声の主は聖白蓮だった。
そしてその後ろには命蓮寺のメンバーも控えていた。
「我々ならばあの厄神様の所まで行けます。聖輦船を盾にしながら進めば、しばらくの間は持つと思います。その間に我々は厄神を抑え込みます」
「なッッ!? 白蓮それは……あの船はお前たちの寺そのものではないのか!?」
「そうだぜ、聖ッ! あんな弾幕をまともに受けたんなら、お前たちの船は木っ端微塵になっちまうぜ!」
神奈子と魔理沙の言葉に、白蓮は首を横に振った。
「私を含め、皆も承知の上です。船が壊れたとしてもまた直せばいいのです。しかし、この世には絶対に壊してはならないものが存在します! それが『絆』と言うものッ!」
白蓮の言葉に命蓮寺の者たちは大きく頷いた。
そして白蓮は、魔理沙の後ろに乗っているにとりに顔を向け、宣誓するように言った。
「にとりさん。あの厄神様は我々がなんとしても貴女の元に送りだして見せます。ですので、我々の成功を祈ってください」
「ま、待ってよッ! な、なんでそこまでするんだ!? 君たちがそんな事までする理由は無いだろうッ!?」
にとりはそう言った。
元々、これはにとりと雛の問題である。命蓮寺とは協力関係にこそあるが、自分たちの大切な物まで壊そうとしてまで尽くす理由は何処にもない。
しかし白蓮はにとりの言葉にも首を横に振った。
「いいえ、それは違います。――にとりさん、私たちは我々は貴女と厄神に感銘を受けたのです。互いが互いを想い合い、その結果今回の事が起きたのだとしたら――種族間との分かち合い、平等を唱えている我らにとって、今回の件は無視できない問題。我々の矜持に関わる問題なのです。にとりさん、貴女のお気持ちはとても嬉しい。しかし、これはすでに我々の問題でもあるのです!」
「白蓮……さん」
「では行ってまいります」
白蓮たちはにとりたちに背中を見せ、聖輦船へと乗り込んで行った。
聖輦船は急上昇し、雛に向かって突進を開始した。
「なッ! 嘘でしょ、こんな……」
聖輦船の矛先である雛は驚愕した。無理もない。船が真っ直ぐこちらに向かってくるのだから。
無差別にばら撒いていた弾幕を集中的に聖輦船に向ける。
黒い弾幕は、聖輦船を完膚なきまでに破壊する。しかしそれでも船は止まらない。真っ直ぐに向かってくる。
雛はこれが特攻であると言う事に気付いた。
ならば、直線的な攻撃では無く、もっと広範囲に――オールレンジに弾幕を船に向けて掃射した。
「聖ッ! これ以上はもう持たないッ! 脱出しようッ!」
「駄目よ村紗! もう少しだけ持たせてッ!」
「右舷と左舷が同時に大破ッ!航行不能です!」
「落ち着きなさい一輪! 雲山を使ってバランスを修正させなさい。飛べなくなっても良い! 方向だけでもあの厄神に!」
「は、はい!」
船の中で命蓮寺のメンバーは、少しでも長く船を持たせようとした。それこそ、雛に直接ぶつけようとする勢いでだ。
雛も、すでに船を落としたと思った。しかし突然、大量の雲が集まりだして船を安定させてきたのだ。
雲は人の姿へと変わり、船を両の手で支えるように雛の方へと向かってくる。
「あれは入道。あれじゃ落とせない――ならばッ!」
いかに航行するための機能を破壊しようが、船を人力で動かしているのだとしたらどれだけ破壊したとしても落ちる事は無い。
だとしたら、方法は一つだ。
単純に、最大の火力を持って完膚なきまでに粉砕する。それだけだった。
雛の回りの厄が一斉に増大し始めた。
そして弾幕を形成して行く。形成された弾幕はもはや弾幕と呼べる代物では無い。一つ一つが弾と言うよりも、巨大な槍や矛と言った形に変わっていく。
雛はそれを聖輦船に向けて放った。
黒い槍は船底を貫通し、串刺しにしていく。串刺しにされた部分に集中的に弾幕を浴びせ、船を破壊して行った。
そしてとうとう形が保たれなくなったと言う所で、白蓮たちは一斉に脱出した。
その後、船は無残に大破した。
「五人……」
船から脱出した人影は五人。それぞれ、白蓮、星、ナズーリン、一輪、村紗だった。
聖輦船は彼女たちにとってかけがいの無い存在。しかし彼女たちの目に映るのは崩れゆく船ではなく、雛であった。
白蓮たちはそのまま雛へと向かって行く。
雛もそれに応えるよう、弾幕を展開させ、白蓮たちに向け始めた。
「うわぁぁッッ!!!」
「きゃあああッッ!!」
初めに、村紗と一輪が雛の弾幕の犠牲となった。撃墜された二人は一瞬で意識を失う事になり、そのまま地上へと落下してくことになる。
しかし、三人はそれに見向きもしないで雛へと迫る。
雛は命蓮寺の者たちの言いようの出来ない覚悟と決意にゾっとした。
弾幕を三人に向けて集中させる。
「私に近づかないでッ!」
雛に近づけば近づくほど、弾幕の勢いは増し、避けきれるようなものでは無くなって来る。
「ぐはぁッ!!?」
「ご、ご主人ッ!?――うわぁッ!!?」
先行していた星とナズーリンがとうとう撃墜された。まるで白蓮の盾替わりになるかのように……。
いや、実際に盾替わりになっていたのだろう。
白蓮はとうとう雛を目と鼻の先ほどの距離まで詰めたのだった。
「厄神よッ! 何が何でも、貴女をにとりさんの所まで連れて行きますッ!」
「くぅッ!?」
雛は白蓮に向けて弾幕を放つ。
しかし白蓮は雛の弾幕を手足ではじき返しながら前へと進んでいく。
超人とはよく言ったものだ。遠くから魔理沙たちが『凄すぎる』等と目を奪われている位なのだから。
「あ、貴女には関係の無い事でしょうッ! 何故ここまでするのですかッ!?」
「関係なら大ありです! 貴女が消えてしまったのならばきっとにとりさんは悲しみにくれるでしょう! 私はもう泣いている妖怪を見るのが嫌なだけですッ!」
「わ、私が居ればにとりは不幸になるッ! それが嫌だから私は……!」
「いい加減になさいッ厄神よッ! 何故気付かないのですッ!? 貴女が消える事が彼女の不幸だと言う事をッ! 友を想う彼女の気持ちにどうして気付けないのですッ!? 何でそれが分からないのですかッ!?」
白蓮はとうとう雛を補足した。
超人と化した白蓮の握りこぶし。それで打たれた場合、いかなる存在も意識を闇の底へと落とす。
「聞き分けのない子は折檻ですッ!」
「――ッッ!?」
振りおろせば白蓮の勝ちだ。
これで全てが終わる
――筈だった。
白蓮は拳を振り落としてはなかった。いや振り落とせなかった。
「なッ!? か、体が動か……」
雛の回りに纏わり付いている厄が、白蓮にも纏わりだしたのだ。
厄は粘着性の強い物質のように、白蓮の動きを止めていた。
力が強いとかそう言う感覚ではない。しかし白蓮は厄を振りほどく事が出来なかった。何かの意思と言うべき力が働いているのか――。
いずれにしろ、白蓮は完全に動きを封じられたのだ。
「貴女に……」
そして白蓮は雛の目をみた。
その目は憎悪に満ちており、邪魔する者を全て排除する――そのような決意と強さを兼ね備えた目だった。
「貴女に私の何が解ると言うのよッッ!?」
それは叫びだったのだろう、と白蓮は思った。
雛は厄を弾幕に変え、至近距離で白蓮にぶつけた。実に禍々しい弾幕だ。動く事の出来ない白蓮はその黒い弾幕をダイレクトに喰らう事となる。
「ぐッ! ――ごほぁッッ!!?」
弾幕は白蓮の顔に腹部にダイレクトに物理ダメージを発生させた。如何に超人と化し、肉体が鋼鉄に変わった白蓮と言えど、至近距離から――しかも大量の弾幕を浴びればただで済みはしなかった。
公開処刑とも言うべき弾幕の一斉発射が終わりを迎えた時、白蓮は薄れゆく意識の中でそれを見た。
厄を含んだ弾幕をその身に受けたためか、厄神の雛の深層意識とも呼べるものが白蓮の体に流れた。
消えたくない。
だが消えなければならない。
自分が居れば友が泣く。
それだけは耐えられない。
厄神なんかになりたくなかった。
もっと普通の何かだったら――。
最後に白蓮はとある人物の顔を見た。
にとりだ。
薄れゆく意識の中で白蓮は確かににとりの顔を見たのだった。
(この厄神はこんな思いをしてまでにとりさんの事を――すみません、にとりさん……失敗してしまいました……)
白蓮は雛に対しなんの恨みも無い。このような事をされても、あるのは雛に対する憐れみだけだった。
願わくば、この厄神に救いがあらん事を――。
そのような事を思いながら、白蓮は地上に墜ちて行くのだった。