春休みが…終わりに…近づいている…
「新しい〝遊び相手〟かなぁ…?」
『背筋が凍る』とはこの事を言うのだろう。大妖精とチルノは〝それ〟を見ただけで足が震えていた。
「チルノちゃんッ!!!」ガシッ!
「うわぁ!?」
このままここにいたら危ないと思った大妖精はチルノを引っ張ってすぐに部屋から出た。
タッタッタッタッタッタ!
そして長い廊下を2人で走っていく。何も考えられなかった。とりあえずここから離れろと本能が叫んでいたのだ。
「久しぶりのお客さんと思ったのに…退屈ね」
「はぁ…はぁ…な、何アレ!?」
「わかんない…けど、物凄く悪い予感がしたから…」
廊下を走った後2人は階段を駆け上がり、エントランスのような場所へ来た。
「どこかなここ…とりあえずぬらりひょんさんを探そ!」
「誰を探すの?」
「!?」
カツンカツンとヒールの音を響かせながらメイド服を着た女性が現れた。先ほどのぬらりひょんと対峙していた十六夜咲夜である。
「あっ!メイドだ!」
「まったく…手を焼かせるわね。いい加減にしてくれないかしら」
そう言いながらナイフを取り出す。
「…チルノちゃん!逃げよう!」
先ほどのように大妖精がチルノを引っ張りながら咲夜のいる方向とは逆に走っていく。
「おおっと!逃げられませんよ!」ババッ!
逃げようとした方向に門番、紅美鈴が現れた。
「むう…」
「だ、大ちゃん!」
トコトコトコトコ!
「フフフ、これで逃げられないわね」
前には咲夜、後ろには美鈴、そして妖精メイドが大量に現れて四方を囲まれてしまった。
「(どうすれば…)」
「(…!! よしアレだ!)」
大妖精は周りをキョロキョロして何か考えていた、そして思いついた。
「…すいません!もう帰りますから許してください!なんでもしますから!」
咲夜はそれを聞いてハァー…と溜息をつく。
「そうね、まずはお嬢様に…」
「(今だッ!)」
「わぁ!?」
大妖精は咲夜が目線を外した一瞬の隙を見て、チルノを連れて飛び上がった。エントランスの上には開いている窓があり、そこから逃げようとしているのだ。
「よし!いける!」
完全に隙をついた作戦だったので大妖精はいける!と確信した。しかし思わぬ事態が起こった。
ゴンッ!
「「え?」」
パリィンッ!
「あ…」
窓から逃げようとしていた2人だったが、大妖精が引っ張ったチルノの足が、エントランスに飾ってあった大きな壷に当たって倒れてしまったのだ。
壷は当然の如く大きな音を立てながら割れた。
「「……」」
大妖精は壷を割ってしまった罪悪感を覚え下に降りてきた。その大妖精につられチルノもなんとなく降りてきた。
「あちゃー…綺麗に割れちゃいましたねー」
「……」
美鈴は笑ってはいるものの少しまずいと思っている。そして…
「貴女達…とんでも無いことをしてくれたわね…」
「その…ごめんなさい…」
「あ、あ、あたいはしらない…」
「もう許さないわよ…貴女達はここから生きては帰さない!」
シャキッとナイフを構える。
「ま、待って!」
「問答無用!!」
ヒュンヒュンヒュンッ!
「うっ!」
パシッパシッパシッ!
チルノと大妖精は閉じていた目をそぉ〜っと開けた。
「よお、随分と久しぶりじゃのう」
咲夜が投げたナイフ3本をぬらりひょんがすべてキャッチしていた。
「ぬらりひょん!」
「ぬらりひょんさん!無事だったんですね!」
「当たり前じゃ!ワシを誰とおもーとる!」カランカラン
とったナイフを捨てながらドヤ顔で見てくる。
「貴方はさっきの…言ったはずよね、また貴方を見つけたら…殺すと!!」
凄まじい殺気を咲夜が放つ。ぬらりひょんと美鈴以外は咲夜に気圧されている。
「…やるってのかい。ワシは構わんぜ」
コツコツコツ
ぬらりひょんもやる気である。するとその2人を止めるべく奥から何者かがあらわれた。
「咲夜、やめなさい」
「!!!」
「お、お嬢様…!」
現れたのはこの館の主であるレミリア・スカーレットだった。ぬらりひょん達が探している吸血鬼というものだ。
「おぬし…そうか、おぬしが吸血鬼ってやつか」
「そうよ、まぁいろいろ話したい事もあるし…お茶でもどうかしら?」
「お茶ぁ?」
「お嬢様!この者たちはお嬢様に危害を加える可能性が…」
咲夜がそう言う。何処の馬の骨ともわからない者たちをレミリアと一緒に居させたくなかったからである。
「咲夜、用意して頂戴」
「お嬢様!」
「…貴女はいつから私に意見できる立場になったのかしら?」
ゾクッ!
「…失礼しました。では今から用意させて頂きます」
「妖精メイドは割れた壷の後片付けを、美鈴はいつも通り仕事を全うしなさい」
「は、はい!」
ガヤガヤガヤガヤ
「さぁ部屋まで案内するわよ」
「…ああ」
「わぁ〜!おいしそーう!」
「すごい!綺麗!」
大妖精とチルノの前には咲夜が作ったケーキとお茶が置かれていた。机に置いた後、咲夜はお盆を持って扉の前で黙って立っている。
「…で、話したい事ってのはなんだ?」
「あら、冷たいのね。ただ面白そうな奴がきたから少しお話したいと思っただけよ」
「…へぇ」
ぬらりひょんは少し疑ってるような目でレミリアを見ていた。
「貴方はこの2人がなんで咲夜達に狙われてたか知ってる?」
「ん?勝手に館に入ったからじゃねぇのか?」
ぬらりひょんがエントランスに来たのは途中からなのでチルノ達が壷を割ったことは知らない。
「やはり経緯を知らないようね、咲夜」
「はい」
「?」
ー少女説明中ー
「ほほう…壷か…」
「そうよ、結構お気に入りだったんだけどねぇ…」
レミリアは残念そうな顔をしている。
「あう…ごめん…」
「ごめんなさい…」
大妖精もチルノも心から謝っている。
「もういいわ。貴女達をとって食ったら壷が帰ってくるならそうするけどね…」
フフフとレミリアは冗談を言ったがとても冗談とは思えない3人。
「そんなに大事だったのか?」
「そうねぇ…とても高価で美しい品だったわ」
「悪りぃなことしちまったな…そうじゃ!ワシがどっかから盗って」
「駄目よ!お嬢様に盗品なんて許さないわ!」
咲夜はがすごい勢いで言った。扉の前にいるのにみんな耳を抑えるくらいの声量だ。
「あ、貴方って魔理沙みたいね…盗品はさすがに嫌よ」
もちろんレミリアは断った、当然である。
「ハハッ!やっぱダメか!…うーんじゃあどうしたもんかのう…」
ぬらりひょんは頭を悩ませている。
「あの!!!」
そんな中大妖精が口を開く。
「なにかしら?」
「壺の件…本当にすいませんでした。でも割ったのは私とチルノちゃんなので…私たちが責任を取ります!ぬらりひょんさんは関係ないので!」
「そ、そうよ!あたいたちが責任を取るわ!」
「それが責任を取る側の態度なの…」
咲夜はチルノを見て呆れていた。
「おいおい、関係ないはひでぇーじゃねえか。一緒に忍び込んだ仲じゃろ?」
「誇らしそうに言わないでよ…」
「…フフフフフ」
「…お嬢様?」
「気に入った。じゃあ壷を割った2人にはしばらくここで働いてもらうわ」
レミリアは壷を割った2人をしばらく紅魔館で働かせることにした。
「え?」
「そんなんでいいの?」
「そんなのでないわ。意外と忙しいのよ?咲夜」
紅茶を飲みながら咲夜を呼ぶ。
「はい」
「言った通りこの2人は今日からしばらく紅魔館で働かせるわ。メイド長として今から色々と教えてあげてちょうだい」
「…わかりました。2人とも、ついてきなさい」
咲夜に連れられて2人は部屋から出て行った。
「ハハハッ!」
急にぬらりひょんが笑いだす。
「あら?なにかしら?」
「幻想郷の連中は優しい奴が多いんじゃな。それに面白い能力を持った奴も多くて退屈しないしのう」
「…その言い方だと貴方は外来人のようね。この紅魔館には何の用があって来たのかしら?」
「いや特に理由なんかないぜ。吸血鬼ってやつが見たかっただけじゃ。…おぬしに会えてよかったよ」
しっかりとレミリアの目を見てそう言った。
「フフ…やっぱり面白いやつね、貴方は」
「お互い様じゃ」ガタッ
ぬらりひょんは立ち上がって何処かへ向かう。
「何処へ行くの?」
「あいつらだけに働かせるわけにはいかねぇだろ?ワシもなんかしようと思ってな」
普段は家事などをまったくしないぬらりひょんだが、チルノ達を手伝うために洗濯の1つでもしようと思ったのだ。
「ああ、じゃあ貴方には買い物を頼もうかしら。…とりあえず外に出て待ってて頂戴」
「買い物ぉ?わかったぜ!」
了承したぬらりひょんはすぐに出て行った。
「なんで貴方がいるのよ!」
ぬらりひょんが門の前に立っていると買い物カゴを持った咲夜がやって来た。
「あん?お前も行くのか?」
「お嬢様に頼まれたのよ。荷物持ちってまさか貴方だったとは…」
チルノと大妖精に一通りの仕事を教えたあとに、咲夜はレミリアに買い物を頼まれたのだ。チルノはこの短時間じゃあまり覚えることは出来なかったのだが。
「そうか、まぁとっとと行こーぜ!」 パシッ
咲夜から買い物カゴを取ったぬらりひょんは歩き出した。
「……災難だわ」
ぬらりひょんと少し距離を取りつつ咲夜も向かった。
はい、第16話でした。
ツンデレ咲夜さんも好きです。
では終わります。お疲れ様でした。