IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第36話~激闘のAブロック~

 勢いよく各ピットから2機づつ合計4機のISが飛び出す。そしてその4機は1週ぐるりをアリーナの外周を回った後アリーナの中央に集まりそして対峙した。

 

 

 特に一夏の〝白式〟と名目上男子となっているシャルルの〝リヴァイヴ・カスタムⅡ〟が登場したときには一際大きな歓声が観客席から挙がる。それはIS学園で2人の男子生徒である一夏達への純粋な応援とそしてもう1つは各国の要人たちの感嘆の声であった。やはり世界的にも珍しい男性操縦者の存在はIS関係者にとっては興味の尽きない研究のネタの1つなのだろう。

 

 

 だが当の本人はというと、そんな各国の思惑など関係なくただ目の前の〝敵〟を倒すことだけにしか頭になかった。そしてそれは向こうも同じ考えなようで、シャルロットなど見向きもせずやや少し高い高度から腕を組みこちらを見降ろすラウラ・ボーデヴィッヒの目は殺意に近いものを込めながら一夏を睨んでいた。

 

 

「フッ……良かったな。貴様が無様に地にはいつくばる所をこんなにも多くの人間に見てもらえるぞ?」

「馬鹿にすんなよ。俺だって何の策もなくここにいるわけじゃないんだぜ」

「策か……どうせ幼稚園児でも思いつくようなくだらない思いつき程度のものだろう」

「そりゃ、お前が見てから判断すりゃいいだろ。それにどのみち俺はお前を許せねぇんだよ」

「ん?」

「お前が、セシリアや鈴にしたこと。俺は許せねぇって言ってんだよ」

「……あぁ、あの〝雑魚〟の事か。いや、実に惜しいことをした。もう少しで息の根を止められたものを」

「てめぇッ」

 

 一夏の〝雪片〟を握る手に自然と力が入る。一夏はすぐにでも飛びかかりたい気持ちを必死で抑え込みながら開始のブザーを待つ。一夏の頭の中にはすでに実力差がどうとかといった〝小難しい〟類のことは無く、この敵に絶対に勝つという強い信念だけがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その2人のやり取りを少し離れた位置で互いのペアは聞き届けると、ラウラのペアである祭はため息交じりに肩をすくませた。

 

 

「なんや、熱なっとるのぉ」

「……そうですね…」

「まぁあの調子やと、シャルル君。お宅の相手はワシになりそうやの」

「………」

 

 

 会議室で会った時とはまるで違う祭の雰囲気にシャルロットは警戒を強めていた。人懐っこい笑みを浮かべていた目は鋭さを増し、言葉の端々からは不敵さが見え隠れする。

 それにいくら小柄とはいえラウラを片手一本で頭を鷲掴みにして持ちあげるなどどう考えても腕の力は〝怪力〟のレベルだ。

 

(この人……どうやらただの操縦者じゃなさそうだね…)

 

 

 シャルロットは額に流れる嫌な汗を軽く拭う。それとは対照的に祭は平然とした顔でシャルロットを観察していた。

 同様にシャルロットも試合開始前にできる限りの情報を集めるべく、祭を見やりその様子に目を凝らす。

 

 

 

(纏う雰囲気が一般(非専用機持ち)の操縦者じゃない……明らかに場馴れしてる。そして……なにより大きい)

 

 

 相手の雰囲気もさることながら、最も特筆すべきはその身長だ。…まぁその他も色々と大きいが。

 それはともかく、身長の大きさはどんな競技においてもデメリットになることはそれほどない。そしてそれはISの試合でも同様である。

 技術面は後からでも磨けばグッと伸びる可能性はあるが、身長という先天的なものは後から本人が何をしようと、直ぐにグッと伸びるものでは無い。相手の実力は未知数でもこの身長差は後々絶対に効いてくる。つまりこの戦い長引かせると絶対に自分に不利。短期決戦しかない。

 シャルロットが頭の中で戦術を組み立てていく中、再び不敵な声が飛ぶ。

 

 

「そないに、睨まんといてほしいわ。ワシはただ楽しく試合がしたいそれだけやで」

「とはいっても……負けるの嫌いですから」

「まぁそらそうやわな。ワシかて負けるんは嫌いや」

「……」

「良い目しとるの……こら楽しめそうや」

 

 

 

 互いに睨みあったまま、開始10秒前のアナウンスが入りカウントダウンが始まる。

 

 

『Aブロック第一試合。織斑・デュノア組vsボーデヴィッヒ・虎音組 試合開始10秒前! 9.8.7.6.5.…』

 

 

 

 

 

 

 

 

―――4秒前

 

 

 ラウラが組んだ腕を解き、プラズマ手刀を展開

 一夏もそれに合わせ身をかがめると、身体をひねり〝雪片〟を抜刀の構えで据えラウラを睨む。

 

 

―――3秒前

 

 

 一夏とそしてラウラの機体のスラスターから徐々に光が漏れ始める。

 

 

 

―――2秒前

 

 

 ようやく、ストレッチを終えた祭が眼光鋭くシャルロットをとらえた。

 

 

 

―――1秒前

 

 

 それぞれがそれぞれに譲れぬ思いを抱き、今――――

 

 

 

―――試合開始ッ!

 

 

 

 

 この空を駆けるッ!!  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 水深のやや浅いところを、ファントムタスク〝極東支部〟の母艦でありそして〝家〟でもあるミルヒシュトラーゼはゆったりとした速度で航行する。

 

 そのブリッジで艦長のスコールと1週間前ようやく〝謹慎〟(という名の監禁)を解かれたマドカが、モニターに映る映像を眺めていた。そこに映し出されていたのは鷲型小型偵察機の〝キングオブスカイ〟から送られてきたIS学園のトーナメント戦の様子であった。

 

 

「始まった様だな」

「えぇ…」

「秋穂は第2試合か……とっとと落ちて負けてくれんだろうか。早く秋穂を見たい」

「そういうこと言わないの」

 

 

 スコールはやれやれと軽くマドカをこつく。マドカは鼻を鳴らして反省の色は見られないがいつものことなのでスコールはそれ以上突っ込むのを辞めた。

 このまま言い合うとマドカの場合、どんどんエスカレートして最終的には〝何故自分をアリーナに送り込まなかった!〟などとこちらの都合を無視した言動で暴れ出すに決まっているからだ。

 

しかしここで露骨に話題変えもそれはそれでマドカは納得しないだろう。なのでスコールは話題の内容は変えずにその矛先をほんの少しだげ変えて話を振った。

 

「それはそうと、この試合どうなると思う?」

「どうとは?」

「そうね……要するに勝敗予想?」

「興味はないな」

「そんなこと言わずに……ね?」

「まったく……そうだな」

 

 マドカはフムと少し手を顎にやって思案した後スコールに向き直り短く言った。

 

 

「現状のまま試合が運べば、ラウラ・ボーデヴィッヒ組の勝ちだろう」

「なるほど。その理由は?」

「つい最近の報告で秋穂達が織斑 一夏に稽古を付けているといっていたのを覚えているか?」

 

 スコールは頭の中でつい先日あった秋穂からの定期通信の内容を思い出す。確か織斑 一夏に体重移動の基礎を教えていると言っていた。その他にも篠ノ之 箒からは更なる剣術指導とシャルロット・デュノアからは、細かな戦術面を教えてもらっていたらしい。

 

「そういえば、そんなこと言っていたわね」

「だが、いくら秋穂やその他の教え方が巧くとも、期間はたった1週間しかなった。あまりに訓練の時間が不足している」

「それで?」

「希望的観測を込めて言うならば、織斑 一夏はそれなり戦闘をするだろう。あの子娘にも多少なりと油断はある。そこを付けばまぁ良い線まではいくと思う。しかしそれはあくまで油断あってのこと。その油断さえ無くなってしまえばその先にあるものは絶望的な実力差だ。つまりある一定の段階よりも先で、有効な手段でも無ければ……間違いなく負ける」

「じゃあ、もう片方の試合は?」

「ん? あぁ……残りの方は――――」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「確実にデュノアには分が悪い相手だな…」

「それ、分かって組み合わせたの織斑先生ですよ…」

 

 

 千冬は、中央管制室で戦局をモニタリングしながら独り言ちる。だが千冬にとっては独り言のつもりだったが、それをすぐ横でオペレーティングしていた真耶にすかさず突っ込まれてしまった。その直後真耶に塩入のコーヒーが提供されたのは言うまでもない。

 ちなみに、千冬達のいる中央管制塔には、彼女たちのほかにも多くの教員が在中し、各試合の様子を見守っていた。そしてその合間に真耶が塩コーヒーを涙目で啜る様子を苦笑交じりに横目で眺めていた。時折感じるその〝あぁ…いつものやつだ〟的な視線に真耶が顔を赤らめる。

 

 

「うぅぅ……苦じょっぱいです………そしてなんか恥ずかしい…」

「それは良かったな。忍耐力が付くぞ山田君」

「そんな忍耐力いりませんよぅ…………そ、それよりッ!」

「なんだ?」

「デュノアさんが虎音さんと相性が悪いってどういうことですか?」

「あぁ……何、単純なことだ」

「単純?」

「あの2人の相性を最悪にしているもの…それは身長差だ」

「身長差…ですか?」

 

 千冬は、真耶のコンソールを借り2人のパーソナルデータをモニターに表示させる。

 

「デュノアの身長は154cm。それに対して祭は188cmもある」

「その差34cm…その差が勝敗を分けると?」

「あぁ、もちろん虎音の〝戦い方〟も関係してくることだが、それでも……いやそれだからこそなおさらに相性が悪い」

「……」

「デュノアが、いつも通りの戦術で行こうと思っているのならば……勝つ望みは限りなく薄い」

「そこまでですか?」

「初めは恐らくデュノアの優勢になるだろうが………」

「だろうが……?」

「その後は……」

「?」

「その……なんだ……」

 

 

 千冬は、一瞬視線を泳がせる。真耶にはそれが言うべきか言わざるべきかをひたすらに葛藤しているように見えた。そして千冬が出した結論は…。

 

 

「うん……見ていればわかる」

「はぁ」

 

 

 

 言わないという選択肢だった。

 

 

 

 千冬は怪訝な表情を浮かべる真耶を尻目に気を取り直して、モニターを切り替え、Aブロックの試合を見やった。試合開始から激しくぶつかり合う一夏とラウラに対して、シャルロットと祭はかなり静かな立ち上がりとなっている。

 

 何度かシャルロットが間合いを測りながら飛びこもうとするが、途中でそれを止め様子を伺う。見ている側としてはもどかしさを感じるが、戦っている当人同士は、既に頭の中で高度な駆け引きを行っているのだろうと千冬は予想した。

 

 

 千冬は、更にこの試合の展望を予測しようとして……止めた。なぜなら、自分たちにはこの試合を円滑に進めるという目的以外にももう一つの使命があるからだ。

 

 

 千冬は、大きく息を1つ吐くと、真耶を見やる。そして場を仕切りなおすように言った。

 

 

「だがまぁ、こういう予想を楽しく立てるためにも…見るべきもの(・・・・・・)はしっかりと見ておいてくれ、山田君?」

 

 

 真耶はその言葉の真意をすぐに察すると、塩入コーヒーを脇において力強く頷いた。

 

 

「任せてください!」

「うむ、頼りにしている。あ、後、更識にも連絡を」

「はい!」

「そしてこれが最後だが…」

「はい?」

「そのコーヒーは飲み干すように」

「…………はぃ」

 

 

 

 千冬はいたずらっぽく笑うと、再びモニターを睨みつける。そして誰にも聞こえぬ声で小さく呟いた。

 

 

 

 

――――――流石に、これ以上好き勝手はさせんぞ――――と。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 祭は両腕を大きく開きまるで此方に覆いかぶさらんとせんばかりの構えを取り、試合開始の合図から一歩も動かずシャルロットを睨んでいた。

 

 そして間合いを測りつつ、何度か飛びこむそぶりを見せながら祭の周囲を旋回するシャルロットは内心かなり焦っていた。

 

 

(この人……なんて大きさだ)

 

 

 もちろん構えに隙が無いのもシャルロットが飛びこむことを躊躇していた理由の一つだが、最大の理由は祭の大きさだった。シャルロットと34cmという身長差。更に適度に鍛えられた身体は肉付きもいい。これはいくらISに乗っているからといっても、捨て置ける差ではない。

 

 

(それに……試合前に観察した時には分からなかったけど……ウィングスパン(腕の長さ)もかなりあるッ)

 

 

 

 一般的に腕の長さは、その人物の身長とほぼ同程度といわれている。平均的な身長(175cm)の成人男性場合ウィングスパン(腕の長さ)はその身長分なので大体175cmが腕の長さということになるのだが、祭はまず身長が188cmもあり更に腕の長さもその身長分以上に長い。指高を計算に入れるのなら腕の最高到達点だけでも楽に2m30cmを超えてくる高さだ。それに加えて身体の大きさが加われば、シャルロットにとってはもうちょっとした壁である。

 

 

 そこにいるだけで息苦しさを感じる程の重圧がシャルロットの突撃を鈍らせる。そしてまだもう1つ彼女が気になっていることがあった。それは会議室でラウラを片手で軽々と持ちあげて見せたことだ。そんな腕力に捕まれたら最後だろう。

 

 

(飛び込んだらそれこそ、向こうの思う壺……だけどッ)

 

 

 シャルロットは葛藤する。シャルロットの基本戦術である〝ミラージュ・デ・デザート〟は格闘戦と射撃戦をリズミカルに織り交ぜながら自分のペースを作り相手の体力を削りながら勝ちパターンへと移行していくのがセオリーである。しかし、ここまでの威圧感では飛びこもうにも飛びこめない。しかし飛びこまねば主導権をみすみす何もせずに相手に渡してしまう。それだけは絶対に避けねばならない。そう思ったシャルロットは、一瞬の迷いをついに断ち切る。

 

 

(主導権は絶対に渡しちゃダメだッ)

 

 そしてシャルロットは決断する。

 

 

 シャルロットは決意の表情で、近接ブレードの〝ブレッド・スライサー〟を構え直した。それを見た祭がニヤッと笑う。

 

 

「ようやく、来るんやな?」

「えぇ……このまま漂っていても……」

「……」

「勝てませんからねッ!!」

 

 

 シャルロットは、襲いくる威圧感をはねのけ祭の懐へ突っ込み〝ブレッド・スライサー〟を振るう。祭はそれを後ろへ飛び退き躱すブレードを振り切ったシャルロットの腕をつかみにかかる。しかしシャルロットはそれを返す刀で振り払うと、開いた相手の懐へ連続して蹴りを叩きこんだ。

 

 

「ッ!」

「まだまだぁッ!!」

 

 

 シャルロットは最後の一撃でより強く祭を蹴り飛ばすと、すぐさま左手のショットガン〝レイン・オブ・サタディ〟を放ちつつ、ブレードをPDW〝H&K MP7改〟にスイッチ。貫通能力を高めた銃で、祭のSEを削り取る。祭が銃弾の雨を嫌い後ろへ下がったところで今度は素早く両腕の装備を〝ブレッド・スライサー〟の両手持ちに変更し接近戦を仕掛けた。

 

 

「よし、これなら!」

 

 

 

 シャルロットは自分が何とか試合のペースを握り始めていると感じていた。現に祭は防戦一方であり反撃らしい反撃は無い。シャルロットはブレードをクロスさせ突っ込むと、ブレードの有効範囲に入った瞬間、左右へ切り開く。祭はそれを寸でで、右腕でガードしダメージを減らすも、右腕が上がり再び開いた懐をシャルロットは見逃さない。

 

 

 シャルロットは右腕に左足をひっかけると、左脚部のスラスターを全開で噴かした。当然の如くシャルロットはその場で円を描くように綺麗な宙返りを見せる。そしてその勢いはひっかけた祭の右腕を大きく上方向へ弾く結果となった。

 

 

(完全に右の懐ががら空きッ!!)

 

 

 シャルロットは、上下さかさまのまま身体を反らして祭の状態を確認すると、M134ミニガンをベースとしたとしては最重量級ガトリングガン〝フェール・ソレイユ(鋼鉄の太陽)〟をコール。駆動用のモーターが背部ユニットに現れ手元に長大な砲身(バレル)と給弾ベルトの付いた重厚なメインユニットが姿を現す。そしてシャルロットは重さで狙いが付けづらいことなどお構い無しにトリガーを引く。7.62×51mmの銃弾をまき散らしながら、火を噴く〝フェール・ソレイユ〟は無防備な祭を次々に襲った。

 

 

 

 シャルロットは、宙返りしながらも、ひたすらにトリガーを引き続けそしてその銃撃の雨はシャルロットが完全に反転終わるまで続いた。

 

 気づけば周囲には、〝フェール・ソレイユ〟のまき散らした空薬莢と流れ弾によって巻き上げられた粉塵で相手の姿は見えなくなっていた。

 

 

 シャルロットは、肩で息をしながら〝フェール・ソレイユ〟を解除する。

 

 

「はぁはぁッ、やっぱりこれは重すぎたね…」

 

 実はこのガトリングガン。前回ファントムタスクとの戦闘の時にはまだこの機体にインストールされていなかった。そのためこの試合の為にわざわざシャルロットがデータを本国から仕入れて後付でインストールしたものであった。理由は簡単で携帯用武器としての取り回しは最悪だがそれを補って瞬発火力が余りにも高く、連射性能の高さから一撃でその場の状況をひっくり返すことのできる〝通常武器〟であったためだ。

 

 結果として、状況をひっくり返すような場面ではなかったにしても、相手が何か仕掛けて来る前にかなりのダメージを負わせられたであろうことはシャルロットにとってはかなり大きなことだ。流石に全弾とまではいかないまでも、かなりの弾数が着弾している。

 試合終了とまではいかないまでも、祭はそれなりのダメージは負っているはずだ。いや、そうであってくれなければ困る。

 

 

 

 シャルロットは自機のモニターで周辺をサーチする。自分たちよりも高度の高い位置で激しくぶつかり合う2点は一夏とラウラだろう。そして自分の少し前方に反応する1つの点。

 本来敵を落とせれば、モニターにはLOSTという文字と共にその点が浮かぶ。しかし残念なことにその点の上には何も表示されてはいなかった。つまり……

 

(落としきれてない……でもッ)

 

 

 

 アリーナを駆ける風が徐々にその粉塵を払っていく。そしてシャルロットが目にしたものは信じられない光景だった。

 

 

 

 

「いやぁ、今のちと痛かったわ」

 

 

 

 

 IS自体はかなりボロボロで、操縦者にも一部煤こけたような黒い筋が付着している。脚部もくるぶしの辺りからは若干の火花が見える。そう満身創痍。そうボロボロである――――

 

 

 

 

――――ISだけ(・・)が――――

 

 

 

 

 

 

 そこには、ISはボロボロでありながらも、頬や腕に煤こけた痕を付けながらニヤッと笑い平然と立ち尽くす〝虎音 祭〟の巨体があったのだ。 

 

 そして祭は、窮地であるにも関わらず、自信ありげにシャルロットを見やると手の関節を一度大きくバキバキッと鳴らしはっきりとこういった。

 

 

「ほんなら、そろそろ〝花道〟咲かせよか」

 

 

 

 この時シャルロットは、一夏のサポートに回るにはいましばらくの時間がかかることを直感していた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ほぅ、以前よりはいい動きだ」

「そりゃどうもッ!!」

 

 

 ラウラと一夏は試合開始の合図直後、幾度となくぶつかり合い文字通り火花を散らしていた。いくらラウラの実力が上といってもISの性能では一夏の〝白式〟の方が上だ。

 

 そのためラウラは、思うように間合いを開けられず、一夏に接近戦を挑まれ続けていた。とはいえ、接近戦も分があるのはラウラの方だ。攻めているのは一夏だが、明らかに顔に焦りが見えるのもまた一夏の方だった。

 

 

(クソッ! こんだけ攻めても有効打が一発も入らねぇッ!!)

 

 

 一夏はISに関して言えば、まだまだ未熟ではあるものの、〝剣術〟という観点からみれば、全くの素人ではない。確かに真剣を扱った経験は皆無でも、重さは違えど剣を振るう作法は見に付けている。つまり、一夏の太刀筋は決して生半可なものではないのだ。それでも、ラウラは涼しい顔でそれらを捌いていく。

 

 

「このッ」

「だが……それでも素人に毛が生えたレベルだッ!!」

「!」

 

 ラウラはこれまで捌き、軽く弾いていた一夏の斬撃を、この試合初めて大きく弾く。剣先を上へと弾かれ必然的に〝雪片〟を持つ手は同時に跳ね上げられる。そこに向かってねじ込まれるラウラのプラズマ手刀。体勢はブレードの重みで後ろへ崩れかかっている状態。本来ならば避ける以前に他の行動へ移せるわけがない。

 

 しかし、ラウラのその攻撃は見事に空を切る。目を見開くラウラを一夏が笑って見返した。一夏は後ろに倒れそうになった瞬間、更に重心を斜め左側へと強引に持っていきラウラのプラズマ手刀を回避したのだった。前までの一夏には絶対にできなかった芸当。秋穂の教えの通り、「今自分のどこに重心があるのか」それをしっかりと把握できているがゆえに出来た回避行動。そしてその回避は、待ちに待った有効打への布石となる。

 

 

「ファーストアタックは俺が貰うッ!」

 

 

 一夏はラウラの伸び切った腕を片手でつかむと、グイッと上方向へと持ちあげる。そして勢いを殺しきれずに一夏の上に追いかぶさる体勢となったラウラの腹に向かって〝雪片〟を薙ぐ。

 

 

「ちぃッ!!」

「まだまだぁッ!!」

「ぐうッ!?」

 

 更に一夏は、足を潜り込ませると大きくラウラを蹴りあげる。そして開いた間合いの一瞬を見計らい〝イグニッションブースト〟を掛け懐へと飛びこんだ。

 

 

「調子に……ッ」

「はぁぁぁぁッ!!」

「乗るなぁッ!!」

 

 

 

 〝雪片〟とプラズマ手刀がぶつかり閃光が走る。しかし勢いは〝イグニッションブースト〟で突っ込んだ一夏に分があった。鍔迫り合いながらも徐々にラウラを押し込んでいく。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉりぁあああぁぁぁぁ!!」

「ッ!!」

 

 

 

 ついに一夏が、〝雪片〟を完全に振りぬいた。ラウラはダメージこそなかったものの先ほど以上の衝撃を受け弾き飛ばされる。

 

 間合いが一度開いた所で、互いに追撃を止め僅かな時間睨み合う。その眼には両者共に〝敵〟の姿しかない。

 

 

 

「織斑……一夏ッ!!」

「行くぜ……ラウラ・ボーデヴィッヒッ!!」

「殺すッ!!」

「ぜってー勝つッ!!」

 

 

 

 その瞬間、お互いの間合いは消滅し、再び始まる意地と意地のぶつかり合い。ラウラは突進がてらにワイヤーブレードを射出する。一夏は絡めとられまいとワイヤーブレードを剣先、腕、足動かせるありとあらゆるものを使い、弾き、いなし、蹴り飛ばす。しかしそれでも手数は圧倒的にラウラの方が上であり、ワイヤーブレードの一本が一夏の足に絡まった。

 

 ラウラはそれを見るや、急速にワイヤーブレードを巻き取りながら自身も速度を増す。一夏は一瞬の判断でわざとスラスターを〝全力で上向きに噴射〟させる。

 

 巻き取られる速度とそれに乗算させてスラスターの推力の乗った〝白式〟は一気にトップスピードに乗る。

 

 

「わざわざどうも!」

「そんな思いつきでッ!」

 

 

 一夏はラウラとすれ違いざまに身体をひねり回し蹴りを繰り出す。ラウラはそれを左腕で受け止めると右手のプラズマ手刀を振り下ろす。だがそこに一夏は〝雪片〟をねじ込ませ、それを防ぐ。ラウラはそれを刹那に弾くと一夏に向かって左足を振り下ろすが一夏もすぐさま体勢を戻し同様に蹴りでそれを受け止める。しかしラウラはその蹴りで一夏と張り合うつもりなど端からなかったようで、一夏に蹴りで推し戻されると素直(・・)にその力の流れに従って足を降ろした。一夏はその意図がわからず顔をしかめるがその直後に聞こえた〝音〟に顔をこわばらせる。

 

 

「あぁそう、そういうことかよッ」

「吹き飛べッ!!」

 

 一夏が聞いた音、それはラウラのアンロックユニットに装備されている〝対IS装甲用徹甲弾〟俗に言う〝PanzerGranate(パンツァーグラナーテ)〟徹甲榴弾を発射するレールガンの作動音だった。レールガンは一瞬の地場形勢に時間がかかるが、それを差し引いても恐ろしいほどの弾速があった。それをこの至近距離で放たれれば、1発で試合が決まってしまう。

 

 

 しかし、現在一夏の体勢は、ラウラが素直に足を引いたことで重心がやや前に寄っておりとても、回避できる体勢にはなかった。先ほどラウラの攻撃を避けたのはあくまで、後ろにかかっていた重心の向きを同方向内で変えただけに過ぎず自由自在に重心をコントロールする術をまだ一夏は会得しきれていない。だがそれでも一夏には「今自分のどこに重心があるのか」という体重移動の基礎は備わっている。それさえわかれば、まだやりようはある。

 

 

(前に重心があるってことは、少なくとも前には飛べるッ!)

 

 

 一夏は、そう判断すると、こともあろうにもうあとわずかで発射されるラウラのレールガン目がけて〝突っ込んだ〟

 

 

 これにはラウラも目を丸くする。

 

 

「馬鹿が、死にたいかッ!!」

「その逆だッ!!」

「何!?」

「生きるための特攻だよッ!」

 

 

 一夏は叫ぶや、レールガンの砲身内部深くへ〝雪片〟を突き立てた(・・・・・)

 

 

 

「くッ! このぉぉぉッ 大馬鹿がぁッ!!!」

 

 

 

 

 直後、当然の如く起きる大爆発。それは予想以上に大きく一夏はその爆風によって〝雪片〟もろとも一気に壁際まで吹っ飛ばされてしまう。

 

 

 

 

 一夏は、なんとか壁ぎりぎりで踏みとどまれたが、〝雪片〟は勢いそのままにアリーナの壁面へ突き刺さる。観客も、そして一部の教員も、勝負あったと思うほどの大爆発。だが一夏は、突き刺さった〝雪片〟を壁から引き抜くと各部をチェックし再び得物を構えた。目視では全く確認はできず、レーダーも爆煙によってややノイズがかり正確には表示されていないが、一夏には確信があった。

 

 

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒはこの程度では落とせない。

 

 

 

 

 一夏は気を引き締め直して、爆煙のその先に待つ〝敵〟をしっかりと睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ピットで一夏達の戦闘を見ていたあたし達は、あまりの激しさに思わず言葉を失った。

 

 

 いや、激しくなるであろうことは想像していたが、これほどとは誰も思いもしなかったのだ。当然一夏の善戦はあたし達にかなりのインパクトを与えていたがシャルロットと祭の戦闘はそれをも覆い隠してしまった。

 

 

 シャルロットの派手さもあるが問題は祭の方だ。あたしの前で食いいいるようにモニターを見続けそして絶句していた3人だったが、鈴がなんとか顔をひきつらせて言葉を絞りだす。それに従ってようやくセシリア達も徐々に言葉を発し始めた。

 

 

 

「な……なんで、あいつあんなんで平然と立ってられんのよ…」

「普通でしたら……片膝ついて……いえ下手をすれば倒れていてもおかしくはないはずの攻撃でしたのに」

「倒れるどころか……笑みを浮かべているとは。身体へのダメージはないのか!?」

 

 

 ちなみに、どこかしらで言った気がするけれど。ISに乗っている以上基本的には死ぬことはあり得ない。それはシールドバリアが操縦者を外部からくる攻撃などから守っているためだ。しかし、そのシールドバリアでもすべてを無効化する訳ではない。特に爆発や斬撃の〝衝撃波〟といった類の物は相殺しきれずに操縦者を貫通する。つまり、直接切ったり打ち抜くことはできなくても、相手の身体へ直接的なダメージを叩きこむことは十分に可能なのだ。そしてシャルロットが放ったあのミニガンの攻撃は決してシールドバリアが威力を相殺しきれる代物ではなかった。結果ISは燦燦たる有様だ。しかしそれだけの攻撃を食らっても、どこかを痛みで押さえるわけでも無く、彼女は平然と立っている。

 

 

(これは……)

 

 

 あたしはこの事実に、あの時2人に祭の事を話さなかった事を若干後悔していた。やっぱり試合開始前少しでも言っておけば良かったんだ。もちろんあの2人の頭にもあっただろうけどやっぱり比重はラウラの方が大きかったのは否めない。それはシャルロットの青ざめた顔を見ればよく分かった。

 

 

 

 

「だが、奴のISもシールドエネルギーはもうギリギリのはず シャルルなら巧く…」

「そ、そうよね……本人がピンピンしていようが、これはISの試合なんだからッ」

「もう一撃きついのをお見舞いして差し上げればッ」

 

 

 

 3人が、無理にでも前向きな発言で空気を変えようとする。確かに箒の言う通り、祭のISは限界だろう。だがそれでもあの余裕の笑みが気になる。これだけ追い詰められた状態で逆転の一手があるっていうの?

 

 

 

 

 あたしは3人からやや下がった位置でモニターをじっと睨みつける。勝てる見込み……逆転? ここから? どうやって!?

 

 

 

 あたしは頭をフル回転させる。一夏はラウラと今のところいい勝負にしても、あれはまだ本気ではない。本気になれば今の一夏では恐らく……

 

 

 

 

 

(あぁぁもうッ!! 滅茶苦茶だなぁッ! あの人ッ!!)

 

 

 

 

 

 

 あたしがワシャワシャッと頭を掻いた時再びの〝声〟がする。それも今まで以上に大きな〝声〟が。

 

 

 

 

 

『――――か―――――か?』

「え!? くそッ こんな時にまた幻聴か!」

『支――――か―――――属か?』

「え!?」

 

 

 

 

 それは、あたしの頭を別の意味で思考停止へと追いこむには十分すぎる出来事だった。これまでも声は聞こえていた。だけど一部分でも起きている時に、しかも自分が覚える形で、はっきりと聞こえたことなど無かった。

 

 

 

 

「な、何?」

 

 

 

 途端その声は止む。だが、それと同時に、モニターへ向かって何やら騒ぎ立てている3人の声が唐突に小さくなっていく。目は見えている。意識もはっきりしている。だけど、声だけが、周りの音だけがゆっくりと、だが確実に小さくなって行くのだ。

 

 

 

 

「何、何よ!? 一体、これは!?」

 

 

 

 あたしは叫ぶ。しかしだ。不思議なことに、あたしは叫んだはずだったが、しかしその声は逆に皆にも届いていない風であった。

 依然としてセシリアたちはモニターにくぎ付けであるし、周りの人たちも同様だ。

 

 

 

 

 そうこうしているうちに徐々に視界までもが霞すんでいく。真っ黒な霧が目の前を多い隠すように、徐々に視野が奪われその霧の中へと意識だけが飲み込まれて行くようなそんな感覚である。簡単に言うならば自分だけが、世界から隔絶していくかのような感覚があたしを襲っていた。正直もうパニックだ。何が自分の身に起こっているのかまったくわからぬまま、症状だけが進行していく。

  

 

 

 

 

 

  

 

 耳も目もそして意識すらもはっきりしない。そんな訳のわからない状況の中で、全てが黒い霧に包まれる最後の瞬間。

 

 何も聞こえないはずのあたしの耳が、唯一〝聞き覚えのある声〟で発せられたごく短いフレーズを捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――さぁ、選択の時間だよ?』

 

 

 

 

 

 疑問を持つよりも早く、そしてその言葉の意味を理解できぬまま、あたしは完全に意識を手放してしまった。

 




ラウラ戦いよいよ始まりました!


いやぁ…ようやく書けた!
それに祭の異常な身体の丈夫さね。
クラスに一人はいましたよね、こんな身体が超頑丈な人。
僕は怪我しまくっていましたが…



さて、一夏やシャルロットらが善戦する中最後に起きた秋穂の異変とは?
それと、ここで〝聞き覚えのある声〟っていう単語をちょっと覚えておいていただけるとありがたいと思います!

ではでは、またこのあたりで失礼いたします。

では次話またお会いしましょう! サヨナラ!
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