

「お前が、通信してきた人物か?」

「……」

「詮索はしないとは言ったが、それぐらいなら答えてもいいのではないか?」

 

 女性はゆっくりと振り返ると静かに首を横に振った。

 

「……そうか」

「……」

「分かった。もう良い。約束は守るとその人物に伝えておいてくれ」

 

 女性は千冬の返事を聞くとまたスタスタと歩き出した。もうその足を止める事は無い。彼女の行動は千冬にそう告げていた。

 

 その背を睨みながら千冬は小さく、そばにいた一夏やシャルルも気が付かないほど小さく「次はこうはいかん…」と呟くと、視線を一夏とシャルルに向ける。

 

(とは言ったものの、これから先も大きなうねりに巻き込まれていくかもしれんな……こいつら(一夏達)は)

 

 そんな考えが一瞬頭をよぎり、自分の両腕の中に居る2人を見ながら、彼らの行く末を案じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「ほっほ? ……誰もいない……よし…」

 

 

 あたしは、織斑先生が2人を引き取りに行っている間にアリーナ側から学園に戻ってきていた。

 アリーナ側にも同様に搬入口がある。そして今はもうすでに19時をまわりその搬入口の門自体は施錠されていたが高さとしては乗り越えられないほどでもない。

 あたしは門の横にあるコンクリート塀によじ登ると上半身を伸ばして、周囲を確認する。

 

 下手に飛び降りて、警備員の前でしたなんて冗談にもならないし…。

 

 だが見た所その心配はなさそうだった。あたしはそのまま塀を乗り越えひとまず学園内には帰ってこれた。ただ問題はここから、誰にも見られずに、そして自然に寮に戻らねば…。

 

 う~む……難題。

 

 大体ねぇ、この学校の制服も制服だよ……白って。余計に目立っちゃうよ、もう。それに問題はそれだけじゃない。あたしだって無傷じゃないんだ。一応膝の傷はあんまり履かないニーソックスで隠してはいるものの、流石に顔までは無理だった。まぁ顔と言っても頬を少し切ったぐらいだからやや大きめの絆創膏を貼ってる程度だが、それでも見る人が見れば突っ込まれる可能性はある。

 

 そう考えれば難題でも、誰にも見つからず寮まで行くしかない。しかし早く行きすぎるのも危ない。2人を連れた織斑先生とかち合う可能性があるからだ。そうなると寮への最短ルートは使えないし、かといって遅すぎても怪しまれる。つまりやや遠回りをしながらそこそこ早いルートで帰る事が要求されるのだ。

 

 

 うへぇ……めっちゃ面倒くさい。

 

 

 とはいえ、戻らない訳にはいかないし、行きますかね。

 

 

 あたしは、アリーナの外周をぐるりと回り込むルートろ選択し行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、思ってたより楽勝じゃん」

 

 

 

 あたしはほくそ笑みながら、歩みを進める。実際警備員もいるにはいたが、なんというか詰めが甘い。あれだけの事が起きてもなお、この学園の安全性は高いと踏んでいるのだろうか。まぁ、ISを保有しているという事実がそう思わせてしまっているのかもしれないが。それはそれで本末転倒な気もするが今のあたしからすれば有難い。そうこうしているうちに、寮が見えてきた。うん完璧、時間的にも距離的にも。後はあくまでも自然に、ちょっと帰りが遅くなった感を出して寮に戻ればあたしのミッションは終了だ。

 

 そう終了するはずだった。

 

 

 あたしが妙な打撃音を聞かなければ。

 

 

 

 「ッ!?」

 

 

 

 

 何今の音……。何か固いものを思い切り叩いたような、そんな鈍い音がしたけど…

 

 

 

 あたしは音が下方向へ、足を向ける。その方向は、寮のすぐ脇にある森の中からだった。あたしはその森の奥へ足を進める。するとやや開けたところに出た。あたしはその周囲を見渡す。

 

 ふ~む、こんな所で一体何が……ってぇ!?

 

 

「こ、これはッ」

 

 

 あたしが見た光景、それはある女子生徒が部分展開したISによって大きくえぐられた大木の幹。その光景に驚いたあたしが漏らした言葉に気が付きその犯人が、ゆっくりとこちらを向いた。

「お前は…」

 

 夜にもかかわらずギラリと光る瞳。そしてこちらに近づくにつれて月明かりに照らされる様に徐々にその姿を現す。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

「確かお前は……東雲 秋穂だったな」

 

 

 ラウラは、興味無さそうに呟くとISを待機状態に戻した。流石にもう名前ぐらいは覚えてくれているらしい。光栄だね。

 あたしは、殴られ無残にえぐられた幹を見やり訊ねる。

 

「聞くまでもない事だけど、これ君?」

「そうだ、それがどうした?」

「いや……ちょっとね」

「……」

「まぁいいや。あたしも音が気になって来ただけだし、このまま睨みっぱってのもなんか気分的にね」

「そうか……なら睨まなければ良いのだな?」

「ん?」

「お前には編入初日の借りがある。ここいらで少々身の程をわきまえると言う意味でも…」

 

 ラウラの体勢がグッと低くなる。これは突っ込んでくるッ!

 

「…返して置いてやろうッ!!」

 

 

 ラウラはISこそ展開しなかったが、低い体勢から弾丸のように加速し、あたしが構えたころにはすでに目の前にいた。

 

「ッ!」

「構えは良いようだが……遅いぞッ!」

 

 ラウラは勢いのままに回し蹴りを放ち、あたしのガードをこじ開ける。いつもなら防げていた威力も、今は50%どころかその半分も出せればいいぐらいに身体は疲弊している。〝ミルヒシュトラーゼ〟では時間的な都合で、簡易処置のみにとどめたのも影響しているだろう。

 

 空いたスペースに素早く着地したラウラの小柄な身体が滑り込み、真下からあたしの顎を狙う。あたしもそれを食らうまいとバックステップでそれを交わし体重をやや前にも残しながらラウラに右のジャブを繰り出した。

 

「ほう、その体勢からでも反撃できるのか」

「このぐらいならねッ!」

 

 とは言ったが正直きつい。体重移動だって甘かったし、ジャブにしても今のは自分でもわかるぐらい速度が無さ過ぎる。ラウラはそのジャブを楽々と避け、更に追撃を狙ってくる。あたしはラウラの追撃を、体勢を持ち直しつつ左手で捌き、今度は万全の体勢から右ストレートを放つ。だがラウラはそれを素早く屈んで躱し、再び懐へ入ってくると、ガッと腕を取られてしまった。

 

「しまっ!?」

「むんッ!」

「うあぅッ!!」

 

 ラウラは、間髪いれずにパンッと脚を払うとぐるんっと体勢を入れ替え、倒れ込むあたしの背に膝を入れながらあたしの腕を背中方向で捩じ上げた。 

 無様に転がされ、腕を絞められ、更に背中からもぐりぐりと膝で背骨を押してくる。その2つに加えて前回の傷の件もありもはや全身痛くない所など無い状態だった。

 ラウラは更に締め付けを強めながらも、口調は冷めきっていた。

 

「いたたたッ!!」

「なんだ、つまらんな。もう終わりとは」

「ま、まだッ」

 

 しかしそれが虚勢である事は誰が見ても明らか。痛みでまともに身体が動かず、指の先など細かな所は既に自分の思い通りに動かない。そもそも成り行きとはいえこんな状態で喧嘩を買う時点で浅はかというか馬鹿だった。ギリギリとしめあげられる腕にそんなあたしの虚勢というメッキが剥がれおちていく。

 

「ちょ、ちょっと、タンマタンマだよ!? これ以上は不味いってッ」

「そうか、不味いのか……ならばもう少しだな」

「も、もう少しって!」

「決まっている、腕の一本でもやっておけば、今後たてつく事も無かろう。軍人にたてつくと言う事はそういうこと(・・・・・・)だぞ」

「ッ!!」

 

 少しずつだが確実に、あたしの腕の骨の限界が近づいている。時折自分でもわかる位のミシッという嫌な音が聞こえる。骨折だって? 冗談じゃない、そんな事されたらこれからの予定がだだ狂いになってしまう。しかしこの状況、打開する策は残念ながら無い……。

 

 

 あたしが頬に嫌な汗を伝わせたその時、ふいに腕を締め上げていた痛みと、背中に感じていた重みが消えうせた。そして同時に耳をつんざく甲高い声がその場に響いていた。

 

 

「いい加減にしなさいッ!!」

「ッち!」

「え? えぇ!?」

 

 

 あたしは、その状況がよく理解が出来ずに声を漏らしたが、そんなあたしを尻目に、ラウラへ小柄でツインテールの少女が飛びかかる。あたしはその方へ目を凝らすと自分を助けたのが意外な人物だった事に気が付いた。

 

「……鳳…さん?」

 

 そう、今ラウラともみ合っているのは鈴だったのだ。どうして鈴があたしをという疑問はあるが、それよりもなぜこんな所に鈴が居たのかが気になる。ここは確かに寮へと続く通路の脇の森ではあるが、結構奥まで入らないといけない場所だった。あたし同様に音を聞いたのか? でもあそこに人影は誰も……じゃぁ、なんで?

 あたしがキョトンとした顔で2人を見つめていると、覆いかぶさった鈴の腹をラウラが蹴り飛ばした。鈴はなんとか攻撃の瞬間に後ろに飛びのいたものの若干のダメージはあるようで距離を離してから少し腹を抑えるしぐさを見せる。それを見てあたしはひとまず鈴の所へ駆け寄った。

 

「大丈夫?」

「なによ、あんたが心配とかどういう風の吹き回し? ま、大丈夫だけどねこんなの。直撃じゃないし」

「そう」

 

 鈴はあたしとの会話もそこそこに、ラウラを睨みつける。鈴がそうした時には既に向こうもこちらを結構な形相で睨んでいた。

 

「全く、次から次へと……」

「別にあんたが気になったわけじゃないわよ、ただ寮の近くであんなでかい音が聞こえたから…その音(・・・)が気になっただけ」

「ふん……どうだか」

「で、どうすんの? やるなら付きあったげるけど」

「いや、やめておこう」

「あっそ、まぁ賢明な判断よね。無様にあんたも負けたくないだろうし」

「勘違いも甚だしいな」

 

 ラウラは不敵に笑うと、憐れんだような目で鈴を見やった。

 

「お前達雑魚をいくら倒した所で、今の私の気が晴れるわけでもないと言う事だ。そんな事も分からないのか? これだから中国人は自意識過剰で困る」

「な、何ですって!?」

「事実だろう、世界のお荷物国家め」

「あ、あんたねぇッ!!」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った!」

 

 あたしは激昂して再び飛びかからんとする鈴の口を手でふさぎ制すると、ついさっきラウラの台詞で気になった事をたずねた。

 

「けが人は引っ込んでむぎゅふぅッ!?」

「ボーデヴィッヒさんさ、今のどういう意味?」

「何? 分からなかったのか? お前達が雑魚だと」

「違う違うそれはもう分かったよ、その前さ」

「前?」

「私の気が晴れるわけじゃないってどういう意味かなって?」

 

 

 ラウラはその問いに、目を細め表情を険しくする。繰り返しになるが戦いになったのは成り行きの話で、そもそもあたしがここへやって来たのは大きな衝撃音を聞いたからだ。

 そして、今その理由に繋がる台詞を口走ってくれた。あたし的には、鈴を無理に制してでも聞きださなくてはならない情報だった。

 

 

 少しの間、何かを考えるかのように口を閉ざしたラウラだったが、やがて静かにだが確実に〝怒り〟の感情を込めた声で話し始めた。

 

「気が晴れん理由、それはお前達自身の存在だ」

「あたし達?」

「厳密に言えば学園の生徒達の事だ」

「つまり全生徒って言いたいの?」

 

 あたしの制止から脱した鈴も会話に加わる。その表情はあたし同様困惑に満ちていた。全生徒がその理由ってどういう……。

 てっきり、編入当初の一件から一夏がらみの何かだと思っていたんだけど、違うのかな?

 

 

 

 ラウラは鈴の返答を聞きゆっくりと頷き、そして語気を強め憎々しげに言い捨てた。

 

「ここの生徒はISをファッションか何かと勘違いしているクズどもだ。中には代表候補生もいるのだろうが同学年ではレベルも知れている。そんな程度の連中があろうことか教官の手を煩わせるなど言語道断というものだろうッ」

「クズって…」

「何か違うのか、中国の候補生ですらこの程度なんだぞ? 候補生ではない塵芥などもはやクズに数えるのもおこがましいレベルだ」

「あんたねぇッ」

 

 鈴がグッと拳を握る。流石に一度制されているだけに飛び出そうとはしなかったが、表情には悔しさがにじみ出ていた。

 それはあたしも同じだった。一夏や織斑先生は論外だが、それ以外で自分に好意的に接してきてくれる友人達は少なくはない。

 たとえそれがいずれ崩壊する関係であったとしても、クズ呼ばわりされて良い気はしなかった。

 

 しかしここで、我慢しきれず飛び出しても結果は見えている。あたしもまた鈴同様にグッとこらえ話を進めた。

 

「それが理由?」

「そうだ、まぁそれだけではないが、いずれにしても教官(あの方)は貴様ら程度の操縦者がおいそれと話しかけたり、触れたりして良い物ではない」

「えらく神格化するじゃない」

「別に神格化しているつもりはない、むしろ今のこの状況がおかしいのだ」

 

 まるで、織斑先生が言っていた事を聞いたかのような口ぶりだけど……。なぁんか言われっぱなしってのも釈だから…。

 あたしはそこにささやかな反抗の念を込めて切りこんでみた。

 

「でも、織斑先生は本当にそう思ってるのかなぁ?」

「なんだと?」

「だって、織斑先生って好きでここに居るんでしょ」

「そんなはずがあるかッ! 恐らく教官は上からの命令で仕方無く今の職についているに違いないッ」

「恐らくって何よ、分かって無いんじゃん」

「えぇい黙れッ! お前たちに教官の何が分かると――――――――」

「――――分かるよ」

「ッ!」

 

 

 ラウラの勢いが僅かだが止まる。それは間違いなくあたしを見たからだろう。

 何が分かるかって? 分かるよ。そりゃもちろん……殺したい程にね…。

 

 ふつふつと、久しぶりに湧きあがる黒い衝動。あたしはそれを隠すことなく視線でラウラを威嚇する。

 

「少なくとも、あなたよりは数倍分かる」

「なんだと? お前が?」

「……」

「………」

 

 お互いが、言葉を発する事無く睨みあう。鈴はその異様な光景をただ見ていることしかできないようだった。

 やがて、視線が外れるとラウラが軽く鼻を鳴らし踵を返した。

 

「……まぁいい。知っていようが知っていまいが関係は無い。邪魔すると言うのなら……潰すまでだからな…」

 

 今日一番の鋭い眼光をあたし達に向けつつ、歩み始めるラウラ。あたし達はその姿が、闇夜に溶けていってもなおしばらくの間その方向から視線をそらす事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

とんだ道草を食ってしまったが、あたしは鈴と共に寮へと戻った。時間も時間だったため寮のロビーに人はまばらだった。あたしはそれを確認すると鈴に少々引っ掛かっていた事をたずねる。

 

「鳳さんさ」

「ん?」

「あれ、嘘だよね? 音が気になったってやつ」

「うん…まぁね。けど良く分かったわね」

「そりゃあ…ねぇ」

 

 鈴は意外とあっさり嘘を認めた。確かにラウラのあの音はかなり大きかった。しかし実際問題コンクリート壁で作られている頑丈なこの寮の仲間で届くかは微妙な所である。部屋の一番大きな窓ははめ殺しであるし、加えて襲撃対策で防弾になっているためかなり厚い。そう考えると鈴がラウラを付けていた可能性は充分に考えられる。というよりあの場所、そしてあたしを助けに入ったタイミング、それらについて考えるとやはり音に驚いてあの場に来たと言うには若干無理があるだろう。

 

 その事を鈴に説明すると鈴はニヤッと笑う。

 

「へぇ、あんた見た目によらず、結構鋭いじゃない」

「見た目は余計だけどね」

「確かにそうよ、あたしはあいつをマークしてる」

「やっぱり、一夏君の件で?」

「つーかそれ以外なにがあんのよ、あいつをマークする理由って」

「そ、それもそうだね」

「変なの」

 

 

 鈴は不思議そうな顔を浮かべあたしを見やっていたが、ややあってからふいに話題を変えた。

 

 

「そういやぁさ」

「え?」

「あんた、シャルルと一夏が居なくなっちゃった時、真っ先に探しに行ってくれたんですってね」

「へ?」

 

 探しに…?

 いや、うんまぁ、探しには行ったけど……どうやらあたしの血相を変えて教室を飛び出していったあの行動に居らぬ尾ひれが付いてしまっていて更にどうも少し美化されていいるようだ。実際はそんな綺麗な話じゃないんだけど…。まぁここで口を滑らそうものなら、話がこじれるだけなので何も言わないが。

 

 

「なによ? 違うの?」

「い、いやいや違わない違わない。確かに探しに行ったよ」

「それでその怪我ね。まぁ、それだけ必死に探してくれたって事だし。少し見直したわよ、あんたの事」

「そ、そうなんだ」

 

 なんだろう、凄く心が痛い。これは……恋!? ……んな馬鹿な。相手は鈴ですよ。ありえません、普通にちょこっと残ってる良心が痛むだけです。

 

 

 

 

 

 

「えっと…」

「ま、多少の関係改善の証かしらね」

「あ、う、うん」

 

 あたしはその手を戸惑い気味に握り返す。ってか関係改善も何もあたしがこの態度とってたのお宅の所のお母さんの指示なんだよね…なんて口が裂けても言えない。つうかこれいつまで続けりゃいいんだろうか。はっきり言って最近そっち方面に気を割けるほど余裕ないんですけど。そう、余裕はなかった。一夏の事もあるが何より直近のラウラと更にデュノア社の件も完全に片付いたとは言えず、いまだ気がかりは多かった。

 自分が心配した所でもうなんの意味も無い事はよく理解出来ている。それでもあたしは何か不吉なものを感じずには居られなかった。

 

 あたしは鈴との握手を交わし終えると、鈴と一緒に寮へと入って行く。

 部屋に戻ると、セシリアに怪我の事で詰め寄られはしたが、疲れていると言う事を口実に足早にベッドに横になり布団にくるまった。

 

 

 横になっても、一向にぬぐい去れない不安。あたしはそれを振り払うように小さくかぶりを振ると、また同じような事を考えてしまう前に寝てしまおうと瞳を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「……っち」

 

 

 ラウラはまだ、森の中にいた。薄暗くそして鳥のさえずりさえ聞こえないほど不気味なほどに静かだった。しかしラウラの心は暗くはあったが静かでは無かった。その心の中は煮えたぎるマグマの様に怒りが渦巻いていた。

 

 

 

「忌々しい奴らめ…」

 

 

 ラウラは呟くと、頬をぬぐいそして唾を1つ吐いた。頬をぬぐった右手とそして吐いた唾にはそれぞれ赤い血が混ざっている。口の中を切ったのは秋穂のパンチを避けた時、そして切れた右頬は鈴ともみ合った時だろう。どちらにしてもラウラにとっては認めがたい傷。しかし鈴の方はまだいい、代表候補生なのだから。しかし秋穂の方はどうしても許せない。あんな素人に傷を付けられたなどラウラのプライドが許さなかった。

 

 それにしてもとラウラは思う。この時ラウラは秋穂に対して怒りとは別に2つの疑問を感じていた。1つ目は秋穂が本当に素人なのかということだ。

 

 確かに秋穂は専用機を持っていないし、候補生にも入っていない。しかし身体能力で考えてみるとそれは他の学生と比べ頭一つ抜けていると言ってもいい。現に自分は万全の体勢からでも無かったのに秋穂の攻撃を躱しきれず口の中を切っている。

 そして戦術面も正攻法も出来てそして、それが通用しない相手に対しては柔軟な発想で切り抜けられる。特に授業で鈴とペアを組まされた時に見せた真耶への攻撃は、成功率の比較的高い意表を付いたものだった。そんな考えが出来る人材がなぜああも野放しにされているのか…?

 

 そしてもう1つラウラが感じていたのは秋穂が持つ雰囲気だった。初対面の時から薄々感じていた事ではあったのだが、彼女の存在もまた自分を異様に腹立たせるのだ。そうまさにあの織斑 一夏の様に。

 

 

 

(これは……少し、調べさせる必要がありそうだな…)

 

 

 ラウラはそう思うと、すぐさまISのプライベートチャネルを開く。その相手は本国ドイツの〝シュヴァルツェアハーゼ〟通称〝黒ウサギ部隊〟。数回のコールの後回線が開き相手の顔が表示される。通信に出たのはラウラよりも年上の女性で、顔つきはまさに軍人らしく、厳しさに満ちた鋭い眼光を持ちラウラ同様に左目には眼帯を巻いている。

 

 

『どうかされましたか? 隊長』

「クラリッサ、少し調べてほしい事がある」

『調査…ですか?』

「東雲 秋穂という人物についての情報が欲しい」

『秋穂…? 隊長それは…』

「貴様に誰が発言を求めた? 貴様はただ了解とだけ答えていればいい」

 

 ラウラは声と目でクラリッサと呼ばれた女性を威圧する。クラリッサは一瞬顔をしかめたが、すぐに表情を戻すと静かに「了解」と答えた。

 その会話には同じ部隊としてそして、仲間としてのの信頼は感じられず、ただ同じ部隊に属している上官と部下という関係だけのドライな空気がながれていた。

 ラウラはクラリッサの返答に頷くと睨みつけたまま一方的に自分の要求のみを伝える。

 

「明後日の放課後にまた連絡を入れる。それまでにあらかたの情報を収集し終えておけ。分かったな」

 

 ラウラはそういうと、相手の返事も聞かずに通信を切る。クラリッサが最後何かを言いかけた様だったが気にする必要はないだろう。取るに足らない事のはずだ。

 しかし、これでもし何か面白い情報の1つでも出てこようものなら、そこから相手を揺さぶる事も出来るかもしれない。そう考えると自然とラウラの口角が不敵につり上がる。

 

 

「フフフッ、この傷もまた、あの時の借りに上乗せしておいてやろう……」

 

 

 それに何も出てこなくともそれならそれで、潰せばいい。どちらにしてもやる事は変わらないのだ。織斑 一夏が最終標的だがそこに到達するまでの障害は排除すればいいだけの事。それは初めから何も変わらない。ラウラは不敵な笑みのままゆっくりと寮に向かって歩き出す。

 

 その時静かな森を一陣の風が駆け抜けた。その風によって起こされた森のざわめきは、まるで誰かの心の中を代弁するかのように、これから先のラウラや秋穂達の行く末を案じているかのようであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「うぅ……んッ」

 

 翌日、今日も清々しい朝だった。まぁ身体の節々や傷の部分はまだ痛いが。あたしはよっこらせっと、声をかけながらまるで年よりみたく起き上がると、パーテーションの向こうを覗き見る。

 

 

「あれ? セシリア居ないや」

 

 あたしが見た光景は綺麗にベッドメイクされた無駄に豪華な天蓋付きのベッド。そこには既にベッドの主はおらず、更にしっかりと丁寧に正されていることから、あたしが起きるよりもずっと前に起床したのだろうと言う事は分かった。

 

「何処居たんだろうね。こんな朝早くから」

 

 

 時計はまだ8時前。今日は休日で授業は無いし、仮にあっても登校時刻にはまだちと早い。

 

 う~ん、まぁ……ちょっと後で探してみようかな。

 あたしはひとまず、顔を洗い着替える事にした。休日とはいえ何処にも行くような用事も無いので制服だけどね、傷隠しに今日もニーソックス着用だけど。

 

 

 さてと……まぁ休日だし、疲れも残ってるし…今日はダラッとしよう。探しに行くのはもうちょっと後からでもいいでしょ。

 あたしはストンっと近場の椅子に腰を下ろすと適当にブラブラと脚を振る。

 

 とはいえ、なんか手持無沙汰だよねぇ~……。まぁ昨日が昨日だっただけに余計そう思っちゃうのかもしれないけど。

 などと取るに足らない事を考えて数分を無駄に過ごした時、ドンドンッと激しくドアを叩く音が部屋に響き渡った。

 

 一瞬ビクッと身体を震わせたあたしだったが、すぐにドアへ駆け寄りノック音に対応する。

 

「はい、どちらさまでしょう?」

「あぁ、良かった部屋にいた!」

「はい?」

「とにかく来て大変なんだよッ」

「た、大変!?」

 

 

 声の主はクラスメートの女子の声だったが、焦っている様でかなり声が上ずっている。かくいうあたしも突然の事で素っ頓狂な声をあげちゃったんだけど…

 っとと、今はそんな事考えてる場合じゃなかった。あたしは急いでロックを解除しドアを開け、クラスメートに詳細を訊ねる。

 

「た、大変な事って、一体何さ!?」

「あ、あの、鈴とセシリアがラウラで、ドーンってなっちゃって、それでッ」

「ま、待って待って、少し落ち着いて。意味が分からないよ!?」

  

 どうやらあたしが思ってた以上に彼女は動揺しているようで支離滅裂も良いところだった。あたしは1つ深呼吸を促し改めて聞く。

 

「どう、落ち着いた?」

「う、うん。とりあえず」

「それで、何があったって?」

「あぁ、そう、そうなんだって、大変だよ、このままじゃこのままじゃッ―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――セシリアと鈴がラウラに潰されちゃうんだよ!」

 

 

 

 あたしはそれを聞いて、今日の休日がこの時点ですでに〝終わってしまった〟という事を瞬時に理解した。

 

 

 

 

 




皆さまこんばんは。のろいうさぎです。

ラウラとセシリア、そして鈴が戦う所までの事を書かせていただきました。
いかがだったでしょうか?

個人的にデレラウラも良いけどキリラウラの方も好きではありますw
あぁ、そう言えばISの最新号見ましたが、全体的に突っ込みどころ多かったですが、最後の専用機の行は個人的に頂けないですねぇ…、何の為のゼフィルスやねんって感じでw
しかもそんなに簡単に束とコンタクト取れるんだなぁとかww

まぁそもそも本作はISの本編にはあまり忠実ではないので良いのですが(汗w

さて次回、ラウラと戦った鈴とセシリアの結末は? そして学年別トーナメントはどうなって行くのか、一夏とシャルルはどうなるか!?

次回もお楽しみに♪

では失礼します
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