IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
結果だけを言えば、とても面倒くさいことになってしまった。あのブロンドのお嬢様はセシリア・オルコットというらしい。自分で、ポーズまで取って名乗ってたからねそれはよく覚えてる。ただ問題はその後。……あたしも、あまりの物言いに言い返しちゃったのがいけなかったんだけれどねぇ……
「いい加減にして下さいませんことッ 先ほどから聞いていれば内容の無いくだらない話ばかりで騒がしいだけッ! そういう下々の痴話喧嘩レベルの会話は廊下ででもして下さらい? エリートである私に迷惑ですわッ!!」
声を張り上げ、こちらを睨みつける。確かに騒ぎすぎたのは事実だ。彼女が怒るのも理解はできる。しかし、なんか素直に謝れない物言いだなぁ。貴族なのかは知らないけれど下々って…。
彼女は、こちらを睨んだまま席を離れあたし達の前まで移動してきた。間近で見るその目は、睨むというよりはどこかあたし達を見下し嘲笑しているようでもある。どっちにしたってまぁ友好的な目は向けてないね、うん。
「世界で唯一、ISを動かせた男というから、どれほど知的で人間性豊かな方なのかと期待しておりましたが、こんな程度とは。落胆を通り越して失望レベルですわ」
この台詞には、流石の一夏もムッとしたようだ。箒の手を静かにはらうと席から立ち上がりその少女に真正面に立つ。いくら箒に胸倉を掴まれていようとも一夏は男だ。立てばあたし達女子よりも背は高い。
「お前、いきなり何なんだよ。そりゃ騒いでたのは俺達の方だからそれに関して言われるのは分かるけど、初対面の何処の誰だか知らねぇ奴にそこまで言われる筋合いわねぇよ」
「なッ!? 何処の誰だか知らない!? この私を知らないというのですか!?」
「あぁ知らねぇ。箒、秋穂お前ら知ってるか?」
「いや、確か自己紹介で何か言っていたのは覚えているが…」
「だったらあたしも知らないね~。自己紹介の時はまだこの学園に居なかったし」
っていうか、ここまで自分に自信持ってる人久しぶりに見たよ。……いや、そうでもないか。あたしは自身の姉を思い浮かべ苦笑いを浮かべる。マド姉はまぁ、色々目の前の彼女とは違うタイプだが自分に自信を超持っている人物だよね。まぁそれでよくオータムさんとかとケンカになるんだけどそれはともかく。
返事を聞き表情を固まらせる彼女。まさか一夏だけでは無くあたし達にまで知らないと言われるとは思っていなかったらしい。というかこの場合、自分で恥をさらした様なものだろう。主に認知度的な意味で。
「で、誰なんだよお前」
「……んんッ、ま、まぁ極東の島国の人間なんてこの程度ですわよね。分かりましたわ。下々の知恵足らずな方々に知識を分け与えるのも立派な貴族としての務め。よくお聞きなさい。私は、大英帝国IS界の未来を担うエリートにして代表候補生、セシリア・オルコットですわ。どうです? 少しは私の凄さ、素晴らしさがおわかりいただけたかしら?」
彼女はスッと胸元に手を持っていき、まるでモデルの様なポージングですらすらとまるで歌っているかのようになめらかに言い放った。
へぇ……この子がイギリスの……。なんてまぁ残念な性格…。この子容姿は良いから性格で9割方損している気がする。だって黙ってれば本当に綺麗だもん。黙ってればね。
セシリアの話を聞いた一夏は、少しの間何かを考えそしてとぼけた声でセシリアに訊ねる。
「なぁ、セシリアだっけ。一つ質問良いか?」
「構わなくてよ? プライベート以外でしたらお答え差し上げますわ」
いや、あんたのプライベートなんて興味無いし…
「だったら……」
「はい?」
「代表候補生ってなんだ?」
がたたたたんッ!!
これには聞き耳を立てていた生徒だけでは無く、あたしも足の力が抜ける。箒でさえガクッと肩を落とし頭を抱えていた。流石に興味なくてもさそれぐらいは知っとこうよ、ってか新聞やTVのニュースでよく聞く言葉でしょこんなの…。
「あ、あ、あなた! 何処まで知識が足りませんの!?」
「いや……足りないってかマジで知らないし」
「馬鹿にしてますの!?」
「まぁま、セシリアさん。本当に知らないみたいだし…」
「あなたまで、こんなのの肩を持つのですか?」
あたしだって持ちたくて持ってるんじゃない、あんたを宥(なだ)めなきゃこの場が収まらないの! しかしそうはいっても本心を言えば更に話がややこしくなる。あたしはとにかく表面上でも笑顔でセシリアの対応に当たる。
「いや、持つとかじゃなくてさ。興味ない事にはあんまり詳しくないってのは当たり前だし」
「興味が無い!? この私、セシリア・オルコットに興味が無いとはどういう事です?」
「だから、そうじゃなくて、今まで一夏君はISとは無縁の生活を送ってきたんだよ、だったら…」
「だとしても、私はイギリスでそれなりの有名人ですのよ? ニュースぐらいご覧になるでしょう!?」
こ、こいつ……本当に面倒くさいね! あぁ言えばこう言うとはまさにこの事だ。どうあっても自分を知らない事が許せないようだ。
確かにセシリア・オルコットは、有名人である。イギリスでIS適性はAでおまけにBT兵器の適性までAの言ってみれば天才型。小耳に挟んだだけでも相当の実力者である事は容易に想像が付くし、何より実力者でなければ代表候補生にはなれない。そして彼女はその代表候補生だ。実力は認めよう。
しかしだからといってここまで極端なのは考えものだろう。自尊心が強すぎるというか、いくら貴族だからといってもこのご時世これほど相手を見下す奴も見た事が無い。女尊男非といえど行き過ぎは、どんな事でも恥ずかしい。それが現時点では彼女に分かっていないから問題だ。
とはいえここでブチ切れたら全てが滅茶苦茶だ。収集が付かなくなる。あたしはかなり危険水域に達している我慢メーターをなんとか抑え込みながら話を進める。
「一夏君はあんまりニュースとか見ない人かもしれないよ」
「ふん、やはり低レベルな人間という事ですわね」
「それは、間違いないかもしれないけど」
「けど、何か!?」
「だから……」
いい加減にしてよ、もうッ! こっちは我慢の限界だってのに…ッ!これ以上言われたら――――
「ふん、言い返すことすらできませんの? やはり低能の肩を持つ人も低能ですのね、類は友を呼ぶと言いますし」
カッチーンッ。もう駄目、限ッ界!!
「あのさ、言わせてもらうけど」
「何か?」
「自分がどんだけ有名なのか知らないけど、さっきから低能ひけらかしてんのそっちじゃん」
「な、なんですって!?」
「お、おい秋穂、お前こいつを
箒が慌てて声を上げるが、あたしはその箒を制して言葉を続ける。
「大体さぁ、本当に有名な人間がそこまで言う? 有名人って自分を有名だって言うかな? あんたの実力は代表候補生なんだし疑いようはないけどイギリスっていうのはもう少し紳士淑女の国だと思ってたけど違うみたいだね」
「ニュースすら見ない殿方のおられる、辺境の文化的後進国の人にそんな事を言われても説得力がありませんわね」
あたしが言い返そうとした時、スッとあたしの前に一夏が割って入る。あたしは出かかった言葉を飲み込み、その行動に一瞬目を丸くした。今彼が出てくる事はそれほど得策とは言えない。何せ彼の事で彼女はいちゃもんを付けてきているわけなのだから。
しかし、一夏はあたしが声を上げる前にセシリアに向かって声を荒げていた。
「イギリスだって、言うほどお国自慢無いだろうが。大体文化的後進国ッて言うならとっととお前んとこの料理の文化を進展させろよな。世界一くそ不味い飯で何年ブリュンヒルデなんだよ?」
う、上手い! あ、じゃなかった。イギリスのご飯はとにかく野菜の原型が無くなるまでゆでたり、揚げ物は真っ黒になるまで揚げる、そして更に性質が悪いのがただ揚げたりたんに茹でただけという非常にシンプルな調理法が主であるため、素材そのものの、質の良さが直接料理の結果に反映されるから、他の国なら味付けでごまかせたりするけど、基本的にイギリスは質が悪ければその時点で不味い料理になる事が決定する。
ちなみに、このイギリス料理が不味いというのは、某有名なイギリスの公営放送が放送している自動車番組の司会のイギリス人が自虐的にネタにするるほどで、つまりイギリス人ですらその不味さに気が付いている。そして当然セシリアも一夏に偶然か必然かとんでもなく痛いところを突かれてしまっていた。
「そ、それは…………ぼ、母国の愛すべき文化ですわ! そんな事も分かりませんの!?」
「いま口ごもったろ!」
「口ごもってなどいません! ただ、私は……その……て、低能なあなた方にも分かるように言葉を選んだだけですわ!」
「苦しい言い訳だな」
「お、お黙りなさい、低能ポニーテール!」
どんどん返答にキレが無くなっていくセシリア。っていうか低脳ポニテってどっちを指してんのよ。けどこれで勝負あった。あたしもちょっと言い返して混乱させてしまったが、なるほど織斑 一夏もそれなりに言葉は立つようだ。ま、個人情報として収集しておこう。
とにかく、言葉に詰まったセシリアに一夏が背を向けあたし達を促す。その背中にはこれ以上の会話は無駄だと書いてあるようだった。
「行こうぜ、箒、秋穂。こんなのにいつまでも付き合ってらんねぇ」
「あぁ…」
「うん」
「お待ちなさい! 言い逃げは許しません事よ!?」
「言い逃げって……大体騒ぐなら教室から出てけって初めに言ったのお前じゃないか」
「屁理屈ばかりッ!!」
「とにかくもうこれ以上、お前と押し問答する気はねぇよ。騒いで悪かったな」
一夏が、肩手を上げつつセシリアに詫びを入れる。そして返事も聞かずに教室を出ようとしたまさにその時だった。彼女はバッと駆けだすとあたし達の前に躍り出てわなわなと身体を怒りで震わる。そしてあたし達を指さしながら声を張り上げた。
「こんな侮辱と屈辱は初めて受けました! そんな謝罪一つで私と母国に対する無礼を無罪放免するわけにはいきません! こうなったら……決闘ですわ!!」
け、決闘、なんでそうなるのッ!? そもそも無礼っていうかそっちが先に日本を後進国だなんて言うからこうなったんだし…。しかしこうなったセシリアに常識なんて通用しなさそうだ、完全に頭に血が上りきっている。で、またここで一夏(こいつ)がよせばいいのにへんな男気みたいなのを出すから…。
「…決闘だと?」
「そうですわ、どうですの!?」
「………はぁ、良いだろ。それでお前が納得すんなら俺としてもこれ以上言い争わなくて済むからありがたい」
「ッフ、言いましたわね。泣いて謝ってももう遅いですわよ?」
「誰がんなことすっか。男に二言はねぇよ」
「良いでしょう、分かりました。では少し余裕を持って2週間後としましょう! それでよろしくて〝お二人とも〟」
2週間後ってそれでも結構急…って、ん? お二人?
「ちょっと待った! 今あんたお二人って…」
「当然でしょう、私を侮蔑したのはあなたも同じ。当然あなたも対象ですわよ?」
「め、目茶苦茶な理論だ…」
「とにかくそういう事ですので。ではごきげんよう」
きびすを返して歩く姿に、何処となく気品を感じてしまう事に腹が立つ。……成り行きというかなんというか。とにもかくにも、あたしのIS学園での〝初戦闘〟は思わぬ形で決まってしまったようだった。
言い返してしまったとはいえなんでこんなことに……予想外の事過ぎて深くため息をつきかけた時一夏が「あっ」と声を上げる。何?今さら自分が仕出かしたことに気が付いた?
「そういえば、結局代表候補生って何か聞いてねぇや」
もうマジでこいつ、ここでひねりつぶそうかな…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『……ってわけで』
「そうか、まぁ……色々大変そうだな」
広大な海の中を悠然と進む漆黒の船体。潜舵翼は艦橋側面に持つセイル・プレーン方式、そして船尾は水中での機動力向上のためにX型の操舵翼を持ち特徴的な艦橋の前に大きくせり出した格納ブロックがISを運用するための潜水艦である事を物語る。この
その一室で、織斑 マドカは東雲 秋穂からの通信を受けていた。
『……ってわけで…』
「そうか……色々と大変なんだな」
『うん』
映像端末のむこうでの秋穂は浮かない表情をしていた。仕方がない事だろう、いきなり変なのに絡まれてなそんな顔になっても不思議ではない。とりあえず私はその事から話を逸らすべくターゲットである織斑 一夏について訊ねてみた。
「それはともかく、どうだ織斑 一夏の動きは?」
『あ、それは大丈夫、うまく近づけてるよ。とりあえず警戒心みたいなのは無さそうだね』
「ねえさ…いや、織斑 千冬はどうだ?」
『向こうもまだ大丈夫。あたしの顔はやっぱりよく覚えてないみたいだね』
「そりゃそうだろうな、それほど幼いころに血縁関係にあっても〝交流〟は少なかったからな」
『……そうだね』
ふむ、とりあえず順調そうだな。何より織斑 千冬の目をパス出来たのは大きいと言える。私が、秋穂の編入案で最初の難関になると考えていたのが織斑 千冬だったからだ。彼女はこちらが気が付かない様なボロを瞬時に見抜いてくる。秋穂は変な失敗をしでかす様な奴ではないが所々まだ甘い部分がある。まだ初日を終えたぐらいだから油断はできんが、とりあえずは成功していると見て良いのだろう。ちなみに、私は少し前まで織斑 千冬を〝ねえさん〟と呼んでいた。しかし最近になってそう呼ぶ事を〝秋穂が〟嫌っている事に気が付いた。やはり秋穂にとっては、姉は私だけであり血縁関係以外のところで、織斑 一夏、織斑 千冬の二人と〝繋がっている〟事を認識するのは嫌らしい。だから私は、秋穂と話すときは織斑 千冬と名前で呼ぶようにしていた。
実際血縁関係という言葉だけ出しただけでも秋穂は嫌な顔をする。話題を変えたつもりだったが、あらぬところで妹の機嫌を損ねてしまった様だった。しかし秋穂は私が話題を変えたにもかかわらず、自ら話題を冒頭のいざこざ話へと戻した。
『けどさぁ……』
「どうした?」
『織斑 一夏って変わった奴だよね』
「ん? いきなりどうした」
『だってさ、あいつIS使った事も無いのにさっき言ったみたいに代表候補生と事構えようとするんだよ?』
「無知ほど怖い物はないというぞ?」
『にしたってねぇ』
「それに、話では織斑 千冬はそいつにギリギリまでISの事を何も教えなかったらしいからな」
『だったら、なおさらでしょ? 勝つ見込みなんてほとんどないのに…。専用機持ちだよ相手』
「それを言うなら、お前もだろう? 戦うはめになっているんだから?」
秋穂は自分のISを持ってはいる。編入案が決まった時に渡した、オータムがイギリスからついでに盗ってきたやつだ。スコールの指示だというからオータムの独断よりははるかに安心できる物の、その機体の詳細が何も知らされていない事は気になる。まぁISの基本的な事は私を始めオータムやスコールに指導されてきたから大丈夫だとは思うが。だがそれ以上に気になるのは、今回秋穂がそのISを使えないということだ。変に目を付けられる事を嫌い、私は少なくとも襲撃以外の事がら、つまり学校行事では極力そのISは使うなとこの
しかしそのどちらもが〝秋穂の戦闘スタイルには合いそうで合わない〟のだ。その事は秋穂も重々承知しているらしく、それでもどうするかが決まらず考えあぐねている様子であった。
「お前、試合ではどちらを使うつもりなんだ?」
『うん……そこなんだよね…』
「一応どちらでも、〝近接戦闘〟はできるが」
『射撃の腕はホント、幼稚園児レベルだからねぇ』
「……すまん、少し頭痛がした」
『フォローして……くれなくていいや。惨めになるから』
そう、秋穂が自分で言うとおり射撃の腕だけは誰が教えても上達しなかった。どうしたらたかだか1メートル前後の距離で的を外せるのか聞いてみたいが人間得手不得手という物もある。超が付くほど苦手なのだから仕方がない。その反面〝近接戦闘〟において、特に肉弾戦においてはISに限るがオータムに何度も勝って見せた。(ちなみにその時はISが足りていなかったため、オータムはスコールの機体に自分のパーソナルデータを入れて使っていた)
オータム自身そつなくこなせるオールラウンダーであり何よりデータを書き換えて一時的に他人のISを自分用にフィットさせていたため、動きがどこか整わない所はあったから、比較対象にはなりづらい。それでも距離を離しても迷わず相手の懐に飛び込んでいく勇気と、打たれ強さは私でも感服した物だ。
となれば…
「それは置いておいて、で? どちらを使うつもりだ?」
『〝打鉄〟かな』
「だが、お前ブレード何ぞ使った事はあるのか?」
『無いよ?』
だろうな、私も教えた記憶がない。
「じゃあ、どうする?」
『まぁ……色々とね考えてるよあたしも』
「それはどういう…?」
『とにかくさ……頑張ってみるよ。そもそもあたしの案だしね』
秋穂はエヘヘと笑うと意味ありげに言う。どこか含みのある言い方で私は疑問に思ったが、そもそも〝案〟を呑み許した時点で、秋穂に学園での事は任せると宣言した様な物なのだ。今回の様に定例報告でアドバイスや予想外の事や想定外の事でフォローをする事はあるがその他の事にはあまりこちら側から首を突っ込まない方がいいのかもしれない。秋穂に考えがあるというのだから、大丈夫だ。私は自分にそう言い聞かせると、短く分かったとだけ答える。
そして秋穂もその返答で私の考えを理解したようだった。『うん、ありがと』と最後に言い残し通信が切れる。静けさの戻った室内に私の息つく音だけが響いた。そして少し間をおいた後、部屋に近づいてくる足音が聞こえた。その足音は部屋の前でとまると、鋼鉄の扉をノックする音へ代わり、最後にけだるそうな声が聞こえてきた。
「おい、あたしだけど。入っていいのか?」
「あぁ……オータム以外なら構わん」
「……てめぇ、あたしだって分かって言ってやがんだろ?」
「はぁ……もういい。言ってはみたが面倒になってきた。あいてるぞ」
「あぁ、そうかい」
オータムは、片手に数枚程の書類を持って私の部屋に入ってくると、近場の椅子に断りも無く座る。まったく…。
「コーヒーでも出てこねぇの?」
「セルフサービスだ。机の上にインスタントがあるだろう、湯はあっちだ自分で作れ」
「……あいあい」
オータムはバサッと書類を机の上に放り投げ、インスタントコーヒーのビンを取って立ち上がる。本当に雑な奴だ。そんなんだから、毎回任務で余計な失態をやらかすのだろうな。にしても、何の書類だこれは?
私が書類に手を伸ばした時、湯を注ぎに行ったオータムの声が部屋の端から聞こえた。
「おい、マグカップは何処だ?」
「…お前、それぐらいも探せないのか?」
「お前が律儀に仕舞いこむからだろうが」
「それは逆だ、私が律儀なのではなくてお前がぁ……もういいさっきも言ったが面倒になってきた。右側の戸棚の中だ」
「ん?右側? ……お、あったあった」
戸棚を開け食器を取りだす音が聞こえる。にしてもあいつ、一体何をしに来たのか。コーヒーぐらい自分の部屋で飲めばいいのにな。さて、それはともかく一体何の書類だこれは?
私はパラパラと書類をめくっていく。それは最近のニュース記事をまとめたいわゆるスクラップ記事だった。別にこんな書類の束にする事も無い、新聞で読めば、ネットで検索すれば事足りる様な内容。なんでこんなものをあいつは…。
ややあって、オータムがコーヒーの入ったマグカップを2つ手に持ち、ガムシロップと砂糖を軽く口でくわえて持ってくる。雑だがどうやら思っていた以上に器用ではあるらしい。まぁ、PICが8本も付いているあのトリッキーな〝アラクネ〟を乗りこなす様な奴だ。普通に考えれば不器用なわけがないだろう。
オータムはマグカップを自分と私の前にそれぞれ置き、先ほどまで腰掛けていた椅子に座る。私はオータムが淹れてきたコーヒーを口に含みながら持ってきた書類について訊ねてみた。
「おい、これは一体何だ?」
「書類だろ、見て分からねぇの?」
「それは分かっている、何故こんなものを持って来たんだ?」
「あぁ、見せたい記事があったんだよ」
「記事だと?」
「読んだら分かる、ちょっとおかしいんだよ」
記事なら先ほどあらかた見たが、私の興味を引く記事など無かったはずだ。まぁ飛ばし読み程度だったから細かいところは見ていないが。オータムは書類をコーヒー片手に手に取ると、ページにしわがよる事もいとわず荒っぽい手つきでめくっていく。そしてある所で手を止めるとそのページの一部分をトントンっと指さす。ん? そんな小さな記事なのか? それは見逃すわけだ。
それで肝心の記事の内容だがその記事にはこんな見出しが付いていた。
【IS学園直通モノレール、レールに亀裂】
確か、秋穂が編入した日。モノレールが止まっていたなとふと思い出す。しかしそれが一体何だというのか? このご時世にレールに亀裂が入っていたりかけていたりする事は電車であっても起こりうる事態であるし、何もおかしなところは感じられない。だが、記事を読み進めていくにつれ私の表情は険しくなっていった。
「……これは…」
「な? その亀裂。おかしいだろ?」
小さい記事であったから写真こそ載っていなかったものの記事の文面には、その亀裂を説明する言いまわしとして『大きな刃物で切り付けられた様な痕があった』と表現していた。場所は駅と駅の中間点。下は海で落下すればまず無事ではすむまい。
更にモノレールは懸垂式の物で、モノレールには点検用に命綱を取り付けるところはあるが手すりなどはない。もっといえば、モノレールのレールを切りつけられるほど巨大な刃を持ったまま生身の人間は歩けない。こんな芸当が出来るのは、一つしかない。
「大ごとにしたくなかったのか、或いは本当に分かってねぇだけなのか…けどどちらにしてもこいつは」
「あぁ、何処の馬鹿か知らんがISの仕業だろうな」
「それにISを使ってる以上、いたずらじゃあねぇ」
「だがIS学園付近を妙なISがうろついていたらそれだけでアウトだろう? 学園にはそれなりの戦力もある」
IS学園には世界各国の次世代を担う人材が集まっている。それ相応に金は掛かっているだろうし、中には王族の一人娘などかなりの要人も含まれている。そんな場所の近くを冗談でもISで飛行しようものなら、すぐさま学園だけではなく日本政府がISを派遣してくるだろう。しかし、秋穂が学園に編入する日の前後に大きな戦闘や不審者が捕まったという話はまるで聞かない。
……どういうことだ? これは……。
しばらく頭をひねったが、出る答えはやはり1つ。〝何らかの理由でモノレールのレールを破壊しモノレールを止めた。そしてその犯人はISである〟という事だけ。
つまり、どう考えても謎のISが学園の近くをうろちょろしているという事になる。そうなると、やはり秋穂が心配になってくる。大丈夫と言ったのはあくまでセシリアとの模擬戦の話であってイレギュラーの対策が完璧というわけではない。むしろそんな事、秋穂は考えてもいないはずだ。
その模擬戦……何かあるとは考えたくはないが……無策で相手に動かれるのも……な。
私は、「よしッ」と呟いてスクラップ記事を閉じ、椅子から立ち上がると端末を取りだし予定表を確認する。
「おい、一体どうしたんだよ?」
突然の私の行動にオータムが不思議そうな顔で尋ねる。
「オータム、今度の模擬戦。私達も見に行くぞ?」
「はぁ? あたしもか!?」
「あたしもかでは無い! 妹の一大事なんだぞ!?」
「それすっごく、最近聞いた記憶がある!」
「とにかく行くからな!」
「あぁぁぁッ! くそったれ分かったよ!!」
妹に万が一の事があってはならない。誰になんと言われようとも秋穂の身だけは何物からも守ってみせる。私のそんな姉バカともとられかねない言動に、オータムは半ばやけ気味に叫ぶ。私はそんなオータムを横目に見つつ、秋穂から聞いた模擬戦の日付にそれはもうこれでもかというぐらいにペンタブで印を付けるのだった。
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日が落ち、月夜だけが世界を照らす時刻。
郊外にある朽ち果てたホテルの屋上で3人の少女が向かい合う。
1人は容姿は、漆黒のロングヘアーに吸い込まれそうなほどに黒く鋭い瞳を持つ少女。
1人は長くふわりとした柔らかな深緑の髪と常に寂しそうな藍色の瞳を持つ少女。
1人は燃え盛るように赤いショートヘアに赤い勝気な目を持つ少女。
服装は、1人はピシッとしたカジュアルスーツ。
1人はペールブルーカラーで裾長のワンピース。
1人はラフなパーカーにジーンズ。
静けさのみが支配するその場所で、少女達は静かに語らう。
「我々が受けた……あの〝痛み〟……」
「私達が……流した〝涙〟の分だけ……」
「思い知るが……〝運命〟」
少女達は、スッと手を前にかざす。するとゆっくりと身体が光に包まれ始める。
「今宵も……〝IS達の叫び〟が聞こえる」
「辛く……悲しいと嘆いてる…」
「その運命を断ち切るのも我らの務め…」
そして光が弾けた時、既にそこに少女達の姿はなかった。ただ風の音と、そしてその風に乗って静かに、低く、声が夜空に響くのみ。
「全てのISに――――〝真なる解放を〟――――」
ここでも、静かに歯車が動き出そうとしている。
どうも、のろいうさぎです。
更新速度はこのぐらいなので結構遅めかもしれませんね。
さて第二話。
セシリアのところ本当ならば、休み時間なのですが、前回の話の流れ上、放課後となってしまいました。
ただこの後は、出来る限り原作に準拠していくつもりでいますからあのクラス代表決定戦を使おうかなと思っている次第です。
次回はセシリアとの戦闘までこぎつけられれば良いかなってところですね。
そんな感じです、ではまた次回お会いしましょう♪
失礼します