IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第28話~測りかねる真意~

 

 

 時は少しさかのぼり、更に場所はフランスへと移る。

 今日のフランス、パリは朝から雨が降っており、どの通りを見ても色とりどりの傘の花が咲いていた。

 その中を、とある人物もまた傘をさして大通りに面した街路を歩いていた。どんよりとした厚い雲が空を覆い、昼間だと言うのに行き交う車の中にはヘッドライトをつけて走る姿もあった。その人物は鋭くやや釣り眼気味の青白い瞳の端正な顔立ちに、背中の真ん中あたりまである永く艶やかなロングヘアーをたたえている。

 

 

 服装はトレンチコートをはおり、コートの下にはスーツを着こみはたから見ればどこかの企業の重役のようにも見えた。胸は膨らんでいなかったが、やや細身で中性的な顔立ちから、いまいち性別を判別しづらい。その人物はしばらく街路を歩き続けそして、一件の店の前でおもむろに足を止めた。

 

 

 そしてほんの少し顔を動かし、目の前の建物の看板を見やる。

 

 

le() Lumière(リュミエール) Bateau(バトー)

 

 

 日本語に訳せば光の船。名前だけ聞けば何の事だかわからないが、店の中をのぞけばすぐに何の店かは理解できた。

 カウンターテーブルの奥で、リズミカルにシェイカーを振る店員、その後ろの棚には数多くのワインやウイスキー等が並び、カウンターや手前にある数脚のテーブルで色とりどりのカクテルや様々な酒に舌鼓を打つ男性や女性。もう何の店かは分かるだろう。所謂ここはバーである。しかも店名が指すように店内は落ち着いた雰囲気ながらも壁に白と赤の浮き輪がかかっていたり、酒の置かれている棚のすぐ横にあるデザイン窓が船の船窓の様になっていたりと、コンセプトは一貫している様だ。

 

 その人物は、その店の扉をゆっくりと開ける。

 

 

 カランコロンカラン♪と、扉に取り付けられた鐘が鳴り、一瞬客や店員の目がこちらに集中するもすぐにその視線は元の方向へ戻っていた。たった1人の男性を除いては。

 

 

 その視線を受け、ゆっくりとその方へと向かう。2人掛けのテーブルに座り、オンザロックでウイスキーを愉しんでいる男性。オールバックに整えられたブロンドの髪、そして見るからに一流メーカーのスーツを着こなすその男性は、整った顔立ちをしてはいるが年齢は既に中年の域だろう。だが所々に見える顔のしわや、スーツを着ていても分かるほどに良い体格が、ただ年を重ねたというよりもこの男性が幾多の修羅場を経験し酸いも甘いも噛み分けた人物であると言う事を物語っているようであった。

 

「ジャパニーズウィスキーというのも中々上手い物だな」

 

 ウイスキー片手に男は渋めの低い声で言うと、視線で椅子に座るように促す。そしてそれに従いコートを脱ぎアタッシュケースを床に置きながらその人物は椅子に腰かける。

 

「このモルトとシェリーの甘さ……そして軽いカフェグレーンの舌触り。ロックも良いがストレートの方がより楽しめるウイスキーの様だ」

「……そうですか」

「そう言えば、日本は母国だったね、君の(ひいらぎ)君」

「えぇ、良くご存じで……アドルフ・ジャン・デュノア社長」

 

 

 

 

 柊と呼ばれた人物は、目を細めながらデュノアの名を呼び返す。名を呼ばれたアドルフもまた一瞬ピクリと眉を動かした。だがすぐにウイスキーを口に含むと余裕のある笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 フランスの首都、パリ、その一角にあるバーで、〝ファントムタスク〟とデュノア社のキーマン2人が顔を合わせた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「う~む……秋穂はちゃんと帰れたのだろうか……心配だ」

「今心配したってもうしようが無いでしょう、少しは落ち着きなさい」

 

 

 〝ミルヒシュトラーゼ〟のブリッジをそわそわしながらせわしなく右へ左へ歩きまわるマドカをスコールがたしなめる。しかしマドカは歩みを止めることなく不安そうな顔を続けていた。

 

「落ち着けと言われてもだな、秋穂と一緒に行った奴がオータムだぞ? 甚だ不安でならん…」

「仕方無いじゃない、今のタイミングであなたと織斑 千冬を合わせるわけにもいかないんだから」

「それは…」

 

 スコールのもっともな意見にマドカは押し黙る。秋穂は作戦上仕方がないが、マドカと織斑 千冬そして一夏両名との接触は慎重を期すべきであると言うのが双方の共通見解であった。その見解の中でも、特にマドカが気にしているのは、時期早朝な自分との接触によって、ターゲット周辺の警備や警戒が強化されてしまうことだった。理由は顔つきだ。秋穂は織斑四兄妹の中で一番下の末っ子。実は秋穂はこの兄妹の中で一番誰にも似ていない顔立ちなのだ。つまりそれが今潜入しても、織斑のそれと気づかれずに行動できる強みなのだがマドカは違う。嫌なぐらいに千冬そっくりなのだ。特に目元の鋭さはよく似ているし、口調もご覧のとおりである。

 

 そんな人物が、千冬の首を狙っていると言う事がばれてしまったら、一夏にも被害が及ぶと思われるのは必然。警備強化はもちろん、〝男性操縦者(サンプル)の身柄確保〟という意味合いからもこの〝ファントムタスク〟自体にもIS委員会をはじめとする勢力が本腰を入れかねない。いくらスコール達でも相手にできる規模には限界という物がある。なのでスコールもマドカにはこの艦の周辺警護程度に任務をとどめており、学園への襲撃も現状では参加させていない。秋穂の機体が暴走した時も、最後助けたのはスコールだった。そして今回も、身柄の引き渡しは、オータムが行っている。

 

 そうはいっても、都合と気持ちは常に相反するものだ。必要な事だと頭では理解できていても知らず知らずのうちに妹を心配し気が急いてしまう自分がいる。何度自分に言い聞かせても納得のいかない事の方が最近は多かった。

 

 

 

 そんな心情を察してか、スコールが唐突に話題を変える。

 

「そう言えば、交渉はどうなったのかしらねぇ」

「交渉?」

「えぇ、ある人に頼んだのだけれど…」

 

 

 マドカはまだ秋穂の件を引きずってはいたものの、これ以上自分が不安で沈まぬようにと気を使ってくれたスコールの好意に甘える事にして、少しづつだが意識をその話の方向へと傾けていった。

 

「ある人…か。そいつは当然だが〝ファントムタスク〟の人間なのだろう?」

「えぇ、そうよ。ここだけの話IS委員会の関係者でもあるけどね」

「ふん、相変わらず色々な所にエージェントを潜り込ませているんだな、〝ファントムタスク(うち)〟は」

「まぁ、そうね、うん、エージェントと言えばそうなのかもしれないけわね」

「ん? 違うのか」

「いいえ、違わないわ」

 

 マドカはスコールの言い回しに怪訝な表情を浮かべたが、すぐに表情を改める。素性は、はっきりとしていないがスコールが手配した人物なのだから大丈夫だろうという信頼がそこにはあった。それを見たスコールは、変に沈黙を続けまた秋穂の事を考えてしまう事を避けるため、間髪いれずに口を開く。

 

 

「どちらにしても、こういう交渉事は得意な方だからあまり心配ないわよ」

「別に心配しているわけではないが……にしても、こちらの要求は分かっているが向こうから何を引きだすための交渉なのだ?」

「何を引きだすって、そりゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ほう? なるほど、面白いね」

 

 

 アドルフは柊の提案を聞き、ハハハッと笑う。しかし柊にとってみれば、アドルフが何故笑うのかいまいちピンと来ていなかった。

何かおかしなことでも自分は言っただろうか?

 柊がその真意を探る様に、アドルフの顔を見やる。

 

 柊はアドルフとバーで会った後ひとまず酒を注文し、しばらく他愛もない会話を続けた。そして今、つい先ほどこちらの要求をアドルフに伝えたのだ。柊はもう少し、空気が重苦しくなるかと予想していたが実際は真逆。アドルフは笑っており、むしろ今はどこか和やかささえ感じられる雰囲気が漂う。

 

 

「面白い……ですか?」

「うむ、実にね」

 

 アドルフは、軽くグラスを傾けウイスキーを口に含み、そして静かにグラスをテーブルに置く。柊には店の喧騒の中アドルフが奥グラスの音が妙に大きく聞こえていた。自分自身この雰囲気に呑まれてしまっているのだろう。それを自覚していながらもなお、アドルフは務めて冷静に相手を観察する。

 

 柊・F・ファンクフォーン。それが本名である。アドルフと顔を合わせた時、日本が母国だと言われたが厳密にいえばアドルフはドイツ人とのハーフである。もちろん生まれたのは日本なので、母国は? と聞かれれば日本なのだが。

 そんな柊は現在、〝ファントムタスク極東支部顧問〟つまりスコール達の上司に当たる役職と、そして身分を偽りながら欧州のIS委員会に出入りしている。術数策謀渦巻くIS委員会の議場において巧みに議論を交わす事が出来るだけの頭脳と語学力を持ち合わせており、比較的キレ者ぞろいの〝ファントムタスク〟の内部においても交渉術のスキルは一目おかれている。

 

 そして今回も、スコールからの要請でこうして交渉に来ているわけだが、柊は交渉相手がアドルフであると言う事を知った時、交渉相手としてではなく一個人としてその人物像が気になっていた。深い意味など無い。ただ純粋に、デュノア社の社長がどんな人物なのかが気になったのだ。

 

 企業の社長との交渉などこれまでいくらでもしては来た。そして何度もその〝雰囲気〟を味わってきた。重苦しい空気が流れる中、実際以上に狭く感じる社長室のソファに腰掛け、時に威圧的に意見して交渉を有利に進める。柊にとって交渉とはそういう物であった。だがアドルフとの面会を連絡した時驚くべき事にアドルフはこのバーを指定してきたのだ。

 

 聞かれたくない事も多く話すはずだし、中には秘密裏にしておきたいことだってあるはずなのにもかかわらずである。

 このご時世、何処に〝耳〟があるのかなど分からない。しかしアドルフは氷上を滑るかのように、軽やかに何の気負いもなく言葉を発していく。

 

 

「確かに、君の言うとおり〝あの子〟は私の判断で学園へ送り込んだ(・・・・・)

「その表現でいいのですか?」

「構わないだろう、事実なのだから」

「御認めになると?」

「だから、そう言っているじゃないか」

 

 

 柊は、怪訝な表情でアドルフを見やる。というよりも話し始めてからずっとこんな表情なのだが。そんな表情の柊を横目に、アドルフは再びグラスを傾ける。口の中でウィスキーをゆっくりと、じっくりと味わいながら少し思案にふけ、そして静かに1つ頷いた。

 

「ふむ、良いだろう。その条件全面的に呑もう」

「え?」

「なにを驚く。そもそもそういった要求だったのだろう? 呑むと言っているのだから喜ぶべきではないのかな?」

「い、いえ……」

 

 

 柊は、動揺を隠すように、短くそう発し押し黙ったが、隠し切れているとはとても言えなかった。だがそんな事よりも一体これはなんだ? これは、交渉では無い。こんなものは交渉であるわけがない。言うなればこれは相談? いやそんな物よりも遥かに劣る喫茶店での談笑レベル。内容など無くただ自分の伝えた〝要件〟をまるで友人に本を貸すかのようにあっさりと承諾する。意図はなんだ? なにを考えている?

 

 柊は一瞬パニックに陥りかけた思考を、小さくかぶりを振って止めアドルフに視線を合わさずに、小さい声で訊ねた。

 

「一体……何故ですか?」

「呑むと言っているだけだろう。何故もへったくれもない」

「お言葉ですが、これはあなたにとってデメリットしかないはずだ!」

 

 柊はバンっと机を叩くと、椅子が勢いよく転ぶのも気にせず立ち上がってアドルフを問い詰める。それをアドルフがまるで子供を諭すように制した。

 

「柊君、場所を考えたまえよ」

「あ…」

 

 気付けば柊の怒号によって店員はおろか店の客全員がこちらを向いていた。そのほとんどが冷ややかな目で柊を見つめており、その冷たさが激昂した柊の気を一気に覚ましていく。柊は周囲に軽く頭を下げつつ気まずそうに、椅子を戻し座りなおした。それを確認するやまた店内には和やかな空気が広がっていく。たった一か所、柊達の場所を残して。

 

 

「意外と君は、人間味あふれる人物の様だ」

「……それはどうも」

「いや、そういう人物(・・・・・・)の方が接していて楽しい。何より生きている心地がするよ」

「……それで、先ほどのお話ですが……」

「……」

 

 柊が、仕切り直しで切りだすと、アドルフの表情から、柔和な笑みが消えた。同時に柊の背筋に走る悪寒。これは柊が幾度となく交渉の場で感じてきた物だった。ここからは違うと言う明確な意思表示を受け自然と柊の目も鋭くなる。そして……

 

 

「君の提案を受けるつもりはある。〝シャルロット・デュノアの解放〟と〝コアを除いたIS1機の提供〟約束しよう」

 

 それを聞いて、柊はやはり得心がいかなかった。IS企業という事もあってかIS1機の提供について承諾してくれた事についてはあまり疑問をもたなかったのだが、どう考えてもシャルロットの件はデュノア社そして何よりこの人物のとって大きな痛手であるはずだ。何故そこまで簡単に切ってしまえるのか…。

 

「正直に言えば、シャルロットの件。断られると思っていました」

「逆に今度は私が聞こう何故かね?」

「シャルロットは、娘では」

「それが理由かい?」

「安直ですがこれが答えでしょう」

「娘……娘か?」

「……」

 

 アドルフはつぶやくと、フンッと鼻を鳴らした。

 

「まぁそうだな、あれでも娘は娘だ。血縁関係上はな」

「……」

「だが、あれは娘である前にデュノア社の従業員だ。つまり使えん物は残しておく必要が無い。それこそデメリットなのだよ」

 

 それが本音か建前なのか定かではない。しかし、ほんの一瞬アドルフの表情が曇った様に柊には見えた。柊はあえてそれには触れず話を進める。

 

「だが、それはそれであなたは日本での大きな〝情報源〟を1つ失う事になる。そこまでの損失になっても良いと?」

「ほぅ、まだ突っ込んで聞いてくるか?」

「用心深い物で」

「時には大胆な交渉の方が良い結果を生む事もあるだろう」

「時と場合によるでしょう」

「……なにが言いたい?」

 

 明らかに変わる口調。声のトーンも落ち纏う雰囲気も一層重くなり、息苦しさが増す。しかし柊はそれに臆することなくアドルフを見据えた。

 

「つまり、シャルロット・デュノアをどうしてもデュノア社やフランスから出さなければならない理由があるのではないかと言いたいのですが」

「実に……面白い意見だな」

「どうなんですか?」

「………フフッ、やはり君は……面白い(・・・)

 

 

 

 

 アドルフが笑った直後、カウンター席に置かれていたグラスが爆ぜた。

 

 

 

 

 

 柊はたった今、なにが起こったのかを瞬時に理解していた。

 店の入口のドア、その上に合った灯り取りのガラスに空いた小さな穴。それを一瞥してから柊はアドルフの顔を睨んだ。

 

 

 

「いい腕だろう? ああいうのを会社にメリットがある人間というんだよ」

 

 

 柊はアドルフの言葉を聞くと同時に、店の異様な雰囲気も感じ取っていた。グラスが爆ぜた理由は誰が見ても分かるはずなのに。なのに店員も客も誰一人席を立とうとせず談笑を続けていたのだ。静まりかえるならまだ分かる。だが明らかにこれはおかしい。誰一人として声も挙げず椅子からも立とうともしない。ただただ、ごく普通の日常を過ごすその行為自体が、酷く不気味に感じた。そんな異様な空気の中アドルフは極めて冷静にウィスキーを口に含む。そしてアドルフの様子を見て柊は、自分の置かれた状況を把握する。そして無駄な行為(睨む)のをやめ、もう一度弾痕を見上げた。

 

 店の向かいには7~8階建ての小高いビル群がある。流石にもう目を凝らしても撃った犯人を見つける事は出来なかったが、弾痕と割れたグラスの位置関係を見るに真正面のビルの屋上から撃たれたものだろう。アドルフの言葉からはじめから標的はカウンターに置かれたグラス。確かにこの店の間口は広いとはいえ風の影響を考慮しながら一発で決めてくるあたりなるほど確かにと柊は思った。

 

 

 アドルフは全てを理解した柊を見て、フッと笑うとグラスに残っていたウィスキーを一気にあおりそして立ち上がった。

 

 

「まぁ、最後の事はご想像にお任せしよう。それ以外の事は任せてくれたまえ。約束は守る」

「……」

「ただ、1つシャルロットの件だけ条件がある」

「え?」

 

 柊は、何を今更と驚きと困惑が入り混じった様な顔でアドルフを見上げた。

 

「なに、難しい条件を出そうっていうんじゃない」

「では?」

「ただ1つ。アレの事は〝丁重〟に扱ってくれ。それだけだ」

「は?」

 

 

 

 思わず柊は、声を上ずらせる。ついさっき「使えない」とばっさり切ったばかりではなかったか? それが今度は丁重にとは、支離滅裂も良い所だった。だがアドルフの顔に冗談の色は見受けられない。そしてそのまま「頼んだよ」と言い店を後にするアドルフの背中を、柊は眉根をひそめつつも見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランスでそんな事があったなんて露知らず、あたしはアリーナへ急いでいた。あたしを呼びに来た女子生徒の焦りようとそして彼女から聞いた内容からも怪我で身体が痛いとかそんなの言っていられるような状況では無かった。

 

 

 アリーナへと続く長い廊下の向こうに、黒山の人だかりが見える。あたしは勢いそのままにその人込みへ飛び込む。目の前に現れる人混みをかき分けようやく強化ガラスまでたどり着きアリーナを見渡すと、そこには驚きの光景が広がっていた。そこらかしこに散らばる弾け飛んだ赤黒い装甲板に、落とされ無残に地面に突き刺さる青いビット。そして、片膝を突き肩で息をしながら恨めしく相手を睨みつける2人の視線。その視線に対して黒いISの操縦者は表情を変えずひたすら冷たい目で2人を見下していた。

 

 

 今は、状況自体は止まっているもののこの凄惨なアリーナを見れば、何があったかなんて他の生徒に聞くまでもなかった。

 

 「あいつッ!」

 

 あたしが険しい表情で、3人を見ていると不意に、背後から声が聞こえる。声の主は振り向かずとも分かった。何せこの学園で唯一の男性操縦者でありあたしのターゲットなのだから間違えようもない。

 

「一夏君」

 

 あたしの真横で同じように、強化ガラスに手を突き、この惨状に目を見開いている。服も制服で無くティシャツにハーフパンツという様相からも慌てて部屋を飛び出してきた事が伺える。更に、その後ろにはいつものジャージに身を包んだシャルロットの姿もあった。

 

「秋穂、来てたのか」

「うん。今来たとこ…それより…」

「くそッ、何がどうなってんだッ! ってか何でこんな事にッ」

「一夏、落ち着いてッ ここで喚いてもしょうがないよ」

「とにかく、誰か織斑先生に連絡してッ! あたし達は下に行こう!」

 

 

 シャルロットはああは言ったものの、多分あの程度の制止では一夏は止まらない。ここで下手に押し問答になるより行動した方が得策と考えたあたしは、一夏とシャルロットを引き連れて、ひとまずアリーナの中へと急いだ。流石に殺しはしないだろうが、それでもこれ以上は確実にマズい。階段を1段飛ばしで駆け下りアリーナへとづつく自動ドアが完全に開き切らないうちに隙間に身体を滑り込ませる。

 

 行動した方がマシと考えたのは良いが、具体的にどう助けるとまでは考えが及んではいなかった。自分のISは今、ダメージからの修復中で使えないし、仮に使えてもこんな面前で自分が〝デファイアント〟を展開できるわけがない。生徒用の〝打鉄〟はあったが、体調が万全ではないうえに、悔しいが実力差は少なからずある。もっといえばシャルロットも機体は修復中で、唯一無傷の一夏も割って入ってもまず〝戦闘〟のレベルまで持っていけるかどうか…。

 

 だが、行かなければ重大な事態に発展しかねなかった。それだけは理解していた。我ながら馬鹿すぎると思うがとにかくラウラを制止しなければ。織斑 千冬の言葉にならラウラはしたがってくれる。それまで何としても時間を稼ぐんだッ! あたしははやる気持ちを必死に抑えながらアリーナの扉を勢いよく開けた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「…つまらんな」

 

 ラウラは心底呆れかえっていた。先日組みあった東雲 秋穂といい、今、目の前で無様に片膝を突く中国とイギリスの代表候補生といい。まぁ前者は何処の馬の骨とも分からぬ無頼者。それほど期待など持っていなかったし実際取るに足らなかった。だが後者は少しは歯ごたえがあるかと思っていたのだが、結果は到底ラウラ自身が満足できるものではなかった。手加減をしてもなお他国の代表候補生がこれほど貧弱で脆いものだとは思ってもみなかった事だ。

 

 〝やはりこの学園の生徒はどいつもこいつも〝クズ〟ばかりだ〟

 

 ラウラは心の中で吐き捨てると、鈴を見やる。鈴の機体はズタボロだったが目だけはしっかりとラウラを睨みつけいる。その視線はぶれることなく真っ直ぐだ。

 

 

「何だその目は?」

「分かんないの、睨んでんじゃない。まだまだ……これからよ」

「そ、そうですわ…私たちはまだ……ッ…やれましてよ?」

 

 鈴とセシリアは不敵に笑うものの、その実は何か打開策があると言った風ではなく、ただ単に痛みを耐えながら言い放った虚勢に過ぎない。そしてそれをラウラが感じていない訳がなかった。ラウラは深くため息を突くと2人を嗤う。

 

 

「ここまでやっても、まだ分からないのか?」

「何が……ッ」

「どれだけやっても時間の無駄だと言う事だ。お前らでは一生かかっても勝てん。なのになぜ立ってくる?」

「何故立つか……ですって? そんなの決まってるじゃない」

「えぇ、それはまだ…私たちが負けていないからッ……ですわよ」

「……」

 

 ラウラは2人をジッと見やる。セシリアもそして鈴も、押せば今にも倒れそうだ。なのになぜこの2人はあんな目で自分を見れるのか。そもそもこうなった原因は自分にある。というか自分から挑発したのだ。ただ単に目ざわりだったのもあるが、仮にも代表候補生たる者があんな下らん種馬(織斑 一夏)にベタベタベタベタと。代表候補生の威厳も何もあったものではない。所詮彼女たちも、ISをファッションか何かと勘違いしているクズだ。だからこそその視線は気に入らない。負け犬がどれだけ牙を立てようが、睨もうが、負け犬は負け犬。それ以上にはなれはしないと言うのに。

 

 ラウラがその結論に帰結すると、途端に自分が馬鹿らしく思えてきた。手加減しているだけ時間の無駄、これ以上癪に障る視線を向けられるのはごめんだ。

 早い所、〝壊そう〟

 

 

 ラウラは、またも息を1つ吐きつつ2人の元へゆっくりと歩み寄っていく。その眼にはもはや冷たさしかない。代表候補生という自分と同等の立場でありながら、ロクに自分を満足させる事も出来ないガラクタは、自分にとってもそして何よりIS界にとっても必要ない。

 

 セシリアと鈴は、ラウラの動きを見て構えを取ろうとするものの、既に一部ではパワーアシストが切れかかっており充分な体勢を取る事が出来ないでいた。だがそれでも、何もしないよりはと鈴は最後の力を振る絞る様に、片刃となった〝双天牙月〟をグッと握り、歩み寄るラウラに飛びかかる。だがそんな生ぬるい攻撃を万全の体制のラウラが食らうはずもなかった。ラウラは飛びかかって来た鈴に対しスッと右腕をかざす。すると鈴の機体はラウラに触れるか触れないかという位置でピタリと停止し、身動きが取れなくなってしまった。

 

「くッ!!」

「飛びかかれるだけの力は残っていたようだが……それもここまでだな」

「鈴さんッ!」

「まずはお前からだ…」

 

 

 ラウラは一瞬AICを緩め鈴を解放すると同時にワイヤーを射出し鈴の肢体を絡め宙づりにし、そしてそこへ方のレールガンの砲身を突きつける。

 

「ISに乗っているのだから万に一つも死にはしないだろうが、その身体に恐怖のきの字ぐらいは刻みこめるだろう」

 

 

 ヂヂッっというレールガン特有の磁場放電が始まり砲に次第にバチバチっと閃光が走り始める。

 

「そして気付け。貴様ら自身の認識の甘さ……そして何より弱さをなぁッ!!」

 

 

 砲身に弾丸を打ち出すに充分なエネルギーがたまりラウラが発射の指示を送ったまさにその時だった。

 

 

「ッ!?」

 

 

 不意にラウラは右足に強い衝撃を覚えた。そして刹那バランスを崩すとラウラは〝何かの上〟に載る様に転倒してしまう。その瞬間明後日の方向へとレールガンの弾丸は飛びアリーナのシールドバリアに直撃。大きな爆煙を天井に咲かせる。転倒した弾みで、鈴はワイヤーから解放され同時にISも待機状態へと戻っていた。

 

「な、何が!?」

 

 突然の事にラウラが声を上ずらせながら周囲を見渡す。すると真っ先に飛び込んできたのは、自分が転ばされたまま載っていた〝何か〟だった。

  

 

「これは……ISのキャリアッ!?」

 

 

 ラウラを転倒させたものは普段ISの移動等に使用されるパワーアシスト付きの鋼鉄製のキャリアカーだった。このキャリアISを搭載すると途端に鈍重になるが、空荷の状態だと以外に早い。元々重いISを載せて動く物なのだから当たり前といえば当たり前だがパワーは相当なもの。それが自分に向かって全速力で突っ込んできたのだ。こんな事が自然に起こるはずはない。それを行った誰かがいる。そしてその誰かはすぐに判明した。

 

 

「いやぁ~、見事なこけっぷりだったねぇ。大阪行って新喜劇にでも入ると良いよ」

「貴様かッ」

 

 

 ラウラの頭の上から声がする。この抜けきったお花満開の馬鹿声を聞き間違うはずもなかった。ラウラは恨めしげにその声がした方を睨む。

 

「東雲 秋穂ッ!」

「大正解~♪」

「俺たちもいるんだぜ?」 

「…!」

「これ以上は、させないよ」

「……そろいもそろって…」

 

 更に声のした方を見やると鈴とセシリアの前に白式を展開した一夏と、ISは展開できないまでも険しい表情を向けるシャルルの姿があった。この状況、まともにISを動かせるのは織斑 一夏のみ。シャルルは気になるがISを展開していないということからして何かしらの事情があるのだろう。となれば、この状況ですら一時的に鈴を助けただけにすぎず、自分の優位は動かない。そして自分にはこの場を一瞬で制圧できるだけの自信があった。ラウラは秋穂の方を見ながら起き上がると余裕の表情で問うた。

 

 

「何かと思えば雑魚が増えただけ。お前たちで止められると本気で思っているのか?」

「でも一応止めたよね?」

「そう何度もまぐれは起きない」

「そうか? そんなもんやってみないと分からねぇぜ」

「つくづく自分達の実力が分かっていない奴らだな。そこまで能天気だとは思わなかったが…」

「なんなら……試してみても……良いんだけどな…」

「ほぉ……わざわざ死にに来るとは…。だがまぁ手間が省けた」

 

 

 一夏が〝雪片〟を構えてジリッと前に出る。それに呼応するかのようにラウラもまたキャリアから降りて静かに構えた。

 

 誰もがその空気に押し黙らざるを得ない。そして一夏が〝雪片〟をチャキリッと持ち直した直後2機はほぼ同時に―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――スラスターを噴かし地を蹴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
もう忘れ去られましたでしょうか…まぁ、自分も忙しすぎてっ言うのもあるんですが、それは言い訳ですね、すいません。

個人的には、デュノア社長、原作でもうちっと出番あってほしかったっていうのが本音なので。彼はこれからもこの小説では登場してきます。

今後彼がどうかかわってくるのか、お楽しみくだされば幸いです。

全ての条件を呑むと言い放ったデュノアの思惑は? そしてラウラと一夏どうなるか!?

では第29話でお会いしましょう! 今度こそ更新頑張るぞ!(信頼性ゼロ)それでは♪
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