佐天さん回です。
佐天を抱え上げ、建物に悠然と立つ霧谷。
「おいてめぇ、何邪魔してくれてんだぁ!」
建物の下から叫んでくる声。
しかし気にとめるには値しないだろう。
「あんなステレオタイプな悪役で恥ずかしくないのかね、どう思う?」
「え、私ですか」
ニコニコと佐天に話しかける霧谷。
そりゃ顔もほころぶというものだろう、この娘可愛い。
「おいこっち無視してんじゃねぇぞ!」
「お前らみたいなむさい男と話して俺に何の得があるんだ。可愛い女の子と対話していた
ほうがずっと有意義だろ。ねっ!」
「あ、あはは……」
(この人、かっこいいけど凄いノリが軽いなー)
目まぐるしく変わる目の前の状況に佐天はついていけていなかった。
ただ初対面の男の腕の中にすっぽりと収まっていることに抵抗感はなくなっていた。
「くそ、いつまでシカトしてられるかな!」
「え、能力者!?」
「風紀委員があれだけ活動しててもやっぱ取りこぼしはあるもんだな」
「呑気に言ってる場合なんですか!?」
「いいんだよ、君は安心して。お姫様気分で待ってな」
「へ……///」
相手の攻撃は見たところ火球を操る程度の炎系能力かな。
発射したとしてもスピードは伴ってなさそうだし、そもそもこの建物の高さまで上がって
これるかも疑問だが……
―ヒュン
「リーダー、避けられました!」
「何、残念な報告してやがんだよ!」
数センチほど移動した横を銃弾が通り過ぎる。
やはりあのチープな火球は囮だったか。
本命は銃弾による射撃。
そしておそらく相手のグループの中に音を操る系統の能力者がいる。
そいつの能力で銃弾の発射音をこちらに伝えないようにしたのだろう。
「すごい、今どうやって避けて……」
「あー女の子が物騒なことは考えなくていいから。心配しないでって言ったでしょ」
「心配はしてませんよ。勝手な思いですけど、なんかあなたなら守ってくれそうだなって
そんな風に思えるんです」
……物凄い可愛いことを言ってくれた。
なんかじーんときちゃうな、普段アイテムのメンバー(主に絹旗)から結構雑に扱われる
ことが多いし。
まあ、あれはあれで可愛いんだけど。
「てめぇらよくこの状況でイチャイチャできんな!」
「いや~、図らずも?」
「嬉しそうに言ってんじゃねぇっ!」
こういう不良はしっかりとツッコミを返してくれるので面白い。
「なめんじゃねーぞ」
「おっ」
相手の手の中でまた火球が形成される。
しかしさっきとは質が違うことが見てすぐに分かった。
「ちゃんとできんじゃねーか」
「燃え尽きやがれ!」
「で、どこに撃ってんのかな?」
「なっ……!」
威力のある火球は確かにさっきまで霧谷がいた建物の高さまで届いた。
しかし聞こえてきたのは背後からの声。
男が驚けたのも一瞬だった。
気絶するほどの衝撃の蹴りが直後襲ってきたからだ。
「よし、おしまいっと」
(この人すごく強い……)
佐天が抱えられながら見た光景。
炎能力者の男の注意を建物の上に引きつけたまま、地上に降り立ち両手がふさがりながら
も足技だけで周りの子分たちを次々に潰してしまった。
しかもすぐ近くにいるリーダーの男に気取られることなく、音もなしにだ。
(この娘、結構胸大きいからさっきから当たるんだよなぁ)
(そして、この人たぶんエッチだ……)
悲しきかな、言葉に出さずとも漏れ伝わるものである。
「あの、私……」
「ああ、ごめんごめん。下ろしてあげないとね」
「助けていただいてありがとうございました」
「いいって、たまたま買い物の帰りに通りかかっただけだし……って、そうだ買い物の途
中だったんだ。あんま遅くなると文句言われるだろうし、じゃあ俺はこれで。人通りの多
いところ通って気をつけて帰るんだよ」
「あ、ちょっと名前……」
そう声を発したころには既に姿は消えていた。
「"私の王子様"か……へへへ」
名前も言わずに去ったヒーロー。
まるで自分が物語のヒロインになったかのようでにやけてしまった。
「また会える……よね?」
名前は聞けなかったけれど、もしも運命の王子様なら……。
そんな期待をこめて言われた通りの明るい道を帰った。
――
「なんでプリン買うだけなのに超時間かかってんですか!」
「いや、それは色々と事情が」
遅くなった時点で予測はしていたが絹旗は大変ご立腹だった。
しかし絹旗に責められる分にはそんなに悪い気はしない。(可愛いから)
「遅くなったんでお礼の一口あーんは超なしですね」
「待って!俺なんのために頑張ったか分からなくなるじゃないか!絹旗がプリン買ってき
てくれたらお礼にあーんしてくれてパンツ見せてくれるって言ったから俺はコンビニまで
わざわざ行ったのに」
「後半何勝手に付け足してんですか!そんなこと超一言も言ってねーですよ!!」
ナチュラルにご褒美を追加したつもりだったがあっさり見破られた。
まあこのくらいの冗談をしっかり返してくれるのが絹旗のいいとこだ。
「よし、じゃあ任務達成な」
「ちょっと、超どこ行こうとしてんですか」
「いや部屋に戻ろうかなと」
「その、約束ですから。私は約束は超守りますから」
そう言って差し出されるスプーンの先にはプリンが乗っていた。
「あ、あーん……」
色々な意味でごちそうさまでした。
佐天さん回なのに絹旗を最後に出しちゃうあたり、
私の個人的趣味が全開ですね。
本当にありがとうございます。