IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第37話~〝素晴らしき〟力~

「あら? ……ふふ、そう」

 

 

 観客席で、稀に見る激闘に感嘆の息を漏らしていた白いスーツの女性は突如鳴り出した携帯電話を取りだすと、その着信名を見て笑みをこぼした。

 

 

 女性は、立ち上がり観客席を出ると人目のつかない通路でその電話に応対する。

 

 

「……もしもし、私だけれど?」

『始まった様だ』

「えぇと……どなたかしら?」

『いい加減にしろ』

「冗談よ、冗談」

 

 

 女性は、電話越しのムッとした声に苦笑し軽く宥めると、直ぐに電話の内容を察し目を細めた。

 

 

 

「にしても……予定よりもちょっと早いんじゃない?」

『仕方のない事だ、こればかりは……その…』

「まぁそうね、タイミング自体は〝アレ〟次第ですものね」

『…あ、あぁ…そうだな』

「ま、とにかく、動き出したのなら…コチラも準備を始めましょう。そっちも、まぁ適当に…ね」

『あぁ』

「それじゃ」

 

 

 女性は半ば一方的に、通話を切ると口角を釣り上げこれから起こりうるであろう事に胸を躍らせる。

 

 

 今日は一体、どんな血が流れるのか……それが楽しみでならない。若干うつむき前髪で影となったその奥で狂気の瞳が怪しく光る。

 

 

 今、無縫 楓が動き出す。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「いよっしゃあぁぁぁぁぁ!!」

「ぐうぅッ!?」

 

 シャルロットは、祭のパンチをなんとか防ぐも、ガードの上からでさえ大きく吹っ飛ばされる。動き自体早さはないもののその腕力を利用した突進力はたるやシャルロットの経験したことないレベルにあった。あんな巨体とまともにぶつかったらそれこそ軽自動車と大型ダンプクラスの事故。絶対に勝てない。

 

 

「ほら、どないした!? こっちは虫の息やねんで!!」

「それはISがでしょ!?」

「どっちも同じことやろッ これはIS勝負やさかい、ワシのISを行動不能にしたらそれで終いや!」

「簡単に……言うねッ!!」

 

 

 シャルロットは一気に間合いを開けるべく、後ろへ飛ぶ。そして飛びながら五五口径アサルトライフル〝ヴェント〟をコール。即座にトリガーを引こうと指を掛ける。しかしそれよりも早く反応した祭はヴェントを左腕で鷲掴みにするとシャルロットを無理やり引き寄せた。

 

 

「嘘!?」

「悪いの……その程度の間合い……反応さえできれば一歩で潰せるわ!」

「ッ!!」

 

 シャルロットを引き寄せた祭は、その勢いをも利用してシャルロットの顔面に右の裏拳を叩きこむ。

 

「がッ!?」

「ほら、腹ががら空きやでッ!」

 

 

 シャルロットは、裏拳を顔面に食らった事で、後ろ向きに吹き飛ばされていた。当然仰向けで。そしてそれを祭は見逃さない。

 祭はシャルロットの上へとジャンプすると肘を鍵型状に構えそのままシャルロットの上へと倒れこむ。腹に祭の全体重を受けたシャルロットは、一気に腹の中の空気という空気が外へ放り出されて行く感覚を覚える。そして、更に勢いよく叩きつけられすぐに起き上がれないシャルロットに対して祭は素早く立ちあがると、足をつかみ上へと放り投げる。

 

 

「!?」

「だぁぁぁらっしゃあぁぁぁッ!!!」

 

 意識がもうろうとする中、宙を舞いながらシャルロットは不敵に笑う祭を視界に入れながら、受け身も取れず回転しながら落下していく。それを確認し、祭は右腕を引くと回転しながら落ちるシャルロットの背中目がけて、突っ込みラリアットを叩きこんだ。

 

 

「うあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 腹の痛みもそうだが、背骨がへし折れそうなほどにきしみ、その音が自分の中で響く。更に吹っ飛ばされて地面を何度も何度も叩きつけられ、砂を上を転がり最後はアリーナの壁に激突してようやくその勢いが止まった。

 

 

 

「はぁ……はぁッ」

 

 

 壁への直撃で正直意識が吹っ飛びそうなのを、皮肉なことにラリアットの痛みが繋ぎとめる。シャルロットはこちらへゆっくりと歩みを進める祭を虚ろな目で見やり、自身の認識の甘さを再確認した。

 

 

(……ここまでとは予想していなかった……あんなラッシュを次に受けたらISより先に僕が壊れちゃうよ……)

 

 しかしそれを再確認したところで、身体はすぐにはまともに動かない。祭が余裕からくるものなのかゆっくりとこちらへ歩いてきてくれているのがせめてもの救いだ。だがその休憩時間も僅かだ。

 

 実際シャルロットにはこの場をなんとかする方法が全くないわけではなかった。しかしそれはもう切り札中の切り札。いわば奥の手という奴だった。

 

 しかしあれは、威力が高い反面、大きすぎて取り回しは先ほど祭に叩きこんだ〝フェール・ソレイユ〟をも凌ぐ最悪さである。まず単発で撃っても当たらない。

 あれだけ反動の大きく、発射後の硬直も大きな武装は、一撃必倒の場面でこそ大きな力を発揮する。そしてしかもそれを一撃で意識を刈り取れる場所へ放り込む必要があった。祭がピンピンしている以上、外れる公算の方がはるかに大きい。今のシャルロットにはそんな分の悪い賭けに出られるほどの余裕もそして考えもなかった。

 

 (どう考えても……負ける。勝てる要素が見つからない)

 

 シャルロットの気持ちが負けるかもしれないという現実の前にだんだん弱腰になっていく。「ここまでか」という諦めの思いと、「一夏ごめん」という自責の念だけがどんどん大きくなっていく。

 そんな中、遂に祭がシャルロットの前に立つ。地面に仰向けになってしかもすでに心は折れかかっているシャルロットにはそれが、以前にも増して大きくそして高圧的に見えた。シャルロットは、祭がこれまでみたく不遜な態度で軽口を叩くものだと予想していたが、彼女の口から出てきた言葉は意外なものだった。

 

 

「もう終わりか?」

「え?」

「せやから、もう終わりなんかって聞いてんねや」

「……」

 

 

 祭の言葉に思わず押し黙る。実際IS自体のシールドエネルギーはまだ半分以上残っている。しかし、その半分あってもこの状況を打開する決定的な策を思い浮かべることが出来ない。どうしたって、自分が勝つという青写真を描くことが出来ない。答えに窮するシャルロットを見て祭は呆れながら頭を掻いた。

 

 

「こんなもんやろか……代表候補生みたいなもんは」

「?」

「それとも、シャルル君が……その程度ちゅうことか…」

「何が……言いたいんですか…?」

 

 

 シャルロットは、突然の侮辱に語気を強めて聞き返す。それに祭は淡々とした口調で返した。

 

 

「だってそやろが。お前、もうすでに負けること受け入れてもうてるやないか」

「なッ!」

「さっきワシの質問に答えられへんかったんがその証拠ちゃうんか?」

「そ、それは」

「はぁ……嫌やのぉ。確率とか可能性とかで色々考えて出した結論なんやろうけど……そないな操縦者詰まらんてしゃあないわ」

 

 

 これには流石に、シャルロットもカチンときた。確かに諦めかけていたことは事実だし、それに関しては返す言葉もない。だがそれでも自分は必至に対応を考えていたし、なんとかしようとはしていた。それを頭ごなしに負けを受け入れているとかそんなことを言われて、あまつさえ詰まらないとまで言われる筋合いはない。

 

 

 シャルロットは痛みを堪えながら身体を起こすと足取りは覚束ないものの、祭に食って掛かる。

 

 

「いい加減にしてくださいッ! なんで僕がそこまであなたに言われないといけないんですか?」

「事実言われて怒ってんのか?」

「なッ……本気で怒りますよッ!!」

「ほぉ、ほんなら怒ってみぃや……怒って怒って怒りまくって! 自分の思いぶちまけてみぃ!」

「そこまで言うなら言わせてもらいますよ! 僕は……僕はッ」

「おぅなんや……言うてみぃッ!! 吐き出してみぃやッ!!」

 

 

 祭も語気を荒げると、シャルロットはそれに反応するかのように身体をわなわなと震わせながら、自分の内にある鬱憤を発散させるかの如く大きな声で叫ぶ。

 

 

 

 

「僕はまだ…………負けてなんかいないッ!!」

 

 

 

 

 煽った祭本人ですら驚くほどの声量で、シャルロットは断言するとキッと祭を睨みつける。それを見た祭は、一瞬目を見開くも口角を釣り上げた。

 

 

 

 

「なんや、やろう思たら出来るやんけ」

「え?」

「安心したわ。ワシの相手がただの腑抜けや無いっちゅうことが分かって」 

「一体何を…」

「確率や可能性なんてもんは、そら勝敗に直結するかもしらん。けどそれだけが判断基準になってしもとったらそれは間違いや」

「……」

「確率や可能性……出来る出来へん……成功する失敗するそないなもんは、やる前に分かるもんちゃう! 最後の最後まで諦めんやつの前にこそ……勝利っちゅうんは転がってくるんや」

「!!」

 

 

 シャルロットの脳裏に、何度も何度も自分に打たれながらも飛びこんできた1機のオレンジ色のISが浮かぶ。正直自分はあの時何故あのISがああまでして自分に飛び込んできたのか理解ができなかった。それどころか今思えばあの姿を惨めだと、ただの馬鹿の一つ覚えだと蔑んですらいた。

 

 

 だが祭のその言葉を聞いて、シャルロットはハッとした。あのISの操縦者。確かフロウと名乗っていたか。その操縦者にはそもそも勝つつもりしかなく、負けるかもしれないという可能性は初めから勘定に入っていないのだ。ただ純粋に自分の思いを貫く強さ。それははたからみれば馬鹿に見えるかもしれない。

 

 

 でもだからこそ、自分はあの機体に、あの操縦者に負けたのだ。それを理解できていなかったから。いいや、あの時の自分はそれ以前の問題だったのだろう。

 自分を壊すことでしか、自分を守ることが出来なかった。そして今回は可能性や確率といった数値を逃げ道にして、初めから勝てないと思いこんでいたのだ。逃げ方が若干大人しくなっただけで、何も変わっていない自分がそこにいる。

 

 

 医務室で、フロウとそして一夏に話した時、自分で、「もう逃げない」と言ったのに、結局今、この状況ですら自分は逃げようとしてしまっていたのだ。

 

 

 シャルロットは、一度瞳をゆっくりと閉じ、同時にゆっくりと息を吐いた。

 

 そして今度は睨むのではなく、祭の目をまっすぐ、決意の視線で見つめる。

 

 

 

 そうだ、逃げちゃダメなんだ。

 

 

 負けるかもじゃない。

 

 

 可能性が無いじゃない。

 

 

 確率が何%あるかじゃない。

 

 

 もちろんその考えを捨てる気はさらさらない。

 

 

 

 だが少なくとも今はそんな考えは必要ない。

 

 

 

 シャルロットは、微笑むと祭に言う。

 

 

 

「祭さん……ありがとうございました」

 

 

 

 まずは小さな事から始めよう。新しい自分として踏みだすために。

 

 

 

 そしてそれに気づかせてくれた、この口の悪くも優しい同級生のために。

 

 

 

 シャルロットは、軋む体を懸命にこらえながらも、スッと体勢を落として両手にマシンガンをコールする。

 

 

 

「それじゃ……受け取ってれますか? 僕の……本気をッ!!」

 

 

 

 祭はニヤリと笑うと、少し間合いをとってからシャルロットに呼応するかのように構えた。そしてシャルロットに向かって声を張り上げる。

 

 

 

「おっしゃぁぁ、来いやぁッ!!」

「行きますッ!!」

 

 

 両者がほぼ同時に地を蹴って飛ぶ。もはやシャルロットは細かい計算などしてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 ただ相手に勝利するという単純かつ明確な目的に向かって、ひたすらに突き進む。

 

 

 

 それはシャルロット本人の心に、新たなる自分のスタートを予感させるものであった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「中々、実に楽しそうだ」

「ん」

 

 

 楓の屋敷で、試合展開をモニタリングしていた、神海と穂高はそれぞれ声を挙げる。彼女たちは、楓の屋敷の地下にあるピットでシックザールの機体の調整を行っていた。その作業と並行しながら、IS学園からの映像を傍受しそれを観戦していたのだ。それを見ながら神海は心底残念そうな声を挙げる。

 

 

「しかし、これほどの試合だ……是非生で見たかった所だねぇ…」

「……ん」

「それにこれから起こることを考えれば…実にもったいない」

「……」

 

 

 神海はそういいながらも手は止めず〝ゾンネ・フォーゲル〟のチェックボードを確認し、手早く調整箇所を直していく。そしてあらかた調整し終えると今度は振り返り壁にもたれかかりこちらを睨むシックザールを一瞥した。彼女を見やる目がどこか気に障ったのか、シックザールはドスの利いた声で神海を威圧する。

 

 

「なんだよ。何か文句でもあるのか?」

「いや…まぁ、無いことは無いが…」

「はっきり言えよ」

「なに、大したことじゃないよ。もう少し丁寧に機体を扱ってくれたまえということぐらいかな」

「んだと…?」

「私からすれば、よくこんな照準誤差が出ていながら砲撃戦などやっていたなと逆に感心してしまうレベルだったよ」

 

 

 神海の明け透けな物言いにグッと押し黙るシックザール。どうやら、ズレているという自覚はあったらしい。神海は眼鏡を直しつつ大きく息を吐いた。それを聞きシックザールが言葉に詰まりながらも弁明する。

 

 

「べ、別に良いんだよッ 精密射撃なんてあたしにゃ必要ねえからなッ!!」

「まぁ、それはそうだが。だがこの数値を見てしまうとね……あの時流れ弾によくぞ当たらなかったものだと自分自身感心してしまうね」

「ぐぬぬ…」

「まぁ、嫌味を言うのはこのあたりにしてもだ。君はあの2人(・・・・)とは異なるのだから……こういうこともできるようになっておかないと、いざというときに大怪我するかもしれないよ?」

「……ふん余計なお世話だ」

 

 

 シックザールはバツの悪そうな顔で鼻を鳴らしそっぽを向いてしまう。それを見て神海はもう何も言わなかったが、彼女の背負う物を知る身としては若干複雑でもあった。いずれにしても彼女は根本的に他の2人とは、歩む運命が違う。そして何より彼女は運命に抗うことを良しとしない性格であり、それだけは自分自身も徹底していた。

 

「つらい道だな…」

「?」

 

 神海は誰にも聞こえないほどの声でボソッと呟く。一瞬それに穂高が反応したが、神海は笑顔で穂高を見返し小さく頷きやや強引に話題を変えた。

 

 

「いや、なんでもないよ。そんなことより……今はこちらか」

「……」

「概要は聞いているけれど……一体楓嬢はどんなシナリオを描いているのだろうか…」

「……良い予感はしない……」

 

 

 神海は唐突に聞こえた声に振り返ると、地下ピットの入り口に、いつも通りペールブルー色のワンピースに身を包んだトレーネが佇んでいた。

 そのトレーネは、入り口脇で口を尖らせるシックザールを見やると神海に問いかけてきた。

 

 

「……シックザールどうかしたの?」

「……あ、いや……ちょっとあってね。それより居たのかい?」

「今来た」

「そうか……ふむ、で…何か用かな?」

「シュメルツが……始まったって伝えて来いって…」

「そういえば、シュメルツは今回は現地だったね」

「……そう……」

「ふむ…にしても……」

「ん…」

 

 穂高が無言でタブレット端末に時計を表示させ神海がそれを確認すると、やや首をかしげた。

 

 

「少し早いね」

「……そこらへんは……向こう(・・・)のさじ加減だから…」

「まぁ、それはそうか」

 

 

 今回の件に関しては、やや向こう側(・・・・)の動きに不確定なところがあるのは仕方のない事だと神海は納得する。それにこの場面では、むしろそれ(・・)が今のところちゃんと動いている事に安堵すべきだろう。

 

 

 神海はトレーネを振り返ると、フッと笑う。

 

 

「細工は流々仕上げを御覧じろという事か。さて……その先に待つ未来は一体我々に何を見せるのだろうか……ね?」

 

 

 神海は更に口角を釣り上げると含みのある笑みを浮かべ3人を一瞥した。それを苛立ちの目でシックザールが、表情一つ変えず静かにトレーネが、いつも通り眠たげな目で穂高が、それぞれ見返す。

 

 

 三者三様の視線を受けながら、神海はモニターを睨みつける。

 

 既に場面は切り替わっており、モニターの向こうでぶつかり合うは白と黒のIS。

 

 

 その時は、刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ラウラは、懐に飛びこむと右腕のクローで、咄嗟に防御体勢に入った一夏の、両腕をこじ開ける。そこへ続けざまに左腕のパンチをねじ込んだ。至近距離からの攻撃に一夏は〝雪片〟を振るうことが出来ず、まともにパンチを食らいやや後方へと吹き飛ばされる。そこへラウラは休む暇など与えずワイヤーブレードを射出、一夏の反撃の芽を摘んでいく。

 

 

 一見すれば、ラウラは圧倒的優位に立つラウラだったが、内心は穏やかではなかった。

 

 

 

 想定外の苦戦も彼女を苛立たせてはいたが、最も彼女が屈辱を受けたと感じたのは自機〝シュヴァルツェアレーゲン〟の中破そして織斑 千冬への強烈なコンプレックスだった。

 

 

 ラウラは遺伝子強化試験体〝アドヴァンスド〟として生を受けた。彼女が生み出された研究所では他にも様々な〝アドヴァンスド〟の研究がなされていたが、実はラウラ自体はIS搭乗を前提として生み出された個体ではない。あくまで一般的な軍人よりも優れ、任務や作戦を忠実にそして正確に遂行することを目的とした一兵士の延長線上なのである。

 

 

 ラウラがISと出会ったのは、実はここ何年間かの間である。元はISとはほぼ無関係の部隊で任についていたのだが、たまたまIS部隊の欠員が出たため女でありそして〝アドヴァンスド〟という特殊な境遇を持つ彼女が補填要因として配置転換されたのがそもそもの始まりであった。

 

 

 ラウラは、新しく配属されたIS部隊でも、〝アドヴァンスド〟としての能力をいかんなく発揮した。ラウラが元々ISに搭乗することを考えられていなくとも、ISは人が操縦するものであり機体性能以外の多くは操縦者の技量に左右される。つまり素のポテンシャルの高さがラウラのIS部隊での地位を徐々に高めていったのだ。自分が成功すればするほど、自分の周りには様々な人間が集まってきた。それは試験管ベイビーとして産まれたラウラにとって何物にも代えがたい仲間だった。いや……仲間だと思っていた。

 

 しかし転機は突然訪れる。IS適正もAと良かったラウラだが、それでももとよりIS操縦者として生み出されていない手前、更にIS操縦者としての能力や適性を高めようとする軍部の考えは当然のことであった。そこで行われたのがラウラの肉眼にナノマシンを移植しIS戦闘時における高速戦闘時の反射神経の向上、そして脳への伝達信号の速度向上による肉体そのものの強化を目的としたそれは理論上、何の問題もなくラウラの新たなる力として作用するはずだった。戦うために生まれたラウラだったがそれで自分が更に強くなり、また仲間達に褒めてもらえる、喜んでもらえると考えたラウラはその手術を何の疑問もなく受け入れた。

 

 

しかしその先に待っていたのは転落の日々であった。

 

 

 起こりえないと言われていた、〝ヴォーダン・オージェ〟の暴走(・・)。これが元となり失敗を重ね、IS部隊での地位をも失墜。さらにラウラに追い打ちをかけたのは仲間だと想っていた者からの侮蔑や嘲笑……。そうしてラウラの周りからは1人また1人と人が去って行った。

 

 

 闇の中から生まれた小さなヒナは日に当たることの喜びを知り、その歓びを一心に求めるが余り足を滑らせたヒナはまた闇の中へ転げ落ちてしまった。

 

 

 

 転がりだした歯車は、止まるところを知らずどんどん加速し更に深い闇へと転げ落ちていく。だがそんな歯車を止めた人物がいた。

 

 

 

 織斑 千冬である。彼女は別段ラウラを特別扱いしなかったが、彼女の教えを守るだけでラウラは再び輝きを取り戻し始めた。

 しかも以前の自分では想像も付かないほどのレベルにまで達することが出来たのだ。そしてラウラの活躍は再評価されると同時に、第3世代機として工廠(こうしょう)からロールアウトしたばかりの最新鋭機〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の操縦者として抜擢された。再びラウラは日の光を浴びるあの喜びを得たのだ。そしてこの機体はラウラが這い上がってきた自身の象徴とも呼べる存在となった。

 

 更に転落の人生から這い上がったラウラに取って最早周囲の嫉妬や侮蔑、嘲笑は気にならないものになり、そしてラウラにとって、いつしか織斑 千冬は憧れとなっていた。今度こそ見つけた自分が本当に〝仲間〟だと思える人物に出会えたことが心底嬉しかった。

 だから彼女が日本へ帰ると、ドイツ軍を離れることに躊躇いなどなくその後を追うように渡日しIS学園へと編入したのだ。そこにあの時のような素晴らしい恩師がいることを信じて。

 

 

 しかしそこにあったのは、失望だけだった。低レベルな技術、取るに足らない下らない会話、そしてそれを満更でもない顔をしながら教鞭を振るう織斑 千冬。そこにはもうラウラがあこがれた〝教官〟の姿はなく、〝一教師〟として落ちぶれた女しかいなかった。またもラウラは〝仲間〟に裏切られた。そして同時にラウラは理解したのだ。

 

 

 

 自分がここまで来れたのは、織斑 千冬の力ではなく、元々自分が特別だったからだ……と。特別だったからここまで来られたのだ。そうに決まっている。

 

 

 あんな無能いうことなど関係なかった。私の才能の開花があんな無能女に出来るわけがないッ!

 そしてこの機体だってそうだ。自分が特別だからその能力が認められ自身の力で手にしたもの。自分の最後の拠り所。心の支えといってもいい。

 

 

 ただそんな特別な自分でも反省すべきことがある。〝仲間〟だ。あんなゴミどもを仲間だと信じていたことについて自分に心底呆れてしまう。

 奴らなど初めから私を利用するために近づいてきたのだ。外に出てきた自分をうまい事言って持ちあげるだけ持ち上げて利用して、用がなければ去って行く、その程度のものだ。所詮仲間などつるまねばなにも出来ない無能たちが誰かを利用するために作る哀れなコミュニティだ。

 そんな無能でばかばかしいコミュニティをせっかく特別な自分が相手をしてやっていたというのに、それを次々に裏切り陰口を叩き否定する大馬鹿者たち。実にくだらない。

 

 

 

 

 ……くだらない。

 

 

 

 

 

 そう、くだらないッ!!

 

 

 

 あたかも自身の成果だと思いこみ、私を裏切ったばかりか自分を上から目線で否定(・・)するあの(千冬)がッ!

 

 

 そして、許せないッ!!

 

 

 

 自分の象徴をこんな惨めな姿にしたあの(一夏)が!

 

 

 

 そんなもの自分がすべてぶち壊してやるッ!!

 

 

 

 このラウラ・ボーデヴィッヒがッ!!!

 

 

 

 ラウラは、思いのたけ全てを叩きこむかのように一夏へと猛然と突進する。

 

 

 

「貴様には、死すらも生ぬるいッ!!!」

「悪いなッ、まだ俺は死にたくねぇッ!!」

「いいや、殺す、この場で死ねッ!!!」

 

 

 

 ラウラはワイヤーブレードの1本を一夏の足に絡ませると思い切り地面に叩きつける。更に無防備な一夏に向けて、無傷な左側のレールガンを起動させ発射する。なんとか直撃だけは避けた一夏だったが、連続して放たれた2発目をガードしたとはいえモロにくらってしまう。ラウラはそれを確認するとワイヤーブレードを離し仰向けに倒れこんだ一夏の上へと勢いよく落下しそのまま踏みつけた。

 

 

「ぐッ!」

「苦しいか? え? どうなんだッ!!」

 

 

 ラウラは2回3回と、連続して一夏を踏みまくる。一夏はとにかくラウラを退かそうと、〝雪片〟を横凪に振ったがラウラはそれをAICで受け止める。

 

 

「この程度で、私がどうにかなるとでも思ったか?」

「ッ!」

 

 

 ラウラはAICを解除したと同時に、〝雪片〟を持つ腕に向かって回し蹴りを放つ。蹴りは一夏の手に直撃し、〝雪片〟は2人からやや離れた位置に落下した。それをみた一夏がいよいよ焦る。〝白式〟に武装はあれしかなく、徒手空拳では一夏は絶対にラウラには敵わない。

 

 

 ラウラは、勝利を確信しその顔に笑みがこぼれる。

 

 

「フッ、どうやらここまでの様だな」

「…まだッ…」

「まぁ、お前もよくやったとは思うが……これが全てだ」

 

 ラウラはレールガンを再駆動させると、一夏の眼前へと付きつける。そしてほどなくして、砲身に光が集まりだした。

 

 

 

「まだだッ」

「いいや、まだは無い…私の……勝ちだッ!!」

 

 

 

 一夏が言葉を絞りだすがラウラは一笑し、レールガンへと発射の指示を送った。

 直後砲身から超高速で弾丸が打ち出され一夏に迫らんとするまさにその瞬間であった。

 

 

 

「あ、あかんッ!」

「な、何ッ!?」

「え!?」

 

 

 ラウラに大きな何かが、直撃する。その勢いでラウラが体勢を崩し、レールガンの弾丸は一夏の顔面すれすれを通過して轟音と共にアリーナの外壁にめり込んだ。

 

 

 

 ラウラもそして一夏も何が起きたのか一瞬理解ができなかったが、ラウラの上で横たわる人物を見て顔が引きつる。

 

 

「き、貴様ッ!!」

「しゃ、しゃーないやろ! 至近距離でバズーカぶち込まれたんやぞ!! 少しは心配せぇッ」

「馬鹿か、ピンピンしているだろう 良いから退けッ!!」

 

 

 ラウラは乱暴に、祭を腹の上から退けると、一瞬視界に入ったオレンジ色の機体――――シャルロット――――の武装に目を丸くする。しかも既に〝それ〟はこちらめがけて突っ込んできていた。

 

「あれはッ!」

「くそ、ワシをこっちに吹っ飛ばしたんはこんためかッ!!」

 

 

 〝シュヴァルツェア・レーゲン〟のモニターにシャルロットが構える巨大なパイルバンカーの詳細が表示される。

 

 

 

(69口径パイルバンカーグレー・スケール……〝シールドピアーズ〟か!! ちっ、あんな物をッ)

 

 

 確かにこれは祭の言う通り、直撃イコール敗北を意味する。ラウラとてシールドエネルギーは潤沢ではないのだ。更に先ほどの祭の吐き捨てた言葉。〝くそ、ワシをこっちに吹っ飛ばしたんはこんためかッ!!〟これが意味することは1つ。シャルロットはこの決着をあの〝グレー・スケール〟で付けるつもりなのだ。祭の期待はすでに死に体。(かす)っても終わる。こちらも連続したあの攻撃には耐えきれない。

 

 

 

(だがッつ、まだだッ、まだ終われんッ!! こいつを楯にしてでも、私はこいつをッ!!)

 

 

 ラウラがそう判断し、ワイヤーブレードを祭に絡めようとした時、祭は驚きの行動に出た。

 

 

 

「どぉぉぉぉぉうらあああああああああ!!!!!」

 

「え、嘘ッ!!」

 

 

 

 ラウラが祭を、楯とする前に祭はラウラの前に立ち、真正面から〝グレー・スケール〟を受け止めたのだ。これにはシャルロットも驚愕の声を挙げる。いやこの行動に至ってはこの場の全員が一瞬動けなかった。―――――ある1人を除いては―――

 

 

「貴様ッ!? 何故…」

「あほかッ! 戦闘中に、なに余所見しとんねんッ」

「ッ!」

 

 

 

 

 祭の怒声にラウラがその声で我に返り、周囲を見渡すとすでにそこに一夏の姿はなかった(・・・・・・・・・)

 

 

 

「しまッ!」

 

 

 ラウラはハイパーセンサーの警告に従い、背後を振り返る。そこには刀身が眩い光を放つ〝雪片〟を握りしめ突っ込んでくる一夏の姿があった。

 最後の最後まで、勝つために動いた一夏と想定外のことに驚き意識を反らしたラウラのそのわずか数秒の差。それが今、この危機的状況を生む。

 

 

 

「俺は言ったよな! まだだって!!」

「こんな、こんな事がッ!!」

「終わりだぁッ!!」

 

 

 

 一夏がすれ違いざまに〝雪片〟を振りぬいた。バリア無効化という〝白式〟唯一にして最強の攻撃がラウラを貫く。その瞬間〝シュヴァルツェア・レーゲン〟は糸を切られた人形の様にその場にうつ伏せで倒れこんでしまった。

 

 

 そのすぐ後に、祭も限界を迎え、〝グレー・スケール〟によって押し込まれジエンド。

 

 

 ワッと歓声が上がり、アリーナに試合終了と勝利者を告げるアナウンスが流れる。

 

 

 試合は、一夏シャルル組の2-0ストレート勝ちという結果で幕を閉じる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――はずであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死闘を湛える大歓声。だがラウラにはすでにその声など聞こえてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うつ伏せのまま、微動だにせず未だにその現実を受け入れられないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……私は負けたのか?

 

 

 

 

 

 

 ……この私が?

 

 

 

 

 

 ……特別であるはずの私が?

 

 

 

 

 

 ……あり得ない……あり得て良いはずがないッ!

 

 

 

 

 

 ……勝者は私だ……私が勝者だ!

 

 

 

 

 ……負けるのは嫌だ……負ければまた私はッ!!

 

 

 

 

 ラウラの脳裏に、あの地獄のような転落の日々が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 侮蔑、嘲笑、裏切り……ッ!

 

 

 

 

 一時(いっとき)克服したと思ってはいても、植えつけられた〝トラウマ〟はそう簡単に消えはしない。

 

 

 

 

 深い傷となってラウラの心に刻み込まれた〝負の記憶〟がラウラを蝕ばみ恐怖ですべてを塗りつぶす。

 

 

 

 

 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁッ!!!!!

 

 

 

 

 ラウラは必至に否定するも恐怖は消えることなく増え続けやがて彼女のすべてを支配する。

 そしてその瞬間ラウラの肢体をどす黒い闇が絡みついた。

 

 

 

 

 それは経験したことのないほどに黒く深い闇。シュメルツと戦った時にも同じようなことは起きたがそれとは比べ物にならないほどの純粋な闇だった。

 

 

 

 

 そしてその時と同じように、喉は渇き肢体は悲鳴を上げる。だが同時に感じた力の奔流は痛みと同時に、闇に意識を飲まれかけていたラウラにこれ以上ない快感をもたらしていた。

 

 

 

 自分を襲う全ての恐怖から、その力だけが自分を守ってくれる。この力さえあればもうあんな地獄をこの先見なくても済む。恐怖から逃れるために藁にも縋る気持ちのラウラはどんどんラウラはその圧倒的な力に溺れていく。

  

 

 

 (これかッ! この力かッ!! 素晴らしい……この力は……何物も及ばない私だけの〝特別〟な力ッ!!これさえあれば……私はこの恐怖をそしてあの地獄をも消し去れる!!)

 

 

 

 強烈な快楽は、本来沈むべきラウラの意識をその場にとどまらせる。しかし身体はすでに完全に闇に飲み込まれていた。だがラウラはそんなことを気に留める様子もなく狂気へと染まっていく。

 

 

 

 (そうだ、私は勝つ! この力で私は全てを……私を襲う全ての恐怖を消し去ってくれるッ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰に聞こえるでもない、だが確実に〝闇に響いた〟ラウラの心の咆哮。

 

 

 

 

 

 

 狂気の影で、悪夢は笑いながら、全てを飲み込む闇を生む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深き闇に覆われた忌まわしき力〝VTシステム〟を巡る悪夢が、今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。のろうさです。


ようやくラウラがVTシステムを起動するまで書くことが出来ました。
終盤に出てくるラウラの過去回想は小説設定を元に、話を盛りさらに本小説での千冬とラウラの関係を踏まえた上で、内容を変更してます。多分、矛盾はないと思い……たい。
あと、書き上げて思ったのが、祭うるさいw
まぁ彼女は彼女でちゃんとした立場があるんですけど、それはまだ少し先のお話…

さて次回は、ラウラと同じく闇に飲み込まれた秋穂の話を絡めてVTシステムをめぐる悪夢を描いて行きたいと思います。
ただ、あえて言ってしまうとこの小説ではこの先もずっとVTシステムの件は何かしらで小説のストーリーに絡ませていくつもりですので、そちらの方も楽しんでいただければなと思っております。

では、また次回お会いしましょう!

ではこのあたりで失礼いたします!
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