IS インフィニット・ストラトス~妹はファントムタスク~ 作:のろいうさぎ
私達がいたあの高台の遥か上空。旅客機の飛ぶ高度よりも更に高高度で4機のISが入り乱れる。時に業火を咲かせ、時に激しく火花と閃光をまき散らしながら。
「クソッ速いッ!」
私はは舌打ちをしながら黒い機体を睨む。その機体は全体的なシルエットとしては鳥をモティーフにしている様だった。自分と同様に鋭角的なバイザーで眼を隠し、特徴的な逆三角形の大型スラスターをアンロックユニットに備えている。脚部は足先が前2つに、かかと1つにわかれておりその先が鋭いカギヅメ状になっている。そして何よりこの機体が独特なのは、異様に腕部が大きい事だった。見ただけであれがあの機体の主武装という事が分かる。肘のあたりから異様に大きくなっているそれは、指の部分は既に1本1本がクローのようになっている。そして手の甲には両腕にこれまた大きなリボルバーが搭載されていた。
見た目、腕の所為もあって、ずんぐりとした体形だがこの機体、さっきも言ったが速い。
私も、速度に合わせて予測射撃を行っているはずなのに捉えきれない。いや、実際捉えきれないというのはご幣がある。捉えられてはいる。しかしこいつ、事あるごとに急加速で振り切られてしまうのだ。
私は更に顔をしかめると、ビットを射出し相手と距離をとる。
あの速度が一時的にしか出せないものだとすれば、距離さえとってしまえばッ!?
刹那、目の前に黒い機体が躍り出る。
「ば、馬鹿なッ!?」
「何を驚く……」
「ちぃッ!」
「ふんッ!」
私は、近接ブレードを展開し、横薙ぎにはらう。敵はそれを巨大なクローで弾くともう片方のクローで私をぶん殴った。
「うあぁぁッ!!」
「もう一撃だ」
「ッ! させんッ」
吹き飛ばされる私に、追撃でカギヅメ状の脚部が迫る。私はすぐさま射出していたビットの攻撃とシールドビットを展開、攻撃を遮る。
敵はバチィッという衝撃音に弾かれるように、宙返りをしながら体勢を整える。
腹が立つほどに余裕。それどころか私の攻撃がことごとく弾かれる、
ISの性能は、実のところ推力以外、火力そして汎用性どれをとっても私の機体の方が勝っている。つまり、それは同時に私がこいつに劣っているという事でもあった。そしてそれは相手の表情からも嫌というほどにくみ取れる。
正直、ここまでの手練だとは思わなかった。一体何者だ。流れのままに戦闘になったが、よく考えてみれば分かっていない事が多すぎる。大体こいつは何処の組織なんだ?
〝ファントムタスク〟を狙うのであれば、やはり政府関係の人物だろうか? しかしそれにしてはやり方があまりに大胆だ。政府関係の人間がいくら上空とはいってもこんな街中で戦闘行動など起こすものか?
ではなんだ、奴らも我々と同じ様な組織なのか? だとすれば狙われる理由はなんだ? 私達はこれまで様々な地で活動を行ってきたがこんな奴らと面識を持った記憶はない。
一体……こいつらは
「余所事を考えているとは……余裕だ」
「!」
敵は、接近すると更に踏み込んで私へ拳を叩きつけようとする。だがいくらなんでもッ
「振りがでかいッ!」
「ぐッ!」
私は一発目の左拳をボクシングの技術の1つ、スウェーバックで交わすと戻り際にブレードをしたから跳ねあげる。
敵はそれをに当たるまいと左を振り切った勢いで身体をひねり更にサブスラスターを追加し回転を高めると身体が正面を向いた所でもう一度拳を振り下ろした。
しかしそんな攻撃私が予測できないはずもない。敵の拳の着弾点へ素早くシールドビットを滑り込ませ拳を止める。そして殴られたお返しにと、至近距離でBT・実弾のハイブリッドライフル〝スターブレイカー〟のトリガーを引いた。
「ぬああぁぁッ!」
「遠慮するなこれも持っていけッ!」
四方からビットの雨が降り注ぐ。その攻撃の直撃を受け小さな爆発を起こして敵の動きが一時的に止まる。ここしかないッ!
私は攻撃の手を休めず、射撃の豪雨を敵に浴びせ続ける。そして爆煙で敵が完全に隠れた所でようやく攻撃の手を止めた。
私はふぅっと息を1つ吐く。そしてハイブリッドライフルのマガジンを交換しながらビットでその周囲を取り囲む。
何発か手ごたえはあった…。無傷というわけにはいくまい…。
そして私の予想通り、敵は中破とまではいかなかったが、装甲の一部にヒビや傷を付ける事は出来ていた。
まぁそれでも致命傷では無いのだが……。
「呆れた耐久力だ。並みのISならば落ちていてもおかしくはない攻撃だったんだがな」
「………」
「どうした? 来ないのか?」
「………」
敵は顔の前で腕を交差させたまま、更にその腕の奥では、バイザー越しにでも分かるほどにギラついた目がこちらを睨んでいた。
「……まだやるというのか?」
私は声のトーンを一段階落として訊ねる。私自身何を馬鹿な事を聞いているのかと思う。
あの目でやらない訳がない。そして返答は予想していた通りの物だった。
「……当り前だろう。まだ何も終わっていないのだからな」
「……」
「それにしても私は少々お前を侮りすぎていたようだ」
「?」
「だから私もそれ相応の償いをせねばならん」
今度は、何を言っている?
敵は、言いながらガードをゆっくりと下げ、右手をスッと引く。するとその直後、手の甲に装着されていたリボルバーユニットが回転。炸裂音と共に右手の周囲が歪みだす。
「ッ!?」
「見せてやろう、これが本気だ……〝痛み〟を知れ」
〝Das laden vollendung Vulkan anfang〟(装填完了 ヴルカーン 起動)
無機質な機械音声をハイパーセンサーが拾った時には既に、私は以前とは比較にならないほどの衝撃を腹部に感じていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
敵と対峙するあたしの後ろで、凄まじい衝撃音がこだまする。
「エムッ!?」
あたしは、装甲が砕けちりながらきりもみ状態で落下するエムを見て叫ぶ。だがその一瞬が〝こいつ〟にゃ命取りだった。
「………よそ見……余裕」
「くそったれがッ!」
唐突に敵が目の前に〝出現〟する。そして敵はあたしとすれ違いざまにブレードを振り抜いた。シールドバリアがあるって言ったって、勢いを殺せるわけじゃない。あたしは敵の攻撃の勢いのまま、まるで風に振り回される落ち葉のごとく回される。
こいつ、信じられねぇッ! エムの相手も大概だが、こいつの速さは反則だ。
こいつの機体も、あの黒いISとコンセプトは同じ、色がペールブルーだが鳥をモチーフとしている点は共通だった。似たようなバイザーで顔の上半分を隠し、形もあの黒いISの腕部を細くしたような物だが、背負ってるスラスターのでかさが尋常ではない。真面目に常に〝
出現という言葉を使ったのは何も比喩表現では無い。速すぎて〝ハイパーセンサー〟ですら追いきれないのだ。
そんな相手にどうやって当てればいい? どう捉えればいいんだ? 考えろ、考えるんだッ
あたしは〝アラクネ〟独特の8本のPICを駆使して体勢を立て直し、複雑な機動を取り的を絞らせない。だがこれも一時しのぎにすぎない。すぐにあの常識を逸脱した速度で迫ってくる。
って考えてる傍からッ!
「……逃がさない……」
静かにかすかに聞き取れるような宣告。しかしそれは真実で、あたしはすぐにつかまってしまう。
「こんにゃろッ!」
あたしはすれ違う瞬間に、アラクネのアームを全て前に突き出しクロスさせる。ギャリィィッと火花が散りながらも、あたしのアームはしっかりと敵のブレードを噛みこんでいた。
おぉ、なんかとっさにやったけど上手くいった! あたしはそのまま身体を丸め、クローを一気に開いてブレードを弾くとがら空きの胴体へと両足を叩きこんだ。
「……あッ!」
「ほらよ、これもやるぜッ」
更に、あたしは背中のクローを敵へと突き立てた。何度も何度も執拗に、突き立てそして最後に仕上げで、ショットガンを
着弾し吹き飛ぶ敵IS。 あの程度の攻撃でも装甲をそれなりに削れるという事は、装甲値自体はそれほど高くはないのだろう。まぁ、機動力主体で装甲値が高いなんてチート機体でも困るが。
とりあえずこれで時間は稼げる。今のうちにエムの援護に回らせてもらうぜ。
あたしは、敵機を確認することなく踵を返すと、エムが落下して言った地点へ急ぐ。まだそれほど時間は立っていないにしても、あの黒いISの追撃が無いとは言い切れない。
エムを追った様子はなかったがそれでも、用心するに越した事はねぇ。
あたしはスラスターとそして重力という二つの〝エンジン〟を使い真っ直ぐ降下していく。そしてあたしのハイパーセンサーがエムのISを捉えた。
装甲はボロボロで、スラスターも破損したのか火を吹いて黒煙を上げていた。
あの野郎、情けねぇ木に引っかかってやがる……。
その時だった。
〝Schneesturm(吹雪)〟
ハイパーセンサーが機械音を捉える。
「何だ、今の声――――――」
とあたしが声のした方向を振り返るとすぐそこに、ペールブルーの機体がいた。
「ばッ!?」
「……逃がさない……言った」
「嘘だろッ!?」
「……このまま……あなたは地に落ちる」
「うえッ!?」
敵はあたしをグッと抱きしめると、自分のスラスターを全開にした。今まで感じた事のないようなGが身体を襲う。それと同時に、ハイパーセンサーの視界が光だけになった。機体の視覚、知覚限界を超える速度。そしてその速度であたしは、そのまま山肌へ叩きつけられた。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
その落下速度は凄まじく、受身など取るタイミングすらなく地面に叩きつけられ、機体がバラバラになっていく。そしてあたし自身も、地表にぶつかった程度では勢いは止まらず、木をなぎ倒し、全身を打ちつけられていく。そしてようやく止まったころには、目の前は森林伐採も真っ青なぐらいになぎ倒された木々と。見るも無残な姿をさらす〝アラクネ〟の残骸そして、あたしを見下ろすペールブルーと黒い機体だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ッ……ぬぅッ」
私は、なんとか木の間から抜け出すと各部の損傷チェックを行う。といっても……ほとんど大破か…。
とりあえずPICは生きているようだったので、それで私は宙を漂う。正直ISを定期状態に戻した方がまだましに動けるが、それでは敵の攻撃にあった時今度こそ死ぬ。
「そう言えば……オータムは、あいつはどうなったのだ?」
私はレーダーでオータムの反応を探る。するとすぐに反応はあった。しかしその反応は1つでは無かった。
この反応はッ、オータムッ!
私は今出せる全速力でオータムの元へ急ぐ。オータムの反応の周囲は木々がなぎ倒されたり、所々にはアラクネの残骸が散乱している。
そしてオータムはその先で、黒いISに顔を掴まれだらりと力の抜けた肢体を晒している。それを見た私は絶句した。
お、オータム……ッ?
まさか、そんなッ……
顔面蒼白の私に向かって、黒いISは視線を動かさずに言う。
「安心しろ……死んでは無い」
「き、貴様……オータムから手を離せ」
「分かっている、なすべき事をしてからすぐに離してやろう」
「何も分かっていないだろうッ! 離せと―――ッ!」
私がオータムに近づこうとした時、ガッとペールブルーの機体に身体を引っ張られ私はそのまま山肌へと抑えつけられる。
「うがッ!」
「……少し……黙ってて」
「お前もッ」
正直全身が痛くて、もはや抑え込まれ背中から地面に打ち付けられただけでは何処が痛むのかなど分かったものでは無かったが、それでも息は乱れ言葉もままならない。
それでも私は、視線だけはオータムを見やる。
「……どうやらデータや根幹のプログラムは無事のようだな」
黒いISは呟くように言うと、スゥッと左手をオータムのISにかざす。すると再び無機質な機械音性が聞こえた。
〝Kern Daten freilassung(コアデータリリース)〟
直後、〝アラクネ〟が光り出しその光が、黒いISの左腕に〝吸収〟されていく。そして、その光が収まると〝アラクネ〟が消滅しオータムが地に放り投げられる。
更によく見ると、その手にはISのコアらしきものも握られていた。
黒い機体の目配せで、私への拘束が解かれ私はオータムへ駆けよる。確かに奴の言った通り死んではいない、気を失っているだけのようだった。
しかし……
「お前………何をしたんだ? それにそのコアは一体……まさかアラクネのッ!?」
「少し違うな、これはそいつのISのコアでは無い。いや、まぁそのデータが入っているのだから〝アラクネ〟のコアであることに違いはないのだが」
「何を言ってるんだッ!」
「言葉で理解できないのならば……ならば貴様でも同じ事をしてやろう」
「ッ!?」
言うと黒いISが私のもとへ近寄ってくる。そしてゆっくりと左手をかざした。先ほどと同じく集まっていく光。同時に身体の力が抜けていく感覚に襲われる。
脱力とは違う、どちらかといえばISの補助が消えていく感覚に近い。そしてISの半分近くが消えた時だった。ペールブルーのISが突然黒いISに向き直る。
「〝シュメルツ〟……シックザールが……」
「ん?……はぁ……全く一人突っ込ませたのは良いがこの体たらくとは嘆かわしい」
シュメルツ? それがこいつの名前か? シュメルツと呼ばれた黒いISは左手をかざすのをやめる。そして無言で踵を返した。
「ま、待て、何処へ行くッ!」
「……急用が出来た。まぁ1機分だが〝回収〟はできた……収穫としては充分ではないが……仕方がない」
「………」
私はジッとシュメルツを見やった。私に屈辱を味あわせ、そして秋穂が慕うオータムまでも。私自身オータムを大切に思う事もあるが何よりも秋穂の慕う人物をここまでにしたこいつが、そして何よりそれを防げなかった自分が、憎い。私は憎悪に満ちた目でひたすらに睨み続ける。
「ふぅ……驚いたな。それだけボロボロでもまだそんな目で私を見れるのか……。貴様のその気概に免じて名ぐらいは名乗ってやる」
「名前か?」
「私は、シュメルツそしてこっちが、トレーネだ」
「………そして、シュメルツのIS……〝
シュメルツ……トレーネ……ハイデ……ヴィント……全てドイツ語?
「恐らく貴様らとはまた会うかもしれん。その時は……貴様のISも〝解放〟してやろう」
「……バイバイ」
シュメルツとトレーネはそう言い残し、その場を立ち去る。私はオータムに肩を貸し立ち上がるとひとまず足早にここを後にする。これだけの戦闘だ。もたもたしているとそれこそ政府の役人が飛んでくる。私はその場から必死に逃げながら、言い残した言葉……〝解放〟という言葉の意味をずっと考えていた。
いつまでたっても言葉の意味は理解できなかったが、それでも分かった事がある。
それは、私達があの2人に完膚なきまでに負けたという事実だった。
更に言うと、ISをほぼ大破させた私達にもはや、あの2人を追う力は残されていない。それはつまり、もう、秋穂さえも今この状況では心配することしかできないのだ。オータムに止められ一時は納得できてもやはり、やはり飛んで行きたかった。この手で秋穂を守りたかった。
「秋穂……」
弱き者には何も守れない。私は、家族が離散し秋穂と離ればなれになった時に感じたあの無力さと同じような感覚を胸に歩き続けるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………」
セシリアを抱えたまま、オレンジ色のISが無言で対峙する。
そのISは背部で二股に分かれた特徴的なヘッドバイザー一体型のヘッドギア、両腕は大型のクローになっており、ビームクローを内蔵しているようだった。しかしそれよりも特徴的なのは背部のアンロックユニットに取り付けられたマガジンの付いた樽型の2機のメインスラスターだろう。ちなみに色はオレンジが基調となっているだけで脚部や腕部の一部装甲は黒い、非常にコントラストがはっきりとしたISだった。
それはともかく、シックザールは敵のメインスラスターを見やって目つきの悪い自分の仲間の事を思い出す。
リボルバーが腕についている奴は知ってんだけどな……あんなもんスラスターに付けて何しようっていうんだ?
少し考えてもマガジンが付いている理由は分からなかった。だが謎多き敵ISだったが分かった事もある。
それはまだファーストシフトが済んでいないため全体的に無骨ではあるものの、敵が近接戦闘特化型だという事である。
シックザールは、それを確認し、鼻で笑う。
いきなり目の前に現れて、金髪をかっさらってったから、驚きはしたがそれだけだ。近づけさせなけりゃ良いだけの話。
ガコンッと、背中の砲が前に稼働する。
「いい度胸だな? 何処にいたかは知らねぇがあたしの戦闘は見てたんだろ」
「………」
「だんまりかよ……良いぜ? てめぇもそこの金髪同様――――ッ」
砲身に光が集まりそして
〝Rot Lawine Angriff〟
「吹っ飛ばしてやるよぉぉぉッ!!!」
目の前の〝敵〟に容赦のない火力が放たれ大きな爆発が起きた。それと共にオレンジのシルエットがそれに巻き込まれ消える。
「ハンッ、口ほどにもねぇ……って一言もしゃべってねぇがな」
カラカラと緊張感のない笑いがこだまするアリーナ。しかしその笑いは煙の中から放り出された物を見てすぐに止まる。
「ん!?」
シックザールは放り出された物に目を丸くした。それは今まで敵が抱えていたセシリアとそのIS。
(放り投げたぁ!? あいつ、助けたんじゃねぇのかッ)
浮かぶ疑問だが〝今〟の問題はそこじゃなかった。
「なッ!?」
「……」
一瞬の出来事。シックザールは振り返り、敵のクロー攻撃を寸でで躱す。だが初弾を回避できただけ、もう一段階踏みこみ腹をしたから突き上げられる。
「かはッ!?」
「〝Strike Flame〟」
腹を殴られ少し間合いが開いた時短く聞こえる声。それは人の声では無い。バッと開かれたクローの先からビームが伸びそれが鋭利なカギヅメ状に変化する。
そしてシックザールがそのクローを確認した時にはすでに、敵は自分とすれ違い右肩のシールドユニットが吹き飛んでいた。
「野郎ッ!」
シックザールはレールガンを投げ捨て開いていた片方の腕に近接用のブレードを
シックザールのブレードと敵のクローがぶつかり合い火花を散らす。パワーはやはりこちらの方が勝っているようだった。しかし……
シックザールはふと思う。この機体、有人機である事は疑いようも無い。だがそれにしては反応が無さ過ぎる。今だって聞こえたのは武装の機動音の際に発せられる機械音声だ。
それに今こうして、つばぜり合いをしていても相手の操縦者からまるっきり生気を感じられない。死んでいるのか気を失っているのか。
だが、それでもこうして敵は自分に刃を突きつけてきている。
「くっそ、気味が悪ぃぜったくよぉッ!」
シックザールはクローをガギンっと弾くと敵の眼前へレールガンを突き出し、トリガーを引いた。
これは直撃だ、避けられねぇッ
シックザールは思う。後はよろけた所へ2~3発ぶち込んで終わらせりゃいい、自分の火力なら確実だ。撃墜への青写真も浮かんでいた。
だが、敵はあろうことかそのわずかコンマ数秒の間に行われた攻撃を、〝機械のように正確に〟ミリ単位で回避する。そしてがら空きの胴体にクローのを叩きこむ。更に間髪いれず身をかがめリバーブロー、腹に食い込み苦しさで顔が下がった所へ全身のばねを利用したガゼルパンチが決まる。
そのどれもが、一連の動作の中で行われシックザールの急所を正確に捉える。
「こ、こいつ……あたしをッ!」
ガゼルパンチで浮きあ上がった顎に打ち下ろしの右が振り下ろされる。狙われた場所は
一通り殴り終えた、そのISは最後にシックザールの腹に膝を叩きこみ身体が〝く〟の字に曲がってから背中へ肘を振り下ろした。
強烈な一撃が、シックザールを襲う。もといた場所がそれほど低くなかったのも幸いして地面への直撃は避けられたが正直フラフラだった。
や、やってくれやがって……ッ。にしてもあいつ……
シックザールは機体のステータスを確認する。とりあえず、機体自体の損傷はクローの餌食になった右肩のシールドユニットとセシリアに至近距離で撃たれた胸部装甲と腕部の一部のみ。だがそれ以上にこの敵の攻撃は体幹に響く。一言で言うと重たいのだ。
見上げるシックザールは更に、事態の悪化を感じ取る。
「ちぃッ、ファーストシフトッ」
敵のISは、無骨な装甲が光に包まれながらなめらかな形へと変化し、両腕のクローには小型の推進装置まで見える。今までアレを使わずにこれだけの重たい一撃を繰り出していたというのか。シックザールはそれを見て、〝仲間〟へ短く〝Condition Red〟とだけ発信する。それを終えると、ポツリとつぶやいた。
「流石に……不味い」
敵のファーストシフトが完了すると、シックザールの機体へ敵ISの識別番号と名前が表示される。
〝デファイアント-CRA〟? それがあの機体の名前か
しかしだ、今は悠長に名前なんて確認している場合では無い。シックザールはチラッと気を失っているセシリアを見る。
「……回収出来るような状況じゃあ……ねぇわな」
獲物を前にして、逃げる事を考えなければいけないのは何とも歯がゆいが、この状態でしかもファーストシフトを終えた〝デファイアント〟を相手にできるほど自分もタフでは無い。一瞬顔をしかめるとシックザールは、〝
「覚えてやがれ?」
その瞬間、シックザールは一気にトップスピードまで加速、〝逃げ穴〟へと向かう。〝デファイアント〟はその様子を一瞥すると背中のスラスターが稼働し、両スラスターのマガジン後方に取り付けられているスライドが後退する。そしてそれによって内部のリコイルスプリングによってスラスター内部に高圧縮のエネルギーバレットが装填されスラスターが戻ると同時にハンマーがその弾丸を炸裂させる。
ガシュンッ! っという音と共に空薬莢が排出され、スラスターのメインノズルからは目がくらむほどの光があふれていた。
「〝Hammer Ignition Boost〟」
「ん?」
シックザールがその前を通過する。その際チラリと〝デファイアント〟の声が聞こえたが構いはしない。いくらなんでもこちらは既にトップスピードなのだ。いかに向こうが速かろうが、自分を捉えるのはアリーナの外。〝檻〟から出てしまえば、機動を縛る物は何もない。更に遮蔽物も探せばいくらでもあるのだ。
そう、いくらでも―――――ッ
「………」
「―――――――がッ!!」
腹に深々とめり込む〝ディファイアント〟のクロー。トップスピードでつい今しがた目の前を通過したというのに、その攻撃はほぼ真正面から的確にシックザールの腹部を捉えている。ボクシングやその他の格闘技にもカウンターアタックという物がある。あれは相手の攻撃に自分の攻撃を合わせる物だが、これも相手の勢いを利用したという点でカウンターに類似している。トップスピード同士の正面衝突。そこへ来て腕のスラスターまで加えた一撃。
セシリアの攻撃でへしゃげていた装甲は砕け、シールドバリアをやすやすと抜けた威力がシックザールの体幹を揺さぶる。
そしてシックザールの身体がそして機体がついに
ぶれる視界を、揺れる意識を必死でつなぎとめ、シックザールは苦し紛れに腕を振るう。攻撃を〝デファイアント〟が避け、前が開くと構わず全エネルギーをスラスターに流し込んだ。果たして、アリーナの外へ出ることに成功したシックザールだったが、足を〝デファイアント〟に掴まれる。
「や、やべぇッ!?」
シックザールが冷や汗を、かいたまさにその瞬間、目の前に黒い影が躍り出た。
「はあぁぁぁぁぁッ!!」
黒い影に殴り飛ばされ、〝デファイアント〟の手が離れる。
「しゅ、シュメルツッ」
「馬鹿がッ、何だこの体たらくはッ!」
「………2人とも……それどころじゃ……無い」
スラスターから煙の上がるシックザールを、トレーネが掴み、一直線に離脱する。
シュメルツはこちらを不気味に眺める〝デファイアント〟を一瞥し、空域を離脱する。
トレーネの機体に抱かれながらシックザールは機影が見えなくなってもまだ尚その方向を睨み続けていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「There is not the problem with a body injury slight chase(機体損傷度軽微……追跡に支障なし)」
機械音声が聞こえる……何? 一体何をしてるの?
それにここは? ロッカーじゃないようだけれど……、もう訳わかんない。
あたしは、虚ろな目で目の前に現れては消えていく文字を確認する。しかしそれをしっかりと認識するまでには至らない。もう身体が思った風には動かないのだ。それに記憶だってぐちゃぐちゃで何が何だが分からない。
自分の背中の方でガチャリっと何かがセットされる音が聞こえる。
何だろう?
そう思った時だった。
「……a check flight control system is returned to a manual from auto in a manipulator's consciousness recovery -- the 〝VT-alt system〟 stop of is done.
(操縦者の意識回復を確認操縦系統をオートからマニュアルへ復帰〝VT-altシステム〟停止します)」
全てのシステムが停止され、操縦があたしに移ったらしい。だが今のあたしに何であれ操縦なんてできるわけがなかった。そんな身体ではもうないのだ。
訳の分からないまま、身体が落下感に襲われる。ずっとずっと。それがしばらく続いた時だった。その落下感がピタリと止まりあたしは、何かに抱きかかえられていた。それは本当に暖かく、そして優しい。視点の定まらない目がぼんやりだが自分を抱きかかえる人物の顔を捉える。
「………もう、大丈夫…」
声を聞くだけでふっと身体の力が抜け、リラックスできる。そしてあたしはその腕に全てを任せたのだった。
序盤にして全員ボロボロ、そしてアリーナ吹き飛び過ぎ。
どうも、のろいうさぎです。
全力全開で、全ての戦闘を書き終えましたッ!
とりあえずお分かり頂けると思いますが勝敗を書いておきます。
マドカvsシュメルツ 勝者 シュメルツ
オータムvsトレーネ 勝者 トレーネ
秋穂vsシックザール 勝者 秋穂
セシリア:とりあえず気を失ってます。
さてシュメルツの行った、行動は一体何なのか? そして学園の対応は?
秋穂を助けたのは誰だったのか!?
次回はそれらを解説する様な回になると思います。
というか、とりあえず主要なキャラは出切ったと思いますので近いうちに登場人物紹介を入れようかなとも考えています。
追記
※すいません、もう一人忘れていました(汗
次回登場予定です。すいませんでした。
ではまた次回お会いしましょう、失礼します。