西方の諸島における先住民の神秘的な生活とその文化について   作:悠里(Jurli)

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二、人眠至極

 家に連れて帰って、彼らの文字と、彼らの言語について聞いてみようと思っていたが、彼は疲れていたのか長く眠っていた。恐れるほど長い眠りだった。起きたかと思うと、壁に書けていた掛け軸の前でそれをまじまじと見ながら、座っていた。長年の苦心、ついに私の芸術の理解者が現れたか! しばらく鑑賞の時間を与えてあげよう。

 

―と思ったが、何かがおかしい。

 

 彼は全く動かないのだ。芸術の鑑賞ならば、近づいて筆脈を楽しんだり、遠くから全体の雰囲気を楽しんだりするはずだ。どうも彼は私の芸術に惚れたとかそういうのではなかったようだ。残念、残念だが、まあ仕方あるまい。しかし、ならば何が楽しくてそこにずっと座っているのだろう。

 

そこで問う。

 

善来......汝一之目而何在書?(kait sak2......mua2 et2 a ta1 ua, nan2 aim2 ak2?)

 

 しまった。見るに全く通じていない。言語が異なることを完全に忘却していた。ここからどうやって彼と交われようというのか。悩んでいるのをよそに彼は考え事に耽っていた。

 

 すると彼が動いた。おもむろに例の紙と棒で何かを書き始めた。しかし、その書きようは彼らの字を書くというよりは、我等の字を書くもしくは絵を描くようだった。まさか、この一瞬でこれを得心したというのか。興味深く眺めていると、彼はそれを察したのか、さも自信ありげにそれを見せてきた。

 

―それは見たことも無いものであった。彼らもこの種の文字を使うのか? そう思ったがため、私は尋ねる。

 

此何?(ka1 nan2)

 

 そして、彼はたいそう喜んだ。なにか彼は聞き間違えをしたのか? しきりに私に向かって何かを語りかけてくるが、得せず。しきりにその掛け軸を指で囲み、ようやく得る。

 

―そうか、彼は「これが何であるか」と聞きたかったのか。

 

そして上から、

皇, 心, 在, 真(tam2, hia1, aim2, tit)

と説明すると、彼は大層驚いていた。何に驚いていたのかは分からないが。とにかく驚いていた。

 

やはり異国の人のようで、流れるように言うがために、我等の言語(pai2 ge zep1)で喋っているとは思わなかった。

やはり興味深い声の流れである。ぜひこれを習得し、柔軟に意思疎通が取れるようになりたいものだ。近頃の人は保守に凝りすぎ、何の進歩も生んでないようにさえ思える。ときに神使、これも皇心であろう。またこれは燐帝の心であろう。

 

心古行新(hia1 sia1 mok1 lu2)」の伝である。

 

 

なんてことを考えているうちに、外から誰かが呼ぶ声がした。その声の主と先に目があったのは、私ではなく、彼の方だった。


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