IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
正直に言えば、私自身両親のことを、どのように思っていたのか自分でも良く分からない。嫌いでは無いしかしそこまで好いていたかといえばそれも違う。私達〝織斑姉妹〟のいびつな関係に、気をもんでいるようではあったが、結局最後までその考えを聞くことなどなかった。もっといえば私にとって重要であったのは秋穂であり、育ててくれていることに感謝はあったがそれだけだ。
だから、私は、秋穂が……。妹と離れ離れになったことが問題だった。あの時踏みこんできた男どもは私が身を呈したにもかかわらず秋穂を政府管轄の施設へ連れ去ってしまった。
それは私も同じ事だ。私も政府が管轄している別の施設で監視付きの生活を送っていた。監視といっても別に独房の中ってわけじゃない。部屋自体はそれほどせまくも無かったし1人で暮らす分には不自由はあまりなかった。ただ、常にどこかしらから監視の目は感じていた。それがあまりにも鬱陶しかったあたしは一度その施設からの脱走も試みたが、所詮なんの力も持っていない私では妹を助けるどころか脱走する事さえできなかった。
そんな暮らしがしばらく続いた時だ。
その日も、昼間買い物に行くにも視線を感じていた私だったのだが、その夜ぱたりと視線を感じなくなった。ここは私が風呂に入っている時でさえ視線を感じるほどに監視の厳しい施設だ。それに私には一度脱走したという〝前科〟がある。そんな私を……監視していない? そんな馬鹿な話があるわけがない。
昼間は、遠巻きに政府の男どもが。風呂や寝室では一応私が女であるという事を考慮してくれたのか女性職員が見張っている。まさしく24時間監視され、私の生活は管理されているはずだ。なのに……気配も何も感じない。私はためしにリビングへと足を運んでみるがここでも同じだった。
私は一瞬、この生活に自分の身体が慣れたのだろうかとも思った。しかし、その考えは静かにリビングへと入ってきた1人の女性によって間違いだと諭された。
「だ、誰だッ!」
「あら、そんなに、警戒しないで頂戴、織斑 マドカさん?」
「何故私の名前を…」
「あなたの事はよく知っているわ」
女性は、私よりも恐らく一回りぐらい上で、どこか妖艶さを感じさせる物腰と大人の女性の雰囲気を持ち合わせ、更に紫色のドレスを身にまとう姿が、シャツとデニムというラフな私の格好とは対照的過ぎて酷くこの場に不釣り合いにうつる。というか実際不釣り合いだ。ここは施設で私はほぼ幽閉中の身だ。そんな所へ面会に来たのだとしてもその格好はない。この姿はそれこそ高級ホテルやどこか金持ちのパーティー会場でこそ映える衣裳だった。
しかしそんな女が私に何の用だ? 少なくとも私の知り合いにはいない顔だ。
私の詮索を知ってか知らずか、女はフッと笑うとリビングの椅子を引きそこへゆっくりと腰をおろし脚を組む。
「私の名前は、スコール・ミューゼル。初めまして」
「スコール?」
「そう、スコール」
「そのスコールさんとやらがなんの用なんだ? まさか、今度は同居して私の監視でもするつもりか?」
スコールと名乗る女性は、一瞬私の言葉にキョトンとした後口元を押さえて笑う。何かそんなにおかしなことでも言っただろうか。思わず私はムッとした顔でスコールを見やった。
「いや、ごめんなさい。そうか、そういう取り方もあるわね確かに」
「………」
「そう睨まないで。私は敵じゃない」
「信じられない」
「なら、今は信じなくてもいいわ」
「?」
「私がここへ来た理由はただ1つだから」
1つ? それにこいつ言葉を聞く限りでは政府の人間ではないのか? いやしかし、政府の人間でないのならば私の部屋にこうも容易く入る事等不可能だ。一体……こいつは?
私が思考を巡らせたまさにその時、今度は勢いよくリビングのドアが開かれる。そして現れたのは、私がよく知る人物だった。政府の職員どもだ。しかし見ると服は型崩れし、所々破れている奴らも居る。何故こうもボロボロになっているのだ?
部屋へと入ってきた男達は、スコールを見つけるなり激しい口調で詰め寄る。
「貴様ッ、こんな事をしてどうなるか分かっているのかッ!?」
「……あら、まだ立てたのね…」
スコールの目がスゥッと細くなる。その表情は先ほどまでとは打って変わって何処までも冷ややかで私でもひるんでしまうほどであった。スコールは椅子から静かに立ち上がると真っ向から男達と対峙する。
「お前、その小娘が誰だかわかってやっているんだろうな?」
「えぇ、もちろんよ。織斑の名前によってあなた達に引き裂かれた、心やさしい少女。こんなところで幽閉するべき少女では無いわ」
「彼女は、政府の保護プログラム下に置かれている。その意味は分かっているのだろうな。お前は今、国にたてついているんだぞッ」
「……だから……なぁに?」
一瞬スコールの手が光ったかと思うと、次の瞬間スコールは腕部のみ装甲に覆われており、その手には一振りの大鎌を携えていた。ISッ!? 私は直感的にそれがISであると気が付いた。そしてそこでようやく理解したのだ。政府の奴らをここまでにしたのが
スコールが握っていた大鎌は、シンプルでまさに死神の鎌というにふさわしい出で立ちだった。柄尻からジャラっと赤い宝玉の様な物が鎖でつながれている。IS用にしてはそれほど大きいというわけではないにしても、ISを持たない奴らを相手にするには充分だった。
男どもの顔が見る見る青ざめていく。そしてスコールは低くどこか殺気を纏った声で言った。
「こんな少女を、いかなる理由があろうとも幽閉する事があなた達の保護だというのならば――――」
「―――――それを私は認めない」
その後は一瞬だった。一番前の男に大鎌の柄尻が付きたてられ、後ろにいた男共々吹っ飛ばすと、素早く握りなおして今度は大鎌の付け根の部分で別の男のわき腹を襲う。更に苦しみもだえるその脇をスッとすり抜けると最後に部屋の壁を破壊する事もいとわず大鎌を振り回すと玄関先を固めていた連中をまとめて薙ぎはらってしまった。
その間わずか数十秒だったのだがあまりにも見事で、あまりにも速くて、私は呆気にとられてしまっていた。
リビングで呆然とする私の手を、スコールが戻ってきてスッと引く。
「あなたに力をあげましょう。そして選択しなさい。あなたが一番したい事を」
力をくれる? あの時の私はいまいちピンっと来てはいなかったが、だが、一番したい事ならばすぐに言える。そんな物前から決まっていることだ。愚問とはまさにこの事だろう。この現状にまだ戸惑いながらも私はスコールの顔をしっかり見やった。そして選択した。
「妹を、助けたいッ!」
あの時のスコールのどこか満足そうな顔が今でも忘れられない。あの答えを初めから予感していたようなあの顔が。それからはスコールの協力もあって秋穂を助け出し、〝ファントムタスク〟の面々とも徐々に打ち解けていった。ファントムタスクへの加入や、保護プログラムの真実を聞き激昂したりと色々とあったのだが、今ここでは語る様な
物でもないだろう。
「―――い、おいッ」
そうだ、確かこんな声で、荒っぽい口調の奴が居たな、初め会った時はなんだこいつはと思った。
「ム――――――エムッ!」
エム? あぁそう言えばそんなコードネームをもらったな。こいつやスコールはいつもそう呼んでくる。秋穂だけはマド姉といつも変わらず呼んでくれるのだが。
「おい、エムって!!」
しかし、嫌に今日は揺れるな、しかもさっきからずっとオータムの声が聞こえているし――――――
「起きろぉぉぉぉぉぉッ!!!」
「―――――――――ってうわッ!?」
「うごッ!」
な、なんだという!? 敵襲か!? そうなのかッ!? えぇいッこんな時にッ!! し、しかし何故だ、何故身体が動かん!?私はどうしてしまったというのか、一体何がどうなっているッ! どうなって、どうなって―――――――――ん?
私は、徐々に見え始める光景に動きを止める。どうして、オータムが顎を抑えてうずくまっている? というかシートベルト? ………あ、私は……
「寝てしまっていたのか」
「てめぇ……たいがいにしろや……」
という事はさっきからオータムの声が聞こえていたのはこいつが私を起こそうとしていたのか。更に肩に軽い痛みが……。あぁ、そうかどうやらオータムの声に驚いた時跳ねあがった右肩がオータムの顎を直撃したらしい。というかそれしか考えられん。なるほどな
「納得だ」
「意味わかんねぇ」
私は服の乱れを直しながらオータムの車から降りる。だんだん頭が冴えてきた。そうだ今日は秋穂の模擬戦の日で、オータムに車を出させて学園を含めたこの街を一望できる高台までやってきていたのだ。その途中で私が寝てしまって……あんな昔の夢を。
それは良いとしてだ。私はオータムに向き直る。既にオータムは学園のアリーナの方角へと双眼鏡を向けていた。オータムが使用しているのは防振、暗視装置付きの軍用スペックの双眼鏡で、肉眼ではISも米粒ほどしか見れない大きさの距離でも鮮明にかつ充分な大きさで視認する事が出来る物だった。
「お、やってるやってる…」
「オータム…」
「っちぇ、わぁったよ…って端末投げんな馬鹿ッ!」
私はオータムに端末を放り投げる。その端末は通信衛星とリンクしており、IS学園で使用されている周波数帯に割り込む事で実際に学園で映っているモニターの映像を手元で見る事が出来る。
実際これは国際IS委員会が定める法に抵触しているのだが、高度情報社会の今となっては何処の国も黙認状態で行っているのが現実だった。言ってみれば「お前のところやってるよな? だったら黙っててやるからうちもやる」ということである。
そしてほどなくして、オータムが学園のモニターへのリンクを成功させ、秋穂達の戦っている第3アリーナへと画面を切り替える。
「今はまだ、あの織斑 一夏が戦ってんだな」
「……ほぅ、中々素人にしては良くやる」
私は、モニターの映像に若干だが目を見張った。相手はセシリア・オルコットという代表候補生だそうだ。普通に考えれば話にならない実力差があるにもかかわらず、織斑 一夏はそこそこ良い動きをしている。最もこれは私が想定していたレベルが低すぎたというのもあるのだが。
一夏は、まだ拙い機動だがセシリアの攻撃を躱しつつ、搭載されている武装を抜き放つ。それは私にとってみれば思わず顔をしかめたくなるような武器だった。
「おいおい、こいつ馬鹿じゃねぇの? そりゃ武器を出さなきゃ負けるけどよ、射撃特化型に近接武器選んでどうすんだよ」
オータムの意見はもっともだ。セシリアの機体は私のIS〝サイレントゼフィルス〟の姉妹機にあたる存在。基本的にBT兵器運用の稼働データを取る事がメインのため射撃用の兵装しか積んではいない。近接用もあるのだろうが、おまけ程度の様なものだろう。〝サイレントゼフィルス〟のように大型のブレードなど積んで居るわけがない。しかしそれぐらいの事があろうともセシリアのと一夏の実力差は目に見えて大きな開きがある。一夏の機体〝白式〟の今の機動ならばセシリアなら射撃武器で充分に足止めが可能なはずだ。
つまりブレードの有効範囲内にセシリアを入れる事がどれほど難しいのか、その程度の事を、セシリア相手に踏みとどまれるぐらいの実力がある今の一夏が理解できていないはずはなかった。だから私は瞬時に悟る。というよりはあのブレード〝雪片〟…。まだファーストシフトが完了しておらず無骨な外観を纏っているとはいえあれは織斑 千冬が〝モンドグロッソ〟で使用していた武器その物。それを見た瞬間に分かった事ではあったのだが。
「それは違う、オータム」
「は?」
「あれは選択ミスなどではなく、初めからあの機体には
「あれしかって……じゃああの機体…」
「極端なの近接格闘特化型ということだな」
「マジかよ…」
「だが、よく考えてみれば理にかなっている」
「?」
「秋穂の射撃能力の低さを思い出せ。血は争えん。そういうことだ」
「………なるほどねぇ」
オータムが顔をひきつらせる。自分も言っていてかなり惨めというか情けない。だが事実だから仕方がない。
しかしだ。あの機体、見れば見るほどに妙だ。ファーストシフト前であの性能。既に何十時間とISで空を駆けているはずのセシリアと互角以上に戦えているのは、事実、ISの性能もあるはずだ。いくら専用機と言っても、これは少し異常と言わざるを得ない。……まさか……あのIS…
私が目を細めた瞬間だった、アリーナで大きな爆発が起きモニターの映像が若干乱れる。
「なんだぁ?」
「……〝ブルー・ティアーズ〟のミサイルだな。まぁその前にもビットの攻撃をかなりもらっていたから……これで
意外に呆気ない。まぁ予想以上ではあったが所詮こんなものか? しかし、爆煙が晴れモニターが回復していくにつれゆっくりと徐々に私の考えは否定されていく。回復するモニターに映し出されたのは、先ほどまでの無骨な外観が嘘のように流線型の洗練されたまるで中世の鎧の様なフォルムへと変わる。そして以前よりも〝反り〟の強く
のぎからは僅かに光の漏れるその武器。あの姿はまさしく〝雪片〟だ。
「タイミングが良いというかなんというかな」
「……そうだな」
ファーストシフトした〝白式〟は 前にも増した機動力でセシリアのビットを次々と破壊していく。セシリアの弱点を見抜いたか? ……いや、違うな。元々ある程度弱点が
分かっていて、しかし以前まではその弱点を付けるだけの機動力が無かっただけだ。
そこら辺は、流石〝秋穂〟だろう。日程が変更になったという連絡があった時に、一夏と共に相手の分析を行っていると言っていたしな。
秋穂の観察眼と、今の〝白式〟の機動力……。セシリアの負けだろう。
私が勝敗をある程度決め、次の秋穂戦に気持ちを切り替えた時だった。オータムの抜けた声が私の耳に飛び込んできた。
「あ~あぁ……負けちった」
「何?」
「負けたよ、あいつ」
「……あの状況でか」
一体目を離したすきに何があったというんだ? 勝つ要素しかなかっただろうに……。
しかし、現場にも居ない、双眼鏡と端末で映像は見られるがそれだけの私達にそれ以上に詮索は不可能だった。とにかく、織斑 一夏の負け。それだけが事実だ。
「まぁよ、とりあえず次はあたしらの可愛い妹、秋穂の番だな」
「妹は勝つ。それは揺るがない」
「……あ~、ちなみに聞いとくけどなんでだ?」
「理由は2つある。 1つ目は、私の妹だということ、2つ目は可愛いからだ」
「1個目はともかく、2つ目理由がおかしいだろうが…」
失礼な、なんでそんな目をむけられればならんのか……。
私はフンッと鼻を鳴らすと、アリーナを見やる。そして心の中で強く念じる。
頑張れ、秋穂―――――っと
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「なんか色々と……すいませんでした」
ピットへ戻ってきた一夏があたし達に言った一言目はそれだった。まぁでも、素人にしちゃ善戦だったんじゃないの? っていうかこのあたしが一緒に分析をしてあげたのだからあの位はしてもらわないと困るけどね。時間の無駄とか思いたくも無いし。
「あれだけ、持ち上げておいて一気に落とすなお前は。なんだあれは新手の姉への嫌がらせなのか?」
「い、いやそれはそんなつもりじゃないけど……」
「だ、大丈夫ですよ織斑君ッ! 織斑君はまだまだなんですから負けて当然ですッ」
「山田先生それは慰めになってないです……」
「えぇッ!?」
「一夏」
「げッ、箒……」
「この負け犬!」
「なんか、俺散々……」
最後の望みをかけてなのか一夏があたしの方を見やる。ってか、あたしが何か慰めの言葉でも言うと思ってんだろうか。言うわけないよね。けど、一応発言を求められているのだから一ことぐらい言っとこうかな。
「一夏君」
「あぁ……」
「格好悪い」
「くそッ…しばらく立ち直れねぇッ」
まさにorzと言った感じで一夏が、その場に倒れ込む。しかしそんな弟に姉は何処までも非常であった。
「とにかく、そこをとっとと退け。東雲が準備に入れん」
セシリアに結果として負け、帰ってきたピットでこの言われよう。一夏は半泣きで立ち上がると1人トボトボとロッカールームへと消えていく。
そしてそれに伴って皆の視線が、今度はあたしに向けられる。さて、そんじゃ始めようかな。
あたしはその視線に対してくるりと背を向けると、ハンガーに固定されている〝打鉄〟へと乗り込んだ。
「えぇっと、うん。頼んだ通りに調整はしてくれてあるみたいだね。これなら専用機相手でもなんとかなるかな」
「東雲、少し良いか?」
あたしが〝打鉄〟のチェックボードを確認していた時、織斑先生が近づいてくる。
「1つ、お前に聞きたい事がある」
「はい?」
「何故、〝打鉄〟だ?」
「何故?」
「お前、織斑とオルコットの戦闘分析を行っていたのだろう? だったら奴の攻め方も分かってるはず。なのになぜ射撃武装を持たない〝打鉄〟を使う?」
まぁ、それは当然の疑問だろう。しかし、この質問はマド姉にもされた質問で、正直自分自身惨めに感じるからあまり言いたくない。だから、あたしははぐらかすようにこう答えた。
「色々と、考えがありましてね」
「考え?」
「ま、見ててくださいな」
「……ふむ」
実際考えがあるのは事実だ。もちろん射撃の腕がゴミっていうのがこの質問のあたしからの正式回答だけどね。けど、さっきの一夏との戦闘で、セシリアの弱点みたいなものはある程度分かった。
セシリアは、今向こうのピットで一夏に落とされた、ビットを予備機に搭載し直している。つまり条件は一夏が戦った時とほぼ同じ。専用機か汎用機かの違いはあるが言ってみればそれだけだ。戦い方次第では、汎用機で専用機にだって勝つ事は出来る。自分にまだ、候補生に確実に勝てる実力があるかと聞かれればそれはノーだ。そこまでうぬぼれちゃいない。
だからこその分析。実力が上なら、情報量でその実力差を少しでも埋めればいいだけだ。
あたしは、怪訝な顔でこっちを見やる織斑先生を尻目に、〝打鉄〟をカタパルトに載せる。
「とりあえず、頑張ってきます」
ヒラヒラと手を振りながら、リラックスした声で皆に言う。そのすぐ後に気密シャッターが閉まり、あたしはアリーナへと撃ちだされた。
「まさか、本当に汎用機で出てくるとは思いませんでしたわ?」
「……そりゃ、褒めてるの? ってか持ってないんだから仕方ないじゃん」
あたしが射出された時既にセシリアはアリーナの中心付近で対空していた。ビットも換装し終え、その姿は一夏戦開始前の時と同様鮮やかな青色の機体が、太陽の光を浴び気高く堂々とした姿で、そこに立っている。更に思った通り、観客席は、満員とはいかないまでも別のクラスの生徒や教員までもが観戦している。やはり一夏効果は絶大ということだろうか。正直、あまり目立ちたくはない。こんなところで模擬戦やってる人間が言う事でもないけれどね。
あたし達は、お互いに軽口を飛ばし合いながら、間合いを測る。既に試合開始のブザーはなっており、いつ動かれても文句は言えない。あたしは、ズラッと〝打鉄〟のブレードを抜き放った。それを見てセシリアが鼻で笑う。
「言っておきますが、〝一夏さん〟のように専用機ならいざ知らず、汎用機程度の推力では私をそのブレードの効果範囲に入れる事など――――」
そして素早く〝レーザーライフル スターライトmkⅢ〟を構え…
「――――できませんわッ!!」
躊躇なくトリガーを引いた。その直後あたしは一気に加速。スラスターを全開しに間合いを詰めにかかる。だがセシリアは巧みなビットコントロールとスラスター制御でそれを許さない。だがそれは分かっていた事だ。あたしは無理にはいかず、ビットから来る攻撃を冷静に処理し、レーザライフルの攻撃も難なく躱して見せる。
ってか一夏さんね、あの戦闘中に何があったのやら。
あたしは、セシリアの攻撃を躱し、それでいて前へ出ながらアイタッチでコンソールを操作し敵機との距離を図る。
(……約13.4メートル……それ以上でもそれ以内でもない……この距離をしっかり保ってくる)
見ているよりも、やはり実戦は違う。分かっていた事だがかなりやりにくい。当然だがココまで距離を完璧にとらえてくるとはね。やはり空間把握能力はずば抜けている。
更には〝打鉄〟に〝ブルー・ティアーズ〟程の推力は備わっていない。つまり簡単に説明するなら、陸上選手に一般人が追いかけっこを挑んだようなものだ。けど、一般人にだって意地はあるし策だってね。
「どうしましたの、実力差に絶望しましたッ?」
思考に傾倒しすぎ動きの止まったあたしへ、ここぞとばかりセシリアが攻撃を仕掛けてくる。右、左、上、下。更にはセシリアの持つレーザーライフルからも絶え間なく続く射撃射撃射撃。
「くッ!!」
「まだまだ行きますわよッ!」
(くっそぉ、汎用機ってここまでッ)
あたしは、激しくなっていく攻撃を必死で掻い潜りながら、歯がみする。あたしが慌てているのは、セシリアの攻撃ではなく〝打鉄〟の反応限界である。あたしはこれまでの訓練。ずっとオータムさんのISを間借りしてきた。オータムさんの機体〝アラクネ〟はベースはアメリカの汎用機であるが、この〝アラクネ〟はオータムさん用にチューニ
ングされたスペシャルスペック〝SPEC‐D〟と呼ばれる物で反応速度や性能自体もかなり底上げされている。そのため、あたしの身体は訓練の段階から、というか初心者の段階から専用機の能力に慣れ切っていた。
だから、いくら世間一般的な評価が高い〝打鉄〟であったとしても、身体が自然と〝専用機〟と比べてしまう。感覚や身体はしっかり反応できている。攻撃は見えているのに、〝外側〟が付いてこないのだ。しかも調整してこれである。乗り込んでチェックボードを見ただけでは分からなかった盲点。
セシリアの放ったレーザーのうちのうちの1本が、右足にヒットする。今のもだって反応できていたッ。このッ!
ヒットの衝撃でやや身体が右へ弾かれる。その一瞬、あたしは無防備な背中をセシリアに向ける。
「まっず!?」
「まずは、ファーストダウンですわね♪」
「ふぁ、ファスト? って、うあッ!!」
あたしは急いで、機体の立て直しを図るが焼け石に水。直後背中に鋭い痛みと衝撃が走る。セシリアの放ったレーザーが直撃し、さらに追加でビットを2~3発加えた攻撃があたしをアリーナの地面まで吹き飛ばす。
そして、次に見た世界はアリーナに打ちつけられて砂煙に囲まれた世界だった。
砂けむりが晴れていく合間から見える彼女は余裕綽々でライフルをくるくるとまわし、その周りをビットに舞わせる。まるで舞踏会の様なその機動が、ある意味美しくて腹が立つ。
「……ッつぅ……」
「その程度ですのね、やっぱり」
あたしは、痛みの残る背筋をかばいながら身体を起こす。どうやらあの女、チャンスだと踏んで出力MAXで撃ってきた様だ。ま、あたしでもそうするけれどね。セシリアは再び銃口をこちらに向けながら、わざとらしい演技を見せ始めた。
「私もこれ以上、弱い者いじめをするつもりはありませんの。だってかわいそうでしょう? 私も心が痛みますわ」
「?」
「ですから、あなたにチャンスを差し上げます」
「チャンス?」
「えぇ、もしあなたが―――――――」
「断るよ」
「って、まだ何も言ってませんわ!」
あたしは、そのくだらない申し出を聞き終わる前に遮る。チャンスだって? あたしは、先ほどまでとは打って変わって、セシリアに睨みを利かせる。
「良いよ、別に聞かなくても」
「な、なんッ」
「チャンスは、本当のチャンスは。そんな風に〝ほどこし〟でもらうもんじゃない。チャンスってのはそんなに簡単なもんじゃないッ!」
「く、口が減りませんわねッ!」
あたしの気迫に押されながら、セシリアが甘い照準でライフルのトリガーを引く。あたしはそれを一歩下がり1発目を、2発目を軽くトンッと横へ飛んで躱す。いくら反応が悪かろうが、甘い照準に当たる程あたしも下手じゃあない。
だけども…はぁ……せっかく、策も練ってきた。分析もした。だけど……もういいや。一夏の役に立ったのならそれはそれで結果オーライ。あいつが強くなったのならそれでいい。 悪いけどあたしは、
「あんた、悪いけど……勝つよ」
「あなたはッ!」
あたしは、顔をしかめるセシリアを見上げると、持っていたブレードを〝地面へと〟思い切り突き立てた。
「な、何を…」
あたしの行動に一転困惑するセシリアを尻目にあたしは構える、本来のスタイルを。実際は他のISでもこの構えだからあまり見せたくないけれどチャンスを〝ほどこし〟と、情けと勘違いしてるこいつに一発いれなきゃ気が済まないんでね。
「そ、その構えは…」
あたしは、左足を後ろへ引き半身の体勢から若干内また気味にスタンスを取り踵を上げる。そして顎を引き、脇を閉め身体を少しだけ丸めると右腕を顎の前に、左手をこめかみ付近へ。それを見た会場内から、ざわめきが起こる。〝打鉄〟の唯一の武装でもあるブレードを投げ捨ててまで取ったあたしの構え。それは――――――――
「ぼ、ボクシングッ!?」
セシリアの驚きの声。その直後あたしの拳がセシリアの顔面を的確にとらえていた。何故推力で劣るあたしにこんな接近を許したのか。目を白黒させるセシリア。そこへ更にあたしは2発3発とさっきのお返しと言わんばかりにパンチを撃ちこむ。
さぁ、反撃を始めよう。
お久しぶりです、のろいうさぎです。
序盤で少しづつ主要人物の心情を入れていきたいと思います。
感想で頂いた事を参考にしつつ、ストーリーに上手く組み込んで行ければいいと思っていますのでよろしくお願いします。
と同時に、ストーリーやからの都合上かなりファントムタスクが丸くなっていると思います。そのあたりはご了承ください。
今後、加筆や修正等もあると思いますがなにとぞよろしくお願いいたします。
ではまた次回6話でお会いしましょう。