厄神様は幻想郷が大好き【完結】   作:ファンネル

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第十一話

「白蓮がやられた!」

 

 

 白蓮たちが墜とされた。それだけでにとり達の陣営は凄まじい動揺を見せる。何せパワーバランスの一角でもあり、この弾幕勝負で多くの弾幕を相殺させ、重要な部分を占めていた者たちがやられたのだ。

 白蓮たちを撃墜した弾幕は先ほどと威力の変わらない規模で皆を襲い始める。

 

 

「ちぃッ! ――早苗、諏訪子ッ! 命蓮寺の抜けた穴を埋めるぞッ!」

「はいッ!」

「了解ッ!」

 

 

 神奈子がそう叫び、すぐさま態勢を整えようとする。命蓮寺が抜けた穴は神奈子たち、守矢勢がすぐさまヘルプした。

 雛の弾幕は無情にも、動揺させる間をも与えてはくれない。隙間なく弾幕を放出する。

 

 

「神奈子ッ! 聖達はどうするんだ!?」

 

 

 魔理沙が叫んだ。

 

 

「大丈夫だ!すでに白狼天狗たちが救出に向かっている。奴らの事だ心配はいらない。

それよりも問題は私たちだ! もう手が無いッ! 厄神の厄をなんとしなければ今度こん本当に敗北だぞ!?」

「そ、そんな事言ったって、白蓮でも止められなかったものをどうやって!?」

「そんなの知らんッ!」

 

 

 神奈子たちはすぐさま命蓮寺が抜けた穴を防ぎに行く。もう神奈子たちにも余力は残ってはいない。

 そしてそれは魔理沙も同じだ。弾幕を多く放出し過ぎた。もう魔力が残り少ない。ここで何か手を打たなければ今度こそ本当に撤退しか残らない。

 そしてそれはつまり――雛が消えるのを黙って見てるしか出来なくなると言う事だ。

 だがもう手が無い。白蓮でも止められなかった厄を、誰が止められる?

 

 魔理沙がそう苦悩していると、後ろに乗っているにとりが服を引っ張ってきた。

 

 

「どうした? にとりお前は大丈夫なのか?」

「私は平気だよ。それよりもお願いがあるんだ」

「なんだ? 言ってみろよ」

 

 

 何か躊躇うような――。しかし真っ直ぐ、決意したかのような目を魔理沙に向けながら言った。

 

 

「私を……私を雛の所まで連れて行って欲しい」

 

 

 にとりの提案に驚愕する。

 先ほど、白蓮たちが撃墜された直後だと言うのに。

 

 

「お前は聖達を見ていなかったのか? 船を盾にしてようやく接近して、それでも雛を止める事は出来なかったんだぞ? それに、聖を止めたあの厄――まるで意思か何かを持っているみたいだった。例え近づけたとしても、あの厄に捕まったらお終いだ」

 

 

 白蓮を止めたあの厄はどういった物なのかは分からない。だが動きを止めると言う能力を備えている事は間違いない。

 後は白蓮と同じ目に会うだろう。止められて一斉射撃だ。

 

 

「それでも……それでもあの厄は私なら何とかなる気がするんだ」

「ッ!? 根拠は?」

「さとりが言ってたよね。あの厄は雛が作り出している物だって。それだったら私が行けば、雛はきっと戸惑って厄を引っ込めるんじゃないかな? 自信過剰かもしれないけど、私は雛の親友だ。だから私ならきっと……」

「お前がどんなに叫んでも止まらなかったじゃないか。根拠にしては程度が低すぎるぞ?」

「それは言葉だけだったから。口先だけならなんとでも言えるよ。それじゃ何も伝わらない。体を張らなきゃ伝わらないって事もあるだろ?」

 

 

 体を張らなくちゃ伝わらない。

 確かにそう言うのもある。さとりも雛がにとりを傷つける事を恐れているとも言った。

 根拠は無い。そしてにとりが向かった所で雛が止まるとも限らない。それ以前に雛に近づけるかどうかも怪しい。

 しかしもう後が残されてはいないのも事実。すでにジリ貧だ。みんな現状の維持で手が一杯でもある。

 

 にとりは魔理沙の言葉を待っている。

 そして魔理沙は少し考えた後、にとりに向かって言った。

 

 

「分かった。お前を必ず雛の元に連れて行くぜ」

「魔理沙ッ!? ありがとうッ!――でも、連れて行ってとは言ったけど、どうやって近づこうか……?」

「手が無いわけじゃないさ。一応、私にも考えがある。――射命丸ッ! こっちに来てくれッ!」

 

 

 魔理沙は文を呼び付けた。

 文はその場から一旦離れ、魔理沙の所へ向かう。

 

 

「何ですか? 魔理沙さん」

「勝負を決める。協力してくれ」

「協力ですか? むろん、構いませんが勝機はあるのですか?」

「それは分からない」

 

 

 魔理沙は簡潔な説明を開始した。

 にとりを雛の元へと連れて行く。それにより雛の無効化を図ると。

 射命丸も余りの勝率の低さに一瞬だけたじろいだが、すでに負け戦である事も重々承知していたために反対などはしなかった。 

 

 

「にとりを頼む。悔しいが、速さではお前の方が上だからな」

「分かりました。にとりさん、こちらへ……」

 

 

 そう言って、後ろに乗っているにとりを文に預けた。

 文はにとりを背負いながら、尋ねる。

 

 

「しかし、どうやって近づくのですか? 私は白蓮さんのように弾幕をはじき返しながら進むなんて芸当は出来ませんよ?」

「大丈夫だ。――道は私が作ってみせる」

「魔理沙さん……?」

 

 

 必ず道を作る。強い覚悟を感じ取った文は、魔理沙に全てを託す事を決める。

 そして魔理沙は愛用の八卦炉を取りだし、魔力を注ぎ込みはじめた。人間の微々たる魔力ではあるものの、魔理沙の全ての魔力を注ぎ込んだ八卦炉は、中で次第に増幅して行き、凄まじい魔力を蓄えていた。

 その魔理沙の魔力を感じ取った者たちは、これが最後の勝負なのだろうと察した。もちろん雛もだ。皆の関心が魔理沙に向かっていた。

 雛は意識を魔理沙に集中させはじめた。そして魔理沙も皆に向かって大声で叫んだ。

 

 

「これから最後の大勝負に出るぜッ! そして雛ッ! お前を必ず止めて見せるッ!!」

「ふふ……」

 

 魔理沙の叫びに、雛はどこか微笑して返した。

 それはこの戦いがもうすぐ終わると言う安堵からか。

 もしくは雛自身、魔理沙の足掻きを見る事を楽しみにしているのか、

 もしくはどれでもない何かか……。それは雛にしか分からないだろう。

 魔理沙の魔力に対し、雛は魔理沙たちに集中して弾幕を発した。

 

「皆ッ! 霧雨魔理沙に合わせて、射命丸を援護しろッ!」

 

 神奈子がそう叫んだが、叫ぶまでも無かった。

 その場に残っていた全員が、これが最後の弾幕なのだと直感的に理解していた。

 魔理沙たちに迫りくる弾幕を相殺する。

 しかし雛の放った弾幕は衰えを見せず、魔理沙に迫った。

 

(やっべ。魔力を溜める時間が……)

 

 迫りくる弾幕を見て、こんなことなら挑発なんてするんじゃなかったと魔理沙は軽い後悔をした。

 だが雛の弾幕が魔理沙たちに届く事は無かった。

 魔理沙たちの目の前に、巨大な二重の結界と――紅白の巫女が雛の弾幕を前に立ちふさがっていたのだから。

 

「霊夢ッ!」

「思いっきりぶっ放しなさいッ! 魔理沙ぁッ!」

 

 

 霊夢だった。霊夢の結界術【二重大結界】が魔理沙たちの眼前に展開されていた。

 だが、いかに二重大結界と言えど、人の想いの集合体とも言えるような厄の弾幕を長時間防ぐ事は叶わない。

 結界は破壊され、その術者である霊夢に弾幕が被弾する。

 ほんの僅かな、ただの時間稼ぎ。

 だが、それで十分だった。間に合ったのだから。

 

 

「すまない霊夢ッ! 喰らえぇッ雛ぁッ! 【ファイナル・マスタースパーク】ッッ!!!」

 

 

 霊夢の結界が破れた瞬間、魔理沙から極太のレーザーが雛の弾幕を消し去りながら迫った。

 弾幕の壁と表現すべき、雛の弾幕に一本の道が出来上がったのだ。

 

 射命丸はその瞬間を見過ごさない。瞬時に、開けた道を疾風の如く駆け抜けた。

 

 そして、全ての魔力を使い果たした魔理沙はもう飛んでいる力すら残ってはいなかった。ふらふらと朦朧する意識の中、魔理沙は『隙間』の中に落ちて行くのを感じてその目を閉じていった。

 それは八雲紫だった。 

 紫は、落ちそうになった魔理沙を隙間を使って保護した。意識を失った魔理沙は落ちることなく、地上に降ろされる事となった。そしてそれは霊夢も同じだった。被弾した霊夢もすでに意識が無く、紫に支えられながら目を閉じている。

 被弾が原因ではない。

 ずっと厄が外に漏れ出さないよう、誰よりも大きくそして強い結界を施し、雛の弾幕をずっと防いでいたのだ。その上、最後の霊力を使っての二重結界。すでに霊夢にも霊力が残されておらず、疲労の余り意識を手放したのだった。

 

 霊夢と魔理沙を回収した八雲紫は、二人に小さく呟いた。

 

「良く頑張ったわね。二人とも」

 

 紫は二人を安全な場所へと避難するため、この戦場から撤退したのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「これはッッ!?」

 

 雛は、聖輦船を落としたように、魔理沙の【ファイナル・マスタースパーク】に向かって弾幕を集中させた。

 だが雛の弾幕は、【ファイナル・マスタースパーク】を相殺させるに至らない。まるで吸収されるように消えていく。それでいて魔理沙の弾幕は衰える事を知らない。

 たまらず雛は急上昇して回避した。【ファイナル・マスタースパーク】は雛の下を通るように過ぎて行った。

 ほっとするも束の間。もうスピードでこちらに接近する者がいる。

 

 

(カラス天狗ッ!?)

 

 

 ここで雛は驚きと同時に雛はすでに弾幕を散布していた。

 意識してやったわけではない。それは動物の脊髄反射に近い反応速度であっただろう。

 雛自身、どうして弾幕を放っているのか……数瞬ほど訳が分からずにいたのだから。だが結果的にこれは雛にとって最上の幸運だった。

 そして雛の思いがけない反撃に、射命丸はスピードを落としてしまった。

 

 

(弾幕のリカバリーが早過ぎるッ!――これは……駄目だ!!?)

 

 

 奇襲は完全に失敗していた。

 あと数瞬だけ、雛が止まっていたならば成功していたと言うのに………

 

 

「だ、騙し打ちとはやってくれるじゃないッ! でも後一瞬だけ遅かったわねッ!」

 

 

 今度はハッキリとした意識を持って、雛は射命丸を捕らえた。

 聖輦船を落としたように、厄は黒い槍と弾幕を形成して行き、射命丸をオールレンジに襲い始める。

 射命丸は思わず下がり始めた。

 

 

「くぅッ! せっかく、接近できたのに……すみません、にとりさんッ! 失敗してしまいましたッ!」

「文……」

 

 

 思わず謝罪の言葉が射命丸の口から出た。それはもう近づく事が出来ないと言う明確な言葉だっただろう。

 だが 反省も後悔もしている時間は何処にもありはしなかった。雛の弾幕が四方から射命丸たちを取り囲んでいた。

 それは完全に詰みの状態だった。射命丸の特筆すべき点は、幻想郷最速とも言えるようなスピードにあるが、それはあくまでも直線的な早さに限る。早さが回避力の強さに繋がるとは限らず、オールレンジに向かってくる弾幕を回避するだけの技量を文は道合わせてはいなかった。

 

 

(やられるッッ!?)

 

 

 一斉にめがけて飛んでくる弾幕に射命丸とにとりは同時そうに思った。そして思わず目を瞑ってしまった。もうすぐ被弾する。結局、何も出来ないまま……。

 

 そう思っていた。

 

 だがいつまで経っても、弾幕は射命丸たちに向かってこない。

 これは一体どういう事か――二人は恐る恐ると目を開けてみた。

 するとどうした事か。目の前には実に頼もしそうな背中が映るではないか。

 

 

「――諦めるなッ! 天狗、河童ッ!」

 

 

 聞き覚えのある声。

 忘れもしない。山に住む者たち誰もが恐れた声だったのだから。

 それはかつて、恐怖で山を支配していた者たちの声。――星熊勇儀の声だった。

 

 

「え……勇儀……さん? それに萃香さんも……ッ!?」

 

 

 少し離れた場所に萃香もいた。そしてどういうわけか、雛の放った弾幕がこちら側ではなく、萃香を狙うように向かていったのだ。

 雛が放った弾幕を、萃香は能力を使いその身に弾幕を萃め、二人に向かわないようにしていた。

 そして勇儀は、萃香が集めきれなかった弾幕を、二人に被弾しないように自らを盾として二人の前に立っていた。

 

 

「私の能力で一手に弾幕を萃めるッ! お前たちはその間に厄神の元へ行けッ!」

「ですが萃香さんッ! それでは貴女が………ッ!?」

「私なら大丈夫! 必ずあんた達を厄神の元に送ってやるよッ!」

 

 

 能力を使って弾幕を一手に萃める。それは、全ての弾幕がホーミングしながら己に向かってくると言う事だ。避けられるわけがない。如何に、強靭な肉体を持つ鬼と言えど、あの白蓮を落とした弾幕だ。無事で済むはずもない。

 

 

「いいから行くぞッ天狗ッ!後ろの河童を絶対に振り落とすなよッ!」

 

 

 だが勇儀はそんな射命丸の言葉を遮り、二人を少しでも雛に近づけるよう、前に進ませる。

 己に降りかかる弾幕をその身で浴びながら………。

 

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