IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~   作:のろいうさぎ

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第7話~赤き蹂躙者~

「えぇ、それでは。融資の件はお願いいたしますわ」

 

 私は、一礼してクライアントの下を後にする。いくら〝ファントムタスク〟が何物にも属さない組織といってもやはり色々な所で金は必要な物となってくる。そしてその金は依頼人や裏で〝ファントムタスク〟と繋がる組織から融資という形で提供される。

 

 結果を残せば、次の融資も約束されるが下手をすれば打ち切られ、組織として立ち行かなくなってしまう、自分達が居る場所はそんな実力世界だ。

 

 そしてその実績や活動を各組織の面々やクライアントに報告するのはこの私〝スコール・ミューゼル〟の役割だった。そして私は今とある市内にある高層ビルに足を運んでいる。

 

 にしても今日のクライアントは、どうにも話し好きだったらしくかなり長々とつかまってしまった。朝が早かったおかげでまだまだ太陽の位置は高く時刻は昼過ぎだったのだが既に秋穂の模擬戦は始まってしまっている頃だろう。

 

 そう言えば、今日はエムもオータムも観戦に言ってるのよねぇ。私も行きたかったけれど……仕事は仕事、ま、仕方ないわね。

 

 

 私は、エレベーターに乗り込むとチラッとエレベーターの窓から、景色の奥の方にかすかに見える海を見やる。ここからはIS学園は山肌の陰で直接見えないがその方角に秋穂はいる。私達の大切な〝家族〟がそこにいる。

 

 模擬戦相手はイギリスの代表候補生らしいけれど、オータムとエム直々に訓練を付けられていたし、そう簡単には負けないわよね。ひょっとしたら勝っちゃってたりしてね。

 

 

 とにもかくにも、報告が楽しみなのは間違いない。さてさて……私達の可愛い娘は今どうしているのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 な、何なの? 

 

 

 

 あたし達は動きを止め、一点を見つめる。そこには赤い色を基調としたISが浮かんでいる。そのISは両肩に長大な荷電粒子砲を備え、両腕には小型のレールガン、更に簡易スキャンの結果アンロックユニットに固定されている、鳥の翼の様な大型のスラスターには何やら特殊兵装まで搭載しているらしい。全体的に見てもかなり大型で重装甲。

 

 肩部には大きな物理シールドを備え、その全重量を支える脚部も赤に白い縁取りがなされた大きなレッグプロテクターを持っている。

 

 

 全体的なシルエットは無骨だが、脚部の先端が二股に分かれていたり、さっきも言った通り鳥の翼の様なスラスター、無骨ながらも鋭角的なその姿は何処となく鳥、いうなれば怪鳥を彷彿とさせるデザインだった。そして操縦者はバイザーこそ付けていたものの、燃えるように赤いショートヘアをあたし達に晒している。

 

 

 恐らく、アリーナのシールドバリアをぶち抜いたのはあの背中の荷電粒子砲。しかも、ご丁寧に出力調整までしていたはずだ。

 

 あの攻撃が行われた時、あたしはセシリアへトドメともとれる一撃を撃ちこむまさにその時だった。

 セシリアに攻撃が届くその瞬間、〝打鉄〟のアラートが響きとっさに手を引っ込めたのだ。

 

 仮にあれが最大出力だったのならば、あの砲身の長さと口径を考えても手を引っ込めただけでは避けきれなかっただろうし何よりアリーナもこの程度では済まないはずだ。

 

 

 

 

 あたし達が遠巻きに注意深く観察していると、ふと相手のISから緊張感のない声が聞こえてくる。

 

 

『おっかしいなぁ……確かに反応は3つあったんだけど』

 

 ISのオープンチャネルからの声、襲撃者にしてはあまりにも大胆だ。あたし達でも流石にプライベートチャネルを使うのに。それに3つって何? 

 その襲撃者は、あたし達を見つけるとごく普通に、まるで道を尋ねるがごとく問いかけてくる。

 

『なぁ、お前ら残り2つの反応知らねぇか?』

「2つ?」

「一体、何を言ってますの!?」

 

 セシリアが、ジャカッと〝スターライトmkⅢ〟を構える。イギリスの名高きお嬢様には、アリーナを壊しただけではなく自分の名も名乗らずただ不躾(ぶしつけ)に質問だけを投げかけてくる彼女の態度がお気に召さなかったらしい。けどまぁ、聞きたい事は全部彼女が勢いにまかせて、聞いてくれそうだしここは静観することにしよう。

 

 

『あぁ?』

「あぁ? じゃありませんわッ! いきなりアリーナを襲撃したと思ったら今度はふぬけた声で残りの2つを知らないか? もう意味が分かりませんわッ! それに人に物事を聞くときはまずご自分から名乗られるのが礼儀では無くて!?」

 

 

 それ、あんたが言う? 確かあたし達にいちゃもん付けた時自分から名乗ったっけ? ……いや多分名乗ってない、あたし達が誰も彼女(セシリア)を知らなかったから自分で名乗らざるを得なかっただけだ。人の事言えないよなぁ。言ったら多分ややこしくなるから絶対に口には出さないけど。

 

 セシリアに啖呵を切られた襲撃者は、少し何やらを考えている様子だった。そしてややあってから一度軽く頷く。

 

『…うん、確かにてめぇの言う通りかもしれねぇな』

「………」

『それに、てめぇらもなんて呼びゃあいいのか分からねぇってのも面倒くせぇだろうし、いいぜ。自己紹介ぐらいはしといてやる』

 

 

 相手は、言うとゆっくりと武器を構える。今度は両腕の砲も一緒にだ。………なるほど、こんな自己紹介もあるんだね―――――――って!?

 

 

『あたしの名前は、〝シックザール〟そしいてこいつはッ』

 

 

 

 

 直後、全砲門が開かれる。確認できるだけでも、荷電粒子砲に翼の特殊兵装更に両腕のレールガンと、バックパックに搭載されていたと思われる小型のミサイルポット。そしてスラスター自体も、両腋の下から前へせり出し、スラスター上部のスリッドからはチャージングの余剰エネルギーも見えている。

 

 あの機体、目に見えないところまでハリネズミみたいに火砲をッ!

 

 

ゾンネ・フォーゲル(太陽の鳥)だぁぁぁぁッ!!』

 

 

 刹那放たれる、圧倒的で絶望的な火力。大きいのを食らわないようあたし達はバッと散開し火線の間を掻い潜る。しかし、そこへ高密度で小型ミサイルが迫ってきていた。

 

 しかも、動き出しが〝ブルーティアーズ〟よりも遅かったあたし目がけて。どうやらこのミサイルは一定の距離に入ると自動で熱源を感知し追尾してくる物の様だ。こんな事になるなら所為かなんてせずにもっと距離とっとけばよかったッ! ってんな事言ってる場合じゃないッ

 

 

「これは避けられないってぇ!?」

「東雲さんッ!」

 

 

 

 

 セシリアの声が聞こえる。だか聞こえただけで、言葉なんて返せやしない。だからあたしは一瞬声のした方を見やる。セシリアはミサイルが無かった分この中を巧く掻い潜れたようだった。

 

(ほんと、腹立つぐらいに運がいいねッ!!)

 

 あたしは、歯噛みしながら憎々しく心の中で呟くと同時に、連鎖する爆発に巻き込まれいく。そして反動で機動が逸れ、相手が放った火砲に次々に機体を切り刻まれる。そ

 

の度に、幾度となく身体を焼かれる様な鋭い痛みに襲われる。そしてあたしは、敵の攻撃の勢いそのままにアリーナの外壁へ叩きつけられる。

 

 それだけならまだいいが、打ちつけられた後も砲撃が止む事はなく、砲撃で徐々に外壁諸共機体も破壊されていき最終的には、〝打鉄〟の爆散とともにアリーナの観客席下へと吹き飛ばされる。耳に残るのは破裂して爆発していく轟音の繰り返し。そして最後に感じた感覚は、アリーナ内部の壁に打ちつけられて自分の身体がとまるその鈍い痛みだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「…………」

「お、おいおい……」

 

 オータムもそう言うのがやっとだろう。私だってそうだ。いやむしろ言葉が出てこない。

 こう言う時、無駄に鮮明な映像が、見たくも無いシーンを克明にとらえてしまう。〝打鉄〟が爆散し、アリーナの外壁に大穴があいた。そこから立ち上る炎と黒煙。炎はまだISから飛び散った飛散物や、ミサイルなどの爆発で起こったものだろうとも考えられるが、黒煙はまずい。黒煙が上がるという事はすなわちその奥で燃料等が搭載された物が炎上しているということに他ならない。そしてそんなもの分かりきっている。

 

 

「秋穂ッ!」

 

 私は、懐から待機状態の〝サイレントゼフィルス〟を取りだす。待機状態のそれは、水色に白い縁取りが施されたBT兵器特有のビットの形を模したひし形のネックレス。私はそれをグッと握りしめる。

 

「今、行くぞッ! 秋穂ッ!」

 

 次の瞬間、私の身体は光に包まれ――――――

 

 

 

「馬鹿か、お前はッ!!」

「うごッ!?」

 

 ――――オータムに押し倒された。

 

「っつぅ……な、何をする!」

「ちったぁ冷静になって考えろこの姉馬鹿野郎!」

「何だと!? 私は、充分冷静だッ! 冷静に考えて秋穂を助けに行くという考えに至ったまでだ」 

「だからそれの何処が冷静だよッ」 

「ッ!?」

 

 オータムの一喝で、私は言葉に詰まる。オータムはそのまま胸倉をつかむと、私をグイッと引き寄せる。

 

「良いか、あたしだってそりゃ飛んできてぇよ、実の姉のお前ならなおさらだろ。だけど今あたしらが飛んでっちまったら何のために秋穂は学園に編入したんだ? 秋穂の計画を姉のお前がどしょっぱなでぶっ壊す気かッ!」

「だがッ」

 

 私の脳裏に秋穂がふっ飛ばされた時の映像がフラッシュバックする。……確かにオータムの言う事は分かる。しかしそれでも姉としては……〝唯一〟の肉親としては……

 

「いいからここは抑えろ。お前秋穂を信じてんだろ? だったらよ」

「……」

「大丈夫さ、あの位であたしらの妹が死ぬわきゃねぇって」

 

 オータムがニィっと笑い、手を離す。……はぁ……まさかそんな事をこいつに言われるとは思わなかった。確かにそうだな。以前の連絡のときもそうだったがどうにも……私は妹を心配するがあまり、同時に妹を信頼しきれていないらしい。

 

 私は「分かった。そうだな」と短く返すと、立ち上がり服の裾をはらう。そして2人してゆっくりと〝空を見上げる(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よぉ、何者だ? お前ら?」

「今のを見ていたらわかると思うが……あまり虫の居所は良くないぞ?」

 

 

 

 

 見上げる視線の先。そこには冷え切った視線でこちらを見やる黒とペールブルーのISが浮かんでいた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「東雲さんッ!」

 

 セシリアは、立ち上る煙を見て声を震わせる。秋穂はミサイルだけでなく、レールガンや荷電粒子砲の直撃まで受けた。専用機ならばまだ分からなかったが、汎用機ではとてもではないが耐えきれる攻撃では無い。

 

 

 今まで憎まれ口を叩きあいながらも、自分を追い詰めていた相手。セシリアとて、第一印象は最悪だったが死ねばいい等と思ってはいない。秋穂の身を案じそして心から心配している。セシリアはオープンチャネルで秋穂へ連絡を繋ごうとする。しかし帰ってくるのは無機質なノイズ音のみ。

 

 ISに絶対防御があると言った所で、それは100パーセント命の安全を保証するものではない。更に言えば、本体が無事でも衝撃で操縦者が放出される様な事が万一にでもあれば……考えただけでも恐ろしい。

 

 

 だがもっと恐ろしいのは、それが自分の身に降りかかる事だ。

 

 セシリアは、ひとまず通信を切り冷静になって敵を見やる。敵は武装を戻し余裕の表情で浮かんでいた。といっても口元しか見えないが、それでも笑っているという事はやはり余裕なのだろう。

 

 セシリアが距離を取って敵とにらみ合っていると、通信が入った。

 

『オルコット、無事か?』

「織斑先生、私は大丈夫ですわ。それよりも東雲さんが…」

『東雲へは、救護班が向かっている。あそこの被害がどれほどのものか分からんから少し時間はかかるかもしれんが。それよりも少々自体が厄介だ』

「厄介?」

 

 この件自体もかなり厄介なのだがこの上、何があるというのか。

 

『先ほどの〝打鉄〟の爆発の所為でアリーナの一部の制御盤が利かん』

「つまり…」

『来賓席を挟んだ反対側の退去はひとまずなんとかなるが、爆発した側の退去がまだ間に合っていないということだ』

「……」

『オルコット更に言えば、この状況で教師人は避難誘導に追われ援軍を出す事が出来ない。ピットも緊急閉鎖されて使えない……私の言っている意味は分かるな?』

「……はい」

 

 

 セシリアはゆっくりとその言葉の意味を自分で確認するように深く頷く。

 援護も無い、そして退避もできない。そして逃げ場も無い……。

 

 つまりこの場を、自分1人でなんとかしなければいけない。

 

「このセシリア・オルコット、命変えましても」

『……こちらも早急に手は打つつもりだ……それまで耐え凌げ』

「分かりました」

 

 

 千冬はそう言うと、通信を切る。そしてセシリアは、先ほどとは全く違った表情で敵〝シックザール〟を見やる。

 

「あなたが何者なのかは、もう伺いませんしかしこれ以上、私の仲間に危害を加えられても困ります。ですから……」

 

 そして今一度、ライフルを構えなおすと声高に叫んだ。

 

 

「このセシリア・オルコットが、あなたのお相手そして差し上げますわッ!!」

 

 

 直後引かれる、ライフルのトリガー。

 

 もはやこれからの戦闘は模擬戦では無い、実戦だ。イギリスの候補生として、その名に恥じぬ戦いを。セシリアはその思いを胸にスラスターに火を入れた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「うぅッ……」

 

 身体きしむ……けど痛みを感じてられてるってことはまぁ生きてるってことなのかもね……。

 

 あたしは満身創痍、正直立ち上がる事さえもままならない状態だった。あたしはチラッと自分が吹き飛ばされたときにできた穴を見やる。

 IS1機分の爆発とそこに打ち込まれた凄まじい火砲。その衝撃は筆舌に尽くしがたく、対物理対ビームコーティングのなされた堅牢な外壁が見るも無残な姿をさらしていた。

 どうやらここは、アリーナ観客席下の更衣室のようだ。爆発でロッカーも一部が吹き飛んでおり、あたしが叩きつけられたアスファルトの壁も無骨な断面をさらけ出していた。

 

 

 動かしたくても動けない。全身がきしみ、動かすたびに脳天に突き刺さるような痛みが身体を駆け巡る。 

 

 こんな形で終わり? 実にあっけない幕切れ。入学してそれで何? あんな訳わかんない奴に吹っ飛ばされて……それで終わり?

 

 

 

 

 

 

 

 ……嫌だ。あたしはまだ何もしちゃいない。

 

 

 あたしは両腕に力を入れ上体を起こす。手が震えてあまり力は入らないがそれでもこんな所で終われない。あたしには目的があるッ やるべき事があるんだッ

 

 

 意識が吹き飛びそうな痛みも想いが意志が身体を押し上げなさねばならぬことへの執着がそれを乗り越えさせる。あたしはそのまま壁際まで這いよるとそこに身体を預けた。直後アリーナ全体が大きく揺れる。

 

 

「はぁっはぁ……あの女……派手にやりすぎ…」

 

 

 実際それがセシリアの物なのかそれともあのシックザールとかいう奴の物なのかは分からない。それにそもそも、この振動が攻撃かどうかさえ定かではない。ただ漠然と揺れたとしか認識できてはいなかった。

 その時、あたしの耳が何かが落ちる音をとらえる。

 ガレキでは無い。何か金属的な物が落ちる音……。

 あたしは、ゆっくり視線を動かしながら音の正体を探る。そして見つけた。

 

「これは……」

 

 それは、あたしが編入する前に、スコールさんから手渡された動物の刃を模したキーホルダー。どうやらあたしが使ったロッカーも爆発で吹き飛び中身が飛散していたようだ。それでどこかに引っかかっていた〝コレ〟がさっきの振動で…

 

「……IS……」

 

 よく見るとそれは、スチール独特の光だけではなく自ら鈍い光を放っているようにも見えた。

 

 あった。ここにまだあった。あたしの想いを貫くための力が。

 あたしはそのキーホルダーをギュッと握りしめる。けどもう意識が……。

 

 

 

 

 

 正直、ここまで意識を飛ばさなかっただけでも奇跡的なのだ。

 いくら力を見つけても、先ほどよりは安全な所で壁に身を預けているという安心感が、あたしの意識を嫌でも遠のかせる。

 

 

 暗くなっていく世界であたしが最後に見たものは、その景色とは対極の、綺麗で真っ白いそれでいて暖かな光だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「っく、このッ、厄介なッ!」

 

 セシリアは、火砲の間を翻しながら抜けビットとライフルで応戦する。敵は、やはり見た目通りで足は遅い。だがその分重装甲でライフルの直撃を受けてもひるむどころか攻撃の手を緩めない。

 

「ほらほら、さっきまでの威勢の良さは何処飛んでったんだ!?」

「減らず口をッ!」

 

(分散して攻撃を与えても、効果ないでしたら!)

 

 セシリアはビットを呼び戻し自身の前に集めるとライフルの照準とビットの照準をリンクさせる。

 

「一発単価の火力不足でも、一点集中で補えばッ」

「ちぃッ、小細工しやがって」

 

 

 

 放たれる閃光は一点で集約し、細い線は太く更にまばゆい閃光となってシックザールに迫る。シックザールは肩のシールドユニットでその閃光を受け止め間髪いれずにレールガンを撃つ放つ。セシリアはそれを見越して打ち終わると同時にビットの操縦をセミオートに切り替え瞬時にスラスターを噴かした。もといた場所が熱波で焼かれる。避けていても伝わる熱量から、その威力は容易に想像が付く。

 

 ビットがセシリアの攻撃の意図をくみ取りつつ、シックザールを牽制し連続攻撃で動きを制限する。しかしやはりそう長くは止めていられない。

 

「ほらほら、どうしたッ! 飛び回ってるだけじゃ勝てねぇぞッ!」

 

 

 セシリアはなるだけ敵よりも下を飛ぶ。下手に上を飛ぼうものならば退避が済んでいない観客席を危険にさらす可能性があるからだ。セシリアは今出せる最高速で地面すれすれを飛びハイパーセンサーから送られてくる敵の攻撃予測をもとに最小限の動きでそれを躱していく。セシリアが身を翻すたび、旋回を行うたび地面に着弾した火砲が砂煙を巻き上げる。

 

(………砂煙……ッ! そうですわッ)

 

 

 セシリアは、閃くと相手の攻撃が止まった隙を見てバッと振り返る。それを見たシックザールはセシリアへ怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「なんだよ? 観念しましたってか?」

「……ッフフ、そんなわけないでしょう。むしろ逆ですわ」

「逆?」

「えぇ、そう逆……狙いが甘すぎて退屈し切っておりましたの。その火砲はお飾りの様ですわねッ!!」

「な、何をぉ!?」

「さぁさ、私はココですわよ? よく狙ってお撃ちなさい?」

「こ、このガキッ!! 言わせとけばッ」

 

 

 見る見るうちに激昂し乱射を始めるシックザール。それを見てセシリアはその場から一気に加速しながらほくそ笑む。

 

 

(上手くいきましたわ、射撃型にとって一番屈辱的な事。それは自分自身の射撃を否定される事ッ!)

 

 同じ射撃型だから手に取るように分かる。それに加えてあの性格。見るからに過激で熱くなりやすい。

 

 

 セシリアは、降り注ぐ砲火を細かなスラスター制御で縦横無尽に駆け回る。その度にアリーナには先ほどの比ではない砂煙が充満していく。そして出来上がる、充分な量の煙幕。その時になってようやくシックザールも自分が犯した過ちに気が付いた。

 

「こいつはッ!」

 

 声が聞こえた後、ピタリと攻撃がやむ。セシリアはハイパーセンサーで敵の位置を大まかに確認すると一気にスラスターを全開にする。そしてシックザールの真下付近でビットを一点集中に切り替えてライフルを構えながら急上昇。砂煙の合間から赤色の装甲が姿を現した。

 

 

「そこかぁッ!」

「遅いですわッ!!」

 

 とっさに向けられるレールガンよりも早くセシリアはその内側に潜り込むと、ほぼゼロ距離でビットとライフルを撃ち放った。

 

 

「ぐがぁッ!!」

「ッ!!」

 

 

 セシリア側にも伝わる衝撃。しかし今のは入った、手ごたえがあった。ハリネズミの様に火砲を搭載している相手へ砂煙を煙幕代わりに近付きほぼゼロ距離からの一点集中射撃。ヒントとなったのは砂煙とこの前にセシリアが放ったビットとライフルの集中砲火。あの時シックザールは初めてセシリアの攻撃を肩のシールドで防御した。つまりあの攻撃だけは、シールド以外の装甲では耐えられたにという事。

 

 

 セシリアは、砂煙に交じってあがる白煙の向こうを睨む。落とすまでに行かなくてもあの攻撃で行くばかり相手のシールドバリアを抜けたはずだ。あわよくば装甲の一枚ぐらい……

 

 

 だがセシリアは、次第に晴れていく視界に目を丸くする。

 

「………てめぇ……やりやがったな……」

「ッ!!」

 

 セシリアが驚いたのはシックザールの機体にでは無かった。攻撃が直撃した胸部の装甲が少しへしゃげ、とっさにかばったであろう左腕の装甲も多少だが傷がある。攻撃事態はとおっていた。だが驚くべきはその目だ。今までとは比べものにならない。

 

「に、睨んだ所でッ」

 

 セシリアは、後ずさりしながら言い返す。しかしそこに先ほどまでの勢いはない。完全に相手に呑まれてしまっている。

 

「命令は、破壊すんなって言われてんだけどな……良いだろ〝不慮の事故〟てことで」

「!?」

「うおらぁぁッ!!」

「なッ!!」

 

 

 シックザールは左腕のレールガンを乱暴に放り投げると同時にセシリアを、掴みにかかる。

 セシリアは瞬間スラスターを噴かしたが一歩遅かった。

 

 

 ガッと脚を掴まれ力に任せて引きずり込まれる。

 

「あぁッ!」

「抗うなッ!」

「ッ!」

 

 セシリアは引っ張られた体勢のまま身体をぐるんっと回転させ、ライフルを構える。しかしそれはシックザールのレールガンの砲身によって阻まれる。

 弾かれたライフルを両手で構えていたセシリアは、大きく胸元の防御を開けてしまう。そこへ容赦なくレールガンが直撃した。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁッ!」

「まだだッ この胸の礼はきっちりしねぇとなッ!」

 

 

 シックザールはセシリアが弾かれた方へ先回りすると再びレールガンを構える。そして今度はアリーナ地面目がけて砲身を振り下ろした。

 鈍い音と共にセシリアが方向を変えまた弾かれていく。

 

 セシリアは必死に姿勢を制御しようとするが、サブスラスターの推力だけでは体勢を維持できない。メインスラスターを下手に噴かせばあらぬ方向に飛んでいく可能性もあるのでこの状況では使えない。

 

 

 

 そしてシックザールがとどめと叫ぶ。

 

 

「吹き飛べぇやぁぁッ!!!」

「―――ッ!!!」

 

 

 回転する世界の中、セシリアの目がシックザールを捉える。シックザールは全ての圧倒的な火力をこちらに向けていた。

 

(避けられないッ!!)

 

 それだけが直感で分かる。これから来るのは痛みかそれともそれすらも感じられないか。セシリアは思わず目を閉じる。そんな事をしても無意味だと分かっていても、くると分かっている痛みを直視する事はやはりできはしない。

 

 

 

 

 刹那、轟音と光にアリーナが包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死んじまったかな?」

 

 

 

 シックザールが武装を戻しながら呟く。だがまぁ仕方ないだろう。あの女は自分の攻撃を馬鹿にしただけでなく自分が最も嫌う〝抗い〟という行動に出たのだから。

 まぁ、〝回収〟出来なかったのは報告しづらいがそれは、また別の―――――――――――――――ッ!?

 

 

 

 シックザールはもう一度爆心点を凝視する。そして愕然とした。

 

 

「おいおい、どっから湧いて出やがったよ」

 

 

 

 そこには、シックザールに答えることなくただ無言でオレンジと黒の色彩のISが〝ブルーティアーズ〟を抱きかかえ、たたずんでいた。

 

 

 

 

 




どうも、のろいうさぎです。
秋穂がいきなり大怪我を負いました。
そして最後に颯爽と登場したISは一体何なのか!?

ちなみに赤き蹂躙者というタイトルにもなっている彼女〝シックザール〟とはドイツ語で〝運命〟を意味する言葉。

マドカと対峙した二人にも名前がありますが、それはまた次回。

しかし……書いてから気付いたのですが、場所を広範囲にし過ぎたせいで場面がコロコロと変わってしまう(汗


今後もコロコロと場面が変わる回が繰り返されると思いますが、よろしくお願いします。
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