「はーい、霧谷さん。お茶ですよー」
「いつもすまんのぅ、初春や」
「それは言わない約束ですよ、霧谷さん」
「二人でなーにをコントやってますの」
「「あいて!」」
帳簿の硬い背表紙部分を脳天に落とされる俺と初春。
黒子のツッコミはいつもながらに容赦ないのでボケも命がけだ。
「それにしてもよくいらっしゃいますね、霧谷さんは」
「いやぁ、そんな人を要注意人物のように言わなくても。なんなら今日が初めてと言って
も過言ではないですよ」
「マイカップ片手に何を語っても説得力がないですの」
はい、本当にすみません。
事件に巻き込まれては何度もこの支部に通い続け、毎回お茶をご馳走してもらっていたと
ころ、どうせなら霧谷さん専用の湯のみを買ってきましょうと初春が提案してくれたのが
つい先日のことである。
我ながらどれだけ足しげく通えば、こんな状況が生み出されるのかと甚だ不思議なのだが。
「けど、何度も何度も霧谷さんには協力していただいて……」
「いやいや俺はたまたま居合わせてるだけだって」
「本当ですわ、ここまで来ると貴方が発生源ではと疑いたくなるくらいに」
「それは酷くない!?」
「でもでも、実際犯罪件数は霧谷さんが解決してくれるようになってから減少してるんで
すよ。私たちは会う回数が増えてますから、体感的には逆に感じるかもしれませんけど」
「それにしても今回の件はひどいですの」
「ビル一つ倒壊とはまたスケールが違いますね」
「何をどうしたらああなるのか納得のいく説明をしてごらんなさいな」
「だからあれは古いビルが衝撃で勝手に崩れただけだって」
「確かにあそこのビルは結構古くなっていたっていう資料はありますけど、そんなちょっ
とのことで崩れるものなら学園都市が危険として放っておかないと思いますよ」
「初春さん!?さっきまで味方だった君はどこへ行ってしまったの!?」
「あなたの言い訳がそれだけ苦しいということですの」
その場の仲間意識とはなんと残酷なものか。
いとも容易く俺の心をへし折る裏切りが行われてしまうのだ。
こんな初春みたいに優しい子にだよ、しかも。
「でも白井さんも私に細かい事件でも不審なのは逐一チェックして報告してくれって言う
くらいですから、霧谷さんのこと気にしてるんですよこれでも」
「初春!?いきなり何を言い出すんですの!」
「散々私をこき使ったじゃないですか~。これくらいは仕返しさせてください」
「初春は後でお仕置き決定ですの」
「横暴ですよ~!」
ははは、まったく仲がいいコンビだ。
白井も根は優しい女の子だからな、なんだかんだ言いつつも一般市民である俺が事件に巻
き込まれないようにと心配してくれているんだろう…………俺には全くそんな素振り見せ
てくれないが。
「じゃあ、お茶も飲み終わったしそろそろお暇するわ。ごちそうさまでしたっ!」
「あ、ちょっと待つんですの!」
白井の静止の声を振り切って、窓枠に手をかけるとそのままの勢いで俺は外へ飛び出した。
「ちょっと霧谷さん!?ここ二階ですよ!」
初春の心配は嬉しいが、ここの構造はもう何度も確認済みだ。
流石に意味もなく二階から地上に飛び降りて、俺かっこいいみたいなことをする気はない。
「上手いことあっちの建物のへりを使って逃げていきましたの」
「あはは……なんか忍者みたいですね」
「しかも事情聴取できないまま、まんまと逃げられましたの」
「結局いつものパターンですね」
二人が疲れたように乾いた笑いをもらしていると……
「うーいはるっ!」
「あ、佐天さん!」
「いらっしゃいですの」
「今日も二人は仕事なんですかー?」
「まぁ今まさに1つ終わったところというか、終わらされたというか……」
「? よく分かりませんけど風紀委員のお仕事って大変そうですねー」
「それより佐天さんはどうしたんですか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたね初春。なんと今日は……じゃじゃーん!新しい都市
伝説の情報を持ってきたのだよっ♪」
「まーた、そんなのにハマってるんですか?佐天さんも好きですね」
「でも今回のは怖いのじゃないんだよ、その名も“あなたの王子様”!」
「うわー、胡散臭さは霊となんら変わってませんよ」
「ふっふっふ、甘いな初春くん。これはひじょーに確かなスジからの情報なのだよ」
「どうせいつもの都市伝説サイトでしょう」
「初春、まさかテレパシーの能力に目覚めたの!?」
「佐天さんのパターンが一辺倒で分かりやすすぎるだけです」
「うーん、でも場所もある程度特定されてるし信憑性は高いと思うけど」
「間違っても行こうとは思わないでくださいよ」
「はいはーい」
初春は時々母親のようなことを言う。
ただ初春お母さんなんて呼ぶとまたプリプリ怒ってしまうのでやめておこう。
………
……
…
「……とか何とか言っててもやっぱりあふれ出る知的好奇心は抑えられないのですよ!」
夜も深まってきた頃、噂の裏路地に一人で来ていた佐天。
詳しいことは分からないがこの辺りでの目撃情報が多いらしかった。
「それにしても、暗いなぁ……」
「ひゅー、可愛い女学生がこんな時間に一人で何してんの?」
「え?え?誰ですか、あなたたち」
都市伝説のことに考えを巡らせてる間に数人の男たちに囲まれていた。
浮かべている下衆な笑みに鳥肌が立つようだった。
「ちょっと俺たちと遊ぼうぜ」
「や、やだっ!」
男たちの手が佐天に伸びようとした瞬間、彼女の体が宙に浮きあがった。
視点が一気に高くなると思ったときには建物の上まで運ばれていた、優しく包むようなお
姫様抱っこの状態で。
「こんな夜中に危ないよ、お嬢さん」
まるでそれは王子様だった。
やっぱりとあるは魅力的なキャラが多すぎて多すぎて。
あと初春をなんかギャグに使いたくなるのは私の勝手なイメージです。