魔導騎士になりたくて   作:クー

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第25話 怒れる嵐神

もう駄目だと完全に倒れるその時、俺に声が届いた。

 

「...立って!立って、ヴィルヘイム!あなたは独りなんかじゃない...独りで戦ってるんじゃない、あなたは誰かのために戦ってる。だから、独りなんかじゃないよ...私はあなたが優しくて強い人だって知ってる。だからもう...自分が独りだなんて思わないで!」

 

シルルの声だ、そうか...あんたは状況をよく見て的確な判断ができる、それがきみの強いところだ。まさかこんなところでそれに助けられるなんてな。

 

「魔装が消えていませんがルール上、カウントをとらせていただきます...。5、4...」

 

審判のカウントが始まる、基本対人戦は魔装が展開できなくなれば戦う事ができないという判断となる。なぜならば魔装は魔力を供給することで顕現する、つまり闘志があるかどうかの判断基準なのだ。しかし、魔装を使えないエリカに関しては特別に倒れきったところでカウントをとられる。

 

「立ちなさいよこのバカ!あんたいっつもそうやって先輩面して...こんなところでやられたら承知しないんだから!」

 

「そ、そうですよ!まだ僕は先輩にいろいろ教わりたい、もっと強くなりたい。もっと上を目指したい、だから...!」

 

「先輩っ!私の妹を、救ってください!」

 

「ヴィルヘイム、あんたのことが好きなシルルが応援してんだぞ!ここで男見せないでどうすんだ?」

 

「ちょっ...ちょっと、ツバキ!」

 

「いいじゃねえかよ、こういう時に...守るものがあるときに人って強くなるんだからさ。」

 

そうだ、俺は独りじゃない。俺には守るべきものがある...でも、どうやって奴を倒す?何故奴は俺の行動を見切れる?

 

「当然でしょう...僕の能力があれば全ての未来が見える。これを奴に念力で送れば...ふふっ、あの裏切り者が勝つ未来などないよ。」

 

何故黒騎士は俺の行動を先読みできるんだ?考えろ、考え抜け。

 

「3...2...」

 

まずいな、このままじゃ。でも体が動かないがそれは当然だ、大型魔物を一撃で屠る威力のものを喰らったんだ。咄嗟に風の壁で抑えたがそんなものは気休め程度にしかならない。

 

「ハッ!この程度か裏切り者が。所詮貴様にこのエルディシア家次期頭首を倒すなど無理なのだ。Fランク?笑わせるな!そんな貴様がAランク+を倒すなど言語道断、恥を知れ。お前のことが好きだと言った女が居たな?所詮貴様同様底辺を這うしかできない同族、いいよなぁ?傷の舐め合いができて...フフフ...クハハハハハハハッ!貴様をここで殺して絶望に突き落としてやるさ、無能共など無価値にすぎんッ!」

 

こいつ、何て言いやがった?無価値?俺の仲間を...無価値だって?

 

「おい、てめぇ...今何て言った?」

 

「ハァ?まだ立つか...貴様の仲間は底辺を這い回る事しかできん無価値な無能共だと言ったのだ!」

 

「よくわかったよ...」

 

「あぁ、てめえが物わかりよくて助かる。」

 

「...ろす...。」

 

「アァ?」

 

「殺すっていってんだよてめえ...!別に俺を侮辱するのは構わねえ、そんなことは慣れっこだ。自分が才能の無い人間だって自分が一番知ってる、だからこそ誰よりも何よりも鍛えてきた、血反吐を吐いてきた、修羅場をくぐり抜けて地獄を見てきた。そうすることでしか強くなれない人間だよ俺は...でもあいつらは違うだろ、あいつらは自分の才能を伸ばす才能がある、努力する才能がある!俺みたいなやばい領域に手を伸ばさなくても強くなれるだけのものがある!だから俺は俺の仲間を侮辱する奴を許さない、禁術...制限解除、俺に力を与えろ...代償は俺の大切なものだ。過去には振り返らない、未来をつかみ取る為ならどんな犠牲だって払ってやるさ...!」

 

使っちまった、あぁ...やっちまったよ俺は。どうしようもない、そんな奴だ。この禁術が保つのは90秒だ、この間に決着をつけてみせる。いいや、つけなければ俺に未来はない...ヴィーリアに未来はない、199班に未来なんてない。だから俺はここで奴を倒す。

 

「はっ...貴様、禁術に手を出したか!」

 

「黙れ、俺は誰かを守る為ならどんな犠牲だって払ってやるさ。」

 

俺はつま先から地面を蹴ると、眼では追いつけない速度で黒騎士の懐に入り込む。

 

「何ッ!?来る事はわかっていたはずなのになんて速さだ...!」

 

「馬鹿な...僕の予測を上回るだと...!?」

 

俺は魔装を鎌状にし、下から刃を振り上げる。それを奴は剣で受け止めるがその時には俺はすでに次の行動に出ていた。俺は魔装を東に位置する島国の伝統武器、薙刀の形に変え剣に防がれていない側の刃で相手の脚を切る。

 

「ッ!こいつ...!あの小娘と同じことを...!」

 

「違うな、似ているが違う。フィリアのは2形態にしか変える事はできないが俺のはやろうと思えばどんな形でも変えられる、変幻自在だ。」

 

「そんな馬鹿なことがあるか!」

 

俺は相手の隙をつくると、死角の方へ回り込み魔装の魔術回路を作り替える。半分ずつに分解し、魔装を変形させると風で刀身を形成する。二刀流でやらせてもらうぞ。

 

「何故だ...何故貴様はそんなに強くなれる!何故貴様のようなやつが...っ!」

 

「俺には守るべきものがあるからだ、そのためならどんな手を使ってでも強くなってみせる。それが貴様のように言いなりで動く人間と意志を持って動く人間の違いだ。」

 

俺は黒騎士の周り縦横無尽に駆け回り剣で切り裂きながら詠唱を始める。

 

「我が風よ、怒れ怒れ、我が友に牙をかける者を屠り給え。あぁ我が風よ、蒼空に舞う風よ、遥かなる頂きに舞い上がり我が力を示し給え。汝我が怒りを持って敵を喰い尽くせ、天は怒り、地は震え、万物万象を混沌に包み天空より裁きを与え給え!固有魔術憤怒の災嵐(エンリル)!」

 

会場全体を大嵐が包み込むように魔術は発動した。観客席は魔力による防御が施されているがその防壁さえ破壊しようとするほどの威力である。

 

「何ッ!?貴様...第八次魔術を上回る威力だと...!?馬鹿な...!貴様、第九次魔術でも使えるというのか。」

 

「違うな、これはどの魔術書にも載ってない。俺だけの魔術だ!」

 

俺の怒りを表すかのように嵐は更に強くなり、黒騎士を襲う。

 

「このままじゃ観客席も危ないわ、防御班は防御魔法の詠唱を!」

 

「はいっ。」

 

まだ足りない、まだ強くなれる。残りはあと10秒といったところか...決着をつけてやる。

 

 

「固有魔術嵐風剣舞(ファーレンドライヴ)!」

 

俺は縦横無尽に吹き荒れる嵐に乗り、自らを回転させながら魔力の流れを操作し黒騎士に何度も攻撃を加える。

 

「馬鹿な、この俺が...!今まで負けを知らぬこの俺がぁっ!」

 

嵐に乗った俺の猛攻に耐えきれず、黒騎士の魔装は砕かれ倒れた。

 

「勝者、ヴィルヘイム!」

 

勝ったのか?俺は、あの黒騎士に。勝てたのか...?いいや、勝ったんだな。疑うこともない、これは汚れた俺の手でもぎ取った勝利だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「ちっ...しくじった。あの男は用済みだ、父さん...いや、理事長。奴を消す事はできなかった。」

 

「わかった、次の手段を考えよう。」

 

「やった!あいつ...勝っちゃった!」

 

「やはり、先輩は強い。私も負けてはいられぬな。」

 

「おねえちゃん...ごめんなさい!ごめんなさい...私、ずっと家に強制されてて。だから...」

 

「ああ、知ってるさ。だから、やり直そう?そして家を出て一からやり直そう。まだお前にはチャンスがある、だから。」

 

フィリアは泣くヴィーラを抱きしめる。

 

「ちっ...あのバカが。これではエルディシア家は...そうだ!」

 

すると、家の頭首はフィリアに近づく。

 

「なあ、フィリア。少し話があるんだ、お前に次期頭首になってもらいたい。そうすればこの家の権力は全てお前にあげてもいい、お前の自由にすればよい。だから...。」

 

「そうか、それならば良い話だ。」

 

「ちょっ...フィリア先輩!何でこんなやつの話を...こいつはあんたら姉妹を!」

 

「おねえちゃん...?」

 

「では父上、ここで頭首任命の書類を。」

 

「あ、あぁ...お前が話の解る人間で助かるよ。」

 

あいつ、どういうつもりだ。何で今更こんな下衆の上手い話に乗せられてるんだ、お前はそんな奴じゃないはずだぞ。

そうして書類に任命の印と署名が記される。

 

「これより、エルディシア家の頭首は私フィリア=リ=ジークリンド=エルディシアとする!そして私の最初の命だ...前頭首エルリッヒ=ディア=エーヴェル=シン=エルディシアを破門し彼に協力し妹を洗脳していた者達も破門せよ!我が命に従わぬ者は全て破門だ、エルディシアの家の家訓に反する思想を持つ者はこの家にはいらん!」

 

言い切りやがった、これで妹は守れるんだな。

 

「貴様...!ふざけるな!」

 

「どの口が言う、このたわけが。これは正式なやり取りにて決定したことだ。頭首を降りた貴様に何かを言う資格などない、貴様のような家訓に背く教育を行い妹を追い込み洗脳し...さぞ楽しかっただろうな?」

 

「ふざけるな...貴様ぁ!」

 

ナイフを持って襲いかかったフィリアの親父はフィリアの魔装で弾かれ、刀身は砕け散った。それはそうだ、あいつの盾の堅さは伊達じゃないからな。

 

「お前ら、こいつと従う者をつまみ出せ。そして独房にぶち込んでおけ。」

 

「はっ、仰せのままに。」

 

「貴様っ!何をする...私にそんなことしてもいいと思っているのか?」

 

「残念ですが今のあなたは現在、頭首ではございません。」

 

こうしてフィリア達は救われた、重い役職かもしれんがお前にはこなせるよ。何しろ家族を思い家族のために戦う優しさと強さがあるからな。

 

俺は安堵すると、力尽きるように倒れ込む。なんとか、勝てた。ただそれだけで全身から力が抜ける、あの禁術を使ったことで体から魔力が抜けきったんだ無理も無い。

 

「ごめんね、ありがとう...お姉様...おねえちゃん!」

 

「ああ、もう辛い思いをしなくていいぞ...もう独りで抱え込む必要もない。だから、だから...やり直そう?もう一度。」

 

 

 

 

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