IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第32話~硝煙と笑うもの~

「おいおい……マジかぁ?」

 

 シックザールは苦笑を浮かべ、目の前の光景に毒吐いた。倒壊したアパートの残骸からは悲鳴すらあがらず、ましてや倒壊に巻き込まれて呻く様な声も聞こえない。

 死んだというよりはそもそも人の気配がない。

 

 加えてこれだけの事が起きても周辺の家からは人っ子一人出てこない。当然消防車やパトカーといった緊急車両のサイレンも聞こえてこない。

 神海の言う通りこのアパートにはそしてこの町には、住民(・・)は誰も住んでいない様だった。

 

 

 そう、住民〝は〟。

 

 

 その代わりに、アパートの周りには次々と黒塗りの車両が集まりつつあった。

 

「まぁ、どう見ても…」

「野次馬じゃないね?」

「呑気に言ってる場合かよ…」

「……あ…」

 

 

 神海の発言に脱力していたシックザールだが、トレーネの発見した物を見て表情が苦笑から引きつったものへと変化した。

 そこには、ウィングボディを開けたトラックの荷台から、今まさに〝黒いIS〟2機が飛び立たんとする姿があった。

 

 

「冗談きついぜ…」

 

 

 正直いくらシックザールといえど、神海と穂高の2人を守りながら政府所属のISを相手にするのは骨が折れる。シックザールの機体〝ゾンネ・フォーゲル〟は1対多を主眼とした機体ではあるが、それは自分が砲撃を撃ちまくれる状況に限った話だ。護衛対象がいるとなれば流れ弾の心配をしなくてはならない。格闘戦も出来なくはないがスピードに劣るシックザールの機体では2機を相手取るのは分が悪い。

 

 かといって、トレーネの機体だと移動速度は早くなり、流れ弾の心配も減るがその分1対多での戦闘には向いていない。2人を抱えて離脱させてもいいが増援の可能性もあり、敵の包囲網が固まりつつある今では有効な手段とも言い難い。

 

 

 ならば取るべき方策は1つ。どちらがこの事態を解決することが出来るのか、その可能性が高いのか。その高い方を選ぶまで。

 

 シックザールは神海を見やり、再度確認する。

 

 

「あのよ、本当にやっちまっていいんだな?」

「うむ、逃がしてくれればなんだってかまないよ?」

「……そうか、分かった。トレーネ、2人を頼む」

「………分かった……」

 

 

 シックザールは視線を戻し、今しがたトラックから飛び立ったISを睨む。

 

 

「さて、やるからにゃ、ド派手に…な!」

 

 

 ニヤリと笑うシックザール。そして怪鳥が放たれた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「まぁ、こんな物だろうな」

 

 

 シュメルツはモノレールの軌道の上でそうつぶやく。その服装は紺色の作業着に安全靴。そして帽子を目深にかぶっており足元には気を失った作業員たちが数名倒れていた。

 

 

「さて…」

 

 その視線が見据える先。そこにあるのはIS学園。

 

 

「どんなものか……見せてもらおう」

 

 

 

 目を細め歩みだす。静かに暴君は首をもたげる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 オータムは着々と、秋穂の元へと近づきつつあった。A・B棟の校舎を抜け体育館を脇を通り、扉を出れば後は中庭を突っ切れば秋穂の居る学生寮だ。

 

 

 だがオータムはここである異変に気が付づく。

 

 

「……生徒がいねぇな…」

 

 

 時間はまだ昼を少し過ぎた程度。しかも天気はすこぶる良く、加えて今日は学校は休みだ。それなのに中庭には人っ子一人いない。

 

 明らかにこれは異質。

 敏感に異変を感じ取ったオータムが周囲を警戒する。

 これまでファントムタスクとして培ってきた〝モノ〟が自分自身に警鐘を鳴らしている。

 

 

 そして、そのオータムの〝モノ〟がこの状況での〝異物〟をとらえ、オータムはその方向へ顔を向けた。

 

 

 

「あらあら、見つかっちゃったわ?」

「……」

「そんなに睨まないで?」

 

 

 オータムにそんな軽口をたたきながら、近づいてきた人物。透き通った水色のショートヘアーを風に遊ばせ、口元を扇子で隠しながらも眼から読み取れる表情は確実に柔和な笑みを浮かべている。制服は来ているがまとう雰囲気は明らかに違う。

 じわりとオータムの額に汗がにじみ、身体全体がピリピリとしびれるこの感覚。

 

 ……これは……

 

 

 最大級の警戒をもって、オータムは目の前の少女と対峙する。しかし少女は圧倒的な雰囲気をまといながらも緊張感の無い口調で語りかけた。

 

 

「もう、睨まないでって言ってるのにぃ…」

「……」

「……にしてもぉ…アレね」

「ん?」

 

 

 少女は扇子を閉じるとそれを顎にやりう~んとしばらく考えこむ。そして何かを思いついたのかおもむろに向き直るとオータムを指さし、そして扇子をバッと広げた。

 

 

「ちょっと、その服装には無理があるッ!!」

「うるせぇなッ!? あたしもちょっとどうかなとか思ってる節があんだよ!! それにてめぇいつの間に扇子に文字書いたんだッ!!」

 

 

 

 扇子にはデカデカと「無謀!」と書かれている。今のオータムにはちょっと精神的にクるものがあった。

 

 

「まぁ、だけど…お姉さんは……そういうの実は嫌いじゃなかったり?」

「なんで、疑問系なんだ、なんで語尾を上げるんだッ!」

「あん、怒らないでって」

「あぁぁもうッイチイチ言動が腹が立つッ! 大体、なんなんだよてめぇはッ!!」

 

 

 

 完全にペースを乱されたオータムの一喝に、からかいおちゃらけていた少女が一転静かになり、再びあの柔和な笑みを浮かべる。

 

 

「あぁ、ごめんなさいね? 自己紹介しないと。私は更識 楯無。一応この学園の会長さん」

「ッ……てめぇが」

「名前ぐらいは知ってたみたいだけど……その実力試してみちゃう?」

「…っけ、試すも何も…はじめっからそのつもりなんだろ?」

「話が分かる人ってやっぱり嫌いじゃないかな…?」

「そりゃ……どうもッ!」

 

 

 オータムは言うが早いか、一気に地を蹴り楯無へとびかかる。楯無もそれは予測しておりバックステップで距離を測り初撃を躱した。

 

 オータムは基本的には戦闘スタイルを選ばないオールマイティさが一番の売り。ベースとなっているのはボクシングであるものの最早それは総合格闘技といっても良いレベルにあった。

 オータムは初撃を躱されたことに動じることなく宙を舞うと身体をそのまま捻らせ回し蹴りを繰り出す。

 

「おっと危ないッ」

 

 楯無はそれを左腕でガードすると着地の瞬間を狙い、オータムの顔面めがけて扇子を突き立てる。

 オータムはそれをヘッドスリップで受け流し体勢を持ちなおす。

 そして4発目の付きに合わせ、左に大きくウェービングをしそのままカウンターモーションへと移行した。

 完璧なタイミング。オータム自身も取ったと確信のある攻撃。

 

 

 しかし楯無はこれにも、驚異的は反射速度で強引に身体をねじり回避する。

 

 

「てめぇは軟体動物かよッ!」

「お風呂上がりのストレッチの効果ね♪」

 

 

 お互いに、諧謔を弄しながらも攻撃を交換し合う。そしてややあって刹那の攻防を互いに防ぎ切り両者の間に一定の間合いが取られた。

 

「なるほど、伊達じゃねぇや」

「そっちも、思ってた以上にはやるみたい」

「……にしても、てめぇどういうつもりだ? 人払いまでして、あたしと戦いたいとかそれだけじゃねぇんだろ?」

「面白いことを聞くのね。不法侵入しておいて」

「まぁ……その点に関しちゃ否定はしねぇよ。けどあたしが何かしたのか?」

「今からするのかも?」

「疑いだけで、攻撃されてもな」

「あら、こういう所(IS学園)だと疑わしきは罰せよぐらいが丁度いいのよ」

 

 

 オータムは楯無と話しながら、この場を切りぬける策を模索していた。お互いに本気ではないものの、手合せして分かった。

 楯無は強引に行って突破できる程甘い相手ではない。引き出しの多さは恐らくオータム以上。明らかな格上だ。

 

(くそったれ、こんなことしてる時間なんてねぇってのに…ッ)

 

 

 オータムは苛立ちを覆い隠すように、ギリッと歯を噛みしめる。こうしている間にも秋穂は…。

 

 

 だが、ただ立ち尽くしているように見える楯無だが、そこには一部の隙も見当たらない。

 

 

 これといった解決策が見いだせぬまま、両者向き合ったまま、ただ無駄な時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 このままではダメだ。とにかく状況を打開して一刻も早く秋穂の元へ行かなければ。

 

 

 

 焦燥。その思いだけがオータムを急かし心の平静を徐々に奪っていく。

 

 

 

 自分を抑え込み冷静な判断を下さなければならないという自制心。プロならもってしかるべき物。

 

 

 

 だがそれは強固に見えて実は意外に脆い。ふとしたきっかけでボロボロと自壊する。そう本当にふとしたことで。

 

 

 

「……フフッ、来ないの?」

「クソッ、ままよッ!!」

 

 

 楯無のその一言。安い挑発。だが焦燥に駆り立てられるオータムを動かすには充分すぎた。一直線に楯無へとびかかるオータム。気付いた時にはもう遅い。

 

 

 この判断は120%ミスだ。動いた方が負け。万全の体勢で待つ相手へ無防備にそして無謀に飛び込んでしまった。笑顔で待つ〝殺意〟を持った相手の懐へ―――

 

 

 

 楯無の一撃がオータムに届こうかという、その瞬間だった。

 

 

 

「ッ!?」

「な、何!?」

 

 

 

 校舎の向こうから轟音と共に真っ黒い煙が上がる。とっさに楯無はオータムの顔を見やる。

 

 

「あなたの仕業なの?」

「馬鹿野郎、あたしだって驚いてんだ」

「ッ」

「どこ見てんだッ!」

「しまッ!!」

 

 

 

 オータムは一瞬爆発に意識の行った楯無に膝蹴りを食らわせると、そのまま楯無を振りほどき走りだす。

 

 

「待ちなさいッ!」

「あたしなんかにかまってる場合かどうか、それぐらいわかんだろ!」

「くッ……あぁ全く!!」

「心配すんな! 危害は加えねぇよッ」

 

 

 オータムの捨て台詞を聞いたか聞かずか、楯無はオータムの追跡を諦めアリーナへ向い踵を返した。

 

 ホッと一息ついたオータムだが、時間は掛けられない。爆発があったということは、ボヤボヤしていたら警備を固められる可能性もあるからだ。

 

 

「どっちみち、急がねぇとッ」

 

 

 呟きながらオータムは、爆発を聞きつけて外へ出てきた生徒たちの中へと消えていった。 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しさかのぼり、オータムが楯無に遭遇する少し前。アリーナにはシュヴァルツェア・レーゲンを見にまとったラウラの姿があった。

 

 

 本来なら自室に戻って、くだらない喧騒から早く抜け出したかったのだが、

一夏との会話の所為でどうにも腹の虫がおさまらず訓練という名の憂さ晴らしをしている所だった。

 

 

 目を閉じ静かに佇むラウラ。すると唐突にブザーがなり、ランダムにターゲットが表示されて行く。

 

 

「フンッ!」

 

 ラウラは右側のターゲットを肩のレールガンで打ち抜き、振り向きざまにプラズマ手刀を展開ターゲットをすれ違いざまに破壊する。そして次に表示された真下のターゲットを踏み抜き、レールガンを再装填して、遠距離のターゲットを狙撃。更に次々に表示されて行くターゲットへ寸分たがわぬ攻撃を仕掛け破壊していく。

 

 そしてラストスパートといわんばかりに複数のターゲットが表示されると、ラウラはをの場所を視線だけで確認すると、腰部のワイヤーブレードのロックを解除し一斉に解き放った。

 

 

 

 アリーナの投影モニターに「FINISH」の文字が表示され、結果が映し出される。結果はポイントに応じてD~Sで評価される。そしてラウラの結果は当然の〝S〟

 

 

 ラウラはその結果に満足した様子もなく、〝S〟の表記を一瞬だけ見てすぐにモニターを閉じた。そしてアリーナのベンチで見学していた女子生徒らに冷めた視線を送る。

 

 

「……何だ?…」

「え!? あ、い、いやぁ……す、凄いなぁって…」

「…………」

「あ、そ、その…」

「………失せろ」

「し、失礼しましたぁ!!」

「ほら、行こ!!」

 

 

 女子生徒らは慌てて、ベンチから立ちあがると、自分の荷物をまとめて足早にアリーナを後にする。それを見てラウラは深いため息を吐いた。

 

「やはり、くだらん」

 

 

 ラウラはそう吐き捨て、彼女らに背を向ける。そして練習を再開しようとしてモニターを開いた時、ふいに後方から声がした。

 

 

「随分と冷たいな」

「……なんだ、貴様は」

 

 

 ラウラは声の主の方へと、身体を向ける。そこには作業服に身を包み帽子を目深にかぶった人物が立ちつくしていた。

 

 

「………」

「聞こえなかったのか? 何だ貴様はと言ったのが」

「………ッフ」

「ッ! 何がおかしいッ!!」

 

 

 ただでさえ、一夏のことで苛立っていたラウラは、生身の人間に向かって容赦なくISで襲い掛かった。仮に死のうが関係ない。

 こいつが吹っかけてきたことなのだ。自業自得。ラウラは正に殺す勢いでその人物の首をめがけクローを繰りだす。

 

 

 だが、その腕がその人物の首元に届くことは無かった。その前に〝何か〟によってその腕はガッチリと捉えられていたのだ。

 

 

 

「こ、これはッ」

「血の気も多い。なるほど不安定か」

「貴様…ッ」

「では、〝こっち(・・・)〟はどうだ?」

 

 

 右手でラウラのISをつかんだまま、その人物は呟くと同時に光に包まれる。そして1秒もたたないうちに黒いISが目の前に出現する。

 

 

「お前も何かしら苛立っているようだが、私も私で雑務に使われてそれなりに溜まっているんだ。少しは楽しませてもらうぞ?」

「くぅッ!!」

 

 

 帽子を自身の指で弾き飛ばし、鋭くそして吸い込まれそうなほどに深い闇を持つ瞳があらわになる。その人物―――シュメルツ―――はラウラをフリーの左腕で殴り飛ばすと、更に追撃をかけ、とびかかった勢いそのままに右を振りぬく。ラウラは腕をクロスしなんとかそれを防ぐと至近距離でレールガンを放った。

 

 

「くらえッ!」

「ぬるい」

 

 

 シュメルツはそれを身体を翻して、躱すと左肩のレールガンを横へ蹴り飛ばし、蹴りと同時に引いていた右腕を再びラウラへ振り下ろす。

 

 

「ぐあッ!」

「この程度か?」

「ッ!? 間に合わないッ!!」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で浮いたラウラめがけて突進すると、シュメルツは、左腕のリボルバーユニットを作動させる。

 

 

〝Das laden vollendung Vulkan anfang〟(装填完了 ヴルカーン 起動)

 

 

 

 

「吹き飛べ」

「舐めるなぁッ!!」

 

 ラウラはワイヤーブレードを全発射させ、シュメルツの脚部に絡ませる。そして一瞬意識を集中しAICを発動。シュメルツの拳を受け止めると一気にワイヤーを引きそのまま地面に叩きつけた。

 

「お返しだ!」

「やってくれるッ」

 

 

 ラウラは、シュメルツが置きあがる前に自分の体勢を立て直すとワイヤーブレードを解き、間髪入れずに攻撃を加える。シュメルツはそれをスラスターを使い転がりながら回避。更に背面のスラスターを全開に噴かし置きあがり、距離を取って構えなおす。

 

 

 ラウラも同様に、ワイヤーブレードを戻し、シュメルツを睨みつけた。

 

 

 

 ラウラは苛立ちながらも、意外にも頭の中は冷静に対策を練っていた。

 

 

(……どうするか…。実力は恐らくむこうの方が上、格闘戦では分が悪い。何か……流れを変えるものが必要だな)

 

 

 ラウラは、視線を動かしてアリーナを見渡す。実力でかなわないのなら、その他で自分の為に有利になるものを探すだけ。

 

 

 戦場には何かしら、優位に立ち回れるものが落ちている。その何かを見つけられるか。そこが重要。

 

 

 

 それこそ自分の専門分野だ。伊達に戦場を駆け回ってきてはいない。

 

 

 

 そしてラウラは――――見つける――――

 

 

 

「……あれは…」

 

 

 ラウラが見つけた物それは、シュメルツの突然の襲撃によって、急いで逃げたと思われる生徒が放置したものだった。

 

 

(問題はどう近づくか…だが……まぁ…ここは…)

 

 

「むッ!?」

 

 ラウラは、姿勢をかがめ、そして〝イグニッション・ブースト〟で一気にシュメルツへ向けて飛ぶ。

 

「退けッ!!」

「ッ!?」

 

 

 

 シュメルツは咄嗟に、ラウラを避ける。そしてラウラはそのまま低空を飛び一直線に見つけた〝物〟へと向かう。

 そして、それを振り向きざまに、掻っ(さら)うとシュメルツに向き直り手に持った物を見せた。

 

 

 

「なんだ?」

「なに、ただの玩具だ…」

「玩具?」

「ただし……少々物騒だがな!」

 

 

 ラウラは再び〝イグニッションブースト〟で加速、シュメルツへと肉薄する。

 シュメルツが躱そうとするがラウラはそれをワイヤーブレードを足に絡め阻止。

 ラウラはそれと同時にワイヤーを巻き取り、完全にシュメルツとの距離をゼロにする。

 

 

「貴様ッ!」

「ようやく気付いたか……だがもう、遅いッ!!」

 

 

 ラウラはそのまま上昇。シュメルツを天井のシールドバリアに叩きつけワイヤーブレードを緩め手に持っていた〝物〟をリリース。

 両者に若干の距離が開くとニヤリと笑う。

 

 

「くぅッ!!」

「では…吹き飛べ(・・・・)

 

 

 

 瞬間、レールガンが放たれ〝物〟を打ち抜く。そしてアリーナに巨大な火球の花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 シックザールは一気に上昇すると、追いすがる2機のISに両腕に携えたレールガンを向ける。

 2機は連携しつつその攻撃を回避、二手に分かれるとブレードを構え左右からシックザールへと襲い掛かる。

 

 

「ッ!」

 

 

 シックザールはその2機のブレードを両腕の堅牢な装甲でそのまま受け止め、弾く。

 そして弾いた方向へとレールガンを撃ちまくる。狙いなどつけてはいない。むしろ当たるとも(・・・・・)思っていない(・・・・・・)

 

 

 

 その予測通り爆炎の中から、2機が姿を現す。

 

 

 

 だが一つだけ、シックザールの予測を超える事態が起きていた。

 

「む、無傷ぅ!?」

 

 

 そう無傷だった。いくら狙いを付けてはいないとはいえ、カスりもしないほど甘い弾幕でもなかった。どこかしらに当たっても良いレベルの弾幕だったのだ。それを無傷で突破してきたのだ。動きが正確や速いといった次元など当に飛び越え、最早これは異常な事態だ。

 

 シックザールは驚きながらも、敵のブレードの攻撃を受け止めると腕の装甲で弾き、2機の腹に蹴りを入れる。体勢が崩れかかったところへわずかな隙も与えずに、即座に照準を合わせ構えたレールガンのトリガーを引く。

 

 だが2機はまるで機械のようにほぼ不可能と思える速度でその射撃に対応、一方は脚部のスラスターを駆使し宙返りをし、一方は右側のスカート部のスラスターを目いっぱい噴かして、身体を横軸で回転させて、それぞれが寸分たがわぬ機動で回避する。

 

 そして2機とも一定の感覚を保ったまま、その場で浮遊しこちらを見やる。

 

 

「……」

「……」

 

 

 互いに一時、向かい合う両者だったが、シックザールはその2機の操縦者を見て、あることに気が付いた。

 

 

(こいつら……笑ってやがんのか…?)

 

 

 そう微妙にではあるが、バイザーに隠されて見えない目元はともかくその口元はどこか微笑んでいるようにも見える。

 

 

(余裕の現れ? いや……それとも違う気がするな…)

 

 

 

 その笑みは、余裕というよりはどこか不気味。少なくとも戦闘中に出るような類の笑みではない。

 

 

(っていうか…待てよ…この感じ…あたしはどっかで…)

 

 

 シックザールは一瞬頭をよぎった疑問を思案しかけたが、敵の接近警告によって我にかえり慌ててスラスターを噴かした。

 2機の完璧な連携で繰り出されたブレードがさっきまで自分が浮かんでいた空間を両方から切り裂く。ホッとしたのもつかの間、静かにだが不気味に敵の凶牙が迫る。 敵の駆る機体は、〝打鉄〟をベースとして重火器を搭載した実戦配備型のモデルだった。近接戦闘がメインなのは変わらないが、先ほどシックザールを薙いだ、小型のブレードとマシンガン、ショットガンなどを装備している。速さは目を見張るほどでもないものの、それでもシックザールの〝ゾンネ・フォーゲル〟に比べれば小型な分動き出しはむこうの方が格段に速い。

 

 

 シックザールは、敵のブレードの一方を躱し、一方を受け止めて弾くと、間を置かずに両手のレールガンで牽制する。2機がその攻撃を避けようと散開したところを狙いシックザールはバックパックのミサイルポッドから無数の小型ミサイルを発射、動きを制限しながら徐々にだが空間を支配していく。

 

 

 

 しかし敵も、その弾幕を強引に突破し1機が被弾覚悟でシックザールへと迫る。しかも何時持ち替えたのか、小型ブレードではなく、〝打鉄〟本来の大型ブレード〝葵〟をその手に携えていた。

 

 

「流石に、あれは受け止めきれねぇかッ」

 

 

 シックザールは肩腕をレールガンから近接用ブレードにスイッチ。体勢十分にそれを真正面から受け止める。互いの刃がせめぎあい火花が散る。だが鍔迫り合いになってしまえば、強いのはシックザールだ。なにせ〝馬力〟が違う。

 

 

 シックザールはそれを軽く弾くと、ようやく弾幕を脱した残りの1機を一瞥しつつほぼ後ろ向きのまま高圧荷電粒子砲〝ロート・ラヴィーネ〟で迎え撃つ。その眩い砲撃を紙一重で躱し敵は更なる接近を試みる。そしてそうこうしているうちに先ほど弾いた片割れが、体勢を立て直し飛び込んでくる。

 

 

「くそ、何が何でも接近戦かよッ!!」

「……」

「……」

 

 実際シックザール相手に接近戦は非常に有効な手段だった。重厚な装甲と強大な火力も、接近してしまえば火力は思った風に使えず重厚な装甲はただの重しに過ぎない。

 

 実に理にかなった攻撃。そうまるで、自分の落とし方を初めから知っているような――――

 

 

 

 

 そして更にシックザールは、2機の猛攻を受けながら言いようの無い感覚に襲われていた。苦戦しているから来るものではなく、ただ何か気を許せば飲み込まれてしまいそうになる恐怖のそれとも異なる、黒い感覚。少なくともシックザールはその感覚をどこかで覚えたはずなのだ。だがそれがどこなのかが分からない。

 

あの女()か…? いや違う、もっと前だ…あぁくそッ……まさか…アレ(・・)なのかッ)

 

 

 

 シックザールがかぶりを振ってその感覚を必死に拭い去ろうとしたとき、不意に通信が入った。

 

 

「トレーネかッ」

『……こいつら……普通じゃない(・・・・・・)のが混じってる…』

「そっちもかよ!」

『…そっちも?…』

「あぁ、こっち〝も〟だよッ!!」

 

 

 トレーネからの通信に驚きはしたものの同時に、「あぁやっぱりか」とも思った。こっちだけにいて向こうにいない保証はどこにもない。むしろこの反射神経はIS戦闘以上に生身の格闘戦にこそ活きる能力である。苦戦の度合いはIS以上のものだろう。トレーネは人並みに戦えはするもののそれでも限度はある。そしてそのトレーネを安全かつ速やかに退避させるためにもこの2機にこれ以上時間を使っている場合ではない。それは分かっているのだが、どうにも〝あの感覚〟がシックザールにまとわりつく。

 

「……くそッ」

『……シックザール…?』

「もうちょっと待ってろ。準備だけはしとけよ」

『う、うん…』

 

 トレーネは戸惑いながらも通信を切る。そして二度三度ゆっくりとかぶりを振ると、深呼吸をし、落ち着いて2機の攻撃を捌く。

 

 この訳のわからない感情も、この敵を落とせば少しはマシになるだろう。

 そう信じて、シックザールは賭けに出る。

 

 

(一か八か、一瞬距離が空いた所で全火力ぶち込んでやるッ)

 

 

 シックザールのIS〝ゾンネ・フォーゲル〟最大にして最強の武器。それは火力。それをぶち込むことが出来れば……形勢は一気に逆転する。いや、逆転どころか敵は消し炭一つのこらないだろう。

 だがこれはあまりにもリスキー。まずこれだけ接近戦を挑まれると、全砲身を悠長に展開している時間がない。

 

 またエネルギーの問題もある。

 いかに潤沢なエネルギー量を誇ろうが、撃ち切ってしまえばそれまでだ。火力を絞ることもできなくはないが、確実性を取るならそんな考えはナンセンスだ。やはり打ち切るしかない。自分が離脱できるギリギリの所まで。外せば、いや外さなくとも万が一生き残られるようなことああればその時点で詰む。

 だがそれでも、一発逆転にはそれしかなかった。

 

 

(狙いはともかく、全展開までにどうしても時間がかかる。ただ蹴り飛ばしたぐれぇじゃ距離は稼げねぇ…となればッ)

 

 

 シックザールは、両腕の武装を一旦しまい両手をフリーにさせると、次にバックパックのミサイルポッドから少量のミサイルを発射させる。2機はそれに反応し一旦ミサイルを回避するためにシックザールへの直線的なアプローチを止め若干だがそこで時間が産まれる。

 

 

 シックザールはその間にもっとも時間のかかるリアスラスターに搭載されている、高電圧衝撃砲〝ドンナーフリューゲル〟の砲身展開に入る。この間極端に機動力は失われるが、稼いだ僅かな時間だ。無駄にはできない。

 

 

 

 ようやくリアスラスターが腋下からせり出してきたあたりで、敵もミサイルを振り切り再び一直線の軌道でシックザールへと迫る。だがシックザールは焦らない。この最も時間のかかる〝ドンナーフューゲル〟を真っ先に展開したのには、時間がかかるという以外にもちゃんとした理由がある。賭けとはいえそこはやはり、成功する可能性の高い方法へベットするのは当たり前だ。

 

 

「そうだ、そのまま来い!」

 

 

 その声に反応するかのように、敵の速度が増す。そしてやがて間合いに入り構えたブレードは躊躇なく振りきられその切っ先は2つとも、シックザールの急所を的確にとらえてくる。

 

 

「そうか、やっぱ、首と腹だよなッ!!」

「「!」」

 

 シックザールはニヤリと笑う。そこはドンピシャ。相手を殺すための絶好の急所。そして何よりこの2機が執拗な接近戦で幾度となく狙っていていた場所。

 

 シックザールは敵が滑り込ませたブレードを強引に鷲掴みにすると、腋下のスラスターを右は前方へそして左側は後方へ、それぞれ全力で噴かした。

 

 

 すると機体は凄まじい勢いで2機をつかんだままそこで独楽のように回り始める。

 そして十分遠心力の付いた所で、一瞬のスラスターの逆噴射で勢いを殺しつつシックザールはその手を素早く離す。

 

「高い高い~……なんつってなッ!!」

「「!?」」

 

 

 2機がその遠心力で左右へと吹っ飛ぶ。しかしそこはISだすぐに体勢を立て直してくる。しかし次にその2機が見た物は、絶望的な火力が自身たちに向けられている光景だった。

 

 

「抗うな、てめぇらの運命は……決まったぜ」

 

 

 瞬間、爆発と衝撃のパーティーが幕を開けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「あら? 落とされちゃった…フフ」

 

 

 

 洋館の自室、それほど大きい部屋ではないがベッドや机などの調度品は一流のものばかりでそろえられ、全体的に派手さの無い落ち着いた部屋。そこでいつも通りの真っ白なカジュアルスーツを着用し不敵な笑みを浮かべるのはこの家の当主、無縫 楓だった。楓は端末から送られてくる情報を見てすぐに〝アレ〟がどうなったのかを察知する。

 

 

 

「せっかく程度が良いものを手に入れられたのに…まぁでもこれも一つの〝実験〟ってことかしらね」

 

 

 楓はフィードバックされた情報をまとめ、あるところへ送信し終えると、端末を机の上においた。そしておもむろに窓を開け空を見やる。

 今日は本当に心地の良い日だ。暖かく気持ちの良い風が楓の頬を撫でていく。その穏やかさはまるで今の楓の心を現しているかのようだった。

 

 そう何も問題はない――――すべて上手くいっている――――だからこその平穏だ。

 

 

 

「フフフッ、さぁて、残りは(・・・)どうなるかしらね」

 

 

 そうつぶやく楓、しかしその表情はすでにどうなるかをすべて〝予期〟しているかのようであった。




皆様覚えてらっしゃるでしょうか、えぇそうですのろいうさぎです。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。

リアルがちょっといろいろありましてまたかなり間が空いてしまいました、申し訳ありません。
まぁこれからはまた少しづつペースを上げていければなぁなんて思ってますのでよろしくお願いいたします。


さて、今回シックザール戦をかなり強引に終わらせました←
オータムと秋穂の回は恐らく、現時点の構想ではこのオリパートの最後の方へ持っていき次回はシュメルツ・ラウラ戦をを中心に書きたいと思います。

それでは、また次回。
よろしくお願いします!
あ、あと誤字脱字などありましたらまたご連絡いただけると幸いです。
一応自分でも文章校正はしているんですが、どうにも見落としが…(汗
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