IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第6話~変化と成長の〝秋達〟~

 あたしは、画面の向こうで戦う秋穂を見ながら、その姿に思わず顔を綻ばす。結構成長したもんだなぁ。まぁ、そのなんだ、今でこそあたしは秋穂の事が大好きだし妹みてぇに大切に思っちゃいるが、来た当初はそうでは無かった。

 

 秋穂(あいつ)があたしらの所へ来た時、あたしは正直驚いた。今、あたしの横で双眼鏡覗いてる秋穂の姉〝織斑 マドカ〟はまぁ中学か高校生ぐらいだったが、秋穂はまだかなり幼かった。見た目5歳ぐらいかだったな。それみたあたしは、いくらスコール相手だからつっても、反対した。確かに織斑の名前、それを持つこいつらは良いカードにはなる。だが、ここまで幼い……まぁその、ぶっちゃけた話ガキを連れ回しながらの任務なんて御免だったからだ。

 

 

 

「スコールッ! あたしはごめんだッ いくらお前の頼みでも、ガキの子守しながら任務なんざ」

「じゃぁ、今から海にでも放り出す?」

「だから、放っておきゃ良いだろッ」

 

 あの2人を別の部屋で休ませあたしとスコールは、あたし達の家でもある〝ミルヒシュトラーゼ〟ブリッジで激しく言葉を交わす。しかもその時はいつもの様にあしらわれるわけでなく、スコール自身かなり感情的に言い返してきていた。

 

「放っておく? 死ぬわよあの子たち」

「政府の施設にいたんだろうが、だったらそこに任せておけばいいじゃねぇかよ?」

「だから、それが死ぬっていっているのよッ! あなた保護プログラムを守るものか何かと勘違いしているんじゃないの?」

 

「なんだと?」

 

「保護プログラムは、確かに要人を守る物であることに違いないけれど、365日間、寝ている間も監視され続けて、誰と会ったか何をしたかまで執拗にとられる調書。おまけに部屋には盗聴器なんて当たり前。そんな所にいたら、訓練された軍人だって精神に異常をきたすわ」

 

「だ、だからってそんなのあたしらには関係ねぇよッ」

 

 

 あたしは、バンっと横にあった机を叩き、スコールに威圧的な視線を向ける。しかしスコールにそもそもそんな程度の威圧なんて意味がない事は分かっていた。分かって居たがそれでも睨まずにはいられない。ここ数週間でいきなり2人もメンバーが増えたのだ。マドカはさっきもった通り年齢的にもまぁ分別はつくから良いとしてもあのガキには無理だ出来るわけがねぇ、ピーピー泣くがオチだ。そんなもん喧しくてやってられねぇし、何より面倒くさい。

 

 

 スコールはスッとめを細め、あたしを威圧し返す。この顔はマジだ。今スコールは本気で怒ってる。しかし、それでも無理な物は無理だし納得できない物は納得できない。正直言うと結構怖ぇ(こえ)がなるべく表へ出さないようにしながら毅然とした態度で挑んだ。

 

 

「良い、オータム、よく聞きなさい」

「お、おぅ…」

「あたしが彼女達を本当の意味で保護するのにはしっかりとした理由がある。今はそれを教えられないけれどこれは私達、全てに属さず世界の均衡を守る者〝ファントムタスク〟の存在理由に関わることなの」

 

「そんな、でけぇ話なのか…?」

「もちろん、私がただ保護したいっていうのもあるけれどね。なんて言うのかしら母性本能?」

「……知らねぇよ、そんなもん……。けど存在理由って…」

「あの子達が、引き裂かれた理由にもなった事。今はまだここまでしか言えないわ」

「……」

 

 い、いきなし自分達の存在理由だなんて言われてもピンとこねぇ。こねぇけど……だけどなぁ、まだ納得いかねぇ

 

「けど、あのガキンチョはやっぱさぁ…」

 

 

 あたしが不服そうに口走った時だった。ブリッジの入口から幼い声が響いた。

 

 

「ガキンチョじゃないもんッ!」

「あぁ?」

 

 あたしは、その声がした方へと振り返る。するとそこには予想どおりっていうかなんていうか、あのガキが立ってこっちへ睨みを利かせていた。その表情を見た時一瞬あたしの頭の中に、マドカの目がフラッシュバックする。そいつはクリッとしたでかい目をしてはいたが、相手を睨むと一転して細く目じりが切れあがる。嫌になるぐらい、マドカにそっくりだった。

 

 

「あたし、ガキンチョなんて名前じゃないよッ」

「……てめぇ、屁理屈コネやがって。名前なんざどうだっていいだろうが。ガキはガキだろ」

「どうでも……よくなんかないよ……」

 

 徐々に声がそして身体が震えていく。おいおい、冗談だろ、こんなところで泣くつもりかよ。あたしはそう思った。しかし実際は違った。いやまったっく違ったってわけじゃない。確かに泣きはした。違ったのはその泣き方だった。涙をこらえるように手をグッと握りしめ、肩を時折ヒクッと動かしながらも決して大きな声を上げない。それでいながらしっかりと自分の意見を述べる。

 

「あたしはッ……織斑が良かった……のにッ。なのに、訳も分からないままに苗字を変えられて……ヒックッ……東雲なんて誰だかわかんないよぅ……ッ」

「………」

 

 な、なんか、こう言う泣き方されると気まずいな……けどまぁ……その……それでも。あたしは困り果てながらも口を開こうとする。しかし次の瞬間秋穂の口から飛び出した言葉を聞いて絶句した。

 

「全部……マド姉から聞いた……こんな目にあったの〝アイツ〟の所為なんでしょッ!! アイツの!! だったら、あいつの所為でこんな目にあったっていうなら……そんなの……そんなの――――――」

 

 

 

 

 秋穂はスゥっと息を深く吸い込みそしてそれをある単語とともに一気に押し出した。

 

 

 

 

 

「―――――――殺してやるッ!!!」

「なぁッ!?」

「ッ!」

 

 

 これにはスコールも流石に驚いた表情を見せざるを得ない。聞いたかよ? 鷹だが5歳児が殺してやるだぞ。しかもただ言っただけじゃない。その言葉の端々からは僅かながら殺気も垣間見える。……マジかよこの年で…。

 

「秋穂ッ!」

 

 あたしらが、目を見開く中、マドカがバッと目の前に割り込んできたかと思うと秋穂を抱きしめる。優しい目で、愛おしくかけがえのない妹を。そしてそれ以外の者にはみな平等に殺気じみた、というか殺意に満ち溢れた瞳を容赦なく向ける。

 

 

「貴様ら、秋穂に何をした」

「なんもしてねぇよ、言掛かりつけてきてんじゃねぇっての」

「……そうか、ならば死ね」

「って危なッ!? お前聞いてた!? なんもしてねぇって言ってんだろ」

 

 

 あたしは、マドカが握っていたナイフを避けつつその手を掴む。ってかこいつ、ナイフなんざどこで!? 

 あたしは手首を掴み、やや乱暴だがねじあげる。そして開き気味になった手からスコールがナイフを奪う。そのスコールの表情はどこか寂しげであった。

 

「ねぇ、マドカさん。まだ私達の事は信用できないかしら?」

「………」

「一応の誠意は見せたはずじゃない? それにあなたも加入の件は承諾してくれたじゃない?」

「…………承諾はした、だがやはりそれでも目的も分からずついていく気にはなれない」

「目的?」

 

 

 その話題は今さっき、あたし達が話してた事だ。そしてあたしにすらあそこまでしか言えないという事は、少なくともその当事者たちに開示されている情報は更に少ないもののはず。確かに、助けられた本人達もあまりの情報の少なさに不安や違和感を覚えても仕方がねぇよな。さてスコールはなんて答えるか。

 

 

「……そうねぇ、あなた達を助けたかったから……ではご不満?」

「不満も何もない、それでは答えになっていない」

「そうかしら?」

「そうだ、助けたいにも理由がある。あいにくと私はそれで納得するほど人は良くない」

 

 スコールは返事を聞くや、フッと笑いそしてかがみこんで視線を秋穂を抱きかかえるマドカに合わせた。その表情は穏やかで何処までも優しかった。

 

「マドカさん。私達には確かにあなたが思うように何か思惑があるのかもしれない」

「やっぱり」

「だけどッ」

「?」

「どうかしら、少しの間でいいわ。信じてくれない? 私達はあなたが見せろという誠意は全部見せる。力だって与えてあげられる。だから……少しの間信じて?」

「………」

「もし、信用できなければその時は……」

 

 スコールはマドカに、もう一度手に持っていたナイフを手渡した。……ってぇ!?

 

「おい、スコール何やってんだ! こいつはあたしらをッ」

「オータム……少し黙ってなさい?」

「けどよ」

「オータムッ」

「……くそッ」

 

 

 あたしがしかめっ面でそっぽを向くのを尻目にスコールは話を戻す。手渡したナイフをマドカの手ごとゆっくりと握りしめながら。

 

 

「その時は、これでいつでも刺してもらって構わないわ」

「………だったら……だったらッ!!」

「……ッ!」

「ここで、今すぐ殺してやるよッ!!」

 マドカはスコールの手を振りきり、ナイフを持ち直すとそのままスコールへと飛びつき一直線にナイフを突き立てた。

 

「スコールッ!!」

 

 

 

 

 

 

 ガギンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 その声を上げたのは誰だったか。しかし確かにその場にいた全員が驚き目を見張り、そして同時に目を疑っていた。振り下ろされたナイフはスコールの右頬をかすめブリッジの床につきたてられている。マドカは真っ直ぐ、スコールの顔めがけて振り下ろしていた。外れるわけがない。そう、外れるわけがなかった、〝秋穂が小さな身体でマドカにぶつかっていなければ〟。

 

 呆然と実の妹を見やるマドカ。秋穂はとっさの行動だったのだろう、今になって恐怖を感じているのか泣くのとは違う別の震えに襲われていた。

 

 

「秋…穂?」

「マド姉……あたし……」

「……どうして」

 

 

 その疑問はあたしだってそうだ。ついさっきまで名前が大事とか言いながらあたしらに食ってかかって来たガキがなんでスコールを助けんだ?

 秋穂は、震える身体を必死に抑えながら立ち上がると、あたしらを見やる。

 

「この人たち、あたし達を助けてくれたけど……確かにマド姉の言うとおり怪しいのかも知んない」

「……」

「だけど、この人達殺しちゃったら……やっつけちゃったら……またあたし達居場所がなくなっちゃう」

「……それは」

「あたし、大丈夫だよ。さっきも泣いちゃってたのあたし自身の所為だったし……」

「……」

「だから……ここに居ようよ。少なくとも……施設(あんな所)よりは全然いい」

 

 

 

 マドカはバツの悪そうな顔で立ち上がるとスコールから少し距離を置き、ナイフを懐の鞘へ戻す。スコールもパンパンと服をはらいながら立ち上がった。更に秋穂は続ける。

 

「それに、マド姉さっき部屋で言ってたよね、私はこの組織に入るんだって。力なかったからあたしを守れなかったってだからその力を得るために入るって……だったらあたしもそうする。マド姉がやる事に間違いなんて無いから……」

「秋穂ッ!?」

「んもッ!?」

 

 

 マドカは先ほどまでの表情を一瞬で捨て去り慌てて、秋穂の口をふさぐ。だが時すでに遅し。マドカに取って聞かれたくない事の全ては既に声に出てしまっていた。あたしはともかく、聞いてにんまりと笑ったのはスコールだった。

 

「マドカさん?」

「ッ!?」

「今までのはなんだったのかしらねぇ?」

「………別に………なんでもない」

「だけど私、押し倒されちゃったのだけれど?」

「……あれは……その」

 

 

 おい、ちょっとあたしにも言わせてくれ、今までのピリピリした空気は何処へ行ったんだ? 結構重要なシーンとかじゃなかったのか今の。秋穂が口を滑らせたといっても良いのかよ? 

 

 スコールはそのまましばらく、マドカへ嫌味な質問を繰り返しそして最後に笑って言った。

 

「ありがとう、そしてよろしくね」

「ふんッ」

「……お願い……します」

 

 一方は鼻を鳴らし一方は、ぎこちなく頭を下げる。一件落着ってかぁ? ……んなわけねぇよな。あたしは納得してねぇしな。あたしはマドカ同様に鼻を鳴らし腕をくむ。

 

 

「待った待った、そっちで解決すんのは良いけどあたしは全然納得してねぇからな」

「オータム、まだ言ってるの」

「言ってるも何もねぇ、あたしは子守しながらなんて絶対嫌だぜ」

「……ふん、子守が必要な感じでわがままを言ってるのは誰だ」

「何ぃ?」

 

 

 調子乗りやがって……大体なぁッ! あたしがマドカに詰め寄ろうとした時グイッと服の裾を引っ張られた。

 

「おねーさん」

「ガキンチョ……」

「あたしの事で怒ってるんだよね」

「………あぁ、そうだよ。あたしは、ガキの相手なんてごめんなんだ」

「お願い、出さないで。あたしせっかくマド姉にも会えてやっとあの地獄から解放されて……。何でもするから。邪魔にならないように大人しくしてるから……だからここに置いてください。邪魔なら邪険にしてもいい。だから……お願いします」

 

 秋穂は再び、ぎこちなくも深々と頭を下げる。さっきから、聞いているとこのがきは名前もそうだが嫌に居場所にこだわっている。そんなに……地獄見てぇな所なのか…、施設ってのは…。

 

 あたしは、秋穂をじっと見やる。正直ここまで頼まれてもまだ納得はできていない。しかしここまでの言動を総合的に見るとあたしが思ってる以上にしっかりしてやがるのかもしれない。

 

 

 ……まぁ……泣きわめきゃそんときは蹴りだしゃいいか。こんなガキ1人ぐらいわけねぇし。

 

 

 

 あたしは、しばらく考えた後、数度頷きため息交じりに吐き捨てた。

 

「……はぁ、わぁったよ。その代わりこっちに迷惑かけんじゃねぇぞ!」

 

 今思えば、その言葉を言った自分を殴ってやりたいぐらいだ。あの後の秋穂は成長と同時にあたしやマド……いや、エムから技術を学び迷惑どころか気が付けば秋穂の成長に一喜一憂する自分がいた。そして今では―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっしゃぁぁ、行け行けッ!!」

 

 秋穂の右ストレートが、セシリアの顔面を捉える。秋穂のファーストヒットだ。更に続けざまに秋穂はセシリアへ攻撃を当てていく。あたしがまるで、テレビで格闘技の中継を観戦している事よろしく、声をあげる。しかしエムはどうも腑に落ちないらしい。

 

「あいつ……考えがあったのではないのか?」

「考え?」

「あぁ、通信で言っていたんだ、色々考えがあると」

「へぇ……んなことを」

「あぁ」

 

 考えねぇ。でもそれって

 

 

「ブレード捨ててスタイルを戻す事じゃないのか?」

「……いや、私にはどこかあいつが怒ってるようにしか見えない」

「怒ってる? 何に?」

「それは分からんが……」

 

 

 なんだそりゃ、……にしても怒ってるねぇ。なんか言っちまったのかね? あの金髪女。

 

 しかしだ、怒ってるならそれはそれで良い。

 

「ま、でも怒ってるんなら……よ?」

「あぁ、そうだな。どうであれ怒って頭に血が昇り始めているのなら秋穂にまず負けは無くなった」

 

 

 秋穂は、色々と策を弄する奴ではあるが、その実誰よりも熱くなりやすい。本来熱くなりやすい事はあまり良い事ではないのだが秋穂の場合はそうとも限らない。秋穂はある1つの技術を除けば、まだ攻撃がさほど洗練されていないだけに、その熱くなりやすさが秋穂の攻撃をより荒々しいものに〝昇華〟させる事がある。

 

 もちろんこれは、毎回そうではないのだが。しかし、これはツボにはまると相手にとってはとんでもない脅威となるだろう。

 

 それにだ。

 

「これで、とりあえず安心して見てられるな。それに秋穂にはあの〝技術〟があるんだ。怒りとアレを駆使すりゃまず大丈夫だろ」

 

 

 

 

 あたしはへヘッと笑いながらモニターに視線を戻す。そのあたしの様子をエムがジッと見やっている。ん? なんだ?

 

「おい、どうかしたのか? 双眼鏡覗かねぇのか?」

「……オータム」

「だから、何だって」

「いや、秋穂の事を本当にしっかり見てくれているんだなと思ってな」

「……しっかり?」

「ッフ……オータム、一度しか言わんぞ」

 

 マドカは笑うと、視線をアリーナへと向ける。そして、静かに、だがはっきりと言った。

 

 

「秋穂を認めてくれて、しっかりと面倒も見てくれて……感謝している」

 

 

「――――――ッ!?」

 

 

 な、なな何言いだしやがる!? こいつッ あぁぁぁぁッ顔から火が出そうじゃねぇかッ、なんだ!?これがいわゆるツンデレって奴なのか!? って馬鹿ッあたしは女で……けどスコールは好きだしなってそうじゃねぇぇぇぇッ!!

 

 

 モニターを持ちながら悶絶するあたしを尻目に、その原因を作ったエムは涼しい顔でひたすらにアリーナを見つめる。

 

 秋穂か勝ってこの試合は終わる。何事も無く。

 

 その表情には、まさしくそう書いてあるようだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「一体何故!?」

 

 セシリアは困惑する頭を必死で回転させながら、自分が何故攻撃を食らったのかを考えていた。推力では明らかに部がある。動きだって見えていた。〝さっきまでは〟

 

 しかし、秋穂が構えを変えた瞬間、その動きが見切れなくなった。何処にどんなカラクリガあるというのか?

 

 

 再びセシリアにミドルレンジから秋穂が迫る。

 

「この、調子にのってッ!」

 

 セシリアは、近寄らせまいと〝スターライトkmⅢ〟の連射で足止めをしながらビットで動きをけん制していく。

 

(そうですわ、この方法で良いのです。この方法ならば東雲さんはッ!)

 

 と思ったのもつかの間であった。秋穂はまた一瞬にして距離を詰める。

 

「っ腹立たしいですわねッ!」

 

 秋穂はとっさにセシリアが振ったライフルを、ダッキングで斜め下に交わすとそのままセシリアのボディに左右のブローを叩きこむ。

 

「がッ ぐぅッ!!」

 

 的確に狙い澄まされたブローが決まり、一気に腹の空気が外へと押し出される。左はまだ軽い、問題は右である。この小柄な体の何処からこんなパンチ力が出てくるのか、セシリアにはそれも謎で仕方がない。一瞬で距離を詰められる、小柄な体にそぐわぬパワー、セシリアにはもう何が何だかよく分からなくなってきていた。だた分かるのは自分が劣勢であるという事だけ。こんはずではなかった、こんなはずではッ! 

 

 というよりも自分は何かが変だった。さっきから妙に上の空な時が多く、そして何よりあの〝織斑 一夏〟の事を考えると胸が締め付けられるように痛くなる。これは何? 負けた時の悔しさでは無い。こんな感情は自分でも初めてで、言い訳でも何でもなくこの感覚が、自分をここまで窮地に追いやっているといっても過言ではない。

 

(まったく、私を何処までもかき乱してくださいますわねッ!)

 

 

 セシリアの思考とともに意識が一瞬別方向へ飛ぶ。だが忘れてはいけない。近接戦の特にこう言う〝内側へ〟飛び込んでくる敵相手にそれがどれほど危険な行動かという事を。

 

 

 ブローの後一旦距離を置いた秋穂だったが、セシリアの〝それ〟をみてワンツーから再びインに入って、セシリアの顎をかち上げる。

 

「あぁッ!」

「まだまだッ! これで―――」

 

 秋穂は、ここが攻め時と判断し、かち上げた顔面目がけて思い切り右を撃ちおろす。普通なら避けられる、反応できる程の大ぶり。しかし、真下から頭を揺さぶられたセシリアは一瞬反応が遅れてしまう。

 

 さっきまでの右も重たかった。しかしこれは〝決めに来る〟一撃。

 これはくらってはいけない。セシリアの本能が叫ぶ。

 

「こんな所でッ!」

 

 そもそも自分から仕掛けた模擬戦。一夏に勝ったとはいえあれはほとんど結果論。その上秋穂には惨敗とくれば株はだだ落ちでは済まない。ここは世界各国からIS操縦者がひいては、将来代表になるような人々が集まる様な場所。自分どころかイギリスのレベルその物を貶めかねない。

 

 遅れても何でも構わない。セシリアはとっさにレーザーライフルを捨て両手で十字を作り顔面を防御する。

 

 そしいて秋穂は、そのガードも構わず拳を打ち下ろした。両腕が痺れるほどの痛みを感じ、アリーナの地面へと吹き飛ばされる。それでもガードした甲斐もあって、次の行動へスムーズに移行できたことは幸いだった。

 

 セシリアは、投げ捨てたライフルを回収しつつ地表すれすれを飛びながら、攻撃を組み立て直すべく距離を取る。

 

 

 残り時間はそれほど焦るほどではないがのんきにしても居られない。秋穂に避けられていたがビットも全て無事。

 

(まだまだ、ここからですわッ)

 

 セシリアにもう油断はない。それが伝わったのか秋穂も表情を引き締め構えなおす。

 

 

 もう、自分が上や下や、馬鹿にされたされないはどこかに飛んで行っていた。ただ目指すは勝利のみ。この模擬戦に負けないためにセシリアはライフルの照準にゆっくりと秋穂を入れるのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「あそこから、持ち直すか。流石は代表候補生と言ったところだろうな」

「それもそうですし、東雲さんも頑張ってますね」

「あぁ」

 

 千冬達は、今、ピットに併設されているモニタールームで秋穂の戦闘をモニタリングしていた。

 真耶の言うとおり、秋穂は良くやっている。相手に油断があったとしてもセシリアは候補生だ。ここまで付いていけている事は素直に称賛に値しよう。

 しかし……。

 

 

(いくら〝編入組〟といってもここまで初期からやれてしまう物か…)

 

 

 

 

 

 

 

IS学園に在籍する生徒には大まかに2つの種類が存在する。1つは〝入学組〟つまり入学式からこの学園に在学する生徒、そしてもう1つが入学式移行に編入テストに合格して学園へやってくる〝編入組〟である。そして、一般的に個人能力が初めからある程度高いのは学園への〝編入組〟であると言われている。理由は簡単で〝入学組〟よりも〝編入組〟の方が受ける試験の難易度が高いためだ。試験がそうなっているのにもちゃんと理由がある。それは〝推薦方式〟を取っているから。

 

そして〝推薦方式〟の試験が通常の入試よりも困難なのは、国なり指導をした人物が書いた〝推薦文〟に偽りない能力かどうかを調べるためである。

 

 そして秋穂はその〝編入組〟試験もパスしているのだから、実力は高いと思っていたがそれでも候補生とやり合ってしまう程とは思っていなかった。

 実力が高いのは別に割る事ではない。才能か努力か、その両方かは分からないにしてもだ。

 

 だが何だ、この……何というかどこか釈然としないこの気持ち悪さ、気味の悪さは。

 

 今目の前で戦っているのは、東雲 秋穂ではあるのに、どこかそれが嘘の様な、だがあれは東雲 秋穂その人だ。

 

 言いあらわしようのない感覚。千冬はモニターにうつる秋穂を睨む。

 

(一体……彼女は何なのだ?)

 

 

 千冬がしばらくモニターを睨んでいると、シャワーを浴び着替え終えた一夏がピットへと戻ってくる。千冬はそれを自身の後ろで聞こえてくる声で気が付いた。それぐらいになるほどに、気配さえも気にならなくなるほど千冬は東雲 秋穂という少女に意識をとらわれていた。

 

 

「秋穂、頑張ってるなぁ」

「どこぞの、負け犬と違ってな。まったくだらしない」

 

 一夏の、緊張感のない声がモニタールームに響く。その声に千冬は少し気を緩める。まぁ、今それを気にした所でどうにかなるものでもあるまい。それよりも今は模擬戦である。

 

 千冬は意識を秋穂から、模擬戦全体の流れへと向ける。流れは誰が見ても秋穂にある。この流れを下手に離す様な事がなければ、この試合はもう決まったも同然だろう。

 モニターの向こうで、秋穂が多少の被弾は覚悟の上で間合いを詰めていく。そしてそこから動きの中でワンツーを決めながら左で距離を図っていく。セシリアはともかく秋穂の戦い方はまさにボクシングの試合を見ている様なものだった。

 

 

「……しかし、よく当たるな。推力の低い〝打鉄〟で…」

「そうだよなぁ、俺だって最後スラスター全開でようやくって感じだったし」

 

 

 2人の会話を聞き、千冬が深いため息を吐く。どうやらこの2人には、まだ秋穂の戦い方が良く理解できてはいないらしい。というか箒は、剣道で優勝しているのだからせめて一夏よりは分かっていてほしかったのだが。

 

 

「全く、お前達は剣を学んだ者としてはあるまじき洞察力の無さだな」

「え?」

「いや、いくらなんでも剣道と洞察力は関係ないんじゃないか、千冬ねッ!?」

「……織斑先生だ……。更に学習能力までないとはな、嘆かわしい」

 

 千冬は素早く抜いた出席簿で一夏の頭部を一閃(当然、角)する。容赦なく振り下ろされた一撃に一夏はほとんど泣きながら謝った。

 千冬は、再び深いため息を吐くと出席簿を懐にしまい込む。一連の制裁が終わり、箒がもういいだろうとおずおずと口を開いた。

 

 

 

「あの、それで織斑先生、洞察力というのは…?」

「そのままの意味だ。よく見れば何故東雲がオルコットに肉薄できているのか分かるはずだぞ? ……ほら、今もだ」

「?」

 

 タイミングを言っても小首をかしげる箒と一夏。千冬はやれやれと言った風で頭を掻くと真耶の横にあるコンソールを叩く。そこは模擬戦の映像を録画しているセクションであり、録画中でも撮った映像を確認できるようになっていた。

 

 

 千冬はその映像の中から、秋穂がセシリアに肉薄し攻撃を行う一連の動作を行っている個所を抜き出しリピート再生させる。

 

 

「篠ノ之、お前は授業で山田先生がISの事をなんと言っていたのか、覚えているか?」

 

「えぇと…確か……〝ISはただの機械ではなくそれその物が独自の意志を持ち日々進化する物〟……ですか?」

 

「うん、まぁいいだろう。そうだ、ISはただの機械では無い。いや、確かに無機物という意味では機械なのかも知れんが」

 

「はぁ…」

 

「とにかく、ISは〝機械でありながら機械ではなく操縦者の感覚にほとんど近い第2の皮膚〟という風にも取れる。現にその感覚をいましがた体験した奴がそこにいるしな」

 

 

 千冬は一夏を一瞥する。一夏はそれに対して短く「あぁ…」と呟いた。千冬はそれを確認すると頷き、モニターへ視線を戻す。

 

「そうなれば、重要となってくるのは、ISの基本性能ではない。仮に性能差を埋めきってしまうほどの実力差があったとしたら、その時点で立場は逆転するからな」

 

「じゃあ、織斑先生は、秋穂にそれだけの実力があると?」

 

「いや、総合的に見ればオルコットの足もとにも及ばん。だが東雲はある〝特定の技術〟でオルコットの遥か上をいくんだ」

 

「ある技術?」

 

「それがこれだ」

 

 

 千冬はリピート映像をモニタールームのメインスクリーンへ送る。しかしまだ一夏達にはピンと来ていないようだった。もう呆れる事も面倒になってきた千冬は反応にコメントすることなく話を進める。

 

 今映像は、秋穂が構えを変えた所だった。そこから秋穂は一瞬身をかがめ、その直後弾丸の様な加速。セシリアに肉薄し顔面を捉える。

 

「分かったかどうかは聞かんが、東雲がオルコットを凌駕している部分それは体重移動(シフトウェイト)だ」

 

「体重移動…」

 

「この体重移動のスキルだけは、東雲はほとんど完成された実力の持ち主だ」

 

「そんなに…」

 

 

 千冬が見抜いた秋穂の特徴。この体重移動の技術は正直自分と同等かそれ以上だろう。それぐらいにこの技術だけは洗練された素晴らしい物を持っている。

 

「オルコットの目は、そこらの平凡な操縦者に比べればかなり肥えている。当然だ、候補生としてそれなりのレベルの相手と戦ってきているからな。だがその目を持ってしても東雲の体重移動の微妙な動きを察知できていない。瞬時に移動する重心を見極める事で初めて相手の動きを見切ったことになり回避運動に移れる。つまりオルコットの目には今、東雲がいつどのタイミングで突っ込んでくるのかが正確に把握できていない」

 

 

「けど、スラスターの光見てれば分かるんじゃないんですか?」

「この試合で秋穂は、〝打鉄〟が出せる最高速を体重移動とそしてステップイン時の足の蹴りで一時的に超えている。今頃オルコットはパニックだろうな。更にこの体重移動を東雲は攻撃にも使用している。これは下馬評を覆しそうだ」

 

 

 正直、こういうもみ合いになれば、強いのは秋穂だろう。中遠距離戦の苦手を差し引いても近距離戦闘に置いてはセシリアと比べると長けすぎている。

 ふむ、1勝1敗か。模擬戦でクラス代表が決まり丸く収まると思っていたのだが……これはまだ少しもめるかもしれんな。

 

 千冬が今後の事を考え始めた時、アリーナ全体を凄まじい衝撃が襲いモニターが一時ダウンする。一瞬秋穂がセシリアに止めを刺したのかと思ったがそれはアリーナの外へと立ち上る白煙に、観客席から上がる悲鳴に、そして真耶の緊迫した声に否定された。

 

 

「織斑先生! この反応、未確認のIS数1ッ!!」

「何ッ!?」

 

 

 

 鳴り響くアラートが、ことの重大さをものがたり見る見るうちに一夏達の顔から血の気が引いていく。 

 

 

 

 徐々に復旧していくモニター。そこに映っていたのは、長大な砲を両肩に背負った深紅の機体であった。

 




お久しぶりです、のろいうさぎです。

さて、今回はセシリア戦の終盤ですが序盤にオータムの心情を多く入れ過ぎた結果、ここまで長文となってしまいました。

それとタイトルの秋達とは言うまでも無いですがオータムとそして秋穂の事です。

さてそれはそれですが……お待ちかね(?)原作崩しです(爆
ていうか、二次創作の時点で色々と原作ブレイカーなのですがw

本来はセシリア戦では襲撃者なんていませんでしたからね。
そして少し千冬が秋穂に対して、嫌な感覚を受け始めました。
これからどうなっていくのか、お楽しみに。

ではまた第7話でお会いしましょう♪
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