IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第40話~それぞれがそれぞれの為に~

 千冬は、やや複雑な面持ちで管制室に送られてくる映像を見つめていた。観客や生徒らの避難誘導は他の風紀委員や教員によって大きな混乱もなく無事終了。それに限れば感謝しかなかったが、現状ではそれすらも大量にある解決しなければならない事のうちの一つが片付いたに過ぎなかった。

 

 

 千冬の横では真耶が情報の整理に追われ、更にその周りでは慌ただしく他の教員らが管制室を走り回っている。

 

 

「虎音さんのISの状況、もう一度モニターに出して!」

「そっち!? いや今は織斑君たちの方を優先して…」

「じゃあ、どっちも出せばいいじゃない! あ、ちょっとさっき言ってた観客のリスト持ってきた!?」

 

 

 怒号にも近いやり取りが交わされ、騒然とする管制室。だがそれでも千冬だけは表情を崩さず食いいるようにモニターを凝視している。その様子を流石に不思議に感じた真耶が一瞬手を休め千冬に声をかける。

 

「織斑先生?」

「ん?あ、あぁ、すまないな。サボってしまって」

「い、いえそういう意味ではないんですけど」

 

 千冬は苦笑いを浮かべながら真耶の脇におかれていた端末に手を伸ばす。真耶は端末を手に状況を確認していく千冬の行動に構わず言葉を続けた。

 

 

「よほど、心配なんですね……3人が」

 

 

 真耶は何を当たり前のことを自分は聞いているんだと思いながらも千冬にそう尋ねる。しかし千冬からの返事は予想だにしないものであった。

 

「ん……いや、実のところ私はあの3人をそれほど心配してはいないんだ」

「え、どういう意味ですか?」

「どういう意味もこういう意味もない。そのままの意味さ」

「でも、あんなに食いいるようにモニターを…」

「……ふむ……なぁ、山田君」

「は、はい」

「山田君はこの状況を見てどう思う?」

 

 真耶は言葉が詰まる。それは突然の質問返しによるものとそして千冬の質問の意味が分からず答えることが出来ないという2つの意味でであった。ただただ小首をかしげることしかできない真耶を尻目に千冬は口元を緩める。

 

「そんなに私は難しいことを聞いたわけじゃないさ。ただ純粋にこの状況をどう思うか、その感想を聞いたまでだよ」

「感想……ですか?」

「そうだ。ちなみに私のここまでの感想は……」

「は、はい」

「想定内」

「え?」

「ここまでの出来事はまだ、私達にとっては想定内なんだよ、山田君」

「いや、確かにボーデヴィッヒさんの件に関してはそうかもしれないですけど、あの黒いISに関しては―――「確かに」―――!?」

 

 

 千冬は真耶の反論を最後まで聞くことなく遮ると、端末を真耶に見せそれを指さしながら振り返る。そこには散々これまで学園を混乱に陥れてくれた〝デファイアント〟の画像が表示されていた。

 

 

「確かに、あの黒いISの乱入は想定してはいなかったが……私達はあれを知らないわけでは(・・・・・・・・)ないだろう(・・・・・)?」

「知らないわけではって、だって色が」

「だが、これまでの戦闘を見る限り大きく戦術が変わるわけではないし、もちろん色が違うのは気にはなるが全くの初見というわけでも無い」

「あ!」

 

 

 真耶は千冬の考えの真意をようやく理解する。自分たちはラウラの暴走に関してはある程度想定をしつつ対策を練っていた。それがつまりは虎音 祭であり、そして各所に配置した風紀委員や教員たちでもあった。そしてそこへやってきた乱入者。しかしそれは自分たちが対策を練っていた事の範疇(はんちゅう)外ではあったものの全く知らない情報もない相手という訳ではない。

 詰まるところ千冬が言いたいのはそう言うこと。

 

 この事態は〝対策の範疇外だが対策の想定内である〟ということだ。ようやく合点のいった真耶だが、ではなぜあれほど複雑な表情を浮かべていたのかが気になってくる。

 

「では、想定内であるならなぜあんな表情を?」

「うむ……そこなんだ。山田君」

「そこ?」

「そこが今私を一番悩ませている」

「と、おっしゃいますと?」

「私が今一番気になっているのは……この馬鹿げた乱入劇を仕組んだ…首謀者だ」

「首謀者……ってまさか!」

「誰かまでは分からないまでも、可能性を絞ることはできる」

「……あ」

 

 

 真耶は千冬の話を聞いて唐突に思い出したことがあった。それはあの楯無と千冬の通信だった。

 

『どうした更識?』

『……いえ……ちょっとした問題が……ふぅ』

 

 

 

 よくよく思えばあの通信、楯無は多くを語ろうとしなかった。

 

 騒動に焦って?

 

 いや逆に考えるのならば語る余裕すらなかったともとれる。

 

 そう考えるのならばあの楯無が?

 

 では何故?

 

 そこまできてようやく真耶は首謀者に関する千冬の考えを察する。

 

 

「お、織斑先生……まさか…」

「そうだ、だからこの表情なんだ」 

「それが正しいとするなら、急がないと!」

「そうだ急がんと……って、今なんといった?」

「え!? で、ですから急がないとと…」

「そうか、急いでいいんだな山田君」

「は、はい!?」

「では、お言葉に甘えて……悪いが急がせてもらおう!」

 

 

 

 千冬は真耶の肩を軽くポンと叩きすれ違いざまに端末を手渡すと、一陣の風となって管制室を後にする。

 あまりの早業に、返事をする間もなかった真耶だが手に渡された端末に表示された短い文章を見て今度こそ真耶は完全に、100%千冬の考えを理解するのであった。

ちなみにそこにはこう記されてあったという。

 

『後は任せた』 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 

 

 

「くそッ、こいつ!!」

「一夏危ない!!」

 

 

 シャルロットの焦りを含んだ叫び声を耳にしながら、一夏は必至に敵の攻撃を弾き距離を取ろうと〝白式〟のスラスターを前方へ目一杯噴かす。だがそれを見計らったかのように敵の黒いISは一夏のそれよりも一瞬早く内側へ飛びこんできた。

 

「くそったれめッ!!」

 

 シャルロットも一夏から何とか敵を引っぺがそうと、サブマシンガン2丁をコールし弾幕を張るが黒いISはそれを物ともせずただただ目の前の一夏のみを襲う。

 一夏はその攻撃を〝雪片〟で防ぐと、〝白式〟の推力分を上乗せした力任せの薙ぎで、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟を弾き飛ばした。

 

 

 

「ナイス一夏ッ!!」

「Vu!」

 

 シャルロットは、言うが早いか近接ブレード〝ブレッド・スライサー〟を構え、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟に肉薄し刃を突き立てる。

 しかし敵小さく唸るとブレードのくる方向を見向きもせず巨大化した腕部で鷲掴むと、そのままシャルロットを引き寄せ、連続で膝蹴りを叩きこんできた。

 

「ぐッ、がッ、ぐあッ!!」

「Voooooooooo!!」

 

 そして執拗な膝蹴りでくの字に身体を曲げたシャルロットへ雄たけびと共に腕を振り下ろし吹き飛ばすと、再び一夏へ向かって猛進していく。 

 

 

「うああぁぁぁッ!!」

「シャルロッ―――ちッ!!」

 

 一夏は、向かってくる攻撃を必死に〝雪片〟で防ぐ。そのたびに空中で火花が散りクローと刃がぶつかり合う鈍い音がアリーナに響きわたっていた。

 シャルロットは苦痛で歪む視界でその光景を捉えながら、この場を切りぬけるべく思考を巡らせる。そして同時に、今までのことを努めて冷静に振り返っていた。

 

 

 ラウラがうめき声をあげ、黒い塊に支配されていきそしてその黒い塊が徐々に〝シュヴァルツェアレーゲン〟の様相を変化させていった。

本来ならば覆うもののないはずの操縦者のスペースは、強固な黒い外装で覆われ、フルスキンタイプのフェイスガードに覆われた頭部付近には不気味に赤く光るモノアイカメラが1つ。

頭部に光るモノアイはまるで人間の乗っていないロボットの様に、周囲を一定のタイミングで左右に動き周囲を見回しているようであった。

そして両腕は先ほどシャルロットのブレードを難なくつかめる程に肥大化しクローと一体化していた。

  更に元々背部のアンロックユニットに固定されていた2門のレールガンはその大きさを更に巨大化させ、付随するスラスターもより推力の高いものへと〝換装〟されていた。

 

 大凡形は人型を保ってはいるものの、元の重厚感があり機能美に富んだドイツ製のISの姿はそこにはなくただただ禍々しい姿がそこにはあった。

 

 

 

 セカンドシフトでもしたのかと思わせるような、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の変化に2人とも当然戸惑いは隠せなかった。

 

 その変化が終わると、しばしの静寂が訪れる。そしてその間に、祭とのあのやりとりがあり、黒いデファアントとの対峙が始まったその直後、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟から圧倒的な殺意を感じとり一瞬シャルロットと一夏の足がすくむ。そしてその後、低く唸るような声と共に滅茶苦茶な速度で2人目がけて突っ込んできたのだ。

 

 

 

 そして今である。シャルロットは、再び武装を整えると、一夏の援護へと向かう。2機がぶつかり合うその場へ加速する。

 それを見計らってか一夏も、防戦一方からそれを一転反撃の糸口にすべく踏み込んだ。

 

 だが敵はそれを腕をクロスさせ防ぐと、直ぐに両腕を跳ね上げ両者のブレードを跳ね上げる。丁度斜め上から片手でブレードを振り下ろしていたシャルロットは大きく腕をブレードごと弾かれる格好になり、身体半分が完全に無防備な状態に陥ってしまう。

 

 

「しまったッ」  

「シャルロットッ!」

 

 そして、刹那ヴォンっという作動音と共にモノアイがシャルロットを睨みつけるように動く。

 

 

 (これは、まずい!)

 

 焦燥感がシャルロットの脳裏を支配していく。敵はシャルロットの方へクローをつき出す。掌底部のプラズマ手刀の砲身には既に放電が見られる。手刀とはいえ肉薄しているこの距離で刀身を形成されれば、十分にシャルロットの身体を貫ける。

 

 

「くるッ!?」

 

 咄嗟に出来得る限りの構えを取るシャルロット。だが次に敵の取った行動は、シャルロットはもとより一夏すら、驚愕の一撃だった。

 

「って、嘘だろッ!!」

「えッ!?」

 

 

 こともあろうに、シャルロットへ大ダメージを与えられるであろうこの大チャンスの中、敵が選択したのはプラズマ手刀による一夏へ(・・・)の攻撃だったのだ。

 

 予想外の攻撃とはいえ、横薙ぎの大ぶりも大ぶりの一撃にさすがの一夏も、〝雪片〟をコンパクトに振るい難なく対処する。呆気にとられるシャルロットを尻目に再び〝シュヴァルツェア・レーゲン〟は一夏めがけて突進を始めた。 

 

 

(な、なんで!? なんで攻撃してこなかったの!?)

 

 

 シャルロットは、思わぬ行動に混乱する思考をなんとかまとめようとする。

 

 

(今確実に、僕を仕留められたはずだ……なのに……なんで?)

 

 

 そう言えばと、シャルロットはふと思う。先ほどの攻防でもそうだったが、敵はシャルロットを全く意に関していないという訳ではないにしてもどちらかといえば、自分を払いのけているようにしか思えない。そしてあのISの操縦者は…ラウラ……

 

(まさか……もしかして、これは……暴走…じゃない?)

 

 

 シャルロットは、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の異変そして変異その後の行動。これら一連の出来事を機体の何かしらの暴走と考えていた。いやもちろん暴走は暴走なのだが。しかしながらこれは広義で言うところの暴走ではないのかもしれない。

 

 

(仮にこれが、暴走なら……あの場面で一夏を攻撃するという選択肢を取るだろうか?)

 

 

 僅かな時間ではあるが、それでも思考の時間を得られたことで、1つの仮説が出来上がる。

 

 

(もしかしたら―――ッ)

 

 シャルロットは、自身の考えをまとめると、再びブレードを構え直し、狙いを定める。

 

 仮説は実証して確証へと昇華させる必要がある。

 

 シャルロットは、切先を敵へと合わせるとそのままイグニッションブーストを利用しトップスピードで〝白式〟と〝シュヴァルツェア・レーゲン〟が鍔迫り合いをし、両者が弾いてできたほんのわずかな隙間に機体を滑り込せた。

 

「こんのぉッ!!」

「シャルッ!」

「一夏は一旦下がって!」

「けどッ」

「いいから!」

 

 

 シャルロットは加勢しかける一夏を声で制する。〝シュヴァルツェア・レーゲン〟のクローとブレードが激しく火花を散らすものの徐々に押し込まれて行く。

 シャルロットの駆る〝ラファール・リヴァイヴ〟は、近・中・遠とどの距離でも高い次元で戦闘行動を行えるだけのスペックをもってはいるものの、それは裏を返せばどこまで行っても平均的であるということだ。対する〝シュヴァルツェア・レーゲン〟は、暴走をしているとはいえ、元のスペックが異なる。

 

 

「今更だけど…凰さん達が圧倒された理由がなんとなくわかったかもッ」

 

 

 

 シャルロットは苦笑いを浮かべつつ、〝その差〟を感じとる。ラウラの実力は確かに高かった。しかしそれにもましてこの〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の基本スペックが高すぎるのだ。実質第2世代の熟成盤と最新鋭の第3世代機の真っ向勝負。技術力が日進月歩である以上、その差は思いのほか大きい。

 

 

「けど泣き言も言っていられないよねッ!!」

「!」

「これでッ!!」

 

 シャルロットは、攻撃を弾けないと判断し、逆にこめていた力をフッと抜く。一気に力を抜かれた相手はいくら暴走中といっても咄嗟に反応出来るものではなく、空中で前のめりに耐性が崩れた。シャルロットはすかさず下へ回り込むと、敵の腹部目がけて足を振りあげそのまま巴投げの要領で後ろへ吹っ飛ばす。

 

 

 そして素早く、ブレードを格納すると両手に無反動砲とレールガンをそれぞれコール至近距離でそれらを叩きこんだ。

 

 

 爆炎が上がり、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟がその爆風にのまれ吹き飛ばされる。普通なら更にそこへ火砲を集中してコールするのだが、シャルロットはあえてそれをしない。

 

 この攻撃には、明確な意図(・・)があった。それを確かめるためシャルロットは一夏も驚くような強引な割り込みを行ったのだ。

 

 

 シャルロットは煙が晴れていく中、敵の動き、それの身に集中する。ハイパーセンサーが知らせるほんの些細な情報も見逃さないほどに。

 

 

(もし仮に僕の考えがあってるのだとすれば…)

 

 

 徐々に視界がクリアになってき、〝シュヴァルツェア・レーゲン〟の姿もはっきりと見えるようになってきた時シャルロットは更に驚きの行動に出る。

 

 

「お、おいシャルル! 何やってんだ!!」

「大丈夫、一夏!」

「大丈夫ってお前!?」

「それより、一夏ッ構えてて!」

「えッ!?」

 

 彼の驚愕の声は当然だとシャルロットは感じていた。なぜなら今彼女はすべての武装を解除し文字通り丸腰となっていたからだ。いくらシールドバリアにまだ余裕があるといっても、これは誰がどう見ても自殺行為だ。しかし、シャルロットは周囲が思っている程に恐怖を感じてはいなかった。

 

 一夏に対して手早く叫ぶ。その声に慌てて〝雪片〟を構え直す一夏を見て少しシャルロットの口元が緩む。それほどに今のシャルロットは余裕があるのだ。

 

 

 完全に視界がクリアになったとき、再び敵のモノアイが赤く光る。確実にその視線はシャルロットに向けられていた。

 

 

 かたや丸腰のシャルロットかたや〝雪片〟を構える一夏。

 

 

 この状況で、どちらがより攻撃を入れやすいかなど火を見るよりも明らかである。だがそのだれが見ても分かる状況の中再び敵がとった行動は――――

 

 

 

「こいつ、またこっち来るのかよッ!」

「やっぱりッ!」

「やっぱりぃ!?」

 

 

 そう、敵はまたもや、決定的なチャンスをみすみす放棄し、一夏へと突っ込んでいく。

 シャルロットは、ブレードを格納し両手にアサルトライフル〝ヴェント〟とショットガン〝レイン・オブ・サタディ〟をコール、すぐさま一夏の救援へ飛ぶ。

 

 

 

 

「一夏ッ!」

「!?」

 

 シャルロットは、〝ヴェント〟をばらまきながら、接近するとその勢いを利用して飛び蹴りを食らわせる。更に〝レイン・オブ・サタディ〟の追撃をぶち込み一夏から敵を強引に引っぺがした。

 

 シャルロットはしばしできた時間を使い、一夏を申し訳なさそうな顔で見やる。

 

「ごめんね一夏。大丈夫だった?」

「シャルロット……ま、まぁ少し驚いちまったが。ひとまず今のところは」

「そう、良かった」

「それより、シャルロットさっきのやっぱりってどういう意味だ?」

 

 

 シャルロットは一瞬、敵の方を確認する。一転して動きを止めた機体に少し不気味なものは感じるが、だがこの時間は有効に使わせてもらおうと自身の考えを一夏に伝える。

 

 

「いい、一夏よく聞いて。あの機体は多分一夏しか狙ってない」  

「俺しか?」

「さっき、武装を解いて構えまで解いていたのに僕を狙わなかった。普通狙うでしょ? あぁまでしたら」

「お前、そんな事確かめるためにあんな危ねぇことしたのか!?」

 

 

 確かに一夏の意見はごもっとも。シャルロットはそう思う。多分十人聞いたら十人ともが同じ様な意見を口にするだろう。

 だが、1つシャルロットにはその意見には賛同しかねる部分があった。

 

 

「違うよ、一夏。それはそんなことじゃない」

「え?」

「これは重要な発見(・・・・・)だよ! アレを倒してそしてラウラも助けられるかもしれない」

「ほ、本当かそれ!?」

「Vuu……」

 

 一夏がそう呟いた時、時間切れだといわんばかりに2人の耳に低い唸り声が聞こえる。

 

 2人は視線をその声の咆哮へと移した。先ほどの銃撃でわずかながら機体に傷は見えるがどれも致命傷というほどではない。

 シャルロットはちらっと自身の腕部に展開されたままになっている切り札〝グレースケール〟を見やりそして意を決した表情で一夏を見た。

 

 

「一夏、僕の機体ももうそんなにエネルギーが潤沢に残ってるわけじゃない。それにあの機体に取りこまれたラウラだってそんなに猶予はないと思う」

「そう言えば、この状況をどうにかすんので必死になってて頭から少し飛んでたがあれラウラなんだよな…」

「うん。だから、一気に決めよう」

「一気にって……決めたいのはやまやまだけど押し込まれっぱなしなんだぞ?」

「それは、相手の動きに少なからず読めない点があったからさ。でも今は違う……何とかなるかもしれない」

「本当か?」

「ま、確証はないけどね」

「おい!?」

「ウソウソ、大丈夫だって!」

 

 

 シャルロットはジョークジョークと一夏をなだめると、気持ちを切り替えて〝グレースケール〟に薬莢を装填する。

 

 

「さてと……一夏、行こう! あの奥にラウラがいる!」

 

「あぁ、胸糞悪いやつだけど、勝敗がこんな形で有耶無耶にされても困るしなッ!!」

 

 

 シャルロットは対峙する〝シュヴァルツェア・レーゲン〟を見ながら、ふとあることを思い出す。

 

 

 

 それはほんの少し前に出会った、あの馬鹿みたいにまっすぐな拳をもつ少女。その少女が自分に向かって発した言葉。

 

 

 

 〝あんたの間違いをあたしが勝って、止めてやる〟

 

 

 

 

 あの時は、狼狽してよく意味も理解できなかった。でも、今ならその意味は嫌って程よく分かる。

 

 

 それは結果を見れば明らか。自分は、最終的に拳一つであの少女に止められてしまった。

 

 

 そう、止められた―――いや、訂正しよう……彼女は自分を止めて(・・・)くれたのだ。

 

 

 彼女がたとえ〝ファントム・タスク〟の一員であろうがそれは関係なかった。

 

 

 (彼女にそれができたなら……今の僕(・・・)にできない道理はないッ!!)

 

 

 

 あの漆黒の闇の中にいる少女を、今度は自分が助けるために――――!

 

 

 今度は自分がそのため(・・・・)に飛ぶ番だ!

 

 

 

 強い意志を宿しシャルロットは飛ぶ。

 

 

 何かを助け、意を決した翼は留まることを知らず。

 

 

 何をされようが、何が起きようがそれらを貫きまっすぐに飛ぶ。

 

 

 疾きこと風の如く

 

 

 シャルロット・デュノア…今の彼女を――――――

 

 

 

 

 

 ―――止められる者は無し――――

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 一夏とシャルロットが〝シュヴァルツェア・レーゲン〟と激しく火花を散らしぶつかり合っている一方、アリーナの丁度右半分側でもそれに負けず劣らずのパワー対スピードの攻防が繰り広げられていた。

 

 一瞬消えたかと錯覚するほどの早さを持つ〝デファイアント〟を、動き出しのほんの僅かな重心の移動や足の運びから次の行動をいち早く察知しスピードではるかに勝る相手に真っ向勝負を祭は挑む。

 

 

 〝デファイアント〟は、超超高速域から一気に祭の死角に潜り込むと、低く姿勢を倒したまま右ストレートで祭をかちあげようとする。

 

 だが、そこはパワーで勝る祭、いくら機体がボロボロの〝打鉄〟だったとしても正に驚異的というべき体幹の強さと純粋な腕力のみでそれらを防ぐ。

 常人ならば、骨の1本や2本軽く持っていかれてもおかしくないほどの衝撃にも祭の身体はそれらに耐え抜いていた。打たれ強さという言葉で片付けるにはそれはもう無理なぐらいに。

 

「ちょこまかと鬱陶しぃやっちゃのッ!」

 

 祭は毒づきながら、ガードした直後に、〝デファイアント〟の懐へ飛びこむと所々ダメージによってスパークする〝打鉄〟の腕部でその顔を鷲掴む。

 そしてそのまま自分の方へ引き寄せ、思いきり右ひざを振りあげる。

 

「黙れやッ!!」

 

 〝打鉄〟の脚部装甲と〝デファイアント〟のフルフェイスタイプのヘッドギアが鈍い音を立ててぶつかり合う。

 その攻撃によって、大きく身体を反らせる形になった〝デファイアント〟の腹部に祭は、左ストレートをぶちかました。

 

 決して万全の状態で打った一撃ではなかったがそれですら、〝デファイアント〟をいとも簡単にアリーナの地面へと叩きつけ、それでも止まらぬ勢いのまま二度三度地を跳ね、アリーナの障壁にぶつかりようやく止まった。砂塵が辺りを覆い、黒い〝デファイアント〟の姿を書き消していく。

  

 

 「ふんッ」

 

 

 祭はその様子を、睨みつけながら鼻を鳴らし、そしておもむろに左手を2度ほど振った。すると、先ほどの攻撃で(・・・)使い物にならなくなった左手の腕部の装甲がボロボロと砕け落下していく。

 

 祭はそれをまたか(・・・)という表情で見やった。

 そんな祭の表情を、知ってか知らずかオペレーションを担当していた真耶から慌てた様子で通信が入った。

 

 

『と、虎音さん大丈夫ですか!?』

「お、山田先生。なんも問題あらへんよ」

『本当ですか?』

「まぁ、多少機体はボロボロやけど」

『…多少……??』

 

 真耶が絶句するのも無理はなかった。実際、祭が駆る〝打鉄〟はお世辞にも、この状況をなんとかできそうとは言えるような状態ではなかった。

 

 シャルロットとの試合の際、重火砲のガトリングガン〝フェール・ソレイユ〟の直撃を受け更に、これまたシャルロットの最後の切り札〝グレースケール〟をも真正面から受け止めている。言ってみれば今の〝打鉄〟は通常の操縦者ならばとっくに白旗を挙げてしまうような程の損害状況なのだ。

 それに加えて、先ほどの攻防であったように既に〝打鉄〟は祭りが想定する戦闘行為に完全について行けていない。データを書き替えて使用しているとはいえ、基本骨格はどこまで行っても量産機の域を出ない。このままでは機体自体が攻撃を受けなくとも、祭自身の攻撃行為によって自壊する可能性すら出てきている。

 

 一言で言えばギリギリも良いところなのが、祭の現状。それでも祭はあっけらかんとして真耶に言う。

 

「とにかく、あれはなんとかせなあかんし。ま、まかせてぇな」

『で、ですが、こちらに送られてきている情報だと、活動限界も近いですしッ』

「さよか、それやったら早いとこ終わらせんとのぉ」

『いや、ですからッ!』

「分かった分か――――ッ!?」

 

 真耶が言葉を更に続けようとした瞬間、祭の表情が一気に険しくなる。そしてドンっという爆発音の直後何かを察知し身体を左斜め後ろへと素早く引いた。するとその僅か数秒後コンパクトに振りぬかれた右フックが眼前を通過した。

 

 

「ちょ、ちょお待て! さっきより速ないかこいつッ!!」

 

 なんとか、反応はできたものの目で完全に追えているわけではない。むしろ今のはドンっという音が1つ大きなヒントで咄嗟に身構えたからこそできた芸当だった。

 つまりそれは言ってみればマグレということ。そしてマグレなど二度も続きはしない。

 

(こいつ、どないなっとんのや!)

 

 頭の中で、改めて敵の異常さに焦燥感を覚えながら、祭は距離を取るべく後方へと飛ぶ。だが〝デファイアント〟はその間合いなど全く意に介せず身体ごと飛びこむ。そうすることにより即座にその間合いを〝殺す〟とついに、祭の顔面をその拳が完璧にとらえた。

 

 

「ッ! くぅッ! ぐがぁッ!?」

 

 打ち下ろしの右ストレート。いわゆるチョッピングライトで大柄な祭の身体を一旦沈ませると返す刀で左のスマッシュで今度は逆に身体を文字通り叩き起こす。

 そして無防備となった顔面へ強烈な右の大砲がねじ込まれる。

 

 

 常人ならばこのコンボで意識を手放してもおかしくはない衝撃。それでも祭は吹っ飛ばされた勢いを利用して空中で1回転すると、強引な脚部のバーニア制御で勢いを止め相手を睨みつけた。

 

 そんな祭を敵は打って変わって不気味なほどに、静かにそれでいて明確な敵意を向け正対する。

 

 

 

(パワーでは間違いなくワシが勝っとる……そやけど、速さでは正直勝負にならん………けど、そんなことよりや…)

 

 祭はついさっき、自身の攻撃によって自壊してしまった左腕に視線を落とす。

 

(間違いなく、あの攻撃には手ごたえがあった。直撃も直撃……大当たりやったはずや。いくら打たれ強ぉても、あないに短時間で復活できるもんなんか?)

 祭は、自身の攻撃に絶対的は自信があった、自分で言うのもなんだが少なくともあの攻撃はそうたやすく立ちあがれるレベルの威力ではない。

 一瞬、自壊寸前だった左腕のフィードバックシステムの異常かとも考えたが、それでも腹部にあれだけピンポイントで直撃したのだ。

 

 普通ならば、しばらくは息もまともにできず動けなくなるはずだ。なのに相手はすぐさま反撃に転じてきた。顔面にパンチを3発も貰った祭にはその威力が決して苦し紛れのものではないことは身を持って体感していたため余計にその部分が気にかかる。間違いなくあのパンチは3発とも十分に体重の乗った一撃必殺の威力を秘めたものだった。

 

 だがしかし祭を更に混乱させる出来事が実はもう一つあった。それは―――

 

(あかん、考えれば考える程、よぉ分からんくなって―――――――って!?)

 

 

 祭が今まさにその事を考えようとしていた矢先、再びあのドンッという衝撃音が耳に入ってきた。その音を聞くや否や祭は素早く身構える。しかし数秒後今度のソレは、自信に向けられたものではない事を悟ると、大慌てで一夏達の方向(・・・・・・)を振り返った。

 

 

「だぁッ!! また(・・)それかッ!!」

 

 

 またの部分を強調して、発せられたその言葉。もう何度目だといわんばかりに祭は〝デファイアント〟の経路へ先回りすると正面からぶつかり勢いを止める。

 

 

 ―――そう……祭を混乱させているもう一つの事、それがこの敵機の行動だ。もっと厳密にいえば隙あらば祭を放って一夏らの方へ一気に乱入しようとするのだ。

 速さで劣る祭も、流石に行き先が分かっていればそこへ先回りするのは難しいことではないため、なんとか向こうへの乱入を阻止し続けてはいるものの、それだっていつまで続けられるか全く分からない。

 特に今の戦い方ではそれが最大のネック(・・・・・・)

 

(ここまで露骨やと、逆に疑ってまいそうやけど……まぁ、間違いないわな。こいつの標的は……〝シュヴァルツェア・レーゲン〟!)

 

 

 祭は、ぶつかった衝撃を利用して〝デファイアント〟を軽く弾くと間髪入れずに右足を左斜め上へ跳ね上げそのまま一気に振り下ろす。右肩に直撃した蹴りは〝デファイアント〟を再び吹っ飛ばした。

 

 

(いずれにしても、今こいつを向こうに乱入させるわけにはいかん!)

 

 祭の視線の先で、〝デファイアント〟が三度ダメージなどお構いなしで反撃の体勢を整える。それを確認した祭は短く息を吐く。そして今の戦い方における最大のネックを限りなくゼロに近づけるべく祭は決心する。

 

(もお、ダメージが通っとるか通っとらんかなんざ、どうでもええ……はぁ……ちぃと作戦切り替えるしかあらへんわ……。けど、まぁ―――)

 

 

 そうその決心とはあのISを倒すことを諦める(・・・)こと。

 

 

 

 ダメージのどうやっても通らないであろう相手をどれだけぶん殴ろうが意味はない。意味の無い事はやったところでなんの進展もない無駄なことだ。

 ただでさえ、機体のギリギリの祭にとってはそんなことしても、戦える時間を削るだけでプラスになることは無い。

 こういうややこしい状況の時は、物事を一度逆の立場から考えてみるのもいい。

 

 そう、例えばそれは倒すために戦う事をやめるという視点から物事を考えるということ。

 

 祭はそこまで考えると、いったん大きく深呼吸をする。

そして自身の置かれている状況、つまりは機体はボロボロ、祭自慢の攻撃もダメージの通らない相手、長期戦になればなるほど陣が不利に陥っていく、そんな圧倒的不利な立場におかれている者が見せるにはあまりにも不釣り合いな、自信たっぷりな余裕の笑みを浮かべバッと両手を開いて見せた。

 

 

「お前を倒すんは諦めた。ちょっとやり方変えさせてもらうわ」

 

 

 相手がその言葉を聞いているかどうかなど関係ない。ただ一方的に祭は話を進める。

 

 

「これから、ワシはお前を倒すんやのうて……」

 

 祭は言いながら、親指を立て自分の後ろを指す。その先には一夏とシャルロット、そして〝シュヴァルツェア・レーゲン〟が激しい火花を散らす空域。

 

 

 

「あっちを守るために戦う(・・・・・・・)!」

 

 

 祭は、高らかに宣言する。そして心の中で

 

 

「ワシの後ろ……抜けるもんやったら抜いてみぃ!!」

 

 

 

 その声に呼応するかのように、スラスターを全開で噴かし祭へと飛びこんでくる〝デファイアント〟。

 

 

「さぁ、こいやぁッ!!」

 

 

 その機影を確認し祭は、高揚する気持ちを抑えきれず声を張り上げ迎え撃つ。そして心のなかでこうつぶやくのだった。

 

 

(―――――こういうのの方がワシは大得意やで!!!)

    

 倒すためではなく、守ることに全力を注ぐ。

 

 これまでは如何に倒すかに注力し、その所為で後手に回りギリギリでの予測による乱入の阻止を行っていたが、これはそうではない。

 

 

 倒すことではなく、自身の後ろにいるものすべてを守ることに全神経を集中するという不退転の決意。

 

 

 ぶつかり合い、時に押され、それでも押し返す。

 

 

 何をされようが、何が起きようが引かず下がらず折れず折られず。

 

 

 動かざること山の如し。

  

 

 

 虎音 祭……今の彼女に――――――

 

 

 

 

 ―――止められぬ者は無し――――

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




ども、のろいうさぎです。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。

え? 

あ、はい
生きてます。
そして、お久しぶりです。
個人的には僕自身このシリーズを読み直して、書き始めたところがあります←

と、いうわけで、皆さんご無沙汰しております。
実に1年ぶりという事で覚えてらっしゃる方などいないかも知れませんね(汗

またぼちぼちと再会していこうと思いますので、またよろしくお願いいたします。

今回は、一夏・シャルロット組と祭のそれぞれの戦闘についてメインで書かせていただきました。
次回では、その周囲の状況や動きなどにも触れ更にこの事件を加速させていけれればと思ってます。
さて、次回の見どころとしては!

全てから逸脱した〝狂気の瞳〟無縫 楓そして対峙するオータムと楯無、更に銃口を向ける鍾音から語られるこの騒動の真実。
そして、秋穂の存在の末梢とは何なのか。
次回もいつになるかは別として、楽しみにしていてくだされば幸いでございます。

改めまして、これからもよろしくお願いいたします。

では、このあたりで失礼いたします。
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