IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第39話~目覚め~

 アリーナに突如として現れた黒い〝デファイアント〟。その映像は〝キングオブスカイ〟を通じて〝ミルヒシュトラーゼ〟の面々にも伝わっていた。

 

 

「あれは……秋穂なのか?」

「機体は間違いなく〝デファイアント〟ね…」

「〝デファイアントね〟……じゃないだろう! こんなッ」

「でも、間違いなくあれは〝デファイアント〟よ。見間違う訳もないでしょ?」

「それは……そうだが…」

「でも色が違う………何が起きてるの」

 

 

 スコールでさえ困惑の声を挙げるこの状況。マドカにしてみれば軽いパニックだった。久しぶりに作戦も何も関係の無い純粋な試合観戦が楽しめると思っていた矢先の出来事だったからだ。

 

 スコールの言う通り、あのISは〝デファイアント〟ではあるが色が違う。それだけを考えれば、同型機とも考えられるがその可能性は極めて低かった。なぜならISのコアは数に限りがあり、更に操縦者によって引き出せる機体の性能や能力には個体差がある。量産機なら露知らず〝デファイアント〟はたとえ天地がひっくり返っても専用機の部類。全く同じ専用機を作る必要性は全くといっていいほどない。

 

 

 つまりそれだけを考えてもあれは正真正銘〝デファイアント〟であり操縦者は必然的に秋穂という事になる。

 

 

 だがマドカにはとてもじゃないが、そんな話信じることなどできなかった。理由は2つある1つはこの場面で〝デファイアント〟を使用する必要が全くといっていいほどない事だ。確かに緊急事態ではあるものの、秋穂は〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の暴走が始まった時ピットの中にいたはずであり、専用機を使わなければならない危機的状況に陥っていたはずがないということ。そしてもう1つがスコールの存在だ。秋穂は以前スコールに叱責され大きく落ち込んでいた時期があった。今回スコールからは何の命令も受けていない秋穂だが、〝デファイアント〟を勝手に使用して良いシチュエーションではないことぐらい分かるはずである。つまりまた怒られるような事を秋穂が進んでする道理が無いのだ。

 

 

 マドカは混乱する思考を必死に整理しようとするがそもそも理由が分からないのでは、そんなこともできやしない。だが不意に背後から聞こえた音に事態は更に混沌を深めた。

 その音にいち早く気が付いたのはスコールだった。音に反応し背中越しに〝その状況〟を見た瞬間スコールの身体は固まった。そしてそれに倣うように視線を動かしたマドカも…また。

 

 

 

 

「ごめんね……しばらくの間ウチの言うとおりにしてて」

「鐘……音?」

「貴様…」

「すぐに、目覚める(・・・・)と思うから」

 

 

 

 そこにはこちらに黒光りする銃口を向け、含みのある台詞をつぶやきながら冷たい視線を送る鐘音の姿があった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……」

「……ん? 何? どうかした!?」

「ど、どうかしたじゃないよッ!!」

 

 あたしは〝自分〟に向かいそう突っ込む。大体何がどうなってるのか全く理解ができない。

 

 

 

 声がしたと思って振り返ったら、そこに2Pカラーの自分がいましたなんて意味のわからない現象を理解しろといわれても絶対に無理だ。しかし相手方はそんなことお構いなしに話を進める。

 

 

「そんな声荒げないでってば」

「いや……」

「あたしの服装なんか変?」

「……特には…」

「そっかそっか、良かったよ。あたしはてっきりどこかおかしい所でもあったのかと思って焦っちゃった…」

「焦る……それはこっちの台詞なんだけど……っていうかここは何処? んでもってあなたは誰なの?」

 

 あたしのまくし立てる質問に彼女は一瞬キョトンとするも、直ぐに破顔してこちらに近寄ってくると馴れ馴れしく肩に手を回される。

 

 

「何処? 誰? なぁに言ってるのさ」

「ちょ、ちょっと」

「何処かって言うのはちょっと説明に困るけど……あたしはあなただよ? あたしは〝東雲 秋穂〟」

「ッ!!」

「うわっと」

 

 あたしは、苛立ちを隠そうともせずに少女の腕を振り払う。あたし本人だって? そんなふざけた説明がまかり通る程自分もお人よしではない。あたしは腕をさする少女に向かって声を荒げる。

 

 

「いい加減にしてッ 東雲 秋穂はこのあたしだ! 偽物が騙るんじゃないよ!」

「何も騙ってるわけじゃないんだけど…」

「まだ言うの!」

「う~ん…はぁ…」

「ため息つきたいのはこっちだよ…」

「ま、いいや。もうちょっとおしゃべりしてたいけど、実際のところあんまり時間(・・)もないしね」

「時間?」

「あぁ、こっちのこと。そんじゃまぁちょっと場所を移そうか」

「え?」

 

 

 彼女は言うと右手を掲げ、パチンっと指を鳴らす。すると今まであたし達がいた部屋が闇に包まれて行き、再びパズルのピースをはめ込むように世界が再構築されて行く。

 そして新たに出現した世界もまた、あたしがよく知る情景となっていた。

 

 

 

「ここは……アリーナ?」

 

 

 間違いなくそこはIS学園のアリーナだった。一瞬あたしは現実世界に戻ってきたのかと思ったがすぐにその考えを否定した。理由は3つある。1つ目はその場所に人っ子一人いなかったから、そして2つ目はそもそもピットにいたはずのあたしが、アリーナのグラウンドの中心に立ち尽くしていたから、最後の3つ目は、目の前に相も変わらず〝あたしのそっくりさん〟が含みのある笑いを浮かべてこちらを見つめていたからであった。

 

 にしてもだ。

 

 無人の観客席に加え、管制塔にも誰も居らず、それでいて煌々とアリーナの照明だけが光っている光景は中々異質な感じを受ける。人がいないということがここまで与える印象を変えてしまうのかとむしろこの異常な光景にすら、1週回って感心してしまう自分がいた。

 

 

 

周囲を観察するあたしに向かって彼女はどこか誇らしげに胸を張った。

 

 

 

「どう? よくできてる? あたしの記憶力もまんざらじゃないでしょ!」 

 

 

 興奮気味にまくし立てる彼女に対して、あたしは起きた事象にもう驚くどころか自分そっくりな人物に加え瞬時に作り替えられる世界。そんな出鱈目を一度でも見てしまうと逆にそれがここ(・・)では普通なのだと受け入れてしまっている部分があった。そのため彼女の問いかけにも、あたしは至極冷静な声で返答する。

 

 

 

「……まぁ、どういう原理かは知らないけど、ここじゃ、少なくともあんたの思い通りに世界が作り替えられるってことは分かったよ」

「原理かぁ、口調から察するにここに適応し始めてることに関しては流石あたしだなぁって思うけど、そう言うところはやっぱり理屈っぽいね」

「理屈っぽい?」

 

 あたしはその指摘に、疑問の念を抱く。これまで散々〝自分はあたしだ〟と言ってきた彼女。しかし今、その口を吐いて出てきたのは明確な彼女とあたしの〝相違点〟だった。つまりあたしそのものといっておきながら、彼女には実はあたしと同じではない箇所があるという事になる。それはこれまでの彼女の発言と矛盾するところである。まぁむしろその方があたしにとってはありがたい。当然といえば当然だが、やはり彼女は〝東雲 秋穂〟ではないのだ!

 

 あたしはそう確信し、彼女に向かって追及する。

 

 

「あのさ、あたしの事を理屈っぽいって言うなら、あんたは違うってことだよね?」

「うん?」

「つまりあんたは、散々自分は〝東雲 秋穂〟そのものだって言い続けてきたけどそうじゃないってことを自分で言っちゃったね。さ、そうと分かれば、化けの皮…そろそろ脱いでも良いんじゃない?」

「……化けの皮ってねぇ……」

「言い返せないんじゃん」

「う~ん……そうだなぁ。やっぱりアレか、長々と話し過ぎたのが駄目だったんだな。うんそうだ」

 

 いきなり自己完結で納得し始める彼女に対してあたしは段々腹立たしさを覚えてきた。人をこんな訳のわからない所へ引っ張りこんでおいて、論破されたら今度は自己完結? あたしを馬鹿にしてんのかっての。

 

 

「あの、いい加減にしてくんないかね? あたしさ、こんなことしてる場合じゃ―――――――って!」

 

 

 

 あたしはもう問い質すことすらも煩わしいと思いながら、おもむろに彼女に近づいて行く。そしてまさに彼女の肩をつかもうとしたその時であった。背中にゾワリと冷たい感覚を覚えたあたしの身体が反射的に身をかがめる。そしてそのコンマ数秒後にそこを凄まじい拳圧のパンチががほぼノーモーションで振りぬかれた。

 

 

 あたしは冷や汗交じりに咄嗟に飛び退くと同時に構えを取る。

 

 

 

 油断しきっていたのもあったが、それ以前に何を相手が打ったのか確認すらできなかった。パンチの打ち始めと打ち終わり後の腕の戻しが異常なまでに速い。それ以前に、一体いつどのタイミングで腕を引いたのか全く見当が付かなかった。体重移動の技術を持つあたしですら、引きの動作を介することなくあれだけのパンチを繰り出すことなど不可能に近い。よしんば出来たとしてもあれほどのフォロスルーは遠く及ばないだろう。あたしは軽く息を吐くと彼女を睨みつける。

 

 

「い、いきなりなにすんのさッ」

「いや……やっぱりね、初めっから何も言わずにこうしときゃよかったんだなって思ってさ」

「だから、勝手に自己完結するなって……」

「下手に口で説明しようとしたから、混乱させて話が一向に進まない」

「だから、聞いてる? あたしの話ッ!?」

「やっぱり、一番手っ取り早くそれでいて簡単にこの状況を分かってもらうには――――」

「だから!」

 

 

 

 あたしの言葉など耳を貸さずに、彼女はどんどん一人で話を進めていくそして右腕を口元にそして左腕をだらんと脱力させてやや腰を落としたあたしがこれまで見たこともないような構えをとりながら少しだけ目を細めると静かにそして冷たくこう呟いた。

 

 

 

 

「――――こうすりゃ良かったんだ」

 

 

 

 

 刹那彼女の身体が光に包まれる。そしてその光が晴れた後あたしが目にしたものは、漆黒のデファイアントを駆る彼女の姿だった。

 

 

「……ハ、ハハ……ハハハハ…」

 いくらなんでも、ここまでくるともう笑いしか出てこない。だが向こうの目は笑っていない。彼女は構えをそのままにあたしにもISを展開するように促す。

 

 

「ほら、笑ってないでさ。あんたもIS……展開しなよ」

「……冗談?」

「いや…本気」

 

 

 あたしは〝現実世界で〟待機状態の〝デファイアント〟を見に付けている場所へ手を入れる。ポケットの中を数度まさぐると手に小さいが確かな重みを感じ取れる動物の牙を模したキーホルダーの存在を感じ取る。それを握り自分の胸の前まで持ってくる。

 

 こんな時ですら、このキーホルダーはいつもと変わらない独特の鈍い光を反射させていた。

 

 

 あたしは再び視線を目の前の黒い〝デファイアント〟へと向ける。実際まだここが彼女の思い通りに作り替えられる世界だという事をある程度受け入れているものの、この場所がそもそも何なのかは理解できていない。しかし現状それ以外に判断できる材料がなく、またこの世界の住人であろう彼女が〝こうすれば分かる〟と言い切っている以上、あたしには既に選択の余地などない事に気が付く。実に腹立たしい限りだがここは相手に従うしかない。そしてあたしはその牙をグッと握りしめると、彼女を睨み返し声を張り上げた。

 

 

 

 

「良いよ…そっちがその気なら……受けて立ってあげるよ! ただしその代り―――」

 

 

 

 

 心地の良い暖かな光に包まれながら、あたしはグッと身を屈め臨戦態勢を整える。そして

 

 

 

「――――後悔しない事だねッ!!」

 

 

 

 展開が終了したと同時にアリーナの地を駆けた。

 

 

 だがその瞬間、ほんの一瞬だけ彼女の口元が不気味に笑った。

 

 

 

 そして、あたしはすぐにその笑みの理由を知る事となるのであった。 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 楯無が死闘を演じ、秋穂が世界に取りこまれ自分自身と対峙していたころ、いざ〝シュヴァルツェア・レーゲン〟と対峙しようとしていた虎音はアリーナの壁をぶち破って現れた突然の乱入者に顔を引き攣らせた。

 

 

 

「おいおい、織斑先生……これが言うてた奴かいな、冗談きついわッ」

 

 

 思わず口をついて出た言葉に、周囲にいいた一夏達が反応した。

 

 

「え、千冬姉が!?」

「どういうことですか?」

「え、あ……いや…」

 

 

 祭はここで自分の役割を周囲に言って良いものかと一瞬悩むが、むしろこんな時だからこそ立場ははっきりさせておいた方がいいと判断すると、2人に千冬からの任を打ち明けた。

 

 

「実はの、ワシ、ラウラちゃんの監視役やねん」

「監視役?」

「どういう理由かは知らんが、織斑先生はあの子のISに細工(・・)されてんのを知っててな。それが暴走した時のまぁ保険ちゅうか」

「そんな、じゃあ千冬姉は……ラウラをッ」

 

 

 一夏はあの千冬が、ラウラの身が危険であることを知りながらあえてこんな命を落とすかもしれないような事を放置したことに軽いショックを覚えたようであったが、祭は更に追い打ちをかけるように、真実を付きつける。

 

 

「それだけやない。今回ラウラちゃんの件に関してはもっとドライな考えを持ってるようや」

「え?」

「織斑先生は多分、この大衆の面前でラウラちゃんのISを暴走させることで、その背後におる人物らまで引っ張りだすつもりやったんやろ」

「それって……じゃあボーデヴィッヒさんを餌にしたって事ですか!?」

「ま、そうなるわな」

「………」

 

 

 一夏はついに絶句してしまう。そこにはあの千冬がこんな非情ともとれる作戦を実行に移したことに対するショックと失望の色が見て取れる。確かに祭本人もこれを聞いた時は意外に冷酷な人物なのだなと思ったりもしたが、その後の人員配置やメンバーへの指示、作戦を見ていくうちにその判断は誤りだったという事に気付かされた。

 

 

 祭は俯く一夏の頭を数回ポンポンっと叩くと自信たっぷりな表情で笑う。

 

 

「せやけど、大丈夫や。この状況確かに一見すれば織斑先生は冷たい作戦を実行したともとれるけど、せやたらなんでワシがおんねん?」

「……」

「それに、織斑先生はこの件に関して取れうる策は全部とっとる。観客席への警備の増員。おじょ……やのうて生徒会長ちゅう最大戦力の投入今のところ何1つ人的被害は出とらん」

「けど」

「シャキッっとせんかいッ!! 男のくせに女々しいの!」

「うおッ!?」

 

 

 うじうじと悩む一夏に業を煮やした祭が一夏の背中を思いっきり叩く。

 

 

「信じると決めたもんは、最後の最後まで愚直に信じる。それだけでええ」

「……」

「疑うなんて後でもできる。でも信じきることは今しかできんのや」

 

 黙り込む一夏に祭は少し口元を緩め諭す様に言う。

 

「それとも、一夏君にとって織斑先生はホンマに信用に足らんような人物なんか?」

 

 祭自身、多少なりと意地悪な質問だと思う。答えなど1つに決まっているのだから。

 

 

「馬鹿言え、千冬姉が信じられないわけあるもんかッ」

 

 力強く良い放つその言葉に、祭は大きく頷くとニッと笑う。そして各々が対峙すべき敵を睨みつける。

 

 

「ほんなら、ちゃっちゃと畳もか」

「あぁ」

 

 

 気合十分といった顔で敵を見やる2人。しかし一方でシャルロットはやや不安げにその2人を見つめていた。その視線に気が付いた祭がシャルロットへ声をかける。

 

 

「ん、なんや乗り気やない様やな、どないしたんや?」

「いや、そりゃそうですよ」

「ん?」

「いや、そ、そうじゃなくて……その…身体…」

「あ、あぁ…」

 

 シャルロットは気まずそうに祭の身体を見やる。それにつられて祭自身も自分の身体を見やった。

 改めて見ると祭自身〝打鉄〟の装甲は脚部を残しほぼ破壊されているといっても良い状態だった。かろうじて腕部は残っているものの、それでもヒビなどが外側から見ても分かる状況。〝シールドピアーズ〟を受け止めたわき腹付近に至ってはISスーツも少し損傷を受けている。

 

 文字通り〝満身創痍〟そんな状態で、暴走している〝シュヴァルツェアレーゲン〟と黒い〝デファイアント〟を相手にしようとしているのだから、シャルロットの心配も最もだと祭は思う。更に戦っていたとはいえそこまでにしたのが自分自身なのだから、気まずくなっても当然だ。

 

 

 しかし祭はそんなシャルロットの気持ちを察しつつもあっけらかんと言い放った。

 

 

「うん……まぁ……大丈夫やろ」

「へ?」

「ワシ、この程度やったら気にならんし」

「い、いや」

「大丈夫やて。このぐらい慣れとるから」

「な、慣れ!?」

「とにかく、今はそれどころやあらへんッ」

 

 

 祭はシャルロットの言葉を制するようにぴしゃりと言う。シャルロットもまたそれ以上何も言えなくなり半ば強引に黙らされてしまった。

 

 祭はそんなシャルロットを尻目に2機の敵を見やりながら状況を整理する。祭の中で、この状況の中最も危険度が高いのはラウラではない。なぜならラウラのここまでの一連の流れはまだかろうじて想定の範囲内だったからだ。しかし乱入者の方は違う。いくら暴走しているといっても〝シュヴァルツェアレーゲン〟の攻撃方法がそれほど大きく変わるとは思わない。だが片方は全く情報のない相手だ。

 

(あぁは言ったモノのいくらワシでも、この状態で2機をまとめて相手するちゅうんは虫の良い話やな。かといってこの2人の負担を増やすんもそれはそれできついもんがあるが…)

 

 

 祭は意を決した顔で身構える2人を一瞥する。

 

 

「……のぉ、御二人さんや」

「なんだよ」

「?」

「……悪いけど……あっち(・・・)任せてもええか?」

「あっち? ……あ、あぁ…まぁどのみち、あいつ(・・・)は俺がぶっ飛ばす予定だったんだ」

「一夏……うん、でも僕も…」

「フッ…ほんなら話早いわ。多分ワシもそっちの応援は行けそうにあらへんしなッ」

 

 

 祭はガンッと身体の前で拳を合わせ改めて気合を入れる。

 

 腹はくくった。だがそれは決死のものでなどなく、むしろ逆。

 

 3人の目には、勝つこと以外の選択肢などない。

 

 立ち向かうことを決意した者達に迷いはない。

 

 3人が一斉に自らのターゲットへと散開していく。そして同時に待ちわびたかのように敵もまた行動を開始する。

 

 そして祭は敵機に突っ込みつつ、不謹慎とは思ったが未知の敵との遭遇に高まる闘志を抑えきれず苦笑交じりに空を駆けるのであった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ぬわぁッ!?」

 

 

 あたしは、スウェイで、立て続けに襲いくる左を躱し時折混ぜ込まれる右もなんとか両腕のガードを使いながら弾き飛ばしていく。戦闘が始まってからというもの防戦一方、というか撃ち返すことなどほとんど出来ていなかった。下手に踏み込めば、だらんと脱力した左腕から放たれる〝不規則なジャブ〟の餌食。それに捕まればまず間違いなくその後にあるのは右の大砲だ。人っ子一人いない静かなアリーナで戦っているからだろう、彼女の右の空気を切り裂かんとする音は否が応でも耳に響いてくる。そしてその音を聞くたびあたしは嫌な汗が身体から吹き出す。

 

 一番初め、不意打ちの様に打たれたあのパンチを見た時からヤバいとは思ってはいたが、よもやこれほどとは思ってもいなかったのだ。

 

 

 

「あれれぇ、後悔しないでとか言ってなかったっけぇ?」

「煩いよッ!」

「んーまぁ、どうでもいいけど、全然あたし後悔してないんだけど」

「だからッ」

「ってかむしろさぁ…」

「今度はな――――ッ!」

「後悔すんのそっちでしょ」

 

 

 

 あたしは、彼女の左をひっぱたいたと同時に目を疑った。

 

 なぜなら左を捌きガードに右腕を戻そうと思った刹那目の前に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――彼女の〝大砲〟がねじ込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅッ!!!」

「あはははッ、モロだねモロ!」

 

 

 

 とてつもない衝撃に、あたしは二歩三歩たたらを踏んで後ずさる。彼女の笑い声が聞こえるがそんな物に目くじらを立てる余裕すらない。それにそもそもそんなことよりも、

 

 

(なんで!? なんで今ッ あんな簡単に右をもらったの!?)

 

 

 あたしの頭の中はその疑問で埋め尽くされていた。右には十分警戒していた。というよりも今の今まであのぐらいの捌き方なら全く問題なく反応出来ていたはずだ。それなのになんで今あんなあからさまな右を、まさしく〝モロ〟にもらってしまったのか。

 

 もちろんタイミングや技術で理論的には回避不可能のタイミングでパンチをねじ込むことは可能なのかもしれない。だが全くパンチが来たことに反応できないということは、あり得ない。どれほど優秀なボクサーでもあっても何かしら身体を次の動作に移す時には予備動作というものが発生する。

 

 あたしもまたその例にもれず、あたし自身もやっていることだし、そして戦う時には相手のそういう動作から次の行動を予測することは身体が自然とやっている。

 

 

 あたしはかぶりをふって、視線を彼女へと戻す。モロとはいえ1発貰っただけ。いくら強烈でもこれ単体で倒れるわけにはいかない。

 

 

 

 彼女は依然として、あの型破りなフォームのまま〝デファイアント〟の大きな腕の向こうからこちらを見つめている。口元が見えないから何とも言えないが恐らく表情は初めからずっと薄ら笑いを浮かべていることだろう。

 

 

 さらに言えば右をぶち込んでもなお畳みかけてこないのは、そんなことをしなくてもいつでもあたしを倒せるっている暗黙のメッセージだろうか。

 

 

 とにかく、いずれにしてもどうしてこの右をあたしがモロに受けたのかその理由は定かではない。だがここまでの攻防で1つだけはっきりしたことがある。

 

 

 

 それは―――――

 

 

 

(あたしの一番得意な距離を……完全に支配されたッ)

 

 

 不敵な笑みを崩さない〝あたし自身〟に向かってあたしは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。あたしは自分自身器用な人間ではない事は百も承知している。だからこうしてオータムさんやマド姉に鍛えてもらいながら、一つのこと(ボクシング)を極めるべくまい進してきた。もちろんそれは最終的には1つの目的(・・)のためなのだが今はそれはどうでもいい。

 

 ボクシングでは実は、スタイルが同じよりも違うことの方があたし自身にとってはやりやすかったりするものだ。なぜなら、ボクシングのスタイルは多々あれど、異なるスタイル同士なら必然的に試合は如何にして自分のスタイルへと持ち込むかの駆け引きができるから。

 

 だが逆に双方が同じスタイルならばどうかというと……ソレは実にやりにくい(・・・・・)。同じスタイル同士ということはまずそこで自分のスタイルに持っていくという駆け引きが消える。駆け引きという複雑な要素が省ける反面勝敗は両者の実力により強く依存していくことになる。

 

 

 そして今回はまさにそのパターンであり、そして現状ではあたしよりも彼女の方が悔しいが強い。

 

 

 距離を支配されたインファイター(あたし)は、これでもう迂闊に彼女の間合いに飛びこめなくなった。それは言い換えれば、あの短い一瞬の攻防だけであたしの攻撃方法のほとんどを奪われたといってもいいほどのものだった。

 

外側(・・)から打てるパンチが無いわけじゃないけど……格段に)

 

 

 威力が落ちるうえに、なにより……

 

 

「慣れない距離は、やっぱやりにくいよねぇ」

「えッ」

「なんで驚くのさ、あたしは、あんただよ? 手に取る様にわかるよ」

「手に取る様……?」

「フフンッ」

 

 あれ? あたしってあんなイラつく態度とってたっけ?

 非常に不本意ではあるけど、今自分自身に滅茶苦茶イラッとした。

 

 

 とはいえだ。ここでカッとなって飛びこむほど愚策はない。こういうときこそクレバーな行動が求められる。

 

 冷静に考えろ。今何をされたのかッ

 

 

 左を弾いた瞬間右が来た。その理由は何? 避けられなかったその理由は!?

 

 

 実際頭を冷やして考えた所ですぐにそのカラクリがわかるわけなんてない。むしろそんなすぐにわかるようならそもそも、初めから貰わない。相手の余裕からして一か八かなどではない事は分かっている。だからこそ、敵の戦術が絞りこめない。

 

 

 とにかく、今はあれをもう一度貰わないようにするだけで精いっぱい。だが彼女がそんなもの気にしてくれるとも思わないしそもそも気にする必要はない。向こうはあたしを仕留めに来ているのだ。

 

 距離を支配した彼女は、あたしの焦りを知ってか知らずか、躊躇いなく内側へ飛びこんでくる。しかも…

 

 

「くッ、ちょっとあんた構えが低すぎんよッ」

「それは違うね、あたしが低いんじゃなくてそっちが高いのさ」

「だけどそれだけ低けりゃッ」

 

 

 

 あたしは内側に侵入してきた彼女がモーションヘ移るよりも早く打ち下ろしの右の狙いを定める。ダメージは残っているが、それでも上と下ではどちらが有利かなど火を見るよりも明らかだ。あたしのそんな考えを察したのか一瞬だけ彼女はそのモーションに対してピクリと身体が反応したかに見えた。

 

 

(反応してくる!? けどッ――――!!)

 

 

 あたしは構わず右を振り下ろす。むしろ反応されたからといってここで止める方が危険。

 

 

(強引にでもねじ込むッ!!)

 

 

 刹那、視界に黒い影が飛びこむ。

 それは、彼女が打った左。あたしは強引に身体を傾け打ち下ろしながらにそれを回避する。

 

 

「ッ!」

 

 

 少々体勢は崩れたものの、体重はまだ十分に乗っている。流石にKOは無理でもダメージは絶対に通るッ

 確信にも近い感覚であたしは右を放り込む。

 

 あと数センチ……あと数ミリ――ッ

 

 そして直後あたしの右腕には確実に相手の顔面をとらえた感覚が伝わってくる―――――――

 

 

 

 ―――――――はずだった。

 

 

 

「がッ!?」

 

 

 

 そんなッ!? 馬鹿な!!?

 

 

 

 さっきとは比べ物にならないほどの困惑と、顎への強烈な衝撃があたしを襲う。

 

 

 そして同時に、ぼやけながらも視界が反転している事に気が付いた。

 

 

(あたしが、倒されてるッ!?)

 

 

 強烈な一撃を顎に貰ったことで一瞬飛びかけた意識を皮肉なことに、今のこの〝あり得ない状況〟が現実へと引き戻す。

 

 完全にタイミング的にはこっちが先だったはず。左を弾いてがら空きの左頬に突き刺さってるはずのあたしのパンチよりも

なんで彼女の〝大砲〟の方が早くあたしに到達してんのさッ!

 

 

 徐々にクリアになっていく視界の奥で、倒れたあたしを見て彼女が構えを解きせせら笑う。

 

 

 

「フフフッ 現状じゃこんなもんでしょ。打ち下ろしまでは、良かったけどね」

 

 

 彼女は言うと、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。あたしはひとまず彼女がここへたどり着く前に身体だけは起こそうと地面に手をつく。

 

 

 だが敵であるあたしの行動を見つつも彼女は構えることなく、そして足も止まらない。

 

 

「お、立てる? 流石あたし、頑丈だなぁ」

「ッ………ッく」

「……でもま」

 

 あたしは立ちあがるまではいかないまでも、なんとか身体を起こすことには成功する。そしてあたしは彼女を身体の正面に捉えながら息を整えつつその動向を見守る。

 彼女は以前微笑を湛えながらゆっくりとこちらへと向かってくる。

 やがて彼女は、あたしのそばまでやってくるとそこで立ち止り、そして今までの声色が一転し更に自分の表情をそこまで見せたいのかご丁寧にヘッドギアのバイザーまで開いた。

 一瞥した彼女の表情は笑顔が消えひたすらに冷たい視線があたしをとらえている。

 

 

「これが現状でしょ」

「!」

「言っとくけど、これが現実」

「……ハハッ、我ながらッていうのかな……ッ なんとも陳腐な物言いだね」

「陳腐っていうか、それしか当てはまらない。現に2発でこの様なんだからさ」

「……」

 

 

 正直言い返せない。これまであたしが貰った有効打はたったの2発。だがその2発であたしは今こうして座りこみ肩で息をしているような状態に追いこまれている。これでは何を言い返したところで、遠吠え程度にしかならないだろう。

 

 

 返す言葉に窮し俯くあたしに、彼女は息を1つ吐くと意味深な言葉をつぶやいた。

 

 

「こりゃ、思ってたより楽かな」

「え?」

「いや、楽って言うか……ほぼほぼ決まり?」

「楽? 決まり? 一体何の話?」

「んーーーー……そうだなぁまぁ……分かりやすく言うと…」

 

 

 

 彼女は二度三度頭を掻き何やら思案する。そしてあまりにもあっさりと、本当に聞き流してしまいそうなほどに自然に今あたしが置かれている状況を言ってのけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「―――東雲 秋穂という存在の末梢……かな」

 

 

 

 

 




どものろいうさぎです。

略してのろうさ(ヤカマシイ

さてかなりお久しぶりです。
前の更新日見て驚愕。
2014年の11月でした←
言い訳としましては(早い)、仕事が始まって時間が全然取れなかったためです(言訳
まぁ事実、覚えることが多くて四苦八苦でしたし、2014年年末も忙しかったですからね(汗

まぁそんなこんなですが、個人的には放置プレーではあったものの音げ出すことはしたくないので、つたない文章ですがこれからも書いて行こうと思います。

さて、今回は文字的にはいつもとそんなに大差ないのですが場面移動もほとんど出てこず、戦闘回しか出てきません(汗

終盤のやりとりはこの物語のとあるキャラクターに密接に関わってくるお話ではあるんですけどね。あ、秋穂もそうですがとあるキャラは秋穂以外のあるキャラクターです。
まぁ、そこらへんも楽しみにしていただければ(いらっしゃるかどうかは毎回の如く謎ですけど)と思います。

こんな駄文ですが、ご覧いただければ幸いかと存じます。

亀の子ペースで頑張っていくので、よろしくお願いしますね(滝汗

では、また次回お会いしましょう。
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