IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
まったく、まさか初日からこうなるなんて思ってなかったけど……それはともかくあたしは人目につかない所で、マド姉に連絡を入れた後、千冬の所へ向かっていた。理由は言わずもがな。寮の部屋割を聞くためである。
にしても、ロビーで見た時に分かってはいた事だけれどなんて広いんだよッ ようやく職員室が見えてきたがここまで来るのに5人の生徒に道を訊ねた。正直普通の学校ならば、1人ぐらい……いや恐らく聞かずともたどり着けるはずだ。
こりゃ本当に不味い…いざって時に道が分かりませんってのは笑い話にもならない。この広大な〝学校の地理〟だけは何としても頭に入れておかなけりゃいけないね。
まぁ、それは良いとして。今は職員室に入らないとね、織斑 千冬に会わないと。あたしは、「失礼します」の声とともにガラッと職員室の扉を開ける。数名の教員があたしの方をチラッと見たがすぐに自分の仕事に戻っていく。あたしはザッと職員室内を見渡しそして
……見つけた。真っ黒いスーツに身を包んだ、1人だけ教員というにはあまりに雰囲気の違う女性。そして……あたし達を………ッ!
「何を睨んでいる?」
「え?」
「ジッと、何を見ているのだ?」
「あ、あはははッ!? な、なんでもありませんよ!? ちょっと目が…アレなんで!」
「……そうか?」
気が付けば、すぐそばに千冬が居た。どうやら、知らず知らずのうちに睨んだあげくその場所を凝視してしまっていたようだ。あたしは慌てて取り繕う。
まだ少し怪訝な表情を浮かべてはいたが、それ以上聞いてこないところを見るととりあえず、ごまかし切れたという事なのだろう。あたしは冷や汗をかきながらもなんとか自分を落ち着かせ、下手な事を又聞かれる前にさっさと自分の話題を切り出すことにした。
「織斑ち……先生」
「ち?」
「いえ、なんでも」
「で、なんだ」
「あたし、まだ寮の部屋割を聞いていないんですけどどうなんでしょうか?」
「あ、そうだったな」
千冬は、思い出したように呟くと少し待っていろと自分のデスクに戻っていく。そしてあまり間を置くことなく名簿らしき物とメモ用紙を片手に持ち戻ってきた。表紙には〝1学年寮部屋割管理簿〟と書かれている。まぁ、ざっくり言えば部屋割表だね。千冬はページをパラパラめくっていき、丁度その管理簿の真ん中のページで手を止めた。そして胸ポケットに刺さっていたペンを取ると、メモ用紙に部屋番号を書き入れる。
「ほら、ここがお前の部屋だ。寮は一度学園の外に出る必要がある。下駄箱のあった正面玄関を出て左側に見える建物の一番奥だ」
「はぁ、分かりました」
「それと、これを事務から預かっている」
千冬はそう言うとあたしに、大きなバッグを手渡した。あぁ、受付で預けたやつだ。ってか部屋まで自分で運ぶんだね…。当たり前か、ホテルじゃないんだし。
「ルームメイトと仲良くやるんだぞ? 面倒事だけは極力起こすな、いいな」
「はい、それはまぁ、大丈夫ですよ」
「ならいい、ではな」
そう言い残し、千冬は自分のデスクへ戻っていく。ちぇ、なんだよ偉そうに~……絶対ほえ面かかせてやるんだからね。あたしは千冬に背を向けながら短く下をベぇ~と出しながら職員室を後にした。
えぇと1021……1021……お、ここかぁ。学生寮っていうからもっと安っぽいのかと思ったが、実際はその真逆だった。ロビーはそこらのホテルよりも綺麗で豪華な造りで中庭には小さいが噴水まである。部屋の扉も触った感じ材質もよさそうだ。あたしはひとまずマナーを守ってドアを二回程ノックしてみる。コンコンッと乾いた音が響くがその音1つとってもこの扉の木の質の高さがうかがえた。
ドアをノックしてからすぐに中から声がする。どうやら彼女があたしのルームメイトらしい。
「はい? どちらさまです?」
「あ、今日から同じ部屋になったんだけれど、ドアのカギ開けてくれるかな?」
「えぇ、少しお待ちください」
ふ~ん、言葉だけ聞くとどうやら丁寧な人っぽいね。良かった変にけんかっ早い人とかがルームメイトじゃなくて。お、開いた開いた。一夏の時もそうだったけれど何事も初めが肝心。ルームメイトだから心象よく接しないとね。あたしは扉が開くと同時に笑顔を浮かべる。相手もあたし同様、声色を弾ませてあたしを出迎えた。
「どうも~よろしくお願いしま―――――――」
「どうぞ、今日からよろしくお願いいたしま――――――――」
「「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!?!?」」
ななななッ!?
「なんであんたが!?」
「どうしてあなたが!?」
どうなんてるんだ!? 扉を開けてあたしを出迎えたのは事もあろうにあのイギリスの金髪ロールじゃないかッ! 何あたし部屋間違えた!?……いやここ1021号室だしッ。これはまさか織斑 千冬の嫌がらせ!?やっぱりあたしバレてたのッ!? 軽くパニックなあたし同様それはセシリアも同じ様だった。セシリアは腕を組みそっぽを向きながら口をとがらせる。
「そ、それはこちらのセリフですわッ! まさかあなたが私のルームメイトだなんて……」
「あたしだってびっくりだよ! くっそぉ、今から部屋割変えてもらえるのかなぁ…」
「部屋を変えるですって!? あなた私とでは不服だと仰るのですかッ」
「じゃあこのままでもいいの!?」
「このままですって!? あなたと私が同じ部屋だなんて考えたくもありませんッ」
「いい加減にしろぉーー!!」
あぁ、全く! こいつの面倒くささはホント国家代表レベルに匹敵するよッ とはいえこんな部屋の入口で言い争っていても何も解決しない。あたしはセシリアを強引に部屋の中へ押し込むとドアを閉め鍵をかけた。そして仏頂面であたしを見やるセシリアはドカッと自分のベッドに腰掛ける。あたしも奥のベッドへ荷物を放り投げると腕を組んでセシリアに向き直る。
「にしても、まさかあんたがあたしのルームメイトとはねぇ」
「私も同じ気持ですわ。まぁ、ルームメイトが欲しいと嘆願書を出しては居たのですがそれがこんな…」
嘆願書出してたんだ…。なるほどそこへ来てあたしが編入してきたもんだから丁度いいタイミングだとこの部屋に割り振られたのかな。ってか絶対そうだろう。本当に余計な事をしてくれて……。あたしの学生ライフの出鼻をくじきまくったあげくこれだもんなぁ。だがそんなこと言ってももう無駄だ。部屋は決まってしまったのだから、さっきつぶやいたみたいな事はあたしの無理な希望でしかない。
「はぁ、まぁ、いいよ。あたしの邪魔さえしなけりゃなんでも」
「そちらこそ、私の高貴なる生活にどうか水を差しませんよう」
「高貴……ね、はいはい」
「ふんッ」
あたし達は、もう顔も見たくないという風で互いのベッドへ分かれるとどちらからともなく勢いよくパーテーションを閉める。パーテーションでしきられた窓際の空間はベット一つ分とその周り少しだけの小さな空間しか残らない。けどま、あのクソムカつく顔を見なくて良いと思うと清々するよ。
あたしは、鼻を鳴らすとシャワーを浴びようとバッグの中から着替えとタオルを取りだす。とにかくこのいら立ちをシャワーで汗と一緒に少しでも流してこよう。
あたしはそう考えながらゆっくりとシャワールームへと脚を進めるのだった。
「そう言えば、このクラスはまだクラス対抗戦の代表者を決めていなかったな」
3限目の授業開始のチャイムの後、教壇に立つちふ……じゃなかった。先生かぁ……けどこう言うとこで言っとかないと職員室の時みたく思わず千冬と口走ってしまいそうだし……面倒だけど織斑先生と呼ぶことにしよう。
で、その織斑先生がボソリとつぶやいた。ちなみに今はIS関係の座学のため山田先生と織斑先生の二人が教壇に立っている。
代表者って響きからして、まぁ学級委員長みたいなものだろうことは容易に想像はついた。どっちにしても引き受けたくない面倒な役回りだよね。
「代表者とは、そのままの意味だ。学級委員だと考えれば分かり安かろう。そして対抗戦とはお前達の実力推移を図るために行われる。つまりクラスの勝敗がそのままお前達の実力のレベルとして他のクラスや学年にも認知されるということだ。ちなみに1年間はそれを変わる事は出来ない。ということはだ。このクラスで最も優秀な生徒が務めるのが望ましいが……現時点で差はそれほどあるわけではない。よって今回は自薦他薦は問わん。誰か率先してやりたいという意欲のある奴は居ないか?」
織斑先生の説明にざわめくものの、誰一人として自ら行こうとはしない。当然だよ、だってそんな物になっちゃったら委員会とかに出なきゃいけなくなって自分の時間を使う事が出来なくなっちゃうからね。そりゃだれもやんないよ。
ざわめきながらも、手の一向に上がらない教室。しかしその代わりに、後方の席から織斑先生に向けて声が上がった。
「先生! 私、織斑君がいいと思います!」
「えッ!? お、俺!?」
「あ、私も賛成です!」
「い、いやあのちょっと!?」
予想外の申告に、思わずガタッと立ち上がる一夏。学園で唯一の男子だ、クラス内からの声はちょっとやそっとでは収まらない。1人が言えばまた別の1人が賛同し、またその輪が広がっていく。自分も女子だから分かる事だが、こういう流れになると女子の団結力は凄まじい。
それに今回ターゲットである一夏には唯一の男子という物珍しさの他にも、多くの女生徒達から少なからず好意を向けられている。そもそもがあまり男子を知らないという事もあるが、自分が好きな人物がクラス代表という肩書を背負っているという事は、彼氏にするうえでそれなりにステータスにもなる。物珍しさと好意この2つが、この状況を加速させているのだろう。
だが、そんな中、毅然とした態度でその状況へ立ち向かう声が1つあった。
「冗談ではありませんわッ! 何を考えていますのッ」
そうそう、一体何を考えてるんだろうね。今回ばかりは彼女にあたしも賛成。最もあたしの方は、別に一夏に実力がなくてクラス代表が務まらないという意味では無い。別に彼に実力があろうとなかろうとそんなものはどうでもいい。あたしが心配しているのは、一夏がクラス代表になって目立ってしまうことによってあたしの目的を達する事が更に困難になってしまう事だ。あたしはセシリアの主張にうんうんと頷きながら、耳を傾ける。
「織斑先生、私は別に弟さんをけなすつもりも馬鹿にするつもりもありませんわ。ですが、男だからという理由でクラス代表に決まっては1年間1組がどのような評価を受けるのか聡明な織斑先生ならばお分かりかと思いますが?」
「その点は、公私混同するつもりはない。確かにオルコットの言う事も一理だ。少なくとも
言いながら織斑先生は、一夏の頭を軽くコツいた。一夏は少し精神的に傷ついたようではあったが仕方がない事実なのだから。
「でしたら、話しが早いですわ。織斑先生ご自身もそう思われていらっしゃるということでしたら、彼がクラス代表に候補として名乗りを上げる事も、他薦で選ばれるという
事もありませんわよね?」
セシリアは鼻を鳴らしながら、答えの分かる質問を織斑先生へ投げかける。そう、当然だ。この件が通ることなんてありえない。だってさっき織斑先生自ら〝織斑一夏にクラス代表を務める実力はない〟と言っていたのだから。っていうかよく考えたらこれ、うまくいけばあたしの無駄な模擬戦が減らせるチャンスじゃん!
しかし、あたしが一瞬見つけた希望も織斑先生の返答によってぬかよろこびに終わってしまう。
「それとこれとは話しが別だぞ、オルコット」
「え?」
「確かにこいつには実力はないのかも知れんが、私ははじめに言っただろう? 自薦他薦は問わない……とな?」
「「なッ!?」」
うわっと、思わず声が出ちゃったッ!? でまぁ、出ちゃったもんを織斑先生が見逃す訳もなくて。
「なんだ、東雲も反対だったのか? フッ…さっそく同じ部屋同士……仲の良い事だな」
「な、仲ってッ!」
「ちっとも良くありませんわッ! こんな屁理屈ばかりこねる方となんてッ」
「そりゃこっちのセリフだよ! あたしに一々突っかかってきてさッ」
「あなたが、無礼ばかり働くからでしょう!?」
この金髪ロール言わせとけばッ!! ガタッと立ち上がっり睨みあうあたし達。だがそんな一触即発といった空気を織斑先生の鋭い叱責が貫いた。
「馬鹿どもがッ オルコット、今はお前の方が無礼だッ それに東雲も仲良くやれと言っただろう全くッ」
「でもッ」
「ですがッ!」
「いいから座れッ!」
ぴしゃりと言われては、流石に言い返せない。ってかこれ以上言い返したら声ではなく何か物理的な物が飛んできそうだ。発言を行っていたセシリアはそのままにあたしはふてくされながら椅子に座る。しかしだ、まだ納得はしていない。いくら他薦でもオッケーと言ったからってそのまま素直に一夏をクラス代表にするわけにはいかない。
繰り返すがこっちにもやらねばならない事があるのだから。とはいえ……今の感情に任せた言い合いはやめとけばよかった。これで下手な事は言えなくちゃったよ……だけどどうしても一夏をクラス代表にするわけには……。大体他薦オッケーとか普通代表決めるのに言うかな、本人の同意なしに。そんなの本人の意思じゃないんだから決まっても……
ん、他薦? 同意なし…………ははは~ん……良い事思いついた。
あたしはにんまりと笑うと、まだ話し合う両者の会話に口を挟んだ。といっても今回はちゃんと挙手を行う。手すら挙げずに声をあげたら織斑先生だけじゃない、セシリアにだって何言われるかわかったもんじゃない。
「織斑先生」
「ん? 東雲、今度はなんだ」
「いや、ちょっと提案が」
「何だ? 言ってみろ」
「あたし、クラス代表に…セシリア・オルコットさんを推薦します」
「な、何ですって!?」
この発言に驚いたのは、セシリア本人だった。織斑先生も驚きこそなかれいぶかしげな表情であたしを見ている。当然だわね。
「東雲さん、一体どういうおつもりです? いきなり私を推薦なさるなんて?」
「だって、セシリアさんは代表候補生で、実力も十分。申し分ないんじゃないかと思ってさ」
「で、ですが、先ほどまであなた」
「別に、確かに言い争っちゃいたけど、実力がないとかそんな事一言も言ってないでしょ? まぁ変わり身が早いって言われちゃうと何とも言えないけどさ、織斑先生に一喝されて少し頭が冷えたっていうのかな」
あたしは最もらしい言葉を選びながら並べていく。実際は悪知恵が働いただけなんだけども、それは言わない、ってか言えない。
「ま、また屁理屈を並べ始めるのですか?」
「屁理屈じゃないよ、事実だしね」
「な、何かその、急にそのような事を言われても信じられませんわ、というか馬鹿にされている気さえしてまいりますッ」
性格もだけど彼女かなりへそ曲がりでもあるようだ。考えてる事は確かにちょっと裏はあるけど、言ってる事は本心なんだけどなぁ…
「いや、馬鹿にしてるとかじゃなくてね?」
「………ッ」
「だからぁ……」
「……はぁ、まぁ良いでしょう。その推薦はありがたく頂いておきましょう。馬鹿にしているしていないともかく私に実力があるというのは事実なのですから」
お、なんだかんだ言いながらも納得はしてくれたみたい。これでよし……。あたしは再びにんまりと笑う。実はこの悪知恵には2つの意味があった。1つは分かりやすいと思うけれど、あたしとセシリアの模擬戦闘を回避するため。あたしがセシリアを推薦しておけば(よいしょともいうが)少なくとも、以前よりは心象は良くなるはずである。
言ってみれば、あの言い争いの時の謝罪みたいな意味合いも含んでいる。
多少強引かもだけどね。確かに代表候補生の実力を見ておくのは決して悪いことではない。むしろいずれ〝戦う〟のだから見ておいて損はないだろう。しかし、出来る事ならば受動的な成り行き任せの戦闘では無くこちらから、つまり能動的な戦闘をしてしっかりとデータを取りたいそのためのある程度の時間稼ぎという狙い。
そしてもう1つは少なくともこれで立候補者が2人出たわけだ。そして、誰がどう見たって実力では一夏はセシリアに遠く及ばない。つまり仮にセシリアと一夏が戦う様な事になっても現状でセシリアが負ける要素は見当たらない。当然クラス代表になるのは勝った方。つまり確実に〝一夏〟はクラス代表にならないということである。
ふふふッ 我ながら良い事を思いついたものだ。あ、でもマド姉には連絡入れなおさないとなぁ。模擬戦は無くなったよってね。
そうやってあたしが、今後の予定を頭の中で立て始めた時、向こうも向こうで何か色々考えていた風だったセシリアが「ただし」とあたしの方へ指を指していた。うぅ……
ま、まだ何かあるのか…?
「条件がありますわ」
「……じょ、条件?」
「えぇ、条件ですわ。私を推薦した事はまぁ良いでしょう。しかし分かっておられると思いますが……例の件お忘れではありませんわよねぇ?」
「……うげッ!?」
模擬戦って……馬鹿な!? あの模擬戦はそもそもあたしと一夏が下手に言い返したせいで決まった様なものだ。そしてあたしはさっきので一応自分なりにセシリアをたてたつもりだった。しかし、あの金髪ロールはそれではどうやら足りなかったらしい。
「うげではありませんわ! まさかあなた私を推薦したぐらいであの無礼が許されるとでも思っておりますの?」
「け、けどさ…」
「ふむ……丁度いいですわね、織斑先生」
「なんだ?」
織斑先生は今日何度目かのうんざりとした顔でセシリアに答えた。ってかま、そんな顔したくもなるよね。にしても何が丁度いいのやら?
「私、セシリア・オルコットは、彼女、東雲 秋穂さんを推薦いたしますわ。クラス代表として」
「はぁッ!?」
ゴッ!!
「いちいち騒ぐな、座ってろ、馬鹿がッ!」
だ、だからってチョークなんて投げないでほしいなぁ…
「オルコット、別に誰を推薦しようが構わんが、一応聞いておこう何故、東雲だ?」
そうそう、なんであたし?
「実は、これより前に、少々もめごとを起こしまして。お恥ずかしい限りですが」
「そう言えば、無礼だの何だの言っていたな」
「はい。それでまぁ彼女は、……まぁそこは織斑さんも同様ですが私にそれはそれは酷い言葉を投げかけてこられましたの」
効果音出も付けるなら「ヨヨヨ…」だろうか。セシリアはわざとらしく目頭を手で隠しながら声を震わせる。大根役者の芝居を見ているような気分だ。
「……織斑?」
「ちがッ!? あいつからだって!」
「……まぁ良いだろう。それで?」
織斑先生が、一夏を一睨み。一夏の席は一番前なので、あの距離から睨まれたらそりゃ姉弟であろうとビビるよね。あの眼光だし。しかし、一夏が言った事は何一つ間違っていない。向こうから突っかかってきたのだ。
「あまりの、酷い言葉に傷つきはしたものの、私、寛大ですのでチャンスを上げようと思いまして」
「チャンス?」
「織斑先生? このクラス代表戦、分かりやすく模擬戦にいたしません事?」
そ、そういうことかッ!! こいつ、自分から言い出した決闘をここで消費するつもりだね しかもクラス代表戦ともなれば更に一夏が出るとあっちゃ学年問わず生徒が集まってくる。そこで大勝して自分の実力を誇示するつもりなのだろう。
そして何より、あたしや一夏もクラス代表には興味がないし、なるつもりも無い。つまりあたし達がセシリアに勝つという事は自分がクラス代表になってしまうことを意味している。なりたくなければ負けるしかない。対するセシリアは、クラス代表に絶対なりたいわけではないにしてもなる事には何の抵抗も無い。
こいつ、さらっと相手に負ける以外の選択肢がない勝負を……。甘かった。本当に悪知恵レベルの浅はかさ…。
一瞬だが、セシリアのしたたかさが垣間見える。なるほど確かに代表候補生になるだけの器だよ。
「模擬戦か……ふむ。……まぁ、確かに良い機会かもしれんな」
「では?」
「良いだろう。どの道この先1週間ほどはアリーナは整備で使えない。その間に基礎知識を叩きこんでおけば戦えるぐらいにはなる。勝負になるかは分からんがな」
「ありがとうございます」
とんとん拍子で話が進んで言って当事者の残り2名は完全に置いてけぼりだ。しかし、一夏もあたしも分かっていた。ここまで進んだ話、しかも筋道の通り重箱の隅を突こうにも突けないほど矛盾も違和感も無い。そんな所に何を言ってももはや無駄だということが。
「では、クラス代表は1週間後、第3アリーナで3名による模擬戦で決定する事にする!」
織斑先生が話をまとめあげると、予想外に経った授業時間を惜しむように、早足で授業が再開した。しかしクラス全体がどこか上の空で誰がクラス代表になるのかそればかりが気になって仕方がないように見えたのは、きっとあたしだけではないはずだ。
そう言えば、どっち道マド姉には連絡入れておかないとなぁ。日にちが1週間ズレたって事。
だってあたしもこんな事考えているぐらい授業に集中できていなかったのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「え、えらいことになった…」
俺は、放課後机に突っ伏し3限目に起きた出来事を思い出しながら途方に暮れていた。確かにセシリアと決闘をする事を約束した。だがそれがまさかクラス代表の座なんてものを駆けて戦うはめになろうとは思ってもみなかったからだ。
しかも、勝てばクラス代表、負ければ候補生に挑んだ身の程知らず。名誉なのは前者でもどっちにしても損な役回りであることに違いはなかった。
俺は隣で頭をポリポリと掻きながら何かを考える秋穂を見やる。
「なぁ秋穂…お前」
「やんないよ」
「……だよなぁ…」
「だって絶対面倒くさそうだもん、クラス代表なんて」
それは俺も思うんだよ。いちいち、委員会の呼び出しやら何やらで動き回らなくちゃならないなんてまっぴらごめんだ。そもそも、今でさえ自分はたった一人の男子で否が応にも注目されて目立ってしまっているのにこの上クラス代表にまで選出されてしまう様な事が起これば、それこそ最悪のシナリオだった。
そんな俺達の間へ、他のクラスの女子だろうか、あまり見なれない顔の女子がクスッと笑いながら会話にへ入ってきた。
「ねぇ、君達今度、セシリアと戦うって本当?」
「え、あ、あぁまぁ」
「成り行きだけどね」
成り行きというか、一方的に押し付けられた様な模擬戦だけどな。
「ふぅ~ん……けど君達勝てるの?」
「勝てるかどうかは分からないけど、クラス代表にはなりたくないね」
「あぁ、俺も」
「……ぷッ、ククククッ……」
その女子は小刻みに身体を震わせる。必死で笑いをこらえているようだった。なんだ? 俺達何か変な事言ったのか? 俺がキョトンとしいた顔でいるとついに耐えきれなくなったらしい、その女子を筆頭にクラス内で笑いが巻き起こる。
「本当に勝てると思ってるの? 相手は代表候補生だよ?」
「確かに、織斑君はISを使えるけど、それとこれとは話しは別だし…」
「やっぱり謝った方がいいんじゃない?」
クラス中から巻き起こる笑いと、ある意味嘲笑を含んだ言葉。ムッとなるがしかし怒ってもどうしようもない。事実なのだろう。
セシリアは強い。代表候補生ってそういうもんだ。強くなきゃ選ばれないだろう。千冬姉が言ってたみたいに、勝負にならないのかもしれないが……けどッ
「勝負ってのはやってみなきゃわかんねぇだろ?」
「だけどさぁ……相手が悪いよ」
「まぁ、どれはあたしも同感だけどね、だからって戦わないってのはもうどうせ無理じゃんか?」
「だから謝ればさ、良いんじゃないかなぁって。少なくとも笑い物にはならずに済むんじゃない? 今みたいに」
その女子はあくまで俺達を嘲笑した声で言う。俺たちじゃ勝負にもならない、言葉の端々から本心が見え隠れしていた。秋穂は女子だからたんに実力不足の事を言っているのかもしれないが俺にはそうは聞こえていなかった。
セシリアもそうだが女尊男非になってからこう言う手の女性は多い。まぁ、これまでが男尊女卑だったのだから同じ事をやられていると思えば仕方がない事なのかもしれないが、やっぱりこう言うのは俺は好かない。現に箒やこの秋穂だって、俺にそんな態度はとらないし、見せもしない。全ての女性がこうではない。だがすべてでは無いだけに〝そういう女性〟にぶち当たるとより女尊男非の色が濃く見えてしまう。
相手は黙りこくった俺が次に何と言い返してくるのか、それをニヤニヤしながら待っている。多分俺が何を言い返そうともこの手の相手は俺を馬鹿にした様な眼で見ながら色々と言い返してくるに違いない。しかしそこへ意外な所から助け舟が出てきた。
「だったら、お前がセシリアと戦ってみたらどうだ?」
「「え?」」
俺は声の主を見て思わず女生徒とお暗示タイミングで声が漏れた。箒?
「そこまで言うからには、お前ならセシリアとさぞ良い勝負が出来るのだろうな」
「誰? あなた。今ね、私、織斑君とお話ししてるんだけど」
「お話し? あれがか? フフッ、お前辞書を貸してやるからコミュニケーションという項目を調べてこい」
「な、何ですってッ」
「お前がやっていたのは会話でもなければコミュニケーションでもないッ ただの嘲笑だッ!」
「―――ッ!!」
突然声のトーンをはね上げた箒に言われた女子だけでなく俺までびっくりした。そんな事はお構いなしに箒は言葉を続ける。
「一夏も秋穂も、別に望んでセシリアと戦うわけではないッ! そうならざるを得なかったからだ。あの二人がセシリアと戦いたくない等と弱音でも吐いたか? 吐いていない。言っていたのはクラス代表が嫌だ程度の事だっただろう? それを貴様は……いや貴様らはッ!」
箒がぐるりと俺達の周りの女子へ睨みを利かせると、笑いをもらした女子全員バツの悪そうな顔でうつむく。
「全く、呆れてものも言えん。人の事を馬鹿にしている時間があったら少しでも自分の行動を見つめ直してみるんだな」
「………この、言わせておけば…ッ」
「なんだ、まだ何か言いたい事でも――――――――」
「―――――あるのか?」
言い返そうとした女子が、箒の黒くそれでいて澄み、そして何より鋭い眼光に射抜かれる。その目だけでもう言葉はいらなかった。女子はきびすを返すと足早に教室を後にする。俺達の周りにいた女子たちも、そそくさと教室を出て行った。俺は箒に手を顔の前に掲げジェスチャーで「助かった」と伝える。すると箒は、俺に背を向けながら視線でついてこいと言う。箒のおかげで助かったわけだし、ここはおとなしく俺達の救世主様についていくことにしよう。
俺と、秋穂は箒に連れられて教室を後にする。
これから何処へ連れて行かれるのか分からなかったが、どっちにしろ俺も後で箒にISの事で色々と聞こうと思っていたところだ、丁度いい。
セシリアがいくら強かろうが関係ねぇ。クラス代表はあまりなりたくなないが、勝負事にはやっぱり勝ちたい。
セシリア戦まで1週間。やれることをやるしかない。
俺は気合を入れなおし、秋穂と共に箒の後を追う。他の奴らがどう思っていようが関係ない。下馬評なんていくらでも覆してやる。俺の持てる力全てで、奇跡を起こしてやるぜッ!
どうも、こんにちは のろいうさぎです。
………セシリア戦までなんて行けなかった。
どうにも長々書いてしまう癖があるのは自覚してるんですけどねぇ。
やっぱり、小説は難しいですね、今更ですが。
さて、一夏や秋穂を馬鹿にした女子を撃退した箒さん。
二人を連れて何処行くの?
次回こそはセシリア戦前まで行きたいですね(作者が願望
では失礼いたします。