厄神様は幻想郷が大好き【完結】   作:ファンネル

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第五話

 守矢神社にたどり着いた二人は早速屋敷の戸を叩いた。

 すると中からパタパタと走って来るような足音が聞こえてきて、勢いよく戸が開いた。出迎えてくれたのは意外な人物だった。

 

 

「も、椛!?」

「にとり……」

 

 

 白狼天狗の犬走椛が二人を迎え入れてくれていた。

 余りの意外な人物に、にとりと魔理沙の両名はいささか状況を判断しきれていなかった。

 

 

「待っていたよ、にとり。さぁ、中に入ってくれ」

「椛、なんで君がここに?」

「それは中で話すよ。八坂様たちが君を待っている」

 

 

 二人は言われるがまま屋敷の中に入り、居間に通された。

 そして居間には、八坂神奈子、東風谷早苗、洩矢諏訪子の三名。そしてもう一人、これまた意外な人物も同伴していた。カラス天狗の射命丸文だ

 

 

「これはこれは。にとりさんに魔理沙さん。お久しぶりですね」

「あ、文!? 何で、文も!?」

「げッ! 射命丸!?」

 

 

 にとりと魔理沙の反応はお互い違っていた。にとりはただ単に意外な人物に驚いただけだが、魔理沙は明らかに嫌悪感をむき出しにした。

 まぁ、魔理沙と射命丸の二人は最速がどうとかでいがみ合っているかららしいのだが、今はそんな事はどうでもよかった。

 にとりは二人の天狗にここにいる理由を尋ねた。

 

 

「なんで、二人ともここにいるんだい?」

「簡単な理由ですよ。八坂様の会談が終了した時、大天狗様から八坂様の送迎を命じられまして。まあ、要は護衛と言う形で椛と一緒にやって来たわけです。八坂様に護衛なんて必要ないとは思うんですけどね……。でもまぁ、それだったらついでに取材でもさせてもらおうかと思い上がり込んだわけです。――しかし、ここに来てみれば八坂様たちとの会合とは別に、なかなか面白い話題を知る事が出来ましたよ」

 

 

 ジャーナリスト特有のなんともねちっこい笑顔で文は言った。今回の件を知って、新聞のネタになると少々喜んでいるようにも見える。

 そして玄関先で椛が出てきたのは、早苗が動けなかったからなのだろう。今、早苗の足の指にはこれでもかと言う位の包帯が巻かれている。固定化している所を見ると骨に異常があるのかもしれない。

 

 

「河童、天狗。二人とも、もう良いかな? 私も話を進めたいのだが……」

 

 

 神奈子が口をはさみ、にとりと魔理沙は神奈子の前に座りこんだ。

 状況が整ったのを見て、神奈子は説明を開始した。

 

 

「……さて。早苗から大まかな事情は聞いた。それでお前と厄神を待っていたのだが、その様子では何かあったようだな?」

「……はい」

 

 

 にとりはこれまでの成り行きの説明を始めた。神奈子を含む6人は黙ってにとりの話に耳を傾けていた。

 そしてにとりの説明が終えると、神奈子がふぅとため息をついてそこで一段落となった。

 

 

「なるほどなぁ。あの厄神がな……」

「ごめんね早苗。あんな偉そうなこと言っておきながら、雛を連れ帰るどころか、こんな……」

「いいえにとりさん。元はと言えば私のせいです。私があんな事しでかさなかったら……」

「はいはい、二人とも。反省会はまた今度にしよう。」

 

 

 パンパンと手を叩き、神奈子は注意を則した。

 

 

「状況は分かった。――さて、何から説明したものかな」

 

 

 神奈子は手を口の上に乗せながら、どう説明するか、悩んでいた。

 そして、神奈子の悩みは事の重大性を表している事だと、その場にいる誰もが気付いた。

 そして神奈子はにとりに向き合い、質問を開始した。

 

 

「……なぁ河童よ」

「ひゅぃ?」

「今一度、確認するのだが、確かに厄神は『もう大丈夫』だと言ったのだな? この厄は己が何とかすると。そう言ったのだな?」

「は、はい! そうです。大丈夫だって……そう言いました」

「そうか……」

 

 

 神奈子は目を落とした。何か察したような、そんな雰囲気を漂わせていた。

 そしてそれは神奈子だけでは無い。諏訪子もまた目を落とし、何かを察した感じがした。

 同じ神として心当たりがあるのだろう。

 それゆえににとりは嫌な予感がした。いや、にとりだけでは無い。他の者たちもだ。 二柱が揃いもそろって同じ反応を示したのだから。

 にとりは神奈子に尋ねた。

 

 

「八坂様、八坂様に聞きたいんだ。雛はあの時――大量の厄が雛の回りに集まった時、雛は必ず消して見せると言った。その時の雛の顔が未だに忘れられないんだ。まるでここから消えてしまうかのような儚い顔をしていた。ものすごく嫌な予感がするんだ。八坂様は雛が何をする気なのか知ってるんですか?」

「……」

 

 

 神奈子はにとりの質問に少し困ったような表情をだした。

 神奈子は知っているのだ。厄神がこれから何をしようとしているのかを。だがそれをにとりに伝えるのに気が引けた。それは神としての神奈子の心遣いに他ならない。

 とは言う物の、黙ったままと言うわけにもいかない。神奈子は腹を据えてにとりに対面した。

 

 

「――お前にとって辛い話しになるぞ?」

「構わない。私は知りたいんだ。いや知らなくちゃならない。雛をあそこまで追い込んだのは私だ。だから私は知らなくちゃいけないんだと思う」

「そうか……」

 

 

 ふぅ、と神奈子はため息をついて改めてにとりと対面した。

 

 

「分かった。話そう」

「あ、ありがとう、八坂様」

「――結論から話す。あの厄神は……鍵山雛は『自身を一つの厄の塊』として、それら全てを厄流しにするつもりなのだろう」

「なッッ!!?」

 

 

 強い衝撃をにとりは受けた。いやにとりだけでは無い。諏訪子以外の場の全員が驚きの表情を出した。

 自身を含めた全ての厄を流す。それは雛自身も厄流しされると言う事だ

 

 

「そ、そんな……。そんな事をしたら雛は、雛はどうなるんです!?」

「さあな。流された厄の行きつく先など分からん。外界か異世界に行くのか。もしくは言葉通り流されて消えるのか。いずれにしろ、厄神はこの幻想郷から消え去る」

 

 

 にとりはようやくあの時の雛の顔の理由が分かった気がした。

 雛は知っていたんだ。自分が厄流れしたらどうなるのかを……。だからあのように優しそうな顔で大丈夫だと言ったのだ。

 にとりを含む全員が言葉を失っている最中、射命丸が慌ただしく尋ねてきた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? 八坂様、それでは幻想郷に厄神様が居なくなってしまいますよ!? そんな事になったら幻想郷に厄が蔓延するんじゃ……」

 

 

 射命丸の疑問は尤もだった。

 今まで幻想郷の厄は雛が全部一人で、集め、溜めこみ、消していった。

 その雛が居なくなっては、むしろ災厄が多く振りかかる事になるのではないか?

 だが、射命丸の疑問を神奈子は応える事が出来た。

 

 

「いや、その心配は無い。射命丸、お前は厄神と言うのがどんな神か、どのようにして生まれたのか分かるか?」

「どのようにとは……。雛様に限っては、確か厄流しによって厄が集まった事により生まれたとか何とか……」

「そうだ。雛に限らず、厄神と言うものは人間の業によって生み出される、いわば自然発生した後天的な神なのだ。私や諏訪子のような先天的な神とは意味合いが違う。」

「つまり、それは一体どういう事なのでしょうか?」

「つまりだ。今回の件で、厄神が消えてしまったとしても、厄が溜まればまた新たな厄神が生まれると言う事だ。雛とは違う、新しい厄神がな」

 

 

 自然発生した神は、たとえ消えてしまったとしても、条件がそろえばまた生まれる事が出来る。種族としてのランクに違いはあれど、根源的な所は妖精と同じ存在なのだ。鍵山雛はその代表格と言ってもいい。

 だから雛が消えたとしても、雛とは違う新しい厄神が発生して同じように厄を集める事になるのだろう。確かに問題は解決している。

 

 

「ちなみに、早苗から事情を聞いた時、私が真っ先に思いついた方法でもある。厄神もどうやらこの解決方法を知ってはいたようだな……感心だ」

 

 

 神奈子の言葉に真っ先に反応を示したのは魔理沙だった。

 眉間にしわを寄せながら魔理沙は神奈子を睨みつけた。

 

 

「感心だとッ!? 最初に思いついた方法だとッ!? 神奈子、お前は……ッ!」

「何を感情的になっている? 溜まりに溜まった厄はこれで一挙に無くなる。結果的に幻想郷にも大きな災厄が起きなくなる。万事解決ではないか?」

「ふざけんなッ! あの厄神を犠牲にして何が解決だよッ!」

「だが、最とも確実な方法でもある。大体な、犠牲がどうとか人間のお前がそれを言うのか? そもそもの元凶は全てお前たち人間のせいであろうが。厄神を生み出したのはお前たち。自分たちが不幸にならぬよう、厄祓いし、それを厄神に一人に押し付けてきたのもお前たち。そんなありがたい神を信仰もせず、汚物を見るかのようにエンガチョして来たのもお前たち。そしてその結果が今回の一件だ。それでもお前は、人間は厄神を犠牲にしていないと? 犠牲にするなんて間違ってると言うのか?」

「あ……いや、でもそれは……」

「『厄神と言うのはそういう神だろ?』とでも言いたいのか? 確かにその通りだ。元凶はお前たちだが、お前たちが悪いわけでもない。厄神と人間の関係はそう言うモノだからな。お前たちが厄流ししなければ厄神は生まれる事もなかった。そして厄神も人間の流した厄を集め溜めこまなければ存在する事も出来なかった。そう言う関係なのだよ人間と厄神と言うのは。――詰まる所、今回の騒動の元凶はお前たち人間ではあるが、原因は厄神の力不足だ。まあ、他にも要因は幾つもあっただろうが、どっちが悪いかと二極端で判断するのならば悪いのは厄神の方だろうな。雛もそれが分かっていたから、責任を持って消える事を決意したのだろう」

 

 

 神奈子が説明を終えると、みんな黙りこんだ。そしてしばらくの間、静寂が居間を包んでいた。

 雛が消える。その事で今回の騒動は終わる。幻想郷の厄も消えて、災厄が降りかからなくなる。そして厄がたまれば新しい厄神が生まれる。

 恐らく、鍵山雛の前にもう厄神と言う神は居たのだろう。そしてその前も、その前にも。きっと存在していたのだろう。そして今回と同じように、雛と同じように厄を持って消えて行ったのだろう。

 だから今回、雛が居なくなるのはきっと定められた運命のようなものだったのかもしれない。

 

 

「まあ、河童よ。そう言うわけだ。厄神の言う通り、今回の一件は待っていれば自然と解決する事になる。厄神を助けたいと言うのならば諦める事だな。すでに厄神も決意しているのだろうからな」

 

 

 神奈子がそうにとりに優しく伝えた。

 これでこの件は終わりを迎える。万事解決だ。誰もが諦めの雰囲気を醸し出している中、にとりは、にとりだけは諦めたはいなかった。

 

 

「――そんなの嫌だ」

 

 

 ハッキリと拒絶の言葉を口にした。

 

 

「そんなの嫌だ。間違ってるよ、こんなの……雛は何も悪い事してないのに!」

「それが厄神と言う物だ。悪い事をしたからとかじゃない。そういう存在なんだよ」

「それでも、それでも私は……」

 

 

 厄が溜まったら集めて溜める。そして溜まりに溜まったら自身ごと消す。そしてまた新たな厄神が生まれる。

 それは一つのシステムだ。にとりにだってそれは理解できる。でもそれでも嫌だ。例え、システムなんだろうが運命なんだろうが、雛が居なくなるのは嫌だ。あんな酷い事を言って、まだ謝ってもいないんだ。悲しませたまま消えてしまうなんてあんまりだ。

 

 

「それでも私は、雛にいて欲しい。雛には幻想郷の厄神として、ずっと居て欲しいんだ」

「ハッキリ言うぞ河童よ。鍵山雛にはもう幻想郷の厄神として機能する力は無い。ただいたずらに厄を振りまくだけの存在だ。雛をこのままの状態にしていたらいずれ幻想郷に大きな災厄が起きるぞ? それこそ異変などと言う言葉が優しく思えるほどのな……。そして恐らく雛もその事に気が付いているのだろう。だから消えようとしている。きっかけを作ったのはお前なのだろうが、お前が悪いわけじゃない。いずれこうなる事だった。それでもお前は雛を止めるつもりなのか? 決意して消えようとしている者を止めるのか?それはとても残酷な事だ。一生、雛に軽蔑されるぞ?」

 

 

 神奈子が再確認するかのように言った。

 だが、にとりの決意も変わらない。

 

 

「それでも……それでも私は雛にいて欲しい。私がきっかけで起きた事だ。責任は全部私にある。例え、一生軽蔑されても、この選択が間違っていたとしても……私は後悔しない」

「……そうか」

 

 

 神奈子はため息をついた。にとりに何を言っても無理だと悟ったのだろう。

 そして間をおかず、にとりが尋ねてきた

 

 

「八坂様、私は雛を止めるよ。絶対に止めて見せる。でもそれだけじゃ何も解決した事にはならない。雛の厄を何とかしなくちゃ解決しない。だから八坂様、どうかお願いします。何か方法は無いのですか? 雛の厄を何とか消す方法を……。私は何でもするッ! どんな事でもする! だから、だから……八坂様、力を貸してください!」

 

 

 にとりはその場で土下座の姿勢を取った。見栄もへったくりもあったものではない。

 だが、そこでにとりを笑う者などは決していない。それどころかもう一人、助け舟を出す様ににとりに並んで神奈子に土下座する者がいた。早苗だ。

 

 

「わ、私からもお願いいたします神奈子様!」

「早苗!?」

「今回の件は私も要因の一端を担っております。どうか、もしも雛様の厄を消す方法があるのならば、どうか……御教えください!」

 

 

 神奈子を信仰している早苗には似合わない態度だ。彼女は常に神奈子の言葉を優先に考えるからだ。だからこそにとり驚いた。自分を助けようとしてくれているのか?だとしたらそれはとてもありがたかった。感謝にたえないとにとりは深く想った。

 

 

「う~む――確かに厄神の厄を消す方法は確かにあるにはあるが……」

 

 

 神奈子の言葉を聞いた瞬間、にとりと早苗に笑顔が戻った。だが希望に満ちた二人に対し神奈子は対照的だ。明らかに神奈子は悩んでいた。

 

 

「だが、この方法はな……」

「八坂様ッ!」

「神奈子様ッ!」

「わ、分かった!分かったからそんなに怒鳴らないでくれ! 恐いじゃないか」

 

 

 神奈子にも思う所があり、かなり悩んだのだろう。しかし二人の決意はとても堅い。何を言っても無駄だと判断した神奈子はとうとう折れた。

 

 

「あはは。軍神と言えど娘には勝てないようだね、神奈子」

「茶化すな諏訪子」

 

 

 ケラケラと笑う諏訪子に神奈子は調子を崩されたようだ。

 全てを観念した神奈子は改めて、皆の前で説明を開始した。

 

 

「一応確認をするが……危険が伴うぞ? 何でもすると言うのは本当か? 河童よ」

「くどいですよ八坂様。私の決意は変わりません」

「そうか……ならば話してやろう。厄神の厄を消し去る方法。それは――」

 

 

 そして守矢神社では数時間にもわたる長い作戦会議が始まったのだった。

 

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